宝石強盗を阻止せよ!

作者:沙羅衝

「私の情報によれば、ここの大きなお屋敷の地下に、宝石や高価な時計などがあるようです。しかも大量に。あなたには、これを盗み出していただきましょう、よろしくて?」
 螺旋忍軍、夕霧さやかが目の前にいる月華衆の少女に話し掛ける。
「もしケルベロスに襲われてもそれはそれで結構です。遠慮なく死んでくださいな。当然、これを持ち帰っていただいても良いですが……。そういったものはきっと大事にされていることでしょう。奥への侵入が必要でしょうから、頑張ってくださいな」
 さやかは、この強奪にはあまり期待していないようだった。資金の調達に成功すれば儲けもの、といった所であろうか。
 さやかの言葉を聞き、目の前の月華衆の少女は、無言で頷きを返した。

 ある日の深夜。さやかに命令をされていた月華衆の少女が、表札に山下と記載のある大きなお屋敷に侵入していた。当然警備員も配置されているが、苦も無く進入できたようだ。
 月華衆の少女は地下の一番奥の部屋にたどり着いていた。そこにはまさに金銀財宝といった、おびただしい数の宝石が展示してあった。しかし、それよりも価値があるものがきっとある。そう感じた月華衆の少女は注意深く周りを探ると、一つの仕掛けに気がついた。その仕掛けを難なく解くと、展示棚がガコンと動き、大きな金庫が現れた。

「月華衆の少女が兵庫県の山下・三郎(やました・さぶろう)さん宅に押し入り、宝石とか高価なモンを盗み出す計画を企てているみたいや」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)は、ケルベロス達に説明を開始していた。
「あ、『月華衆』ちゅうのは、小柄で素早く隠密行動が得意な螺旋忍軍みたいでな、特殊な忍術が特徴なんよ。
 自分が行動をする直前に使用されたケルベロスのグラビティの一つをコピーして使用するちゅう忍術らしいんやけど、そのコピーした忍術以外の攻撃方法はないみたいやから、うまいこと攻撃方法を特定させることもできるで。
 あと、理由は良く分かってへんねんけど、そのコピーした忍術の優先順位は、『その戦闘で自分がまだ使用していないグラビティ』ちゅうこうとも分かってる。その辺も踏まえて作戦、考えてみてな」
 月華衆の忍術は特殊なものだ、作戦次第では、有効な手段もあるだろう。ケルベロス達は、作戦を思案し始めた。
「あと、この山下さんっていうお爺さんは、昔に株で大もうけしたらしくて、そのコレクションを大事にしとる。こちらから事情を素直に話したら、きっと協力してくれると思うで。ただ、失敗したら、えらい恨まれるやろうけどな」
 山下氏は70歳の老人であるが、まだまだしっかりしており、自分の集めた宝石を眺めながら、豪快に暮らしているという。
「まあ、あんまり気の良い人じゃないらしいけど、デウスエクスが絡んでいる限り、うちらの仕事や。それにひょっとしたら、黒幕みたいなんも居るかもしれん。頼んだで!」
 絹はそう言って、話を締めくくった。


参加者
エルボレアス・ベアルカーティス(中華まんイーター・e01268)
ロストーク・ヴィスナー(春酔い・e02023)
アイリス・フィリス(気弱なトリガーハッピー・e02148)
大和・武蔵(勇気の証明・e09700)
佐藤・弘樹(閃光の復讐者・e13754)
八雲・要(英雄志望のドラゴニアン・e14465)
影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)
ミーシャ・スクェーニ(藍槍騎士・e24383)

■リプレイ

●地下室に潜むケルベロス
 ここは兵庫県の山の手にある有名な高級住宅街である。そんな邸宅の一つの地下室に、ケルベロス達はいた。
「デウスエクスに狙われてるって言うのに、そんなにお宝が大事っスかねえ? それに、こんな特攻隊みたいな扱いで……」
 一体敵さんは何をしたいんスかね、と展示物を見ながら続ける大和・武蔵(勇気の証明・e09700)。彼の目の前のガラス製のショーケースにはキラキラと輝く宝石が展示してあった。
 ケルベロス達は山下氏に話をつけ、地下に潜むことにした。山下氏は了承したが、宝石を傷つけないようにと念を押すのを忘れなかった。
「何が大事かなんて、人それぞれ。他人には分からんよ」
 エルボレアス・ベアルカーティス(中華まんイーター・e01268)は、武蔵の台詞に鼻で笑いながら答える。彼には、山下氏がどんなあくどい手を使って稼ぎ出しても手が届かないほどの資金を有している為、その領域での思考などは、まるで取るに足らない物であるのだ。
「それこそ、命より大事なものもあるだろう……。地位、名誉、見栄などが当てはまるかも知れんな」
 エルボレアスはそう言いながら、現場責任者からもらった見取り図を見ながら、現場をチェックしていく。
「この展示してあるものも結構な代物ではあるとは思うんだが、更に凄いものもあるというわけか……いやはや」
 佐藤・弘樹(閃光の復讐者・e13754)はそう言いながら、山下氏の言葉を思い出していた。事情を説明した際に、更に大事なものは無いかと山下氏に詰め寄ったケルベロス達は、この部屋の奥に金庫が隠してある事を聞きだしていた。
「金持ちの道楽というのは、理解できんな。しかし、奪った金品を一体何に使うつもりだろうか?」
 ミーシャ・スクェーニ(藍槍騎士・e24383)も、弘樹に同意しながら、見取り図を見る。
「何にせよ、山下さんが大事にしているものだし。やっぱり……泥棒は良くないよね」
 ロストーク・ヴィスナー(春酔い・e02023)がミーシャの横に並ぶ。彼ら二人はかなりの高身長の為、地下室の天井が少し低く見える。しかし、地下室にしてはその構造は広く。そして高い。
「この中央のショーケースを動かせば、ここで戦えそうだね。……と、重いけど、何とか動くね」
 ロストークがボクスドラゴン『プラーミァ』と共に、ショーケースを端に寄せていく。
「あら? あなたの香りだったのですね。ロストークさん」
「え?」
 ロストークの腰の辺りからアイリス・フィリス(気弱なトリガーハッピー・e02148)の声が聞こえてきた。
「ジャスミンの香りですね。いい香りです」
 アイリスの翼がパタパタと動く。
「気に入ってくれて嬉しいよ」
 そう言って、ロストークはにっこりと微笑む。
「それに、大きくて、強そうです!」
「はは……大きいだけだよ」
 アイリスの言葉に、照れながら答えるロストークと、何故か得意げなプラーミァ。
「良し、後は待つだけだな。適当に隠れる所も出来たし……。技だけ真似されても、問題ないってとこ、見せてやろうじゃないか」
 八雲・要(英雄志望のドラゴニアン・e14465)は、彼ら二人と一匹の姿を見ながら、己の隠れる場所を決めた。要のボクスドラゴン『八雲・廻』は、ふわりと飛行しながら、壁にある棚の一つに収まっていく。
「リナ。宜しく……ってもうやってるか。仕事が早いねえ」
 要は声をかけようと影渡・リナ(シャドウランナー・e22244)を見る。しかしその時には、彼女から殺気が放たれている事に気が付いた。
「うん。これで屋敷の人が来る事はほぼないと思うよ。それに、忍びの技を盗みに使うなんて、放っておけないかな」
 リナはそう言いながら、まだ気配の無い地下室の入り口を見る。
「……気持ちで負けたりはしないよ」
 リナはそう言い、自らも物陰に潜んだ。

●潜り込んだ螺旋忍者
 その影は唐突に現れていた。いや、現れたと言うより、気が付くとそこに居たというほうが正しいか。地下鉄の入り口に小柄な影が、音も無くその場に在る建造物のように出現していた。
「そこまでだ」
 地下室にエルボレアスの静止の声が響く。その声と共に一斉にケルベロス達は動いた。エルボレアスがロストーク、武蔵、弘樹、要、ミーシャとプラーミァ、廻にグラビティの鎖を纏わせる。
「こんばんは忍者さん。盗みをする悪い子はお仕置きが待ってますよ」
 アイリスは少女にそう言い、すうっと息を吸い込む。
『みなさん、闘いというものは臆した者に負けがおとずれます。だから、ファイトー!です!!』
 アイリスが全員の中心に飛び出し、ヒールドローンをエルボレアスが鎖を纏わせた味方に展開する。そのヒールドローンはそのケルベロス達を鼓舞するように舞う。
「コイツはあまり使い慣れてないが……!」
 弘樹がそう言いながら物陰から狙撃を行う。しかし、その攻撃は一瞬前に察知され、標的はそれを素早く回避する。
「ったく、こういった絡め手は苦手なんだが……仕方ない」
 要はそう言いながら前に立つ。そしてそのまま標的に後ろを向け、ケルベロス達に向けてニヤリと笑いながら口を開く。廻も彼女の横に並び、ケルベロスに向く。
『これで決めるよ!一斉攻撃だ!』
 その声は、前に立つ者の心に作用し、集中力を与えていく。
「人の集めた者を盗むなんて悪い事だよ」
 リナも味方のグラビティを見て、斬霊刀を抜き放ち、構える。腰を少し落とし、目を伏せ、集中を開始する。リナのグラビティと刀がリンクしていく。
「慣れないやり方だけど……よろしく頼むよ」
 戦闘用の白手袋をしたロストークは、一つの瓶を取り出し、蓋をあける。その瓶をおもむろに地面に向けて傾けると、そこからセピアインクの様な色をした濃い褐色の液体がドロリと落ちた。そしてその液体はそのまま目の前の標的、月華衆の少女に向かって襲いかかる。その黒い液体は月華衆の少女にギリギリのところで避けられるが、避けた先にプラーミァの炎が浴びせられた。
「ここからはもう、逃げられないッスよ。小柄な忍者サン」
 武蔵はそう言いながら、己に癒しの力を付与する。
「そう、逃げる事など出来ない。それに、出来るだけ物は壊さないでいただきたいものだな」
 ミーシャが妖精弓を構え、矢を打ち込む。その矢は避けようとする少女の足元を追撃し、左足を射抜いた。 月華衆の少女はその攻撃の勢いのまま、ケルベロス達から距離を取り、集中を開始した。月華衆の能力、グラビティのコピーが始まったのだ。
 ケルベロス達はそれをみて、ゴクリと唾を飲み込む。しかし、さほど余裕が無いわけでもなかった。それは、入念な準備をしてきたからに他ならなかった。

●ケルベロスの罠
「どれで来ますか? 刃に心を隠すのが忍者だと聞いたことありますけど、彼女に心はあるのでしょうか?」
 アイリスはそう言いながら、護殻装殻術を前に立つケルベロスに施す。
 月華衆の少女は無言のまま、グラビティの鎖を纏った。
「そう、来たか……私の回復力をコピーできるならば、やってみるが良い」
 エルボレアスはそう言いながら、アイリスとリナに同じくグラビティの鎖を展開する。
「しかし、何かこう……あまり意志と言うものが感じられないな……。貫け!」
 弘樹はそう呟きながら、ブラックスライムを飛ばす。その一撃は確実に少女を捉え、彼女の左腕を貫いた。
「そうだな。でも……その鎖も直ぐに壊れる。その回復力を凌駕してな。そうだろ?」
 要は味方を鼓舞し、爆破スイッチを押した。すると、前に立つケルベロスの背後に、カラフルな爆発を起こす。
「うん。そうだよ。かりそめの力なんて、続かないよ」
 リナはそう言いながら、突きの構えを取る。
「リナ君。揃えるぞ!」
 エルボレアスがその構えから斬撃の気配を察知し、リナにグラビティの変更を促す。
「大丈夫だよ、これはただの突きじゃないんだ」
 そう言ったリナの刀にグラビティが集まっていく。
『放つは雷槍、全てを貫け!』
 集中したリナの斬霊刀から雷が放たれる。その雷は少女の目の前に展開された鎖を貫き、破壊しながら、背中へと貫通していった。
 そこへロストークとプラーミァがコンビネーションで追撃をかける。
「確かに、コピーするだけなら、あまり怖くはないッスね」
 武蔵がファミリアロッドから小動物を飛ばす。
「そのようだな。確実にダメージを与えていけば、怖くはない。……すこし哀れみを感じるといったところか」
 ミーシャがバトルオーラからオーラの弾丸を飛ばす。
 ケルベロスは絹の話を確認し、確実な対策を取っていた。それは、相手のコピー能力を逆に利用したものだった。
 月華衆の少女が、要にオーラの弾丸を飛ばす。しかし、その攻撃を要は難なく受け止める。
「やっぱ、真似だけじゃ、駄目だねえ」
 ケルベロス達は、自分達の攻撃の特性を魔法攻撃に絞った。そして、自らは魔法耐性の防具で固めるのだ。すると、そのコピーした攻撃は魔法攻撃に限られる為、ケルベロスに有効なダメージは与えられないであろうと。そして、その作戦は見事にはまっていく。
 月華衆の少女は、ケルベロすの攻撃により、じわじわとダメージを蓄積されていった。

●八方塞の螺旋忍者
『森羅万象を穿て我雷の神槍、ブリューナクッ!!』
 ミーシャがマインドリングから槍を創造し、少女に飛ばす。その攻撃を避けようと動くが、途中で軌道を変化させた切っ先は、そのまま少女の左脚を貫いた。
「もうひとふんばりだな。」
 エルボレアスはそう言うと、腰を落とし、ライトニングロッドを構える。
『マインド……オペレーションッッ!!』
 エルボレアスの回復術が、前に立つケルベロスに施され、更に集中力を高めさせる。
 それを見た少女は、一撃を放とうと集中を開始する。それは先程のミーシャの動きをトレースしていき、その具現化させた槍を、弘樹に伸ばしていく。
「おっと、そうはさせないッス!」
 武蔵がそう言いながら弘樹の前に立ち、その槍を受け止める。武蔵はその槍を受け、後方に吹き飛ばされた。
 ガシャン!
 武蔵は吹き飛ばされた先には棚があり、その勢いで、棚が破壊されていった
「……やっぱり、オリジナルには敵わないッス!」
 棚の破片をふるい落としながら武蔵が立ち上がる。やはり、あまりダメージは入っていない様であったが、武蔵は、全員の視線がこちらを向いているのに気が付いた。
「ん? どうかしたんス?」
 武蔵はそう言い、全員が見つめる先をたどる。すると、自分の後方に、金庫が出現していることに気が付いた。
「あ……これ」
 そう、これは山下氏が隠しているといわれた、重要な物が収められている金庫であった。
 それを見た螺旋忍者は、咄嗟にその金庫を打ち破ろうと、グラビティの集中を開始する。形勢が悪いと判断し、せめて金品だけでも持ち帰ろうと思ったのか、その金庫に突進していく。
「させません!」
 アイリスが半透明の御業を飛ばし、少女の周りに張り巡らせ、その動きを捉える。
「残念だったね! 終わりだ!」
 要が惨殺ナイフで切り付ける。
「さて、何もしゃべらないあんたらには、どんなトラウマが眠ってるんだろうね!」
 その攻撃を受けた少女は、少しの時間立ちすくみ、そして出口を見る。しかし、その後一歩が出ない。
「残念だけど……逃がさないよ」
 ロストークとプラーミァが、その出口を塞ぐ。大柄な青年に阻まれ、後ずさる月華衆の少女。
「……外しは、しない!」
 弘樹がツイン・バスターライフルのリミッターを外す。
『ターゲット確認……排除開始!』
 弘樹のライフルから打ち放たれた魔法光線が、月華衆の少女を捉える。そして、膨大なグラビティの奔流と共に月華衆の少女は消えていった。

「あー、これちょっと形変わっちゃったッスねえ……」
 壊れた展示棚を直していたロストークに声をかける武蔵。
「宝石は無事だったから、そんなに怒られないと思うよ」
「何よりッス」
 武蔵はロストークにそう言われ、ほっとする。そこへ、ミーシャが現れる。
「辺りを見てきたが、怪しい人物は居なかったようだ」
「そうか。……こんな散発的な作戦ばかりで、螺旋忍軍は何を企んでるのやら」
 ミーシャの声に返す要。負けるつもりはないけどね、と続ける。
「……今回の螺旋忍軍は、他の場所でも強盗行為やケルベロスのデータを集めていると聞く。何がしたいんだろうな」
 愛用のライフルを確認しながら、弘樹も二人の話に加わっていく。
「資金調達って……螺旋忍者は、人間社会で暮らしてたりするの?」
「さあ、どうだろうな」
 アイリスはふと浮かんだ疑問を口にするが、エルボレアスはそれに答えることは出来なかった。
「修復も終わったようだし、帰るか。……リナ君、どうした?」
 エルボレアスは、リナが一つの空間を見つめていたのに気がつき、問いかける。
「ううん……何でもない。帰ろうか!」
 リナの声に同意し、ぞろぞろと引き上げるケルベロス達。最後に残ったリナがまた、先程の空間を見つめる。そこは、先程の少女が最後に居た場所であった。
「真似をするだけじゃ、追い越せないよ」
 リナはそう言い、その場を後にした。
 月華衆とは一体何者なのか、そして、夕霧さやかの影。
 こうしてケルベロス達は、その螺旋忍軍との戦いに挑んでいくのであった。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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