重装の古兵

■リプレイ

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　ヘリオンから森の外縁に降り立ち、腰などに吊るしたランタンの灯りを頼りに森の中を進む一行。その視界に淡い光を捉え足を速めた瞬間、その視界が闇に染まる。
「怨霊弾だ」
「散開っ！」
　立茂・樒（瑠璃の竜胆・e02269）の声に楡金・澄華（氷刃・e01056）の声が重なり、言い終わらぬ内に２人は抜刀の動作から怨霊弾を裂きに掛る。
「ま、目印付けて狙ってくれと言ってる様なもんだからな。おらトカゲ、追い込み漁だ」
「任せるのである。っと……ちょっと待つのだ、髪飾りが枝に引っ掛かかって……」
　ぽりぽりと頬を掻き横へ体を振った相良・鳴海（アンダードッグ・e00465）が、闇の向こうの光目掛けて愛銃のトリガーを連続で引き銃弾をばら撒くと、それを援護に半包囲する様なポジションをとろうとしたガルディアン・ガーラウル（ドラゴンガンマン・e00800）だったが、インデアン風の派手な髪飾り『蒼光の羽飾り』が枝に引っ掛かったらしく、もがきつつ掌からドラゴンの幻影を出して炎を吐かせる。
「先制攻撃たァやってくれるぜ、だが、これでどうだ？」
　素早く点けた葉巻から紫煙を棚引かせ、鳴海とは逆側に展開したカリーナ・ストレリツォーヴァ（硝煙弾雨のドラゴネス・e00642）が、葉巻の煙と一緒に大きく息を吸い込んで龍焔のブレスを吐くと、怨霊弾の闇が閃光に払われる。
「ゴロズゥ！」
　その炎を突っ切って、鋭い穂先を此方に向けたエインヘリアルが突っ込んで来る。
「血の気が多いな。だが……俺の左手が届く限り、お前の好きにはさせん！」
「そう来ると思った。お見通しだぜ」
　左腕を覆うプロテクターを解放して地獄を露わにした七種・徹也（玉鋼・e09487）が、紙兵を散布し戦線を強化し、繰り出された槍を鉄塊剣でかち上げた神寅・闇號虎（敗北の獣・e09010）の胸に二重に下げた赤い数珠が踊ると、徹也のライドキャリバー『たたら吹き』が炎を纏って突っ込みエインヘリアルを押し返す。
　それを見た死神達が、エインヘリアルを援護すべく次々と怨霊弾を放つが、
「やらせませんよ」
　カリーナの更に外側から回り込む様に動いた玄梛・ユウマ（燻る篝火・e09497）が死神の１体を延ばした鎖で絡め取り、ポニーテールを躍らせて駆けた澄華が、刃に空の霊力を乗せもう１体に斬り掛る。
「瑠璃の剣、シキミ――推して参る。歪められし槍など何も穿つ事かなわぬと知れ」
「敗れた兵……自らの意志で立ち上がろうとしない者に再起など無い」
　それら死神と戦端を開く仲間達から引き離す様に、啖呵を切った樒と闇號虎がエインヘリアルに攻撃を加える。
「そちらは任せたぞ、カリーナ。疾く死を灼きて神を穿て」
「応よ、樒。灼き喰い潰すコトにかけちゃそこらの神より荒ぇんだ、俺ぁ」
　樒とカリーナが声を掛け合い、それぞれの目標へと向き直る。
　遠くから見れば光が踊っている様に見えるであろう闇の森の中、既に新緑の森の香りは血の香りへと変じはじめていた。

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「てめぇ、こっちに攻撃漏らすんじゃねぇぞ」
　鳴海の声に手をひらひらさせて応じた徹也だったが、次々と放たれる怨霊弾に繰り出す紙兵達が次々と朽ちてゆく。
「ちっ、満遍なく当てて来るのが鬱陶しいな」
　軽く舌打ちした徹也は、それでも動き回る敵と味方に気を配りつつ、紙兵を大量に散布すると、その体を白銀の鎖が包む。鳴海の施した穢れを退ける法の鎖であり、徹也は振り向かずもう一度手を上げて礼を示した。
「これぞ奥義が一！」
　その前でガルディアンが構えたショットガンから放たれた拡散するエネルギー波が、空中で屈折して１体の死神を狙い撃つと、他の死神目掛けて駆けていた澄華が、横っ跳びでその死神に斬り掛る。
「あちらも大変そうだからな。とっとと片付けるぞ、お前の相手は……俺だァ！」
　闇號虎らと共にエインヘリアルを押さえるたたら吹きに、ちらりと視線を這わせた徹也は、地獄化した左腕を死神に向け怒りの波動を叩き付ける。その波動に当てられ牙を剥いて襲い掛かって来る死神。
　続く他の２体をユウマとカリーナが押さえ、
「七種どの、ここは私に任せるであるよ！」
　ショットガンの銃身の背で自身の肩を叩いたガルディアンが、左手に持ったブラックスライムを槍状に尖らせ、突っ込んで来る死神の動きも利用してその体に突き刺した。
　牙をガチガチと鳴らし身をよじってそれから逃れようとする死神に、錆びた黒色の鎖が絡み付く。
「法の束縛が息苦しくて生き苦しいってのは、決まって悪人の台詞だ。法は俺もお前の行動も等しく縛る。抗う強さを持たねぇなら、上手く使わないとな」
　その鎖を持つ手を引く鳴海。のたうつ死神に味方の攻撃が集中すると、最後はガルディアンの放ったエネルギー波を受け死神の体が地に落ちる。
「次はお前だ」
　死神が動かなくなった事を確認した徹也は、ユウマと切り結ぶ死神に向って地獄の波動を放ち、鳴海もユウマに向って回復を飛ばした。

「俺は強くなる。この体が滅する時まで……」
　たたら吹きが掃射するガトリングガンの銃弾を防ぐエインヘリアルに、闇號虎が大きく振りかぶって振るう大剣が焔の陽炎を残して叩きつけられる。その刹那、くるっと半身を翻し、その斬撃を盾で受け止めたエインヘリアルは、そのまま盾に力を込めて闇號虎を押し返す。
　その為に左足に重心が移った瞬間を突いて樒。
「――の調べ」
　煌めく青き閃光と共に樒の声が掻き消されたのは、その刃がエインヘリアルの胴に届く刹那、柄を持つ手を緩め、重力に従い滑る様に落ちた槍の石突きが地面に振れた瞬間、その柄の下部に足を添え、斬撃の衝撃を柄で受けた音。
　そのまま闇號虎を押し返した勢いで体を回転させるエインヘリアル。
　襲い来る水平に伸ばされた盾の側縁をしゃがんで躱した樒が、次の攻撃を警戒し舞う幾本かの髪を残して跳び退さる。
「その武、誠に見事。曲芸団で奮うには過ぎた技。いや、それを操る死神に憤りを覚える程だ」
　灰色の瞳を細めた樒の頭でブツリと小さな音がすると、ポニーテールに纏めていた髪がはらりと落ちて来る。先程の一撃で結飾・瑠璃紐が千切れた様だ。
「ぐうぅ押し負けた。……俺はいったい何度敗北すれば気が済むのだろうか……」
　尻餅をつく様な形になり呻いて眉間に皺を寄せた闇號虎が、剣を支えに立ち上がると、
「だが俺には超えねばならない奴がいる。ここで立ち止まる訳には……花よ我に華を、鳥よ我に……」
　たたら吹きの突撃を盾で受けてそらすエインヘリアルに切っ先を向け、闇號虎は万物に祈りを捧げて精神を集中する。

　絡まったケルベロスチェインから逃れようとする死神。
「くっ……逃がしませんよ」
　その炎に身を焦がして暴れる死神に引っ張られたユウマは、もう１体の死神が放った怨霊弾を受けながらも、力を込めてチェインを引っ張り返す。相反する方向に引っ張られピン！　と張ったケルベロスチェイン。
　力負けするまいと牙を鳴らした死神が大きく尾を振った瞬間、小気味良い連続音をたてて放たれた弾丸が、次々と死神の体を穿ち体液を滴らせた死神がのたうつ。
「鉄か鋼か黒金か、何であろうと構いやしねェ、灼いて熔かして潰してやらァ」
　戦砲『白夜・改式』の銃口から上がる白煙に、口から吐く紫煙を混ぜたカリーナが、ニヤリと笑うと、再び死神に銃口を向けて狙いを定め、今度は爆炎の魔力を込めた弾丸をばら撒く。
　その銃弾を受けた死神は、掌を向ける徹也を無理やり押し返すと、ユウマの鎖を振り解いてトンボを切る。
「この技、避けきれるかな……？」
　澄華の声に呼応する様に死神の周囲に多数の魔法陣が現れ、それぞれの魔法陣から次々と閃光が迸って死神の身を刻み、悶える様に口を開く死神。
「せいっ！」
　鳴海から回復を受け、茶色の瞳を閉じて精神を集中したユウマが、気合と共に目を見開き腕を振るう。その動きに合わせて戦鬼の衣の裾が翻ると、死神が開けた口の中で爆発が起き、牙を四散させた死神が煙を吐きながら地面に落ちた。
「ヒュー。可愛い顔して恐ろしいねェ。さぁあと１匹、とっとと片付けるよ」
　その様を見て軽口を叩いたカリーナが、ガルディアンとやり合う最後の１体となった死神に銃口を向け、間髪いれず撃ち放つその銃弾より早く距離詰めていた澄華が跳躍し、
「いい加減に無駄な足掻きはやめて消えろ、目障りだ」
　空中で鞘から抜かれた黒夜叉姫の刃が死神の身を大きく裂いて静双星を躍らせ、着地した澄華の上で次々とカリーナの銃弾に晒された死神が、体液を滴らせて澄華の隣に落ちて来た。

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　炎を纏って吶喊するたたら吹きと、エインヘリアルの構えた盾がぶつかり激しい衝突音を響かせ、くるっと回し逆手に構えた槍を盾の横からたたら吹きに叩き込んだ。
「やる。だが越えさせて貰うぞ、貴様の穂先を」
「貴様を喰らい、俺は更なる一歩を踏みしめる！」
　その武技に目を細めた樒と闘志を滾らせる闇號虎が、煙を上げるたたら吹きを庇う様に挟撃を掛けるが、体を回転させながら槍と盾を巧みに操り、致命傷を穿たせないエインヘリアル。そのエインヘリアルが動きを止め、振り返る。
「よくやった。後は任せろ。さァ、お前の相手は俺だ掛って来い」
　地獄化した左腕を向けた徹也がたたら吹きに労いの言葉を掛け、地獄の波動を叩き付けると、エインヘリアルは踵を返して徹也に向って槍を投じ、空中で分裂した槍が徹也を中心に降り注ぐ。その槍の幾つか叩き落とす黒き鎖。
「雨が降ろうが槍が降ろうがってヤツだな。だが生憎と粛々と享受する気はないんでな」
　守る様に鎖を展開させた鳴海が、エインヘリアルを見据えてぼさぼさの髪を掻く。その耳朶を撃つ連射音はカリーナの純白のガトリングガン。
「硝煙弾雨か迅雷烈閃か、好きな方を選ぶが良いさ」
　短くなった葉巻を吐き捨て、足で消しながら弾丸をばら撒くカリーナの視線の先、その弾丸を盾で防いだエインヘリアルの体がぐらりと揺らぐ。
「越えて見せたぞ、貴様の穂先を」
　雑に髪をくくり直した樒の一閃が、カリーナの攻撃を防ぐ為に出来た隙を逃さず叩きまれたのだ。
「畳み掛けます」
　樒に槍を振るおうと動かした腕にユウマの鎖が絡み付き、その動きを阻害するが、エインヘリアルは、その鎖を反対にひっぱりユウマの体を手繰り寄せる。……が、
「一人一人が力を合わせれば、越えられない壁なんてないのであるよ！」
　そうはさせじとガルディアンが構えた銃口からエネルギー波が放たれ、空中で曲がってエインヘリアルに降り注ぐ。エインヘリアルがそれに反応した隙に、ユウマは巨大な刃に焔を纏わせ切先を向け、
「これで決めさせてもらいます」
　引っ張られるのではなく自らの意思で一気に距離を詰める。ガルディアンとカリーナの攻撃に晒されながらも、巧みな盾捌きでユウマの吶喊を押し留めたエインヘリアル。……が、突き付けたその巨大な刃の上に着地し、滑る様に澄華。
「死神に弄ばれた命の尊厳は守ってやる。迷わず冥府にいくがいい」
　鞘から抜き放たれる凍雲と黒夜叉姫。振るう双刃がエインヘリアルに振るわれると、それに反応したエインヘリアルに大きな隙が生まれ、仲間の攻撃が集中する。
「さぁ、もう一度冥府の鎖に繋がれるがいい」
「潰せ、琥珀」
「迅雷烈閃――二度と利用されぬよう、身体ではなくその魂を斬り祓う」
　鳴海の鎖が縛り、カリーナが重力場を発生させたところを樒の刃が振るわれその身を削り、エインヘリアルは槍を回転させて仕寄ったケルベロス達を薙ぎ払う。
「眠るが良い、英霊よ。今度は永久の眠りにな……」
　そのエインヘリアルの体を貫いたのは闇號虎の刃。
「グ……ゴ……ォ……」
　血を吐きながら闇號虎に手を伸ばすエインヘリアル。
　闇號虎が見つめるその瞳が濁ると、そのままエインヘリアルの手がだらりと下がり、槍と盾が乾いた音を立てて転がると、それを追う様にエインヘリアルはその身を地面に倒れ伏した。

　こうして死神とエインヘリアルを屠った一行は、その亡骸を埋葬し槍を墓標として突き立て、深き森を後にするのだった。

作者：刑部	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年4月22日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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