ラグ博士の非人道実験

作者:質種剰

●苛立つラグ博士と暴れる飛空オーク
「ふ〜〜〜む」
 とあるラボラトリィ。『観察記録』と銘打った書類をペラペラペラペラ捲りつつ、緑の口髭を生やした男が歩き回っている。
 彼の周りには、青黒い肌と紫の翼に触手を持つオークが数体、何とも所在無さげにたむろしていた。
「イカンイカンイカーーーン!」
 男――マッドドラグナー・ラグ博士は、突然ヒステリックな叫び声を上げるや、手にしていた紙束を、全て床へと叩きつけた。
「ムムム、幾ら量産型とはいえ、実験ではこれ以上の性能は出せないなァ。これ以上の性能を得るには、新たな因子の取り込みが不可欠だ」
 そして、緑の髪を両手でガシガシ掻き毟った後、
「行け、お前達! 人間の女を襲って襲って襲いまくるが良いッ!」
 と、青黒いオーク達へ、人の道から外れた命令を下した。
「お前達が産ませた子どもを実験体にすることで、飛空オークは更なる進化を遂げるだろう!」
 そう、ここにいるオーク達は皆、飛空オーク。
「ブモモモモモモン!」
 飛空オークどもは、女性を襲いにいける嬉しさからかやる気満々の歓声をあげ、床を蹴って走り出す。
 どうやら彼らは高所から飛び降りる事で、広げた翼を用いて長い時間を滑空できるようだ。
 飛空オーク達が降下したのは、露天温泉の女湯である。
「きゃーっ!」
 突然に上空から飛来したオークに風呂を覗かれ、しかもヌルヌルヌメヌメした触手で手足を拘束されるのだから、女性達の恐怖は尋常ではない。
「嫌ぁぁぁぁ!」
 お湯から上がって必死に逃げ出す少女の細い足首を触手で絡め取り、引き倒すオーク。
「た、助けて……っ!」
 恐ろしさからあられもない格好で腰を抜かした女性へ、鼻息荒くのしかかるオーク。
 奴らがラグ博士の命令を実行に移すまで、時間はかからなかった。


「竜十字島のドラゴン勢力が、新たな活動を始めたようであります」
 集まったケルベロス達へ向かって、小檻・かけら(サキュバスのヘリオライダー・en0031)が説明を始める。
「今回事件を起こすのは、オークの品種改良を行っているドラグナー、マッドドラグナー・ラグ博士が生み出した飛空オークなのでありますよ」
 飛行といっても、高い場所から滑空して目的の場所に移動するだけの能力で、自由に飛行する事はできないようだ。
 それでも、高所から滑空しつつ目標である女性を見つけ出し、その場へ直接降下するという襲撃方法は、かなり効率的で脅威である。
「皆さんには、飛空オークに襲撃される女湯のお客さん方をお守りして、飛空オークを撃破して頂きたいのであります」
 頭を下げるかけら。
「女湯へ現れる飛空オークは、全部で5体。討ち漏らしのないようお願いします」
 飛空オーク達は、その穢らわしい触手で敵の身体をきゅうきゅう締めつけて攻撃する。
 捕縛されてしまう可能性のある斬撃で、頑健に充ち近距離にしか届かず、また一度に複数人は縛れない。
 他にも、穢らわしい触手の先端を硬く尖らせ、敵1人を刺し貫いてくる。
 こちらは敏捷性に優れて服破りを起こす事があり、遠くまで攻撃が届くようだ。
「飛空オークは滑空しながら襲撃場所を探すため、事前に避難活動をしてしまうと、予知と違う場所へ降下してしまって事件の阻止が出来なくなるであります」
 それ故、女性達の避難などは、オークの降下する直前から行うようにして欲しい。
 また、避難を行わない場合でも、オークの好みそうな行動を女性達が控えてしまった時なども、襲撃場所が変更になる可能性がある。
「今回ですと、襲撃前の女湯へ男の方が入り込む事でありましょうか。女性達が恥ずかしがって裸身を隠してしまう可能性がありますね」
 やはり、女湯への突入はオーク襲来が確定してからの方が良いだろう。
「それでは、改めて飛空オークの掃討、宜しくお願いします。男の方にとっては堂々と女湯を覗くチャンスでもありましょうが、実際余裕の無い状況でありますし、あまり見とれ過ぎないように♪」
 かけらはそう説明を締め括って、ケルベロス達を激励したのだった。


参加者
愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)
アンドロメダ・オリュンポス(秘密結社オリュンポスの大幹部・e05110)
因幡・白兎(ジビエって呼ばないで・e05145)
柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)
矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)
南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)
レテイシャ・マグナカルタ(自称遺跡探索者・e22709)
御巫・花凛(煉獄華・e23171)

■リプレイ


 女性客で犇めく温泉にて。
「ただでさえ気持ち悪いのに飛行能力まで付けるとか頭おかしいんじゃないですか……?」
 南條・夢姫(朱雀炎舞・e11831)は、一般客のふりをして鏡に向かい、飛空オークへの文句を零しながら身体を洗っていた。
 幾ら石鹸の泡に覆われていても、張りも膨らみ具合も申し分ない胸や、同じく綺麗なヒップラインの見事さは隠しようがない。
 腕に嵌めた透刃・氷天雪月花の透明な煌めきも、彼女の透き通るようでいて存在感のある裸身に、よく似合っていた。
「一匹残らず駆逐して、飛行能力をつけても無意味だということを思い知らせてあげましょう」
 その可憐さと裏腹に、オークを人一倍嫌い抜いている夢姫の声音は、いささか険のあるものだった。
「これで陸海空を制覇かぁ……」
 一方、こちらもオークの自由過ぎる進化へ呆れ果てている、御巫・花凛(煉獄華・e23171)。
「はぁ……ホントにもう。オークの品種改良とかしなくていいから……」
 彼女もまた、長い黒髪と赤い瞳が映えるボーイッシュな美少女なのだが、その若々しい肉体は残念ながら巻かれたバスタオルの中。
 飛空オーク達に存在を気取られまいとしてか、温泉の端の端っこへ蹲って、真面目に気配を殺しているのだ。
「ただでさえ、普通のオークですら気持ち悪いのに、それが空を飛ぶなんて……想像したくないなぁ、はぁ……」
 そんな訳で、バスタオルのみならず隠密気流をも纏って女湯の人ごみに溶け込む花凛。
「まあいいや。汚物は消毒! これ常識だよね」
 明るい性格の彼女は、苦手なオーク相手でもいざ戦闘になったらしっかり立ち向かうべく、気合を入れ直した。
「傷を見られるの好きじゃなくて、一人じゃ温泉にはこないので、本当久々なのです……!」
 他方、同じく一般客を装う愛柳・ミライ(宇宙救済係・e02784)は、胴体へ巻いたバスタオルに加え内側へ水着まで着ている、風呂に限って言うなら重装備の部類。
「あっ、タオルはつけちゃダメですかね……!」
 しかし、他の客へ倣って、湯船にゆったりと身体を沈める時はバスタオルを外した。
「それにしても、水着にアイテムポケットついてて良かったです☆」
 と、らぶらぶギターや癒し系オーラを仕舞い込んだ安心感もあってか、努めて自然体に温泉を楽しみつつオークを待ち構えた。
「うん、なかなか良い湯じゃねぇか」
 さて、レテイシャ・マグナカルタ(自称遺跡探索者・e22709)は、ともすれば零れ落ちそうな爆乳を女狐御殿印の湯浴み衣に包んで、やはり一般客を演じながらお湯に浸かっている。
 柔らかな金髪の間から突き出た青い角やその勝ち気そうな表情から元気一杯といった印象を受ける、人派の美少女ドラゴニアンだ。
 彼女もまた、ミライと同じようにアイテムポケットへチェーンソー剣やバトルオーラを隠して手ぶらに見せつつ、悠々と温泉を満喫していた。
(「さぁ、どっからでもかかってきやがれオークども! オレ達が返り討ちにしてやるぜ!」)
 その実、上からオークの視界に入っても気づかれぬように、空の警戒も続けている。
 同じ頃。
「よーし、タマと一緒に容赦なくオークを叩き潰すよ!」
 矢武崎・莱恵(オラトリオの鎧装騎兵・e09230)とボクスドラゴンのタマは、温泉に張り巡らされた高い塀の外側に陣取り、空を見上げてはオークの襲来を待ちかねていた。
 オラトリオたる彼女は翼飛行が可能で、女湯の脱衣所を通らなくても塀を楽に乗り越えて温泉へと降り立てる故の策だ。
 小さな身体の莱恵に、今日も緑のドレスとゲシュタルトグレイブや黒鉄の具足などの重装備が、妙にハマっている。
「こちら女湯潜入班。お湯はちょうどいい湯加減ですよ~」
 再び女湯。アンドロメダ・オリュンポス(秘密結社オリュンポスの大幹部・e05110)は、アイズフォンで脱衣所に待機している仲間と連絡を取っていた。
「あ、私、温泉のマナーとして、水着もバスタオルも持ち込んでないですから、男性の方たち、覗いたらどうなるか……わかってますよね?」
 優しい声音の脅しを最後に、通信を終えるアンドロメダ。
 その大変寛いだ様子が、のんびり温泉へ浸かってる風にしか見えないのは多分気のせいである。
 そして、アンドロメダは気づいていなかった。
「…………」
 動物変身で野うさぎの振りをした因幡・白兎(ジビエって呼ばないで・e05145)が、温泉の縁に前脚を掛けた格好で彼女の豊かな胸をガン見している事に。
 普段は割とまともな性格だが、おっぱいが絡むと急にポンコツ化するらしい白兎。
(「これなら身体が小さくなっているから忍び込みやすいだろうし、見つかっても迷い込んだ野うさぎのフリをするさ」)
 べ、別にやましいことは考えていないよ? マジでマジで。
 今も効率的な作戦と役得の両立を目指した結果、動物変身を武器に堂々と女湯に入っているのだ。
 とはいえ、変身解除した後の事も考えて、女装してきたというから抜かりはない。
 どうやら白兎の頭は完全におっぱいへ支配されているわけじゃないようだ。
 かように女性陣+αが空からの襲撃に身構えて神経を張っている反面。
 男達は体力に任せて脱衣所と客室を行ったり来たり、大慌てで女性客の避難の手助けになる種々の準備を進めていた。
「ガイバーン、その衝立こっちな!」
「了解じゃ!」
 柳橋・史仁(黒夜の仄光・e05969)が率先して旅館と交渉し、まずは女性客の避難先にと近くの一部屋を確保、暖めた室内へ沢山のバスタオルや毛布を用意した。
 その上で、温泉の洗い場へ滑り止めマットを敷かせるのはケルベロスの女性陣に依頼。
 女湯入口から脱衣所、客室までの目隠しに衝立や囲いを設置する徹底ぶりである。
 ガイバーン・テンペスト(ドワーフのブレイズキャリバー・en0014)や、夢姫に誘われて助力に駆けつけた昇とも手分けして、史仁はそれらの作業を数分で終わらせた。
 裏方仕事ではあるが、被害者の女性客達を手早く戦場から遠ざける工夫として、実に理にかなっているし、行き届いた配慮であった。


「タマ! 空から豚が降ってくるよ!!」
「オーク、出現しました!」
 莱恵が空を仰ぎ見て叫んだのと、アンドロメダが脱衣所のドクターへ連絡したのは、ほぼ同時であった。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・オリュンポス!」
 今回も部下の後方支援を買って出た彼は、男性陣に立ち混じり脱衣所で待機していた。
「ふむ、今回は温泉での戦闘か。よかろう! アンドロメダよ、武装の手配は俺に任せ、安心して温泉に潜入するがいい!」
 事前に頼もしく請け負った通り、通信を受けてすぐ彼女の武器を射出したが。
「おっと、しまった。メイド服を用意し忘れたな……まあ、これでいいか」
「……って、なんで防具がバスタオルなんですかぁっ!」
 次々飛来する銃器に紛れて、素っ裸のアンドロメダへ与えられた防具はバスタオル1枚きりだった。
 一方、飛空オーク達が女湯へ狙いを定め降下を開始した時からの、ケルベロス達の行動は素早く、水際立っていた。
「安心してください! 我々が守りますので、落ち着いて避難してください!」
 まずは、変身解除した白兎が割り込みヴォイスで叫び、女達を追い立てるようにして脱衣所へ誘導する。
「足元濡れてますから、落ち着いて避難してくださいね!」
 ミライも心配りを見せて声を張り上げる傍ら、
「きゃぁぁぁぁぁ!」
 飛空オークが墜落に近い着地をした際には、悲鳴をあげて奴の気を引く事も忘れない。
「ひとまずこっちへ避難してくれ! 中にバスタオルどっさり用意してる!  足元気をつけて!」
 史仁も女湯へ飛び込んで、簡潔かつ的確な避難指示を女達へ飛ばす。
「あと男性客! 回れ右!!」
 更には廊下を全裸で走らねばならぬ彼女らの為、大声を出したが。
 尚も2人女湯へ入ってくる男性がいた。仁王と蒼眞である。
「脱衣所の荷物は後でお届けします」
「今は誘導に従って立ち停まらず逃げてくれ」
 なるべく女性の方を見ないようにして飛空オーク目指し駆けていく仁王とは反対に、蒼眞は真面目に呼びかけながらも女性の裸身をその目にしっかりと焼きつけていた。
「嫌ぁぁぁ!」
「オークだなんて最悪!」
「怖〜い!」
 悲鳴を上げる女のあられもない姿――温泉の湯に蒸され上気した肌、必死に走る度ゆさゆさと揺れる胸、むちむちと張った太腿、ぐっしょり濡れた下腹を、余す事なく視界に入れて。
(「状況把握は大事だからな」)
 そんなのはただの言い訳に過ぎない。
(「1人も犠牲は出させない……」)
 他方、女達が脱衣所から走り出た背中を庇う風に、銃を構えて殿を務めるのは昇。部屋まで警戒を解かずに送り届けるつもりなのだろう。
 温泉では、夢姫も同じようにグラビティを込めてリングより展開した螺旋手裏剣を構え、女達の代わりに標的になるべく、飛空オークを足止めせんと姿を晒している。
 そして、オークの姿を見るなり羽ばたいて奴らを撹乱すべく飛び回った莱恵は、
「うわぁっ!」
 女湯へ目標を定め後は落ちるだけといった単純な滑空しかできない飛空オーク達への効果は得られず、降下の勢いのままに跳ね飛ばされた。ただの衝突故双方にダメージは無い。
 ともあれ、オーク5体が温泉へ降り立ち、その紫の触手でケルベロス達へ襲いかかってきた時、殆どの女性客は避難を終えていた。
「かかってこいやオラー!」
 レテイシャはすぐさま武器を携えると、バトルオーラから気咬弾をぶっ放して先制攻撃。
 飛空オーク1体の腕を咥えて離さず、着実にダメージを与えた。
「あぁ、やっぱり普通に気持ち悪い!」
 スナイパーたる花凛は、オークの翼を部位狙いしようと、気咬弾を放つ。
 ――ズブゥッ!
 正確に狙い澄まされたオーラの弾丸はオークの太い翼へがっちり喰らいつき、激しい苦痛を齎した。
「簡単に逃げ仰せられるなどと思わないことですね……!」
 次いで、分裂させた螺旋手裏剣を投げ打つ夢姫の声は、オークへの嫌悪感をもはや隠そうともせず、氷の如き冷たさだ。
 ――ドスドスドスッ!
 オーク達へ突き刺さったシュリケンスコールの威力は凄まじく、常より倍加した威力で丸い腹をぶち破った。
「飛べない豚はただの豚だ」
 さらには莱恵が、ゲシュタルトグレイブを高速回転させて突撃。
「滑空している豚はほんの少し訓練された豚だ!」
 ズシャァァッ!!
 そのまま威勢よく斬りかかって、オーク達数匹を一気に薙ぎ払った。
 この間に、最後の女性客も女湯からケルベロス達のに導きで無事に逃げられたようだ。
「ブヒィィィィィ!!」
 それでもケルベロスの女性陣が皆一様に水着や全裸やバスタオル装備と惜しげもなく肌を晒しているが為に、飛空オーク達が果たして獲物を取り逃がしたと気づいたかどうか定かではない。
 シュルシュルシュルシュル!
 ただただ、目の前の人間の雌を我が物にして子種を孕ませるべく、穢らしい触手を伸ばして動きを封じようとしてくるだけだ。
「あっ……ふぁあっ――ソコ駄目ぇぇっ!」
 感じやすい体を触手攻めされて、思わず色っぽく喘いでしまうのはレテイシャ。
「駄目、そんなに揉んだら……っ!」
 太く長く粘液塗れの先端に爆乳を弄ばれ、心では嫌なのにエッチな声が出るのを抑えきれない。
 その上、くたくたと力が抜けた体をオークに押し倒され、容赦のない触手が太腿の間へと這っていく。
 すっかり捕縛されてしまったレテイシャだが、
「豪炎切り裂いて進むのよ 負けることを知らない 狂戦士! 死を知らない竜に 命の意味を教えて 地獄の猟犬――」
 突如響き渡った歌声の効果によって、すんでのところで救われた。
 それは、メディック故に捕縛から解放する治癒効果をも有したミライの、味方を癒し鼓舞するドラゴンスレイヤーの歌であった。
「あっ、ちょっ、待っ……、い、いやぁっ!」
 一方、うねうねと身体をまさぐる触手によって、アンドロメダが慌てて巻きつけたバスタオルは、次第に意味を成さなくなるほどに破けていく。
「結局こうなるんですね……」
 また真っ裸に戻ってしまったアンドロメダは、触手のもたらす異様な感覚に耐え忍ぶ羽目となった。
 とはいえ、
「触手で捕縛されちゃった人に属性インストールするんだよ、いいね?」
 そうミライの指示を受けていたボクスドラゴンのポンちゃんによって、アンドロメダも思いの外早く自由の身となれたのだった。
 さて、仲間達を触手の魔の手から助けたミライはというと、
「ううう……触手に襲われると、いじめられてた頃を思いだして辛いのです!」
 彼女らへ向かっていったのとはまた別のオークの触手に巻かれながら、重い過去を暴露して泣き喚く。
(「無理やりされて……孕まなかったのは、運がよかっただけで」)
 自らの忌まわしい経験を嘆きたいのか、それとも悲惨な過去を思い返しつつも、もっと最悪の事態へ至らなかったのは不幸中の幸いだと思いたいのか――とにかく複雑な胸中らしい。
「私キズモノですから、今更脱げたところで、別に恥ずかしくもないのですが」
 でも、でも、あんな思いをするのは、もう私だけで十分なのです………!
 ガチ泣きしたままドラゴンスレイヤーを歌い続けるミライは、キズモノに対する認識はともかくとしても、女湯にいた一般女性達を助けたいという強い想いには、何の噓偽りも無かった。
「温泉の平和を乱す悪のオークは、この悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、アンドロメダがお相手します!」
 必死に左腕で大きな胸を隠しながら、毅然と言い放つはアンドロメダ。
 ドウッ――!
 しかと照準を定めたバスターライフルの銃口から魔法光線を撃ち出し、オークへ痛みと共に威圧感をも与えた。
「なんかおいしい思いしようと来たみたいだけど残念だったな! 目的の湯上り美人には遠目からしか見られなかったみたいで」
 史仁は、飛空オークの意識を自らへ向けさせようとしてか、懸命に奴らを挑発する。
「まあおかげさまでそのハダカの美人たちは 全 員 ばっちり俺らの目と鼻の先まで来てくれたよ」
 ごちそうさんです!!
 イイ笑顔で言い切ってから、ブラックスライムを捕食モードに変形。
 ガバッ――!
 肉迫したオーク1体を丸呑みにして、体力と同時にその動きも奪った。
 目には目を、捕縛には捕縛をといった按配である。
(「……まあ実際は一目も見てないんだがな」)
 と、史仁がこっそり苦笑する一方。
「オークは許せないからね、いろいろ仕方ないね」
 女性達の裸身を隈なく堪能した白兎は、そんな事実をおくびにも出さずに爆炎連鎖獄を見舞う。
 ババババババ……!
 次々投擲された不可視の小型爆弾達が、連続爆破してオーク3体を炎で包み込み、それぞれに手酷い火傷を負わせた。
 戦いが続く中、飛空オークの触手攻撃に対する仲間の反応は実に様々だ。
「ヌメヌメ触手を喜ぶ趣味してないから私。というか生態といい見た目といい害しかないよね?」
 そう冷ややかに呟く花凛や、オークをひたすら嫌悪している夢姫などは、どんな攻撃にも強い意志で痛みと恥辱に耐え、悲鳴すらあげない。
 ケルベロス達は、皆それぞれに飛空オークを相手取り、じりじりと追い詰めていく。
「弱り目に祟る、泣きっ面に蜂をけしかける。やるときはトコトンと、ね?」
 白兎は、いつの間にか仕掛けていたトラップを発動させ、弱っている相手に容赦ない追撃で、オークを絶命させる。
「遥か遠きその姿は光を超えて今届く」
 史仁は、明滅する微細な光――忘れ難き光景と同じ輝きを照射して、飛空オーク1体へトドメを刺した。
「全てを灼き払いなさい!」
 夢姫は蒼き獄炎を召喚、不死鳥の形に形成させる。
 その獄炎の不死鳥に命を宿すとオーク目掛けて飛翔させ、ずんぐりした身体を何本もの触手ごと燃やし尽くして、ついに命を奪った。
「行くよ、タマ! 融合だぁ〜!!」
 タマを肩車した状態で、武器を振り回し突撃するのは莱恵。
 バシバシビシビシバシッ!!
 彼女が攻撃している間中、上に乗っているタマも挑発のつもりか必死に鳴き声を上げて、飛空オークの怒りを煽り立てた。
「これで終わりだっ!」
 その1体へトドメを刺したのは、不敵な笑みを浮かべながらチェーンソー剣を振るって大暴れしていたレテイシャだ。
 幾ら爆乳が揺れようと健康的な肌が露出しようとも、全く気にせずに豪快に立ち回り、ズタズタラッシュをぶちかましたのだった。
「黒の王よ、剣を執れ。汝は輝かしき栄光に終わりを齎す者なれば」
 『焦熱世界・炎葬の庭』の炎を束ね、花凛は世界を焼き墜とす炎剣を具現化。
 一振りの剣に圧し固められた焦熱――溢れ出した焔を解放して斬りつければ、
 ドブシュッ――!!
 燃え盛る劫火が飛空オーク最後の1体を瞬時の内に焼き捨て、引導を渡した。
 これで、5体全ての飛空オークを討ち倒したとあって、安堵する面々。
「全く本当に気持ち悪かったですね……」
 夢姫はブツブツ愚痴りつつも、しっかりと床をヒールしてから、
「せっかくですし、ゆっくり温泉に入ってから帰ろうかな」
 気を取り直して温泉を楽しんでいくのだった。
「あぁ……これだけでも来てよかったぁ……」
 花凛もまた、気兼ねなく温泉の中で身体を伸ばし、感嘆の溜め息をついた。

作者:質種剰 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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