豚野郎 in 路地裏

作者:星垣えん

 薄闇の中。1体のドラグナーが、呼びつけていたオークの頭目にある命令を下す。
「ドン・ピッグよ、慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶とを与えるのだ」
 言葉の主、ギルポーク・ジューシィは拒否権はないと言わんばかりに冷たい眼光を放っている。対してドン・ピッグと呼ばれた醜悪なオークは、少し考えた後にこう返事を返す。
「隠れ家さえ用意してくれりゃお安い御用だぜ。あとはそこにウチの若い連中が女どもをさらってくるだけで、憎悪も拒絶もたっぷり稼げるだろうよ」
「自分は動かぬ、というわけか。賢明ではあるな。良かろう、安全な隠れ家はこちらで用意する」
「へへ、頼むぜ旦那」
 合意が結ばれると、ギルポークは魔空回廊を開き、ドン・ピッグともども『隠れ家』へと向かった。

 深夜、狭い路地裏。普通であれば一般人が通るような場所ではない。
 1人の若い女性がそこに入り込んでしまったのは、酔っ払っていたせいだろう。足取りはふらつき、髪も乱れて、あてもなくただ路地裏を歩いているだけ。
 ドン・ピッグの配下にとっては、まさに格好の獲物である。
「グッフフフ! だらしない酔っ払いウーマンが1人消えたところで誰も騒がんよなー!」
「……あ、えーと、豚……?」
 突如、女性の行く手を塞ぎ、囲むように6体のオークがどこからともなく現れた。女性の酩酊して鈍った思考では、それが豚っぽいものであると認識する程度しか出来ない。
「豚野郎ですまんなぁ……。しかし何を言われてもやめないもんね! さ、ちゃっちゃと脱がしたりとか色々しちゃうぞー!」
「は? ちょ……何よ……! いや、いやぁーーーーーーーーっ!!」
 悲痛な叫びをむしろ楽しむように、オークは背中から生えた汚らしい触手を女性に絡みつかせ、己の欲望のままに彼女を蹂躙するのだった。

「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな動きを見せてるっす。ギルポーク・ジューシィというオークを操るドラグナーがいて、そいつの命令の下でオークたちが女性をさらう未来を予知したっすよ。皆さんにはそのオークどもを倒して女性を救ってほしいっす」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が、予知した事件の概要を説明する。
 現場は東京都足立区内の路地裏。敵のオークは6体。群れの頭目はドン・ピッグというオークで大変に用心深く現場には顔を出さないし、騒ぎにならないように消えても怪しまれないような女性を狙うらしい。
「さらわれる女性はその場でオークたちに襲われた後に、どこかにある秘密の隠れ家に連れ込まれるらしいっす。そうなったら終わりっすよ」
 オークたちも馬鹿ではないので、ケルベロスが接触した女性に手を出そうとは思わないだろう。恐らく別の女性にターゲットを変えてしまう。
 奴らを駆逐するためには、襲われる女性とオークが接触した直後に現場に介入するしかないだろう。
「現場は建物に挟まれた細長い路地で、オークは女性を挟むように前後に出てくるみたいっす。女性を救うにはまず片側のオークたちを蹴散らさなきゃならないっすね。他に人はいないのでその辺は心配ないっすよ」
 大体の現場の位置をケルベロスたちに伝えて、ダンテはオークの戦闘能力の説明に移る。
「今回のオークたちは汚い触手を使った攻撃を主にしてくるみたいっす。言動は弱そうっすけど、油断はナシでお願いするっすよ。あと奴らはなかなか気持ち悪い外見っすけど我慢して下さいっす」
 両手を合わせ、ダンテは頭を下げる。謝るような頼み込むような、どちらとも取れる仕草だ。
「あんな汚い豚人間たちに連れ去られるなんて考えただけで地獄っすよ。すでに隠れ家に連れ込まれた女性たちもいると思うっすけど、今はそっちを考えても何もできないっす……。でも今回は救えるっす! オークたちが女性を手にかける前に、どうかぶっ倒して下さいっす!」
 拳を強く握りこみ、ダンテは女性の救出と悪漢豚の駆逐をケルベロスたちに託すのだった。


参加者
寺本・蓮(運命誤報のお兄さん・e00154)
真暗・抱(究極寝具マクライダー・e00809)
蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
嘩桜・炎酒(星屑天象儀・e07249)
戸叶・真白(エデン・e23569)
安藤・洋(エクストラオーディナリィラブ・e24041)
マルガレーテ・ビーネンベルク(銀十字の盾・e26485)

■リプレイ

●狭き道へ
 空が青黒い。陽の沈みきった中、ケルベロスたちは街の大通りでオークが事件を起こすのを待っていた。それぞれ会話したり、携帯端末をいじったり、好き好きに過ごす一般人を装っている。
「容赦なく、次の手を打ってきやがったな。ドラゴンの奴ら」
「うむ、あのオーク達が女性を隠れ家に連れ込むという知恵を見せてくるとはのぅ。入れ知恵したドラグナーの作戦は何としても阻止するのじゃ」
「あぁ、遠慮なく潰させてもらうさ」
「ま、豚を始末するだけなンだろ。難しくもねェな」
 通りの片隅の会話。ドラゴンの継続手とあり、蒼天翼・真琴(秘めたる思いを持つ小さき騎士・e01526)とウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)は意気を高める。隣で何食わぬ顔でケータイに視線を落としながら、気楽な物言いをするのは安藤・洋(エクストラオーディナリィラブ・e24041)だ。小さな真琴とウィゼを伴う姿はまるで家族。不良親父といったところか。
「ん……今度はオーク、かぁ……」
「気は抜けないね。なんで女性ばかり狙うのかは分からないけど……」
「大変かもしれない、けど、頑張る……助けないと、ね」
 真琴らとは離れた道沿い。戸叶・真白(エデン・e23569)とマルガレーテ・ビーネンベルク(銀十字の盾・e26485)は語らう一般人を装いつつ、非道を行うオークたちから女性を救出しなければならない、という思いを強める。
 通りはある程度の明るさを保っているが、少し本道を逸れれば光は届かない。オークたちはそういった路地を動くとあって、ウィゼは己の夜目を活かし、遠目に路地裏の暗みを注視していた。
 すると程なくして、酩酊した女性が暗がりに消えていく。続けて気色悪いオークの姿。
「見つけたのじゃ」
 ウィゼの一声で、一行は即座に行動を開始。女性を追って進む者が大半の中、寺本・蓮(運命誤報のお兄さん・e00154)が道の逆側に回りこむ。女性が襲われた瞬間に飛びこみ、挟撃する算段だ。勢いに乗じて真琴がマルガレーテを連れて飛び、オークを飛び越えて女性のもとへ降り立って護衛する。女性を魔の手から守るには最良の作戦だろう。
 気配を殺して進む。先のほうで小さな声。
 やりとりの後、聞こえた。
 悲鳴。
 作戦開始だ。

●挟撃
 いち早くウィゼが駆け、オークどもの背を視界に捉えた。体躯の隙間から衣服を剥がれかけた女性の姿が見える。
「ちょっと待つのじゃ」
 呼び止める。嬉々として跳ねていたオークが動きを止め、こちらを振り向く。
 ちんまいドワーフっ娘。しかも付け髭。
「今、良いところだから」
 あっさりと無視した。ぷいっと顔を背けられる。ウィゼ、一応乙女としてそこそこショック。
「ならばこうなのじゃ」
 発動、エイティーン。ぴちぴちきらきらの18歳になる。
「18歳となったあたしのないすばでぃにオークも無視できま――」
「さ、お姉さん剥いじゃうぞー」
 豚、振り返りもしない。目の前の女性に夢中。
「ふぇ、なんでまだ無視するのじゃ。お主たち好みのぴちぴちの18歳なのじゃぞ」
 地団駄踏んで、両手を振って、アピール。だが効果はない。
 だってドワーフだもの、見た目10歳止まり。相変わらずちんまいドワーフっ娘、しかも付け髭。
 しょうがなかった。
「そんなこと、してる……場合か……」
 黒雷に乗ってきた真暗・抱(究極寝具マクライダー・e00809)が傷心のウィゼの前に立ち、オークに向けて言い放つ。
「お前達の、所業……『NO』、だ」
 そして抱は所持品から『YES/NO枕』を探る。
 が、無い。何ということだ。持ってくるのを忘れた。
「しまった……」
「何だこいつ? ひどい目つき!」
 抱の台詞でぞろぞろ振り返るオークたち。呑気な反応だ。
 枕は無いが、やることは変わらない。抱は鋭く脚を振りぬき、女性の最も近くにいたオークに旋刃脚を喰らわせる。
「ぶひぃ!?」
「こいつ、ケルベロスか!?」
「そのナリで女を襲うなんて、礼儀を知らんヤツやな!」
 慌てふためく豚どもに更なる強襲。駆け寄りながら嘩桜・炎酒(星屑天象儀・e07249)が肩がけのホルスターからリボルバー銃を抜き、弾丸を撃つ。心置きなく撃滅できるオークを前にして、薄笑いすら浮かべて。
 オークが逃げた場合に手配書を描けるようにすべての敵を視界に入れておくつもりだったが、やはり道幅が狭くそれは難しかった。ちなみに抱が旋刃脚を喰らわせた際にシグナルボタンをこっそり付着させることを試み、成功させているので逃走対策はある程度なされている。
「痛ッ! この……!」
 間抜けな台詞を吐きながら、オークは臨戦態勢に移る。6体のオークの背で触手が波打っている。
「殴り合いってかァ? いいねェ、頭使わないのは楽だ。ま、俺ァもともと、真っ向からヴッ込むしかねェんだがな」
 迫力あふれる体躯、精悍なオヤジの洋がどっしり重い足取りでオークたちの眼前に躍り出た。
 逆手に持った無骨な鉄塊剣を、乱暴に振りぬく。デストロイブレイドがオークの横っ腹を捉え、道を挟む壁面に豪快に叩きつける。斬るというよりも叩く、という感じだ。
 瓦礫となって散った壁が足元にごろりと転がると、洋はそれを踏みつけ、ぐっと上体を前に押し出してギラついた眼光を豚どもに投げつける。
「ぐっ……ここは女をさらって逃げるが吉だな!」
 ケルベロスの威に押され、女性を引っさらっての逃走を図るオークたち。
「そこまでだこの性犯罪者ども!」
 しかし背後からも、襲撃。大きな声にオークたちが反応すると、逆側から詰めた蓮が逃走路を塞いでいた。
「は、挟まれてるぞ!?」
 にやりと笑った後、蓮は襲われていた女性に優しく声をかける。
「安心してください。貴女に危害は加えさせません。すぐに片付けますので護衛の支持に従ってください」
「は、はい……護衛……?」
「来い、壱式!」
 戸惑う女性に丁寧に接してあげたいところだが、今は余裕が無い。まずはオークの注意を自分に向けさせる。
 手元に召喚されたのは、弾丸とマスケット銃。握りこんだ弾に力を込め、装填。
 撃ち放つ。
 弾はオークの胴を貫き、ダメージとともに精神作用を引き起こす。激情に囚われたオークが触手を激しく立たせ、蓮の肩を突き刺した。
「やっぱりこの触手、気持ち悪いな」
「囲まれる俺たちよりはマシだ」
「女性の護衛は任せて」
 蓮の背後から、小言を言いつつも飛び立っていく影。真琴である。マルガレーテを連れて飛翔。オークたちの頭上を渡り、襲われた女性のもとに降り立つ。挟撃に泡を喰ったオークたちには、落ち着いて迎撃をする間もなかった。女性は傍に降りた2人のケルベロスを交互に見ている。
「さて、この人からは手を引いてもらおう」
 想蟹連刃を回し、敵を威嚇する真琴。続けてそれを地に突き刺すと、光が蟹座をかたどる。スターサンクチュアリの加護が前衛の仲間たちに与えられた。
「手の届く範囲でこんな事件は起こさせないよ、その為に私達が居るんだから」
 敵中に立ち、覚悟を秘めた眼差しを見せるマルガレーテ。
「むぅーっ! せっかくお持ち帰りできそうなところをッ!」
 ふくれっ面の豚が、背面より数本のおぞましい触手を出し、女性を捕らえようと伸ばす。
「いやっ……!?」
「させないって言ったよ」
 女性との間に割って入り、その身を盾にして女性を守る。小さく女性の「ありがとう」という声が聞こえ、マルガレーテはどこか安心した気分になった。
 自分の身をなげうってでも守る。彼女はそれを己の存在意義と捉えていた。多少の危なっかしさを孕む思考ではあるが、今は目の前の女性を守りぬくための強さをもたらしてくれる。
 戦う準備は整った。
 ここからは駆逐の時間だ。

●強襲の豪勢
 ケルベロスたちの挟撃編成は、強襲班と女性護衛班、そして足止めの蓮の3部隊。対してオーク側は3体ずつに分かれての戦闘を強いられる。数的不利の蓮の負担は大きかったが、その分、数の多い強襲班は圧倒的有利であった。オークたちが強襲班の頭数を減らそうといくら気張ろうとも、フェアリンや真白の回復の手が厚い。むしろ真白の紙兵散布により万全な状態を得た面々が攻勢を強めていた。
「さあ、現れるのじゃ。あたしの万を超える軍団。…………(さて、ばれる前に敵を叩きのめすのじゃ)」
 声高に叫び、ぼそりと付け加える。ウィゼの『突如と現れる無限の軍勢』が更なるプレッシャーをオークたちに与える。
「ぐっ……このままじゃ潰されるんだな!」
「こっちは踏み潰すつもりでやってるんや、当たり前やろ」
 怯みきったオークの懐まで潜りこみ、炎酒は『圧縮ゼロ距離砲』を敵のぶよっと柔らかい腹にぶちこむ。圧縮された空気が解き放たれ、腹をずたずたに裂くと、1体のオークが消え去った。
「お楽しみを邪魔されてなるものか!」
 欲望を吐き出したいオークの怒りは、触手の乱れうちとなって炎酒を襲い、接近していた彼の体を大きく吹き飛ばした。
「あぁー! 気色悪い感触やなぁ!」
 触手の触れた箇所を手で洗うように擦り回して、炎酒が文句じみたことを言う。うねる豚の触手はさすがに許容しがたいものがあるのだろう。
 だがそれも悪あがきにすぎない。炎酒を打ち倒すほどのダメージを与えられるはずもなく、逆に反攻に出たところに黒雷のキャリバースピンをまともに喰らってしまった。
「ぶふぅ!!」
 情けない声をあげて仰け反るオークに向かい、連携した抱の降魔真拳が打ち込まれる。一撃は豚の鼻っ柱をへし折るには充分な威力で、敵の怒りは萎み、恐れへと変わっていく。
「た、頼む……命だけは……」
「ァー、ったく。イイからとっととクタバレよ!」
 無情の一言を気だるげに言い放ち、体を大きく回転させて後ろ手に構えた大剣を容赦なく振り下ろす洋。技術もクソもない、乱暴極まる必殺技。脳天に叩きつけられた鉄塊剣が真っ二つにオークを両断し、汚液が勢いよく跳ね飛んだ。
 強襲班が着々と敵を撃破する中、蓮や真琴、マルガレーテは防戦の展開となっていた。女性を守りながらの戦いではやむをえないことである。
「まったくオークに絡まれる1日なんて、ツイてないな」
 迫りくる触手をその身に受け、蓮はため息をつく。肉体的ダメージはもとより、やはり心的ダメージが大きい。体を這う触手の感触には嫌悪感を覚えざるをえない。
「体は癒してやる。心は自分でどうにかしろ」
 蓮の内心を見透かしたように、真琴が言う。体の癒しとは彼が使う『響癒功』である。蒼い闘気が蓮を包み、肉体の傷を快癒させていく。
「ありがとね、真琴」
「礼はいい。逃がさないでいてくれればな」
「頑張るよ」
「もうひと踏ん張りだよ。向こうを片付けてみんながすぐ来るはずだからね」
 マルガレーテがヒールドローンを浮遊させ、2人を援護する。彼女らは現状3対3の状況ではあれど、強襲班がオークの壁を蹴散らせば戦況は一気に傾く。いや、もう傾いていると言ってもいい。1体で強襲班を止められるはずもないのだから。
 一方の強襲班。残る1体を鮮やかに追い詰めていた。
「攻性植物の森にご招待なのじゃ」
 ウィゼのカタストロフガイアがオークを襲い、更にツァイスがオークの片膝に喰らいつき、わずかに動きを止める。
 そこで、回復や援護に専念していた真白が一転、大量の攻撃術式を召喚して解き放つ。
 『血と牙の回遊魚』、魚型の死神をイメージしたそれらはオークの肉を無惨にもちぎっていく。
「うっ……あぁぁ……!」
 か細い断末魔を上げ、3体の最後の1体も消滅した。
「ん……合流、できる……ね」
 道が開ける。片側が完全な安全地帯となったことにより、女性を避難させることが可能になった。
「さ、こっちだ」
「は、はい、ありがとう」
 真琴に手を引かれ、女性は狭い道の先へと駆けていく。救出は完了。
 後はもう、片付けるのみである。
「くそ! くそ! 貴様らよってたかってぇ……」
 なけなしの余力で、力なく触手を振るうオーク。それが抱の胸を打つが、『三対の魔眼』により強化されている彼はびくともしない。
「よって、たかって……は、お前達だ……」
 じっとオークを睨みつけ、抱はセイクリッドダークネスを放つ。引き寄せた醜悪な姿を、漆黒の右手が粉砕せしめる。肉片が残り2体のオークの体に降りかかる。
「ぶ、ぶひぃっ……!?」
「残念だったね。まぁすぐ仲間のもとに行けるよ」
 にこやかに笑いかけ、足止めに徹する中で溜まった鬱憤を晴らす蓮。ゲシュタルトグレイブが唸る。超速の突きがオークの胸部を穿ち、絶命させた。
 残るは1体。ただ1体。
「……おおぉーーー!」
 最後の特攻。己を奮い立たせるように吠えながら。
 うねる触手がマルガレーテを締め上げ、捕縛の枷をはめる。
「この程度では、止まらないよ」
 十字架の大盾から結界が広がる。『Keep the breath』により枷を払い、平然とした表情でオークを見る。
「そ、そんな目で……」
「さようなら、だね」
 横合いからルドルフのキャットリングが飛来し、側頭を直撃。オークの平衡感覚が飛び去る。
 朦朧として弱る最後のオークの命を絶つのは、真琴だった。女性を避難させてから戦場に戻ってきた真琴のドレインスラッシュがオークの上体を切り裂いて、戦闘の終わりを告げるのだった。

●アフターケア
 オーク討伐後も、ケルベロスらの対応はスマートだった。
「その辺ぶらっと見てくらァ。後のこたァ任せたぜ」
 自らの風貌では傍にいても彼女を怖がらせるだけだと判断し、洋は周辺を念のために見て回ることにした。大の女好きの洋ではあるが、傷ついた女性をナンパする気はない。
「俺も見てくるよ。さ、みんなも行こう」
 蓮は女性のケアのために用意しておいたハーブティーやタオルをささっと女性陣に渡し、男衆を周辺警戒に、というよりその場を去るように促す。こういう状況では男がいないほうだいいだろう。
 その意図を汲み、炎酒と抱もそそくさと退散。真琴は水のペットボトルと酔い止め薬を女性に渡してから彼らの後を追った。
「ん、大丈夫、だった……? 怖かった、ね。もう大丈夫、だよ」
「ありがとうございます……皆さんがいなかったら……」
 言葉を詰まらせる女性の背に手を置いて、真白が念のためのヒールをかける。これがせめてもの癒しになれば、いい。
「隠れ家のことを聞けなかったのが残念じゃが、無事で良かったのじゃ」
「ありがとうね」
 付け髭を撫でながら言うウィゼの姿に、女性は微笑んで礼を告げる。
「ボク、現場を直してくるね。路地裏も結構壊れちゃったし」
「あ、あの」
 現場の修復にその場を発とうとしたマルガレーテを女性が呼び止めた。
「あなたが庇ってくれた時、すごく安心できたの……ありがとう、本当に」
 心からの謝意。マルガレーテはふいっと歩いていってしまう。
 その顔に、わずかな笑みを湛えながら。

作者:星垣えん 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年5月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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