●不治の病
重グラビティ起因型神性不全症。
それを最も脅威に感じているのは意外なことに究極の戦闘種族として名高いドラゴンである。
竜十字島に、たった一度の侵入を許したがため、広まった『定命化』としてデウスエクスに忌避されている病を避ける方法、それは地球に住まう定命の者からの憎悪と拒絶。
そのために行なわれた八竜による正面攻撃の結果は、ドラゴン側にとって散々たるものだったと言ってもよい。
「慈愛龍の名において命じる」
ゆえにドラゴンは憎悪と拒絶を撒き散らすために自らが動くのではなく、再び配下を活発に動かすことに切り替える。即ちドラグナーに竜牙兵。
「オーク大神官よ。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶とを与えるのだ」
そしてオーク。
「全ては、このイケメンにして絶大なる力を秘めた大神官たる我にお任せください」
オークを操るドラグナー、ギルポーク・ジューシィに呼び出されたオーク大神官は恭しく頭を垂れた。その無根拠な自信と物言いにギルポークは軽い溜息をついたが鼻息を荒くしているオーク大神官は気付かない。
「必ずや、ご期待にお応えいたしましょう」
「……わかった、期待せずに朗報を待っているぞ」
「ははぁ!」
オーク大神官は腹を揺らしながら魔空回廊へと向かう。憎悪と拒絶を撒き散らすため、彼にとって最もふさわしい狩場へと赴くために。
●神の言葉
『清楚』 『清廉』 『純潔』
部下を伴ったオーク大神官が狙ったのは、そんな言葉が似合いそうなミッション系の女子校であった。
「なんですか貴方は!? 神聖な学び舎に一体、何を」
講堂で行なわれていた全校集会に、突如として乱入してきたオーク大神官に、尼僧服の老いた女性が気丈にも立ち塞がる。
「枯木に用はない。我の有り難き言葉の邪魔をするな」
オーク大神官は立ち塞がった女性を突き飛ばして壇上に立った。その醜い容姿に女生徒達がざわめく。
「我のイケメンぶりに沸き立つのは無理もない。しかし暫しの間、お静かに願いたい」
そしてオーク大神官は下卑た視線で、女生徒達を舐めまわすようにして見下ろした。オーク大神官の生唾を啜りあげる音をマイクが拾い、講堂に響き渡る。不快な視線と音に女生徒達が竦み上がった。
オーク大神官は、女生徒達の怯えた視線にひどく満足したように鼻を鳴らしてから語り始める。
「ここでは神による無償の愛を学んでいると聞いた……諸君ら、定命の者にとって神とは我らのこと! そう、即ち我こそが大神官にして神!」
一部の女生徒は、熱弁を奮うオーク大神官の目を盗んで、こっそりと外へ逃げ出そうとする。だが講堂の全ての出入り口はオーク大神官の部下が外から封鎖していて固く閉ざされていた。
「我は諸君らに無償の愛を捧げよう。諸君らは身を持って、我の教えの素晴らしさを知ることが出来る。神の子を孕み、聖母となれることを股を開いて喜ぶがいい」
締めくくられた言葉に、講堂はシンと静まりかえる。オーク大神官の演説に、女生徒達は恐怖から罵倒することもできず、かといって賛辞を送ることもできず、ただただ困惑するだけである。
そんな煮え切らない態度にオーク大神官は、呆れたように首を振った。
「イケメンで大神官たる我の言葉を理解できぬ不信心者ばかりか……よかろう、頭で理解できぬのであれば、身体に教え込むのが手っ取り早い」
オーク大神官は袖口から垣間見えていた触手を好色そうに蠢かす。その触手が女生徒の身体に伸ばされた時、講堂内は堰を切ったような金切り声に支配された。
●新たなる蠢動
黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)は集まったケルベロス達に神妙な表情を見せる。
「このまま引き下がるわけないと思ってたっすけど……ドラゴンが新たな活動を開始したようっす」
仕掛け人はオークを操るドラグナーである、ギルポーク・ジューシィ。直接の事件を起こすのは、その配下であるオーク大神官と部下のオーク達である。
オーク大神官は、ミッション系の女子校を占拠し、生徒達を宗教で洗脳して自分と部下のハーレムに入れようと考えているらしい。このままでは汚れを知らぬ花々は無残に散らされてしまう……。
「……ってことは無いみたいっす。大神官なんて名乗ってるみたいっすけど、特殊な能力とかあるわけじゃないみたいなんで、洗脳とかそんなのは出来ないみたいっす」
だが、放置しておけば『大神官である自分の演説に洗脳されない不信心者』として女生徒達はオークの慰み物にされた挙句、皆殺しとされるだろう。
「女生徒さん達が集められている講堂の出入り口は、全てオーク大神官の部下のオーク達に抑えられているっす。けれど、それは逆に言えばオーク達は、それぞれの出入り口に分散している、ってことになるっす」
分散しているオーク達を一斉に撃破し、講堂内の女生徒達を解放し、オーク大神官を撃破する。
それが今回の目的となる。
ダンテは続いて、講堂の詳しい状況を説明し始めた。
オーク大神官は演説の邪魔になるのか、はたまた最初に一人だけで美味しい思いをしたいのか、部下の全てを講堂の出入り口に配置している。
「講堂に通じる出入り口は、正面に一つ、横に非常口が一つ、そして舞台裏の裏口。合計、三つっす。女生徒さん達が避難に使えるのは正面口と非常口っすから、この二つは絶対に抑えてほしいっす」
裏口は警備が他の二つに比べて甘いが女生徒達の避難には使えない。しかし、ここを抑えなかった場合はオーク大神官との戦闘の際に配置されていた部下が加勢してくる。
上手く出入り口を確保した場合においても、女生徒達が解放される様子をオーク大神官が、ただ黙って見ているだけというのは無いだろう。
また、女生徒達はオーク大神官の凶行によってパニック状態に陥っている可能性がある。
様々な要因が絡みあい、軽々には臨めない状況ではあるが、それでもとダンテは頭を下げる。
「こんな卑劣な真似は絶対に許しちゃいけないっす! 女子校を占拠したオーク大神官達から女生徒さん達を助ける、皆さんの活躍を、自分は期待してるっす!」
参加者 | |
---|---|
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374) |
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721) |
緋々野・結火(爆炎の復讐鬼・e02755) |
アドルフ・ペルシュロン(緑の白馬・e18413) |
メレアグリス・フリチラリア(聖餐台上の瓔珞百合・e21212) |
間藤・輝子(美少女・e24003) |
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410) |
ティアイエル・エルンシュタット(誓戦士は抜けぬ楔に囚われて・e25739) |
●三班
事前に講堂の見取り図を入手したケルベロス達。構造を頭に叩き込んだ後、制圧すべき箇所を目指す。
アドルフ・ペルシュロン(緑の白馬・e18413)は隠密気流をまとって裏口へ。他の七人は、三人と四人のふた手に分かれて、それぞれ正面口、非常口へと急ぐ。
非常口では三体の部下オーク達が、耳を扉にくっつけて中の様子を窺っていた。
メレアグリス・フリチラリア(聖餐台上の瓔珞百合・e21212)は、そんな部下オーク達の前に身を晒す。
その姿に部下オーク達は身構えたが、直後、警戒心は下心へと変貌する。
「あの……中にさ、入れてくんねーかな……? あたしに出来ることなら何でもするからさ!」
半脱ぎのコートに薄手のタイトミニ。奥に見え隠れする陰に『何でも』の魔力。部下オーク達の思考がピンク色に染まりかける。
「Blazing ShotーIgnition」
緋々野・結火(爆炎の復讐鬼・e02755)が放った炎の弾丸がオークの一体を焼き尽くす。
「昔取った杵柄ってヤツだね……私の武器は歌だけじゃないんだよ!」
シルヴィア・アストレイア(祝福の歌姫・e24410)は雷刃突でオークの体を刺し貫いていた。同時に乾いた銃声が響き、倒れたのは最後の一体。
「ミッション系……訓練生時代を思い出します。だからこそ、なおさらあの人たちを無事に助け出さないと……」
ティアイエル・エルンシュタット(誓戦士は抜けぬ楔に囚われて・e25739)は自身の血と名、そして誓いが刻まれた愛銃を手に、非常口を見据える。視線をそのままに、彼女は大きく翼を広げた。
シルヴィアも、メレアグリスの後ろに回って抱き抱えるようにし、光の翼を展開する。
結火が扉に手を添え、確認するように振り返る。
顔を見合わせた四人は軽く頷き合い、非常口が大きく開け放たれた。
「私の美少女っぷりを……その目に焼き付けろっ!」
一方、正面口ではシスター服に身を包んだ間藤・輝子(美少女・e24003)が輝いていた。美少女っぷりに魅せられたのかどうかは定かではないが、部下オーク達は動きを止まる。
絶好のチャンスをシヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)が掴む。
「カジャス流奥義、サン・フレア!」
太陽を想起させるほどの火球は、二体のオークを焼き払った。辛うじて難を逃れた一体は背を向けて駆け出そうとする。
「私の狙いになったのが運の尽き。賽の目持って、河原へ流れろ!」
その背に賽の目の数字、二十一の風穴が穿たれる。
モモ・ライジング(鎧竜騎兵・e01721)は一息ついて、アメを口の中に放り込む。
「ダモクレスによる体育館占拠事件を思い出す事件だな」
シヴィルの脳裏に、半年ほど前に赴いた小学校が浮かぶが直ぐに意識を切り替える。
「オーク大神官……ニャント大神官と被ってるよ、あいでんてーの危機だねっ」
深刻そうに話しかける輝子だが、当のニャント大神官は呆れて首を振っているようにも見えた。
シヴィルは咳払いを一つした後に、翼を大きく羽ばたかせた。輝子も応じるように翼を広げ、モモもきっちり着込んだケルベロスコートの裾を整え直す。
準備を整えた三人は、蹴破るようにして講堂内へと突入していく。
●真のカリスマ
オーク大神官の触手が女生徒の肌に触れようとした時、二つの出入り口が殆ど同時に開かれた。講堂中の視線が、飛び込んできた複数の影に集まる。
「ケルベロスだ。助けにきた! 桃色の髪をした者たちの指示に従って避難を開始してくれ!」
翼飛行で、女生徒達の頭上から大音声を張り上げたのは、頼もしくも重武装モードとなったシヴィル。後ろには輝子とティアイエルが続き、オーク大神官に向かってゆく。
「非常口はこっちデース!」
結火は、重武装モードの上にサキュバスミストを放って、非常口の側で誘導を始める。
「正面口に近い方はこちらです! 非常口近くの人は非常口に逃げてください!」
正面口ではスタイリッシュモードと隣人力を併用したモモが、その場でぴょんぴょんと跳ねながら女生徒達を誘導しようとしていた。
結火の特徴的な口調に、モモのジャンプ。
注目を集める方法は違えど、共通する桃色の髪は、事態の急激な変化で半ば呆けたようになっていた女生徒達をハッとさせる。
「ケルベロスアイドルの登場だよ!ここは私達に任せて、安心して逃げてねっ!」
「地獄の番犬が偽りの神様を喰らいにやって来たぜ!」
人一人を抱えてることで、先を飛ぶ三人から遅れながらも、プリンセスモードとなったシルヴィアは背を押すように声をかける。
抱えられたメレアグリスも、スタイリッシュモードを発揮しながらラブフェロモンで女生徒達を勇気づける。
絵に描いたようなヒーロー像を示したケルベロス達に励まされ、恐怖に身を竦めていた女生徒達はゆっくりとだが着実に出入り口へ向かい始める。
僅かな流れの内にオーク大神官は事態を把握する。
二つの出入り口が制圧されたこと。侵入者の目的が自身の妨害であること。
「女ばかりが七……我のイケメンぶりも時には厄介となるものだ……裏口はどうなっている?」
そして最も重要なこと、即ち侵入者が全て女であることを悟った。
オーク大神官は一直線に自分へ向かってくるケルベロスから視線を外さず、裏口へ声を投げる。
「……い、イジョウナシッス」
扉越しのくぐもった返答に、オーク大神官は口端をニヤリと歪める。すぐ援護に来るように指示を出す。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参!」
シヴィルはオーク大神官の前へと降り立ち、高らかに名乗りを上げた。
「信心深い学生さんたちを冒涜するような真似は、私がさせません!」
避難する女生徒達とオーク大神官の間にティアイエルは着地する。
「私は美――」
オーク大神官は三人に向かって触手を伸ばした。
「どこの誰かは知らぬが、飛んで火に入るなんとやらとはまさにこの事」
着地の隙を狙う的確な攻撃と、部下達とは明らかに異なる力強い触手は、オーク大神官が伊達で襲撃作戦の指揮を任させれているわけではない事を物語っている。
シヴィルとティアイエルは触手に捕らわれる直前に、身を捩り、武器を掲げることで完全な拘束は避けた。しかし不快な臭いを放つ粘液に塗れた触手に、表情が強張る。
「私が誰かわからない……? 見てのとおりの美少女さっ」
輝子は完全に締め上げられていた。それでも名乗りきる逞しさに、同じく触手に捕らわれたニャント大神官は、呆れた溜息をついてるようであった。
「ほぅ。では美少女とやらをイケメンたる我の愛をもって吟味しようか」
オーク大神官は鼻を下衆に鳴らし、触手を蠢かせる。
「愛は押し付けるものではありません! 相手の気持ちを重んじる事が第一なんです!」
「重んじてるとも。なればこそイケメンで大神官、そして神たる我の子を孕む、至上の喜びを与えようとしているのだ」
反発したティアイエルの言葉に、オーク大神官は余裕をもって答える。
「神官とは神に仕える者だと思っていたのだが、神が神官を兼任とはな。貴様の信徒はよほど人材不足なのだな」
身体を弄る触手の不快な感触はともかくとして、眼前で翼飛行から地に降りる不利は織り込み済み。オーク大神官の意識を向け、避難誘導の時間を稼ぐため、不利の中であえてシヴィルは挑発する。
挑発に聞き捨てならないものがあったのか、それともメレアグリスを抱えたシルヴィアが壇上に辿り着くのが、あと僅かなのを見て取ったのか。オーク大神官は締め上げる触手の力を強める。
「大神官殿、援護にきたっす!」
増援を得たことでオーク大神官は勝利を確信する。だが部下の言葉に、並のオークにはない知性の響きを伴っていることを不審に思い、振り返る。
「ケルベロスの、っすけどね!」
振り返ったオーク大神官の視界にカブリオレのタイヤが飛び込んでくる。肥えた体躯に似合わぬ敏捷性を発揮して、オーク大神官は触手を引き戻して攻撃を受け流す。しかしアドルフは畳み掛けるようにしてオーク大神官の体を稲妻突きで貫く。
アドルフの奇襲にオーク大神官が気を取られている隙に、メレアグリスは飛び降りるようにして着地。シルヴィアはそのままバイオレンスギターを取り出して「紅瞳覚醒」を奏でる。
「私の歌を聴けーーっ! ってね♪」
シルヴィアの声が大気を震わせる度、捕われていた三人の身体に残る不快な感触を消えていく。
メレアグリスは演台に駆け寄ってマイクを手に取る。
「さあ、あたしの可愛い子羊ちゃん達、安心して表に出てな! 規律正しく落ち着いて、ね!」
その言葉に、壇上で行われていた戦闘を見守っていた女生徒達の不安は払拭され、彼女達は足早に外を目指す。
「……どうか、お気をつけて!」
最後の女生徒が正面口から出る間際、ケルベロス達へ声援を送る。それを傍で聞いたモモは、余裕を見せるようにポケットからチョコを取り出して口に含んでから、笑顔で応えた。
女生徒の背を見送った後、モモは柔和な表情をスイッチを切り替えたように一変させ、スリルを感じさせる戦場へと身を投じるため、壇上へと向かった。
●美少女(反論は許さない)とイケメン(自称)
態勢を整えたケルベロス達がオーク大神官を包囲していた。
オーク大神官は服を脱ぎ捨て、背中の触手と身体を誇示している。長く太い触手が無秩序に蠢き、ケルベロス達を牽制していた。
「イケメンたる我の肉体美を拝めるとは……諸君らは果報者だな」
未だにオーク大神官は無根拠な自信に満ち満ちていた。
「八竜で襲撃してきたかと思えば、今度はこのような木っ端を遣わすとは。デウスエクスはいったいなにを考えているのだ?」
得物を構え直しながらシヴィルの口から疑問が漏れる。
「知れたこと。人間どもに憎悪と拒絶を与えるがため。我はそれだけには留まらず愛すらも与えようというのだ」
オーク大神官は愛の営みを象徴する動きを始める。触手とは別の、己が武器を魅せつけ誘うように。
「そんなの愛じゃないよ。只の野蛮で暴虐的な独り善がりの愚考の極みよ!」
モモのクイックドロウが、オーク大神官の『武器』を砕かんと襲いかかる。オーク大神官は予期していたかのように避けて、触手から粘液を滴らせて、お返しとばかりに噴きかける。
それが溶解液であると、過去の経験で知っていたアドルフは、モモの前に滑り込んで攻撃を受けた。
お目当てを剥けなかったオーク大神官は不満気に鼻を鳴らすが、その瞳は次の獲物を見定めている。
ヒールのため動こうとする結火、何やらチラチラと見え隠れするメレアグリス、もう一度しっかりと身体を味わってみたいティアイエル。
後方の三人を狙って、オーク大神官は触手を一気に伸ばした。
「今度はよく狙って、確実に……!」
二度は絶対に嫌だと言わんばかりにティアイエルは迫り来る触手を避け、撃ち落とす。しかし触手の執念さは尋常ではなく、相殺には至らず自身を守ることだけに留まる。
一人は逃したものの、オーク大神官の触手は結火とメレアグリスの二人を捉えて、締め上げるよりは愉しむように動き出す。
(「……見誤ったか」)
無遠慮に胸や太ももを這う触手に、結火は険しい表情を浮かべるが、難を逃れた火墨に視線を送る。
「……そんなに突っ込みてーのか? でも駄ぁ目! テメエみたいなゲスい輩に開く股なんざねーよ! おととい来やがれ!」
触手が際どい部分にまで及んでもメレアグリスは表情に余裕をもたせ挑発的な態度を崩さない。その様子にオーク大神官は生唾を垂らす。
隙だらけに見えるオーク大神官だったが瞳はケルベロス達へ鋭く向けられていた。だが、その警戒には穴があった。
軽々に手を出せぬ均衡を、サーヴァント達が崩す。背後から近づいた火墨が金縛りで動きを止めて、カブリオレがキャリバースピンで脚を引き裂き、ニャント大神官がキャットリングを打ち込む。
意識の外からの攻撃にオーク大神官は狼狽し、それを逃さずケルベロス達は喰らいつく。
「守護者に祝福を…! 罪人に罰を…!」
シルヴィアの捧げた歌が内なるグラビティを暴走させ、内部からの蚕食にオーク大神官が苦悶の声を漏らした。
苦痛に揺れる醜い姿をシヴィルは稲妻突きで、その場に釘付けにする。
「我が、このような……!」
オーク大神官は触手を振り回して周囲を薙ぎ払おうとしたが寸前、モモのサイコフォースで触手が弾ける。
「……決めろ、間藤!」
「輝子ちゃん、いっちゃえー!」
「決めてくださいっす、輝子さん!」
仲間の声援を受けて輝子は応える。
「任せて! だって私は」
反論は許さない。そう高らかに宣言するように。
「見よ、私が美少女だ!」
美少女が輝いていた。
眩い輝きはオーク大神官はおろか講堂全体ををも白に染めていく。
「まさか……イケメンの我が……」
全てが光に包まれた世界で、オーク大神官の口惜しそうな言葉だけが微かに反響した。
●ヤレヤレ
カブリオレは『たおるけっと』を大量に積み上げて奔走していた。アドルフは気を遣ったのか戦闘後、即座に隠密気流で気配を殺して講堂へのヒールを行っていた。
ティアイエルも講堂内の意匠に、自身の過去を思い返しながら戦闘の余波で破壊された箇所を探して直す。
多感な女生徒達にとって今回の事件は辛いものになった。
シルヴィアは柔らかな歌声で、そんな女生徒達を励ましている。メレアグリスと結火は、触手に捕らわれた際に、かなり衣服が乱れることになったので『たおるけっと』を受け取った後、女生徒達と言葉を交わして心身を癒やして回っていた。
ちらほらと話しかけてくる女生徒に応対していたモモだが、それらが去ると手持ち無沙汰となる。口内でアメを転がして、何気なく視線を壇上へ向ける。
そこではシヴィルと輝子が、倒れて朽ちゆくオーク大神官を油断無く見下ろしていた。
「何故……イケメンの我が、このような……」
ぶつぶつと呟き続けるオーク大神官にシヴィルは引導を渡そうと武器を構えたが、それを輝子は手で制した。
輝子はオーク大神官に語りかける。
「イケメンを名乗るのは着眼点は悪くないけど、ズレてたね」
オーク大神官が目だけを動かし見上げる。
「名乗るなら美少女! 美少女たらんとする心だけが自分を輝かせるのさ!」
輝子、渾身の決めポーズ。
オーク大神官は困惑するようにシヴィルを見るが、見られた側もどう反応してよいのやら。そうこうしてるうちにオーク大神官の目が不本意に濁って閉じられる。
なお、輝子は決めポーズ継続中。
結果的にオーク大神官の最期を、一人で看取ることとなったシヴィルは視線を彷徨わせ、ふとニャント大神官と目が合う。
こういった時の反応をよく心得たニャント大神官は、器用に肩を竦め溜息をつくように口を尖らせた。まるで「やれやれ」と言っているように。
作者:蛸八岐 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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