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はぁ、と重たい溜息が深夜の公園に響く。
「ほんっと……いつになったら終わるのかしらこの任務……」
神奈川県相模原市にある大きな公園でオーズの種を探しながらスターローズは再度ため息を付いた。
「まぁ、地味な作業だってのは認めるけどね……これも大事なことだから」
頑張ろう、というスターブルーの声に頷くとローズは首を垂れる。
「あー、早く戦いたいわ」
「我慢しろ」
彼女の声にスターノワールが冷たく答える。
あたりを見回せば広い芝生広場が広がっており、身長が3メートルある彼らでもそこそこの広さだと感じるほどだ。
ちまちました作業は苦手だといいながらもやらなければ終わらない。
仕方なしに再び地面に視線を落とせばスタールージュの声が聞こえた。
「あったぞ」
その声に顔を上げれば彼の手には目的のオーズの種。
これが見つかれば後はいつもの流れ。
「グラビティ・チェインの注入を開始する」
ルージュの声をきっかけに5人はグラビティを高めていく。
鎧が輝いたかと思うとその輝きはスタージョーヌのバズーカの中に吸い込まれていった。
「……ほな、いきまっせ。……どっかーん!」
言葉とともに発射されたバズーカは綺麗に整備されていた芝生を削り、そしてそこからは巨大な攻性植物が姿を現したのだった。
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「お集まりいただきありがとうございます」
ヘリポートに集まったケルベロスを前に千々和・尚樹(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0132)は頭を下げる。
「かすみがうら市からオーズの種が飛び散ったのはご存知かと思います。そのオーズの種をエインヘリアルの部隊が回収して回っています」
5人組のエインヘリアルはどんな方法かはわからないが地下に眠るオーズの種の場所を特定し、大量のグラビティ・チェインを与えて強制的に発芽をさせてまわっているらしい。
発芽したオーズの種は大型の攻性植物となるのだが、その発芽直後に『オーズの種の部分』をそのエインヘリアルたちが回収してしまうのだという。
「オーズの種を回収した後、エインヘリアルはその場から撤退するのですが、攻性植物は奪われたオーズの種の分のグラビティ・チェインを回復させようと市街地を目指してしまうのです」
攻性植物は攻撃力は高いものの、中枢となるオーズの種を奪われている状態なので耐久力が低い。
グラビティ・チェインを補給する前に戦うことができれば勝機は十分にあるだろう。
「攻性植物は赤く、ハエトリグサに似た外見をしています」
赤く巨大なハエトリグサは防御力はないものの攻撃力は元のまま。
「本来のハエトリグサは獲物が口の中に入るまで待っていますが、こちらは自ら獲物を捕らえにいきます」
攻撃方法は獲物を捕らえて捕食し体力を奪うもの、全体重をかける体当たり、消化液をまき散らして複数人を攻撃する方法があるという。
捕食にはドレイン、体当たりにはブレイク、消化液のまき散らしには服破りの効果がついているらしい。
「そして大事なことなのですが……エインヘリアルたちが撤退した後に現場に着くようにしてください」
彼らがオーズの種を回収している理由はわからないが、何の作戦もなくエインヘリアルたちと戦うのは自殺行為に近い。
「では、よろしくお願いします」
そういって尚樹は再度頭を下げたのだった。
参加者 | |
---|---|
武田・克己(雷凰・e02613) |
東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771) |
山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592) |
レイナ・デモダイシン(フォレスチズム・e14316) |
リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077) |
獅子鳥・狼猿(世界に笑顔を・e16404) |
メッシュ・アルバーン(ロリコンポンコツルンフォ・e18130) |
エルルーン・レギンレイヴ(フレイヤの涙・e24681) |
●それぞれの想い
薄暗い深夜の公園で、ケルベロスたちは静かに息をひそめてタイミングを窺っていた。
今ごろ芝生広場では、アルカンシェルがオーズの種にグラビティを注ぎ込んでいる所だろう。
近くに強敵がいるという事実にどくどくと脈打つ心臓を落ち着けようと、東雲・苺(ドワーフの自宅警備員・e03771)は静かに息を吐く。
1人だけでも厄介なエインヘリアルが5人もいるのだ。
万が一見つかって戦闘になってしまえばこちらの不利は目に見えている。
苺の隣ではレイナ・デモダイシン(フォレスチズム・e14316)が彼女とは別の意味のため息をついていた。
「本当に迷惑なやつらね」
無理にオーズの種を発芽させた上に、それを奪ってあとは放置だというのだから本当に始末が悪い。
元であるアルカンシェルの行為をどうにかしなければこの事件は収まらないが、放置される攻性植物をそのままにはしておけない。
彼女の声に同意するのはリュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)。
「市街地に被害をださないよう、きっちり倒してしまいましょう」
事前に公園内を見て回ったが深夜ということもあり、この辺りには人影は見当たらず、一般人を巻き込むことはないだろう。
後は残された攻性植物が市街地に繰り出す前に倒す。
それが今回の任務だった。
「アルカンシェルがオーズの種を集めて何をする気なのかは気になるが……まずは目の前の敵からだな」
武田・克己(雷凰・e02613)はそう言うと愛用の日本刀、直刀・覇龍を握りなおす。
その声に同意するのはメッシュ・アルバーン(ロリコンポンコツルンフォ・e18130)だ。
「ええ……早期撃破をめざしましょう」
彼らの会話を聞きながら、エルルーン・レギンレイヴ(フレイヤの涙・e24681)はじっと芝生広場の方角を見つめていた。
戦いは嫌いだが、ヴァルキュリアである彼女は母とでもいうべき存在、ヴァナディースの力を彼らに悪用させたくはなかった。
彼女と共にオーズの種の事件を考察していた山彦・ほしこ(山彦のメモリーズの黄色い方・e13592)はアルカンシェルの動向にむっと眉を寄せていた。
「街に種を撒いてきた奴らとはまた別の目論見がありそうだべ」
何が目的なのか、誰の指示なのか……いろいろ確かめたいことはある。
直接聞いてしまいが、そう素直に答えてくれるとは思えない。
「星霊戦隊アルカンシェル……ついにその姿を現したのか」
神妙な面持ちでそう呟いたのは獅子鳥・狼猿(世界に笑顔を・e16404)。
自身の宿敵である彼らとはいずれ戦うこととなるだろう。
(「だが、今はその時ではない……」)
宿敵である彼らとの因縁に想いを馳せようとした瞬間、どんと芝生広場の方角から音が聞こえた。
恐らくオーズの種が発芽したのだろう。
ケルベロスたちは互いに頷き合うと、芝生広場へと向かったのだった。
●赤き龍
駆け付けた芝生広場にはすでにアルカンシェルの姿はなかった。
これは予定通りのこと。
そして彼らの代わりに居たのは、赤い巨大なハエトリグサ。
7メートルはあろうかというそのハエトリグサは市街地に向かおうとしていたのだろう、しかしケルベロスたちの気配を感じ取ると迷わずこちらを振り向き、そして大きく口を開けた。
オーズの種を奪われたハエトリグサが欲しているのはグラビティ・チェイン。
その大きな口に狙われた狼猿を庇い、レイナがハエトリグサの口の中へと躍り出る。
「っ……!!」
覚悟はしていたものの予想以上の痛みにレイナの顔が歪んだ。
いくつもの突起が彼女の体に突き刺さり、じくじくと力が吸われていくのがわかる。
それを助け出そうとほしこの唇が歌を紡ぐ。
「急いて 泊まらず! エド夢羅ワールドスクウェアリング 来てよ バブルよ もういちど! 奇岩の川の 玉手箱☆」
ほしこの口から零れたメロディーは形を変えて切り立った岩となってハエトリグサに飛んでいくが、それは思った以上に素早い動きで回避される。
その岩に囲まれて逃げ場を失ったハエトリグサに迫るのは苺とボクスドラゴンのマカロンだ。
「せーのっ!」
マカロンがブレスを吐いてさらに逃げ場をなくしてやれば、苺が体を高速で回転させて突撃していく。
葉を叩く鈍い音がしてがぱりとハエトリグサの口が開けば、その口からレイナの体が解放された。
そのレイナに向けてメッシュが霊力を帯びた紙兵を飛ばせば、リュティスのウイングキャット……シーリーも翼を羽ばたかせて傷の癒しを手伝った。
のそりと動き出そうとした赤い草を食い止めたのはリュティスとエルルーン。
「参ります」
「屍山血河を築いてなお、飽く事無き狂戦の暴竜よ……汝、酒池肉林の狂宴に眠れ! ドシュラゴン!!」
リュティスがナイフが鏡像を映し出して具現化させれば、エルルーンの呪歌が大量の酒をハエトリグサの上から降らせる。
防御力は削がれているとはいえ、攻撃力は先ほどのレイナを見てもわかる通り一切衰えていない。
敵の動きを制限しておくに越したことはないだろう。
すらりと日本刀を引き抜いた克己は体勢を立て直そうとしているハエトリグサを見つめ、ふっと息を吐き出した。
「さて、後始末をするみたいで良い気分じゃねぇが、暴れさせて貰おうか」
克己はそう言うと日本刀の切っ先をハエトリグサにまっすぐに向け、力強く地を蹴った。
「全速でぶつけるのみ!!」
雷を帯びた神速の突きが幹を貫く。
そこへ突き出されるのは稲妻を帯びたレイナの槍。
「さっきの攻撃……お返しするわ」
ばりばりとした音が響き、2人の攻撃はハエトリグサの体に痺れを残す。
痺れが残ったままの赤い体に向かい、狼猿は力ある言葉を紡いでいた。
「まもなく戦場を牛が通過します。危ないですからデウスエクスは牛の通過線上に、ケルベロスは黄色い線の後ろまでお下がりください」
遠くから地響きが聞こえたかと思うと現れたのは400頭のバッファロー。
黒い炎と、何故かアフロを纏ったそれはハエトリグサを蹂躙し去っていく。
遠慮なく踏みつけられ無数の蹄の痕をつけたハエトリグサはゆっくりと起き上がり、その口から消化液を吐き出したのだった。
●散り際
幾度目かの攻防でハエトリグサはぼろぼろになりつつあった。
しかしケルベロスたちとて無傷というわけにはいかない。
さすがに攻撃力が高いと言われていただけのことはあり、主人を庇って捕食されたレイナのビハインド……ヒノトは先ほど戦場から姿を消した。
動きを制限してはいるものの、元の体力、そして攻撃力は強敵と言って差し支えないものであった。
攻撃と己の体力回復を同時に行おうと、ほしこは愛用の惨殺ナイフ……山彦のシャーマニックマイク・刃をハエトリグサに突き立てる。
「簡単にはやられねぇべ」
びしゃりとかかったハエトリグサの体液から体力を奪うが息は上がったままだ。
それほどにはほしこもダメージを負っていた。
消化液でぼろぼろになったスーツの袖をメッシュは戸惑いなく破り捨てる。
腕に絡まり動きを制限されるくらいならば、ないほうが動きやすい。
メッシュは動かしやすくなった左手で傷だらけの幹を掴むと力ある言葉を紡ぐ。
「己が定めと諦めな」
左腕から炎が噴き出てハエトリグサの全体に回れば、エルルーンのアームドフォートから主砲が撃ち放たれ、葉の一部を抉っていった。
「あと少しみたいですよぉ~」
エルルーンの声にハエトリグサを見れば、先ほどよりも動きが鈍くなっているように見える。
よろよろと体を動かすハエトリグサが体勢を整える前にと克己が動く。
「踏み込みの速さなら負けん!!」
日本刀が閃き葉の抉れた部分を的確に切り広げれば、その傷口にシーリーも爪を立てた。
その隙にリュティスが風を吹かせ、レイナが周りの植物たちに語りかける。
「少しはお役に立てるでしょうか?」
「大いなる森たちよ、私たちに癒しの力を!」
公園の木々たちはレイナの声を聞き届け、前衛のメンバーの傷を少しずつではあるが癒していった。
しかし全快には程遠い。
自身の体力を確認した狼猿は回復ではなく攻撃を選択する。
「はっ!」
狼猿の太い足がハエトリグサの根元に素早い蹴りをお見舞いすれば、ハエトリグサは軋んだような音を立てながらだらだらと消化液をまき散らし始めた。
とめどなく溢れる消化液の雨がケルベロスたちに降り注ぐ。
「!!」
じゅわじゅわと耳障りな音を立てて地面が溶け、メッシュとほしこを庇ったボクスドラゴンのマカロンとウィングキャットのシーリーが姿を消す。
その姿を視界の端で捕らえながらも苺は決してハエトリグサから視線を逸らせはしなかった。
「これで終わりにしようね」
大地をも裂くほどの威力を備えた苺の拳とほしこが喚び出した御業の炎弾がハエトリグサの葉に向かう。
苺の拳がハエトリグサの葉を粉々に粉砕し飛び散る赤い欠片が飛び散れば、残った茎の部分を炎弾が焼いていく。
ハエトリグサは啼き声とも軋む音ともつかぬ音を響かせたかと思うと、重たい音を立ててその場にゆっくりと崩れ落ちる。
炎にまかれた体はさらさらと灰になったかと思うと、跡形もなく消え失せたのだった。
●夜の芝生広場
夜の静けさが戻り、狼猿は芝生広場を眺めながらふぅと息を吐き出した。
戦闘の余韻が漂うが、まだ仕事は残っている。
「ナニカ手掛かりでもあればいいが……」
彼らが探すのはアルカンシェルに関する情報だった。
遠くの外灯とエルルーンの光の翼で辺りを照らしてみるものの、広い広場ははっきりとは見渡せない。
ぼこぼこと至る所に空いている穴は戦闘の影響でできたものも多くあり、どれが痕跡なのかすらよくわからなくなっていた。
唯一夜目の効く苺がハエトリグサが暴れたあたりとアルカンシェルが居ただろう場所をよくよく確認してみるが、特にこれといって目につく部分は見受けられずに首を振る。
「彼らはどうやってオーズの種の場所を特定しているのかしらね」
レイナの疑問はもっともで、この方法さえわかれば先回りをすることも可能になるだろう。
「……写真だけでもとっとくべ」
「そうですね」
「お手伝いしますぅ」
それでも何か手がかりにならないかとほしことメッシュ、そしてエルルーンがカメラで周辺を写真に収めている間に、リュティスは負傷者の回復を開始していた。
「写真を撮り終わったら教えて下さいませ」
芝生にもヒールをかけますから、という言葉に苺も同意を示した。
「壊されたところは綺麗にしていかないとねっ」
この時期は気候も良く、日中になればきっと多くの人で賑わうはずだ。
春の夜風がケルベロスたちの間をすり抜け、緊張していた体を解す。
市街地への危機が去ったことを実感し、リュティスは星の瞬く夜空を見上げたのだった。
作者:りん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年4月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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