路地裏に潜む淫獣の愚行

作者:缶屋


「ドン・ピッグよ、慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶とを与えるのだ」
 オークたちを統括するギルポーク・ジューシィは、葉巻をくゆらせるオーク――ドン・ピッグに命令を下す。
 葉巻を口元から離し、下卑た笑み浮かべドン・ピッグは言う。
「俺っちの隠れ家さえ用意してくれりゃ、あとは、ウチの若い奴が次々女を連れ込んできて、憎悪だろうか拒絶だろうが稼ぎ放題だぜ」
 こいつの部下は苦労するな。と、苦笑を浮かべるギルポーク。
 だが、それでいいのだ。重要なのは憎悪と拒絶。それを得る過程など、問題ではない。結果が全てなのだ。
「やはり、自分では戦わぬか。だが、その用心深さが、お前の取り柄だろう。良かろう、魔空回廊で、お前を安全な隠れ家に導こう」
 そう言うと、ギルポークが魔空回廊の入り口を開く。
「おぅ、頼むぜ、旦那」
 ギルポークに誘われ、ドンピッグは隠れ家へと向かうのだった。


「も~、最悪!」
 そう悪態を吐くスーツ姿の女性。女性の頬は赤く、足元がおぼつかない。
「全然、いい男いないんですけど。割り勘とかありえないんですけど」
 ううぅ、気持ち悪くなってきた、と女性が薄暗い路地に入る。
 路地は表通りとは違い、喧騒と無縁で一しきり吐いた女性は、積み上げられた段ボールに身を預け、寝息を立て始める。
 それを待っていたかのように、路地裏の壁に魔空回廊の入り口が開く。
 現れたの豚面のデウスエクス――ドン・ピッグの部下のオークたちだ。
 オークたちは気持ちよさそうに寝息を立てる女性に目をやると、ブヒヒと嬉しそうに鼻を鳴らす。
 そして、不気味に蠕く触手を女性に伸ばし、女性はオークたちの毒牙にかかるのだった。


「皆さ~ん! 大変なんすよっ!!」
 と、慌てた様子で部屋に駆け込んでくる黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)。
 ダンテは、乱れた息を深呼吸で整えると、額の汗を拭き、集まったケルベロスたちに目を向ける。
「オークたちが、オークたちが、女性を路地裏で襲おうとしているんす!!」
 女性は路地裏で酔いつぶれていたところを、オークに見つかり襲われようとしているのだ。
 しかも、オークたちは存在が消えても怪しまれないような弱者を狙うという周到さである。
「ただ、この女性には申し訳ないんすけど、事前に助けてあげることはできないんす」
 オークたちが接触する前に女性を逃がしてしまうと、オークたちは別の対象を狙ってしまい、被害を防げなくなるからだ。
「皆さんの力で女性を救い、汚らわしいオークたちを打ち倒して欲しいっす」


「では、今回の事件の詳細を説明するっす」
 そう言うと、ダンテはケルベロスたちに資料を配る。
「まずは……周辺の状況っすね」
 時間は深夜、場所は東京の路地裏。
 表通りと違い、路地裏に人気はない。裏路地にいるのは、酔いつぶれた女性だけである。
 路地裏は戦闘を行うのに、十分な広さがある。
「次に、オークたちについてっす」
 オークたちはドン・ピッグの部下である。数は八体で、背中から八本の触手を生やしている。
 戦闘能力に関しては、通常のオークと変わらない。
 目的は、女性をドン・ピッグの隠れ家に連れ帰り、絶望と拒絶を与えることである。
 オークたちは『欲望の咆哮』、『触手乱れ打ち』、『触手絞め』、『触手刺し』の中から三つを使用してくる。


「ドン・ピッグは狡猾なオークっす。今は目の前の女性に集中して欲しいっすけど、他にも連れ去れた女性がいるかもしれないっす。これ以上、被害を出さないためにも、奴の部下を倒して欲しいっす」


参加者
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
椿・火蘭(業火の女子高生・e03884)
村雨・柚月(カラフルなエレメントマスター・e09239)
火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)
ウルトゥラ・ヴィオレット(幸福推進委員会・e21486)
リューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)
金剛・吹雪(スマホ中毒・e26762)

■リプレイ


 人気のない裏路地――。
 積まれた段ボールに体を預け、スースーと気持ちよさそうな寝息を立てる女性。
 酔いつぶれている女性の様子を窺がう、豚型デウスエクス――オークたち。ドン・ピッグの配下である彼らは、辺りを何度も確認し、ケルベロスたちの姿がないことを確認すると、ゆっくりと音を絶てず女性に忍び寄る。
 女性はアルコールが入っていることもあり、オークが迫っていても全く起きる気配はない。
 その無防備な姿に、自然とオークたちの口から笑みが漏れる。こんなに簡単で、安全な、楽しめる仕事は他にない。
 触手が女性に触れようとした時、オークたちは人の気配を感じさっと触手を引き、段ボールの影に身を潜ませる。
 路地裏に入ってきたのは、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)と椿・火蘭(業火の女子高生・e03884)。
 ひ弱そうなシルとTシャツにスニーカーといった火蘭の姿に、ケルベロスではないとオークたちは確信を持つ。
 バッと姿を現すオークたち。眠っている女性は、後でも大丈夫。逃げる獲物から――そう考えたオークたちが一斉に二人に襲い掛かる。
「ひっ、やだ、気持ち悪い! 来ないでぇ!」
 と声を上げる火蘭と、
「うにうに気持ち悪いーっ!!」
 恐怖――嫌悪感に顔を引きつらせるシルの姿に、気を良くしたオークたちは、ブヒヒと鼻を鳴らす。
 その時、空から舞い降りてくるリューイン・アルマトラ(蒼槍の戦乙女・e24858)。
 奇襲ともいえる突入に、呆気に取られるオークたちだったが、一体のオークが我に返りリューインに襲い掛かる。
 女性を抱え、飛び立とうするリューインだったが、オークの方が速い。触手が放たれる瞬間、一人の少女――ウルトゥラ・ヴィオレット(幸福推進委員会・e21486)が頭上から降ってくる。
 ウルトゥラは着地する瞬間、小さなジャンプを挟み衝撃を緩和し、リューインとオークの間に割って入る。
 触手を受けたのは、サーヴァントのコンピューター。その隙にウルトゥラがオーラを拳に溜め、リューインに背負われる女性に放つ。
 そこでオークたちは気づく。この二人はケルベロスだと。そこからは早い。一目散に撤退、逃げの一手だ。
 路地裏から飛び出そうとしたオークに、
「カカッ、おぬし等の時間は終わりじゃ!!」
 と、ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)がドロップキックを決め、路地裏に押し戻す。
 気配を殺し、潜んでいた村雨・柚月(カラフルなエレメントマスター・e09239)が、
「毒を以て毒を制す、ってな」
 ブラックスライムを槍状にし、オークの醜い体を刺し貫く。
 前がダメなら後ろから。すぐさま反転し、逃げようとするオークたち。しかし、それを金剛・吹雪(スマホ中毒・e26762)と火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)が許さない。
「反対側から逃げるっす」
 吹雪がそう警戒を口すると、すかさずサイトを炎上させる。するとオークのうち一体の体が火に包まれる。
 しかし、オークたちは我感ぜずといった様子で、駆ける。
 道を塞ぐように現れる地外。地外の視線はオークではなく、囮となったシル、火蘭に向けられていた。
「けしからんオークは出荷だぜー、あの世にな!」
 そう言うと、地外はミサイルポッドから焼夷弾をまき散らすのだった。


 一度は慌てふためいていたオークたちだったが、すぐさま冷静さを取り戻す。逃げることができないと見るや、触手を荒ぶらせ臨戦態勢とったのだ。
 とはいえ、逃げられるのであれば逃げたい。そんな時、二人の少女の姿がオークたちの目に映る。
 触手を走らせるオーク。人質を盾にこの場を切り抜けようと、考えたのだ。
 だが、これは愚策。
 シルを突き飛ばし、火蘭だけが触手に絡めとられる。引き寄せられた火蘭は、オークの体にそっと触れ、螺旋の力をオークの体に流し込む。衝撃によろめくオークの触手から逃れ、それを見たドルフィンが、
「焼き豚か、冷やし豚がよいか! 好きな方を選べィ!」
 と、灼熱の息を吐く。
 炎はオークたちを呑み込みその体を焼く。炎を掻き分け、オークがドルフィンに迫る。
 研ぎ澄まされた触手がドルフィンの体を貫く刹那、シルが操るケルベロスチェインが魔方陣を描き、ケルベロスたちに守護を与え、
「おむちー」
 地外の声にサーヴァントのおむちーは、翼をはためかせケルベロスたちを浄化する。
 逃げるのを半ば、諦めたオークたちも次々とケルベロスたちに襲い掛かっていく。
 傷つく仲間たちに、地外は、
「高速電送の力を甘く見るんじゃねぇぞ!」
 竜を模した小型のファクシミリを装着し、竜の口から魔力を帯びた紙を散布し仲間たちの傷を癒していく。
 魔力を帯びた紙を散布し続ける地外に、オークが触手が触手を振るう。
 そこに割って入るウルトゥラ。
 ウルトゥラを触手で叩き続けるオーク。そのオークを目掛け、滑空してくるリューイン。
 リューインは、ゲシュタルトグレイブに稲妻を纏わせ、超高速の突きでオークの胸を貫き絶命させるのだった。
「おろかものは、こうふくがどこかとおくにあると、おもいこんでいる。りこうものは、こうふくを、あしもとでそだてる」
 ウルトゥラの胸の銀盤から青い鳥が放たれ、青い鳥は心地よい声で囀り、ケルベロスたちの周りを優雅に飛び、幸福を――ケルベロスたちに癒しを届ける。
 オークを洗脳する電波をスマホから放つ吹雪。吹雪の放った電波により、一体のオークの目が虚ろになり、味方のオークに襲い掛かる。
 味方の触手で殴られ、正気を取り戻したオークは、吹雪をキッと睨みつけ凄まじい咆哮を上げる。
 柚月が動く。
「闇の女王のお出ましだ! レイス・アリディラ!」
 柚月により召喚されたレイス・アリディラが、闇の大鎌――デスサイズを構え、咆哮を上げるオークに肉迫し、オークの首を刈りとるのだった。


 ケルベロスたちの手により、オークたちの数が減り、それに伴い、戦闘はケルベロスたち有利に傾く。
「カッカッカッ! これぞドラゴンアーツの真骨頂じゃ!」
 光輝く白い炎を吐くドルフィン。ダイヤモンドブレスがオークたちを襲いかかる。
 オークたちは、散開し息を躱すが、躱しそこねたオークが、その場で凍り付く。
「俺の太くてぶっといのでも食らえ!」
 地外は妖精の弓を重ね、巨大な漆黒の矢を番えると凍り付いたオークに放ち、凍り付いた体を打ち砕く。
「レイス! もう一度頼む」
 柚月の声に反応し、レイスがダークマターを溜めオークに放つ。ダークマターに呑み込まれ、倒れるオーク。
「この世からご退場くださいってな!」
 そう言う柚月に、仲間のお返しとばかりにオークが襲いかかる。それを受け止めたのは、ウルトゥラ。
「しみんゆずき、だいじょうぶですか?」
「ああ、大丈夫だ」
 柚月の返答に安堵の表情を浮かべるウルトゥラは、霊力を帯びた紙兵を大量に散布し、霊力で仲間たちを守護する。
 追撃を図るオーク。しかし、シルがオークの延髄に電光石火の蹴りを放ち、追撃を阻止する。
 後ろから忍び寄るオーク、シルはまだ気づいていない。
 忍び寄るオークに気づいたリューインが、
「団長、後ろ来てるよ!!」
 と、シルに注意を促すが、オークの攻撃を避けることはできない。
「神々より託されしこの一投、神殺しの一撃を受ける栄誉をあなたに授けましょう。そして真の死をあなたに。……グングニルバスター!!」
 リューインはゲシュタルトグレイブに裁きの電光の如き輝きを宿し、オークの体を貫き、オークは倒れる。
 火蘭と戦いを繰り広げるオークは、触手を巧みに使い、攻撃を防いでいく。
「火蘭さん、自分が動きを止めるっす」
 そう言った、吹雪はスマホを操作し、冷気を纏った金剛石の塊を生成する。
「凍えて潰れろっす」
 吹雪の放った金剛石の塊が降り注ぎ、オークの足を潰し、体を凍えさせる。それにより動きが止まるオーク。だが、触手は健在、迫りくる火蘭を迎撃するべく唸りを上げる。
「動き出せ、私の心臓! ぶん回せ、わたしの炎! もっと速く、もっと強く!」
 心臓の炎を爆発させ、爆発的に身体能力を向上させる火蘭。その勢いのまま触手を縫うように躱し、オークに連打を浴びせ、オークを膝折、前屈みに倒れる。
 仲間たちの死を見た残り二体のオークは、示しあせたように別の出口に向かい駆ける。どちらかだけでも助かろうという算段なのだ。
 しかし、それを許すほどケルベロスたちは甘くない。
「こっちは通行止めっす」
 吹雪にスマホの角で殴られ、オークはお返しとばかりに触手を叩きつけようとする。しかし、触手が吹雪を捉えるよりも早く、高々と飛び上がった柚月が力いっぱい、ルーンアックスを振り下ろす。
 振り下ろされたルーンアックスは、容易くオークの頭を割り、ぷぎゃ、と断末魔を上げオークは倒れ込む。
 もう一体のオークは仲間の断末魔を耳にし、怒りよりも安堵を覚える。向こうにケルベロスたちが向かったのなら、自分は安全に逃げ切れると。
 当てが外れ、目の前に立ちはだかるシル。オークは触手で貫くべく、触手を放つ。触手を躱したシルだったが、着ていた服が破れる。
 露になった肌を見て、ブヒヒといやらしい笑みを漏らすオーク。
「……女の子の服をこんなにしたんだから、覚悟してね」
 オークの懐に潜り込んだシルが、魂を喰らう拳でオークの鳩尾を穿つ。
 悶絶するオーク。
「おぬし等には怨みはないが、ドン・ピッグとやらを恨むのじゃな!」
 オークの目に映ったのは、楽しそうな笑みを浮かべるドルフィン。ドルフィンが放った電光石火の蹴りは、風を巻き起こし、オークの胴と首を切り離すのだった。
 

 オークたちとの戦闘を終えたケルベロスたちは、戦闘の後片付けに追われていた。
「こわれたままじゃ、こうふくはこないです」
 戦闘で壊れた路地裏を治すのは、ウルトゥラ。
「わたしは襲われた女性の様子を見に行くよ」
「じゃあ、わたしが案内するよ」
 火蘭とリューインは、安全な場所に避難させた女性の許に向かう。
「覗いたら、ダメだからね?」
 着替えを行う前に、そう笑みを浮かべ言うシルに、男連中は背筋に冷たい物を感じ、黙って頷くのだった。
「今回はドン・ピッグは現れずか。残念じゃのう」
 と腕を組みながら、オークの死骸を掃除するドルフィン。ただその眼は死骸ではなく、別の場所に向けられている。
「輝いて見えるぜ」
 そう言い、熱い視線を向ける地外。地外とドルフィンの眼が合い、二人は眼を逸らすでもなくただただ熱い視線を向ける。
 着替えも、路地裏の片付けも終わり火蘭とリューインの帰りを待つケルベロスたち。
「ハルナ、大人しくしているっすよ」
 吹雪はそうサーヴァントのハルナに言い、スマホを弄りながら二人の帰りを待つ。
 そうしていると、女性の介抱を終えた火蘭とリューインが戻って来る。
 女性の無事を知り、六人のケルベロスたちはホッと胸を撫でおろす。
「帰ってゆっくり寝たいが、風呂は必須だよなぁ」
 柚月の言葉に、ケルベロスたちの脳裏にオークの姿が過り、帰ったら自分たちもお風呂に入ろうと心に決め、各々帰路につくのだった。

作者:缶屋 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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