戦斧の古兵

■リプレイ

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「バルグル……ドル」
　意味不明の言葉を発し涎を垂らすエインヘリアルと、周遊する死神達。
「やり口が気に入らないぜ、死神ってやつァよ」
　宙を泳ぐ死神達を青い瞳で睨んだ八代・社（ヴァンガード・e00037）が、腰に下げたリボルバーを引き抜き、その調子を確かめる。
「サルベージは困りものですね。折角倒した方を呼び戻されては倒した意味がありません」
「強そうなのです。今回の敵は強そうだから気をつけてね。……行くよ、プリンケプス」
　ヒスイ・エレスチャル（空想のプリエール・e00604）は柔和な笑顔を浮かべたまま社に同調して嘆息し、傍らに立つティ・ヌ（ウサギの狙撃手・e19467）は、涎を垂らしながら小首を傾げるエインヘリアルを見て、垂れた耳を震わせると、ボクスドラゴンの『プリンケプス』を箱から解放する。
「過去からの徴兵はいずれ打ち止めになる……とは言え、待つばかりでは無く何か手を打ちたい所よね」
「確かにウェアライダーやヴァルキュリアがサルベージさせるよりは心情的にマシっすけど、イタチごっこになってる感がもどかしいっすねぇ……」
　ヒメ・シェナンドアー（稜姫刀閃・e12330）がごちてブローチを操作してケルベロスコートを解除すると、赤い軽鎧の下からひらひらした服の舞う百夜の姫衣が現れ、大きく頷いて同意を示したリン・グレーム（銃鬼・e09131）の胸に地獄番犬騎士の十字飾りが揺れ、ライドキャリバー『ディノクス』のエンジンを噴かした。
　その音に気付いたのかエインヘリアルの顔がゆっくりとこちらを向き、こちらの姿を視認したのか、
「バルグル……ゴロズ……ザツ」
　何やら呻いて斧を振り上げ、死神達もその動きに合わせ此方に牙の並んだ顔を向けた。
「死者を弄ぶ悪趣味な趣向に付き合う気はないんだよう。全部元に戻してあげるんだから」
　くるくると回した番傘【華斬】からツインテールを覗かせた篁・メノウ（わたの原八十島かけて漕ぎ出ぬ・e00903）が、エインヘリアル達を押し留める様に掌を向けると、
「魚を釣るんじゃなく釣り上げられたくせにご機嫌じゃねぇかデカブツ。暴れてぇんなら付き合ってやる、掛って来い」
「我が貫く爪と穿つ嘴を以て……貴様を破断する！」
　辰・麟太郎（臥煙斎・e02039）が上に向けた掌の指を折って挑発し、ジョルディ・クレイグ（黒影の重騎士・e00466）の地獄化した左目が輝きエインヘリアルと同じく諸手に構えた斧を突き付けると、
「ゴッゴッゴロズゥ！」
　咆えたエインヘリアルが地面を蹴り、死神達がそれに続く。
「初めようか……ロックンロールだ」
　リボルバーのシリンダーを回した社が、グリップを握り銃口を突き付けた。

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「出雲八重垣の加護をここに！」
「重騎士の本分は守りに有り！」
　メノウがアメノハバキリの切っ先で守護星座を描き、前衛陣に穢れに抗する力を付与する中、死神達が放つ怨霊弾をものともせず、一気に仕寄って跳躍したジョルディが、麟太郎の放った魔法光線を受けた死神にその両刃を見舞う。
「さぁ、疾く歪め。おれの魔弾をくれてやる」
　体液を撒き散らしてトンボをきった死神が反撃しようと口を開くが、それより早く肉薄したのは社。
「ギョムッ……」
　開き掛けた死神の口に銃口を突っ込むと、連続して魔弾が撃ち込まれ、死神が小さく呻言って空中をのたうつが、他の２体が前衛陣に向け怨霊弾を放ち、ジョルディと社が防御態勢を取りつつ後退する。
「悪戯が過ぎましたね。夢を見るのはお仕舞にしましょう」
　ヒスイが翡翠色の光を纏う雷でダメージの大きい個体が狙うが、元気な個体が牙を剥いて襲ってきた為、その攻撃をいなしつつ雷を叩き付ける。
「ティさん達がエインヘリアルを押えてくれている間に、一気に倒すんだよう」
　ディノニクスを駆るリンに銃底を叩き付けられたエインヘリアルが、闇雲に斧を振り回しヒメのドローンを撃ち落しながら追う姿を見て、今は押え組に回復の必要がない事を見て取ったメノウが、死神達に青いオーラで出来た剣を降らせる。
「雑魚のくせに仲間を庇うとは、その気概だけは認めてやるぜ」
「とどめを刺して下さい、ジョルディ」
　最初に大きなダメージを与えた個体を庇う様に牙を剥く２体の死神。
　その片方に社のブラックスライムが鋭いランスの様になって貫き、もう片方の死神にオーラを纏った拳を叩き込んで、動線を抉じ開けたヒスイが上げた声。
「応ッ！」
　短く応じたジョルディが２人の間を一気に駆け、弱々しく体液を滴らせる死神に肉薄する。
　迫るジョルディを認識した死神は怨霊弾を吐いて抵抗するが、２つの斧刃がその怨霊弾を裂き、ジョルディはそのまま体を一回転させ、駆ける力を遠心力に変え死神の体に叩き付ける。
　その一撃で文字通り真っ二つになった死神の体が、汚らしい体液と共に地面に叩き付けられ、その場を骸と体液で染める。
「まだまだ。不退転こそ我が流儀！」
　斧刃に付いた体液を一閃して払ったジョルディは、直ぐ様踵を返すと、メノウが回復を飛ばす中、ヒスイと斬り結ぶ死神に踊り掛った。

　半数の仲間が死神の駆逐を図る中、残る半数の仲間はメノウの回復に支えられながら、エインヘリアルを押えに掛っていた。
　最初にディノニクスを駆ったリンが、エインヘリアルの顔にすれ違い様に銃底を叩きつけた事により、唯でさえ知性を無くしていたエインヘリアルは本能のままリンを追い、死神達と引き離されていた。
「そんな遅い攻撃じゃ当たらねぇっすよッ」
　エインヘリアルの振るう斧の軌道を、バレットタイムによりスローモーションの様に知覚したリンは、ディノニクスの車体を斜めに倒して空を斬らせ、ディノニクスのスピンに合わせ変形させた歪な刃を叩き込む。
「ゴガアァァ！」
「やかましいぞデカブツ。声ではなく武で語れ」
　体に走る痛みに吠えたエインヘリアルの視線に割って入った麟太郎が、エインヘリアルに刀身の側面をかざすと、そこに映る鏡像を見たエインヘリアルが、何かを振り払う様に闇雲に２本の斧を振り回し、あおりを喰らったヒメの妖精型ドローンが損壊する。
「流石にあの一撃を貰っては耐えきれないわね。でもまだまだよ」
「はい、思ったより簡単にリンさんに引っ張られていますので、このままお魚さん達が全滅するまで頑張りましょう」
　ヒメが再度ドローンを強化して前衛陣の守りを固めると、社やヒスイが死神と鍔迫り合いを演じるのを見て頷いたティが、エインヘリアル目掛けてフロストレーザーを撃ち放つ。
　その攻撃を斧刃の側面で受けて駆けるエインヘリアルの顔目掛け、プリンケプスの吐くブレス。
「ルルヴァ！」
　その一撃にプリンケプスを睨んだエインヘリアルが、リンを追うのを止めプリンケプスに向かって斧を振り上げ跳躍した。
「プリンケプス！」
「させるかよ！」
　叫ぶティの声に被さる様に吠えた麟太郎が銃口から魔法光線を迸らせ、ティも氷結光線を放つが、空中で体を回転させ装甲の厚いところで受け、ダメージを抑えるエインヘリヘリアル。
「余所見とは……まだまだ余裕ってことですか」
　ガトリングガンを放つディノニクスを駆りリンが突っ込むが、体勢を整える為に一旦距離を取った為、間に合いそうにない。……が、
「好きにはさせない――」
　間一髪で横撃を見舞ったのはヒメ。
　後の先を撃つ斬撃で、エインヘリアルの振り下ろす斧がプリンケプスを裂く刹那、エインヘリアルを地面に叩き落とした。だが、エインヘリアルも転がって勢いを殺し、素早く体勢を立て直すと、直ぐ様ヒメに向かって双斧を振るう反撃を繰り出し、
「なかなかいい動きをするじゃないか。俺の相手もしてくれよ」
　ヒメを庇った麟太郎が傷を負うが、直ぐに後ろからメノウが回復を飛ばして戦線を支える。時同じくしてジョルディが１体目の死神を屠り、戦力の均衡が崩れ始めた。

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　リコイルの力に抗さず、その力を乗せ体を回転させ振るわれた鎌に組み伏された死神が、其れを解こうと身を捩らせその尾が激しく地面を叩くが、
「後がつかえてるんでな、お前はここまでだ」
　僅かに口角を上げた社が押し付けた銃口から鈍い音が響くと、組み付された死神は、その尾で最後に大きく地面を叩いて動かなくなる。
　トリガーガードに指を引っ掻け、リボルバーをくるっと回しながら立ち上がった社は、残る１体の死神が地面に横たわり、エインヘリアル目掛けて駆け出したヒスイとジョルディの背中を見て、遅れてはならじと駆け出した。
「どうしたデカブツ。のんびりしている間に、魚は全部釣り上げられた様だぞ」
「グゴアァ！」
　リンを追おうとしたエインヘリアルを押し留めた麟太郎……肩に刺さった斧刃から血を流しながらも牙を見せて笑うその様に、いきり立って咆えるエインヘリアル。
「お待たせしました、御苦労さまです」
「貴様の死……此処で破壊してくれよう！」
　そのエインヘリアルの左右側背より黒き迅雷。右から一気に距離を詰めたヒスイが麟太郎に言葉を掛けながら拳を繰り出し、左からジョルディが殺意を漲らせてBreaker ClawとBreaker Beak、２つの斧で斬り掛る。
「ガアアアアアアアアア！」
　今までで一番大きな声で吼えたエインヘリアルが、麟太郎を蹴って斧を抜きヒスイを薙ぐがギリギリのところで躱され、そのまま流れる様にジョルディの刃と打ち合い金属音が響く。その音が終わらぬ内、よろける麟太郎の肩を飛び越え、
「隙ありなのです！」
　ティの重い飛び蹴りがエインヘリアルの顔を強かに蹴り、体勢を崩したエインヘリアルにジョルディの斬撃が炸裂する。
「清き風、邪悪を断て！　――回復術、”禍魔癒太刀”！」
　居合切りの様に連光を鞘から抜き放ったメノウ。放たれた真空の刃が霧散し麟太郎の傷を回復させると、
「一旦下がるわよ」
　超加速突撃でジョルディと斬り結ぶエインヘリアルに一撃を見舞い足止めしたヒメが、ティと一緒に麟太郎を連れて後退する。
「もう眠れよ、悪夢ももう見納めさ。……次に目を開けりゃ、きっと今よりマシな風景が映ってるぜ」
　追い付いてきた社も戦列に加わり、ヒスイと一緒にエインヘリアルを、逆側のジョルディと共に囲んで攻勢を掛け、反撃により穿たれた傷を素早くメノウが回復で支える。
　その間に距離をとって体勢を整えたリンが、ディノニクスを駆って突っ込んで来る。
　それを見咎めたエインヘリアルが、怒気も露わに社達を押し返して駆け出した。
「ゴロズゥ！」
　今まですれ違い様に攻撃を叩き込まれた事に学習したのか、両手の斧を左右に広げて地面を蹴り、リンを迎え撃つエインヘリアル。
「目標補足」
「こちらも準備ＯＫよ」
　 小刻みに銃口を動かし狙いを定めるティと、緋雨と緑麗……２本の斬霊刀を腕を交差して構えるヒメ。
「まだだ。……いくぞ、撃てッ！」
　それを手で制していた麟太郎が、その手を上げて号令すると、自身もバスターライフルの引き金を引き、ティが引き金を引くと同時に、彼女を守る様にその前を舞うプリンケプスもブレスを吐くと、ヒメが交差する様に振るった双刃から影の弾丸が飛ぶ。
　３人と１匹の放った攻撃は、エインヘリアル目掛けてディノニクスを駆るリンの背を目掛けて飛んでゆく。
「少しは考えた様っすけど、ディノニクスの力を侮ってるっすよ」
　左右に抜けるのではなく、真っ直ぐ突っ込んで来るリンに対し、エインヘリアルが左右から振るおうとする戦斧を、ヒスイとジョルディが押し留める。
　次の瞬間、ディノニクスはエインヘリアルの体に轍を刻んで駆け登り、リンが銃底を叩きつけて宙を舞った直後、リンによって死角になっていたヒメらの放った攻撃がエインヘリアルの胸板を貫く。
「ゴッ……ブルア……」
　目を見開き短い悲鳴を上げたエインヘリアルは、宙を舞ったディノクスが着地するのと時同じくして、ゆっくりと仰向けに倒れる。
　こうして蠢動する死神と哀れなエインヘリアルを討伐した一行は、周囲を探索しヒールを施し帰路についたのだった。

作者：刑部	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年4月20日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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