屋台村を楽しみましょ!

作者:なちゅい

●思いっきり楽しんで気力体力を回復させよう!
 デウスエクスとの戦いを続けるケルベロス達。
 日々の戦いの中で気が休まる暇もなく、疲れ果てる者も多い。
 ぐったりとするケルベロスへと声をかけてきたのは、 雛形・リュエン(オラトリオのミュージックファイター・en0041)だった。
「無理もない。これだけ戦いが続けばな……」
 リュエンがかき鳴らすバイオレンスギターの音色によって、そのケルベロスは幾分か力を取り戻す。
 戦うケルベロスはもちろんのこと、被災した人々に希望と勇気を与え続けるべくリュエンは歌い続けている。
 行く先々で彼は人々を励ますのだが、様々な理由で絶望の縁に立たされる者も多く、その全てを癒すことは難しいと話す。
「何か、人々を元気付ける催しがあればいいのだがな」
 各地では、人々の力を与えるべく色々なイベントが行われている。だが、それもまた、デウスエクスによって会場が荒らされることも多々あり、企画が中止に追い込まれる例が後を絶たない。
「それなら、ボクから1つ、お願いしてもいいかな」
 そこでひょっこりと現れた、リーゼリット・クローナ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0039)が満面の笑みでケルベロス達へと相談を持ち掛ける。
「実はね、東京都の某所で、屋台が立ち並ぶイベントが企画されているんだ」
 ただ、その場所は残念ながら戦いの爪跡が残っており、荒れてしまっている。
 この為、主催者からケルベロスへとその修復を頼まれている状況なのだと彼女は語る。場所さえうまく整えば、主催者はゴールデンウィークにイベントを開催したいのだそうだ。
 女性らしくと身なりに気遣う半面、食べるのが大好きなリーゼリット。ヘリポートで彼女が何かを食べている姿を見ている者も多いかもしれない。そんな彼女だからこそ、食べ物の話を語り出すと止まらない。
「アメリカンドッグ、杏飴、お好み焼き、串焼き、クレープ、じゃがバター、たい焼き、たこ焼き、チョコバナナ、フライドポテト、フランクフルト、水あめ、焼そば、焼き鳥、りんご飴、わたあめ……」
 思い浮かぶメニューを、リーゼリットは片っ端から口にする。それを聞いたケルベロス達も思わずお腹を鳴らしてしまう。
「そうだな。屋台なら食べ物だけではないだろう。楽しめそうだ」
 リュエンも乗り気なようで、ギターを下ろして何をしようか考える。金魚すくいやスーパーボールすくい、型抜き、射的、輪投げ、お面販売、千本引き……。遊ぶだけでも、なかなかに堪能できそうである。
 しかしながら、修復が先でしょうとケルベロスの1人からツッコミが入ると、我に返ったリーゼリットがはにかむ。
「一働き必要だけど、後は皆で思いっきり楽しみたいな。よろしくお願いするよ」
 自身が食べる為にリーゼリットが依頼を持ちかけてきたのは、ほぼ間違いない。
 それでも、色々と堪能できるとあって、何を食べようか、あるいは何をして遊ぼうかと、ケルベロス達は思案し始めるのだった。


■リプレイ

●まずは修復から
 東京都某所。
 やってきたケルベロス達はボコボコになった屋台村の開催地を地ならしすべく、ヒールグラビティを使っていた。
「フハハハ……。我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大首領!!」
 姿を現した領は、禍々しい癒しのオーラで周囲を癒し始める。
「オリュンポスの力を見せるっす!」
 結社のメンバー、代首領くんの姿の無人は、大首領が出るまでもないと地面に山羊座の星座を描くのだが、完全に回復しきれずに愕然としてしまう。
 それをドローンでフォローするネレイスは、自分達が屋台を出展する為の場所を探していたようだ。
 同じくドローンを飛ばす実里は、姉、裕理にヒールグラビティの使い方を教えている。
 近場では、ノルが発生させた十字型の光を介し、地面へと自らの生命力を流し込む。淡雪も快楽エネルギーを霧として飛ばすが、地面がピンク色になっているような気がしたのは気のせいだろうか。
 澪は御業の力で地面をならすが、徐々に立ち並ぶ屋台から漂い始める匂いに集中力を削がれてしまう。
「たこ焼きも食いてぇし、串焼きもいいなあ」
 シズネは涎が垂れそうになるのを堪えながら。ミニュイも甘いものを沢山食べようと考えながら。それぞれ会場の修復に当たる。
 正彦も現場の復興に当たろうとオーラで地面を包む。
「さあ、自由になるだお、目指せ働かない大地。そして――」
「働けよ」
「ぐったりも絶望も吹き飛んじゃえ」
 2連で起こる爆発。付き添いのももが起こしたものと、ホリィの爆発に巻き込まれた正彦は完全にロックというかパンクというか、パーマ頭になってしまっていた。

 悠乃は主催と面会し、大規模戦への協力とその為の連絡先交換を行っていた。
 ボランティアでなく、きちんと利益が上げられるようなイベントに。ケルベロスの庇護下でイベントをスムーズに開催できれば、双方に利益があると悠乃は主張する。
 この強力姿勢を見せる為にと悠乃も率先してヒールに当たり、過去に干渉することで荒れた地面を改善させていく。
 ケルベロス達のヒールによって、会場周辺は色とりどりの花が咲き乱れ、それを目にしたミリムが表情をほころばせる。
 そうしてケルベロス達による修復も終わり、会場作りが進む。
 夕方になる頃には準備が完了し、屋台村の開催が主催から宣言されたのだった。

●屋台をやるよ!
 立ち並ぶ屋台の中、泰地はオウマ式カレーライスを振舞う店を出す。メニューは極上の味わいの牛すじメインビーフカレーと、風味隔絶のシーフードカレーだ。
 開店してすぐは、筋肉隆々の泰地が作るカレーに客も恐る恐るといった状況だったが、すぐに手が足りないほど繁盛し始める。彼は満足げに己の筋肉を主張していた。

 秘密結社オリュンポスの面々はいくつか屋台を構えていた。
「目指すは売上No.1、売り込むっすよー♪」
 無人は正体隠しの仮面をつけ、お面販売にて呼び込みを行うが。
「……解せぬ」
 領は不満げな顔をするが、仮面に覆われてその表情は見えない。その彼がつける仮面が商品として並ぶが。不気味で客は近寄りもしない。
 無人がお喋り機能つき代首領ぬいぐるみや、山吹色のお菓子、さらに組織紹介のパンフと幅広く商品を取り揃えるが、まるで販促効果がない。
 向かい側で、メイド服姿のアンドロメダが鉄板の上で焼きそばを焼く。
「私は悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、アンドロメダです! 屋台も、我らオリュンポスの大事なお仕事! さあ、張り切って屋台村に屋台を出しましょう!」
「了解しました。今日の仕事内容は、地域復興ボランティアと屋台の店番ですね」
 二号もまた上司アンドロメダの下、アルバイトとして忙しなく動く。ちなみに、二号の名は通称である。
 悪の組織に属する彼女達はこうしてご近所の皆様と仲良くしながら、平和的に世界制服活動を行う。
「いらっしゃいませー! オリュンポス特製、世界征服焼きそばはいかがですかっ?!」
「おいしい焼きそばがありますよー。あと、正面には怪しいお面を売っているお店もありますから、記念におひとついかがですかー?」
 二号は呼び込みを行う。そこには、力の限り焼きそばを食べている澪の姿がある。
 屋台は他にも、お好み焼き、たこ焼き、焼きトウモロコシと幅広く取り揃える。それらはカシオペアがてきぱきと調理していた。
 客はそれらのメニューにも食いつくが、正面のお面屋には振り向く様子すらない。
「オリュンポスのメイドたるもの、屋台の1つや2つこなせなくてどうするのです」
 料理を次々に作って行き、客に振舞うカシオペア。本職メイドの手際は実に見事だ。
「さて、お暇な大首領様には、たこ焼きでも焼いていただきましょうか……」
 悪の秘密結社らしく、労働で一般人から存分に金を巻き上げてくださいとのカシオペアの言葉に、領はゆっくり立ち上がる。
「ほう……、組織の長たる私が、たこ焼きなどを焼くとでも……? ……よかろう!」
 しばしの間、彼もまたメイド達の下で、地道にたこ焼きを作っていくのであった。

●食うぞー!
 他の屋台に目を移せば、わたあめの屋台に数組のケルベロスの姿がある。
「屋台といったら『わたあめ』かなって思うんだけど、一緒にどうかな?」
「うん、行こうか」
 歩いているリーゼリットに声をかけたのは、藍だ。口調や食べることが好きなところ、そして、ポニーテール。互いに親近感を覚える2人だ。
 わたあめは子供っぽいかもしれないが、藍はそれがまたいいと感じる。
 最近は色つきわたあめなるものもある。藍がトレードマークの青みがかったものを選ぶと、リーゼリットもまた同じものを選び、美味しそうに2人で食べていたようだ。
 
 その近くで、何をしていいのか分からずにきょろきょろと周囲を見回すホリィを、雉華が発見して声をかける。
「こんにちはー、今日はお誘いありがとう」
「改めてとなると何話せばいいのやら……」
 ホリィは誘ってくれた雉華に感謝の言葉を告げるが、雉華はそれでも視線を泳がせてしまっていた。
 そんな2人は、わたあめの屋台へと流れ着く。
「ふわふわで甘いし、お祭りって感じがして好きなんだ」
 ホリィが注文し、雉華のおごりで2つ購入していた。
「ありがとうー」
 ホリィはにこやかな顔で返事する。奢ってもらっちゃったと自然にはにかむ。
 一方、雉華の表情は硬い。
「雉華さん、もしかして……お祭りに来るの初めて?」
「……すんまセん、初めてな上にド不慣れでス。なんで色々教えて頂けると嬉しいでス」
 そんな彼女の緊張をほぐす為に。ホリィは胸を張り、手を差し伸べる。
「大丈夫、甘いものがある所は女子のホームだよ。行こうー」
 その手をとる雉華はホリィに連れられて、別の屋台へと向かっていった。

 入れ換わりでやってきたのは、3人の男性達。親睦を深める為にと屋台村へやって来たのだ。
「わたあめ甘くてかわいいし、ふわふわだし!」
 ノルは買ったわたあめを、ヴィンセントと郁へと嬉しそうに渡す。
「ふわふわで甘い……初めて食べる」
 夢中になってわたあめを食べるヴィンセントの口の周りはべたべたになってしまって。それを、郁が丁寧に拭う。
「郁は……いつもオレが困ってる事をすぐに解決してくれて、とても、オレが思うよりずっと……優しいと、思う」
「俺が困った時はヴィンスに助けられてるし、お互い様だろ?」
 ヴィンセントの感謝の言葉に、郁が照れながらも言葉を返す。ヴィンセントもなんとか今の気持ちを言葉にしようとするが、上手く口に出すことが出来ない。
 ただ、寄り添う2人は、互いが傍にいるその状況を心地良く感じている。
 それを見つめるノルの視線に、ヴィンセントが気づく。
「たまに寂しそう、だけど、どうして?」
 問われたノルは少しだけ逡巡し、口を開く。
「俺はね、役立たずの試作品だったから」
 孤独が怖いから、誰かの役に立ちたいから。いつも全力で楽しいことを探し、細やかな気遣いでノルは2人を助けようとする。
 ただ、彼自身はそんなことよりも、見つけてきたわたあめを美味しいと笑い合う2人を見て、嬉しいと感じていた。
「だから……今はさ、2人と友達になれて、よかったって思うよ」
「俺は今こうして、3人で一緒だから楽しいんだって思ってるよ」
 郁にヴィンセントが同意する。ノルはそれに思わず涙ぐんでしまう。
「……俺、ここにいてもいいんだな」

 半生を魔術研究に費やしてきた紫睡にとって、こうしたお祭りは非常に目新しく、きらきらと輝いて見えていた。
「どんな物かは知っていましたが、実際に見て感じるのでは全然違いますね」
「和泉さんはこういうの初めてなの? そうか、なるほどね」
 藤次郎は納得しながらも、紫睡についていく。片っ端から、主に肉系の屋台を巡る2人。出来立てをこうした雰囲気の中で食べるのは非常に美味しい。
 串焼きを平らげた2人が目にしたのは、たこ焼きの屋台だ。
「……あ、このたこ焼きすごく美味しいですよ、藤次郎さん!」
「美味しそうだ、俺も一つ頂いてもいいかな?」
 紫睡が買ってきたほくほくのたこ焼き。それを藤次郎は爪楊枝で取ってパクリ。
 その美味しさに、2人は青海苔が付いているのを気にせずににっこりと笑い合うのである。
 はしゃぎながら淡雪を連れ回していた陽も、そこへやってきた。
「にゃにゃ、淡雪さん! ここのたこ焼き屋さん、香りが他と違います!!!」
 夏音センサーに従い、淡雪はたこ焼き屋の前へやってくる。何箱も購入した2人は近場の物陰でそれを食べる。
「なんだか、懐かしい気がするのはなんでだろ?」
 夢中になってもぐもぐ食べる陽の頬にソースが付いているのに、気づいた淡雪。いつもされている仕返しと考えた彼女は舌を出し、ペロッとそれを一舐め。
(「あっあああ、淡雪さんの顔がものっ、ものすごく近かった……ていうか、今舐められ!?」)
 動揺した陽は顔を真っ赤にしてしまう。そんな様子に、淡雪はやりすぎちゃったかしらと彼女の頭を優しく撫でる。
「今日は付き合ってくださってありがとうね。また色んな所一杯行きましょうね、夏音」
 顔を近づけてくれた淡雪に、普段からこれくらい顔が近ければと考える陽なのだった。

 次にたこ焼きの屋台へやってきたのは。
「……いい匂いがする」
「こっちは食い物の出店が多いな」
 空腹を覚えたフェンリルは、眠堂をずるずるとたこ焼きの屋台まで引っ張ってきた。
「眠堂、腹が減ったから……えっと、たこやき? ……っていうやつ食べよう! おいしそうだぞ!」
「……たこ焼き? お前、食ったことないのか」
 他の屋台の食べ物も食べたいフェンリルは半分こにしたいと提案すると、眠堂は頷き、1パックのたこ焼きを2人で分け合う。その味はとても美味しい。
(「ユーシスも同じこと思ってたらいいよな……」)
 口には絶対に出さないが。眠堂はユーシスことフェンリルの存在をありがたいと感じている。だから、彼女も……。
「次は遊びに行くぞ! 金魚すくいとやらをやろう、眠堂!」
「おいおい、金魚まで食うなよ?」
 左右に動くフェンリルの尻尾を見ながら、乗り気な眠堂も後に続いていくのである。
 ヒール中に爆発した正彦も、たこ焼きを食べたいと考えてやってきていた。
 ソールも良いが、レモンに塩ダレにポン酢。たこ焼きにも色々な種類があるとももは主張する。
「イイダコがまるごと入ってて、足がはみ出してる名状しがたい感じのも面白いよね」
 ももはさりげなく正彦から背を向け、買ったたこ焼きを隠しつつ、その1つに激辛チリソースをねじ込んで……。
「マチャヒコさん、一個食べる?」
「じゃあお言葉に甘えるのも悪いから、ももちゃんもどうぞですお!」
 こちらも実は、正彦がタバスコをふんだんに仕込んでいて。
 互いに、相手から受け取ったたこ焼きをぱくりと一口…………。
「……辛ぁっ!?」
「……グワーッ!?」

●遊ぶぞー!
 一方、こちらは遊具系の屋台が集まる場所。
 ヒールを終え、河内原・裕理、実里姉弟は屋台を回っていたのだが、裕理の表情は浮かない。
 まだ、意識が戻らぬ彼女の恋人と一緒にいるべきか、あるいは戦いに身を投じるべきかで葛藤していたのだ。
 姉は戦うには優しすぎる。だから、実里としては姉に戦って欲しくはないのだが……。
 とはいえ、2人はそれをどう互いに伝えるべきか、話すきっかけを探しながら、屋台村を歩くのである。

 エリザベスとリヒテンツァはヒール作業を終え、のんびりと屋台を回っていた。
「市場ともまた違う雰囲気なのね?」
 初めて屋台村へとやってきたリヒテンツァ。思った以上に会場が賑わってきたのを見て、彼女は背中の羽根を閉じてしまう。
 そんな2人が訪れたのは、金魚すくいの屋台だ。
「金魚、いいよね。可愛いし、ひらひら泳ぐのはとても華やか」
 エリザベスがそう言うので、リヒテンツァはポイを持って挑戦してみるものの。金魚を傷つけないようにと気遣ううち、ポイが破れてしまう。
「難しいのね」
 しょんぼりとするリヒテンツィア。それを見ていたエリザベスは彼女が必死になっている様子があまりに可愛らしくて、微笑んでしまう。
「あんまりに可愛いからさ。ごめんね」
 そのエリザベスはすぐに、あっさりと金魚をとって見せる。それに、リステンツィアは感嘆し、拍手した。
「流石ね」
「いいとこ見せられたようで安心したよ」
 エリザベスはとった金魚を袋ごとリヒテンツィアへと手渡していた。2人はそのまま射的へと向かっていったようである。
「あれやってみたい!」
 入れ替わりで、ミニュイに誘われたシズネがやってきていた。
「宝石にリボンが付いたみたいな可愛いお魚が沢山!」
(「食うには身の少なそうな魚だなあ」)
 2人仲良く、屋台で買った食べ物をぶら下げ、そして手を繋いで金魚の入った水槽を覗き込む。
 早速チャレンジするミニュイだが、次々にポイを破いてしまう。
 悪戦苦闘する彼女の姿を微笑ましそうに眺めるシズネ。ここは一肌脱いでやるかと、彼も金魚すくいを始める。
「こういうのは魚の動きに逆らわねぇように……ほいっ! いっちょあがり!」
「わぁい! シズにぃ上手、凄い!」
 絶賛するミニュイ。留守番する妹にその金魚をあげてもいいかと聞くと、シズネは心よく了承する。
 そんな妹思いのミニュイの頭をシズネが思わず撫でると、彼女はちょっぴり頬を赤らめていた。

 リュエンが屋台を眺めていると、宿利と夜の2人とすれ違う。
 子供のとき以来、屋台へと来ていなかった宿利は屋台に目移りしてしまい、落ち着きなく周囲に視線を走らせる。
「はぐれそうなら手を繋ごうか」
「もう、子供じゃないんですよ?」
 その様子にくすくすと笑う夜が少し屈んで手を差し伸べると、宿利はちょっとだけむくれながらもその手を握る。
 歩いていた宿利は、射的の屋台に並ぶ大きなぬいぐるみに目を留めた。
「……あの子可愛いなって……ちょっと思って」
 夜寝るとき、安心して眠れそうと彼女がぬいぐるみを指差すと、夜はくすりと笑って。
「あれを抱いて寝たら、君のボディガードが拗ねてしまうのじゃないの?」
「ふふ……成親とも一緒に寝れば、きっと大丈夫」
 成親は宿利のオルトロスだ。そんな彼女の為にと、リラックスして銃を構える夜。彼の姿に、宿利は思わず見惚れてしまう。
「いざ」
 片目で照準を合わせた夜が2、3度引き金を引くと。ぬいぐるみはぽとりと地面に落ちた。
「さぁどうぞ、お嬢様」
 感嘆する宿利に、夜は恭しくぬいぐるみを進呈する。
「わぁ……すごい! ありがとう、大事にするね」
 宿利はそれを受け取ってぎゅっと抱きしめ、飛び切りの笑顔を見せた。

 次に射的屋へと入ってきたのは、空牙とミリム。様々な食べ物を抱えたミリムが射的をしたいとやってきたのだ。
「またずいぶん買い込んだな」
 けらけら笑う空牙がコルク銃を構えるミリムを見つめる。
「ボクに掛かれば、百発十中だよ!」
 わたあめを食べつつ、ミリムは自身の射的の腕をこれ見よがしに見せつけようとする。確かに小さい景品は撃ち落として見せたのだが。
(「……あれ、コルク銃で落とせる大きさか?」)
 空牙は、ミリムの次なる獲物、最上段の大きなぬいぐるみを見る。
 たこ焼きを食べながらミリムはコルクを飛ばすが、ぬいぐるみに弾き飛ばされてしまう。
「あ、あれ……? も、もう一回……!」
 さらに、一発。今度はりんご飴を食べながら一発。しかし、重量感あるぬいぐるみはビクともしない。
「アレが……取れないのです……」
「……まぁ、何とかなるさ」
 悔しそうに空牙へと泣き付くミリム。代わった彼は獲物の重心を確認し、バランスを崩す位置を……狙う。ぐらりと揺らぐぬいぐるみがついに落下した。
「ほい。意外と上手くいったな」
 またもけらけら笑ってぬいぐるみを差し出す空牙に、ミリムは嬉しさの余りハグする。再びぬいぐるみを持っていかれた店主はがっくりと膝を折っていた。

 夜は徐々に更けていくが、屋台村はまだまだ熱が冷める様子はない。参加する人々は思い思いのひと時を過ごすのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月8日
難度:易しい
参加:32人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。