天かける豚は、セレブ妻を襲う

作者:缶屋


 紫のマントの下には白衣、いかにもマッドサイエンティストと言える風貌のマッドドラグナー・ラグ博士は唸り声を漏らす。
「ムムム、量産型とはいえ、実験ではこれ以上の性能は出せないなァ。これ以上の性能を得るには、新たな因子の取り込みが不可欠だ」
 そう呟き、実験体――飛行機能を備えたオークたちに目を向ける。
 次の段階に進む方法に検討はついている。
 方法は簡単――オークたちに本能のまま行動させるのだ。
「お前達が産ませた子孫を実験体にすることで、飛空オークは更なる進化を遂げるだろう!」
 進化? オークにとってそんなことどうでも良い。
 ただただ女性を襲いに行けることが喜び。その喜びにオークたちは歓声を上げるのだった。


 とある高層ビルの屋上――。
 下卑た笑みを浮かべた飛行オークたちは、ビルから飛び降りる。
 飛行オークたちの視線の先には、お洒落なカフェのオープンテラスでお茶をする女性たち――セレブな奥様たちだ。
 飛行オークたちは風に乗り、滑空しターゲットであるセレブ妻に一直線。
「何、あれは!?」
 自分たちに向かって、一直線に飛んでくる飛行オークに女性はカップを落とす。
 悲鳴を上げ、逃げようとする女性たちだったが、時すでに遅い。
 華麗に降り立った飛行オークたちは、背中に生えた触手を伸ばす。触手は、女性たちの捕まえ、その体を舐るように這う。
 あまりの嫌悪感に嗚咽を漏らす女性たち。それとは対照に飛行オークたちは満面の笑みを浮かべるのだった。


「竜十字島のドラゴン勢が、新たな活動を始めたようです」
 そう言い、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、ケルベロスたちに鋭い眼光を向ける。
「今回事件を起こすのは、品種改良されたオーク――その名も飛行オークです」
 飛行オークを生み出したのは、マッドドラグナー・ラグ博士。ラグ博士はドラゴンを狂信し、オークの品種改良しているのだ。
「飛行オークは、高所から滑空しながら女性を探し、見つけると直接その場所に降下するのです」
 奇抜な攻撃方法だが、かなり効率的で脅威となる。
 まさに女性の敵。空から降ってきて女性を襲う、セリカは嫌悪と怒りを迸らせる。
「皆さん、お願いします。飛行オークを打ち倒し、何としても女性を守ってください」


「では、今回の事件について、詳細を説明します」
 説明を始めるセリカ。その声にはいつもより力強い。
「まずは、飛行オークについてです」
 飛行オークの数は八体。飛行するという特殊能力があるが、戦闘能力事態は通常のオークと大差はない。
 飛行オークは『触手叩き』、『触手締め』、『触手刺し』を使用してくる。
「次に、戦闘場所についてです」
 戦闘場所はカフェのオープンテラスとその前の歩道。人通りは多いが、飛行オークが降下してくると、一般人は逃げ去るので問題はない。
「最後に、女性たちの避難誘導についてです」
 一般人と違い、標的にされた女性たちには避難誘導が必要になる。
 また、飛行オークは好みの女性の許に降下してくるため、降下する前に避難誘導を行うと襲撃場所が変更となる場合がある。そのため、降下の直前に避難誘導を行う必要がある。
「今回の飛行オークは、清楚でお淑やかな女性を好むようです」
 男性のケルベロスが近くに顔を出すだけでも、女性は化粧を直したりし始める場合があり、飛行オークたちの理想から離れてしまう場合がある。
 そういった可能性がある場合は、依頼に参加した女性のケルベロスなどが、標的を変えさせないようにするなどのフォローが必要になる。


「女性たちを汚らわしい飛行オークたちの餌に、実験の道具にさせるわけにはいきません! 皆さんのお力で飛行オークを倒し、ラグ博士の企みを打破してください!!」


参加者
リリィエル・クロノワール(夜纏う刃・e00028)
クロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
神宮・翼(聖翼光震・e15906)
クリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)
枝折・優雨(チェインロック・e26087)

■リプレイ


「ブヒヒ、ブヒ」
 下卑た声を漏らす飛行オークたち。彼らの眼下では、人々が忙しなく道を行き来きしている。
 その時、一体の飛行オークがとある一団を見つけ指をさす。
 とある一団――それはカフェのオープンテラスでお茶を楽しむ女性たち。女性たちのお淑やかで、優雅な振る舞いは飛行オークたちの心を揺さぶる。
 そして、飛行オークたちは意を決したように、ビルから飛び降りる。
 自殺――ではない。
 飛行オークたちは風に乗り、女性たちの許へと滑空していくのだった。


 昼下がりのオープンテラス――。
 午後のティータイムを楽しむ人妻たちに交じり、四人のケルベロスたちの姿がある。
「このお茶、美味しいよ」
 カップに注がれたお茶を、ぐびぐびと煽ろうとして神宮・翼(聖翼光震・e15906)は、気付く。今はお淑やかに飲まないと、と。
 普段とは違い、大人びた服装でゆっくりとカップを傾ける翼の姿に、ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)は、
「……女って、化ける時は化けるもんだな」
 と、物陰から驚愕の表情を浮かべる。
 黒を基調にし、胸元に花をあしらったドレスを身に纏うリリィエル・クロノワール(夜纏う刃・e00028)は、黒髪を風に揺らしながら本のページを捲る。
 そんなリリィエルの姿を、向かいに座る純白のワンピースを着たクリームヒルト・フィムブルヴェト(輝盾の空中要塞騎士・e24545)は、普段見られない姿の記念にと、こっそりと写真を撮る。
「オークさん、ただでさえビジュアル的にアレなのに、空まで舞ったら生理的嫌悪で生きるのが辛くなりそうです……」
 通行人に紛れ、空を警戒するクロコ・ダイナスト(牙の折れし龍王・e00651)は嫌悪感に満ち溢れた顔をする。
「生理的に受け付けないのよね、あれはどうも」
 カフェのオープンテラスを一望できる場所に陣取っていた枝折・優雨(チェインロック・e26087)が、呟きながら辺りを窺がっていると、飛来してくる飛行オークが目に入るのだった。
 その頃――。
「僕たちはケルベロスだ。僕たちがあなたたちを護るから、冷静に、迅速に避難するんだ」
 飛行オークの飛来に気付いた新条・あかり(点灯夫・e04291)が、声を上げ一般人に避難を促す。
 最初は逃げ惑っていた一般人だったが、潜伏していたケルベロスたちの避難誘導により、落ち着き避難を始める。
 だが、飛行オークたちは、避難が終わるのを黙って見ていてはくれない。
 飛来する飛行オークは八体。そのうち七体は、ケルベロスたちの思惑通り囮に食いつく。しかし、残りの一体は囮ではなく、一般人を目指し滑空していく。
 飛行オークの触手が一般人を捉えようとした、その時――。
「ドーモ。初めまして、飛行オーク=サン達。クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)でござる」
 クリュティアが展開したケルベロスチェインが、飛来する飛行オークの体を刺し貫き、地面に叩き落とすのだった。


 飛来してくる飛行オークたち。
 囮となったケルベロス――翼、リリィエル、クリームヒルトはギリギリまで飛行オークたちを引きつける。
 翼は魔力を秘めた瞳で、飛行オークたちを魅了する。それにより、飛行オークたちは目算を誤り落下する。
 リリィエルは迫る触手を仕込みナイフで弾き、クリームヒルトは大量のドローンを展開し、飛行オークたちの攻撃に備える。
 落下した飛行オークたちは、すぐさま立ち上がり三人に向かい駆ける。
 七対三。数の上で三人は不利を強いられる。だが、物陰から姿を現したロディが弾丸をばら撒き、飛行オークたちの足を止めると、地面に着地した優雨が足を止めた飛行オークたちにケルベロスチェインを放ち、飛行オークたちの体を刺し貫く。
 優雨の攻撃を受けても、欲望に満ちた飛行オークたちは止まらない。
 囮の三人に触手が迫る。三人の身体を触手が突き刺す瞬間、あかりが三人の前に雷の壁を構築し触手による攻撃を防ぐ。
 邪魔されたことに、顔を歪める飛行オークたち。そこに遅れてもう一体の飛行オークが加わる。
「あ、あの……大変おこがましいんですけど……女性もどうせ襲われるなら俺様系イケメンのほうがいいと思うんで……出来れば……ささっと退治されてくれませんかね……?」
 そう言うクロコに、俺たちはイケメンで俺様系だろ? と言いたそうな顔をする八体の飛行オークたち。が、ケルベロスたちに一斉に首を振られ、鼻息を荒くする。
 そして、一斉に睨みつけられたクロコは、
「ひぃ、変なこと言ってすいません! で、でも退けませんし、退きません」
 と、炎の息を吐く。炎が飛行オークたちを襲い、飛行オークたちは慌てて距離をとる。
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
 飛び退いた飛行オークをクリュティアが襲う。大量のクナイ・ダートが飛行オーク目掛け射出され、飛行オークは触手を巧みに操り弾いて見せるが、マシンガンの如く射出されるクナイ・ダートが飛行オークを捉え大量の鮮血とともに床に伏せるのだった。
 仲間がやられたことに飛行オークたちは危機感を覚える。目の前には臨戦態勢を整えたケルベロスたち。だが、オークの衝動――性欲は危機感を凌駕し、目の前の女たちに襲い掛かっていく。
 荒ぶる触手が翼を打ち、優雨に触手が突き刺さる。続き、間に割って入ろうとしたロディの体に触手が絡みつき、ギュッと締め付ける。
 体をいやらしく這う触手に顔を歪ませるロディ。
「ロディくんにちょっかい出していいのは、あたしだけなのよ!」
 アームドフォートの主砲の一斉射により、ロディを捉えていた触手が緩み、抜け出したロディは目に涙を薄っすらと浮かべ、
「持ってけ、ありったけ!」
 銃声が一発辺りに響きわたり、数発の弾丸がほぼ同時に飛行オークの額を撃ち抜き、飛行オークは音もなく倒れ込む。
「今、傷を癒すであります」
 優雨の体をクリームヒルトの光の翼が包み込み、飛行オークに貫かれた傷を癒していく。
「助かったよ、これはお返しよ」
 キッと、自分を貫いた飛行オークを睨みつけ、ファミリアロッドから魔法の矢を放つ。
 飛行オークは魔法の矢に気付き、身を翻すが全ては避けきれず、飛行オークの体に突き刺さる。
 苦悶の声を漏らす飛行オークに、肉迫するリリィエル。
「シビれるような踊り、見せてあげる! 見とれちゃダメよ?」
 舞うようにステップを踏み、斬撃を加えていくリリィエル。苦し紛れに飛行オークも触手を振るうが、巧みにステップを踏むリリィエルを捉えることが出来ず、その醜い体が血に染まり、動かなくなる。
「……全て、雪の下に隠してあげる」
「これは気持ちがいいでござる」
 あかりが、不思議な雪を降らせ、温かい不思議な雪はクリュティアの体に積もり、心と体を癒し、さらにクリュティアは体の奥底から力が湧き上がって来るのを感じる。
 クリュティアに迫る二体の飛行オークの触手。ケルベロスチェインを壁に突き刺し、高々飛び上がり躱すクリュティア。
 その際、揺れる豊満な胸に目を奪われる飛行オークの体を、ケルベロスチェインで締め上げ、
「撃ちます」
 クロコはオーラの弾丸を放つ。クロコの放ったオーラの弾丸を躱そうともがくオークだが、その努力は無駄に終わる。オーラの弾丸は、飛行オークに喰らいつきオークを倒すのだった。


 ケルベロスとの戦いにより、半数となった飛行オークたち。だが、彼らに逃げるという選択肢はない。
 仲間の屍を踏みつけ、ケルベロスたちに向かい駆ける飛行オークたち。鬼気迫るその姿は、戦慄すらも覚える。
「タングステン、ここが正念場であります」
 サーヴァントの甲竜タングステンとクリームヒルトが前に躍り出る。
 クリームヒルトに襲い掛かる触手、触手は肩を貫き、横腹を打つ。さらに迫る触手。
 だが触手は届かない。
 ロディの弾丸がオークたちの触手を撃ち、軌道を変える。
「ロディくん、ナイス足止めよ。クリームヒルトちゃんは下がるのよ」
 足の止まった飛行オークに、リリィエルは暴風を纏う強烈な回し蹴りで、飛行オークたちを一気に薙ぎ払う。
「傷を治す」
 あかりが雪を降らせる。雪はクリームヒルトの体を包み込み、飛行オークから受けた傷を癒す。
「炭になればいいです」
 吹き飛ばされたオークたちに、クロコは大きく息を吸い込み炎の息を吐く。クロコの吐いた炎のあまりの火力に、飛行オークの身体は焼き焦げ炭と化す。
 焼き殺せたのは一体。残りの三体は炎を掻き分け、ケルベロスたちに向かい咆哮を上げながら駆ける。
 駆ける飛行オークに、肉迫する優雨。
 優雨は体内のグラビティ・チェインをファミリアロッドに乗せ、飛行オークの顔面を強打する。その一撃は、ゆうに飛行オークの頭蓋を砕き、絶命させる。
 触手をわなわなと動かし、翼に迫る飛行オーク。翼は迫る飛行オークにガトリングガンを構え、弾丸を嵐のように撃ち出す。飛行オークは弾丸の勢いに、立ち止まり、近づくのを止め触手を伸ばすが、触手は精度を欠く。
 目を瞑り、精神を極限まで集中させたロディが目を見開き、動きを止めた飛行オークを捉える。すると、飛行オークの体が突如爆散するのだった。
 クリュティアに迫る飛行オーク。緋桜一文字を構え、迎え撃つ。
 緩やかな孤を描く斬撃で飛行オークの足の腱を斬り裂く。態勢を崩し地面に這いつくばる飛行オーク。
 這いながら、飛行オークはあかりの足を掴む。足を掴まれたあかりの全身の毛が総毛立つ。
「僕に触って良いのはタマちゃんだけなんだから!」
 そう絶叫にも似た声を上げ、あかりは飛行オークの顔面を目掛け影の弾丸を放ち、弾丸を受けた飛行オークは毒に侵蝕され命を落とすのだった。


 飛行オークたちと戦闘を終えたケルベロスたちは、後片付けに追われていた。
 戦闘により荒れ果てたカフェとオープンテラス。
「ロディくん。はい、目を逸らさないで、感想を言うのよ」
 ニヤニヤとからかうような笑みを浮かべ、ロディに迫る翼。
「色ごとは苦手だぞ!」
 ロディはシャウトし、荒れ果てたカフェにヒールをかける。
「拙者もヒールを致すでござる」
 そう言い、クリュティアは分身の術を使い辺りを修繕していく。
「オーク、間近で見ると中々グロかったです」
 と、あかりは飛行オークを思い出しちょっぴり涙を浮かべながら、飛行オークを脳裏から振り払うように頭を振り、カフェを修繕する。
 クロコは、オープンテラスの床にケルベロスチェインを展開させ、
「こ、こんなものですよね……?」
 と、首を傾げる。クロコが修繕した場所がファンタジックになっているが、誰もツッコまない。
「私は、辺りに怪我した人がいないか見てくるよ」
 優雨は、紫色のジャケットについた土埃を払い、辺りに怪我人がいないか、巻き込まれた人がいないか周囲を見回りに行く。
 そのゆっくりとした足取りを、ニヤニヤと笑顔を浮かべたサーヴァントのカッツェが背中を押す。
「よく撮れているであります」
 飛行オークが飛来する前に、隠し撮りした写真を見るクリームヒルト。
「それ、私よね?」
 肩越しに現れたリリィエルに、リリィエル様! と慌てて写真を隠す。
 カフェの修繕が終わり、辺りの被害の確認も終えたケルベロスたちは、ふぅーと一息つき、次の戦場へ足を向けるのだった。

作者:缶屋 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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