終わりの桜

作者:陸野蛍

●色取り取りの略奪者
 偶然通りかかる様な人間も居ない深夜の運動公園に5人の色取り取りの鎧を着た戦士達は現れた。
「任務、任務、任務。私達が人間襲った方が絶対早い気するんだけどな~」
 桃色の鎧を着た女戦士は、あどけない顔で物騒な言葉を口にする。
「スターローズ、お前の言いたいことも分かるが、任務を与えられた以上仕方ないだろう? ケルベロスが俺達の前に出てきたら刈り取ってもいいんだろうが。あると思うかスターブルー?」
「自分達の力量を計れる知能がケルベロス達にあれば無いだろうな。分かった上で仕掛けて来るなら、無謀な愚か者と言うことだろう。そんなことより、スターローズ。オーズの種は?」
 黒い鎧の戦士に問われた、青の戦士は顔色も変えず答えると、桃色の戦士に目的の物の在処を尋ねる。
「はいはーい。ここだねー。面倒くさいから早く終わらせちゃお、スタールージュ」
「了解だ、スターローズ。皆! グラビティ・チェイン注入開始! スタージョーヌ、頼んだぞ! グラビティスタンバイ! 」
 急かす様な桃色の戦士の声に、ハッキリと答えると、赤色の戦士は自らのグラビティ・チェインを高めて行く。
 それぞれの戦士が高めたグラビティ・チェインは輝きとなって黄色の戦士のバズーカへと吸い込まれていく。
「ほな、いきまっせー。どんな攻性植物なんかなー」
 のんびりとした黄色の戦士のバズーカ砲から五色のグラビティが混ざり合いながら発射されると、着弾点から小さな芽が現れ、見る見るうちに巨大な幹となり、ピンク色の花を咲かせた巨大な攻性植物へと成長した。

●4月終わりの依頼
「みんなー、お仕事の説明するぞー! 急いで集合!」
 大淀・雄大(オラトリオのヘリオライダー・en0056)は、ヘリポートに姿を現すと、ヘリポート中に響く程の大声でケルベロス達に呼びかけた。
「最近動きが活発な、アルカンシェルがまた現れた。アルカンシェルの目的は変わらず、かすみがうらから市から飛び散った、オーズの種の回収みたいだ。地下に眠るオーズの種の場所を何らかの方法で特定し、グラビティ・チェインを注ぐことで急成長させ、巨大な攻性植物に育ったモノからオーズの種の部分を奪い取る。……まだ、この作戦の意図は分かって無いんだけどな」
 口惜しげな表情で頭を掻く雄大。
「オーズの種を奪えば、アルカンシェルはすぐに姿を消すけど、その場には7m程にまで育った大型の功性植物が残される。この攻性植物を放っておくと、奪われたオーズの種の分のグラビティ・チェインを補おうと、市街地に出て一般人を虐殺してしまう。みんなには、この攻性植物の撃破をお願いしたい」
 巨大攻性植物が、市街地へ出ると言うのは、空腹の猛獣が街へ放たれるよりもタチが悪いと言ってもいい。
「巨大攻性植物は、中枢のオーズの種を奪われる為、耐久力が下がるから、どうにか倒せる相手になるけど、元はオーズの種を内包していた個体になる。戦闘力は並の功性植物より全然強いから、大打撃を受けて戦線が崩壊する前に、確実に撃破して欲しい」
 撃破失敗時の、市街地の被害を想像すれば絶対に撃破しなければならない。
「今回みんなに撃破してもらいたい攻性植物の概要行くな。攻性植物のベースとなっている植物は、桜だ。もうすぐ5月だって言うのに、俺の予知だと綺麗なピンク色の花を満開にして現れるみたいだな」
 7m級の満開の桜……想像すれば美しいが、攻性植物となった時点で、危険なモノなのは間違いない。
「巨大攻性植物『サクラ』は、オーズの種の力で7m程まで巨大化し、攻性植物としての戦闘力、凶暴性が格段に増している。アルカンシェルにオーズの種を奪われた後は、HPが下がっているから、『サクラ』がグラビティ・チェインの補給をする前に倒してくれ」
 アルカンシェルを目の前で逃すことになるが、アルカンシェルの目的、そして実力が分からない以上、防げる悲劇を確実に防ぐことの方が優先だ。
「『サクラ』の攻撃方法は、根を触手の様に使う捕縛攻撃、同じく根を鞭の様に使った薙ぎ払い、最後にその枝いっぱいに咲いている桜の花びらにグラビティを込めて桜吹雪とする広範囲攻撃の3つだ」
 オーズの種を奪われても攻撃力は下がらない為、一撃一撃が脅威の威力になるとのことだ。
「アルカンシェルが何の目的でオーズの種を回収しているかは分からないけど、今は様子を見るしかない。一体のエインヘリアルでも十分強いのに、それが5人で……おそらく連携も出来る部隊だと思う。アルカンシェルに関しては、チャンスを待つしかないけど、攻性植物だけは街の人達の為に何としても撃破してくれ。……それに桜の時期も終わりだろ? この桜もちゃんと散らせてやって欲しい。……頼むな」
 雄大は、最後に優しい口調でケルベロス達に思いを託すのだった。


参加者
珠弥・久繁(病葉の刃・e00614)
トリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)
戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)
ドミニク・ジェナー(狂騒ガンブレイズ・e14679)
ルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890)
花守・蒼志(月籠・e14916)
フィニリオン・グランシア(春霞抱擁・e18426)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)

■リプレイ

●桜芽吹く
 深夜の運動公園に突如現れた5人のエインヘリアル『アルカンシェル』。
 彼等は、グラビティ・チェインを高めると黄色の戦士のバズーカに集め、黄色の戦士がそれを地面に向けて発射させる。
 その様子を、8人のケルベロス達は『アルカンシェル』に気付かれない様に物陰に隠れて、観察していた。
 ただ、静かに彼等が去るのを待っていた。
「アルカンシェルに接触出来ないのは、歯痒いですけれど……今は気を熟すのを待つしか、ありませんね」
 口惜しそうに、今回唯一の女性、フィニリオン・グランシア(春霞抱擁・e18426)が言って、相棒のウイングキャットのシーヴルをギュッと抱きしめる。
 それは、全員に共通する思いだったが、『アルカンシェル』には謎が多過ぎた。今、手を出すのは、得策ではないだろう。
「今は無理でも、何をしているか暴き倒して俺が……殺す」
 そう言う、珠弥・久繁(病葉の刃・e00614)の蒼い瞳には強い決意があった。機会が来れば必ず、倒してみせると言う意志だ。
「皆さん、『サクラ』が出てきましたよ。『アルカンシェル』も動く様です」
 無骨な大男と言った風体の、トリスタン・ブラッグ(ラスティウェッジ・e01246)が、攻性植物の発芽を皆に知らせる。
『サクラ』は、ケルベロス達が見ている前で、急成長し苗木を通り越して、ご神木と言わんばかりの大きさの幹を成し、枝には満開のピンク色の花びらを付ける。
 だが、アルカンシェルはそんなことには、興味無いのか、青の戦士が超スピードで動いたかと思うと、その手の刃で攻性植物を切りつけ、オーズの種を露出させると奪い取る。
 そして、用は済んだとばかりに、オーズの種を失い苦しむ攻性植物に目もくれず、闇の中へと去っていく。
「よし、もう大丈夫そうじゃのォ。ワシらの出番じゃ」
 独特の言葉遣いで、ドミニク・ジェナー(狂騒ガンブレイズ・e14679)が仲間達に言うと、皆頷き、攻性植物の前まで駆けだす。
「さァて、今年最後の花見になンのかのォ。弁当も酒もねェが、代わりに弾ならたァんとあるけェ……遠慮せンで、好きなだけ喰らいなァ」
 ドミニクが愛用のリボルバー銃を手に攻性植物に宣戦布告する。
「面倒な置き土産しやがって。育てるんなら全部回収して行けっての」
 そう言うのは、待機していた時から唐揚げを口にしていた、戯・久遠(紫唐揚羽師団のヤブ医者・e02253)だ。
「さて、そんじゃお仕事お仕事っと」
 久遠は、最後の唐揚げを飲み込むと、ゆっくりと眼鏡を外す。
 全てを殲滅する医師としてのスイッチが入る。
「桜の下には死体が……なんて話もありますが、自ら死体を量産する桜とは勘弁願いたいものですね。これ程立派なものとなると、少々勿体ない気もしますが……血染めの桜となる前に、片を付けてしまいましょう」
 ルイ・カナル(蒼黒の護り手・e14890)は、そう言うと、二本のゾディアックソードを抜くと、攻性植物に駆けだした。
『サクラ』は飢えた獣の様な殺意がこもった意志を持って、桜の花びらを揺らし始めた。

●桜舞う
「7mの桜って、本当ならとても見応えのあるものなんでしょうけど、こうなってしまっては仕方ないですね。アルカンシェルの目的は分からないけど……まずはこの桜を鎮めてあげないと」
 そう言って、花守・蒼志(月籠・e14916)が紙幣をばら撒き仲間達に加護を与える。
「鈴蘭、皆さんを守るんだよ」
 蒼志がそう言うと、ボクスドラゴンの鈴蘭は攻性植物へと駆けていく。
「桜の美しさは、潔く散るその姿にあるもの。歪んだ形とは言え、絢爛と咲き誇るのを断つのは憚られますが――容赦はしませぬ」
 神妙な面持ちでそう言うと、尾神・秋津彦(走狗・e18742)は獣の様な俊敏さで、流星の軌跡を描く蹴りを、攻性植物の巨大な幹に決める。
「奴らの企みの残滓だけでも処理しよう」
 言って、久繁が自らの腕をドリルの様に回転させグラビティを込めた一撃として、攻性植物にダメージを与える。
「これだけ大きいと、逆に闘志が湧いてきますね」
 そう言って、その手の縛霊手を幹にめり込ませる、トリスタン。
(「俺に敵意を持って下さいよ。皆さんを護る為に俺が居るんですから!」)
 トリスタンは強い意志を持って、挑発するように攻撃的意志を乗せたグラビティ・チェインを高める。
 その時、攻性植物が花弁にグラビティ・チェインをこめ桜吹雪にしてケルベロス達を襲う。
 その、文字通り吹雪の様な桜色の攻撃は過半数のケルベロス達を巻き込む。
「回復は、俺の仕事だからな」
 自らも攻撃を受けつつ、久遠が癒しの雨を降らす。
 そんな中、桜吹雪を見切ったドミニクが言葉無く、リボルバー銃を構えると掌でハンマーを起こしながら超高速で連射するが、響く銃声は一度のみ。
 シングルアクションならではの、ファニングショットだ。
「……どんどん、風穴空けたるからのォ」
 口調は変わらずとも、ドミニクの瞳は獲物を仕留めるガンナーのものになっていた。
「本当の桜が散った後に咲くそれは、きっと……多くの方を惹き付けると思います。人々を守る為に、ごめんなさい……散らせないといけませんね」
 フィニリオンはそう言って、爆破スイッチを持つ手を握りしめ、オーラを高めると圧縮して撃ち出す。
 攻撃を受けた攻性植物から散る桜の花びらは美しく、見惚れそうになってしまうが、フィニリオンはすぐに首を振ってケルベロスの顔になる。
「護る為に頑張ろうね、ジーヴル」
 言葉を受けたジーヴルもすぐに、聖なる翼をはためかせる。
「枝をいくら斬り落としても、意味が無いんでしょうね。ならば、本体を斬らせて頂きますよ」
 確認するように言いながら、ルイが二本の剣で十字の軌跡を描く。
 息つく暇も無い様なケルベロス達の攻撃は、確実に攻性植物にダメージを与えていたが、不意に攻性植物の根が動き、前に居た、秋津彦、ルイ、フィニリオン、トリスタン、鈴蘭を襲う。
 その一撃は、複数を狙ったとは思えない程の威力で、受けた者達は地面に倒れ伏す。
 だが、ただ一人、ルイだけはトリスタンの大きな身体に庇われ、ダメージを免れていた。
「ブラッグさん! 大丈夫ですか?」
 ルイが己を覆う大きな身体の主に呼びかける。
「……これくらい平気です。護る為に俺が居るんですから」
 トリスタンが鮮血を流しながらも力強く言う。
「目の前で傾く天秤を少しでも止めたいから。命の秤に自身を預けられる」
 蒼志が言葉を紡ぐと、蒼志のグラビティ・チェインから作られた複製腕が仲間達を施術治療していく。
 その施術は、魔力も帯び仲間達に更なる力を与える。
「回復は任せてください! 俺が倒れない限り、誰にも怪我はさせませんから!」
 後ろを護る者としての力強い意志。
 蒼志が居るなら、倒れはしないと仲間達は思う。
「俺も居るから、安心してダメージ受けてくれ」
 久遠も飄々と言うが、彼の眼にも医師として皆を救う気概が満ちていた。

●桜散る
「世界を包め、夜明けの如く」
 久繁は、掌に溜めた雷光を魔術回路を利用して攻性植物に一気に叩きつける。
(「キミが犠牲者なことは解っているが、キミが悲劇を作る前に俺が悲劇を持って終わらせる」)
 雷光を打ちすえながらも、久繁の心は桜に対しての慈悲があった。
「太刀で丸太切りした事はありますが、これほどの偉容に刃が立つか否か――。 否、一度には無理でも、繰り返し打ち込めば断ち切れますな。示現流の懸り稽古に倣うであります!」
 刀に月光を浴びせながら秋津彦が横一文字に刀を振るう。
「ワシのチェインよ! 牙となれィ!」
 黒鎖を猟犬の牙としながら、ドミニクは、一つの疑問を持っていた。
(「今回は、攻性植物と戦っても頭痛がせんのォ。この前の白木蓮と戦った時のは、何だったんじゃろォ?」)
「ドミニクさん!」
 蒼志の叫びが聞こえると、思考の中に居たドミニクを攻性植物の根が捕縛するように襲った。
 すぐに、蒼志のヒールグラビティが飛んで来た為、大事にはならなかったが、ドミニクは首を振る。
(「今は戦闘中じゃった。余計な事考えたらアカンなァ」)
 意識を切り替えドミニクは、リボルバー銃のグリップを握り直す。
「一時的にでも動きを止める」
 久遠は叫ぶと、体内で陽の気を高めていく。
「陽を巡らせ陰を正す……万象流転」
 久遠から放たれた気は、攻性植物のグラビティ・チェインの流れを一時的に止める。
 その隙に、シーヴルのリングが飛び、続く様にフィニリオンが攻性植物との距離を詰める。
「あなたに罪は無いけれど、あなたを外に出す訳にはいかないのです!」
 繰り出された斬撃はフィニリオンの想いを乗せて、攻性植物にダメージを与える。
「まだまだ!」
 トリスタンの声が低く響けば、幹をも凍らせる一撃が攻性植物を襲った。
「氷の次は燃やさせて頂きますよ」
 身体を回転させながら。ルイが炎を纏った右足を攻性植物に叩きつける。
 攻性植物に攻撃の隙を与えない様に、眠りに早くつかせてやれる様に、雷を纏った久繁の槍が、ドミニクの銃弾が、フィニリオンの斬撃が、秋津彦の一刀が、トリスタンの刃の如き蹴りが、連続で決まっていくと、攻性植物の攻撃に勢いが無くなっていく。
「そろそろ、終わらせましょう。――蒼き祈りは蒼黒の意志。この身に宿す魔力を以って、その意志貫かせて頂きましょう」
 ルイの剣に守護と幸運を司る勾玉によって練り上げられた魔力が宿っていく。
 その力は膨大なエネルギーとなって、ルイが振るった剣の威力を上げた。
(「――さよならでありますな」)
 心の中で呟くと、秋津彦は太刀を構え攻性植物に急接近する。
「斬り抜けますぞ――文字通り」
 声すらも、あとから聞こえる程の駿足の動きで刀を閃かせ、秋津彦は、攻性植物の真後ろに立っていた。
 秋津彦が刀を『スチャン』と治めると同時に、攻性植物『サクラ』は桜の花びらを散らせながら倒れたのだった。

●桜の時期は終わりて
「この夜闇では、アルカンシェルが何か残していたとしても分かりませんね」
 公園内をチェックしていたルイが仲間達に報告しに戻ると、鈴蘭がルイに怪我が無いのを確認するように飛んで回る。
「おや……ありがとうございます、私は大丈夫ですよ。鈴蘭さんは大丈夫ですか?」
「キュー♪」
 ルイの問いかけに嬉しそうに答える鈴蘭。
「鈴蘭は、ルイさんが大好きですね。それにしても、アルカンシェルに関しては、また調査しないとダメみたいですね」
 頬笑みを湛えながら言う蒼志。
「今日の所は、ヒールが終わり次第、帰るしかないみたいじゃのォ」
 公園にヒールをかけていた、ドミニクが言う。
「もう出て来ねえよな?」
 既に眼鏡をかけ直している、久遠が確認するように聞く。
「その心配は無いと思うよ。いずれ、アルカンシェルと決着はつけないといけないけどね」
 強い決意を持って、久繁が呟く。
 攻性植物を調べていたトリスタンも首を振って戻って来る。
「オーズの種があったと思われる周辺をごっそり持って行かれていて、手掛かりは何も無さそうです」
 やはり、何かを知るには、アルカンシェルと直接接触するしかないのかもしれないが、現時点では難しいだろう。
 フィニリオンは死した功性植物の桜の傍で膝を付け桜の花びらを集めていた。
「山では沢山の草花が、四季の巡りのまま散り、そしてまた咲くであります。……また来年」
 そんなフィニリオンの側で桜を見ながら、秋津彦が桜に別れを告げる。
(「来年もまた会える桜だったら良かったのに……」)
 この桜はもう生き返らない、それがフィニリオンは素直に悲しかった。
(「せめて……」)
 フィニリオンは桜の花びらを風に乗せた。
 春色の桜の花びらが夜の闇に溶けてどこか遠くへ飛んで行くのをフィニリオンは、優しい瞳で見つめ続けた。
 せめて今だけは自由にと……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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