●闇に紛れる豚の群れ
闇の中。
そこは、汚らしい姿のオーク達が集まる場所。その見た目も臭いも、顔を背けたくなるほどに醜悪な場所だ。
「ドン・ピッグはいるか」
ローブを被った男がオークへと呼びかける。すると、モヒカン頭もオークが若干ふてぶてしい態度で歩み寄る。そいつの名はドン・ピッグ。ここにいるオーク達のリーダーだ。
「慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶とを与えるのだ」
ローブの男はギルポーク・ジューシィという。覗き出る素肌は、混沌と化しているのが分かる。男はドラグナーなのだ。
ドン・ピッグは葉巻を吸い、ぷはーと紫煙を吐き出してから返答する。
「俺っちの隠れ家さえ用意してくれりゃ、あとは、ウチの若い奴が次々女を連れ込んできて、憎悪だろうか拒絶だろうが稼ぎ放題だぜ」
ギルポークはその返答が分かっていたようで、そうかと返す。
「だが、その用心深さが、お前の取り柄だろう。良かろう、魔空回廊で、お前を安全な隠れ家に導こう」
「おぅ、頼むぜ、旦那」
ギルポークは傍に呼び起こした魔空回廊の中へ、ドン・ピッグと共に消えていったのだった。
所変わって、東京都足立区、西新井駅の西側。
真夜中、薄暗い路地裏を若干酒に酔った女性が歩いていく。やや露出の大きい服を着たこの女性は、仕事帰りの風俗嬢のようだ。
多少気の強そうな印象がある女性だ。しかしながら、プライドが妙に高いところが災いして、さほど成績は良くない様子である。タクシーを使わずに電車に乗ってきて帰るところを見ると、それほどの余裕はないのだろう。こうして裏路地を歩いて帰るのも、いつものことなのかもしれない。
「ふう、あのクソ親父ったら、しつこいったらないわ」
愚痴をこぼす女性の後ろから忍び寄る影。そいつらは背中の触手を勢いよく伸ばし、風俗嬢の体を捕らえてしまう。
「ちょっと、どこ触ってんのよ!」
風俗嬢は胸を掴み取られたような感覚を覚えて叫ぶ。しかしながら、胸部にまとわりつくのはぬめった触手。そして、後ろから近づいてくるのは……不快な笑みを浮かべた豚の集団だ。
「き、きゃああああああっ!」
いくら気の強い女性とはいえ、オーク数体に囲まれてはなす術もなく。オーク達に口を封じられた彼女は、オーク達の欲望のはけ口とされてしまう。
「く……、こ、こんな……」
汚らしい豚達からいい様にされる風俗嬢の頬に、悔しさのあまり一筋の涙が零れ落ちるのだった。
ヘリポートでケルベロスを待っていたリーゼリット・クローナ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0039)。その表情は険しい。
「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めたようだよ」
ケルベロス達がある程度集まったところで、彼女は説明を始める。
今回事件を起こすのは、オークを操るドラグナーである、ギルポーク・ジューシィの配下のオークの群れのようだ。
「オークの群れを率いるのは、ドン・ピッグという名のオークだね。非常に用心深くて、配下を使って女性を攫わせているようだよ」
女性が狙われるのは、東京都足立区の路地裏だ。存在が消えても怪しまれないような弱者を狙って犯行を行うらしい。
今回狙われたのは、風俗嬢のようだ。さほど成績を上げられない女性のようで、いつも同じ路地を通って帰宅している。だからこそ、用心深いオークのリーダーに狙われたのかもしれない。
「女性は、その場で配下達に暴行された後、秘密のアジトに連れ込まれるようだね……」
卑劣なオークどもに風俗嬢が襲われる前に助けてあげたいが、オークよりも早く女性に接触すると、敵は別の対象を狙ってしまう。この為、オークと女性が接触した直後に、現場へと突入したい。
「オークが悪事を働く前に、なんとしても撃破してほしい」
リーゼリットもやや嫌悪感を露わにしながらも、ケルベロスへと告げる。
「オークの数は6体。ドン・ピッグの配下なのだけれど、基本的には普通のオークだね」
戦闘能力に関しては秀でたものはない為、蹴散らしてしまうといいだろう。もちろん、油断は禁物ではあるが。
物陰に身を潜めたオーク達は、襲撃場所となる路地裏を風俗嬢が歩いているのを見計らって襲撃してくる。
「多少ごみごみした感のある細い道だね。横に3人並ぶのはこちらも、オークも難しいといった道幅だよ」
また、戦況にもよるが、女性を守りながら戦うことになる。多少は戦略を考える必要があるだろう。
一通り説明を終えたリーゼリット。ただ、その表情は浮かない。
「今回の1件はボクが予知できたけれど、すでに連れ去られた被害者がいる可能性も……」
いやと首を振る彼女。できればそれは考えたくはない。
「とにかく、オークの所業を止めないと。……皆、頼んだよ」
彼女はそうして、離陸準備の為にヘリオンへと乗り込んでいく。
ヘリオンの準備ができるまでの間、ケルベロス達は顔合わせを行うのだが、その中には、雛形・リュエン(オラトリオのミュージックファイター・en0041)の姿があった。
「外道め……。許すわけにはいかんな」
リュエンもまた、オークに対して唾棄するように言葉を吐き捨てる。彼もまた、女性を守る為にと参加を決意したのだ。
その後、思い思いの決意を語り合うケルベロス達は、準備の出来たヘリオンへと乗り込んでいくのだった。
参加者 | |
---|---|
久遠・翔(色々残念・e00222) |
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159) |
鳳・朱璃(紅き蜃気楼・e18714) |
ギルフォード・アドレウス(咎人・e21730) |
トープ・ナイトウォーカー(夜更けの戦乙女・e24652) |
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828) |
セレネ・ヒューベリオン(月下に舞う銀焔の姫騎士・e25481) |
エオス・ヒューベリオン(暁を讃える煌刃の舞刀家・e25535) |
●女性を襲うオークに対して
深夜、日付も変わろうかという頃。
数人のケルベロス達は、東京都の西新井駅西口までやってきた。
「オークのヤー公っすか」
グーウィ・デュール(黄金の照らす運命・e01159)は何気なく口を開く。直にこの近くの路地で、オークどもに風俗嬢が襲われる事件が起きてしまう。
「本当に虫唾が走る程オークは嫌いだわ。女性を暴行して、攫うなんて……」
話を聞いて、鳳・朱璃(紅き蜃気楼・e18714)は表情を歪める。一見女性にも見える彼女、もとい、彼は男性である。
「女性を陰で襲うなどとは……。外道め……」
雛形・リュエン(オラトリオのミュージックファイター・en0041)も嫌悪感をむき出しにしていたようだ。
「こそこそと狡賢い豚共には、仕置きが必要だな」
「オークなんぞに関わりたくは無いのじゃが、見過ごす訳には往かぬ故、確り成敗致すのじゃ」
トープ・ナイトウォーカー(夜更けの戦乙女・e24652)もセレネ・ヒューベリオン(月下に舞う銀焔の姫騎士・e25481)も、女性を襲うオーク達を許してはおけぬと、この場にやってきている。
「発覚し辛いところを狙って襲っているのか」
敵は敢えて、路地で女性を狙うという。頭目がいるとしたら、少し面倒なことになるかもなと、トープは独りごちていた。
「灰は灰に、豚は豚箱に……てなもんで。ま、やることは屠殺っすけどね」
「オークの屠殺作業……、まあ、認識は間違ってねえな、うん」
グーウィの言葉に、ギルフォード・アドレウス(咎人・e21730)が真面目に考えた結論を口にする。
「他にも被害者がいないか気になるけれど、今は目の前の豚を駆除しちゃいましょう」
「か弱き一般人の女性を集団で襲うなど、見過ごす訳には参りません! 必ず成敗致します!」
朱璃も、エオス・ヒューベリオン(暁を讃える煌刃の舞刀家・e25535)も、風俗嬢を守るべく、そして、全てのオークを倒すべく意気込むのである。
●風俗嬢の救出を!
ケルベロス達はしばしの間、表通りで待機している。
女性が通りへと入っていくのを見て、メンバーの緊張は一気に高まる。
「ちょっと、どこ触ってんのよ!」
一時して、響き渡る女性の声。ケルベロス達は一斉に路地へと駆け込んでいく。
「きゃああああっ!」
そこでは今まさに、帰宅中の風俗嬢、下矢・佑未がオークの触手に捕らえられようとしているところだった。
「女性への狼藉は其処までじゃ!」
「それ以上の行いは赦しません!」
オークの頭上から降り立ってきたのは、ヴァルキュリアの姉妹、エオスとセレネだった。2人はダイナマイトモードを発動させ、姿を変える。
「わたくし達、ケルベロスが成敗致します!」
「わらわ達、ケルベロスが成敗致す!」
口上を述べたエオス、セレネ姉妹は、オークの注意を引き付ける。
ほぼ同時に地上では、ギルフォードと朱璃がオークと風俗嬢の間に、盾となるべく割って入っていた。ギルフォードはオーク達の姿を、じっと注視する。
同じく走って駆けつけたグーウィもまたダイナマイトモードを発動させ、オークの注意を自分に引き付けようとする。
「さぁ、運命をお見せしましょう」
妖しい雰囲気の美女へと変貌した彼女は、露出が大きくなった衣装から胸や足を見せ付けた。オーク達はそれにも気を取られ、鼻の下と触手を伸ばす。
伸びてきた触手を見て、久遠・翔(色々残念・e00222)が天空から呼び起こした無数の刀剣を地面へと落下させ、オークの触手数本を寸断した。
苦しむオーク。その隙を見計らったリュエンはグーウィの頼みを受け、風俗嬢の身の安全確保へと動く。
そして、いつの間にか、アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)とトープが空を飛び、オークの背後へと回っていた。
「我は愛と正義……ついでに、勇気の告死天使じゃ!」
光の翼を背中に展開させて後光を纏ったようにしつつ、アデレードはオーク達を指差す。
「貴様らにくれてやるのは女性ではなく正義の鉄槌じゃ、覚悟せい!」
微笑し、「決まったわ」と、どや顔の彼女。これによって、ケルベロス達はオークを挟撃する形となる。
「援護する。彼女の救出をよろしく頼む」
トープが呼びかけるとと、翔がそれに応じて風俗嬢へと駆け寄る。
「大丈夫ですか? 俺達はケルベロスです。貴方を救出に来ましたっす」
オークに襲われ、戸惑いを見せていた風俗嬢。ならばと、隣人力を発動させた翔は風俗嬢をお姫様抱っこし、落ち着かせる。
「きゃっ」
そこで風俗嬢のお尻に手が触れ、さらに、彼女の上着が捲れ上がってしまう。それに翔は慌てふためき、鼻からぽたりと赤いものが……。
「こ、こ、こんな綺麗な人を狙うなんて、言語道断っすよ!」
顔を真っ赤にして力説する青年の姿に、気をよくする風俗嬢。翔はリュエンと共に、彼女を避難させに表通りへと向かっていった。
「ふふ、害獣はしっかり駆逐しなきゃね?」
残るメンバーは目の前のオークと相対する。朱璃は敵を見据えて、くすりと笑った。
逆側では、オークを指差したままのアデレードが構えを取る。
「後は空気を読んで、さっさと退治されるのじゃ!」
折角の獲物を逃がし、その上ケルベロスに囲まれたとあってオークは苦い顔をしていたが、目の前のケルベロスに触手で攻撃を仕掛けてきたのだった。
●汚物の駆除を!
路地で始まる、オークとケルベロス達の戦い。
奥側へと降り立つセレネ、エオス。2人はそれぞれ仲間の後方に位置取る。
セレネは舞う様な体捌きでオークへと攻め入る。各個撃破を狙う彼女だが、初撃ということもあって手近なオークを狙う。
「それでは、遠慮なくゆくのじゃ」
くるりと回転しながら、セレネは腕のブラックスライムを捕食モードにして解き放つ。
大きく口を開いたスライムに飲み込まれ、体を束縛されたオークだが、背中の触手を強引に伸ばしてセレネを狙おうとする。
そこで、エオスがそのオークに近づく。同じ敵に攻撃を重ねようとしたこともあったが、何より妹を狙う敵は許してはおけない。
「覚悟してくださいまし!」
女性の敵に情けなどいらない。エオスはすらりと日本刀を抜き、踊るようにしてオークの背後へと近づき、緩やかに弧を描いて敵に切りかかる。刃はオークの肉厚な皮膚を切り裂き、夥しい血が豚の体から噴出した。
それでも、オークは叫びながら幾本もの触手を伸ばしてくる。それを、前に出たアデレードが身を張って受け止めた。
「ふん、その程度、全く効かぬわ!」
彼女が触手に耐える間に、束ねた2つの弓をトープがゆっくりと構えていた。
「狙いは外さない……。食らえ」
放たれた矢は、神々をも射抜いてしまうという漆黒の矢だ。それが丸々と太ったオークの体を貫く。
「ぶひいいっ!」
続くケルベロスの攻撃に、オークは血と冷や汗にまみれて悲鳴を上げるが、アデレードが逃さず、大鎌に地獄の炎を纏わせて大きく振りかぶった。
「貴様の罪に比べれば、この地獄の炎すら生温い! これでもくらえい!」
振り下ろした刃は、オークの体を断ち切ってしまい、炎に包む。
「ぶひいいぃぃ…………」
叫び声を上げていたそいつは燃え上がり、徐々に叫び声が聞こえなくなっていった。
一方、手前側のメンバー達。
ギルフォードはオークを直視し続ける。戦場では自身の命を賭けねばならない。元軍人である彼にとって、敵から目を離すなどありえない事なのだ。
斬霊刀「名刀不動」の刀身に雷の闘気を纏わせ、ギルフォードは手前の敵を貫き、雷撃を浴びせる。
それでも、ギルフォードは敵から視線を逸らさない。そのオークはまだ戦意を失わず、触手でギルフォードを狙っていた。
「その粗末なものを刈り取ってあげましょう」
ゾディアックソードを握り締めたグーウィが、剣に篭められた星座のオーラを飛ばす。そのオーラを浴びたオークは蠢かしていた触手の先を凍らせてしまう。
「固さに問題がありそうで……。これでお悩み解消ですね」
凍った触手を見て、グーウィは口元を吊り上げる。それに憤るオークどもは、グーウィを締め付けようと触手を伸ばすが、それを朱璃が受け止めた。
見た目女性の朱璃を捕らえ、ご満悦のオーク。だが、朱璃は笑みを浮かべた後、侮蔑の視線をオークへと向けた。そして、その敵にだけ聞こえる小さな声で彼はこう告げる。
「男と女の見分けもつかないの? おバカさん」
その言葉で、オークも彼が男だと気づいたらしいが、すでに時遅し。朱璃は触手に絡み取られながらも、重力を宿した足でオークを力いっぱい蹴りつける。敵を足蹴にし、満足げな表情の朱璃だ。
しかし、懲りずに起き上がってくる敵。そいつ目掛け、ボクスドラゴンの璃紅がブレスを吐きかけた。
「さすが、頼りになるわね」
ここぞと動いてくれた相棒の頭を、朱璃は軽く撫でた。
そこで、風俗嬢の避難を済ませた2人が戻ってくる。
リュエンが触手に絡まれるメンバーに対して緊急手術を施す手前で、仲間が狙う敵へと翔が仕掛けていく。
翔は2本の鉄塊剣を両手で握り締め、それらを自身の正面でクロスさせる。斬撃痕が地獄化してしまい、オークは苦しみ悶えていたが、衝撃に耐えられずに意識を失ったのだった。
●女性の敵の屠殺作業
狭い通路の中、メンバー達は入れ替わり立ち替わり、オークへと攻め入る。
手前で戦っていたギルフォード。依然として彼はオークを見つめたまま、攻撃を仕掛けていく。任務において、手抜きは許されない。全力で敵を叩き潰そうと刃を敵に差し向ける。
「……落ちろ……極星」
三又の手槍状にグラビティを形成したギルフォードは、それをオークの腹へと突き刺す。そして、彼はその頭上から青白い閃光を敵に向けて落とした。
眩い光にもギルフォードは視線を逸らすことはなく。その先で、光に焼かれたオークは、脂が焦げた臭いを放って崩れ落ちていった。
敵の数は減ってきたものの。オークはしぶとく触手を使ってケルベロスを叩きつけ、あるいは縛り付けてくる。
「諦めるな。私達に後退などはあってはならない……」
リュエンはギターをかき鳴らし、路地裏に歌声を響かせる。それによって、彼は戦うケルベロス達を奮起させていた。
グーウィもまた、触手で傷つく仲間の手当てに動く。
「勝ちの占いを出したもので。倒れてもらっては困りますね」
ダイナマイトモードを解いていた彼女は、溜めた気力を打ち出し、触手に縛り付けられる仲間を解放する。
その恩恵に預かるアデレードは、自由になった体で決めポーズを取りながら、地獄の炎を集めて炎弾を作り上げていく。
「見苦しいのう。大人しく沈むが良いわ!」
わらわらと触手を蠢かせるオーク。舌を出し、醜悪な姿を晒すそいつに向け、アデレードは炎弾を飛ばす。それを浴びた敵の傷口から体力を幾分か回復させた彼女だったが、敵が倒れぬことに少々不満そうな表情を浮かべていた。
そこで、仕掛けたのは、ヒューベリオン姉妹だ。
「姉上、女性を凌辱する輩どもは赦せぬのじゃ……。わらわ達の業で討ち滅ぼそうぞ!」
「ええ、セレネちゃん! わたくし達、女性の敵は絶対に討ち取りましょう!」
動きを鈍らせたオークへ、2人は舞うように、踊るように近づく。
「暁刃達よ……共に舞い踊りましょう!」
伝説の魔剣のレプリカを多数創造したエオス。躍動感溢れるトリッキーな動きで立ち回る彼女が呼び出した魔剣はオークを囲み、一斉に斬撃を浴びせかける。
「月の焔よ、わらわに従い、武威を纏いて、咲き誇り……」
同時に、セレネが地獄化した銀焔を鉄塊剣に纏わせ、円を描くように踊る。
「相対するモノへ、降り注ぐのじゃ」
セレネは軽やかにオークの体を切り裂いていく。その乱舞はまさに銀焔の華だ。
華が咲き乱れる中、エオスが呼び出した魔剣が弾ける。同時に、オークの命もまた弾け、費えていった。
敵の触手を抑える翔。その間に、彼は敵へと呼びかける。
「……一つだけ聞くっす。あんたら、他の女性をアジトに連れ込んでいないっすか?」
オークからの返答はない。ただ下卑た笑いを浮かべ、触手を叩きつけてくるのみだ。
とはいえ、翔も答えが返ってくるとは期待していない。彼は2本の鉄塊剣を叩きつけるが、オークはしぶとく雄たけびを上げて己の傷を塞ぐ。
ただ、朱璃が敵の回復を許さない。
「これで終わりよ」
エアシューズに地獄の炎を纏わせて渾身の力で蹴り飛ばす。オークは路地の地面を転がり、燃え上がる。そいつが起き上がることはもうなかった。
「黙って這いつくばれよ。クソ豚が」
その残骸に向け、彼は最後にそう吐き捨てた。
そこで、残るオークが逃げ出そうと周囲を見回す。
「おっと、ここは通さんぞ」
後方から前に出たトープが、その退路を断つ。
「閉所だろうが影は生まれ、影には主が居る」
街灯に照らされたオークの影を触媒として、トープはグラビティを構築する。
「仇為す者の影よ、主に抗う力を授けよう――征け」
トープの言葉に応え、オークの影に潜む何かが姿をなす。それは影の主の意思に反し、触手を伸ばして主の体を貫いた。
思わぬところから攻撃を受けたオークはそれを認知できぬまま、前のめりに倒れていったのだった。
全てのオークを倒したことを確認したケルベロス達は、それぞれの武器をケルベロスカードへと戻していく。
ギルフォードは集中を解き、ようやくオークから目を離す。
「皆、大丈夫? 怪我してない?」
朱璃が仲間達へと声を掛ける。全員返事が返ってくるところを見ると、どうやら大事に至ったメンバーはいないようだ。
その後、路地にヒールを施したケルベロス達は、改めて避難させた風俗嬢へと事情を説明し、謝罪すべく、この場所を離れていくのだった。
作者:なちゅい |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年4月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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