触手で与える憎悪と拒絶

作者:天枷由良

●豚触手たち、出撃
「――グスタフよ、慈愛龍の名において命じる。お前とお前の軍団をもって、人間どもに憎悪と拒絶を与えるのだ」
「ひゃっはー、俺たちの絶倫さを見せつけてやるぜー。……ただし敵が現れたら逃げるぜー」
 命令を下した相手、カラフルなモヒカン頭のオークから返ってきた言葉に、ドラグナーは小さく息を吐いた。
「……期待は出来んが、ケルベロスたちと無闇に戦おうとせぬ方が良いかもしれんな」
「ひゃっはー、その通りだぜー。俺達は滅多に戦わないぜー。戦うのは色気に惑わされた時だけだぜー」
「……」
 これ以上の問答は無用と、ドラグナーは魔空回廊を指差した。
 オークたちは素直に従って、次々と回廊に飛び込んでいく。

「はぁ、今日も疲れたわー……」
 日付も変わろうかと言う頃。
 大阪市内の路地を歩く一人のOLの前に、彼らは現れた。
「ひゃっはー! 女だー、女がいたぞー!」
「囲めー囲めー!」
 見た目にそぐわぬ機敏さでOLを取り囲み、6体のオークたちはジュルリと涎を垂らす。
「ぐへへ……おで、もう我慢出来ねぇよぉ……」
 1体がそう言ったのを皮切りに、襲いかかる触手。
 路地に響いた女性の悲鳴は、短いものだった。

「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めたみたいね」
 ミィル・ケントニス(ウェアライダーのヘリオライダー・en0134)は手帳を開き、予知の内容を語り始めた。
「事件が起こるのは大阪市内の路地。そこでギルポーク・ジューシィというドラグナーから命令を受けたオークたちが、1人の女性を襲うわ」
 オークの群れを率いているのは、グスタフという名のオークのようだ。
「グスタフの配下たちは物凄い好色家で、同時にとても臆病みたいなの」
 どの程度の臆病かと言えば、事件を起こす前にケルベロスの存在を察知すればそのまま逃げ去り、戦いが始まってからも逃げ出す隙を探すほど。
「女性が襲われるまでは姿を隠し、戦い始めてからも敵に逃げ道を与えないような工夫が必要になるわね」
 事件が起こる路地は、車がすれ違うのもやっとの広さ。
 真夜中で付近にある店の類は空いておらず、街灯に照らされるだけの薄暗い場所だ。
「雑居ビルや飲食店や住宅が入り乱れた……何処にでもあるような、表通りから一本入った路地って感じね。距離は大体80mくらいかしら。両端に達するまで、脇道も無いみたい」
 6体のオークたちは、女性が路地の中央まで来た所で前後から半数ずつ、挟み撃ちにするつもりのようだ。
「臆病な性質はともかく、戦闘能力はいたって普通のオークね。触手で叩いたり、刺したり、締め付けたり……あとは溶解液を飛ばしたりと、色々な攻撃をしてくるわ。雄叫びを上げて力を高めたりもするみたいね」
 そこでミィルは手帳を閉じ、少し迷ったような素振りを見せてから再び口を開いた。
「……臆病さだけでなく好色さも随一のオークたちだから、女性のケルベロスが惹きつけるようにして戦えば、逃さずに殲滅出来るかもしれないわね」
 同じ女性としては、あまり勧めたくないのだけれど……。
 そう零しながら、ミィルはヘリオンへ向かった。


参加者
一恋・二葉(暴君カリギュラ・e00018)
ソネット・マディエンティ(藍の往く路は紅く・e01532)
レジーナ・マクスウェル(天空の殲滅機・e03377)
ペーター・ボールド(ハゲしく燃えるハゲ頭・e03938)
風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)
コール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)
柊・弥生(癒やしを求めるモノ・e17163)
衣笠・七海(瞬光の剣客・e24673)

■リプレイ

●豚を囲んで
 薄暗い路地の一角に立つ雑居ビル。
 持ち主の協力を得たケルベロスたちは、屋上に潜み敵の襲来を待っていた。
 コール・タール(多色夢幻のマホウ使い・e10649)と、ペーター・ボールド(ハゲしく燃えるハゲ頭・e03938)が隠密気流を纏い路地を見張っていると、程なく入り込んできた一人の女性が目に留まる。
 彼女を狙って、オークが現れるはずだ。
 ケルベロスたちは音を立てず縁に集まって、突入の瞬間を見計らう。
 
「ひゃっはー! 女だー、女がいたぞー!」
「囲めー囲めー!」
 待ち伏せされていることなど知らず、予知通り路地の前後から分かれて現れたオークは、あっという間に獲物を取り囲んでジュルリと舌舐めずりをした。
 恐怖に身を震わせる女性。
 その顔に興奮を抑えきれず、群れの中の1体が滾る欲望を零す。
「ぐへへ……おで、もう我慢出来ねぇよぉ……」
 触手が白濁とした溶解液を溢れさせ、街灯に照らされてぬらりと光った。
 万事休す。
 短く悲鳴を上げた女性に、豚人間どもの欲望がぶちまけられようとした、その時。
「楽しいか? 楽しそうだな」
 声と共に明かりが向けられ、オークたちはビクリとして目線を上げた。
「あたしも混ぜてくれるって? 馬鹿言うな。寝言は寝て言うがこの世の道理、安眠永眠それならば、寝言を言う権利もあろうかな? 死人に口なしと言うがな?」
 捲し立てるレジーナ・マクスウェル(天空の殲滅機・e03377)を皮切りに、残る7人のケルベロスと4体のサーヴァントが次々に飛び出してくる。
 いち早く逃げ出そうとしたオークの前には、制服姿の衣笠・七海(瞬光の剣客・e24673)が翼とスカートをはためかせ颯爽と降り立った。
(「見た目と違ってチキンなオーク……あぁ、だからっすか」)
 やけに逆立ったオークの頭髪を眺め、七海は一人納得したように頷く。
「イカしてない上にイカ臭いオーク共め……被害を出させるわけにはいかねえ、その触手全部毟ってやらあ!」
 燃え盛る地獄ヘアーを揺らして叫ぶペーターに、オーク達の触手は一気に萎え、しんなりと垂れ下がった。
 だが、過呼吸気味にブヒブヒと鼻を鳴らし、逃げる隙はないかとケルベロスを一瞥したオークは、その半数が女性であることに気がつくと、だらし無く口元を歪めた。
「……ぶひ、ぶひひひひ……」
(「うう……平常心平常心、です)」
 異様な視線を浴び、一恋・二葉(暴君カリギュラ・e00018)は身を竦める。
 年齢の割によく育った彼女の膨らみを覆うのは、薄く頼りなく、首紐の結び目を緩めた濃藍のチューブトップ一枚。
 股下当たりから既に布のないショートデニムジーンズは、その下にある青いショーツをギリギリ隠すのがやっとで、ボタンを外してあるせいか今にもずり落ちそうである。
 これが二葉曰く『露出が多い割に動きやすく確実に殺せるファッション』らしい。
 まんまとそれに釣られたオークは、先程まで襲おうとしていた女性のことなどすっかり忘れ、じわりとにじり寄った。
「な、何するつもり……?」
 自らの身体を抱くように科を作ると、オークの欲情は一気にそそり立つ。
「ブ、ブヒィィィィ!!」
「何って、決まってるブヒィ!」
「ひゃっはー!!」
 触手を乱舞させ、興奮を露わにするオークたち。
「お、お前たちの好きにはさせないんだぞ!」
 胸を強調するセクシーなコスチュームを着込み、少し頬を朱くした風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)が、戦闘スーツに身を包む獣人態へとダイナマイトに変身しながら言ってのける。
 だが、本来なら人々に勇気を与える為の変身は、彼らにとって欲情の種にしか成り得なかった。
「見え……見えた!」
「腰のラインが強調されて……ダイナマイッ!」
「き、貴様らぁ……」
 わなわなと身体を震わせる響。
 このまま付き合わされては、埒もない。
「……さて、オークさん。一緒に遊びましょう♪」
「いらっしゃい。お姉さん達が逝かせてあげるから、逃げちゃだめよ?」
「ヒャーッハー! セクシーなお姉さぁん!」
「何処までも着いてイくブヒィ!」
 ちょっと大胆な服装の柊・弥生(癒やしを求めるモノ・e17163)と、上着はランニングシャツ一枚のソネット・マディエンティ(藍の往く路は紅く・e01532)が手招きすると、 オークたちは女性陣へ向かって我先にと触手を伸ばし始めた。
 こんな豚どもを始末するため、同じケルベロスとはいえ女子の柔肌を危険に晒さねばならないことに至極憤りを覚え、コールは小さく呟く。
「……戦闘開始だ。徹底して潰すぞ」

「ヤー! ハー!」
 奇声を上げ、豚野郎どもが勢い良く触手を振るった。
 彼らに気圧されぬよう、ペーターは色とりどりの爆発で仲間を鼓舞しながら、ライドキャリバーの『ボル』と共に女性陣を守ろうと立ちはだかる。
 だが、触手は「お前など趣味じゃない」と言わんばかりにペーターの頭を撫で、更に伸びていった。
 その先には、着崩した格好の二葉。
「このー!」
 自分より幼い娘を慰み者にはさせるまいと、響がライドキャリバーの『ヘルトブリーゼ』を連れて触手の前に踊り出る。
 しかし6体のオークが操る触手はとても受け切れるものでなく、その中の1本が偶然ベルトを叩き壊してしまった。
「わっ!」
 変身が解け元の姿に戻った響は、立ち上がる間もなく足を掴まれると、ぶらりと逆さ吊りにされる。
「ブヒヒ……たぁっぷり可愛がってやるブヒ……」
 触手と口から汁を滴らせ、ドスドスと近づいてくるオーク。
 あぶれた触手は更に伸びて、ついに目標を捉えた。
「きゃっ……!」
 か細い悲鳴を上げる二葉。
 その小さな身体を包む、濃藍の布の首紐が解れる。
 はらりと胸元まで落ちそうになったそれを辛うじて抱きとめ、なおも伸びる触手にはボクスドラゴンの『蒼海石』が果敢にも身体を投げ打って抵抗したが、オーク達の荒ぶる欲情は抑えきれない。
 先端を鋭く尖らせて向かってきた数本の触手が、今度は腰元から足にかけて掠めていった。
 白い肌に赤い傷が薄く浮かび、デニム地がビリビリと裂ける音がして、青い下着が垣間見える。
「ふ、二葉ちゃん!」
 七海は気を飛ばして治癒してやるが、傷は治れど服は直らない。
 その上、慌てて動いたことで丈の短いスカートがひらりと捲れてしまい、オークたちは品のない歓声を上げながら七海にも触手を伸ばした。
 しかし。
「そう簡単にはやらないっすよ!」
 多少距離があったことが幸いしてか、七海は迫り来る触手を気合で弾き飛ばす。
 来ると分かっていれば、こんな触手なんとでもなるものだ。
 追撃を警戒して身構える七海に、触手は当然のごとく――後ろから回り込んで肢体を絡みとった。
「ひゃうん!」
 冷たく湿っているのに、それでいて熱した鉄のように熱い。
 にゅるんとした奇妙な感触の触手に変な声が漏れてしまい、それは更にオークの興奮を煽る。
(「この……汚らわしい豚どもめ」)
 一刻も早く殲滅してやろうと、ソネットは体内に宿る地獄の瘴気を電磁波に乗せて放った。
「ここは既に私たちの『狩場』なのよ。……アンタらは贄に過ぎないと知りなさい」
 そう、狩りに来たのは此方の方だ。
 ソネットの苛立ちを乗せて瞬く間に戦場一帯へ広がった瘴気は、敵対するものに干渉、動きを阻害するフィールドを形成し――。
「おほぉ!!」
 その最中、ランニングシャツからチラリと覗く艶やかな脇や可愛らしいヘソが、オークの脳を侵してまた興奮させた。
「……チッ」
 汚らしい豚に、コールは不快さを押し殺しながら魔法陣を開く。
「戦う意思を見せずとも、くだらねぇ下心で迫ってこようと、お前らは平等に―――皆殺しだ。叩き潰せ、『戦滅する賢者(パラシュラーマ)』」
「ブヒヒヒ……ヒ?」
 ニタニタと笑うばかりで無警戒だった1匹のオークが、砲弾として迫り来る巨大な戦斧に間の抜けた声を発したのも束の間。
 破壊神が造りし鏖殺の象徴は、一撃の下に豚を両断し、街灯にぶつかる間際で粒子となって消える。
「……ッヒィィィィ!!」
 欲望にかまけていた豚仲間たちが、一斉に現実へと引き戻された。
 やるのは好きだが、やられるのは大嫌いだ。
 あんなものに巻き込まれてなるものか。
 囚えて弄ぼうとしていた響も放り投げ、オークたちは重たい足を必死にバタつかせる。
 そのままケルベロスの居並ぶ間を抜けようと試みた一群に、レジーナは笑いながらアームドフォートを向けた。
「オークは樫(oak)、樫と言ったら可燃物? なれば取り出したるは焼夷弾、燃えよ燃えよと大放出!」
 小気味良い口調に合わせて撃ちだされたナパームミサイルが、2体のオークを業火の中に包み込む。
「さあさ焼き豚、一丁上がり!」
「ぶひゃっ! あつぅい!!」
 表皮をパリッと焼き上げられたオークたちは、身体の端々を燃やしたまま輪を描くように回りだした。
 その中に弥生のボクスドラゴンである『りゅう』が混ざって、ちょろちょろと背を追い回しながらボクスブレスを吐きつける。
 そこに映し出される、人の影。
「私の重さ受けてみろ! ライダーキック!!」
 重力を纏い、空中から急降下してきた響の蹴りにぶち抜かれ、腹に大きな穴を穿ったオークは、爆発四散して粉微塵になった。

 仲間を2体仕留められ、オーク達の心は一段と恐怖に傾く。
 もう惑わされてはいけない。
 とにかく何処かに突撃すれば、この包囲も崩せるかもしれない。
 一番小さくて軽く吹きとばせそうな奴は……と、見回したオークたちの目に留まるのは。
「あ、やっ、こっち見たら嫌……ですっ!」
 目を潤ませ、乱れた衣服を押さえる二葉であった。
 すると悲しいかな、本能は理性を軽く凌駕していく。
「し、辛抱たまらんのじゃぁ!」
 数は減ったが勢いは増して、触手はうねうねと少女の四肢を絡めとった。
 迸る汁に焼けるような痛みを感じ、悶えた所で体中を這いずり回っていた触手が尻尾に触れる。
「ひゃっ!」
 それまでとは少々違った声色。
 オークは目を見開いた。
「んほぉ!? ここか! ここがええのんかぁ!!」
「そこ、弱っ……あ、あんっ!」
「ほひひー!」
 触手をかき集め、オークは親の仇とばかりに尻尾を舐り倒す。
 顔を上気させ身を捩る少女の姿に、残るオークたちも先を争って触手を殺到させた。
「クソッ!」
 今度こそ庇ってやろうと、ペーターが再び身を晒す。
 蒼海石にボル、 ヘルトブリーゼも飛び出して、ブレスやガトリングを放ちながらバリケードを作り上げた。
 それでも全ての触手を防ぐことは出来なかったが、何本かの触手が勢い余ってペーターにぶつかる。
「――あああああああ!!」
 途端、これまでに聴いたことのないような叫びが路地に響き渡った。
「おま! お前じゃないブヒッ! 邪魔! 邪魔ぁっ!!」
 余程悔しかったのか、半狂乱のオークは涙と涎と溶解液を撒き散らしながらペーターを叩く。
 その激しさたるや、オーク以外に男など存在してはならぬと訴えかけるようだ。
 簡単には逃れる事ができず、じっと耐えるペーター。
 だが、暴れ回る触手が幾度も頭部を弾いたことで、ぷつりと堪忍袋の緒が切れた。
「……テメェの攻撃なんざ、全然イカしてねぇんだよおぉぉぉぉ!!!」
 怒髪、天を衝く。
 言葉通り噴き上がった地獄ヘアーが、絡む触手も身体の痛みも全て吹き飛ばす。
「ブヒッ……」
 怒鳴られた事で怯え、オークは膠着してしまった。
 その隙に七海が神速の突きを繰り出し、コールも間髪入れず矢を放つ。
 更にはソネットが拳を振りかざして跳びかかり、ガントレットで思い切り殴りつけた。
 豚の巨体が、風船のように破裂して散る。
 その音に驚き、恐怖に負けたオークが1体、脱兎の如く逃げ出した。
 偶然開いた包囲の一端をすり抜け、死に物狂いで路地の果てを目指す。
 しかし、既に半減した彼らをみすみす逃すほど、ケルベロスたちは甘くない。
「……逃がすわけないでしょ? 逃げれると思ったの?」
 突然現れた弥生の姿に驚き、オークは踵を返して戻ってくる。
 だが、そこにも待ち受けている弥生。
「ブヒッ!?」
 オークはまたも反転するが、弥生は何処にでもいる。
 それは幻影であったが、オークは訳がわからなくなって棒立ちになり、諦めたように弥生の大きな胸を凝視した。
 冥土の土産だったのかもしれない。
「……黙って倒されてくれる?」
 弥生が目配せすると、りゅうが渾身のタックルをぶちかます。
 弾かれたオークは宙を舞って、アスファルトに接吻したきり動かなくなった。

 残る2体の耳にも、仲間が葬られる音は聞こえていたはず。
 だが、目の前には触手と組んず解れつの二葉。
 一体どうして、ここから逃げ出すという選択肢が持てようか。
「ブフェッ!」
 一通り柔肌を堪能した触手は、繊細な動きで衣服の端々を引っ掛けた。
 触覚の次は、視覚を満足させる番である。
 抵抗むなしく、少しずつずり下がっていく二葉の着衣。
「や、おねが……見ないで、見な……っあああああっ!」
 我慢の限界であった。
「普通にはっずいです! 見んじゃねー! です!」
 裂帛の叫びと共に、二葉は地獄の炎を触手に叩きつける。
 大事な器官を殴打されたオークは浅い呼吸を繰り返しながら触手を引っ込め、もう1体もうっかり拘束を緩めてしまった。
 しかし、それで収まる殺意ではない。
 濃藍の上着もデニムジーンズも、殆どが溶けて破れて消えてしまっている。
 この代償は、豚の死を以って償わせる他ないのだ。
 片腕で胸を隠し、ぺたぺたと走りこんだ二葉は、これまでの鬱憤を晴らすかのようにオークを殴り倒す。
「タダ見させねえっ、です! 速やかに死ねっ、です!」
 炎が揺らめく度、焦げて腫れ上がるオークの顔。
 蒼海石が止めに入った頃、それは既に原型を留めていなかった。
「ヒッ……」
 この数分の興奮も一気に冷める。
 残されたオークは生涯で一番の走りを見せ――その途中で見えたレジーナの胸に急遽、方向転換して飛び込んでいく。
「んっ……」
 先走った触手が肌を撫で、漏れた艶やかな声は死刑宣告と等価。
 微笑みと砲口を向けながら、レジーナは高機動飛行管制プログラムを解放して空高く飛び上がった。
「豚を殺すにゃ派手さは要らぬ、要らぬが派手さは見せしめよ? なれば咲かそう地上の花火、一切合切持ってけドロボー!」
 持てる砲の全てから放つ、過剰な砲撃。
 それは豚の肉を焼き、焦がし、一片の欠片もなく燃やし尽くした。

「こっち見ちゃダメだぞ!」
 響は二葉に掛けるものを探しつつ、すっかり蚊帳の外だった女性にも声を掛ける。
 目の前で起きた光景は暫しトラウマになりそうであったが、ひとまずケガはないらしい。
 ふらふらと去っていく女性を見送ると、後始末を終えたケルベロスはどっと疲れを感じながら帰途につくのであった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 11
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