剛腕の古兵

作者:刑部

 その蛾の羽を動かし、そこに観客がいるかの様にシルクハットを手に一礼する。
「さあさあ、我ら『マサクゥルサーカス団』のオンステージだ!」
 その死神……『団長』がパチンと指を鳴らすと、その背後に3体の怪魚型下級死神が現れる。
「それでは君達、後は頼んだよ。君達が新入達を連れて来たら、楽しいパーティを始めるとしよう」
 『団長』の口の端がニイィと上がり歯を見せて笑うと、怪魚型の死神達は光の軌跡を描いて宙を泳ぎ出し、その姿を見送った『団長』は、見えない観客に一礼してシルクハットを被り直すと、闇に溶け込む様に姿を消した。

 岡山県笠岡市。
 岡山県の南西部、カブトガニの繁殖地として有名なこの地の一角に、真夜中その死神達は現れた。
 宙を泳ぐその軌跡が魔法陣を描くと、その魔法陣の中央に地中から引っ張り上げられる『モノ』。
「ボ……ベ……」
 小さく言葉を漏らし小首を傾げながら左右を見渡すその姿は、星霊甲冑で身を固め両腕に巨大なガントレットをはめたエインヘリアル。
「グルルルルゥゥゥ」
 獣じみた唸り声を発し、ガントレット同士を打ち鳴らしたエインヘリアルの周りを、3体の怪魚型死神が嬉しそうに泳ぐのだった。

「蛾の羽根を持ったの死神が、続いとるみたいやな」
 杠・千尋(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0044)が、見た予知について説明を始める。
「なんやこの蛾みたいな死神が、前からちょいちょい確認されとった、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスの骸を、サルベージする作戦の指揮を執っとるみたいや。
 コイツは配下である怪魚型の死神を放って、死んだデウスエクスを変異強化してサルベージをさせて、死神の勢力に取り込もうとしとるみたいや。
 そうやって戦力を増やそうとしとるんやけど、見逃すことは出来へんわな。しょーもない計画を防ぐため、このサルベージされるデウスエクスと怪魚型の死神を倒して欲しいんや」
 千尋は身振り手振りを加えて説明を続ける。

「場所は岡山県笠岡市のこのへんや」
 千尋が地図の一点を指す。どうやら町中の公園の様だ。
「まー町中やけど、オフィス街で繁華街でもないので、到着する真夜中辺りでは人通りもない筈や。一応警察には連絡して、繋がってる道路は通行止めにしてもろてる。
 サルベージしようとする怪魚型の死神は3体。怨霊弾放ったり噛み付いてきたりしよる。ほんで死神がサルベージしたんは、両腕に巨大なガントレットをはめたエインヘリアルや。
 ただ、変異強化された影響で攻撃的になっとる反面、知性は獣並みになっとるみたいで、会話は成立せぇへんと思う」
 千尋は、サルベージされたエインヘリアルがかなり手ごわそうな事を付け加える。
「指揮官が出張って来たって事は、やっこさんらも上手くいってないって事やな。もっと妨害すれば引っ張り出せるかもしれへんから、みんな頼んだで」
 千尋はそう皆に発破をかけるのだった。


参加者
ドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)
スレイン・フォード(シンフォニックガンシューター・e00886)
アゴネリウス・ゴールドマリア(ヒゲ愛のアゴネリウス・e01735)
瀬戸口・灰(泰然自若の菩提樹・e04992)
フォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)
尾神・秋津彦(走狗・e18742)
唯織・雅(告死天使・e25132)

■リプレイ


「デウスエクス相手に面倒も何もあったものではないのだが、過去に討伐した者をもう一度討たねばならないと言うのは、賽の河原かなにかだろうか?」
「カッカッカッ、小難しい事はどうでもいいのじゃ。わしらが倒れるか、あちらが壊れるか、拳で語り合うだけじゃ」
 仏頂面のまま小首を傾げるスレイン・フォード(シンフォニックガンシューター・e00886)に対し、闊達な笑い声を上げたドルフィン・ドットハック(蒼き狂竜・e00638)が腕を鳴らす。
「そうそう、古強者とやり合うってのはやっぱ心が踊るぜ。その一点だけは死神に感謝してやってもいい」
 と、瀬戸口・灰(泰然自若の菩提樹・e04992)もドルフィンに同調して嬉しそうに笑い、念の為に殺界を形成すると、その肩に乗ったウイングキャットの『夜朱』も、そうだそうだと言わんばかりに尻尾を伸ばして大きく口を開ける。
 その様を見たスレインが、やれやれと言わんばかりに肩をすくめるが、そのやり取りで、公園の入口に立つ此方の存在に気づいたのか、エインヘリアルが此方へと向き直る。
「グルルルゥゥゥゥ」
「寝た子を、起こすのは……感心、しません。ほら、寝起きで、とても、機嫌が……悪い。もう、一度、お休み、頂き……ます」
 エインヘリアルが威嚇する様に唸り声を上げ、周遊する死神達も顔を向けて牙を鳴らすと、唯織・雅(告死天使・e25132)が折って発光させたケミカルライトをばら撒き、ウイングキャットの『セクメト』が羽ばたいて舞い上がる。
「お魚さんがゾンビ漁りだなんて似合いませんわよ? おとなしくマリネになっちゃいなさい♪」
「ん、昔攻めて来て死んだエインヘリアル。……敵だけど、死者を安らかに眠らせてあげないなんて許せないの」
 アゴネリウス・ゴールドマリア(ヒゲ愛のアゴネリウス・e01735)が妖しく頬笑み掛けると、むーっと唇を尖らせたフォン・エンペリウス(生粋の動物好き・e07703)が愛用のバスターライフルを構え、彼女のボクスドラゴン『クルル』が氷焔を揺らめかせて舞い上がるのを見て、ガンガンと拳を打ち鳴らすエインヘリアル。
「何度も死んでは復活させられて、こき使われて大変ね。折角だし、永遠に開放してやるわね」
「然り、二度と迷わぬ様、泉下に叩き返すであります」
 金髪を耳の後ろへと流したメドラウテ・マッカーサー(雷閃・e13102)が、くるくると回したルーンアックスを小脇に構え、【山颪】を親指で弾き鯉口を切った尾神・秋津彦(走狗・e18742)がエインヘリアルを見据えて腰を落とす。
「ガアッ!」
 その秋津彦が腰を落としたのと同じタイミングで、引き絞った弓から放たれる矢の如く、拳を打ち鳴らし上体を低く保ったエインヘリアルが地面を蹴る。
 フォンの遠吠により出遅れた死神達を置き去りに、アゴネリウスの張った雷壁を打ち破って一気に距離を詰めるエインヘリアルは、暴風の如くその武をケルベロス達に叩き付けてきたのだ。


「エインヘリアルの、勇者と、言えど……これでは、狂人と……大差。ありません、ね」
 その様に冷ややかな銀眼を向けた雅がスイッチを押すと、その背後にカラフルな爆発が起こって爆風が仲間達を鼓舞し、その爆風を後押しする様に、セクメトと夜朱も翼をはためかせたところに黄金の果実が輝く。
「まったく、死神というのはケルベロスにストレステストを行うために、存在するのではあるまいな」
 仲間達が死神達に踊り掛る中、突っ込んできたエインヘリアルに強かに殴られ、黄金の果実を打ち砕かれたスレインが、ボヤきつつナイフを構える。
「これは、灼滅の……狼煙、です」
 雅は再度スイッチを起動させ、灰や秋津彦らの背後に爆発を起こすが、
「! ……待て」
 焔を纏うスレインの蹴りとクルルの吐く蒼い炎を受けたエインヘリアルは、急に踵を返し、脇を抜けて死神に向うメドラウテに殴り掛り、スレインとセクメトが慌てて押さえに掛る。
 抑え役に回る者達が怒らせるなどして特に引き付ける策を講じていなかった事と、強化行動に手を裂いた事で、より積極的に攻撃をする敵に目標を変えた様だ。
「怨霊弾、来ます」
 響く雅の声。死神達が次々と怨霊弾を放ち前衛陣に毒を蔓延させようとするが、これは反対に強化行動が効を奏し被害が抑えられる。
「君の相手は私だ。ちゃんと相手して貰わないと困るんだけどな」
 その間に回り込み、エインヘリアルとドルフィンら死神を攻める仲間達の間に割って入ったスレインが、あまり使いたくなかったがと小さく呟きつつアームドフォートの砲撃で弾幕を張り、セクメトとクルルの攻撃を援護した。

「まずは邪魔な死神共を掃討じゃ!」
 死神達が吐く怨霊弾と、言葉と共にドルフィンの口から吐かれた竜焔が空中でぶつかり四散する。
「いきなり壁を打ち破るなんて……でも恋の成就には幾つもの壁があるものなのよ」
 いきなり雷壁を打ち破られたアゴネリウスは、縦ロールの金髪を揺らしてウインクを飛ばし、ロッドを掲げて再度雷で出来た壁を作って仲間達を守る。その壁に守られながら広げた掌を向けたのは灰。
「拳を打ち合う為にとっとと片付けさせてもらうぜ」
 その掌から巨大な光弾が飛び死神達を撃ち、メドラウテの放つ矢とフォンの放つ魔力の奔流が追い打ちを掛けると、それを援護に秋津彦が突っ込んで行く。だが、死神達も負けじと怨霊弾を放ち、牙を剥いて反撃する。
 その怨霊弾の厄介なところは、ドルフィンのみならず、エインヘリアルを押さえるスレイン達にも効果が及ぶところだろう。
「ドルフィンさんの腹筋もなかなか良い物ですわね♪ うふふふ……?」
 だが、妖しく微笑んだアゴネリウスが、腐のオーラを根源としてドドメ色のオーラを放って前衛陣を癒すと、夜朱もリーフの様なキャットリングをくるくる回して羽ばたき、その回復を後押しする。
「カッカッカッ! これぞドラゴンアーツの真骨頂じゃ!」
 その援護を受け吼えたドルフィンの口から光輝く白い炎の息が吐かれ、死神達を薙ぎ払うと、先程集中攻撃を受けた1体が、体に氷を纏わせながら地面に突っ込み、弱々しく尾っぽを振るわせた。
「よーし、1匹撃墜っと、次はアンタだ」
 それを確認した灰が、別の1体を次のターゲットに定めて一気に距離を詰め、炎を纏う蹴りを叩き込んだ。

「ん、エンペリウス……凍らせるの」
 フォンが両手に構えた2丁の水晶の様に透き通ったバスターライフル、『エンペリウス』-enis-と-zwai-の銃口から凍結光線が迸る。その攻撃を受け体表を氷に覆われた死神に、
「狗の役目をご覧あれ」
「面と向かって戦う事もしない臆病者め」
 双刃を交錯させ衝撃波を放った秋津彦が身を屈めて地を蹴り、展開した胸部から放つエネルギー光を撃つ放ったメドラウテが、そのままルーンアックスを小脇に秋津彦に続く。
 それを押し留める様に2体の死神から吐かれる怨霊弾だったが、ドルフィンの吐くブレスが死神を更に凍らせ、吐かれた怨霊弾はアゴネリウスの張った雷壁がその効果を減じ、メドラウテの払う斧の一閃に払われる。
「疾く駆け、良く断つ。狗の役目をご覧あれ!」
 そのメドラウテの一動作分先んじた秋津彦の一閃が、死神の体を大きく裂き、追い付いて来た灰の鋭い突きが秋津彦の裂いた傷を更にえぐると、怨霊弾を裂いた一閃の動きのまま体を一回転させたメドラウテ。
「この一撃で潰させてもらう」
 遠心力を加えて振るわれた輝く斧刃に、死神の体は文字通り真っ二つになって絶命する。
「ん、逃がさないの」
 ひるんだ残る1体の死神が、後退する様な動きを見せるが、エインヘリアルを押さえるクルルに、ちらりと視線を這わせたフォンが向けた2つの銃口。
 放たれた赤く巨大な魔力の奔流がその死神を撃ち落とし、秋津彦が刃を突き立て止めを指すと、
「牛若丸と弁慶の逸話の再現であります。素早く翻弄して斬り払うでありますよ」
 武装羽織を翻した秋津彦は、先に踵を返した灰を追って巨躯を誇るエインヘリアル目掛け駆け出した。


「攻撃が単調だな……そうか、無能な死神は自身より有能な配下は用意できな……しまっ」
 攻撃を受け流そうとしたスレインの体が、不意に伸ばされたエインヘリアルの逆手に掴まれた。そして動きを封じられたスレインの腹に叩き込まれる拳。
「スレイン、さん! セクメト、おさえて」
 体をくの字に曲げ胃液を吐くスレインを見た雅が声を上げ、クルルの吐いたブレスと共に、ゲシュタルトグレイブの穂先を向けてセクメトの飛ばしたキャットリングと共に突っ込むと、掴んだスレインの体を投げ捨て、繰り出された穂先を捌きながら後退するエインヘリアル。
「待たせたな! お前の全てを喰らってやるからよ、全力、見せてみな!」
 そこに歯を見せて笑う灰が殴り掛り、その灰をかすめる様に飛来するフロストレーザーがエインヘリアルを穿ち、灰が追撃を掛ける様に拳を振るう。
「ん、クルルもよくがんばったの」
 それを放ち、自身のボクスドラゴンを労うフォンの金色の瞳に映る仲間達の背中、
「さあ、心置きなく殺りあおうか!」
「お待たせしてしまった様ですわね。その分、ここから全力でサポートさせて頂きますわ」
 灰を殴り返したエインヘリアルに叩きつけられるドルフィンの拳。
 その衝撃音が響く中、アゴネリウスがスレインの体をサキュバスミストで包むと、雅がスレインを庇う様に立ち胸の前で槍を回転させる。
「ハハッ、そこから拳を繰り出すか! やるねぇ」
 ドルフィンに意識が向いた瞬間、跳躍し斧を振るおうとしたところを上体だけを捻って繰り出した裏拳に弾き返されたメドラウテは、嬉しそうに笑みを浮かべた。だが、そのメラドウテを弾き返す動きは、更なる大きな隙を生む事になり、そこに九郎判官の八艘飛びを彷彿とさせる飛び込みを見せたのは秋津彦。
「これぞ、『天狗の飛び切り』!」
「ガアッ!」
 ニッと笑みを見せて飛び退いた秋津彦が先程まで居た場所に剛拳が振り下ろされ、地面を大きく穿つ。囲まれている事を気付いたエインヘリアルは、それを嫌って後退しようとするが、
「そう、簡単に……私の、後に。通しは、しません」
 回り込んだ雅が槍を突き付け、一瞬足が止まったエインヘリアルの天頂方向から、降って来た夜朱とセクメトが、2匹同時にエインヘリアルの顔に爪を突き立てた。
「グゴオオォォ」
 両手で顔を押さえて呻いたエインヘリアルが、その両拳をガツンとぶつけて咆えると、重力震動波が巻き起こってケルベロス達を襲う。
「狐耳っ娘のフォンさんや、狼耳ポニーテールの尾神さんの可愛さも最高です。さぁ、我が愛する者を守りなさい……黒き欲望の力よ……!」
 クルルがブレスを吐いて反撃する中、自分の体を抱きしめる様にして震えたアゴネリウスの、ドドメ色の腐のオーラがその傷をたちまちに癒す。
「潮時だろう。欠片も残さず、砕けちまいな!」
「古きは去る! これで未練なく逝けるであろう!」
 その間に距離を詰めた灰とドルフィンが、挟み込む様にしてエインヘリアルに次々と拳を叩き込み、
「まったく力任せのバカはこれだから困る。お返ししておきますよ」
 2人に気を取られたエインヘリアルの顎を、思いっきり蹴り上げたのはスレイン。その一撃に仰け反ったエインヘリアルに、秋津彦が再度一閃を叩き込んだところへ、
「借りるぞ」
 灰の背を足場に跳んだメドラウテの振り下ろしたルーンアクス。
 着地したメラドウテの隣にエインヘリアルの首が転がり落ち、それを追う様にエインヘリアルの体が倒れて砂煙を上げたのだった。


「カッカッカッ! 満足の行く戦であったわ!」
「知性は無くとも語れるものはあったな」
 腕を組んだドルフィンが高らかに笑い、肩に夜朱を乗せた灰が己の拳を見て呟く。
「ああ、少し油断しただけだし、もう大丈夫だ」
「そう。大丈夫なら私は辺りをヒールするわ」
 傷の具合を聞かれたスレインがヒールを丁重に断ると、頷いたアゴネリウスは壊れた個所にヒールを掛けて回る。
「ん、これ貰えるならわたしが貰うの」
 と、特に誰かも異論も出なかったので、エインヘリアルの両腕のガントレットを回収するフォンの周りをクルルが嬉しそうに飛ぶ。
「戦士としての魂が狂執に猛るがまま利用されぬ様、『ばるはら』とやらにお逝きなさい」
「これでもう永遠に眠れるの?」
 黙祷を捧げる秋津彦に、メドラウテが小首を傾げると、
「大丈夫、と思います。もっとも、ヴァルハラには、いってない、でしょうけど………」
 じゃれつくセクメトの頭を撫でながら雅が応える。
 ともあれこうしてケルベロス達は、一人の犠牲者も出す事無く、エインヘリアルと死神を討伐し帰路についたのだった。

作者:刑部 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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