永遠の輝きを狙う影

作者:青葉桂都

●夕霧さやかの指令
 黒衣の美女は、ただ陶然と夜の湖を眺めているように見えた。
 闇に沈む湖畔の草むらに、彼女……螺旋忍軍の夕霧さやか以外に人はいない。対岸には街が見えるが、この辺りは細い道があるくらいで家の一軒もない。
「……来たわね」
 さやかが呟いた。
 闇から染み出すように、いつの間にか背後に仮面をつけた1人の少女が控えている。
 湖の向こうに見える少し大きな建物をさやかは目線で示した。
「あの美術館は宝石や宝飾品を展示しているわ。あなたへの命令は、地球での活動資金の強奪……或いは、ケルベロスの能力解析です」
 少女はさやかの言葉を無言で聞いていた。
「あなたが死んでも情報は手に入るから、心置きなく死んでかまわないわ。もちろん、活動資金を手に入れて戻ってきてもいいわよ」
 無言でうなづいた少女が、音もなく消える。
 まるで散歩にでも出ていたかのような顔をして、さやかもその場を立ち去った。
 もう美術館だという建物に視線を送ることはなかった。


●月華衆の手際
 開館時間を過ぎた美術館は暗く静まり返っていたが、警備の者は24時間詰めているはずだった。
 だが、さやかに命じられた少女は巡回と監視カメラの死角を確実に見極めて、音もなく目的の場所へと向かう。
 持ち運べるのは風呂敷で包める程度のもの。
 展示されている宝石を根こそぎにしていくというわけには行かない。
 月華衆と呼ばれる一派の一員である少女が目指したのは、4階建ての建物の、3階の中央。
 外壁には一切面していないその部屋はこの美術館の目玉で、並の宝石店ではなかなか見られない大粒の宝石が展示されている。
 赤外線のセンサーが張り巡らされているはずだが、小柄な体とデウスエクスの身体能力を持ってすれば、かいくぐることなどわけはない。
 目にも止まらぬ動きで彼女は室内の監視カメラをすべて破壊した。
 荒々しく扉が開かれたのは、程なくのこと。
 だが、その時にはすでに月華衆の少女は目的を達して逃走していた。
 駆けつけた者たちが見たのは、大きな穴が開いた空の展示ケースのみ。
「なっ……こんな短時間でどうやって……」
 驚愕の声が彼女の耳に届くことはなかった。

●へリオライダーの依頼
 集まったケルベロスたちに、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)が静かに語り始めた。
「螺旋忍軍が金品を強奪する事件を起こそうとしています」
 強奪される品は高価で希少ではあるものの、世界に1つといった特別な代物ではない。
 おそらくは地球での活動資金にするつもりだろう。
「事件を起こしているのは『月華衆』と呼ばれる一派です。小柄で隠密活動を得意としているようです」
 衆と呼ばれるとおり単独の個人ではないが、全員同じような外見をしているらしい。
 芹架が予知した事件では、とある湖畔の美術館が狙われていた。
「宝石の展示をしている美術館です。中でも特に高価な品を狙って奪っていくようです」
 展示室は2階建ての建物の上階にある、外壁には面していない部屋らしい。
 セキュリティはしっかりかかっているものの、デウスエクスが相手では大した効果を発揮しないようだった。
 強盗を働く月華衆は1体のみで行動している。
「通常の螺旋忍軍と違って、彼女たちは特殊な忍術を使用するようです」
 ケルベロスたちが使用したグラビティをコピーする忍術だ。
 コピーするグラビティは敵が行動する直前に使われたもの……月華衆がなんらかの行動を行った後、次の行動を起こすまでに使用されたものになるらしい。
 その際、可能な限り『その戦闘でまだ一度も使ったことがないグラビティ』を優先して使用する傾向があるという。
「他の攻撃手段は持っていないようなので、うまく作戦を立てれば相手の次の攻撃方法を特定することもできるでしょう」
 言うまでもないことだろうが、戦闘に関係ない技はコピーしてこない。
 なお、建物内には警備員がいるので、戦闘に巻き込まないよう警告しておいたほうがいいかもしれない。
 月華衆が狙う展示室以外にもアクセサリーや原石などが展示されているが、壊れてもヒールすればいいのであまり気にする必要はないだろう。
「月華衆の行動には不可解な点もあります。もしかしたら、背後になにか別の意図を持った黒幕がいるのかもしれません」
 芹架は最後にそう言って説明を終えた。
「それに、少なくとも、資金調達の段階で止めておくことは今後の被害を減らすことにもつながります。どうぞよろしくお願いします」


参加者
秋草・零斗(螺旋執事・e00439)
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
ジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)
クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)
山蘭・辛夷(凛と咲く白き花・e23513)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
リノン・パナケイア(怒ってはいない・e25486)

■リプレイ

●夜の美術館にて
 美術館に近づく敵より幾分早く、ケルベロスたち現場に建物にたどり着いていた。
 警備員室の扉を開けたのは、緑の髪をした青年。
「君たちは……?」
「ケルベロスだよ。螺旋忍軍がここを襲撃するのがわかったんだ。悪いけど、しばらく特別展示室には近づかないでくれるかな」
 ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)の言葉に、警備員たちが頷く。
「了解しました。どうぞよろしくお願いします」
 一番年かさの警備員が、ケルベロスたちに言った。
 彼らにルートを教わって、ケルベロスたちは展示室へと移動する。
「相手は使い捨てられているのでしょうか……」
 悲しげな声を出したのは、クリスティーネ・コルネリウス(偉大な祖母の名を継ぐ者・e13416)だった。
 今回盗みに入る螺旋忍軍の背後には、何者か黒幕がいる可能性がある。
「出来れば戦いたくない相手ですが、そう言う訳にもいきませんよね……」
「同情できようができまいが、私はデウスエクスを殺す、目的はそれだけだ」
 丁寧に、しかし切り捨てるような淡々とした声でリノン・パナケイア(怒ってはいない・e25486)が言った。
「成功させること、ひいては殺すこと、私にはそれ以外に選択肢はない」
「……そうするのは……正しいことなのかもしれませんが……」
 デウスエクスは存在するために地球人の犠牲を必要とする。ゆえに彼らと戦わないという選択肢は本来ありえない。
 だが、正しいはずのリノンの口調はどこか狂気を感じさせるものであり、戦いを好まぬクリスティーネは悲しげに目を伏せた。
 好むと好まざるとに関わらず、戦いのときは訪れる。
 本来なら隠密を得意とする螺旋忍軍の動きを察知するのは容易ではないのだろうが、ヘリオライダーの予知で情報を得ているケルベロスから逃れることはできない。
 展示室へつながる扉のうち1つが、音もなくわずかに開いた。
 小柄な人間1人がどうにか通れる程度の隙間。だが開くことがわかっていればその瞬間を見逃すことはない。
 渦を巻くデザインの仮面をつけた少女が室内へ身を滑り込ませようとする。
 その姿を、室内から向けた明かりが照らし出した。
 秋草・零斗(螺旋執事・e00439)のライドキャリバー、カタナのライトが放つ光だ。
 一輪車の上で執事は木刀を構える。
 月華衆はとっさに扉を大きく開け放ちながら横に飛びのいた。
 轟音を上げて振動する零斗の得物が空を切った。
「音も気配もしなかったけど、さすがに扉を開ける瞬間までは隠せないよね」
 ウォーレンもチェーンソー剣を振り下ろすが、扉を盾にして敵はそれを防ぐ。
 2人の攻撃をかわした月華衆だが、狙い済ましたクリスティーネの飛び蹴りはかわすことができなかった。操った重力が美術館の床に彼女を押し付ける。
「部屋には入らないでいただきましょうか」
 零斗が木刀を構え直した。
「中に入ってから出入り口をふさいだほうがよかった気もするけど……どっちにしても、逃がさないよ。覚悟して」
 退路を断つように廊下を駆けながら、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)の手からブラックスライムが飛び出す。
 捕食モードに変形したスライムを避けた隙に、少女は月華衆の背後に回りこんでいた。
「……同じ隠者同士、ワタシもセンサーの有能さを試させてもらいたかったが」
 ジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)が月華衆へと接近する。
 敵が獲物の近くまで来たところで背後をつこうと考えていたが、残念ながらそこにたどり着くまでに戦闘は始まってしまった。
 移動しながら、闇に溶け込むような暗色の髪をお団子にしたジンの姿がちらつき、二重写しになっていく。分身だ。
「はっ!」
 リノンが翼を羽ばたかせて一気に加速する。
 隙をついたはずの攻撃を、月華衆は紙一重で回避して見せた。
「……ケルベロスだ。貴様の命、散る覚悟をする時間だ」
 灰色の瞳でにらみつけるように見据え、リノンは少女へと告げた。
「この手の宝石は足がつくと思うんだけど、誰が買い取ってくれるんだい?」
 山蘭・辛夷(凛と咲く白き花・e23513)は気軽な口調で問いかける。
 酒の残り香をただよわす和装のレプリカントに対して、少女は一瞬顔を向けただけで言葉を発しようとはしなかった。
「だんまりか。ま、どっちにしろあんたはここから逃さないけどな」
 袖から伸びる辛夷の腕が高速で回転を始める。
「せやろな。あんたら下っ端に何聞いても反応せんのは知っとる。せやからうちは何も聞かへん、さっさと潰すわ」
 八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)が虎の手と化した拳を構える。
 回転する辛夷の腕と瀬理の拳が月華衆を捉えて忍装束を引き裂いた。
「……ケルベロス」
 呟いた月華衆の姿がぶれ始める。
 分身の技で自らを守ろうとする敵に、ケルベロスたちはさらに攻撃をくわえた。

●模倣される技
 少しばかり回復されたところで、与えたダメージのほうが大きい。
 攻撃をそらされ、敵の動きを制限する技が影響を与えにくくなるのが少し困る程度か。
 8人のケルベロスに囲まれても月華衆は逃げようとするそぶりも見せなかった。
 零斗はカタナの上で、片眼鏡越しに敵が次に模倣する技を警戒する。
 攻撃役の手を止めさせないように守るのが彼とカタナの役目だ。
(「黒幕がいるなら調べたいところですが……捕らえても口を割る相手ではない、か」)
 カタナの上から跳躍する。
 礼装が宙を舞い、流星の煌きとともに叩き込んだ蹴りが小柄な体を吹き飛ばす。
 さらにライドキャリバーもスピンしながら零斗を追ってきたが、敵は跳躍して回避。
 他の仲間たちも次々に攻撃をしかけ、半分以上を月華衆にヒットさせていた。
 月華衆が跳躍する。
 少女がはいているものはとてもエアシューズには見えなかったが、エアシューズと同じように重力を操って見せた。
 辛夷へと一直線に向かう蹴りの前に、零斗は割り込んだ。
 重たい蹴りだ。だが、彼も含めてケルベロスたちは自分たちの使う技に対して相性のいい防具を身につけている。
「この戦いも、あなたの依頼者に見られているのでしょうね」
 間近で交錯しても、仮面に包まれた少女の表情は見えない。
「どこへ派遣しようとも、地獄の番犬からは逃れられない事を、思い知っていただくとしましょうか」
 互いに飛び退き、距離を取りながら零斗は告げた。
 距離を取った敵にケルベロスたちが立て続けに接近し、攻撃を加えていく。
「その模倣、どこまでワタシ追えるか?」
 ジンの広い袖から、ナイフが覗かせた。
 柄尻に重心が偏った形状は、首を撫で切るのに適している。
 刃がさらに複雑な形へと変形した。無表情に切り刻むジンに対し、月華衆もうめき声さえ上げはしなかった。
 リノンの槍が、雷鳴をまとって月華衆へ襲いかかる。
「いつまでも2人にも3人にも見えるのは目障りだ」
 いまだにちらついていた少女の姿が、貫いた槍に縫いとめられたように固定される。
 辛夷も零斗の後方から飛び出した。
 緩やかに弧を描く刃が敵の首筋を浅く切り裂く。
 吹き出す血を気に留める様子もない敵に、虚をまとった鎌をアビスが振り下ろした。
 肩口へ激しく斬りつけた傷痕から、鎌が生命力を奪っていく。
 月華衆が細腕を振り上げた。
「ほぉ、私たちのグラビティそのままだ。鏡を相手にしているようだねぇ」
 辛夷は刃のようにそろえた手刀に虚が宿ったのを見て、感心した声を上げていた。
 わずかに曲げた腕が振り下ろされて、切り裂かれる。生命力が奪われるのを感じた。
 零斗とクリスティーネの蹴りが重力を操って敵の動きを止めると、瀬理のチェーンソーがジグザグに切り刻む。
 機動力を殺されながらも月華衆はケルベロスたちの攻撃をかわして見せたが、ギリギリの動きでいつまでも回避し続けられるものではない。
 捉えたのは辛夷の攻撃だった。
 唸りを上げるチェーンソーの刃が肉付きの薄い腹部を痛烈に削り取る。
「だが、技術は私のほうが上みたいだ。付け焼き刃のあんたにゃ負けないさ」
 敵から奪った技を磨き上げてきた鹵獲術士としての自負をこめて辛夷は笑いかけた。
 月華衆は攻撃を1人に集中したいようだったが、アビスと零斗、そして2人やクリスティーネのサーヴァントたちが仲間をかばい、ダメージを散らしている。
 ウォーレンは掌に白いつぼみを生み出した。
「冬から春になるように、夜から朝になるように、廻る光が、消えずにここで咲くように――」
 静かに呟く声に応じるように、つぼみが開いていく。
 無数の黄色い花の周りを、細長い白の花が囲む。マーガレットの花から得た女神の力で彼は癒しの祝福を仲間たちに与える。
 回復しながら観察していたが、模倣する技とオリジナルに大きな違いはないようだった。威力や命中率に差はあるが、これは単に実力差によるものだろう。
(「見切られないことは意識しているみたいだけど……特に好んでなにかをコピーしている様子はない、かな」)
 同じ技を使わないようにしているという点を別にすれば、単に周囲で使った技のうち有効そうなものを選んでいるだけのようだ。
 クリスティーネは翼を羽ばたかせつつ、後方から一気に接近する。
「全てを! 切り裂く風を! 巻き起こします!」
 魔力を秘めたオラトリオの翼が竜巻を巻き起こす。
 小柄な月華衆の体を風に巻き込み、切り刻んでいく。
 月華衆は少なからずケルベロスたちの攻撃を回避していたが、後方から狙いすましたクリスティーネの攻撃はかわせない。
「全てを、切り裂く風を、巻き起こします」
 月華衆が告げた。
 竜巻が仲間に襲いかかるが、アビスがかばう。
「その手は効かないよ。対策は万全だからね」
 模倣されることが事前にわかっていた以上、勝ち目はない。
 敵も対策されていることは気づいているだろう。
「こんな戦い方では勝てないってわからないはずもないのに! 情報収集のために命を捨てて戦うなんて……」
 退かないのはそれが理由であろうと思わせる行動だ。
「せめて憎んでくれれば……」
 願いは叶うことなく、月華衆はただ技を受け、模倣し続ける。

●少女は言葉もなく散る
 ジンは取り回しのいい短めの刀で、雷速の突きを繰り出した。
 敵の模倣を妨害する手段も用意していたが、今のところそれを使う機会はなかった。
 全員が意図して技を合わせるくらいのことをしなければ、よほどの長期戦にならなければあえて加減した攻撃を模倣させる機会はそうそう訪れない。
(「だが、手を明かさずにすめば、それにこしたことないか」)
 敵を倒すに手段は選ばぬ。それ故に『暗箭小娘』と呼ばれた彼女は、策に固執せずただ容赦なく月華衆に攻撃を加える。
「―――――――疾」
 攻撃を見切られぬよう、ジンは影を操って刃とした。
 寸前まで非実体である影の刃は、月華衆の体を深々と切り裂き、そのまま霧散した。
 月華衆は一貫して辛夷を狙っていた。
 防具の相性を考えていなければ今頃は誰か倒れていたかもしれない。
「……ぎゅいーん」
 アビスは幾度目か数え切れない攻撃を、小さな体で受け止める。素手の攻撃が、チェーンソーのようにズタズタに彼女を切り裂く。
「狙われちゃってるねぇ。頼りにしてるよぉ、ディフェンダーさん」
「……僕はただ役目を果たしてるだけ」
 辛夷が述べる礼の言葉に、アビスはマフラーの下からそっけない声を出す。
 別に不満があるわけではない。誰にだって、彼女は同じ態度だ。
 もっと愛想よく対応すれば、仲良くなれるかもしれないと後で後悔するのだが。
 仲間たちの反撃に合わせ、アビスも飛び蹴りを叩き込む。
 月華衆はだいぶ弱っているようだった。
 小柄な体はどこもかしこも傷だらけで、装束も血にまみれていたが、彼女は逃げる様子もなく攻撃を繰り返す。
 死ぬまで戦うことを命じられ、そうすることに彼女自身なんら疑問も不満も抱いていないのだということをケルベロスたちに想像させた。
 ウォーレンが悲しげな目で彼女を見やり、けれど言葉をかけることなく攻撃する。
「もう、やめてくださいっ!」
 クリスティーネが悲鳴のような声とともに竜巻で切り刻む。
 ジンのナイフが、辛夷や零斗のチェーンソーが彼女を引き裂く。
「死ぬ覚悟はできたか? 貴様等の目的は、完遂させん!」
 リノンは淡々と戦う月華衆へ、言葉と共に刃を叩きつけた。
 医師である彼がいかにしてこの狂気を帯びたか仲間たちにも想像もつかないだろう。
 攻撃を受けた月華衆が一度だけリノンへ顔を向けた。
 けれど、言葉を発することもなく少女はまた身構える。
 さらなる攻撃を受けながら、仕掛けるのはジンが使ったジグザグの刃。
 零斗が切り刻もうと迫る攻撃から辛夷をかばう。
「大変申し訳ありませんが、最後まで油断はいたしませんので」
「……そう」
 呟く彼女が限界であることはもう明らかだった。
 瀬理はそんな彼女を、なおも憎しみを込めてにらみつける。
「先に謝っとくわ。うちはあんたが特別嫌いなんやない。螺旋忍者が嫌いなだけや。せやからこれは、あんたにとったら逆恨みに近いんやろな。……ほんま悪いねんけど、消えてや、忍者は」
 言葉は耳に入っていただろう。
 けれどその憎しみに恐怖する様子すら見せず、それがなお瀬理の心をあおる。
「喰らえ魂、呑み干せ命ッ……あんたの器、うちがもらうわ」
 昏く赤く光る爪が少女の四肢に宿り、月華衆をバラバラに引き裂いていた。

●どこかでほくそ笑む誰かに
「……偉いあっさりと。ちゅうことは……こいつが勝っても負けても背後の誰かは得する、っちゅういつもの構図か。相変わらず手口が胸糞悪い……」
 吐き捨てるように呟く瀬理の前で月華衆の体が消え去る。
「背後の誰か、ですか……覗いているのがわかっても、知覚はできないのでしょうね」
「当然、せやろな」
 零斗が周囲を見回すが、気配はどこにもない。
「ですが、その内追い詰めて差し上げますよ」
「同感や」
 いちおう警備員たちの様子を見に行くと言って、瀬理は戦場を去っていった。
 警備員たちは無事だろうが、被害があるのは建物のほうだ。
「……いろいろ壊れちゃったし、ヒールして帰らないとな。多少メルヘンチックになっちゃうかもしれないけど」
「仕方ないね。どう変わるかかけてみるまで誰にもわからないよ」
 リノンやジンが言葉を交わす。
 ウォーレンも2人とともに建物や壊れた展示物を直し始める。
(「後でちょっとだけ見てみたいな」)
 綺麗なものが好きな青年は、直しながら心の中で呟く。
 掌に咲かせた花から広がる女神の力がケースを修復していった。
 こうして直しているところも、月華衆の背後にいる誰かは見ているのだろうか。
「企みは全てお見通しだよ」
 それはただのはったりであったが、温和なウォーレンにしては珍しく、はっきりと険のある言葉だった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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