雷禍のトールロード

作者:銀條彦

「大変っす! デウスエクスの大軍勢が突然鎌倉に現れたっす!!」
 黒瀬・ダンテが伝えた緊急連絡の内容にケルベロス達は騒然となる。
 このままでは鎌倉周辺は瞬く間に制圧され、鎌倉を完全に手中に収めたデウスエクスは、やがて日本全土を蹂躙し始めるかもしれないというのだ。
「詳しい情報は別に纏めてあるのでそっちで確認して欲しいっす。とにかく今は戦いの準備を整えてくださるとありがたいのでありますッ!」
 未曾有の事態に彼特有の下っ端口調も微妙に変化を見せる。
 だが今はそのような瑣末に突っ込みを入れている場合ではない。
「……っすがその前に。大侵攻に呼応して日本の各地に封印されてたドラゴンまで動き出す予知が見えたっす」
 復活直後のドラゴン達はいずれもグラビティ・チェインの枯渇によりその恐るべき巨体に様々な機能的制約を受けた弱体化状態だろうが、彼等はそれを解消すべく街を破壊しながら人々に襲いかかり殺戮の限りを尽くすだろう。
「この間のドラゴン出現はこの前兆だったのかもしれないっすね……。ま、幸い、皆さんによる撃破大成功のおかげで前よりかなりドラゴンの数は減らせてるはずっす!」
 まずは急ぎ現場に向かいドラゴンを撃破して来て欲しいというのがダンテ達ヘリオライダーからケルベロス達に宛てての要請であった。

「皆さんに向かってもらうドラゴン復活の地は茨城県つくば市っす。市内を通る高速道路沿いにドラゴン1体が移動を開始して人口の多い都市部を目指してやがるっす」
 首尾よく市街にまで到達し虐殺によるグラビティ・チェイン補充を完了させた後は鎌倉に転進を始めるので絶対に阻止してもらいたい。周辺道路上及び近隣街区は既に封鎖済かつ退避完了済だから安心して欲しい。
 そう告げたダンテは更に作戦完了後はそのままヘリオンに乗ってすぐに鎌倉に向かうので鎌倉での戦いにも充分間に合う筈だと説明を付け加えた上で、次に、討伐対象のドラゴンについての詳細に触れる。

「タイプは雷系っすね、サンダー! とはいっても雷撃系の能力はまだブレスだけしか取り戻せて無いみたいっす。それでも複数対象へ纏めてダメージを与えて麻痺まで重ねてくる厄介なやつなんで油断は禁物っすよ」
 それ以外は超硬化させた爪による攻撃と、巨体に相応しいサイズの尻尾による薙ぎ払いを仕掛けてくるようだとの事。
 そしてドラゴンはあくまで高速道を都市部への道標としてのみ使って並走歩行しており、移動自体は地上部に脚を降ろしているらしい。
 だから進行方向付近の無人のビル群へドラゴンを誘いこむ他に、高架式である高速道路上へ登りこちらを足場として用いる作戦も可能であるとダンテは説明してくれた。
 当然、高速道路にもヒールグラビティは有効だしどちらを選んでも一般人保護の心配は要らないので、とにかく討伐完遂を最優先でガンガン戦った方が良いとはヘリオライダーからのお墨付きである。
「弱体化しててもドラゴンは強敵っすが皆さんならきっとやり遂げてくれるって、自分信じてるっす! ドッカンと竜退治を済ませて後顧の憂いを断ったらいざ鎌倉っす!」


参加者
ツヴァイ・バーデ(マルチエンド・e01661)
デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355)
霧島・龍護(カードも好きだが歌も好き・e03314)
須々木・輪夏(シャドウエルフの刀剣士・e04836)
スワロ・ラースタチカ(紫灯のガンスリンガー・e09720)
新庄・祐太(白鑞の兵・e11620)

■リプレイ

●招雷
 眼下、大地の上を緩やかにのたうつようにハイウェイが横たわる。
 目指す敵はただ黙々と前進を、グラビティ・チェインを求めての移動を続けている。
「戦闘種族と名高いドラゴンも、飢えてしまってはこのザマか! 正直寂しさすら覚えるものだ」
 人工物を恃みに餌場を求めて彷徨う雷竜の有様をゴーグル越しに睨みながら。思わずといった剣幕でレッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)が吐きつけた憤慨は敬意との表裏一体。
(「ドラゴンが街に着いたら、皆襲われて……ううん、そんなこと、絶対させない」)
 初陣故の迷いから須々木・輪夏(シャドウエルフの刀剣士・e04836)の心は時に不安に駆られそうになる。
 でも『初めてだから』なんて言い訳、と、彼女は自身を叱咤し、実際に助けるべき地を直に眼にした後は助けたいという願いが不安を上回った。
「皆で勝つ、よ」
 俯く顔に纏わりつく銀糸の髪を一掻きし小さく口にしたのは決意。頼もしき七つの答えは異口同音に、同意ただ一つ。

 つくば上空からドラゴンの進行方向や周辺街区との位置関係を最終確認した後。
「降下場所はここっすね」
 あらかじめ叩き込んでおいた詳細な地図や経路図を元にツヴァイ・バーデ(マルチエンド・e01661)が割り出した推定到達時間等から目指す予定地点は速やかに割り出された。
「なるほど、じゃ、お先に! ハハッ!!」
 デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355)は弾けるような勢いで嬉々とヘリオンから飛び出す。
 呆気に取られながらもスワロ・ラースタチカ(紫灯のガンスリンガー・e09720)は何物にも囚われずただ風を受ける軽やかな翼を見送る。
 尚追うようにするりと視線を落とせば整備された都市部が紫瞳の端へと映る。
 極東の小さき列島の存在無くしては復興果たせなかったであろう故郷を想い、そして今、この地で得た愛する者達の存在や人々の営みを想い起こせば自然と彼女の心は奮い立つ。
(「ここも鎌倉も、必ず守るわ」)
 重きを翼に乗せるが故に、稚き『燕』もまた、その全身を風すさぶ蒼天へと踊らせる。
 
 ケルベロス達が選んだ戦場は高速道路上。
 1番乗りのデフェールが鮮やかな二挺同時のガンスピンで後続を迎え入れる。冷静を保ち集中を高める彼なりの儀式なのだろう。
(「うおー……ホンモノのドラゴン! ……って言ってみてぇけど、実感湧かなくなってきちゃったよなぁ」)
 チーム唯一の生粋の地球人である霧島・龍護(カードも好きだが歌も好き・e03314)は、ひょんな事から入手したシャーマンズカードによって覚醒した、大建造期真っ只中生まれの現代っ子そのもの。
 彼が培ってきた『普通』すぎる感性ではまだ実感が追いつかない局面もあれど、それでも彼もまた護り抗う闘争の道進むケルベロスたるに相応しい魂を持ち合わせる戦士だ。
 伝わる震動にもはや不要と双眼鏡を仕舞いながら索敵役のレイ・ライトブリンガー(九鬼・e00481)が逐次敵の詳細位置を伝える。
 各状況から敵は未だ此方を認識出来てはいないと判断を下した新庄・祐太(白鑞の兵・e11620)は指先を軽く黒縁眼鏡のブリッジ部に添えてベストポジションへと置き直した後。
「(襲撃、開始)」
 目視できる味方には手信号、そうでない者にはアイズフォン越しに一斉奇襲を指示した。

●石火
「おらこっち向けよデカブツ! オレたちとやりあおうぜ!」
 デフェールのリボルバーが文字通り火を噴く。
 ほぼ同時。中衛の間合いを保つツヴァイも同質の炎宿した鉄塊剣を振り上げ敵ドラゴンに一撃を見舞った。赤銅の巨躯に次々と小さき地獄が刻みつけられてゆく。
「でかいドラゴンだなぁおい。力を取り戻していない状態なのがまだ救いかねぇ」
 揺るぐ気配すら無い敵を見上げたデフェールを突き動かすのは恐れでも使命感でもなく、高揚。弱体中とはいえドラゴン殺しとなれば心躍らぬ筈が無い。
「まぁ、なんにしてもドラゴンと戦えんのは楽しみだ」
「これっぽっちで倒れられても傭兵のお飯食い上げっすから」
 炎熱燻る巨大剣をひょいと担ぎ上げて反撃に備えながら飄と呟くツヴァイもまた同類。
 あらわにするか否かの違いはあれど本能で強敵を求める戦闘狂らは己を昂ぶらせてゆく。
 赤銅のドラゴンは道路上のケルベロス達を一瞥し、しかし、いまだその歩を止める気配は無い。
「貴様のその赤銅、弱ってもなお実に見事だ! 幾つか俺様に譲る気はないか?」
 殊更に尊大に、並走状態のまま敵を煽るレッドレークは大きく振りかぶったレーキを思い切りよく放り投げた。赤光りする農具としか映らぬ赤熊手。だが、何故だか農業に目覚めてしまったレプリカントがひとたび揮えば敵を刈り収穫する凶器と化す。
 赤銅鱗の表層が僅かに削がれパラパラと宙に散った塵が地に落ちるのを待たずレイの毒手裏剣が、スワロのバスタービームが怒涛の追い撃ちで浴びせられる。
 そして。
「まだまだオレ達のターンは終わっちゃいないぜ! 手札から氷属性ユニット、【氷結の槍騎兵】を一時召喚!」
「……TC、G?」
 陣の最後衛、慎重に死角への位置取りを心がけながら居並ぶ味方の頭越しに攻勢へ加わりながら輪夏は思わず呟いた。
 斬霊刀佩く身に宿した御業が熾炎業炎砲で岩壁の如き脇腹を浄火で焦がしたのと同時。
 雷竜の爪先へ棘の如き氷片を突き立てたランスナイトの鋭き穂先は、紛うこと無く巫術修める者には馴染み深い護符術……の筈なのだが龍護の其れはおよそ術らしく無く新鮮だ。
「ま、暴れられても困るんで、一狩り、いこーか?」
 押し寄せる『非日常』は、だが全てが龍護自身が手を伸ばし、飛び込んだもの。
 一度肝さえ据わってしまえばいかにもいつもの彼らしくお気楽とさえ呼べる方向へ一気に舵は切られてゆくのだ。

「霧島さんも須々木さんも、無理はしないようにね」 
 回復役と『次』の要を担う後衛2人へふわり追い越しざまに声を掛け、祐太は羽織る白衣のポケットに両手を突っ込んだまま悠然と追走を続けていた。
 ととん、と、有るのか無いのかよくは解らぬ勢いのまま跳躍し、高架の端。
 敵の眼前へすとんと着地した後にようやくポケットから出された片手は、眼鏡を軽く押し上げた後、まるでそのついでとばかりに眠たげな様子で杖を取り出した。
 ――チリリ……ッ、雷鳴が杖から迸り巨大な下顎に癒えぬ痺痛を灼きつける。
「来なよデカブツ! 雷の扱いなら今のあんたより自信があるね!」
 柄でも無いと内心で苦笑しながらも白銅の兵は猫背気味の背を反り大声を張り、虚ろな灰眼に嘲笑を浴びせた。

 ――……ッオオオォォッ!

 重なる攻撃行為に状態異常、挑発、あてつけの雷撃。そのどれかが。
 あるいは全てが引き鉄となり、咆哮が、唸りをあげて空を震わせる。否。
 震えたのは天だけではない。
「ッ!」
 衝撃は、ケルベロス達の足下から。
 
●禍祓
 竜尾一閃――それのみでコンクリ柱を圧し折った反撃はその余波ですら前衛列を深く斬り裂き足傷を負わせた。ズズリと崩落を始めた高架道はまだかろうじて足場として機能したがあと二撃も保たぬだろう。
 自陣を見回して一呼吸の後、インカムマイクを口元に引き寄せた龍護が路上ライブに選んだ曲目は『ブラッドスター』。響き渡る唄声は果敢な前衛陣を癒しその背を押す。
「一撃粉砕すら出来ぬとは! 人間よりも野菜を喰った方が健康的だぞ! ワハハハハ!」 
 落下する瓦礫を足場と遮蔽に逆利用し、半ば強引に死角へと肉薄したレッドレークは肩口に赤熊手を突き立て生命啜る『虚』の傷を刻む。
「よーするに全部ぶっ壊せばいいんだろ?」
 高架上ではデフェールの弾倉全てに地獄の炎が装填される。集中が高まる程に……戦いへの没頭が深まる程に、我知らず男の尻尾は激しく上下する。
「じゃあやるしかネェな!」
 雷竜の引き止め成功に歓喜する銃手からの返礼は『Genocide Bullet(ジェノサイド・バレット)』六連射。
「壊れ過ぎたら俺の手には負えなくなる、気を付けて」
「よし、盛り上がっていこーぜ! 来い、【鋼鉄の音響兵】!」
 最前列から献身的に味方を庇い深手を負う者には『存在の再構成(バックキャスト)』を施し続ける祐太が、後列では龍護とっておきのレア札と熱唱の二重奏が刻む律動が、粘り強く戦線を支える。
 そして彼等自身が重度の状態異常や消耗に陥れば中衛勢がすかさずフォローに廻り優位は常にケルベロスの側だ。

 主戦場が高架上から地上へと移行するさなか前肢の爪が圧倒的な質量と破壊力伴いレイの頭上を襲う。だが爪撃が砕き得たのは僅かな白鱗と九字を切り纏った破剣のみ。
「おっと」
 彼個人にとっては転げ落ちたソフト帽の無事の方が余程の一大事である。
 片掌でいなし、残る片腕からカウンターで叩き込まれた肘打ちは螺旋の忍技。注がれた螺旋力にさしもの堅守も耐え切れず竜爪の一枚が砕け散る。
「なかなかやるねえ」
 流石に帽子を汚さず勝利するにはコレを脱がねばならぬ様だと、ニヤリ、口元を歪めた竜頭の伊達男は颯爽とトレンチコートを投げ捨てた。
「翼周りの挙動が僅かずつだけど変化しているね、要注意だよ」
 祐太の観察眼からの警告は飛行行動の予兆を意味する。
 どれ程僅かな時間だろうとドラゴンに空を取り戻させる脅威を思えば可能性は芽すらも潰しておきたい。
(「だから、翼狙い……飛行能力を、削ぐ……」)
 それがケルベロス達の総意であり、故に、最も狙撃の役に適うポジションへ位置した一人の双刀の少女を軸に彼等の戦術は組み上げられつつあった。
 スワロは此処までドラゴンの死角を求めて駆け続ける輪夏とは常にほぼ対角線上を位置取りながら、機動と速射を織り交ぜての的確な攻撃阻害で彼女を援護し続けた。
「距離・照準・尻尾、OK。やるわ……『テイルランページ』」
 激しくうねる竜尾の一打からの超加速そのままに大地を滑り、見上げれば一面の赤銅。翼めがけ飛来した影にスワロの口元はうっすら笑みの形を取る。
 突き上げた長大な銃身から当たるを幸いと連続発射されるありったけの弾、弾、弾。
「ズルいぞオレにも一枚噛ませろ」
「……デフェール」
 少女がこじ開けた血路を舞踏じみた軽快な脚運びで後追いしたのは二丁拳銃使い。男女双竜が奏でる全方位射撃と四方から重ねられた援護攻撃すら隠れ蓑に、赤銅の背への着地を果たした輪夏は最後の一跳躍。
 此処まで一時たりと止まる事の無かった少女の脚は、灰白の皮膜を踏みつけた其の瞬間、初めて静止した。
「……飛ばさせない。 ……皆のところには行かせない!」
 すぅ、と掲げた切っ先に雷気が集まり、二刀同時、繰り出された神速の突きが遂に片翼に深々と風穴を穿つ。雷竜の護り圧する迅雷の二太刀が巨翼に刻んだ傷痕は見惚れるほどの切り口の十文字。暗殺司る妖精族の少女と仲間が狙い続けたのは、この刹那の好機。

 ――ガァォォオァアア……ッ!!?

 だが半ばぶら下げただけと果てた片翼が千切れようともお構いなし、怒りに狂えんばかりの赤銅竜が羽ばたく都度に巨木の如き両脚は大地からゆっくりと解き放たれてゆく。暗雲の如き影だけを地に残し巨体は、遂に完全に、宙へ――。
「……そんな……」
「輪夏に龍護、伏せて! 来る……雷ブレス!」
 捨て身後も腹下で貪欲に追撃の機を窺い続けていたスワロは特有の喉と首の動きを見逃さず警告を発したが輪夏の防御は僅かに間に合わず正面から浴びる事となる。
 幸いそれは此処までで最も威力の弱い一撃だったがむしろ策を為せなかったかもしれぬという精神的動揺の方が大きい。

「ごめんなさい……私……」
「いや、違うっすよ」
 蒼白の輪夏を引き戻したのは落ち着き払ったツヴァイの一声だ。
 睥睨する片翼の敵影めがけ彼の内なる『煉獄』が発した白き焔は追い縋り灼熱の檻と成す。『白焔煉獄(ホロウケイジ)』が生み出す領域は超火力の代償に極々狭いものだ。
 短射程に囚われるこの姿こそ飛翔と呼べる力を奪い尽くした何よりの証と語る彼の冷静は意外だが心強くもあった。
「それ以上無様な姿を晒さぬように、俺様が引導を渡してやるぞ!」
 のたうちながら高度を下げるドラゴンに向けて、レッドレークの腕から解放された攻性植物は急速に這い茂り赤銅の脚へと絡みつく。その身を贄と捧げよとの声に呼応した赤蔓草のさまはまるでもう一振りの赤熊手。竜鱗剥がれた部位を見逃さず深く食い込み肉という肉が引き裂かれる。
「さあ後ひと頑張りといこう」
「……は、はい」
 輪夏へ手早く魔術切開を施し終えた祐太は仕上げにぽんと肩を叩いて鼓舞する。

 鎧う鱗も誇る翼も満身創痍。弱体に弱体を重ね、墜ちゆくのみの竜を真っ直ぐと見据え。
 今こそ頃合いと掲げられた白鱗の腕へ宿る、眼を奪わんばかりの輝き。
『数多煌めく光の粒子よ。我が左手に集いて彼の敵を撃ち滅ぼさん。我が名は”光の運び手(ライトブリンガー)なり!』
 レイ=ルに脈打つ血は散乱する飛礫を極限にまで加速させ禍つ竜討つ光は束ねられてゆく。狙い違わず心臓を貫いた一矢はデウスエクスに宝石化すら許さぬ完璧な『死』の感触を左手へと伝えた。
「サラリーマンをなめないでもらいたいね」

 空を乞い高みに焦がれる――。
「……貴方もそうだったのかもしれないわね」
 雷禍たる威容を一度かぎり見せつけ儚く墜ちた巨躯を見上げたスワロの眼差しの上、天は何も語らずただ遠く眩い。

●途上
 みるみる修復される高架道路上。
「うっひゃー! 多色デッキ完成って感じだぜ!」
「……うん、芸術が爆発してるね」
 龍護主導の所為かは不明だが幻想率やや多め。だがちゃんと車両通行を妨げない良幻想。
 いいんじゃないかなと自身もメディカルレインで大いに加担もとい尽力した祐太は家族達の平穏に遠く心馳せる。
(「放置すればあそこにもいずれ災禍は辿り着くんだろうね。呑気に暮らしていてもらう為にも……頑張るか」)

 応急処置を終え、亡骸の霧散も見届け、後はヘリオン到着を待つばかりとなった頃。
「勝てた……けど、今日はまだ終わりじゃないから、あの……」
 ようやく意を決してといった様子で、輪夏は鎌倉での互いの無事や活躍を祈りたいのだと切り出した。
「……戦争だと皆バラバラ、かもだけど……ん、……」
 おずおずと伸ばされた手。他者の拒絶を恐れるあまりに内に篭りがちな気性の少女は、それでも今『仲間』と何かを分かち合いたかった。
 ゆっくりと重ねられる手は増えてゆく。

 激闘の幕切れと幕開けの内でこれ程に初々しくほほえましい行為は初めてだと歴戦の竜派ドラゴニアンもまた翠瞳を細めて応じた。
 しかしそのぬくもりも、頓に激化を見せ始めた敵の蠢動に胸騒ぎを覚えるレイの心を完全には晴らしてはくれない。
 ――何やら嫌な予感がするねえと中折れ帽の下で漏れた嘆息は、風へと掻き消えた。

作者:銀條彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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