闇に紛れる少女は、夜に花を咲かせる

■リプレイ

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　宝石店のショーケースの中には、キラキラと輝く宝石たちが並べられている。
　当然のことだが、閉店した店内に人の姿はない。
　店内に降り立つ小さな影。小さな影――月華衆の少女はショーケースの上に風呂敷を一枚広げると、ショーケースを破り中の宝石を手掴みで取り風呂敷の上に置く。
　包み終わると、月華衆の少女は風呂敷を首に巻く。
　これで任務は完了した、去ろうとした時、警備員が店内に現れ「誰だ!?」と声を上げる。
　見つかってしまっては、殺すしかない。闇に紛れていた月華衆の少女が警備員に襲い掛かるのだった。

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　月華衆の少女の持つ日本刀が、警備員の首を刎ねようとした瞬間。
　突如、暗闇に包まれていた店内の電気が点灯し、虚を突かれた月華衆の少女は警備員から離れるように飛び退き、辺りを探るように視線を巡らせる。
　その時、月華衆を囲うように現れるケルベロスたち。
「目的は私達なのでしょう……狙うならばこちらです」
　立ちはだかったオランジェット・カズラヴァ（黎明の戦乙女・e24607）が言う。
「警備員さん。僕たちはケルベロスだ。ここは僕たちに任せて避難して欲しいんだ」
　新条・あかり（点灯夫・e04291）の言葉に、それまでは何が起こっているのかわからなかった警備員も、やっと状況を理解し言われた通り、出口に走る。
　月華衆の少女は、逃げる警備員を目では追うが、追うことはない。それは彼女に下された任務に含まれていないからだ。
　逃走を図る月華衆の少女。小柄な体を活かして、ケルベロスたちの脇をすり抜ける。逃げられた、と皆が思った時。
「大丈夫！　なんとかなります」
　月華衆の少女の前に立ち塞がる山田・ビート（コスプレ刀剣士・e05625）。そして、ガスを発生させ戦闘情報を流出させないための策を講じる。
　次に動いたのは、クレーエ・スクラーヴェ（白く穢れる宵闇の・e11631）。クレーエの操るケルベロスチェインが床に魔方陣を描き、仲間たちに守護を与える。
　道を塞がれ、立ち止まった月華衆の少女に、
「今日の相手は、いい鍛錬になりそうじゃな。藤原・桜歌。いざ参らん！」
「スキルニル、みんなを守るんだ。俺は――」
　藤原・桜歌（桜を愛する者・e22029）とイングヴァル・ヴィクセル（鎧装機兵・e15811）が肉薄する。
　二人は月華衆の少女の力量をはかるかのように攻撃を繰り出し、月華衆の少女は二人の攻撃の勢いを利用し、飛び上がるとビートを飛び越え、華麗に着地。出口に向かい駆ける。
　だが、
「逃がしませんですの」
　メリッサ・ルゥ（メルティウィッチ・e16691）の流星の煌めきと重力を宿した蹴りが捉え、小さな体を店内、中央に押し戻すと、オランジェットの稲妻を纏わせた超高速の突きが、月華衆の少女の肩を貫く。
　月華衆の少女は態勢を整えると、風呂敷が無いことに気付き諦めたようにケルベロスたちに向き直った。
　風呂敷を奪ったのはオランジェットだ。
「これは、僕の罪。……そして、あなたの罪」
　あかりが七つの種を体に埋込むと、あかりの右の掌を突き破り咲く七色の薔薇。薔薇たちがあかりの意思のままに月華衆の少女を襲う。
　アクロバティックな動きで薔薇を躱す、月華衆の少女。
「動きを止めます」
　その背後に回り込んだヨエル・ラトヴァラ（白の極光・e15162）が、月華衆の少女の体に人差し指を突き刺し、気脈を断ち、月華衆の少女の動きを止める。
　動きの止まった月華衆の少女に薔薇たちが絡みつき、動きを阻害する。
　薔薇を斬り裂き、自由を得た月華衆の少女に待っていたものは、ビートが繰り出した、稲妻を纏った超高速の突きだった。
　
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　ケルベロスたちの攻撃を受けた、月華衆の少女は感慨深そうに動きを確かめ始め、コクリと頷くと高速で動く。
　店内を縦横無尽に駆け、ケルベロスたちを翻弄し、イングヴァルの目の前に現れると跳躍し背後に降り立つ。
　月華衆の少女の日本刀が稲妻を纏い、イングヴァルの急所目掛け超高速の突きが放たれる。
「イーさん！　後ろです!! 」
　ヨエルの声で振り返るイングヴァルは、咄嗟に体を捻り急所への一撃をなんとか躱す。しかし、刺し貫かれた胸から稲妻が流し込まれ、体の自由が奪われる。
　日本刀を引き抜き、血を払うと月華衆の少女は刃を返し、水平に首を刈るように日本刀を振るう。
「させません。私が健在な限りは」
　そこに割って入るビート。ビートは日本刀を『鋭刃』で受け止め、殺さぬように加減した一撃を月華衆の少女に見舞う。
「むむ、本当に技をまねっこするんですか……侮りがたし、ですの」
　月華衆の少女が使った稲妻突きを見て、驚いたように言うメリッサ。
　ヨエルが攻性植物をツルクサのように変形させ、月華衆の少女の四肢を縛りあげる。
　攻性植物を斬り裂き、自由になる月華衆の少女。そこにあかりが駆け込む。
　二人が交差し、月華衆の少女が膝を着く。視認困難な刃が月華衆の少女の脇腹を大きく斬り裂いたのである。
　そこにブラックスライムに空の霊力を纏わせたクレーエが、脇腹の傷を正確に斬り広げる。
　クレーエが離れるのを待ち、光の羽を暴走させ、全身を光の粒子へと変えたオランジェットが突撃をかける。
　その突撃を間一髪のところで躱す、月華衆の少女。
　だが、待ち受けていた桜歌に、非物質化させた斬霊刀で両断される。
　傷がないことに、躱したのか？　と疑問を感じるが、すぐに自分の体が汚染させたことに気付き、忌々し気に桜歌を見る。
　メリッサが攻撃の手を緩めない。
　ブラックスライムを鋭い槍へと変形させ刺突を繰り出す。かろうじて避ける月華衆の少女に、
「そこですの！」
　と、フェイクを折りまぜ圧倒し、その体に刃を突き立てる。
「そこだ」
　月華衆の少女の動きを観察していたイングヴァルは、その動きから構造的弱点を見いだし強烈な一撃を与える。
　ふらつきを見せる月華衆の少女。しかし、その眼はまだ死んでいない。全身を光の粒子へと変えると、ケルベロスたちに向かい突撃をかけるのだった。

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　ケルベロスたちと月華衆の少女との戦いは佳境を迎えていた。
　月華衆の少女は数多の傷を受けようと怯むことなく向かっていく。それはまるで、一つでも多くの情報を得ようとするかのように。
「さぁ、夢をみようか……幸せな『悪夢』を君に」
　風に舞い踊る無数のクレーエの白黒の羽。それに触れたケルベロスたちは、一様に夢を見、その傷を癒していく。
「いくぞ、エル」
「わかりました、イーさん」
　イングヴァルとヨエルが同時に動く。
　壁を走り背後に回り込んだヨエルは炎を宿した苛烈な蹴りを放つ。ヨエルに気を取られた時、背後からイングヴァルが肘から先を回転させ威力を高めた一撃を見舞う。
「我が伴、儚の蝶よ。出でよ！」
　光を纏う幻想蝶の姫君を喚び出す、メリッサ。姫君は敵である月華衆の少女に向かい、ターコイズブルーの翅をはためかせ、遊ぶように月華衆の少女を翻弄する。
　翻弄されながらも、月華衆の少女はメリッサを幻想蝶の姫君を観察し、記憶する。
　迫って来るビートに、月華衆の少女は「我が伴、儚の蝶よ。出でよ！」と呟き、幻想蝶の姫君を召喚しけしかける。
　幻想蝶の姫君により、弄ばれるように攻撃を受けるビート。だが、彼は倒れない。
　それどころか、幻想蝶の姫君の脇をすり抜け、お返しとばかりに月華衆の少女の傷口を正確に深く抉り広げる。
　あまりの激痛に声にならない悲鳴を上げる月華衆の少女。
　ゲシュタルトグレイブに地獄の炎を宿し、オランジェットが翼をはためかせ突撃する。その衝撃は凄まじく、月華衆の少女の体が壁に叩きつけられ、壁には亀裂が入る。
　最後の力を振り絞るように、駆ける月華衆の少女。
　しかし、その行く手を阻むように立ち塞がる、あかり。日本刀を構える月華衆の少女だが、日本刀を振るうよりも早く、あかりの拳が月華衆の少女の顔面を――月華衆の少女の象徴である仮面を捉える。
　拳が月華衆の少女を捉えた瞬間、網状の霊力が放出され、霊力は月華衆の少女の体を縛り付け完全に捕縛する。
　網状の霊力から逃れようと、もがく月華衆の少女に、
「いい鍛錬を感謝する。せめてもの情けだ、私のとっておき見せてやろう――桜よ、咲き誇れ。美し儚く」
　桜歌が作り出した空間は、桜の花弁が舞う空間が辺りを包んでいる。暴れていた月華衆の少女は、戦いを忘れて、ひらひらと舞い散る桜の花弁に見惚れる。
　桜歌は見惚れる月華衆の少女に、一閃を放ち、月華衆の少女は痛みを感じることもなく、その生を終えるのだった。

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「何もないようだね」
　月華衆の少女の持ち物や体を調べたあかりがそう言うと、
「確か、情報収集とか言っておったか？　死体でも情報収集は出来るし、念のために焼却しておこうかのう」
　桜歌の言葉に、誰も反対する者はいない。桜歌が札を口元に寄せて、呪文を唱えると、半透明の御業が炎弾を放ち、月華衆の少女の体を燃やす。
「どうか安らかに眠れますように……お休みなさい」
　燃える亡骸に、祈りをささげるメリッサ。
　月華衆の少女の姿が自分と重なったようでクレーエは苦い表情を浮かべるながらも、何か核のような物がでないか、と燃える亡骸を注視する。
「皆さんにこれと言った怪我がなく、私は本望です」
　と、嬉しそうに言うビートは、ふぅ～、と腰を下ろす。
「なぁ、エル。なんというか、月華衆の活動って地味だな……」
　イングヴァルが風呂敷で包まれた宝石を見ながら言うと、ヨエルは片づけをしながら、
「でも、僕たちのグラビティの真似ができるなんて、とても不思議な力ですね」
　と言う。
「さて、辺りに不審な人物も、異変もありませんし、店内を修復して帰りましょうか」
　オランジェットの言葉で、ケルベロスたちは一斉に片づけを、壊れた店の修復を始める。
　店の修復はそれほど時間はかからなかった。
　ケルベロスたちは店を去る間際、警備員に怪我がなかったことを確認し、警備員に怪我がなかったことを知り、胸を撫でおろす。
　そして、店を出るとき、あかりが焼却した月華衆の少女に白い花を手向けケルベロスたちは次の戦場へと向かうのだった。

作者：缶屋	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年4月11日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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