仮面の少女と闇に輝く宝石たち

作者:缶屋


「あなたへの命令は、地球での活動資金の強奪、或いは、ケルベロスの戦闘能力の解析です」
 全身を黒で揃えたグラマラスな女性――螺旋忍軍の夕霧さやかが跪く月華衆の少女に命令を下す。
 無言の月華衆の少女に、さやかはさらに言葉を続ける。
「あなたが死んだとしても、情報は収集できますから、心置きなく死んできてください。勿論、活動資金を強奪して戻ってきてもよろしくってよ」
 そう笑いかけるさやかに、月華衆の少女はコクリと無言で頷き、姿を消すのだった。


 無人となった宝石店――営業が終わり、店内の電気は消え、物音一つしない。
 真っ暗な店内に、ふっと音もなく現れる人影――月華衆の少女だ。
 月華衆の少女は、ショーケースの中を覗きこみ、色とりどりの宝石を確認すると、月下美人の文様の彫られた日本刀の柄でショーケースを割る。
 露になる色とりどりの宝石たち。
 それらを鷲掴みにし、広げた風呂敷にぞんざいに包むと、月華衆の少女は、音もなく闇に紛れ宝石店を後にするのだった。


 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が集まったケルベロスたちの顔を見回し、
「お集まりいただき、ありがとうございますっす」
 と、頭を下げ、顔を起こすとダンテが口を開く。
「早速っすけど、螺旋忍軍――月華衆が宝石店を襲おうとしているっす」
 元々は穏便な――図書館、マンガ喫茶で調べもの、ニュースで時事ネタを集めるなどの活動を行っていた。
「今回、表立った行動に移ったのは、いくつかの理由があるみたいっす」
 金品を強奪し活動資金を得る、強盗を阻止するために現れるであろうケルベロスたちの戦闘情報を集めることを目的としている。
「月華衆の特徴として、小柄で素早く隠密行動が得意っす。音もなく現れ、闇に紛れてくるっす。戦闘になった際は気を付けて欲しいっす」


「では、今回の事件について説明するっす」」
 ダンテはそう言うと、資料を取り出し目を落とす。
「まずは……月華衆についてっす。月華衆は特殊な戦い方するようっすね」
 宝石店に現れる月華衆は一人。特徴として、小柄で仮面を被り、武器に月下美人の刻印が施されている。
 月華衆は、他の螺旋忍軍と違い特殊な忍術を使用する。
 月華衆は、自分の行動の前に使われたケルベロスのグラビティをコピーする。
 これ以外の戦闘方法はなく、特に戦闘でまだコピーしていないグラビティを優先し使ってくる。
「次に周辺の状況っす」
 宝石店は閉店しており、店内に人はいない。照明に関しては、スイッチをいれることで点けることができる。


「今回の事件は大きなものではないっす。でも、月華衆にみすみす活動資金を渡すことはできないっす。皆さんのお力で、月華衆の作戦を打ち破ってくださいっす」


参加者
シエラ・メレディス(夜翔アルビレオ・e00180)
七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)
クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)
青泉・冬也(人付き合い初心者・e00902)
エルボレアス・ベアルカーティス(中華まんイーター・e01268)
罪咎・憂女(捧げる者・e03355)
虎丸・勇(フラジール・e09789)

■リプレイ


 宝石店が閉店してから早数時間。
 人気がない店内に小柄な少女――月華衆の少女が姿を現す。月華衆の少女は面を被り、黒を基調とした忍者装束に身を包み、闇に同化するように店内を進む。
 月華衆の少女がショーケースに近づくのを、息を潜め見守るケルベロスたち。
「螺旋忍者さんも活動資金がいるってことは、かなり人間界に溶け込んでいるんですね。隣人がデウスエクスかもって考えるとなんか怖いですね……」
 クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)は、おどおどしながら静かに呟く。
 ショーケースに迫る月華衆の少女に、ショーケースのすぐ傍に隠れる虎丸・勇(フラジール・e09789)はゴクリと息を呑み、マインドリングで具現化させたナイフをギュッと握り絞める。
 月下美人の刻印が彫られた日本刀が、ショーケースに振り下ろされ、光る宝石を風呂敷に包もうとした時、月華衆の少女はふと周りの異変に気付く。
 きらびやかに光を放つはずの宝石類が、どうしてか霞んで見えるのだ。
 月華衆の少女は、宝石を包むのを止め辺りに視線を配る。そして、店内に全体に靄がかかっていることに気付く。
「今です!」
 七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)は、バイオガスが辺りに充満した頃合いを見て、電気を点けるように声を出す。
「了解だ」
 それに応え、電気のスイッチの近くに隠れていた青泉・冬也(人付き合い初心者・e00902)が、店内の電気を点ける。
 突然の明かりと声に、身構える月華衆の少女。
 身を潜めていたケルベロスたちが一斉に飛び出し、月華衆の少女を取り囲むように布陣する。
 取り囲まれたことに、少しの動揺を覚える月華衆の少女だったが、彼女の任務が資金調達から情報収集に変わっただけ。任務を果たす、その決意が日本刀を握る手に力を漲らせる。
 しかし、囲まれているのは分が悪い。と、月華衆の少女がその小さな体を利用し、ケルベロスたちの包囲網から抜け出さそうとする。
『絶対に逃がさない!』
 店内の構造を頭に叩き込んでいた罪咎・憂女(捧げる者・e03355)が、それを許さない。
 突破も無理か。と観念する月華衆の少女。
 シエラ・メレディス(夜翔アルビレオ・e00180)とシュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293)が一歩前に出る。
「さぁ、骨の髄まで楽しませてもうぜ?」
 と八重歯を見せ、ニヤリと笑みを見せるシュリア。
「塵も残らんと思え」
 シエラは怒りを孕んだ瞳で、月華衆の少女を睨みつける。
「ライトニングウォール!!」
 エルボレアス・ベアルカーティス(中華まんイーター・e01268)の声をとともに、ケルベロスたちの前に雷の壁が現れ、戦闘が開始されるのだった。


 エルボレアスを真似するように、日本刀を掲げ自分の前に雷の壁を作り出す月華衆の少女――ライトニングウォール。
「今回も懲りずにコピーで来るか……見上げた忠誠心だが、それではどう足掻いても勝てぬぞ」
 月華衆の少女のライトニングウォールを見て、エルボレアスがそう口にする。
「今日は頼りにさせてもらうぞ」
 勇の肩をポンと叩き、月華衆の少女に躍りかかるシエラ。
「エリィ君、皆を助けるんだよ」
 勇はサーヴァントのエリィに指示を出し、その後に続く。
 駆ける二人の背後に、シュリアが七色の爆発を巻き起こし、巻き起こった爆風が二人の背中を押す。
 シエラが攻性植物を放ち、放たれた攻性植物は月華衆の少女の前で蔓触手形態に変化し、月華衆の少女の四肢を縛りあげる。
 攻性植物を斬り裂き、自由になった月華衆の少女に、マインドソードを構えた勇が斬りかかり、月華衆の少女と勇は何合か斬り結び、間を開ける。
『油断大敵』
 間を開け、呼吸を整える月華衆の少女の背後から憂女が、ハエトリグサの如き捕食形態に攻性植物を変化させ、月華衆の少女に喰らいつかせる。
「我の剣を受けてみるか?」
 苦悶の声を上げる月華衆の少女に、クロコが鉄塊剣を力任せに振るう。その重力無比のクロコの一撃に、月華衆の少女の細腕が敵うわけもなく力負けした月華衆の少女は、壁に叩きつけられる。
 壁に叩きつけらた月華衆の少女を、七海がマインドソードで刺し貫き、
「また会いましたね」
 と囁く。
 月華衆の少女は、七海の言葉に首を傾げながら前蹴りを放つ。七海はその蹴りを、後方に飛び退き躱す。
 後ろは壁。逃げ場はないが一旦距離が取れたことで、月華衆の少女は安堵し、一歩前に出て反撃の準備に入る。
 しかし、ケルベロスたちの攻撃はまだ終わっていない。
「隙だらけだ!」
 七海を飛び越え、高々と舞い上がった冬也が、ルーンアックスを力の限り振り下ろす。ルーンアックスは、月華衆の少女を斬り裂き、床を砕き止まる。
 咄嗟に一歩後ろに下がり、華衆の少女は直撃を避けていた。
 月華衆の少女は、突き刺さったルーンアックスを足場に高く飛び上がると、クロコに向かい日本刀を力の限り振り下ろす――スカルブレイカー。
 その斬撃は、クロコの肩口から足先まで斬り裂く。
 膝を着くクロコに、すぐさエルボレアスが駆け寄り、傷を癒すべく、傷の具合を確かめる。
 だが、簡単に回復を許すほど月華衆の少女は甘くない。劣勢の今、確実に一人ずつ仕留めると、ケルベロスたちの間を擦りぬけ二人に迫る。
『二人の許へは行かせません』
 背後に二人を庇い、立ち塞がる憂女。月華衆の少女は力の限り、日本刀を振るう。その一撃は重力無比の一撃へと変わり憂女を捉える――デストロイブレード。
「エレキブースト!!」
 エルボレアスが大声を発し、生命を賦活する電気ショックがクロコの体の傷を癒す。
 それを見た月華衆の少女は、深追いせず集まったケルベロスから距離を取るのだった。


 月華衆の少女とケルベロスとの戦いは、佳境を迎えていた。
 ケルベロスたちの連携の前に、窮地に追い込まれる月華衆の少女だが、その戦意は全く衰えることはない。
 なぜなら、ケルベロスたちの戦闘データを一つでも多く、盗み取るのが彼女の任務だからだ。
 月華衆の少女は、一つでも多くケルベロスの攻撃を見るべく、店内を縦横無尽に駆ける。
 その意図を見透かしたエルボレアスは、ライトニングロッドを高々と掲げる。
「マインド……オペレーションッッ!!」
 精神を癒し、仲間のケルベロスたちの疲れ、傷を癒す眩い閃光がライトニングロッドから放たれる。
 エルボレアスの癒しを受けた、憂女の攻撃が冴える。
『そこッ!』
 攻性植物を蔓触手形態に変化させ、月華衆の少女の足を捉えるとすぐさまその体を縛り付け、動きを封じる。
 動きを封じられ、地面を転がる月華衆の少女を見て、シュリアがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「てめぇの体、爆発するぜ」
 そう言い、手に持ったスイッチを押すシュリア。スイッチが押され瞬間、月華衆の少女の体に密かに付けられた爆弾が起爆する。
 派手に上がった爆炎に、満足そうな表情を浮かべるシュリアだったが、まだ健在の月華衆の少女を見てチっと軽く舌打ちをする。
「戦いとは己の技と相手の技をぶつけ合う場。それを汚すなど武人の風上にも置けぬ行為! 断じて許すわけにはいかぬ!」
 性格が変わり武人然としたクロコの台詞に、隣に立つシエラは、
「中々、良いこと言うもんだな。月華衆に疾く、永き眠りを」
 クロコの放った凍結光線が月華衆の少女体温を奪い、シエラの凍結弾が月華衆の少女の時間を止める。
 いつまでもやられているばかりの月華衆の少女ではない。
 憂女の攻性植物を引きちぎり自由となる月華衆の少女。だが、その動きにキレはなく、もう立っているのも限界のようにも見える。
「母の腕へ帰りなさい。私の愛しい児よ。遥かな地に隠れても母は必ず迎えにいくでしょう――こちらへいらっしゃい――」
 七海がそっと優しく月華衆の少女を抱擁する。抱かれた月華衆の少女は、愛を源にするグラビティを感じ、自分の意識が遠のいていくのを感じる。
 月華衆の少女の頭に、身を任せようかと、一瞬過るが、命令も同時に過り、七海の腕を振りほどく。
 勇が蔓触手形態の攻性植物を放つ。それを日本刀を振るい、避けながら勇に近づき、そして月華衆の少女はそっと優しく抱きしめる――鬼子母神。
 勇は薄れゆく意識の中、咄嗟に月華衆の少女を振りほどく。その衝撃で、大きくグラつく月華衆の少女。
 もう待っていても月華衆の少女の生は、終わりを迎えるだろう。
 しかし、
「最後まで油断はしない! これで終わりだ!!」
 ルーンアックスのルーンを解き放ち、神々しい光を纏わせる冬也。大振りに見える振りだが、それを躱す力はもう月華衆の少女には残っていない。
 冬也は呪力とともに、月華衆の少女を薙ぎ払うのだった。


 月華衆の少女が倒れると、冬也がすぐに生死の確認に向かう。
「大丈夫です。罠などではありません」
 冬也の言葉に、ケルベロスたちの緊張が解ける。ただ冬也は、月華衆が何か計画を進めているのではないか、としばらく頭を悩ませていたが、今はその一部阻止で来たことに満足する。
「エレキブースト!!」
 エルボレアスは勇の体に、生命を賦活する電撃を流し満足そうな顔をする。治療が大好きな彼にとって、敵に邪魔ず治療できる時間はこの上なく至上の時間なのだ。
「さて、後片付けの時間です」
 バイオガスを解除した七海は、そそくさと辺りの修繕を開始する。
「うう、いくら修繕してもキリがない気がします」
 と、オーラを掌に溜め店を修繕していくクロエ。時折、物音が聞こえ、ひぃ!? と小さな悲鳴を上げながら修繕している。
「見事な宝石たちだ、次は客としてくるとしよう」
 月華衆の少女に割られたショーケースを修繕するシエラは、ショーケースの中で輝きを放つ宝石を食い入るように見つめる。宝石類を見るその顔には笑みが浮かんでいる。
「ふぅ~、今回はまぁまぁ楽しめたぜ。にしても、痕跡とかが何もないのは不服じゃん」
 店内を修繕する傍ら、何か月華衆の少女が痕跡を残していないかと調べていたシュリアだったが、結局月華衆の少女は何の痕跡も残してはいなかったのだ。
「デウスエクスもお金が要るんだねぇ……」
 と、勇は切なそうな目を月華衆の少女に向ける。
「そうですね。螺旋忍軍が経営する企業でもあるのでしょうか?」
 予想の範疇を超えませんが注意が必要ですね。と、気を引き締め直す憂女。
 店の修繕もあらかた終わり、ケルベロスたちは次の戦場へと向かうべく宝石店を後にするのだった。

作者:缶屋 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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