春の廃墟とチキンなオーク

作者:雨乃香

 どこともつかぬ薄暗い部屋の中、異形の腕を和装の下に隠すその男は、静かに目を閉じていた。
 その部屋の扉が不快そうな音を立てて開くと、男は目を開き、そちらへと視線を投げる。
 入って来たのは金髪を逆立たせ、葉巻を口に咥えた、ふてぶてしい、一匹のオーク。
「ドン・ピッグよ、慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶とを与えるのだ」
「俺っちの隠れ家さえ用意してくれりゃ、あとは、ウチの若い奴に任せて、憎悪だろうが拒絶だろうが稼ぎ放題だぜ」
「やはり、自分では戦わぬか。だが、その用心深さが、お前の取り柄だろう。良かろう、魔空回廊で、お前を安全な隠れ家に導こう」
「おう、頼むぜ旦那」
 上機嫌に笑うドン・ピッグを導き男は歩く。
 開かれた魔空回廊の先、ドン・ピッグはこれから起こる事件に期待し、下卑た笑みを浮かべた。

 都内某所、大規模な再開発の為に買収され、以来そのままとなったままの廃墟街。
 人の住まわない民家は金網で覆われ、廃棄されたマンションは入り口を板で打ち付けられ、人の侵入を拒み、既に十数年、伸び放題の雑草や蔦に囲われる古い建物と、遠く聳え立つ近代的なビルの対比は印象的で、不思議と見る者を引き付ける。
 そんな廃墟を愛し、実際に訪問し、自らの手で写真に残したい、そういう変わり者というのはどこにでもいるものだ。
 歳は十九かそこらのその少女は、掌に収まる程度の大きさのカメラを手に、嬉しそうにその廃墟を回っていた。
 少女が写真を夢中で収めるうちにとっくに日は沈んでいたが、彼女にしてみればこれからが本番、廃墟の夜景を収めねばと彼女は更に奮起する。
 そんな少女を狙う、怪しげな影が五つ。
 廃墟の中に潜み、徐々に包囲を狭め、その触手を生やす二足歩行の豚は、今にも少女に襲い掛からんと、大きく裂けた口からのぞく舌で唇を舐め上げた。

「ドラゴン勢力の活動がどうにも活発なようで、お忙しいところお手を煩わせますが、今回も皆さんよろしくおねがいしますね?」
 ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)はケルベロス達に、微笑みかけながら、そういうと、今回の事件について早速説明をはじめる。
「皆さんに今回担当してもらいたいのは、オークの殲滅ですね。ギルポーク・ジューシィというオークを束ねるドラグナーの配下達が都内で事件を起こして回っているようです。このオークを率いるのはドン・ピッグというオークのようで、用心深く、出来るだけ表に出ないよう配下を使役し、女性を攫っているようです」
 オークの映像を端末に送りつつ、ニアは気持ち悪そうに表情を歪めつつ、話を続ける。
「狙われたのは、廃墟を訪問する趣味のある女性のようですね……?」
 軽く首を傾げながら、ニアは何事もなかったかのように続ける。
「ドン・ピッグからすれば、わざわざ自分から人通りのない場所へ向かってくれる相手は好都合でしょうし、カモがネギしょってる状態ですね……このオーク達はその場で女性を襲ったあとに、アジトへと少女を連れ込むようです。こんなのに襲われるのは、想像もしたくないですねニアは……、ただオークがこの女性に接触する前にこちらが女性に接触してしまうと、オークは別の対象に狙いを変えてしまいます、オークと女性の接触後、彼女にトラウマが残るようなことが起こる前に突入し、速やかに彼女を救出してあげてください」
 そこまでの説明を終えると、ニアは汚らわしいものは見たくない、とばかりに端末をすぐさま操作し、地図情報を映し出し、ケルベロス達のもとへ同じものを送る。
「見ての通り、周囲は廃墟街となっており、周辺被害へ考慮する必要はありません。気を付けてほしい点としては、この廃墟街に人が近づかないように封鎖する、というのは控えておいてください。彼らは臆病で用心深いため、異変を察知すれば襲撃を諦め逃げ出してしまいますので。
 数は全部五体。戦闘能力自体は通常の個体と変わらないため、上手く戦闘に持ち込めれば然程問題はないでしょう」
 少々、気持ち悪い目にあうかもしれない事を除けば、ですが……と、ニアはこっそりと呟きながら、ごまかすようにケルベロス達に声をかける。
「影に隠れてこそこそ暗躍する卑怯者どもを放ってはおけませんよね? 既に被害が出てしまっている可能性も否めません、可及的速やかにこの件を解決し、近い内に親玉も叩いてしまいたい所ですね?」


参加者
琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)
葛葉・影二(暗闇之忍銀狐・e02830)
ルルリアレレイ・パンタグリュエル(黄金魔書の詠み手・e16214)
三石・いさな(ちいさなくじら・e16839)
氷鏡・緋桜(矛盾抱えし緋き悪魔・e18103)
瑞澤・うずまき(しろいはなとあかいはな・e20031)
ファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)
山内・源三郎(姜子牙・e24606)

■リプレイ


 増築の末、無駄に広がった屋根や伸び放題の木々に遮られ星の明かりも届かない廃墟街。
 かつて人が暮らしていた痕跡の残るその場所は今は住む者もおらず、静かに、不気味にただそこにあった。
 そんな場所を携帯端末のライトを頼りに歩く一人の少女の姿があった。
 歳は十九かそこら、手にしたカメラで時折風景を写真に収め、上機嫌で廃墟街を歩いていく。
 やがて少女はかつて大きな集合住宅だったそれなりの大きさのアパートへと入っていく。
 壁が取り払われ広々としたフロアの床からは所々植物が茂り、各階を貫く大きな天井の穴からは微かに月光が指していた。その神秘的な光景に少女は口を開き呆然と天井を見上げていた。
 それ故に少女は自らに迫る危機に気付かない。
 逃げ隠れ出来る場所のない開けたフロアで呆然と立ち尽くす少女の姿は、臆病な五体のオーク達にとっては皿の上に丁寧に盛り付けられたディナーのように映ったことだろう。
 彼等は少女に気付かれぬようガラスの取り払われた窓際へと迫り、息を合わせ、一斉に少女へと向かって飛び掛かった。
 突如現れた醜いオークの群れに少女は叫び声をあげる事すら忘れ、口元を抑え、その場にへたり込んでしまう。
 対してオークの方は少女のその反応に気をよくしたのか、先程までのこそこそとした態度はどこへいったのか、舌なめずりをし、勿体つけるように少女へと緩やかに触手を伸ばし、その足首を、腕を気味の悪い粘液で濡らしながら、ゆっくりと迫っていく。
 触手の先端が少女の胸元へと延びる。腰が抜け後ずさることもできない少女は、瞳の端に涙を浮かべながらぎゅっと眼を瞑るうとした。
 次の瞬間その滲む視界に映ったのは、逆立つ橙色の頭髪。
 音もなく少女とオークの間に割って入ったその青年が放った何の変哲もないただの一回の拳が、少女の胸元に触手を伸ばしていたオークを派手に吹き飛す。
 事態についていけない周りのオーク達に、ルルリアレレイ・パンタグリュエル(黄金魔書の詠み手・e16214)とファルゼン・ヴァルキュリア(輝盾のビトレイアー・e24308)の二人が畳みかける様に、各々の武器を手にそのオークの醜い横っ面を力の限り打ち付ける。
 突然の襲撃にオーク達は慌てふためき、少女へと伸ばしてた触手を引き戻し、何事かと、割入った青年へと視線を向ける。
「大人しく逃げ帰って、二度とこの世界に手を出さないってんなら今回は見逃してやんぜ。ただし、それでも向かってくるんなら容赦はしねぇぞ」
 青年、氷鏡・緋桜(矛盾抱えし緋き悪魔・e18103)の言葉にオーク達は逡巡するように顔を見合わせるが、逃がした鯛を惜しむかのように、少女へとちらちらと視線を送っている。
 その視線から少女を守るかのように瑞澤・うずまき(しろいはなとあかいはな・e20031)がウィングキャットともに前に立ち、琴宮・淡雪(淫蕩サキュバス・e02774)は少女に手を差し伸べる。
「もう大丈夫だよ」
「あなた、立てるかしら?」
「あっ、は、はい……」
 そう答えながらも少女の膝は笑い、淡雪の手を借り、立ち上がるのがやっとという様子で、一人で避難させるのは困難なように見える。
 そうしている間に、オーク達も意見がまとまったのか、傷を負ったオーク達を戦闘にその場から逃げ出そうと窓際へとかけていく。
 しかし、あと一歩といったところで突如天井が崩れ、彼らの行く道を塞いでしまう。
「ほうほう、豚が五匹か。この廃墟は養豚場か何かかのう?」
 天井を崩しオーク達の頭上から現れた山内・源三郎(姜子牙・e24606)はヘッドライトを軽く振りながら、言葉と共に挑発を行うが、臆病なオーク達は逃げ道を塞がれたことに困惑し、慌てふためいているばかりでそれどころではない様子だ。
「あんまり騒いじゃだめなの!」
 そんな彼らを沈めるかのように、三石・いさな(ちいさなくじら・e16839)の放ったオーラがオーク達を攻撃する。それにより逆に落ち着きを取り戻したのか、オーク達は自らを囲むように立つ八人のケルベロス達にようやく気付く。それぞれの反応は様々であり、ケルベロスの女性陣に目を奪われる者、攻撃を受け悦ぶ者、物欲しそうな顔で指を咥えながら依然少女を見続ける者、そして逃げ出そうとするもの。
 二匹のオークがその場から逃げ出そうと一目散に出口をもとめ駆け出したところを、葛葉・影二(暗闇之忍銀狐・e02830)の振るう武器が一閃。その足元をすくい上げ、オークは無様に頭から地へと落ちる。
「闇に紛れて卑猥な行為を行なう痴れ者共よ。その凶行、見過ごすわけにはいかぬ」
 影二の言葉に、もはや逃げることは出来ないと覚悟を決めたのかオーク達は立ち上がりながら、ようやく戦う姿勢をみせる。
 おどおどとした様子で触手を構えた彼等であったが、ルルリアレレイとファルゼンの武器を握る手が微かに震え、その眉尻を下げている様子を確認すると、途端に元気に触手を蠢かせ、下卑た笑みを浮かべ、下品な豚のような笑い声をあげた。
 それが二人の演技だとも気付かずに、オーク達はすっかりと乗り気になっていた。


 微かな月明かりと、ケルベロス達の持ち込んだ照明器具が廃墟の中を不規則に照らし、異形の影を浮かび上がらせる。
 臆病な割に発奮したオークの攻撃は激しく、囮役を買って出たルルリアレレイとファルゼンの二人は自然と敵の攻撃を多く引き付ける形となっていた。
 オークの伸ばす触手がルルリアレレイの体を打ち、服を裂く。
 わざと怯んで見せ攻撃を引き付けていた彼女だったが、敵の攻撃により露出した肌にその君の悪い触手が巻きつくと、ぞわりとした嫌悪感が走ることまでは抑えきれない。
「ッ、ガルガンチュア」
 名を呼べばすぐさま彼女のミミックはそれに応え、オークの触手に噛みつき、その攻勢の手を一時退かせることができるが、またすぐに別のオークが迫りくる。
「あなた、こういうのはどうかしらねぇ?」
 ルルリアレレイの背後から触手を蠢かせ迫っていたオークを、淡雪の操る御業が縛り上げ固定する。
「オラッ」
 それにあわせ、緋桜が裂帛の気合と共に地を強く踏みつけると、彼を中心に発生した重力の振動が、群がるオーク達を弾き飛ばしていく。
「平気か?」
「ええ、平気です」
「なら、もうちっとたのんだ」
「勿論です」
 仲間達の援護に一時息を整え、ルルリアレレイは燃え盛る髪を靡かせ、夜の廃墟を走る。
 振るう武器から放たれたオーラがオーク達を凍てつかせ、怯んだ彼らに、いさなが迫る。
「豚さん、さよなら」
 いさなの握る大鎌が弧を描き、オークの首へとかかる。そのまま下に引き込むようにいさなが大鎌を取り回すと、あっさりとオークの首が飛び、その活動を停止する。
 その惨劇に、再び逃走を企てるオークもいれば、逆に、せめて死ぬ前にと自棄になるオークもいた。
「わっ、わわっ!」
 驚くいさなの華奢な体へと巻きついてくる無数の触手を影二が次々と断ち切り、触手から毒を送り込み、迂闊な攻撃を牽制し、逃げようとする敵には淡雪が牽制を攻撃をしかける。
 その最中、一匹のオークががむしゃらに包囲を走り抜け、少女の元へと向かう。
 涎を垂らし、奇声をあげながら触手を伸ばし襲いくるその姿は醜悪で、目を逸らしたくなるほどだ。
「こっちこないでぇ……」
 少女を庇いながらも、うずまきはそのオークの姿に震え、微かに歯を鳴らす。
 その反応を見て取り、オークはうずまきの方へと触手を伸ばす。奇妙に蠢くそれはうずまきの羽織る外套を引き千切り、無遠慮にその白い肌に触れる。いやらしく這い回るそれは彼女の足元から太腿へと這い上がり、そのあまりの気味悪さに、うずまきは肌を泡立たせ、ぺたりと座り込んでしまう。
「うっ……やだぁ……き、気持ち悪いよぅ……」
 逃げ出してしまいたくなるようなその状況の中、うずまきの服の袖を引くその感触に彼女は我にかえる。
 そこには少女がいる、自分よりも弱く、身を守るすべもないただの少女が。それなのに、戦う力をもつ自分がこんなことで、立ち止まってなどいられない。
 恐れながらもうずまきは一歩を踏みだす。オークの触手を踏みつけ、黒き鎖を全方位へと射出する。絡みつく触手を貫き、少女の周囲を守る様に展開されたそれは、オーク達を貫き、その身に毒を盛る。
 それでも尚、猛り襲いくるオークの前、うずまきは一歩も引かずその顔を睨みつける。
「よく耐えたのう。あとは、わしに任せておけ」
 愉快気に笑いながら源三郎は武器を抜く。刃の煌めきは一瞬。
 オークの喉元が裂け、盛大に血が噴き出し、廃墟の床を赤黒く染めていく。


 二体の仲間を失いオーク達の士気は格段に下がっていた。もとよりそれほど優秀な者達ではない、臆病な彼らがこうして正面からの戦いの場に誘き出されてしまえばこの結果は当然と言えた。
 オーク達は必死に抵抗を続け、我武者羅に触手を伸ばし攻撃を行うが、その殆どはケルベロス達の手により叩き落とされ、有効な攻撃となることはない。
 ファルゼンは向かいくる敵を捌きつつも、細やかな演技を忘れることはない。
 そんな彼女の演技に気づかぬオーク達はわらにもすがる思いで、同時にファルゼンへと向けて触手を伸ばした。
 別々の角度からの、不規則な軌道を描く触手の攻撃は見切り辛く、避けきれなかった攻撃が彼女の胸元を浅く薙いだ。
「痛っ」
 微かに露わになるその血の滲む肌に、オーク達は興奮しさらなる追撃を試みようとするが、ファルゼンの方は、極めて冷静だ。
 無謀な飛び込みを敢行したオーク達に対し、胸元を腕で隠しつつ、縛霊手を装着した掌をオーク達に向け至近距離から巨大な光弾を放つ。
 暗い廃墟内を照らす強い光にオーク達がたじろぐ間にボクスドラゴンのフレイヤの手を借り、ファルゼンは服を修復の修復を終える。
 光が収まり、視界を取り戻したオークの前には緋桜が拳を振り上げ、襲いかかってきていた。
「エンドブレイカー!」
 初手にはなったのと同じ攻撃、しかし、音を立てぬよう、敵を逃がさぬようにと、セーブしていた一撃とは違う。踏み込みの音が廃墟に木霊し、オークの顔を捉えた拳はその醜い顔をさらに醜く潰しその巨体を地へと叩きつける。倒れたオークは泡を吹いて痙攣し、そのまま動かなくなる。
 そんな様子をファルゼンに向かわず静観していたオークは既にすっかりと戦意を喪失しており、どすどすと鈍い音をたてながら走って逃げ出そうとするが、淡雪がそれを許さない。
「痺れさせてあげます」
 にっこりと笑みを浮かべた淡雪の握る槍がオークの胸元を貫くと同時、紫電を纏い、体内に流し込まれた電流はオークの体を駆け巡り、その息の根を止める。
 残るオークも相対していたケルベロス達に背を向け、転がるように走り出したが、それをケルベロス達がみすみすと逃すはずもない。
 刀を鞘に納めた影二は、逆手にその柄を握り直し、力を籠める。瞬間、鞘に蒼い電流が渦を巻いて奔り、音を立て渦巻くそれは徐々に規模を大きくしていく。
「疾風迅雷!」
 一閃。抜き放たれた刃は貯め込んだその電流を衝撃波とし、オークのその背を襲う。
「……討伐完了」
 影二がオークに背を向け刀を振り、鞘に納めると、ぐらりと傾いだオークの体は上下に別れ、おびただしい量の血を噴出しながら嫌な音をたてて地に落ちた。


「おねぇさん大丈夫?」
 普段通りの静けさを取り戻した廃墟の中、いさなにそう声をかけられた少女は、ハッとしたように我に返ると、その場で正座しながらケルベロス達に頭を下げる。
「あっ、す、すいません、助けていただいて、本当にありがとうございます……」
「そうかしこまる必要はないですよ、当然のことをしたまでです」
 ルルリアレレイは崩れ傷ついた建物を直す片手間そう語りかけ、少女の緊張を解そうとするが、少女はぺこぺこと頭を下げるばかりだったのだが。
「廃墟は昼間の方が好きなんだが……夜景もまぁ、悪くない……」
 やるべき作業を終えた、緋桜がなんとなしに廃墟をみつめつつ呟いた言葉に少女は反応し急に下げていた顔を上げた。
「おぉ、同好の士がこんなところにもおられようとは……」
 目を輝かせ反応する少女の様子に、ケルベロス達は若干退きながらも、その元気な様子に皆一様に苦笑を浮かべた。
「ボクも廃墟好きだよ。独特の雰囲気があっていいよね」
 うずまきはしゃがみこみながら少女の眼を覗き込みつつ声をかけ、
「けど、人が寄り付かないところだから気を付けて。今度からは誰かと一緒に来ることをお勧めするよ」
 彼女の言葉に最初ははしゃいでいた少女も、再び自分の置かれた立場を思い出したらしく、先程までのはしゃぎっぷりもまた彼女の恥ずかしさを上塗りしたのか、顔を赤く染めつつ、面目ないですと、項垂れる。
 そうして落ち込む少女の肩を、淡雪がぽんと叩く。
「ねぇ……あなた? 廃墟を撮るのも良いけど……まだまだ素敵なものは一杯あるでしょ? そうおっぱいとか!」
 豊満な胸を突きだしつつ主張する淡雪の様子に、誰もが頭を抱えた。ただ一人、少女を除いては。
 淡雪の振りまくフェロモンに少女はあっさりと毒され、ふらふらと焦点の定まらぬ目で淡雪の胸元をみつめつつ、うわ言のようにおっぱい様ーと繰り返しつつカメラを構える。
「よし! 今おっぱい教に入会したら更に素敵な写真会まで招待しますわ!」
 グッと拳を握り込み、ばかりに叫んだ淡雪の頭を源三郎が軽くはたく。
「痛ッ!」
「まったくおぬしは一般人相手に何しとるんじゃ……なんならわしが相手になってやってもいいがの?」
 冗談めかして笑う源三郎に、しゅんとした淡雪は少女の隣に座して、すいませんでしたと小さく呟く。その様子に軽くため息を吐き、源三郎は少女の体を軽く揺さぶり、その正気を呼び覚ます。
「近頃物騒じゃからな。あれみたいなのもおるしの、あまり人通りの少ないところにはいかんようにな」
「肝に銘じます……」
 カメラに残る胸の写真に、少女はずぅんと暗い顔をしながらそうしみじみと呟く。
 廃墟の写真の中混じるその異質な一枚が、どんな言葉よりもきっと少女にはよく効く薬となる事だろう。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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