武装オークと破壊の宴

作者:綾河司

●武装オーク、出撃
 明かりの行き渡らぬ指令室で男は腕を広げ、目の前の異質なオークを褒め称えた。
「お前は強い、オークの中では最強だろう!」
 男――マッドドラグナー・ラグ博士に褒め称えられたオークが満更でもなさそうに、にたりと笑みを浮かべる。引き締まった体に白い体色、背に蠢く触手は大きなミサイルを抱き込んでいた。
「ローレンス」
 ラグ博士は自身の顎鬚を一撫ですると、微かに目を細めた。
「お前の、その強さの秘密を探るため、暴れてきてくれないかね? ……思い切り」
 笑みを浮かべ、最後の一言を付け加えるラグ博士にローレンスは裂けた様な大口を開けて、狂気と興奮に表情を崩した。
「思い切り暴れまくれるんならイイぜぇ」
 これから起こるであろう事を想像し、昂ぶりを抑え切れなくなったローレンスがべろりと長い舌で舌なめずりをする。
「ンッンー勃起してきたぁ!!」
「わーおッ! さすがオークらしい下品さだな、ローレンス。ならば好きなだけ、暴れてくるがいい!」
 叫び、魔空回廊へ向かう武装オークの背中をラグ博士は笑みを浮かべたまま送り出した。

 昼下がりのオフィス街。それは突如として現れた。暗く淀んだ漆黒の魔空回廊――
「えっ……?」
 突然の出来事に若いOLがそれを眺めていると、その中からローレンスが姿を現した。
「なに……?」
 異様な出で立ちに一拍遅れて気付いた同僚が振り返るのと、破裂音に似た乾いた音が鳴り響いたのはほぼ同時だった。
「あ、あ……」
 ローレンスに眉間を打ち抜かれた同僚が糸の切れた人形のように地面へ崩れ落ちる。
『きゃああああっ!』
 悲鳴は横にいたOLからではなく、異変に気付いた周囲の一般人から上がった。倒れた同僚から溢れ出た赤い液体が地面に広がって。
『デウスエクスだ!』
『逃げろぉ!』
 騒然となるオフィス街。銃声が鳴り響くたび、一般人が事切れて崩れ落ちる。
「大量殺戮イヤッホゥ! あぁ、勃起が収まらねぇぜぇぇ!!」
 沸き立つ興奮を抑えきれず、楽しげに叫ぶローレンス。恐怖に体を振るわせたまま、動くこともままならない若いOLの体を背後から抱き寄せる。力が入らないのか、女性はなすがままに引き寄せられた。
「俺の極太をよ、たっぷり味あわせてやるぜぇ!」
 ローレンスが無遠慮にOLの胸を弄りながら、突き出た触手ミサイルの照準を少し離れたビルに合わせる。
「ヒャッホゥ!」
 掛け声と同時に放たれた触手ミサイルが一直線に突き進み、ビルの一階部分に吸い込まれ、大爆発を巻き起こした。爆風に巻き込まれた一般人がゴミ屑のように宙を舞う。支えを失ったビルは傾いて、轟音を撒き散らしながら倒壊した。
「おおう? ぶっと過ぎてガバガバになっちまったってかぁ?」
 悲鳴、恐怖、憎悪。それすらも悦楽としてローレンスが狂気の笑みを浮かべる。
「一緒にイッてくれよォォォ!!」
 OLの衣服を引き毟り、武装オークの絶叫が大惨事のオフィス街に響き渡った。

●惨劇を食い止めろ!
「ケルベロスの皆さん、こんにちは。天瀬月乃です……」
 壇上に上がった天瀬・月乃(レプリカントのヘリオライダー・en0148)は集まったケルベロス達を前にペコリとお辞儀をした。
「竜十字島のドラゴン勢力が新たな活動を始めました」
 自身の隣に立体スクリーンを映し出し、彼女が続ける。
「今回事件を起こすのは、オークの品種改良を行っているドラグナー、マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した、ローレンスという武装型オークです。ローレンスは銃火器や触手ミサイルといった強力な武装を持ち、オークとは思えない戦闘力を持っています」
 立体スクリーンにローレンスの細かな詳細が表示されると、月乃はそれを冷たい眼差しで見やった。
「魔空回廊から現れるローレンスは、その戦闘力を見せ付けるように破壊活動を行い、多くの人間を殺戮しようとしています。そんな事、絶対に許すわけにはいきません。皆さんは現場に向かい、ローレンスを撃破してください」
 月乃はケルベロス達に視線を戻すと立体スクリーンを増やして、現場の見取り図を表示した。
「戦闘区域はオフィス街のど真ん中。道幅の広い歩行者専用道路です。お昼時ということもあって昼休みを過ごすサラリーマンが多数、巻き込まれます。ローレンスは銃火器と触手ミサイルで攻撃してきます。配下は連れておらず、一体のみですが、その一撃一撃が非常に強力です」
 ローレンスを止めることが出来なければ、どれほどの被害が出るか計り知れない。
「ケルベロスが現れればローレンスはケルベロスとの戦闘データを取る事を優先する筈なので、周囲への被害を抑える事が出来ると思いますが……相手のイカレ具合は相当なものです。何をしでかすか……」
 月乃には珍しく、その表情が心配そうに曇る。
「嫌な予感がします。皆さん、どうか万全を期して事に当たってください」
 お願いします、と彼女は頭を下げてケルベロス達を送り出した。


参加者
ミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)
空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)
ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)
コクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)
ヴィヴィオ・バルグ(大いなるもの・e02454)
ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)
ハインツ・エクハルト(ラブトンカツ・e12606)
朝前・塞破(目指すは皆のメイン壁・e19092)

■リプレイ


 オフィス街に潜伏したケルベロス達はその時を静かに待っていた。一般人が昼休みを満喫しているのを横目に朝前・塞破(目指すは皆のメイン壁・e19092)が小さくため息をつく。もう直ぐここは戦場と化す。彼は回復手の一人として神経を削る戦いに身を投じるのだ。
「ハインツ良いなー……壁になれて」
 心の声がポツリと漏れて、横にいた既知の間柄であるハインツ・エクハルト(ラブトンカツ・e12606)は思わず苦笑した。彼とて一般人救出のため、すぐに戦線に加わるのは難しい。
「手はず通りにね、ハインツさん」
 2人のやり取りを見て、笑みを浮かべたもう1人の救出班、ディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)にハインツが頷く。
「頼りにしてるぜ?」
「おう」
 拳を突き出すハインツに塞破が拳を合わせる。その様子を眺めていたディクロが視線を道路の反対側で待機する仲間達へ向けた。
 今回の敵、ローレンスは親友コクヨウの宿敵。もし彼の身になにかあれば、その時は迷わず。そういった覚悟がディクロにはあった。その覚悟を感じ取ったのか、ディクロの肩にジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)が手を置いた。
「甘い考えで地球に攻め込んだこと、後悔させてやらんとな」
 予知された内容は許し難い蛮行だ。だからこそ敵の目論見を全力で潰さなくてはならない。
「むっ……」
 注意を道路の方へ向けたジドが違和感に眉を寄せた。一拍おいて、空中に魔空回廊が出現する。
「来た!」
 4人が同時に駆け出す。反対側にいた4人も動き出した。
『デウスエクスだ、逃げろー!』
 ディクロのパニックテレパスが周囲の一般人に広がって騒然となった。それに同調してハインツの割り込みボイスが一般人の避難を後押しする。
『今すぐここから逃げろ!!』
 反応が早い者から走り出し、一般人が避難していくが、動けない者もいる。
「チビ助! 頼んだぞ!」
 ハインツがオルトロスのチビ助を召還すると、チビ助は同じく召還された塞破のライドキャリバー、ライドの上に降り立ち、一声鳴いた。
「おおう?」
 ケルベロス達に出迎えられたローレンスが笑みを浮かべて、1人1人観察する。その視線がコクヨウ・オールドフォート(グラシャラボラス・e02185)で止まった。
「こりゃあ……懐かしい顔もあったモンだ」
「ローレンス……」
 様々な感情を噛み殺して、コクヨウは目の前の宿敵を睨みつける。数年前、数多くの犠牲者を出しながら、されどローレンスのみ取り逃がした因縁が地獄化された記憶を刺激して、コクヨウを怒りに押し流そうと荒れ狂う。
「コクヨウの兄ちゃん」
 コクヨウを兄と慕う空波羅・満願(優雄たる満月は幸いへの導・e01769)が横目で彼の様子を伺う。宿敵を前に無理しないかと心配が胸中をよぎる。
「ローレンス様はわたくしの御相手はしてくださいませんの……? その太くて逞しいもので、わたくしをイカせてみて下さいまし……♪」
 エイティーンで大人になったミルフィ・ホワイトラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・e01584)が惜しげもなく豊満な体を見せ付け、しなを作ってローレンスの顔を覗き込んだ。一般人を狙わせないようにする為、ローレンスの注意をケルベロス達へ引き付ける作戦だ。
「いいぜぇ、いくらでもイカせてやるぜぇ? お前らの表情を屈辱に歪めてからなぁ……」
 ミルフィの体を舐める様に見てから視線をコクヨウへ戻したローレンスが笑みを濃くする。
「なぁ、ダァヤァァン?」
「その名で呼ぶな!」
 激昂したコクヨウとローレンスが銃を抜いたのは同時だった。
「ローレンス! 殺してやるぞ豚野郎!!」
 コクヨウの銃弾がローレンスの頬を掠める。一方、ローレンスの銃弾はコクヨウ、ではなくその後ろ、パニックに陥って動けなくなっていた一般人を狙ったものだった。
「させると思うか?」
 間に割って入ったヴィヴィオ・バルグ(大いなるもの・e02454)が余裕の笑みを浮かべて銃弾を弾き飛ばし、一般人を庇う。
「さぁ、自由な時間はおしまいだ。此処からは俺達の相手をしてもらうぞ」
 バトルガントレットの感触を確かめつつ、ヴィヴィオが言い放つ。その背後、動けなくなっていた一般人の女性達の前にディクロとハインツが降り立ち、
「失礼」
「ちょっとゴメンよ」
 2人は一般人の女性を担いで、強制的に避難させていった。
「いいぜ、お前ら! ンッンー勃起してきたぁ!!」
 ローレンスは後方へ飛び下がると触手ミサイルをケルベロス達の後衛に向かって撃ち放った。
「お前らをぶちのめした後で、思う存分この街を陵辱してやらぁ!!」
 前衛がローレンスの攻撃に反応して後衛を庇いに入る中、
「満願!」
 同じく庇いに入ろうとした満願をコクヨウは声で制した。その意図を感じ取った満願が踏み止まって踵を返す。触手ミサイルが着弾と同時に爆発し、大量の炎をまき散らした。避難の完了してない一般人から悲鳴が上がるが、その一撃は彼らに害を及ぼしてはいない。
「おおおっ!」
 満願が炎の中を突き抜けると、ローレンスは銃で一般人に狙いを定めていた。
「糞豚風情が調子くれてんじゃねぇぞ、挽肉にしてやらぁ!」
 振り下ろした鋼龍之咢をローレンスが引き戻した銃で器用に受け流す。
「こえぇ、こえぇ」
 体の流れた満願の頭に狙いを定めるローレンス。そこに炎の脇を抜けてきたミルフィがアームドクロックワークスの照準をローレンスに合わせた。
「御立派なものですわね……でも、わたくしのも凄いですわよ……!」
 撃ち放たれた豪砲が肩を掠め、ローレンスが舌打ちする。距離を置こうとするローレンスにヴィヴィオがしなやかな動きで距離を詰めた。
「俺とお前のどちらが生きるか、賭けてみるか?」
 挑発的な笑みを浮かべ、ヴィヴィオが電光石火の蹴りを放つ。ローレンスはそれをかわすと即座に体勢を整えた。
「貴様が破壊できるものは、背を見せ逃げる人々、動かぬ建造物くらいなもの。我らケルベロスに通用するものか!」
 黄金の果実で前衛を癒しつつ、ジドが言い放つ。続けて塞破が後列を癒していく。
「攻撃は任せる。その代わりに背中は俺に任せるんだぜ!」
 親指を立てて笑みを浮かべる塞破にコクヨウは肩の力を抜いた。
「俺には人間らしい生き方は向いていなかった。守れず、ただ壊して殺す事しかできなかった……」
 手にした銃をローレンスへと向けて、コクヨウが言葉を紡ぐ。
「……俺はお前と、過去の己とは決別する」
 人としての自分を始める為に、終わらせてやる、と。
「おもしれぇ! やれるものならやってみろ! ダヤン!!」
「その名で呼ぶなと言った! ローレンス!!」
 乱暴に銃を持ち上げたローレンスとコクヨウの間で激しい銃撃が巻き起こる。弾丸が両者の間を飛び交い、互いの四肢を掠めては血飛沫が舞う。その攻防に合わせてケルベロス達が攻勢に出た。
「俺はコクヨウ! ケルベロスのコクヨウ・オールドフォートだ!!」
 コクヨウの叫びを乗せた銃撃がローレンスの脇腹を突き抜けた。


「知ってるか? 弱い奴程よく吠えるんだ」
 ローレンスの懐に飛び込んだヴィヴィオがより確実に注意を引き付けようと言い放つ。
「黙れ!」
 振り払うような銃撃をヴィヴィオはガードして後方へ飛び退いた。その脇を駆け抜けてきたチビ助が勢いよくローレンスの触手ミサイルに攻撃を加える。
「ちょろちょろと!」
 駆け抜けていくチビ助を一瞥してから、ローレンスがケルベロスに注意を向け直す。攻撃の手を緩めないケルベロス達の抑え込みは確かな効果を上げていた。
「その太くて逞しいもので、どれだけの女性を泣かせてきたのですかしら……?」
 ロックオンレーザーを撃ち続けていたミルフィが地を蹴って一気にローレンスへ肉薄する。すれ違い様に抜き放たれた牙兎の一撃がローレンスの傷を容赦なく斬り開いた。
「ぐっ!」
 激痛に呻くローレンスにジドがアームドフォートの照準を合わせる。
「一手、撃たせてもらうぞ!」
 放たれる一撃にローレンスが身を捻る。腕を掠めた一撃は確実にその効果を残した。
「いてぇじゃねぇか!」
 狂ったような笑みを貼り付けたまま、触手ミサイルを持ち上げるローレンス。
「煩い」
 そのローレンスの雄たけびを、ディクロがぴしゃりと遮った。
「なにぃ!?」
 目の前の戦闘に意識を傾けていたローレンスに、一般人の救出を終えて戦闘に合流したディクロとハインツが飛び込む。
「煩いと言ったんだ、何度も言わせるな」
 静かに構えた月禍を変形させ、ディクロがローレンスを切り裂いた。傷を開かれて悶絶するローレンスをハインツが追撃する。
「おまけだ! 取っとけ!」
 飛び込んだ勢いのまま、電光石火の蹴りがローレンスの顔面を捉えた。
「俺様はオーク最強のローレンス様だ!」
 それでも倒れないローレンスが咆哮し、触手ミサイルを前衛に向けて炸裂させる。
「ライド!」
 塞破の声にエンジンを唸らせ、飛び出たライドがその身を盾に触手ミサイルを受け止めた。直撃を受けた車体がベコリと歪む。
「誰も……やらせるつもりは無いんだぜ!」
 当然、自分の相棒も。塞破がマインドシールドでライドを回復させると、続けて満願が鎖龍銀閣を展開する。
「ディクロの兄ちゃん、無事か!?」
 被弾したディクロに声をかける満願。ディクロは頷き、ローレンスを睨みつけた。集中した満願のサークリットチェーンが前衛を包み込み、より強固に陣形を立て直していく。
「まだまだ! 俺の勃起は収まらねぇぜ!」
 ローレンスは狂気の笑みを絶やす事なく、手にした銃で弾丸をばら撒き、ケルベロスの足を止めにきた。
「観念しろ、ローレンス!」
 コクヨウの放った弾丸がローレンスの肩を貫く。力を失った腕をだらりと下げたまま、
「ここからだ! ここからが本番なんじゃねぇか!」
 狂ったように嗤うローレンスにケルベロス達は油断なく、構え直した。


 触手ミサイルの爆発が巻き起こる度、ケルベロス達の体力が著しく削り取られる。
「チビ助、前に出ろ!」
 ライドが力尽き、ハインツに従ったチビ助が持ち場を前衛に移す。その一瞬の空白をローレンスは見逃さなかった。
「俺と一緒にイこうぜぇぇ!」
 ローレンスの放った弾丸が地面を跳ね、足元からミルフィを襲う。
「っ!」
 避けきれないと悟り、襲いくる痛みを覚悟したミルフィの前にハインツが飛び出した。
「させるか!」
「ハインツ様!?」
 肩代わりしたハインツの脇を弾丸が直撃する。
「ああん? 男となんかイキたくねぇぞ?」
 耳障りな笑い声を上げるローレンス。突き抜けるような激痛を噛み殺し、ハインツが嘲笑した。
「うるっさいなぁ、盛りかよ!?」
 疾走したハインツが腰溜めに拳を構えてローレンスの懐に飛び込む。大量のモザイクを纏った腕が見る間に巨大化した。
「余所見するんじゃないぜ、俺はここにいる! 焼き付けろ、刻み込め、ヴンシューーッ!!」
 巨大な拳がローレンスの腹部に突き刺さり、その体を宙へと押し上げた。そこへ満願が続けて飛び込む。
「地獄へ案内してやる。渡賃はてめぇの糞不味そうな肉と御霊だ」
 口から吐き出した墨の様な漆黒の獄炎龍が唸りを上げ、牙を剥いてローレンスに喰らい付いた。
「放しやがれ!」
 ローレンスの振り回すような銃撃がケルベロスの前衛に撒き散らされる。
「我らを前にした時点で、お前の勝ちはなかったのだ」
 冷静に戦局を判断していたジドがヒールドローンを展開し、前衛を癒していく。ケルベロス達の傷もかなり蓄積されていたが、的確な回復と付与効果はケルベロス達に有利な状況を作り出していた。
「わたくしからの、狂おしい迄の愛を……どうぞお受け取り下さいまし……」
 ミルフィが満身創痍のローレンスの前にふわりと降り立つ。扇情的な仕草で胸に手を這わせ、そっと口付けた。
「ぐあっ!」
 ローレンスの生命力を対価に、甘く、狂おしい、背徳の快楽と痛みがローレンスの体を駆け巡る。
「弱肉強食の世界で言えば、お前は喰われる立場に在るらしい」
 肉薄したヴィヴィオが螺旋の力を宿した掌をローレンスに叩きつけた。さらに、その脇を抜けるように塞破が疾走する。
「ここで終わらせるんだぜ!」
 勢いのままチェーンソー剣を振り抜いて、ダメ押しとばかりに傷跡を斬り広げるとローレンスの絶叫が響き渡った。
「デウスエクスはどいつもこいつも……」
 煩い、と。不快感を隠そうともせず、ディクロはヘルキャットに魔法の青白いリボンを纏わせる。求めるものは静寂。発砲音もなく放たれた白い光線がローレンスの胸部を貫いた。それでもローレンスは倒れることを拒絶する。
「俺の極太でガバガバにしてやらぁ!」
 ニタリと笑みを浮かべ、触手ミサイルを撃ち放った。
「なっ!?」
 その軌道を見極めて塞破が絶句する。触手ミサイルはケルベロスではなく奥に佇むビルへと向けられていた。狂ったように嗤うローレンス。触手ミサイルはケルベロス達の頭上を越えて。だが、
「粗末なモノを自慢げに見せびらかすな」
 いち早く反応したコクヨウが神速の銃弾で飛来する触手ミサイルを撃つ。風穴を開けられた触手ミサイルはその目的を果たす事無く、空中で爆発した。
「ダヤンッ!」
 激昂したローレンスがコクヨウを睨みつける。
「三度目だ、ローレンス」
 リボルバー銃の照準をピタリとローレンスに合わせたコクヨウが引き金を引く。放たれた弾丸は吸い込まれるようにローレンスの眉間を貫いて、彼はそのまま背中から地面に倒れた。


「終わりましたのですわね……」
 仰向けに倒れたまま、消滅していくローレンスを眺め、ミルフィが呟く。
「うむ」
 ジドも多くは語らない。周囲を見回すと町並みは破壊こそされているものの人的被害はなさそうだ。
「お疲れ様。みんな怪我はないか?」
 ヴィヴィオが仲間の傷を見て回る中、満願は心配そうにコクヨウの背中を眺めていた。コクヨウはローレンスを見下ろしたまま微動だにしない。
 肩に手を置かれ、満願が振り返るとそこにはディクロが立っていた。
「コクヨウなら大丈夫さ」
 穏やかな笑みを浮かべるディクロに満願も頷く。今はそっとしておくのが彼の為だろう。
「さて、避難させた一般人も気になるし」
「先に被害状況を確認しとくんだぜ!」
 ハインツと塞破の意見に皆が頷き、歩き始める。
「コクヨウ、ここは任せるよ」
 友の背に、それだけ言い置いてディクロも歩き始めた。
 独り残ったコクヨウが銃をローレンスへ向ける。物言わぬ塊と化し、消滅を待つ宿敵へと。引き金に指をかけ、目を閉じる。
「こいつは、お前達と俺が殺したあの人達の遺言だ」
 心の中で引き金を引いて、コクヨウは目を開くと銃をホルスターに収めた。
 やがてローレンスは跡形もなく消滅し、その場にコクヨウだけが残る。温かみを帯びた風が吹き抜けて、そっと彼の頬を撫でていった。

作者:綾河司 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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