●ギルポークの企み
薄暗い、地下水路の中。臭気ただよう薄闇の中で、フードを目深にかぶった一人の男がオークと相対している。
「ドン・ピッグよ、慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶とを与えるのだ」
フード姿の男の名は、ギルポーク・ジューシィ。オークを操るドラグナーの彼に名を呼ばれたドン・ピッグは、くわえた葉巻の煙を漂わせながら下卑た笑みを浮かべる。
「俺っちの隠れ家さえ用意してくれりゃ、あとは、ウチの若い奴が次々女を連れ込んできて、憎悪だろうか拒絶だろうが稼ぎ放題だぜ」
ひっひっひ、と引きつった笑い声を上げるドン・ピッグに、ギルポークはやや呆れたような声音で答える。
「やはり、自分では戦わぬ、か。だが、その用心深さがお前の取り柄だろう。――良かろう。魔空回廊で、お前を安全な隠れ家に導こう」
「おぅ、頼むぜ、旦那」
間もなく魔空回廊が開き、2つの影が吸い込まれていった。
●路地裏に迫る魔の触手
東京都足立区の夜の繁華街。酒が入っているせいか、上機嫌で通り過ぎていく表通りの人々を、カスミはぼんやりと眺めていた。
彼女が座っているのは、薄汚い路地裏。高校の卒業式の日に両親と喧嘩して家を飛び出してからもう数週間経つ。最初の頃はネットカフェに泊まっていたが、所持金が底をついてからは路地裏で寝るようになった。
面倒ごとを嫌う人々は、彼女の存在に気付いても目をそらす。たまに好奇の目を向けられるが、下心を隠しもしないその視線が嫌で、表通りから視線を遮るように、ゴミを積み上げその中で眠るようになった。――そんな日々にももう慣れた。
いつものように、うつらうつらとしていた、その時。
「……うまそうなのが一人でいるなァ?」
ゴミの臭いとは明らかに違う異臭にカスミはハッと目を覚ます。自分の目の前にある見たこともない異形の怪物に、声にならない叫び声を上げ、身をよじって逃げようとする、が。
「おっと、逃がしはしねェよ」
きゃきゃきゃ、と下品な笑い声を上げながら、別のオークが道を塞ぐ。カスミは逃げ道を探すが、いつの間にか仲間が増えており、狭い路地裏で完全に囲まれてしまっていた。
恐怖のあまり声も出ず、がくがくと震えるカスミの体に、1本、また1本、とオークの触手が巻きついていく。気味の悪いぬめぬめした触手で自由が奪われていくなか、それでも必死に抵抗するが、かなわない。
「なに、悪いようにはしねェって。……ちょっとオレの子を孕んでくれればいいだけよ?」
カスミの抵抗をあざ笑うかのように、オークたちは彼女の服を破いていく。肌が露わになり、そして――。
「いや、いや、やめてっ……!!」
――しかし、彼女の叫び声は、闇に消えていった。
●ヘリポートにて
「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めたようです」
ヘリオライダーのセリカ・リュミエールの表情は硬い。集まったケルベロスたちを見渡すと、彼女はぎゅ、とタブレットを抱える腕に力を入れる。
「今回事件を起こすのは、オークを操るドラグナーである、ギルポーク・ジューシィの配下のオークの群れです。そして、その群れを率いるのは、ドン・ピッグというオークです」
セリカは、東京の路地裏で女性が攫われていること、そして特に存在が消えても怪しまれないような弱者が狙わていることを説明する。
「ドン・ピッグは、非常に用心深く配下を使って女性を攫わせています。襲われる女性は、その場で配下たちに暴行された後、秘密のアジトに連れ込まれるようです 」
用心深く作戦を行っているので、既に連れ去られた被害者もいる可能性がありますが……とセリカはつぶやき、ひとつ息をつくと、さらに説明を続けた。
「皆さんに向かっていただくのは、東京都足立区の繁華街となります。オークに狙われているのは、カスミという18歳の女性です。ここ数週間は同じ路地裏に寝泊りしているので、場所は特定できています」
ただ、とセリカは付け加える。
「オークがカスミさんに接触する前に、皆さんがカスミさんに接触すると、オーク達は別の対象を狙ってしまいます。なので、皆さんはオークとカスミさんが接触した直後に現場に突入する事になります」
ケルベロスたちが静かに頷く。セリカはタブレットの画面に目を走らせると、淀みなく続けた。
「現場にいるドン・ピッグの配下のオークは6体です。攻撃手段は背中から生えた触手で、触手で敵を強烈な勢いで叩いたり、締め付けたり、溶解液を放ったりするようです。また、欲望に満ちた雄叫びを上げて、攻撃力を高めると同時に回復する手段を持つものもいるようです」
6体もいるのがやっかいだが、単体攻撃しかないのが救いだろうか。
戦いに想いを馳せるケルベロスたちを、改めてセリカは見渡す。
「オークたちの暴虐なふるまいを許すことは絶対にできません。どうか、皆さんの力で、女性たちを助けてください」
そして、深々と頭を下げた。
参加者 | |
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グレイ・エイリアス(双子座の奪還者・e00358) |
ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458) |
雛祭・やゆよ(ピンキッシュブレイブハート・e03379) |
ドットール・ムジカ(変態紳士・e12238) |
アシュレイ・クラウディ(白翼の騎士・e12781) |
島津・竜子(降臨せしは天照竜・e20141) |
赭嶺・唯名(紫黒ノ蝶・e22624) |
天神・優桜(鬼道の紫姫巫女・e22811) |
●救出作戦
深夜の繁華街。もうすぐ日付が変わろうという時刻にも関わらず、南北に伸びる表通りは依然として多くの人々で賑わっていたが、カスミがいる路地裏はそんな喧騒とは程遠く、暗く、静まり返っている。ケルベロスたちは、彼女がいる路地の入口とビルの屋上の二手に分かれて見張ることにした。
「かよわい女の子を狙うオークの所業……許せないのよさ」
雑然と積み上げられたゴミの中で浅い眠りに入りつつあるカスミをビルの屋上から見下ろしながら、雛祭・やゆよ(ピンキッシュブレイブハート・e03379)が唇を噛む。
「オークですか……本当に許せない敵ですね。女性に対して乱暴を働くなどあってはならないこと、絶対にカスミさんを無事に救出しましょう……!」
オルトロスのシキを側に従えたアシュレイ・クラウディ(白翼の騎士・e12781)が答える。彼の視線の先には、カスミだけでなく妹の天神・優桜(鬼道の紫姫巫女・e22811)の姿もある。
(「ユラに何かあったら、私は一生自分を許せないでしょう。――しっかり見てないと」)
血は繋がっていないが、大切な家族。一方、地上にいる優桜も、共に参加する兄を思っていた。
(「……守られてばかりではダメ。しっかりしてるところを見せなくっちゃね」)
目的の路地裏は、表通りから東に曲がったところにある。路地入口の北側の壁に身を寄せながら、ポケットに準備したキープアウトテープを再度確かめると、誰ともなしに呟く。
「オーク……女性に対して、許せない行為を行うんだね……同じ女性として、絶対に許さないんだから……!」
「ええ、女ばかり狙う薄汚いクソ豚が性懲りもなく……容赦する必要は一切ないわね。叩き潰してやるわ」
初めての依頼ということもあり、志気の高い島津・竜子(降臨せしは天照竜・e20141)の言葉に、制服姿でボクスドラゴンのネフィリムを抱えた赭嶺・唯名(紫黒ノ蝶・e22624)もこくり、と頷く。
路地の入口の南側では、ジューン・プラチナム(エーデルワイス・e01458)が隠密気流を発動させながら周囲を注意深く観察している。そのすぐ近くには、今回のターゲットであるオークたちのボス、ドン・ピッグと因縁のあるグレイ・エイリアス(双子座の奪還者・e00358)が静かに佇んでいた。
「――アイツはいない、いない、いない……俺は俺。大丈夫、大丈夫……」
「グレイ?」
何かをこらえるように低く呟くグレイを、恋人のドットール・ムジカ(変態紳士・e12238)が見やる。表情は仮面で見えないが、その声に心配の色を感じ取り、グレイは努めて平気そうな調子で答える。
「因縁深い相手が関係している事件だからね。ほっとけないのと……色々複雑な感じなんだよ」
そう言うとは苦笑する。実は、彼女は恋仲にあるドットールにもあまり詳しく過去の話はしていない。それでも、彼女の笑顔を守りたい、何か手がかりをつかみたい、と決意して依頼に臨んでいるドットールは静かに答える。
「私も……全力でサポートするよ」
少し強張った顔をしつつも、グレイがうなずいた、その時だった。
不意に路地裏の空中がぐにゃりと歪んだかと思うと、次々とオークが現われ、カスミを取り囲む。その数は、予知どおり6体。――ケルベロスたちの緊張が一気に高まる。
「……うまそうなのが一人でいるなァ?」
じり、じりとカスミとの距離を縮めるオークたち。だが、ここで間に入ると予知と異なってしまうため、唯名は歯がゆい思いで注視する。
(「今はまだだめ、あと少し……!」)
必死に逃げようとするカスミだが、オークに回り込まれてしまう。
「おっと、逃がしはしねェよ」
カスミの腕を、オークが触手を絡めて捕まえる――!
「鎧装天使エーデルワイス、少女のピンチに只今参上!」
翼非行路地の反対側へ回り込んだジューンが、軽やかに着地する。
「近くにアジトがあるのかな? それとも魔空回廊で迎えが来るのかな? どっちにせよ逃がしはしないんだけどねっと!」
言うが否や、ジューンはLEDライトをオークに向けて照射する。突然の強烈な光にオークの目が眩んだ一瞬を見逃さず、アシュレイが屋上から飛び降りた勢いそのままに、斬霊刀でカスミをつかむオークの触手を一刀両断する。そしてドットールが地面に倒れこむカスミを抱き上げて飛翔した。
「なんだァ、てめえら! 邪魔すんなァァ!!」
「いいや、悪いが、ジャマさせてもらうぞ……『私』のようなヤツを、増やさないためにもな!」
カスミを追いかけようと伸びるオークの触手を、グレイがロッドから一斉発射した魔法の矢ではじく。脇をすり抜けようとする別のオークに、心眼覚醒した唯名がネフィルムと共に応戦し、竜子も入口を背にして攻撃する。
「だいじょうぶ、あんなばっちい連中には指一本触れさせないだわさ!」
不安そうに運ばれるカスミに、やゆよはにこり、と笑いかける。
ケルベロスたちの必死の応戦の甲斐あって、ついにドットールは路地の入口に到着した。カスミを地面に下ろすと、威嚇射撃を行っていた優桜が彼女の手をとる。
「表通りの安全な場所まで私が一緒に行くよ。――走れる?」
カスミは震えながらもひとつ頷くと、優桜と共に雑踏へと消えていく。それを横目で確認しつつ、残った7人はオークを囲むように陣形を整えた。
●触手との戦い
カスミを連れて逃げている優桜が殺界形成を発動したため、近くを通る人はいない。心置きなく戦闘に専念できる、と悟ったジューンは不敵な笑みを浮かべる。
「さあオーク共! グロ同人みたいな目に遭う心の準備はOK? 答えは聞かないけどね!」
先ほどアシュレイが触手を切断したオークに、ジューンが破鎧衝を放つ。その衝撃でのけぞった敵を、アシュレイが絶空斬で斬り上げると、グレイが服に擬態しているブラックスライムを変形させ始める。
「――見るなよ? こっち絶対見るなよ!!」
大変な姿と引き換えに、鋭い刃となったスライムは、黒い嵐のようにオークたちに襲いかかる。幸い、攻撃は命中し、前方のアシュレイとムジカは背を向けたままだ。
ケルベロスたちの猛攻に、触手を失ったオークはたまらず悲鳴を上げる、が。
「最初のは逃がしちまったが、良く見れば、うまそうなのが3、4、……5人もいるじゃねェか」
女性が多いことを見て取り、他のオークたちが背筋の寒くなるような下品な笑い声を立てる。
「弱そうな奴らからいただくぜィ!」
次の瞬間、オークたちの触手がやや後ろに控えていたグレイ、唯名、やゆよの3人に向かう。
「させんよ!」
グレイを捉えようとした触手は、ドットールによって弾かれる。しかし。
「えっ……あっ! ちょっと! こっち来ないで!」
「ぎゃっ!?」
唯名とやゆよが悲鳴を上げる。見ると、唯名の太ももに、ぬるぬると触手が巻きついている。近くにいたネフィルムが吐いた炎ですぐにそれはほどけ、防具の力でダメージはさほどないが、残った気持ち悪い感触に足がすくんでしまう。
「丸焼きにしてやるわ、クソ豚どもっ!」
竜子の吐いた炎の息は、やゆよの腕に絡みついた触手を焼き払う。
「ありがとう。だけど、やだもう、お風呂入りたいのよさ……」
ぬちゃり、と嫌な臭いの粘液がついた服をつまんでため息をつきつつ、3人の傷が浅いことを確認したやゆよは、癒しの盾を前衛の皆の前に展開する。
「やゆよ、感謝、だよ」
に、と笑ったジューンが、その視線を再び触手を失ったオークへと向ける。ふう、とひとつ息を吸うと、天高くジャンプし、急降下しながら光る跳び蹴りを放った。
「1体ずつしっかり倒していこうっ!」
カスミを安全な場所まで逃がし、路地の入口にキープアウトテープを貼って戦線に戻ってきた優桜が、急所を狙う斬撃を繰り出す。間を置かずアシュレイの時空凍結弾が着弾し、ついに触手を失ったオークは息絶えた。
その後も緊迫した状況が続いていた。
グレイと唯名がバッドステータスをばらまき、前衛のジューンとアシュレイ、竜子の攻撃を後方から優桜が援護する。対するオークも負けじと執拗に女性を狙って触手を繰り出していたが、ディフェンターのドットールとシキ、ネフィリムが体を張って止めに入り、受けた傷はすかさずやゆよが回復した。
そうして、1体、また1体と着実に撃破し、今やオークは残り2体となっていた。
ケルベロス側も決して無傷という訳ではないが、根気強くバッドステータスを狙い続けたおかげで、今では相手の消耗の方が激しい。そんな中、オークは身の毛のよだつような雄叫びで回復しようとする。
「させるかぁ!」
グレイが召喚した氷の精霊と、ドットールの殺神ウイルスがそれを妨げる。続けざま、優桜の炎弾が襲い掛かると、たまらず片方のオークが逃げようと隙間へと駆けようとする、が。
「そう簡単に逃がさないわよ!」
竜子が壁を走り、オークの逃げようとした場所に回りこむと、右手の爪を思い切り振り上げると竜爪撃を放つ。後から追いついたネフィリムも加勢する。
「闇に隠れて敵を討つ~ってね!」
やゆよが歌うのは、ダークヒーローが活躍するアニメソング。迷いに心を蝕まれ、たまらず膝をついたオークに唯名が放ったグラビティブレイクが、5体目のトドメとなった。
「さて……他の被害者の存在や黒幕のアジト。あなたには色々と聞きたいことがありましてね」
残ったオークは目の前の1体のみ。ドットールが武器の切っ先を喉元に当てながら、冷たい声で言い放つ。他のメンバーもいったん攻撃の手を止め、やゆよはその隙に小さくロボットアニメの歌を口ずさみ、皆を回復し始めた。
「単刀直入に聞くよ。ドン・ピッグとギルポークはどこにいるのかな?」
ジューンもドットールの横に進み出る。だが、オークは気味悪い笑みを浮かべるだけだ。
「答えなさい、さもなくば……!」
怒気をはらんだドットールの問いに、再びオークはげらげらと笑い声を立てる。ドットールはさらに尋問しようとしたが、す、と優桜がそれを腕で制し、首を横に振る。――これ以上は何も得られそうにない。
「残念だけど……この一撃で沈め! 『英雄の一撃』っ!」
ジューンの光る跳び蹴りはオークの腹部に命中し、その箇所に魔方陣が浮かび爆発する。
「光の力が宿りし剣よ……その力を解き放ち、我が力ここに示せ……!」
アシュレイの光る翼から散った白光の粒子は構えた剣を纏うオーラとなり、吹き飛んだオークに容赦ない一撃を浴びせる。さらに、捕食モードとなったグレイのブラックスライムに続き、ドットールの重い斬撃がオークを襲う。たまらず雄叫びを上げるが、そこに優桜の影が迫っていた。
「純粋な破壊を望む、紅き鬼神よ……私は負けるわけにはいかないの……だから力を貸して……!」
『紅キ鬼神ノ破却』。手にした黒い護符は、兄が無茶しないように自分も戦力になりたい、という想いをのせて、身を包む紅きオーラへと変化していく。そしてそれは鬼神のごとき力となって敵に降りかかる。
それに耐えられず、オークは膝をつく。しかし、ケルベロスの猛攻は止まらない。やゆよが歌う欺瞞のワルツが流れる中、唯名がす、と目を細める。
「斬撃は一つじゃない。さぁ、ミンチにしてあげるよ」
まるで複数の人間がいるかのように、次々と繰り出される斬撃。オークの悲鳴が響き渡る。
「さぁ……薄汚いゲスよ、私の血肉となりなさい……!」
竜子が黒の革手袋をつけた左手で薙刀を握りなおすと、目にも留まらぬ速さで敵を滅多切りにする。それがとどめの一撃となった。
●家出少女に思うこと
最後の1体を撃破し、ケルベロスたちは大きく息を吐く。1体1体の強さはほどほどでも、6体同時に相手をするのはさすがに骨が折れた。
「皆さん、怪我は大丈夫ですか?」
アシュレイとやゆよがメンバーの間を回ってヒールをかけていく。幸い、重傷を負った者はおらず、優桜も辺りを見渡し皆をね労う。
「みな、お疲れさま。竜子も初依頼、完了ね」
「ありがとう」
少し照れた顔で返す竜子に微笑み返すと、優桜はカスミを呼びに向かおうとする。その足元にシキがじゃれついた。
「ユラが行くなら私も一緒に行きますよ」
シキを抱き上げ、アシュレイがにっこりと笑う。
「オークは倒したが、カスミさんも気がかりだ」
「うん、ウチもカスミの事は気になってたんだ。何とか無事に家族の所へ帰してあげたいな」
カスミを迎えにいく2人を見ながら、ドットールと唯名が話す。現場の片付けが大方終わったころ、優桜とアシュレイがカスミを連れて帰ってきた。
「ほんとうに、ありがとう……ございました」
青ざめつつも気丈に感謝の言葉を述べ、頭を下げたカスミだが、改めて見ると、服はボロボロで頬はこけている。助かった安堵で気が緩んだのか、クマのできたその目には涙が浮かんでいた。
そんなカスミの前にやゆよは膝を付き、彼女の左手にそっと右手を重ねる。そして、ゆっくりと話しかけた。
「あたしでよければ話を聞くのよさ。……何があったか教えて?」
カスミは右手で涙をぬぐいながら、かねてから卒業後の進路で両親と意見の食い違いがあったこと、卒業式の日に大喧嘩してしまったこと、ついかっとなって家を飛び出し両親からの連絡も無視しているうちに、もう一度話し合う機会も逃してしまったことなどをぽつり、ぽつりと話した。
「なるほどね……。でも、連絡が取れなくて、きっとパパとママも心配してるのよさ。酷い目に遭うとこだったんだし、ちゃんと謝ってお家に帰った方がいいだわさ」
やゆよが語りかけると、グレイも続ける。
「こんなところに1人でいるのは危険だよ。できれば、両親ときちんと話し合ったほうがいいと思うな」
「事情聴取は後回しでも良いから、まずはご家族に無事を知らせてきてはどうだい?」
言いながら、ジューンはさり気なくケルベロスカードを手渡す。カスミはそれを受け取ったものの、複雑な表情を浮かべている。やはり帰りづらいのだろうか。
「なんなら、家族との間も私たちが取り持つよ」
ドットールの言葉に、ジューンも深く頷く。とりあえず家族に電話をするというカスミに、歳の近いジューンと竜子が付き添っていった。
その背中を見送りながら、ドットールがつぶやく。
「結局、ドン・ピッグに関する有力な情報は手に入りませんでしたね」
「うん、カスミさんは助けられたけど、他にも被害が出ているかもしれない……」
硬い表情のグレイの言葉に、優桜が答える。
「ドラグナーと組んでるってのが気になるけど……この後も根気強く情報を集めていくしかないね」
その言葉に皆が静かに頷いた。
作者:東雲ゆう |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2016年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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