濃厚な薔薇の香り

作者:鬼騎

「緊急連絡です。デウスエクスの大軍勢が鎌倉に出現します。このままでは鎌倉周辺を瞬く間に制圧し、鎌倉を拠点に日本全土を蹂躙してしまうかもしれません」
 ヘリオライダーのセリカ・リュミエールは眉間に皺をよせ、険しい表情でケルベロス達を見渡す。詳しい情報を確認し、戦いに備えてくださいと告げる。
「また、大侵攻に反応したためなのか、封印されていたドラゴン達が各地で目覚めてしまうようです」
 続けてセリカは詳細を述べていく。ドラゴンの全長は10mほど。グラビティ・チェインを補充するために、人々を惨殺しながら移動をする。ただし補充するまではグラビティ・チェインの枯渇により機能的制約を受けているため、ケルベロス達が集まれば倒す事は可能なはずだと。
「先日ドラゴンが出現しましたが、皆様さんのご活躍で複数体の撃破に成功しています。そのため今回出現した数は倒せない程ではありません」
 皆さんはドラゴンが出現する現場に向かい撃破をお願いします、とセリカは頭を下げる。
「お願いしたい作戦の内容を伝えさせていただきます」
 今回ドラゴンが出現する場所は、関東にある薔薇園。出現する付近には東屋やアーチ、カフェやテラスなどがある。
「ドラゴンが目覚めると薔薇園を破壊しながら、そこに居た人々を殺そうとします」
 そこでグラビティ・チェインを補充した後は、鎌倉に向かって移動をするようだ。鎌倉の大軍勢に合流される前になんとしても倒してもらいたい。
 ドラゴンとの遭遇タイミングは出現してすぐ。ヘリオンからの降下でも、現場付近での待機でも問題ない。
 ドラゴン退治が終わった後は、まだ戦える人らはヘリオンで鎌倉に向かってもらう事になりそうだ。
「ドラゴンは鮮やかな深紅色をしています。爪や尻尾を使って攻撃をしてきたり、ブレスを吐いたりするようです。ブレスは薔薇の香りがするようですが……安全なものではないでしょう。」
 居合わせた従業員や客には避難勧告がでるため、すぐに自発的避難をしてくれるだろう。
 そのためケルベロス達の避難誘導は必要なく、ドラゴンが出現したら即座に戦闘を開始すれば一般人への被害は防げるだろう。
 周囲の物も壊れたとしてもヒールで治す事が可能なため、周りの被害は気にする必要はない。
「グラビティ・チェインの枯渇で機能的制約を受けてるとはいえ、ドラゴンは強敵な筈です。どうか全力での対応をし、無事の帰還をお待ちしております」


参加者
篁・悠(黄昏の騎士・e00141)
北靈院・雪儺(赫の月雪の華闇の詩・e00292)
写譜麗春・在宅聖生救世主(自宅天使アルタクセルクセス・e00309)
マリエル・バールレンクビスト(大地を穿つショベルガール・e00491)
ジョン・コリンズ(ドラゴニアンの降魔拳士・e01742)
アズマ・リュウゼン(リュウゼン家が次男・e01767)
立花・佑繕(地球人の刀剣士・e02453)
南條・夢姫(人見知りのサキュバス・e11831)

■リプレイ

●深まる秋
 秋薔薇やコスモスなどが可憐に咲く薔薇園。
 今回目覚めるドラゴンへの初撃は、挟撃して奇襲の予定だ。そのため地上と上空で各々待機をしている。
 薔薇園の地形はパンフレットの確認や上空からの目視で全員が確認済みだ。
「寝起きの所を悪ィがとっとと済ませるぜェ」
 そうアズマ・リュウゼン(リュウゼン家が次男・e01767)は言いながら、ドラゴンが出現すると予知された周辺で、刀を手に周囲を警戒する。
 付近をぷらぷらしていた猫がアズマの言葉へ答えるように一度鳴いた。猫の姿で待機している篁・悠(黄昏の騎士・e00141)だ。悠にとって薔薇園というのは特別な思いがある場所。この場所は守るという強い意志を込めてこの依頼に臨んでいる。
 同じく地上に待機している北靈院・雪儺(赫の月雪の華闇の詩・e00292)は冷静周囲の状況を確認している。この後最小の被害で済みそうな戦闘可能箇所の目星をつけておく。
「大攻勢に影響されて復活とは。急がしい時に面倒なものだ」
 秋晴れの中、ふいに地響きを伴い地上待機組がいる目の前の地面が盛り上がる。深紅色をしたドラゴンが顔を出し、大きく吠えた。
『ガァァアアアアア』
「動き出したね……。南條、大丈夫かい? タイミングを逃さないよう集中しよう」
「は、はい。緊張はしてますが、頑張るのです」
 立花・佑繕(地球人の刀剣士・e02453)は緊張気味だった南條・夢姫(人見知りのサキュバス・e11831)に声をかけ、奇襲に備えタイミングを見計らう。
 その後ろの面々も後に続くべく得物を構え待つ。
「竜とは初めて戦うけど……ご先祖様は倒したって聞いたし。頑張れば私にだって!」
 マリエル・バールレンクビスト(大地を穿つショベルガール・e00491)はポジティブに考え、戦闘への意気込みを語る。
 「大規模戦まえの肩慣らしですな。とはいえ、皆様油断せずに行きましょう」
 ジョン・コリンズ(ドラゴニアンの降魔拳士・e01742)は今回の面子では一番年上というのもあってか、落ち着いた口調で皆に注意を促す。
「今は此処が私の拠点。ガルド流拠点防衛術、ご照覧あれ!」
 写譜麗春・在宅聖生救世主(自宅天使アルタクセルクセス・e00309)が高らかに宣言したタイミングで、地上の待機組が動いた。
「フォームアップ! 市民の皆さんは直ちに避難を!」
 悠は動物変身を解いたその勢いでアルティメットモードを発動し、決戦モードの衣装へ切り替え、周辺に居た一般人へ避難勧告をする。
「まずはこっち向いてもらわァなァ!」
 アズマと雪儺は地面から這い出て来た深紅のドラゴンへ強烈な目覚めの一撃を食らわせ、注意をこちらに引き付ける事に成功する。
「タイミングはジャストだな」
 雪儺が見上げると、ドラゴンの頭上へとヘリオンから続々と降下してくる面々が映った。
「螺旋氷縛波!」
 奇襲組の先手はまず夢姫だ。綺麗にドラゴンの脳天へと攻撃を被弾させ、当たった箇所を氷漬けにした。続いて同じ箇所へと見事攻撃を必中させたのは佑繕。氷漬けになった箇所をえぐるように攻撃を与えて地上へと着地する。
 そこに続いたのは先ほどまでの優しげな雰囲気は何処へ。鋭い目つきで敵を捉えるジョンだ。降下の勢いを利用しつつ先の攻撃でよろめいたドラゴンの横っ面を拳で殴りつけた。
「お次をどうぞ。マリエルさん、在宅聖生救世主さん」
「横っ腹にいっぱーつッ!」
 すぐ後ろに続いていた2人はほぼ同時にドラゴンの腹部目がけ一撃ずつ加えた。
 スタリと地上へ全員が着地し終える時には、ドラゴンはケルベロス達のすべての攻撃を受け、初撃としてはダメージやバットステータスともに十二分に付与できたようだ。
「奇襲大成功だよう。お目覚め直後で悪いけど、眠ってもらうよー」
 それぞれの強烈な一撃でよろめいていたドラゴンだったが、体勢を持ち直し雄叫びを上げた。強烈に羽ばたき、周囲の花々はその風圧で薙ぎ倒される。
 逆上せずにケルベロス達を見据えるその姿は威風堂々としており、さすがは究極の戦闘種族といった風情。
 ここからは正々堂々、正面きっての戦いへと移行していった。

●むせかえる香り
 戦いは進み、ドラゴンとケルベロス双方のダメージの蓄積量が多く、体のあちこちが悲鳴を上げ始めていた。だがその分蓄積された情報も増えていた。
 ドラゴンが腹部を膨らませ空気を多く吸う動作をした事に在宅聖生救世主は即座に反応し、味方に注意を促す。
「ブレスが来るよ!!」
 アズマと悠はその言葉に反応し、前のめりに攻撃していた者達の間へと滑り込み前衛を庇いながら前線を少し下げる。
 途端、ゴォオっと音を立てながら薔薇の香りがするブレスがまき散らされた。
「く……薔薇の香りとは言え、こうも重なると悪臭極まりないな」
 雪儺はブレスを受けない位置には居たが、薔薇の匂いが強烈に香ってくるのは防げない。
 とはいえ現在、戦闘が開始される前に目星を付けていた東屋がある周辺で戦いを繰り広げているのだが、この辺りは水辺である事と薔薇が少ない事もあってか、最初に戦闘を開始した場所から比べると、多少匂いは薄れているように感じる。
「せっかくの薔薇の香りなのに、毒々しいのはいただけないです」
 夢姫は遠距離から気咬弾を放ちながらドラゴンの口元からブレスの残骸が吐き出される様をみやる。
 戦いが進むにつれ、ドラゴンは単体攻撃よりもブレスを多様してくる事が増えて来ている。匂いこそはむせかえるほどの薔薇の香りなのだが、そのブレス自体の色はくすんだ紫色をしており、毒をまき散らしていた。
 声かけの徹底により、攻撃の被害は最小限に止められているのが幸いし、まだ膝をつくほどのダメージを負っている者はいない。とはいえ在宅聖生救世主が必死に毒のキュアをしているが、ダメージとキュア両方へのカバーが難しくなってきているのは確かだ。
 あらかじめ注意されていた通り、目覚めたばかりのドラゴンとはいえ攻撃力が高く、油断しているとあっという間に動けなくなってしまいそうだった。
「これで少しはマシになるだろう。輝け、ピスケス! 勇者の戦いに守護を!」
 悠がゾディアックソードで地面に描いた守護星座が光り、前衛で戦ってた者達を光で包み守護してくれる。
「六重斬撃式、鐵鎖陣。ジョン、マリエル、まだいけるかい」
 爆音と共に六本の鎖を射出し、猛追撃をする。攻撃が確実に当たるよう立ち回りながら、佑繕は攻撃の要である2人の様子を気遣う。
「ええ、まだ大丈夫です。回復は皆さんを信用してお任せしておりますので、私はただただ攻撃に専念致しますよ」
 ブレスの毒が大気中に残っている箇所を避けながらドラゴンに近づき、ジョンは超硬化させた指でドラゴンを貫く。
 近づいて来た者を爪で薙ぎ払おうとするドラゴンの動きを見て、今一度アズマが間へ滑り込み攻撃を肩代わりする。
「させねェよォ。しかし薔薇の香りの吐息なんてゾッとするぜェ。はやく倒して薄荷で口直ししたいもんだなァ」
 アズマは肩代わりして受けた傷を自身の刀でなぞるように斬り、汚れを払い傷を自己回復させる。
「さぁ、次はこっち!」
 ドラゴンの死角をまわるように移動していたマリエルが、東屋の屋根からドラゴンの上空へと飛び移り斬撃を繰り出し敵の急所を掻き斬った。
『オォオオ!』
 ドラゴンは体をうねらせ周囲に居たケルベロス達を薙ぎ払う。しかし力が入らないのか、自身の行動に踏ん張りが利かず、体が揺れ尾が水面をなぞり大きな水しぶきをあげる。
 そろそろこの戦いも終わりが近い。そう思ったケルベロスの4人は互いに顔を見合わせる。そのうちの1人、マリエルが夢姫の元に走りながら声高らかに合図をする。
「今こそ総下攻撃チャーンス! 行っくよみんな〜ッ!!」
 一番手を任されていた佑繕は攻撃を確実に当てられる距離まで走り、自身の中で一番強烈な攻撃、鐵鎖陣六重斬撃式を撃ち込んだ。
「ジョン、次は任せたよ」
 後ろを付いてくる形で走り込んで来たジョンへ道を譲ると、そのままの勢いでジョンはドラゴンの下へ滑り込むと、炎を纏った拳でアッパーカットを繰り出し、ドラゴンの巨体を浮かせた。
「さぁ、最後は女性おふたりに」
 マリエルと夢姫が同時にドラゴンへと迫り、マリエルは水の力を、夢姫は雷の力を使った互いのグラビティを絡ませ、合体させ、最後のトドメと撃ち込んだ。
『雷槌ミョルニル・ハンマァァァッ!!』

●散る花びら
 大きな音を立ててドラゴンは地面へと崩れ落ちた。生きていた時には鮮やかな深紅色だった体は変色し、枯れた薔薇のように生気のない色へと変貌した。
 今回見事なフィニッシュを決めたケルベロス4人。実は元々知り合いだったため、何かできないかと考えてきたのがこの連携技だった。
「やー! 派手にやったね! ささ、皆回復しちゃおー!」
 ドラゴンを倒し終えた事を全員で確認した後、在宅聖生救世主はまだ残る傷や毒の治癒を始めた。ブレスの攻撃が続いていた事もあり、前衛を担当していた者達の消耗は激しい。皆自力で立ってはいるが、血だらけ泥だらけ。おまけにブレスのせいで強烈な薔薇の匂いが服などに染み付いてしまっている。この匂いはしばらく取れなさそうだ。
「どうしても壊れてしまった所があるな。申し訳ないが後で必ず治しに戻ろう」
 悠は辺りを見渡す。東屋は欠けてるし、その周辺の水辺は整地されていたはずだが、ところどころ崩れてしまっている。あとドラゴンが出現した付近の花壇なども壊滅状態だろう。この周辺も花々が無惨に散ってしまっている。
 薄荷用のキセルを取り出し、一服しながらアズマもザザッと被害状況を確認する。
 雪儺はアズマのキセルを見やる。
「ン……無害な薄荷を吸うためのもんだァ。火は使わなねェコイツらにも悪ィしなァ」
 薔薇を指しながらキセルの説明をする。ハッカパイプはニコチンやタールなどは一切入っていないため、酔い止めに使われる事もあるそうだ。
「ふん、興味はない。さぁ、次の戦いへと向かおうじゃないか」
 ドラゴンの退治は終わったがケルベロス達の戦いが終わった訳ではない。再び戦の地へ向かうべく、ケルベロス達は空を見上げるのであった。

作者:鬼騎 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年9月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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