レイニー・クレイジー・レイン

作者:黒織肖

 雨。
 静かなはずのシャワーのような4月の雨は、夜半から降りだし、横からの強い風で嵐と言うべき様相だった。
 しかし、先程から風は止んで、街はまるで静かな水槽のようだ。暗闇に灯る街の灯りと信号は魚の瞳のように虚ろに灯っているようにも見える。
 その中を、水に落ちた蛾のように、もがくが如く踊る何者かがいた。
 雨の雫を恍惚とした様子で浴びながら、手に持ったステッキを大仰に振る。
「さあ、お立合いお立合い! 絢爛たるこの街のライトを消し、我が『マサクゥルサーカス団』が織りなす物語に新しき命を迎えようではないか!」
 青白い光を放つ電柱のライトが突如割れて消えた。
「ん~、破壊の響きは新入りの登場には相応しい。さあさあさあ! 玩具たちのパーティーだ。子供たち、玩具は好きかね? YES! 壊れても直る玩具は最高だ」
 男がご機嫌な様子で言った。
「大盤振る舞いだ! 街をかき鳴らし、君達が新入りを連れて来たら、破壊の調べをBGMにパーティをはじめよう!」
 蛾の羽を生やした死神――『団長』。
 彼が不気味なほど陽気に言い、ステッキを振ると、ぼうと青白く発光する怪魚が現れた。水槽の如き雨の中で、2m程の怪魚がぐるんとうねる。
 怪魚は3体。
 ふわりと泳ぎ、3体が輪になって泳ぎ回る軌跡が、徐々に形を為し魔法陣のような模様を描き出した。それが浮かび上がると、ずんぐりと大きな灰色の姿が現れた。
「ォオ~~ン!!」
 叫ぶ声は低く、なおかつ良く響く声だった。
 大きな耳、しわしわの肌、生前は円らだった黒い瞳は赤く染まり、人間大だった体も3mの巨体へと変化している。重かった体は更に重くなり、サルベージされて変異強化の結果、素早い動きで歩きはじめる。
 そこには、象のウェアライダーだったものがいた。

「こんな時間に申し訳ないっす!」
 遅い時間に呼び出したことを謝りつつ、黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は言った。
「あの蛾のような姿をした死神が、また動きを見せているみたいっす。この死神は第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスをサルベージする作戦の指揮を執っているみたいなんっすよね」
 『団長』と呼ばれているらしい彼が、配下である魚型の死神を放って変異強化とサルベージを行わせ、死んだデウスエクスらを死神の勢力に取り込もうと行動しているらしい。
「うーん……戦力を増やしたいみたいっすけど、これを見逃すことは出来ないっす!」
 出現ポイントに急いで向かって欲しいとダンテは説明を始めた。
「場所は埼玉県川越市。住宅地は近くに無いっすけど、万が一を想定して、警察には一応連絡して繋がってる道路は通行止めにしてもらったっす」
 ダンテは場所の説明をしつつ、敵の情報も伝えようと必死に話した。
 敵は4体。
 象のウェアライダーと下級死神の怪魚3体だという・
「ウェアライダーの方は3mぐらいあるっす。ただ、もともと人間サイズだったウェアライダーっすから、本当の象の大きさに比べれば小さいというか……でも、強化されてるから油断禁物っすよ」
 ウェアライダーはパワー重視で、その体をフルに使って攻撃してくるらしい。動きも鈍足というわけでもなく、素早く上手に体を使った攻撃をするのだ。
「なかなか手強そうな雰囲気っすね。怪魚の方は前の報告書を見ると同じぐらいの能力っす。噛みついてきたり、怨霊弾を撃って来たり」
 そして、サルベージされたウェアライダーの方は、変異強化された影響で攻撃的に、知性の方は獣並みになってるらしく、会話は成立しないようだ。
「死んだものに鞭を振るうようなことは良い気持ちがしないっすね。でも、指揮官が出てくるって普通じゃないっす。もう、尻に火がつくとかそういう状況なのかも……。頑張って妨害すれば引っ張り出せるかもしれないっす!」
 そう言って、ダンテは一同にエールを送りつつ依頼した。


参加者
ジン・フォレスト(からくり虚仮猿・e01603)
黒谷・理(万象流転・e03175)
アッシュ・ホールデン(無音・e03495)
狩魔・夜魅(シャドウエルフの螺旋忍者・e07934)
玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)
ディーネ・ヘルツォーク(蒼獅子・e24601)
保村・綾(真宵仔・e26916)

■リプレイ

●闇を切り裂く遠吠えに
 春から初夏に向けて季節は進む。
 不安定な気温が呼んだ雨は、街を水槽に沈めたような印象を与えていた。
 雨の中、魚を従えた不釣り合いな象が埼玉県川越市に――来る。
「なんだか寂しいのう……」
 保村・綾(真宵仔・e26916)は降り注ぐ雨を見つめ、顔につくのが気になって猫の様にごしごしとしながら言った。
「今回は象のウェアライダーなんですね。変異強化もされているようですし」
 玄梛・ユウマ(燻る篝火・e09497)は確実に撃破できるよう頑張りますと笑った。
「はぁ……壊れても直るねぇ。その程度の心づもりで、寝てる奴を無理矢理叩き起こすんじゃねぇっての」
 アッシュ・ホールデン(無音・e03495)も周囲を窺いつつ言った。
 この中で唯一、軍での経験を持つ彼は何が大切かを知っている。観察、全体の状況把握。自分たちが最大限の力を出せるように気を張った。
 それを横目に黒谷・理(万象流転・e03175)は肩を竦めて応じた。
「哀れな被害者に静かな死を。死者を操って喜ぶような奴には――それ相応の死を。それ以上、思うところはねえな」
「……そうか」
 その横で八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)は無言でいた。
 死人は死の国へ。仲間は家に。
 アッシュはまだまだやることがあると、仲間を見つめる。
 来るであろう方向を狩魔・夜魅(シャドウエルフの螺旋忍者・e07934)は見据え、眉をしかめた。
「サーカスの象は、酷い暴力受けて恐怖で従って曲芸してるって話聞いたことあるな。『団長』の場合は恐怖で象を従わせるんじゃなく、象で恐怖をばら撒こうとしてる………まぁ、どっちもどっちか」
 この雨が慈雨になればいい。そう思いつつ、慈悲深き地獄の番犬たちは敵襲を待つ。
 綾は初めての仕事ゆえ、敵を逃すまいとやや緊張しているようだ。
 そんなの中一人闘志を燃やすのが、ジン・フォレスト(からくり虚仮猿・e01603)。
 宿敵が起こす事件はジンをイライラさせていた。長い間宿敵の「団長」を追い続けている故か。もうそろそろ彼の我慢の限界であるようだ。
 焦燥感に苛まれるのも仕方あるまいか。
(「どんな情報でもいい! 何か手がかりはないのか!」)
「団長め……! 早く倒さねば被害は増える一方だ。さっさと尻尾を掴まなくてはな」
 試合前のボクサーのように闘志を燃やし、雨の中でカッパを着こんだジンは押さえられぬ気持ちを噛み殺す。
 じわり、体温が上がった。
 戦いの時は近い。チリチリとした場の空気が皆の神経を焼いていく。
「死神……今度こそ引きずり出してやりたいわ」
 やや低く、しかし、闇夜に凛と響く声音でディーネ・ヘルツォーク(蒼獅子・e24601)が呟いた。
 記憶を地獄化してまで求める戦いの先に、恍惚とできるほどのモノがなければ戦乙女が存在するにふさわしくない。
 そして、むせ返る水の匂いの先に『気狂いサーカス』の一団が現れた。

●雨は哀を含んで
「まずは魚達を無視し、象の方に仕掛けるぞ!!」
 打ち合わせの手筈は上々。確りと頭に叩き込んだジンは敵の姿が見えた瞬間には走り出していた。
「行きますッ!」
 鎮紅は一時的にソードを具現化して地面に突き刺し、守護星座である天秤座を浮かび上がらせる。
 描かれたルーンを発動させれば、暗い周囲に光り輝く呪力が輝く。と、同時に斧を振り下ろした。
「うおおお!!」
「ォ"ォォン!」
 走り込んできた象のウェアライダーは真紅の瞳でジンを見つめている。
 血よりも赤く、闘争に飢えた生ける屍の目。
(「おのれ、団長ッ! 同じウェアライダーとして、お前には同情を覚えるぞ……])
 噛みしめた。目頭の熱さも、悔しさも。
 この現実を見据えた。激戦は承知。今は――戦うのが、慈悲。
 振り下ろされる斧の威力は凄まじく、敵の灰色の皮膚を切り裂いた。
「おおッ!!」
(「通ったッ!」)
 ジンは快哉を心の中で上げた。
「はァッ!」
 理は両手を合わせ合掌の姿勢から一転、象のウェアライダーに向かって走り出し、武器ではなくその拳で魂を喰らう降魔の一撃を放つ。
 かつて生き、信念に沿って戦っていただろう敵の、その過去に向けられた理の敬意。
 拳には拳で。技には技で。最初の一撃は、温もりある拳が良いと己の拳を振るう。
「はあああッ!!」
「グォオン!」
 吠えた。
 喜びなのか痛みなのか。判然としないソレの瞳は未だ赤き空洞のままで虚ろに戦場を見つめている。
(「やるしかない」)
 やるべきだ。心が叫ぶ。逝くべき場所に還してやるべきだと。
「ゥオオ!」
 象のウェアライダーはその太く異様に巨大化した足を踏みしめ、理の敬意に応えるように拳を振るった。
「理ーッ!」
 状況を見定めていたアッシュは叫ぶ。
 顔面めがけて圧縮された空気の壁が、そのまま突っ込んでくるような気がした。
「くッ!」
「ォオッ!!」
「させるかあ!」
 ユウマがわき目もふらず突っ込んでくる。
 連携の成せる技か。鉄塊剣を盾代わりに掲げて敵の技を受け止めるも、振るわれた拳の重みと存在感はユウマを圧した。
 剣を突き抜け、重いダメージが響く。
(「……これは……ヤバい、ですね」)
 ユウマは嗤った。
 痛みと怒りに笑みが歪む。
 この敵が味方だったら、どんなに心強かっただろう。
 サルベージしてこの強さだとわかっていても、死者を弄ぶ団長は許せない。生来の人の良さが恐怖と気弱さを上回った。怒りが全身に満ちる。
(「絶対に負けませんッ!」)
 湧き上がる気持ちを抑え込み、このウェアライダーへの想いが彼を逆に冷静にさせた。決意がユウマの技を研ぎ澄ます。
「みなさん、行きますよ!」
 ケルベロスチェーンを精神操作で鎖を伸ばし、敵を締め上げた。
 しかし、向こうも動きを止めず、反撃を窺い体勢を整える。
「皆を守るのじゃ!」
 綾は盾役という重要な役を仰せつかったのだという自覚から、守るべき仲間の盾になるために、自身に小型治療無人機(ドローン)の群れに警護させた。
「ユウマ少年ッ! 大丈夫か!」
 ブラックスライムを捕食モードに変形し、象のウェアライダーを丸呑みにする。 
 BS付与による相手の命中率・回避率を下げるための作戦だ。
「オオォッ!」
「やったぜ」
『突き立てろ、獣の牙!』
 戦闘開始時、怖いもの見たさで警察の封鎖を越えてくる野次馬とかいるかもしれないと、殺界形成を発動させていた夜魅は火力を上げるための算段をする。
 螺旋を籠めた掌でアッシュに触れ、力を注ぎ込む。スナイパー位置に立つアッシュの命中に螺旋掌・獣牙の増幅能力が加われば心強い。
「負ける気がしないぜ!」
 夜魅は笑った。
「今度は象か。胸糞悪いヘボサーカスめ」
 ディーネは戦場の匂いを肌で感じ、笑う。
 片翼から漏れる地獄の炎が、ずっと降り注いでいる霧雨を熱し、静かに音を立てていた。
 槍を肩に担ぎ、悪態を付く戦乙女は修羅場を乗り越えてきた猛者。荒々しく槍を構える。
「本当に芸が無いよな! 全席払い戻しでもおかしくない。安心しな。今回『も』徹頭徹尾、邪魔してやるよッ!」
 ディーネは光翼より噴出した地獄で一気に加速する。
『teiwaz……これが私の祝福よ!』
 瞬きよりも早く、象のウェアライダーにディーネは突進した。
 穂先は音叉状。二又に展開したそれは雷撃の銘を持つ選ばれし者の槍。それをディーネが深く突き刺した瞬間、槍の穂先が二又に割れて、敵の内側に最大級のグラビティを叩き込んだ。
「ォオオッ!」
「あはは! 解散するまで殴るのを止めないって奴?」
 同時に光る液体――クリスタルシュライムを暴食モードへ変形。そして、捕食結晶で敵を結晶で包み込み、ウェアライダーを一瞬で侵食した。
 内側と外側の両面からディーネに攻撃を受け、敵は一瞬よろめく。
「フ……オオォッ!!」
 満月に似たエネルギー光球作り上げると、象のウェアライダーはそれを使って傷を癒す。と、同時に共に凶暴性も高った。
「ギャアオゥ!」
「ガァッ!」
 尾を長く引きゆらめいていた死神は、先程の大人しさとは一転して続けざまにケルベロス達に襲い掛かる。
 先頭で戦う理とユウマに噛み付き、瞬時の隙をもう一匹が夜魅に怨霊弾を飛ばした。
 ジンは怪魚を無視し、捕食モードに変形したブラックスライムでウェアライダーを攻撃する。
 回避と命中が1.5倍の怪魚や命中とクリティカルダメージが2倍の怪魚と共に相手をするよりも、パワー系で厄介な象のウェアライダーを倒す方が得策なのである。
 BSを恐れず、ケルベロス達は果敢に立ち向かった。
 この先に宿敵がいる。そう思えば辛くもない。ただ、対峙するために今の敵と立ち向かう。
 理は戦うことが手向けと、真剣に対峙していた。
「うおお!」
 理が放った鎌は回転しながら敵を斬り刻んで手元に戻る。
「ゥ゛ゥッ……オォッ!」
 手痛い攻撃に叫ぶウェアライダーを見、理は確かな手ごたえを感じた。
 ユウマは精神を極限まで集中させ、理と対峙するウェアライダー爆破した。
 ダメージが蓄積した敵のパワーはダウンした様に見えた。もうすぐだと心の中で確信が広がる。
 綾は容赦なく縛霊撃を放つ。殴りつけると同時に網状の霊力が敵を捕らえた。夜魅は稲妻突きに切り替え、相手の攻撃が失敗するよう狙う。上手くいったらしく、敵の動きが悪くなり、攻撃が来るであろうタイミングで上手く動けず失敗していた。
 そこを狙ってアッシュが竜爪撃を放つ。
「よし!!」
「!! ……ッ!」
 アッシュの一撃で、ウェアライダーの凶暴性を高める効果が吹き飛んだ。
 アッシュの快哉の声に合わせ、ケルベロス達はたたみかけるようにウェアライダーに攻撃を重ねる。ディーネも稲妻突きを繰り出す。
『其の歪み、断ち切ります!』
 鎮紅の声が暗がりに凛と響いた。
 蒸せる暑さの中、頬を濡らし、鎮紅は髪を振り乱してゾディアックソードを振るい、そして魔力を流して深紅の刃を形成する。
 まさにその淡い光は水中の花。零れ落ちる花弁のように鎮紅の剣閃は舞い、暗く深き紅が象のウェアライダーの攻撃性を削いだ。
 手向けの花は剣技。
 戦う者たちには相応しいかもしれない。
「ギャギャギャ!」
「ギュオゥ!」
 後方から怪魚が狙う。
 ぐるん。
 怪魚が奇妙な踊りでも踊るように周囲の怨念をかき集め、ケルベロス達の技の合間に黒い弾丸を放ってくる。
「うわァッ!」
「クソッ……毒か」
 中心を狙って怪魚が怨霊を爆発させる。
 痛恨の一撃が綾たち前衛を襲った。
 ジン、ユウマ、理が毒に侵食され、鎮紅はオーラを溜めて急いで回復する。ウィングキャットの文も皆を癒した。
「誰かっ!」
 鎮紅が叫ぶ。
 ディーネが紡ぐブラッドスターの旋律と歌が皆を癒す。
「クソ……ッたれぇ!」
 理は死神達に中指をおっ立てて、どこかで見ているかもしれない団長に向かって見せつけるかのように罵倒した。
 逆手に持った惨殺ナイフを持ち替えて、象のウェアライダーを斬り裂くと同時に、血の洗礼を浴びて回復した。
「オ゛オ゛!!」
 嘆きか。
 感嘆か。
 ウェアライダーが叫ぶ。
 飛び散る血が亡骸の時間を引き寄せる。もうすぐ――『死』がやって来る。
 攻撃は最後の華と、ウェアライダーは突進してきた。ジンは迎え撃つ。
(「クソ……避けれねえ。えぇい……来やがれ!」)
「ォ゛ォオン!!」
「ぐッ……わぁッ!」
 想像以上に素早く重い拳は拳圧となってジンを襲う。吹き飛ばされそうになりながら切り裂かれ、踏みとどまるのがやっとだった。しかし、負けるわけにはいかない。
 ジンは叫んだ。
『遠慮せずにさあ、私の歌を聴くのだ!!』
 リュック型の鎧装から勢いよく巨大なスピーカーが飛び出してくる。そして、それは集音装置も兼ねていた。
 周りの音を吸い込み、凝縮して狙う。
「ふざけたサーカスの一員ではなく、誇り高きウェアライダーとして、もう1度死の世界に戻るがいい……逝けぇぇッ!!」
 そして、それを敵に向かって放った。
 目に見えない塊は無音のまま標的に接近し、突如、範囲の物を巻き込んで爆音の衝撃で崩れ去る。
「……ァ!」
 象のウェアライダーの叫びも飲みこんで破裂した『圧』は、死すべき者を吹き飛ばし、粉々に砕いて彼方へと飛ばした。

●地に墜つる
 振り返れば雨の中、怪魚は未だ居た。
 ただ、もう自身を守る大きな壁は存在しない。
 自身への死の舞を踊りながら、怪魚は黒き怨念の弾を放つ。
 それをユウマとウィングキャットの文が全身で受け、夜魅は控えていた残りの怪魚を狙って、稲妻突き・螺旋掌とループして攻撃した。
 壁さえなければ恐るるに足りない。
 ケルベロス達に噛み付いてくる様は、死を恐れて足掻いているようにも見えた。
「脆いもんだな!」
 アッシュは手や足の爪を超硬化し、怪魚を超高速で貫いた。
 無残に千切れて尾が吹き飛ぶ。
 先程のような強敵に比べれば、雑魚などちり紙みたいなものだった。文字通り、ちり紙のように千切れて怪魚が吹き飛ぶ。
 斬撃も極まれば破壊に近いとでもいうかの様に悲惨な状況だ。
「さあ、私の祝福の味はいかが?」
「ギュアァ!」
 ディーネの繰り出す必殺の一撃は、まさに楽園への招待状。
 怪魚は斬撃に切り裂かれ、しまいにはボロ雑巾を通り越して粉々になって地面に転がった。
「ごめんなさいね……魚のミンチは好きじゃないの。そう……日本では『つみれ』っていうんですっけ?」
 くすくすと子供のようにディーネは笑った。
 街という四角い水槽の中で、怪魚たちは猟犬たちの牙によって噛み砕かれた。

「サルベージ直後となると、何か団長の手がかりが残っているじゃろうか?」
 綾は可哀想なウェアライダーの遺体に花を添えてやりながら呟いた。
 倒したウェアライダーに黙祷を捧げるアッシュの想いは苦い。
「……自分の意志でじゃねぇってのは、どうにも気分がよくねぇわな」
 こんな生き返らし方は悲しいだけ。眠りに落ちた者はそのままの方が幸せなのだ。生前、頑張って生きたのだから。
 初めての戦いが辛く苦いものだと、綾はウィングキャットの文を抱きしめる。
「にゃァ」
 大丈夫だからとでも言わんばかりに文は鳴く。いつでも世界は良い方向に動いているものだとも言いたげな面持ちで、心配そうに綾をぺろりと舐めた。
「何か団長に繋がる手がかりがないかを調べるぞ」
 ジンは急いで周囲を見回した。
「全力を尽くして捜査だ! どんな手がかりでも良い。なんとしてでも引きずり出してやる!」
 街の物陰、公園、細い道。皆は雨の中を走って探す。
 鎮紅とユウマ、綾は荒れてしまった周囲にヒールをかけていきながら真剣に探した。
 そして、止みかけの空が明るくなる頃、なにがしかを感じた。
 しかし、それも朝の澄んだ風の中に消える。
「クソォッ!」
 ジンは叫んだ。
 戦いの名残さえもう無い。
 雨に沈んだ街並みの姿と共に、一夜の気狂いサーカスは消えたのだった。

作者:黒織肖 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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