愛するものは美しき着物

作者:白鳥美鳥

●愛するものは美しき着物
 かつては和服が当たり前だった。だけど、高価な着物はやはり別物。
 今もそれは変わらなくて、そしてなかなか手が出ない代物になっていって。
 しかし、英子は着物をこよなく愛している。とはいえ、着物だけでなく、ひとつひとつ揃えるものは沢山ある。
 だけど、その魅力にはまってしまえば、どんなに高価であろうと欲しくてたまらず買ってしまうのである。
「無駄遣いだ」
「どこに着て行くんだ」
 家族からそんな事を言われるけれど、関係ない。だって、どこにだって行けるのだから。
 そんなある日、英子の前に黒いコートの少女が目の前に現れて、心臓を一突きした。そのまま、英子は崩れ落ちる。
「あんたの愛って、気持ち悪くて壊したくなるわ。でも、触るのも嫌だから、自分で壊してしまいなさい」
 そう言って崩れ落ちる英子からドリームイーターが生まれる。
 ドリームイーターは振り袖姿をしている。そして、手持ちの着物を切り裂くと、続いて着物を愛する人を狙って街へと飛び出していった。

●ヘリオライダーより
「着物とは美しいものですよね」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が話し始めた。
「見返りの無い無償の愛を注いでいる人がドリームイーターに愛を奪われてしまう事件が起こっているようです。愛を奪ったドリームイーターは『陽影』という名前のようです。彼女の正体は不明ですが、奪われた愛を元にして現実化したドリームイーターが、事件を起こそうとしているようなのです。愛を奪われる被害者をこれ以上増やさない為にも、ドリームイーターを撃破して下さい。このドリームイーターを倒す事が出来れば、愛を奪われてしまった人も目覚めてくれるでしょう」
 セリカは続ける。
 場所は東京都東村山市、狙っている場所は呉服店のお客様である事。
 しかし、直接呉服店のお客を狙うのは難しいだろうけれど、別の手段としては、呉服店で行っている着付け教室を利用すると良いだろうという事。
 ケルベロスは愛の力が大きいので、囮になる事は可能である事。
 ドリームイーターは『知識喰らい』、『夢喰らい』、『モザイクヒーリング』を使う事。
 以上を伝える。
「状況はこの様になります。皆様のご協力をお願い致します」
 セリカの話を聞いていたミーミア・リーン(オラトリオのウィッチドクター・en0094)は、はいはーい、と手を挙げる。
「お着物って綺麗だよね。ミーミアも七五三の時に着た事があるの! いっつも着たいっていう気持ち、分かるの! えっと、ミーミアは着つけ分からないけど、本とかあれば何とかなるよね? 皆、頑張ろう?」


参加者
陶・流石(撃鉄歯・e00001)
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)
河内原・実里(誰かの為のサムズアップ・e06685)
北条・椿(一閃突き・e14047)
ルルリアレレイ・パンタグリュエル(黄金魔書の詠み手・e16214)
ジェミ・ニア(レプリカントの刀剣士・e23256)
ジャスティン・ロー(水色水玉空模様・e23362)

■リプレイ

●愛するものは美しき着物
 東京都にある着物の着付け教室。事情を話して借りる事になった。
 着付けの講師役になるのは北条・椿(一閃突き・e14047)と、その手伝いをしながら教える沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)。
「わーい、着物だ、着物だー! 着物は一度着てみたかったんだっ!」
「着物、可愛いの~!」
 純粋に着物を着る事が楽しみなのは、ジャスティン・ロー(水色水玉空模様・e23362)とミーミア・リーン(オラトリオのウィッチドクター・en0094)だ。また、地球のヒトやモノを勉強中のジェミ・ニア(レプリカントの刀剣士・e23256)も、最近時代劇を見始めた影響もあり、興味津々である。
「着物って窮屈なんであんまし好きじゃねぇんだよな。甚平とかそういう楽なのはまだ好きなんだけどよ」
 そう言うのは陶・流石(撃鉄歯・e00001)。
「どの国でもそうだけど、民族衣装に類する衣装って独特さが魅力なんだよねぇ。和服もその一つだしね」
 そう語るのは河内原・実里(誰かの為のサムズアップ・e06685)だ。
「ですが、甚平は男性や子供の方が着られるものですけれどね」
「男物かあ。でも、翼や尻尾をうっかり出しても大丈夫だし。まあ、男物を女が着る事もあるし、それはそれでOKだよな」
「ふふ、そうですね」
 椿の言葉を前向きに受け取る流石。男装をする女性もいるし、逆に女装をする男性もいるのだから、それはそれで良いだろう。
 ルルリアレレイ・パンタグリュエル(黄金魔書の詠み手・e16214)は、地獄化した髪の部分を偽骸装着で羽織って隠してから、着付けに挑戦する。御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)も、出来るようになっても損はないのでドリームイーターが現れるまでは真面目に教わるつもりだ。
「わー、瀬乃亜ちゃんとジャスティンちゃん、椿ちゃんのお着物可愛いの!」
 瀬乃亜の華やかな着物とジャスティンのピンク系の可愛い振袖、そして椿の椿柄の着物にミーミアは目を輝かす。同じくジェミも珍しい様で目をきらきらさせていた。男物と女物の区別は余りついていないようだが、着物というだけで心を奪われているようだ。
「そういえば、僕も知り合いから借りて来たんです」
 ジェミは借りて来た男物の着物を見せる。年上の知り合いの着物なので柄が渋い。しかし、それも着物の魅力の一つである。そして、他にも用意されている帯や小物等もとても綺麗で、ジャスティン、ミーミア、そしてジェミは目を輝かせていた。
「では、着物教室を始めましょうか」
 椿の言葉に着物教室が始まる。各々用意したり、教室で使うものを借りたりして着付けを始める事になった。
「着物は男女共に右前に着ます。ここが洋服とは違う所ですね」
 教えている椿が一番嬉しそうににこにこしていて、それが他のケルベロス達にもリラックスして着付けをする心構えが出来た。
「成程。右前だな」
 流石は椿の教えに倣いきっちりと着こむ。同じくルルリアレレイもそれに倣った。白陽はメモもしっかりと取っていく。
 特に良く分かっていないジェミ、ジャスティン、ミーミアは瀬乃亜にも手伝って貰って着物を着付けていって貰う。手伝ったり、自らの着付けを行う瀬乃亜は楽しく思っている気持ちが滲み出ていた。
 最後に帯締めを行う。慣れない人達を椿と瀬乃亜が締めてあげて、各々の帯も締めて完成である。
 着物が好きな椿は帯を締め終えると身が引き締まる思いなのだが、それがとても快感でくすりと微笑んでしまった。
「ねえねえ、どう? 似合うかな? みんなも可愛い!」
 ジャスティンは楽しそうにくるくる回って見せた。ルルリアレレイはその姿を可愛らしく思う。
「でも、これからドリームイーターと戦うんだよね。折角着た着物が汚れない様に、ちゃちゃっと終わらせちゃおうね!」
「そうですね。人々を守護するのがケルベロスの務めです、誰の被害もなく、終わらせましょう!」
 ジャスティンの言葉に、ルルリアレレイがお姉さんらしくそう頷いた。
 その頃、実里はドリームイーターの動向が分かるように警戒をしながら周囲を見張っていた。
「周辺確認よしっと。あとはドリームイーター待ちだねぇ」
 一般の人が巻き込まれない様にバイオガスを用意している。それから、ジェミがキープアウトテープも貼ってくれているので、安全面では問題は無いだろう。
 ふわりふわり。何かがやって来る。振袖姿の奇妙な怪物……ドリームイーターだ。
「ん? ……来た」
 ドリームイーターを確認した実里はバイオガスを周囲にまき散らす。そして、着付け教室にいるケルベロス達に携帯を使って連絡した。
「ドリームイータ、来たよ!」

●振袖姿のドリームイーター
 振袖姿で心臓の辺りがモザイク化している。かなり奇妙な姿のドリームイーター。
「太陽の騎士団、笑顔を守る者。河内原・実里、参ります!」
 実里がまず仕掛ける。ウェポンコンテナから実里を中心に蜘蛛の足の様に盾を繋いで大小無数の盾を飛ばした。
「みんなのサポートは僕に任せて! しっかり守るからね!」
 続けて駆けつけたジャスティンはそう言うと、白陽達の力の底上げを図っていく。
 流石はリボルバー銃を構えると、相手の死角を突く銃弾を放つ。続けて椿が凍てつく一撃を放った。
 瀬乃亜の星の力とミーミアのウイングキャットのシフォンが光の風を送り込んで、ケルベロス達を取り巻くようにして守りの加護を与えていく。その間に白陽は激しい蹴りをドリームイーターに叩き込んだ。
 ドリームイーターのモザイクが実里を狙って包み込む。それを実里が無数の盾を展開して防いだ。受けたダメージをミーミアが回復し、同時に力の底上げを図る。
 ジェミは輝くような高速の蹴りを放ち、ルルリアレレイはオーラの弾丸を飛ばす。そして、彼女のミミックのガルガンチュアがエクトプラズムを放って作り出した武器で攻撃した。白陽は短めに仕立てている斬霊刀を用いてドリームイーターの傷口を広げ、実里が捕まえて動きを拘束する。そこを椿が強烈な一撃を与えた。
 ドリームイーターはモザイクを飛ばし、白陽を包み込む。それをミーミアが直ぐに回復させ、それに続いて瀬乃亜が実里達にドローンを飛ばして守りを固めた。
「おう、目ぇ逸らしてんじゃねぇよ」
 流石の冷たく鋭い視線がドリームイーターの精神に負荷をかけさせる。そこにジェミの放つ氷の騎士が凍てつく斬撃を放った。
「補助展開コード:鷹の目――千里を見透す眼となって!」
 ジャスティンの展開するホログラフィが椿達の攻撃の命中率を上げる。ジャスティンのボクスドラゴンのピローは白陽に耐性与え、シフォンも光の風をルルリアレレイ達に送り込んだ。
 ルルリアレレイが高速の蹴りを放って動きを鈍らせた所に、椿が凍れる螺旋を放つ。続けて実里が急所を狙って突き動きを奪い、そこを流石の死角を突く弾丸とジェミの肘からの内臓モーターで斬りつけた。更にガルガンチュアが喰らいつく。
 ドリームイーターはモザイクを使って自らの体力の回復と浄化を行っていく。
「こっちだよ。皆を傷つけさせはしない!」
 実里は直ぐに紡いだ盾をドリームイーターへと放つ。その間を縫ってジェミが氷の騎士を召喚して斬りつけた。
 瀬乃亜はドローンを流石達へと展開させて守備力を高めていく。更にジャスティンが攻撃力の底上げを図った。
 それを受けた流石は鉄視心揺を使って、精神的負荷を与える。そこに椿が強力な一撃を放った。
「死にゆく者は無知であるべきだ。要らぬ煩悶は捨てて逝け」
 白陽は、ドリームイーターの内部を狙って攻撃を放つ。
「人の感情を弄ぶなど、不愉快にも程が有ります……! 人々を守護するのがケルベロスの務め。このまま消えて戴きます!」
 ルルリアレレイが強力な蹴りをドリームイーターに叩き込んで動きを鈍らせる。そこを狙ってジャスティンの雷の一撃とピローのブレス攻撃が放たれた。続けて、ガルガンチュアはドリームイーターを惑わせると、シフォンはそこにリングを飛ばし、追撃を加えた。
 再び、守りを固めに入る。ルルリアレレイはジャスティン達に星の力による加護を与え、瀬乃亜がドローンを飛ばして守りを固めた。
 ドリームイーターがモザイクを実里に向かって放つ。実里は無数の盾を展開させてイミテーションカリバーで防いだ。ミーミアは回復しながら力を与えていく。それを受けた実里はドリームイーターの急所を突いて動きを止め、そこを狙って白陽が傷口を広げていく。更に椿が凍てつく一撃を放った。
 ルルリアレレイがオーラの弾丸を放つと、ガルガンチュアが続けてドリームイーターに喰らいつく。ジェミが蹴りを放って動きを鈍くさせた所に流石が鉄視心揺を用いて精神的動揺を与える。そこにジャスティンが雷の一撃を放ち、ピローがタックルを喰らわせた。
 瀬乃亜はルルリアレレイ達にドローンを飛ばして守りを固め、ミーミアとシフォンは光の加護を張り巡らせる。
 ドリームイーターがジェミに向かってモザイクを飛ばすが、ダメージだけで何とか堪える。隙を狙って流石が銃弾を喰らわせると、白陽の蹴りが急所を狙って放たれた。実里がドリームイーターの動きを鈍らせた所にジェミが氷の騎士を放って斬りつけ、ジャスティンはアームを用いて守りを弱らせる。
「由緒正しき日本の着物を踏み躙る事は許しません!」
 椿の放った一撃がドリームイーターを消し去っていった。

●着物への想い
 教室の壊れた備品などを流石や白陽、ルルリアレレイがヒールをかけて直していく。
「今回は作戦の為に多少オーバーに事を進めましたけれど、こんな風にしなくてもお着物の素晴らしさが伝わればいいのに……」
 椿がぽつりと零す。彼女は着物が大好きだし、今は高級品だけれど昔は身近な存在。過去のものを大切にする心はとても素敵だと感じるからだ。
「でもでも、折角の機会だよ! 皆で着物着て記念撮影とかしようよ! 椿お姉様はよく着るのかもしれないけど、僕達、滅多に着られないんだから!」
「うん、ミーミアも折角だから記念写真撮りたいな! 椿ちゃんと瀬乃亜ちゃんには一杯お手伝いして貰わないと駄目だけど……」
 ジャスティンは元気よく、ミーミアは椿と瀬乃亜の様子を伺いながら皆に話しかけた。
「……僕も着物に興味があります」
 そう伝えるジェミも目をキラキラさせている。
「そうですね。椿さんと瀬乃亜さんさえ宜しいのでしたら、可愛い人達が一緒に着物を着て写真を撮るのも良いと思います」
 ルルリアレレイはそう言って、二人に伺いをたてた。
「着物の魅力に惹かれて下さるのでしたら私は喜んで。瀬乃亜さんは如何でしょうか?」
「ええ、私で良いのでしたらお手伝いします」
「やったー!」
 椿と瀬乃亜の言葉にジャスティンとミーミアは大はしゃぎをしている。ジェミも嬉しそうだ。
「着物は苦手なんだけど……喜んでるなら着ようか」
「俺も出来るようになっても損もしないから構わない」
「そういえば、僕だけ着物をちゃんと着てないよね。折角だから着てみようかな」
 流石、白陽、実里も同意してくれる。
 二人に手伝って貰いながら、皆で着物を着る。今は遠ざかりつつある着物だけれど、大事にしたい日本の伝統だ。
 それを愛する心と大切な伝統に、改めて心に刻むケルベロス達だった。

作者:白鳥美鳥 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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