それいけ! 空飛ぶオーク

作者:山田牛悟

●飛行オーク
 マッドドラグナー・ラグ博士が難しい表情で、目覚めたばかりの数体のオークを見つめる。
「ムムム、量産型とはいえ、実験ではこれ以上の性能は出せないなァ。これ以上の性能を得るには、新たな因子の取り込みが不可欠だ」
 不満気な博士。じっと考えこむ。
「そうだ!」
 博士はポンと手を打つと、オークに命じた。
「行け! お前達が産ませた子孫を実験体にすることで、飛空オークは更なる進化を遂げるだろう!」
「ぐぼぼー!」
「ぼー!」
 命じられたオークたちは女性を襲える興奮に歓声を上げる。
 博士の表情も明るい。
「われながら天才だァ!」
 踊り狂うオークと博士。にぎやかな実験室であった。

●空を自由に飛びたい
 河川敷。あたたかな日。
 新学期早々に授業をサボった女子高生が3人、土手の芝の上に寝転んでいた。女子高生たちは会話するでもなく、ただ気持ちよさそうにまどろむ。
 あるものはシャツの胸元を大きく開け、あるものは足を組んでふとももがスカートから大きく露出している。ランニングする人が不審な目で見るのも気にしない。
 遠くでいくつかの飛翔体が風を切る音がした。
 ぴゅううううううう。
 風切り音はみるみるうちに近づく。
 ドッゴーン! ドッゴーン! ドッゴーン!
「きゃあっ!」
 衝撃。いくつもの巨大な物体が土手をえぐった。
 もくもくとたちこめる土埃の中から触手が飛び出して、女子高生たちに襲いかかる。
 飛行オークであった。

●ヘリポート
「竜十字島のドラゴン勢力が新たな活動をはじめたようじゃ」
 深刻な表情のエッケハルト・ゾルゲ(ドワーフのヘリオライダー・en0178)。
「今回事件を起こすのは、なんと空飛ぶオークじゃ」
 空を飛ぶと言っても、高いところから滑空するだけの能力らしい。
「じゃが、空から標的を見つけてピンポイントで降下するというのはやっかいじゃ」
 その降下先の女性を守り、飛行オークを撃破する。それが今回の任務だ。
「今回の飛行オークは5体じゃ」
 戦闘能力は通常のオークと大差ないものだという。
「ただ、やっかいなのは、オークらが滑空しながら襲撃対象を探すということじゃ」
 女性たちを早い段階で避難させてしまうと、オークの降下ポイントが変わることになる。事前に避難させるなら、風切り音が聞こえてから。オークの到着まではわずかな時間しかない。
 また、襲撃対象の女性たちの行動が少し変わるだけでオークの好みから外れ、対象を変更する可能性もあるという。
「その危険があるときは、女性ケルベロスが代わりにオークの喜びそうな行動をとるのがよかろう」

「オークの着地の瞬間って無防備そうですね」
 ゼノ・スウィート(シャドウエルフのガンスリンガー・en0179)が思ったことをつぶやいた。


参加者
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)
コルネリア・エインヘリア(虚無究竟の剣客・e04311)
月篠・灯音(犬好き・e04557)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
カティス・フォレスター(おひさま元気印・e22658)
姫川・みけ(にゃんにゃんファイター・e23873)
神楽火・勇羽(蒼天のウォーバード・e24747)
四方堂・幽梨(片耳のジャージ剣士・e25168)

■リプレイ

●陽気
 初夏を予感させるような陽気。野外でのんびりと過ごすには最適な日であった。
 河川敷は平日とは思えないほど賑わっていた。
 土手の芝では3人の女子高生が昼寝を楽しんでいる。
 その横手には同じような女子高生姿のコルネリア・エインヘリア(虚無究竟の剣客・e04311)。背中には竹刀袋。
 プラチナチケットの効果でサボり仲間のように感じても、3人からすれば見知らぬ女子高生であることは変わらない。しかし3人は大して気にしない。声をかけてこないのはむしろ粋であると感心さえしつつ、女子高生たちはふたたびまどろむのである。
 黒い仔猫姿の円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)も、すぐ近くで陽光を楽しんでいた。
 土手の上にキャンプ用テーブルセットを設置したのはエルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)。月篠・灯音(犬好き・e04557)と四方堂・幽梨(片耳のジャージ剣士・e25168)、神楽火・勇羽(蒼天のウォーバード・e24747)も手を貸した。テーブルクロスまでセットする用意周到ぶりだった。
 やがてエルネスタがテーブルにサンドイッチと熱々の紅茶をひろげる。
 紅茶に口をつけると、エルネスタは陽光を楽しむかのように目を細め、しかしその傍目では女子高生たちを確認している。エルネスタはスケッチブックを広げた。
「えっち、スケッチ、サンドイッチ……なーんて」』
 すらすらと鉛筆を走らせると、ランジェリー姿のマネキンたちが次々に姿を見せる。こんなときでもデザインの仕事を忘れないのだ。
 灯音はというと、無言で文庫本のページを送っている。ときおり考えこむようにため息をつくと、目の端で女子高生たちを確認する。
 土手の下で準備運動をしているジャージ女子は幽梨。
 少し離れては、カティス・フォレスター(おひさま元気印・e22658)がゆっくりと散歩している。ひなたぼっこが趣味というカティスは、心から楽しんでいた。
「いい天気ですねぇ。釣れますか?」
 カティスは作らない柔和な笑顔のまま釣り客に声をかけて、いつの間にか移動させてしまった。
 川辺で水切りにいそしむのは猫耳パーカーの勇羽だ。ミニスカートがひらひらと舞い、無邪気さを象徴するかのような柄入りおパンツが見え隠れする。
「とうっ!」
 小石が水面を勢い良く跳ねていく。
「……七、八!」
 びしりとガッツポーズ。
「自己新記録である」
 えっへんと胸を張る勇羽。
「……はっ!? いやいや、目的を忘れてはおらぬぞ!?」
 我に帰る勇羽であった。
 無邪気というよりは無防備。それは姫川・みけ(にゃんにゃんファイター・e23873)である。
 横向きに寝転ぶみけはカーディガンのボタンも留めない。その下のキャミソールが体の形に沿って流れている。ブラジャーをつけていないことは明らかであった。豊かな乳房は重力に従ってその形を歪め、覗く谷間をやわらかく強調する。
 陽の光を浴びて、みけの尻尾も機嫌よく動く。揺れるミニスカートの裾が、みけのおしりをやさしく撫でた。
 しかし実際のところ無意識の動作であったわけではない。羞恥心に、みけの頬は熱を帯びていた。
 女子高生3人は視線を感じるとまではいかずとも、人の気配の多さに多少の居心地の悪さを感じたらしい。
 身をよじり、軽く身なりを整えた。
 しかし、無防備な女性の姿は周囲にいくらでもある。

●風切り音
 ぴゅううううう。
 風切り音が聞こえた。
 一同が身構えて、空を見上げると、逆光の中に小さな5つの点があった。
 オークである。
「オークが空を……本当に飛んでますね」
 コルネリアがつぶやく。まるで悪夢。きっちり始末しなければ。
 ケルベロスたちはエルネスタのアウトドア用テーブルに向かって一斉に駈け出した。
 着地が予想される地点から最も遠くにいたのは勇羽である。
 その勇羽がゼノに声をかけた。
「ゼノ!」
「はい!」
 ゼノは応えると、無言で殺気を放つ。周囲300メートルの一般人は、ゼノから離れるように動くはずだった。
 エルネスタは急いでテーブルセットの椅子の下に隠していた縛霊手・ミシンハンドをひっつかむと、上空に向ける。
 構えもそこそこに、穿鵠御霊箭術、御霊を載せた針を発射した。
「それじゃ……みたまさん、おねがい」
 発射された針は、慣性とホーミングとのせめぎあいで大きく螺旋を描きながら上昇する。
 針はキラリと小さく光り、1体のオークに吸い込まれた。
 ケルベロスはそれぞれテーブルセットの下に隠していた武器を手に取る。
「……速やかに撃ち落しましょう、放っておいていいことなんか一つもありませんし」
 カティスはそうつぶやくと、両手でリボルバーを上空に向け、弾丸を放った。タイミングを合わせるように、ビハインド・タマオキナの金縛りもオークを襲う。
 本当は着地の瞬間を狙っていたのだが、オークにはもうケルベロスの存在を気取られているはず。それでも方向を変える様子は見られない。
 それなら早々に攻撃して、一般人の避難に回ろうということらしかった。
 その意図を汲んだのか、幽梨は既に3人の女子高生に指示を出していた。
「……行こう」
 幽梨は女子高生たちを促した。
 混乱した様子ながらも素直に従う女子高生たちに、幽梨は少し意外な気持ちがした。

 そして、やはりオークは急降下をやめない。いや、もうやめられないのだ。
 1体目のオークが地面に激突する直前。キアリの咆哮、ハウリングが敵をつつむ。
 キアリのサーヴァント・アロンの地獄の瘴気が命中したのもほぼ同時であった。
 また、遠くからダッシュしてきた者があった。高校の制服にヘッドフォンが特徴的。飛び入りで戦闘に加わろうというその姿は、エステル・ティエストである。
「豚ども、さっさと死んじゃえ!」
 エステルは叫び、1体目が着地する瞬間を狙って螺旋手裏剣を放った。回転する手裏剣は螺旋状の軌跡を描き、オークに直撃した。
 さらに次のオークが着地しようというところに、みけが旋刃脚。
「えーいっ!」
 みけの体がくるりと舞い、遠心力によってミニスカートがふわりと開く。ピンク色のパンツが丸見えになったかと思うと、みけの足がオークの顎をとらえた。
 先頭を降下していた2体のオークは受けた攻撃で体勢を崩し、頭から地面に激突した。
 ドッゴーン! ドッゴーン! ドッゴーン!
 立て続けに残りのオークも着陸する。
 地面がえぐれ、土埃がたちこめる。
 その正面にはキアリ。逃げ出した女子高生たちの背中を守るように、ケルベロスたちが隊列を整えた。

●特殊な触手
 オークを引き付けようと服をはだけさせているのはコルネリア。
 みけもノーブラにもかかわらず腕を抱えるようにして、その胸をさらに強調する。薄手のキャミソール。オークには透けて見えたことだろう。
 このふたりに、土煙の中から触手が襲いかかった。
 先頭から2体の初手は潰したが、残りのオークは瞬時に体勢を整えていたのである。
「きゃっ!?」
 みけの声。触手に締めつけられ、カーディガンが半ば脱がされている。触手がすべり、白い肩からキャミソールまでも抜け落ちそうになる。触手は胸元に入り込み、やわらかな乳房をすくい上げるように圧迫している。
 コルネリアにも触手が絡む。わざとずらしていたスカートが、触手の間の水かきのようなヒダにひっかかり、さらにずり下げられている。
 灯音が回復に回った。ライトニングウォールがふたりを回復し、前列全員の異常耐性を高める。
「ふふん、地に足を着けてしまえばただの豚である! 覚悟するのだ!」
 勇羽だ。上着を脱ぎ捨てると、一瞬光の翼を震わせる。背中から全身へとまばゆい光が広がっていく。
 光の粒子へと変じた勇羽が1体のオークに突撃した。
 そしてエルネスタの攻撃。
 縛霊撃が1体のオークの頭部をとらえた。
 先頭を飛行していたあのオークである。
 ダメージが蓄積していたのか、あっけなく倒れた。
 哀れにもこのオークは、一度も女性に触れることなく昇天したのである。

 戦闘は続く。やがて一般人の避難にあたっていたふたりも戦列に加わる。
 カティスはさっそくリボルバーの銃弾をばらまいている。
 幽梨は刀を自在に振り回し、敵の行動を阻害していく。やがてその効果は攻守に効いてくるだろう。
 事実、ふたりが加わってからは戦闘は一方的な展開になりつつあった。
 激しさを増す戦闘の中、キアリは八竜討伐に参加したことを思い出す。なんとかヴァイスカノーネを撃破したものの、ケルベロス側の払った犠牲は大きい。自身も重傷を負った。自分にもっと力があれば……。
 しかしあのとき芽生えたその感情は、いつものような卑屈や自嘲ではなかった。
(「強くなりたい」)
 Nutcracker。キアリは全体重、全加速度を足先に乗せる。そしてその衝撃は、余すところなくオークの金的に伝わった。
 金的を本当に強打すればうずくまる程度では済まない。オークは口角から泡を吹き、白目をむいて仰向けに倒れた。
 ダメージも蓄積していた。もう再起は不可能である。

●飛べない豚
 残る3体にもダメージが蓄積している。オークの取る行動はひとつ。回復である。
 しかし一瞬早く、灯音が唱える。
「……紫、燃え逝け」
 紫色の焔が2体のオークをつつんだ。
 直後、オークが天を仰ぎ咆哮する。しかし十分な回復量は得られない。
 戸惑い、必死に雄叫びを上げ続けるオークの姿を前に、灯音は不敵に微笑んでいた。
 その灯音の背後で一発の銃声がした。
 カティスが時空凍結弾を放ったのである。銃弾は灯音の横をかすめ飛び、オークの額に命中する。
「コルネリアちゃん!」
「カティスちゃん止めは私が!」
 カティスの声掛けを予期していたかのように、ほぼ同時にコルネリアが飛び出す。
「雷神、建御雷よ! 剣に宿りて敵を討て!」 
 快晴にもかかわらず、太陽に雲がかかったかのように一瞬薄暗くなる。コルネリアの雷の霊力をまとった斬霊刀・布都御魂がオークを刺し貫いていた。
 残り2体。
 幽梨は戦況をみて、十分な余裕があると判断した。もはや味方にジョブレスオーラをかけつづける意味はない。
「これから抜き打つ。避けてみろ……!」
 踏み込み。達人の踏み込みは瞬間移動にも等しい。鞘に収まっている刀が小さくかちりと鳴った。刀の軌跡も見えない。オークの脇腹に鋭い切り傷だけが残っていた。
 畳みかけるのは勇羽だ。
「貴様の魂は栄誉あるヴァルハラの園には相応しくないのだ。ヘルヘイムの底に消え去るがよい!」
 漆黒をまとった右手がオークの胸部に命中すると、その衝撃は胸骨と肋骨を破壊しつくし、心臓にまで達した。
 血流が止まる。全身を襲う酸欠にオークはもがき苦しみ、やがて、ときおりぴくりと痙攣するだけの肉塊となった。
 最後の1体。ケルベロスたちの攻撃が集中する。オークはひとたまりもない。
 トドメは、キアリのNutcracker、金的蹴りであった。
 豚面は苦悶の表情で倒れた。

 コルネリアは諸行無常いろは斬で、自身に残ったダメージを回復している
 灯音も仲間のヒールを終えると、土手のえぐれた部分をヒールする。そのままにしておけば、豪雨等の際、決壊の原因ともなりかねないのだ。
 突然灯音の携帯が鳴る。恋人からの電話らしい。
「うん、こっちは平気。無事に済んだよ。ん、夕飯買って帰る。そちらも気をつけて」
 灯音は電話に応えながらも、ヒール作業を続けている。
 エルネスタはというとテーブルセットを片付けなければならない。ということで、持ってきていたお茶や軽食類を消費していた。
 幽梨は空を見上げる。
「紅い奴は……流石にいなかったか」
 空飛ぶ豚とはいえど、そこまでの洒落っ気はなかったようだ。

作者:山田牛悟 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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