紳士的なオーク、その名もオークジェントルマン!

作者:沙羅衝

 マントの下に白衣という奇妙な格好をしたマッドドラグナー・ラグ博士が、目の前のオークに語りかけていた。
「計算では、お前の子孫は強力なオークになる筈なのだがなァ」
 シックなスーツを着こなしながら、パイプを燻らせるそのオークはラグ博士の言葉を聞き、口に煙を溜めながら話す。
「それをお望みならば、すぐにでも、私と女性との愛の結晶を作り上げて見せましょう」
 彼はオークジェントルマン。オークの中でも異端の存在だ。
「といいつつ、成功した試しはないだろう……そうかッ! 普通の女性でダメなら、こういうのが好みの男性どストライクだという女性の元に送りつければいいのか。ふむ、それならいけるか!?」
「私の紳士的魅力で愛を囁けば、どんな女性でも私の虜になるのは間違いないですよ。紳士的に」
「わーおッ! その根拠の無い自信が、どこから来てるか全くわからないよ」
 両手を広げながらも、ラグ博士は魔空回廊を展開していった。

 ここはホテルの24階の一室。一室とは言っても、かなり高級なホテルであり、広く、窓からは街の夜景が一望できた。
「あー。今日の取引先の部長さん。私の事をあんな目で見て、いやらしいったらないわ」
 その一室に小さなアパレル業の会社を営む女社長、工藤・春花(くどう・はるか)が、接待の仕事の愚痴を言いながら、グラスにロックアイスを入れ、ウィスキーを注ぐ。
「タイプじゃないと、嫌悪感しか浮かばないわ……。さて、呑みなおしだわ。何処かに良いオトコは居ないかしら……」
 春花は夜景を見ながらグラスに口を付ける。その時、彼女の背後から野太い声が聞こえてきた。
「ではお嬢さん。私ではいかがですかな?」
「誰!?」
 そう言った春花が見た先には、スーツを着こなしたオークが立っていた。そう、オークジェントルマンだ。
「誰でも良いではないですか」
 オークジェントルマンは彼女からグラスをそっと取り、素敵な出会いに乾杯と言いながら、その琥珀色の液体を自らの口に運ぶ。
「……紳士で豚、まさに、私の理想が現実化したわ」
「お嬢さん。いかがですかな? 私と一晩……」
「よ、喜んで。さあ……抱いて!」
 春花がそう言った時には、既に自分でブラウスのボタンを外していた。

「あー。皆、よう集まってくれたな。嬉しい……で」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)は、どこか頭を悩ませているようだ。
「あんな、竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めたようやねんけど、今回の事件はオークの品種改良を行っているドラグナー、マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した、オークジェントルマンちゅうオークが起こす事件やねん」
 オークなのに、ジェントルマン? 集まったケルベロスがざわついた。
「ま、まあ落ち着いて聞いてな。このオークは、愛のある繁殖以外は行わないっちゅう、まあある意味欠陥オークやねんけど、その戦闘力はその分高いらしいわ。で、ここからが問題やねんけど、その子孫はより高い能力を持つようになる可能性があるっちゅう話や」
 それを聞いたケルベロスが、思い思いに話はじめ、更にざわつきが大きくなっていく。その反応を予測していた絹は、苦笑いをしながら、そのざわつきを手で制す。
「ええか、続きや。ちゅうても、愛のある繁殖をオークが行う事は、ほぼ不可能、と思われてた訳や。実際に経験はゼロ。……チェリーや」
 その言葉を聞いたあるケルベロスが、意味深な表情をするが、絹は構わず続ける。
「ただ、ラグ博士が秘策を打ち出してきた。オークジェントルマンを理想のタイプとする女性の寝室に、オークジェントルマンを送りつける作戦を行ったんや」
「ん? という事は、それは愛の繁殖行動、即ち男女のまぐ……」
「おーっとっと! リコスちゃん。その先は言わんでええ。言わんでええんや……」
 絹があわててリコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)の口を塞ぐ。
「……まあ、成立してまうっていう訳なんよ。ただ、やってええ事と悪い事があるからな、急いで現場に向かって、オークジェントルマンを撃破して欲しい」
 絹の話を聞いたケルベロスは、絹に詳細を尋ねていく。
「今回の敵はこのオーク一体や。オークやから触手系の攻撃をしてくるで。踏み込むタイミングは、このオークが女性の下に現れた時や。
 場所はホテルの2400号室で、鍵とかは話をつけてあるから、支配人さんにもらってな。
 ただ、問題なんは現場にいる工藤・春花さんっちゅう女性やな。特に戦闘の邪魔はせえへんやろけど、このオークを愛してしまっている状態やから、避難誘導とかには素直に従ってくれへんやろう。放っておいたら、オークの応援くらいはするやろけど、まあ、煩いやろな。このオークも紳士的に反するから、愛されている女性に危害は加えへんし、その辺りの判断は頼むわ」
 絹はそう言いながら、横に居るリコスに発言を促す。
「ああ、申し遅れた。リコス・レマルゴスだ。オークの様な者が好みとは、良く分からんが……。宜しく頼む」
「ちゅうことや。皆、頑張ってや!」
 絹の声を聞き、ケルベロス達はヘリポートに足を向けたのだった。


参加者
アイヲラ・スレッズ(羅針盤の紡ぎ手・e01773)
シロン・バルザック(彗星少年・e02083)
テレサ・コール(至高なる白銀と呼ばれた少女・e04242)
メアリベル・マリス(マーダーグース・e05959)
高乃湯・あづま(自称合法ロリ美少女狐・e07337)
雷波・まかね(九歳で人生に負けた・e08038)
タバサ・ミロード(ウェアライダーの鹵獲術士・e18154)
霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)

■リプレイ

●いざ、現場へ
「お……、ろう……し……か」
 テレサ・コール(至高なる白銀と呼ばれた少女・e04242)は、『2400』とプレートにかかれた扉の前でうつむきながら、ぼそぼそと何やら呟いていた。
「ミス・コール……。それは一体何かしら?」
 メアリベル・マリス(マーダーグース・e05959)が、そのテレサの声と姿を見て問う。テレサは愛用の円形をしたアームドフォート「ジャイロフラフープ」と、どうやら自作らしい肩パットにトゲトゲの装飾を施し、顔にはピエロのようなペインティングをしていた。
「色々と、勉強してきました。問題は御座いません」
 そう言って、ボーっとした表情を向けるテレサ。
「いっそ末永く爆発しろ! といった所なのじゃが、デウスエクスに一般人好きにさせる訳にはいかんのじゃ」
 高乃湯・あづま(自称合法ロリ美少女狐・e07337)は、絹が浮かべたような少し困ったような顔をしながら言う。
「……紳士で豚が理想なのはまぁ、分かるんじゃが。背中のアレは気にならんのじゃろうか……」
 タバサ・ミロード(ウェアライダーの鹵獲術士・e18154)はあづまの台詞に頷きながら、そのぬらりとしたモノを想像し、困ったものなのじゃとため息をつく。
「そういう趣味、といえばいいのか……。当然だが、私にはさっぱりわからん」
 リコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)がゲシュタルトグレイブを肩に担いで言う。
「でも、強いオークを残そうとするために女性に近づくのは許せませんわね。普通の恋愛であれば女性の応援をするのかもしれませんが、そういうわけにはいきませんわっ」
 霧城・ちさ(夢見るお嬢様・e18388)もリコスの動作にならい、武器の準備をする。
「なんかもう勝手にやってろって感じだけど、そうも言ってられないよニャ……」
 シロン・バルザック(彗星少年・e02083)も、ちさに同意し、頷く。
「兎も角。止めますわよ!」
 そう言ったアイヲラ・スレッズ(羅針盤の紡ぎ手・e01773)が扉の鍵であるカードを取り出す。
「キャー!!」
 その時、扉の向こうから女性の悲鳴が聞こえてきた。その声を聞いたアイヲラが壁に備え付けられたカードリーダーにカードを通し、勢いよく扉を押し込んだ。
 バン!
「おっと、そこまでじゃ」
「そうはいきませんの!  地球を破滅に導くその逢瀬、私達ケルベロスがお邪魔致しますわ!」
 あづまとアイヲラがそう言って、部屋になだれ込む。
「な、何だと言うのですか? 貴方がたは!?」
 そう言った太い声の主は、窓際でなだれ込んで来たケルベロスと窓を見比べる。
 窓の外には真っ黒い隠密服を着た、雷波・まかね(九歳で人生に負けた・e08038)が壁歩きで張り付いていた。
「げへへへ……」
 まかねは見るからに、ゲスな顔をしながら、ニヤニヤと二人を見ている。
 その隙に、ケルベロス達は二人を一気に包囲していく。
「ケ、ケルベロスですと!? ぬう……邪魔をする気ですかな?」
「勿論じゃ。じゃが、おぬしが真の意味で春花を愛して、我らと同じように定命化するというのなら目を瞑ろうぞ」
「ふ……それは、あり得ません。ええ、あり得ませんとも」
 タバサの問いに、オークジェントルマンは、そう答える。すると、ならば仕方ないと言い、ケルベロス達はお互いに頷きあった。

●正義と悪
 ガシャァン!
 鋭い音と共に、まかねが窓を打ち破り、部屋に侵入する。
「今じゃ!」
 あづま声を発すると、テレサがそのまま、オークジェントルマンに一気に近づき、通り過ぎた。
「え!?」
 テレサはそのまま春花の後ろを取り、腰に腕を回し、ファミリアロッドを彼女の喉元に突きつけた。
「お前を……ろう人形にしてやろうか」
 テレサは用意していた台詞を、一定のトーンで言う。しかし、身長が春花の胸程しかないのと相まって、迫力は、無い。
「くっくっく、お嬢さんを巻き込む訳にもいかんじゃろう?」
 あづまはそれでも、啖呵を切る。
「……私がそれを意に介するとでも? 見れば、子供ばかりではないですか。さあさあ、子供は帰って寝る時間ですよ」
 と言いつつ、オークジェントルマンには、はっきりと分かる汗が、玉のように浮かんできていた。
「紳士さま!」
 春花が叫び声を上げ、テレサを振りほどこうとする。しかし、テレサは春花の腕を取り、後ろ手に掴む。
「っつ!」
 その拍子に、春花のたわわに実る白い胸が下着と共にブラウスから零れ落ちた。
「あ……あ……。お、お……」
「どうしたの? シロンくん!?」
 ちさがそう言って見ると、シロンは春花の大きな胸に釘付けになってしまっていた。
「え? ……シロン……くん?」
「ふふ……」
 シロンは俯きながら顔に手を当て、不敵に笑う。そして、一呼吸開けて顔を上げる。
「オレはこの人に惚れた! 本当に紳士だというんなら、彼女をかけて勝負しろニャ!」
 右手の人差し指をオークジェントルマンに指し、声を張り上げるシロンの姿に、その場が静まりかえる。
「……この状況で、紳士的とは、片腹痛いですな。ケルベロスともあろう者が、己の欲に負けてしまった様ですな」
「何だとニャ!?」
「……いや、シロン。流石に説得力がないぞ」
 リコスのツッコミに、静寂という名の肯定が一同を包み込む。
「そ、そうですね。紳士らしく、決闘と致しませんか、ミスタ。本当にミス工藤を愛してるのであれば、受けてくださいますよね?」
 メアリベルが、咳払いをしながら、静寂を破る。
「貴方も紳士の振る舞いを心得る者であれば、愛でるべき女性を決闘に巻き込むような真似は致しませんわよね?」
「……その決闘。受けるとしましょう。そして、約束いたしましょう。お嬢さんを巻き込まないと。但し、お嬢さんを放していただこう。紳士的に解決と言うならば、それがスジと言うもの……」
 アイヲラの声に返答するオークジェントルマン。
「くくく、このまま春花殿を人質に降伏を迫っても良いのじゃがな、それでは面白くない。ほれ、邪魔じゃ。下の階で精々愛する男の勝利を祈っておくのじゃなぁ!」
 あづまがテレサに、ほれ、放してやるのじゃと言い、テレサは春花を放す。
「紳士様!」
 すると春花は、オークジェントルマンに駆け寄っていく。
「少し待っていていただけますか。必ずや、この決闘に勝ち、貴女と……紳士的に結ばれましょうぞ」
 オークジェントルマンにそう言われ、頬をバラ色に染め、コクリと頷く春花。
「では春花嬢。こっちだ」
 リコスがそう言い、春花を扉の外に連れ出していく。
「あ、そう言う流れになっちゃったか。これは無駄になたかな」
 まかねはそう言いながら、グラスに注いだなめこ汁を見つめていた。まかねはとことんその場を壊そうと準備をしてきていたのだが、その琥珀色の液体は、寂しげに湯気を立てていたのだった。

●紳士的決闘
「逃げる……という選択は、貴方にはないですわね?」
 ちさが爆破スイッチを押しながら語りかける。すると、前に立つテレサ、メアリベル、あづま、アイヲラと自分自身の背後にカラフルな爆発が発生していった。それはまさに、戦闘開始の合図となった。
「ミス工藤が欲しければ、メアリ達ケルベロスに勝ってごらんなさい!」
 ブラックスライムを放ちながら、叫ぶメアリベル。そこに、メアリベルのビハインド『ママ』が切り込む。
「甘いですな」
 その二人の攻撃を避け、背中の太い触手を鞭のようにしならせ、ちさに打ち込むジェントルマン。
 ドウッ!
 鈍い音を立て、その攻撃に吹き飛ばされるちさ。
「強い……という話は、本当のようですわ。……繁殖など、させません!」
 ちさは、倒れながらも体勢を立て直す。そこへちさのウイングキャット『エクレア』と、シロンのボクスドラゴン『メテオ』がグラビティを使って彼女の傷を癒していく。
「おっぱ……社長さんは、オレのものニャ!」
 シロンはそう叫びながら、カラフルな爆発が発生したメンバーに、更に雷の壁を立たせる。
「……」
 そのシロンを冷たい目で見つつ、フォートレスキャノンを打ち込むテレサ。その砲撃は、ジェントルマンの触手をかすめる。
「あ……、え、演技。演技ニャよ、テレサさん。って皆もニャよ!」
 そう言いながらも、他の周りの視線に気付き、取り繕うシロン。まさに、後の祭り。
「まあ、いんじゃね。シロンはおっぱいに目が行ってしまた。健全な男の子だもんねー」
 まかねはそう言いながら、ジェントルマンの足元から溶岩を噴出させる。その攻撃を避けるジェントルマンだが、そこへアイヲラが距離を詰めていく。
「トォォォォ!」
 そう言いながらアイヲラは、ジェントルマンの懐に飛び込み、思いっきり平手を振り回した。
『いっせーのー、せいっ!』
 パァン!
 激しい音を立て、ジェントルマンの頬を叩く。
「淑女の張り手とは、中々に効くものですな……」
 そう言いながら、後ろに下がるジェントルマン。
「結構タフそうじゃな……。流石は紳士と名乗るだけの事はある……のかの?」
 あづまがゲシュタルトグレイブの突きを打ち込む。しかしその突きは触手によって叩き落された。
 ケルベロス達は攻撃を加えていくが、中々有効なダメージが与えられない。しかも、ジェントルマンの攻撃は、通常のオークよりも早く、そして重いものであった。
「他の女性の誘いには乗らんで一途なのは、他の節操のないオークどもよりは、評価するんじゃがのぅ……」
 そう言いながら、タバサは掌から「ドラゴンの幻影」を放つ。すると、ジェントルマンの体から炎が巻き起こった。
「でも、結局はオークじゃろ……。目的は、愛を得ること……ではなかろう?」
 タバサは、自分でそう言いながら、重要な事に気が付いた。

●紳士の本心
 戦いは持久戦の様相となっていた。ケルベロスの攻撃は、何とか当たるようにはなってきたが、それでもオークジェントルマンは倒れない。
「ほほほ! 私の自慢の触手はどうですかな!?」
「ぐ……!」
 触手に締め上げられるタバサ。
「タバサさん!」
 シロンが気力溜めを放ち、その締め付けから解放させる。
「すまんのう……」
 タバサはシロンに礼を言いながら、少し考え事を始めた。
「こっちもお返しよ! ぎりぎりと締め上げるの! ボンレスハムみたいにね!」
 メアリベルが攻性植物の蔓をジェントルマンに伸ばしていく。
『ハックション、みんな一緒に倒れましょう!』
 するとその蔓が、ジェントルマンの腕に絡みつき、棘を刺しこむ。
「ぬうっ!」
 メアリベルの攻性植物が真っ赤な薔薇を咲かせていく。
 畳み掛けるようにちさが電光石火の蹴りで触手の一本を吹き飛ばし、テレサがジャイロフラフープを回しながら叫ぶ。
「汚物は消毒だー」
 そう一定のトーンで言いながらも、弾丸を撃ち込むと更に触手の一本を飛ばしていった。
『ちょっ、まって!まって!まって!タイム!』
 まかねが改造スマートフォンを連打すると、ジェントルマンの動きが更に鈍くなって行くのが分かった。
「くくく、動けないだろう」
 まかねも先程の悪ノリが、まだ少し抜けていないらしい。
 動きが鈍くなったジェントルマンに対し、アイヲラが二本のルーンアックスを叩き込んだ。
「ぐ……。い、いけませんね。流石の私でも、これ以上は……。しかし、ここで諦めるわけには、行かないのです。紳士的に」
「あのさ……ちょっと、聞きたかったんじゃが。お主は春花を愛しているのか?」
 ふと疑問に思った事をぶつけるあづま。
「そうね、ミスタ。あなたは体めあてじゃなくて、本当にミス工藤を愛してるのかしら?」
 メアリベルも続いて問う。
「我も先程からそれを考えておったのじゃ……。お主、お前は愛が欲しいのか、それとも……」
 タバサが前に出る。そして一呼吸置いて、続ける。
「ただ、結局はただヤリたいだけじゃろう!?」
 はっと息を飲む音が部屋に聞こえる。ブスブスと炎を上げる音だけが、静かに響く。すると、ジェントルマンが口を開いた。
「まさに笑止……ですな。それがオークの本質。存在意義そのもの。ただ私は愛のある契りを致したいのです。紳士的に」
「……やはり、そうじゃったか」
「あー。結局はオークだということだねー」
 肩を落とすタバサに、携帯をさわりながら同意するまかね。その反応に構わず、ジェントルマンは続ける。
「まあ、貴女がたでは、私の真の触手を動かすという事すら、敵いますまい……」
 そう言いながら、嘆かわしいといわんばかりのポーズを決めるジェントルマン。
「そんなモノ、別に見たくもないのじゃ! 春花の目を覚まさせてやれば、おぬしは結局、可哀想な童貞野郎に逆戻りじゃ!」
「私にかかれば、私を愛してくれる女性を見つける事など造作も無いことでしょう。紳士的に」
 あづまの言葉にも耐えるジェントルマン。それでも自分の主張を押し通す。
「あの……紳士として、貴方から女性を愛するという事はないのでしょうか!? 努力という手段もありますわよ!」
「ふふ……。私はどんな時でも女性を愛せますよ。この触手によって……。ふふふ、それが私の愛。私は愛されれば愛される程に燃え上がるのです。紳士的に」
 アイヲラの台詞に答えながらも、ジェントルマンは自分の思想に酔いしれ、口角をわずかに上げた。
「……それって、ただ一方的に愛されるのを待つだけニャよ!」
 シロンも思わず突っ込みを入れる。
「先程から紳士紳士というが……、じゃあ紳士的にどうするつもりだ?」
 春花を下の階の安全な場所に待機させ、戻ってきたリコスが腕組みをしながら入ってくる。
「ちょっ、リコスさん。 それ聞いてどうすんニャよ……」
「いや、こいつにとって紳士とは、何かなと。そう思っただけだが」
 真面目な顔で答えるリコス。そして、ジェントルマンは胸を張ってこう言ったのだった。
「勿論、この自慢の触手を紳士的に使って……」
『結局はただの変態紳士じゃねーか!』
 全員の言葉が合わさり、ケルベロス達の総攻撃を受けたオークジェントルマンは、塵と化していったのだった。

「あ……、貴方達が来たという事は……」
「ええ、わたし達が勝利いたしましたわ」
 疲れた表情のケルベロス達。ちさが代表して口を開いた。
「そんな……」
 分かりやすく肩を落とし、瞳に涙を浮かべる春花。
「……もう、私にはあんな素敵な男性は現れないのかな」
「素敵……か」
 その声を聞き、遠くを見つめるタバサ。テレサはその姿を見て、自作の肩パットを外す。
「彼は、立派に戦ったよ。貴女も、彼の勝利を信じて待っていたの。立派に、在るべき女の姿だったのよ」
 メアリベルがそう言ってハンカチを渡す。
「恨むなら、恨んでくれてよいぞ」
 あづまも続けて言う。しかし、それ以上の言葉が見つからない。一人になった春花は、少し落ち着き、自分が恋した相手を冷静に判断していたようだが、傷心の様子は計り知れない。
 暫くして、意を決したアイヲラが進み出る。
「あの方は愛と繁栄を得るべく、命がけで行動致しましたわ! ならば貴女様も真実の伴侶が欲しければ、当たってぶつかれで成せば成るですの! 先程の情熱が有れば絶対幸せになれますわ!」
「本当に!? でも、私のタイプの男性が変わってるのは知ってるわ」
 そこへ、まかねが春花の肩を叩く。
「さっきはごめんね。でも、世界は広いよ。きっと春花にぴったりの人もいるよ」
 そう言いながら、自分のスマホを見せる。
「……そうね。まだ見たことが無い世界もあるものね。貴方達には、迷惑をかけたわ。救ってくれたのよね。有難う」
 春花はまだぎこちないながらも、ケルベロスに頭を下げた。
「そうだニャ! 元気だすニャよ! 何だったらオレが……」
 そう言うシロンに呆れた顔の一同だが、次の春花の言葉で、シロンの想いは打ち砕かれた。
「ああ……ごめん。少年。ショタはもっと無いわ」
 にっこりと言う春花に、皆の笑い声が響き渡った。
「そ、そんニャー!」
 シロンの叫び声を除いて。

 かくして、オークジェントルマンの悲劇は、ケルベロス達が防いだのであった。しかし、その背後にはマッドドラグナー・ラグ博士が存在している。
 確かに欠陥ではあったが、その戦闘力の一端を見たケルベロス達。改造オーク達の謎も深まるが、今宵は一つの事件の解決にほっと胸をなでおろすのであった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 20
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