臆病な豚は闇に紛れる

作者:缶屋


「グスタフよ、慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶とを与えるのだ」
 ギルポーク・ジューシィは重く静かな声音で、目の前に佇むオーク――グスタフに命令を下す。
「ひゃっはー。敵がいれば逃げるが、敵がいなければ、俺達は無敵で絶倫だぜー」
 軽い口調で言うグスタフに、ギルポークは深いため息を吐く
「……やはり、期待は薄いか。だが、無闇にケルベロスと戦おうとしないだけ、マシかもしれん」
 ギルポークは、一抹の不安を覚えながらも、自分を納得させるように呟く。
「ひゃっはー。その通り、色気に迷わなければ、俺達は滅多に戦わないぜー」
「……」
 グスタフに呆れたギルポークは、無言で魔空回廊を指差し、グスタフは魔空回廊に姿を消すのだった。


 時間は夜半過ぎ――。
 人気のない道を歩く女性。仕事帰りなのだろうか、スーツに身を包み、手にはコンビニの袋を持っている。
 背後から近づいてくる足音に、女性が振り返る。しかし、そこには誰もいない。
 勘違いかと、歩き始める女性。だが、それは勘違いではなかった。
 再度振り返った女性の目に入ったのは、二足歩行をする豚――オークたちだ。
「豚? ――いや、来ないで」
 迫りくるオークたちに、女性は走って逃げる。だが、オークたちの方が速い。
 触手が女性の四肢を絡めとり、動きの止まった女性にオークたちは下卑た笑みを浮かべる。
 触手が女性の肢体を這い、嫌悪感を露にする女性。
 その表情を見たオークたちは、喜々し女性に襲い掛かるのだった。


「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めたっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が口を開く。その顔は珍しく神妙で、集まったケルベロスたちは固唾を呑む。
「今回事件を起こすのは、オークっす」
 オークを操るドラグナー、ギルポーク・ジューシィが配下のオークのグスタフを使い事件を起こすのである。
「グスタフとその配下は非常に女好きなんすよ。それはもう通常のオーク以上に」
 オークは女性を襲い、繁殖、子供を産ませ、その子供を殺すことでグラビティ・チェインを得る。
「その反面、とても臆病なんす」
 グスタフの配下は、ケルベロスを見つけただけで逃げ出してしまう。
「戦闘開始後も、隙あらば逃げ出そうとするっす。何か工夫をして、オークたちを撃破して欲しいっす」


「では、今回の事件の詳細を説明するっす」
 ダンテは、たどたどしく資料のページをめくる。
「まずは……周辺の情報っすね」
 夜半過ぎということもあり、辺りは暗いが街灯の光があるので戦闘に支障はない。
 また、辺りに人気はなく、被害に合う女性が一人道を歩いている。
「次は、オークの情報っす」
 グスタフの部下たちは七体。背中から触手を生やしている。その風貌は いかにも雑魚っぽいが、戦闘力は通常のオークと変わらない。
 オークたちは『触手乱れ撃ち』、『触手締め』、『触手溶解液』を使用してくる。
「オークたちは非常に臆病っす。奴らはケルベロスを見つけたら、すぐに逃走を図るっす」
 ケルベロスの介入は、女性がオークに襲われた後です。あまり早く介入すると、オークたちは女性を襲うのを止め、逃亡を図ります。
 また、オークたちは戦闘が始まっても、隙を見つけ逃走を図るため、逃走を許さない作戦等が必要になる。


「女性のことしか頭にないオークたちを、皆さんのお力と工夫で一網打尽にして欲しいっす!!」


参加者
二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
ヒスイ・エレスチャル(空想のプリエール・e00604)
リスティ・アクアボトル(ファニーロジャー・e00938)
ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)
碧川・あいね(路地裏のヌシ・e16819)
四葉・リーフ(天真爛漫・e22439)
ブリュンヒルデ・マークザイン(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e26897)

■リプレイ


 辺りを警戒する集団。
 夜道を進むその集団は、コンビニの袋を持った女性を見つけ鼻息を荒くする。
 すぐに襲うことはできる。だが、そうしない。
 辺りを再度確認し、襲うのは人通りの少ない道に入ってから。
 慎重に、さらに慎重を期す。
 そして、その時が訪れる。
 無防備な女性にグスタフの配下のオークたち七体が襲いかかるのだった。


「な、何してるんですかっ」
 オークの触手が女性に触れた時、二羽・葵(地球人もどきの降魔拳士・e00282)の声が暗い夜道に響く。
 予期せぬ声に、オークたちは女性のことを忘れ振り返る。
 目に映ったのは、街灯に照らされた一人の女性の姿。オークたちは、そのセクシーな装いと、どこかぎこちない仕草に息を呑む。
 見たところ、武器はなし。仲間の姿もない。ただただ運が悪く居合わせただけだな。と、判断したオークたちは、葵の方へにじり寄る。
 その時――。
 一匹の猫が女性の足元に近づく。と、猫は人型――碧川・あいね(路地裏のヌシ・e16819)の姿に変わる。
「カントク、女性の避難頼むで」
 あいねがそう言うと、サーヴァントのカントクが怯える女性を連れ、後ろに退く。
 女性が逃げようとしていることに、いち早く気づいたオークが触手を伸ばす。
「縛って攫ってお持ち帰り、ってね」
 リスティ・アクアボトル(ファニーロジャー・e00938)は虚空に開いた穴から錨を放ち、錨はオークの触手を絡み取るとそのままオークの体を拘束する。
 錨に捉われる味方の姿に気付いたオークたちは、すぐさま逃げる姿勢をとると、駆け出し、目の前の葵の脇を抜ける。
 だが、それを妨げるように、ソラネ・ハクアサウロ(暴竜突撃・e03737)とヒスイ・エレスチャル(空想のプリエール・e00604)、四葉・リーフ(天真爛漫・e22439)が道を塞ぐ。
 突如現れた三人に、オークたちは足を止める。
「あら、こんな夜中に女性の相手ですか? ロマンチックですが、少々優しさに欠ける所が減点対象ですね」
 ソラネは、妖艶な表情を浮かべ言う。
 オークたちはすぐさま踵を返す。
 三人を相手取るよりも二人を相手取った方が、逃げるに易いというのはオークたちでもわかる。
 しかし、反対側とて然り。
 あいねとリスティに加え、三和・悠仁(憎悪の種・e00349)、ブリュンヒルデ・マークザイン(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e26897)が道を塞いでいる。
 逃げ場を失ったオークたちは、それでも逃げる場所を探す。
「やーい腰抜けー! 悔しかったらかかってこーい! お尻ぺんぺーん」
 挑発するように、お尻をたたくリーフ。
「女性を怖がらせるオークさんたちには、キツイお仕置きが必要です」
 ヒスイは、預かっていた武器を葵に手渡す。
 武器の受け渡しを見たオークたちは、やはり囮だったかと、今更ながら悔しそうな表情を浮かべる。
「命を惜しみ逃げる権利など、貴様らにはない……消え果てろ」
 物静かな普段とは異なり、少し言葉を荒げる悠仁。
「一匹たりとも逃がしやしない、さっさと片づけましょう」
 ゲシュタルトグレイブを構え、槍先をオークに向けるブリュンヒルデ。
「ほれほれ、逃げへんなら、もぉちょい見せたってもええんやけどな~」
 あいねはそう言い、露出が高い上着の胸元をさらにはだけさせる。
 逃げ場を失ったオークたちは触手を荒ぶらせ、ケルベロスたちと対峙するのだった。


 オークたちは、ケルベロスたちに向かい一斉に触手から粘々とする液体――触手溶解液を飛ばす。
 ケルベロスたちに溶解液を浴びせたオークたちは、ニヤニヤと下卑た笑みを向ける。
「所詮は駄豚ということですね」
 冷ややかな笑みを浮かべたブリュンヒルデは、表情とは違い全く笑っていない目でオークたちを見据えると、全身を光の粒子に変え、オークに突撃する。
「皆さんをお守りしますぅ」
 ソラネは大量のドローンを放ち、ドローンに仲間を守護させ、これで守りは十分と、オークたちに向かい駆ける。
「チビ、みんなのこと頼んだ。私は――」
 サーヴァントのチビにそう言うと、リーフは身構えるオークたちに突っ込み、女性の苦しみを思いしれー、と暴風を伴う回し蹴りをオークたちに放つ。
 守りを崩されたオークに、ヒスイが柔和な笑みを浮かべ肉薄し、惨殺ナイフの刃をジグザグに変形させその体を斬り裂く。
 斬撃に、悲痛な叫びを上げるオーク。
「南無八幡大菩薩、その他諸々の神さん、願わくはあの敵のどてっぱらに風穴を開けさせ給え…ってな!!」
 あいねは、照準をオークの腹に合わせ、バスターライフルを撃つ。その射撃は精確でオークの腹を貫くと、オークの腹に大きな風穴をあけオークを葬る。
 仲間の死を見た一体のオークが、ケルベロスたちの囲いを破るべく駆ける。オークは目の前に立つ悠仁に、わなわなと動く触手の先端を鋭利に尖らせ放つ。
「逃げられると思っているんでしょうか?」
 悠仁は、身を翻し触手を躱すと、炎を纏った苛烈な蹴りをオークの顔面に見舞い、囲いの中に押し戻す。
 すぐさま態勢を整えたオークは、再度突破を図ろうとする。オークは鋭利に尖らせた触手を、邪魔する奴を確実に貫くべく、先ほどよりもさらに精確に操る。
 リスティがオーク目掛け、目にも止まらぬ速さで弾丸を撃ち出す。弾丸は触手の先端を撃ち抜き、オークは触手の制御を失う。
 高々と舞い上がった葵が、頭上からオークの脳天目掛け重量ある剣――鉄塊剣を振り下ろす。
 鉄塊剣を触手で防ごうとするオークだが、触手はリスティにより撃ち抜かれ、精細を欠いており鉄塊剣を防ぐことはできず、両断されるのだった。


 残り五体となったオークたち。オークたちの体には浅くない傷が刻まれ、無傷なものは一体もいない。
 オークたちは顔を見合わせ、お互いの意思を確認する。
 敵がいなければ無敵で絶倫。それが売りのグスタフの部下であるオークたちにとって、敵が居て、さらに襲うはずだった女性もいない。
 そんな場所に長居する必要はない。それに死ぬのは嫌だ。
 オークたちの逃げる素振りに、いち早く気づいたヒスイが声を上げる。
「オークが逃げようとしています、警戒をお願いします!!」
 ヒスイの瞳から乳白色の光が零れる。その光は眩い翡翠色の輝きとなり、雷を纏う。
「悪戯が過ぎましたね。夢を見るのはお仕舞にしましょう」
 翡翠色の光は嘶きながら、オークを襲い、その醜い体を雷が焼く。
 雷により体の自由を奪われたオークに、
「これで終いや」
 あいねはガトリングガンを連射し、オークの体を蜂の巣にする。
「なんだ、逃げちまうのかい? 豚の癖にとんだチキンもいたもんだ。こんなに良い女が勢揃いだってのにさ」
 挑発するように、上目遣いで胸元をチラッと見せるリスティ。一体のオークが思わず足を止める。性欲――純然たる欲望に抗えなかったのだ。
 足を止めたオークが見たもの胸元ではなく、リスティの惨殺ナイフに宿された忘れ去りたい記憶。
「力を寄越せ、この想いを果たす為に。傷を寄越せ、この想いを忘れぬために。罪を寄越せ、この想いを背負う為に」
 凝血剣ザレンに地獄の炎を纏わせる。地獄の炎は竜の――黒竜の姿へと形を変え動きが止まったオークの体を噛み砕き、傷口からオークの体内を焼き尽くす。と同時に、痛ッ、と顔を歪ませる悠仁。その手も黒く焼け焦げていた。
 オークはソラネを振り切るべく、触手を遮二無二に振るう。
「ふふふ、その触手、血走った目、荒い鼻息……こんな場でなければ、相手をして差し上げたかも知れませんね?」
 ソラネは、うっとりとした表情で囁く。それに興奮したオークは、触手をさらに振るう。
 しかし、大振りとなった触手はソラネを捉えられない。
「チャージ完了、全門開放! 撃ちます!」
 飛び退いたソラネは、全武装を展開し一斉射を放つ。触手を使い、さらには回避行動をとるオークだが、それらはオークを追尾し逃がすことなく、オークを絶命させる。
 一斉射の反動により、動きが止まるソラネ。お返しとばかりに、一体のオークが迫る。
 触手が振り下ろされる瞬間――。
「やらせません」
 間に割って入った葵が、鉄塊剣で触手を受け態勢を崩しながらも横薙ぎに振るう。
 距離を取るオーク。
 ふらつき、前屈みとなった葵。胸元がチラッと見え、オークは鼻息を荒くし、触手の先を尖らせ迫る。
「いっけぇぇーっ!」
 突っ込んでくるオークに、正面から立ち向かう葵。鉄塊剣が触手よりも早くオークの体を捉える。が、オークは触手で鉄塊剣を弾き飛ばす。
 それでもお構いなく、オーラを纏った拳でオークの鼻っ柱に拳を叩き込む。
 最後の一体となったオークは、仲間の屍に目もくれず逃げる。
 その姿を見たブリュンヒルデは、
「永遠に覚めない悪夢の世界に入ってください」
 と呟くと、ゲシュタルトグレイブに氷のグラビティを纏わせる。
 突如迫るブリュンヒルデに、オークは触手から溶解液を放つ。溶解液は、ブリュンヒルデを捉えるが、それでも勢いは落ちない。
「凍てつけ、我が名の元に凍土の刃よ、汝の敵に災いを為せ」
 ゲシュタルトグレイブに貫かれたオークの体が凍り付く。
 体が氷に覆われながらも、逃げようとするオーク。その前に立ち塞がったのは、リーフ。
「我が奥義を受けてみろー!!」
 リーフがオークに拳を振るう。オークの目には、それは一発のパンチとしか映らなかった。しかし、オークの体を覆っていた氷が砕け無数の拳の痕が刻まれる。
 そして、最後オークは、血反吐を吐き、その場に倒れるのだった。


 オークたちとの戦闘を終えたケルベロスたちは、小休止を取っていた。
「辺りの修繕をお願いしますぅ」
 ソラネはそう言い、大量のドローンを辺りに飛ばし、戦闘で破壊された壁や街灯の修繕にあたる。
「異常なしです」
 屋根の上に登ったヒスイは、辺りに敵の姿がないかを確認し、屋根から飛び降りる。
「もう大丈夫だぞー」
 リーフは、オークに襲われた恐怖から、小さくなる女性に声を掛け励ます。
 その隣で、
「カントク、ご苦労やったな」
 あいねは、女性を避難させていたサーヴァントのカントクを労う。
「うぅ、恥しいです」
 葵は、今更ながら着慣れないセクシーな服に顔を赤くし、早く服を着たいと身もだえする。
「ったく、オークってだけでも救えないのに度胸すらないなんてね。見苦しいにもほどがあるってもんさ」
 オークの屍を見ながら、リスティが吐き捨てるように言い、同様に悠仁も、
「相手にするなら、こういう奴、分かり易い下種である方がいい」
 と、より強く、より深く、デウスエクスに対する憎悪を己のうちに刻み込む。
 襲われていた女性も帰路につき、辺りの修繕を終えたケルベロスたちも解散することになる。
「口直しにご飯でも食べに行きませんか?」
 と、ブリュンヒルデは満面の笑みで、一緒に戦った仲間たちをご飯に誘うのだった。

作者:缶屋 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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