
●仔猫注意報
雪柳の花が咲き零れる丘のふもとで、銀色の仔猫が生まれた。
――いや、復活した。
真白な花々と春草の緑に彩られた大地を割って生まれ、もとい復活したのは大きな大きな機械の仔猫。崩落する草花や大地の中から這いだした仔猫は鋼の前肢を突っ張らせるようにひと伸びし、丘のふもとに広がる市街に飛び込んだ。
街路樹や雑居ビルの森を大きく揺るがす巨大な機械猫、その襲来にひとびとは恐慌状態に陥り、我先に逃げ出さんとしたが、そこに、
『みゃあん』
――仔猫特有の、どうしようもなく皆の心をくすぐり、庇護欲をかきたてる鳴き声が。
思わず振り返ってしまった(主に猫好きな)ひとびとが見たものは!
「うっ!」
「茶トラのふわふわ……」
「か、かわいい……っ!!」
一瞬前まで機械的な銀色をしていた巨大仔猫ロボが、ふわっふわでほわっほわの茶トラの仔猫に姿を変えたところ! くりくりとつぶらなおめめは黒くあどけなく、小さなおはなは愛らしいピンク色! きっと肉球もピンクだ!!
茶トラのふわふわ仔猫たん(でも見上げるほどおっきい)はそんなひとびとに見せるようおててを持ちあげ――ピンクの肉球を備えたおててを勢いよく射出した!!
雑居ビルの外壁をこねこぱんちが砕き、がりがりっと爪が抉っていく。
『にゃーん』
甘えるように鳴いた茶トラのふわふわ仔猫たん(でも見上げるほどおっきい)はころんとその場に転がると、街路樹を薙ぎ倒し自動車を踏みつぶしながらごろごろろーりんぐでひとびとに襲いかかった。
そうして、大きな大きな機械の仔猫は市街の中心めざして進んでいく。
●茶トラの仔猫たん(7m)
「おっきくて、かわいい……。けど、大惨事だね」
「はい。ですが幸い、緤さんの警戒のおかげで、こうして事前予知が叶いました」
巨大にゃんこ型ダモクレスの襲来。
どこかでそんな事件が起こるような気がしていた烏柄杓・緤(トロイメライ・e21562)はセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が語った予知の光景に銀蒼の瞳を瞬いた。
「茶トラのふわふわ仔猫……なんでそんな姿になるのかな。いやかわいいけど」
「可愛いですよね。けれどこれ、どうやら攻撃力を向上させる魔法的な戦闘デバイスを纏うグラビティのようなんです。ブレイクに成功すれば攻撃力強化は解除できると思いますが、強化がブレイクされても茶トラのふわふわ仔猫の姿はそのままみたいです」
あざとい。
巨大にゃんこ型ダモクレスあざとい。
各地で先の大戦末期にオラトリオにより封印された巨大ロボ型ダモクレスが復活する事件が報告されているが、この巨大にゃんこ型ダモクレスもその一体だとセリカは話を続ける。
万全の状態であれば太刀打ちできるかわからないほどの強敵だろう。
「ですが、復活直後はグラビティ・チェインの枯渇により、この巨大ダモクレスの戦闘力は大きく低下しています。そのため、多くのひとびとを殺戮してグラビティ・チェインを補給するべく、市街の中心をめざすようです」
巨大にゃんこ型ダモクレスの体内にはダモクレス工場が格納されている。
大量のグラビティ・チェインを補給して力を取り戻せば、体内でロボ型やアンドロイド型ダモクレスの量産を始めるはずだ。
「そうと判っていて見過ごすことはできません。力を取り戻す前に、この巨大ダモクレスの撃破をお願いします」
丘のふもとから現れる巨大にゃんこ型ダモクレスは、ふもとから広がる市街に飛び込み、その中心をめざして進む。
「皆さんには現場で敵を待ち構えて頂きます。丘のふもとに押し留めるのは無理ですので、巨大ダモクレスが飛び込んでくる市街で待ち受けることになります」
然程人口の多くない地方都市であることが幸いし、避難勧告の出された該当地域では既に一般市民の避難も完了している。巨大な敵相手の戦いとなれば市街への被害は免れないが、それはヒールで修復すればいいと割り切るしかない。
「――と言うのも、類似の事件と同様で、この巨大ダモクレスも稼働から7分が経過すると魔空回廊が開いて撤退することが予知されているからです」
魔空回廊に撤退されては撃破は不可能。
その前に確実に撃破するためには、
「……市街への被害を気にしてる余裕はないってことだよね」
「はい。相手は戦闘力が低下しているとは言え、『低下している状態だからこそ、こちらが勝てる可能性がでてきた』という敵です。また、戦闘中に一度だけ強力なフルパワー攻撃を使うことができるようですから、決して侮ることはできません」
緤が確認すれば、油断禁物です、とセリカが頷いてみせた。
そのフルパワー攻撃を行えば巨大にゃんこ型ダモクレス自身も大きなダメージを被るようだが、攻撃の詳細までは判明しなかったという。
「おっきくて、かわいい……。けれどきっと、激しい戦いになるね」
それでも、緤自身も、彼が見回したケルベロス達も、誰ひとり怯む様子はない。
可愛いけれど放ってはおけない、危険すぎる仔猫を倒しに、さあいこう。
参加者 | |
---|---|
![]() ミケ・ドール(黄金の薔薇と深灰魚・e00283) |
![]() バレンタイン・バレット(けなげ・e00669) |
![]() アルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684) |
![]() トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524) |
![]() ミャア・モノモノ(ストレイキャッツシンドローム・e07764) |
![]() ミア・フィーネ(寂寞の夜明け・e20536) |
![]() 宵華・季由(華猫協奏曲・e20803) |
![]() 烏柄杓・緤(トロイメライ・e21562) |
●肉球注意報
晴れ渡る青空が突如翳ったと思えば真白な雪柳の花と土砂のにわか雨。
一瞬のそれの後には街路樹と雑居ビルの森を大きく揺るがし、ケルベロス達が待ち受ける市街へ巨大にゃんこ型ダモクレスが飛び込んできた。――その、直後。
『みゃあん』
銀色の仔猫ロボはふわっふわでほわっほわな茶トラの仔猫たん(7m)に変身を遂げる!
黒くつぶらな瞳はあくまであどけなく、ピンクのおはなも食べてしまいたくなるくらいの愛らしさ。抱きしめたいという衝動すら湧きあがるが、
「はっ! おのれダモクレス心理作戦とは卑怯な! 一番可愛いのはミコトだからな!?」
「そうね、あの子も可愛い、可愛いけど――可愛さ、負けてられないよリーチェ」
「くっ……猫の愛くるしい姿を盾にするとは、なんと恐ろしく、救いがたい敵なんだ!」
相棒たるウイングキャットから猫パンチを喰らった宵華・季由(華猫協奏曲・e20803)が浮気を誤魔化すよう爆破スイッチを構え、ふわふわお姫様なウイングキャットをぎゅむっと抱いたミア・フィーネ(寂寞の夜明け・e20536)も爆破スイッチを構えて、行くぞ執事、とビハインドに呼びかけたアルシェール・アリストクラット(自宅貴族・e00684)もやっぱり爆破スイッチを構えた。
そして、
――大きいし、敵だし、お膝に抱っこもなでなでも出来ないなら……せめて、写真だけ!
トエル・レッドシャトー(茨の器・e01524)はスマホを構えた!!
瞬間、ぼばばばばんっと三連続で起こった爆発がカラフルな爆風で世界を彩って、
「なんかすごいファンシーな猫さん撮れた! 気がする!!」
気合満点、一気に戦闘モードに切り替えたトエルが巨大仔猫に流星の蹴りを炸裂させる!
一人一人のエフェクト発動率は低く、頭数ゆえに減衰もあるが、ブレイブマイン三連発となれば前衛陣のかなりに攻撃力強化が行き渡った。爆風に鼓舞されるままミャア・モノモノ(ストレイキャッツシンドローム・e07764)もアスファルトを蹴って跳び、じゃれたいならお相手しよう、だけどちょっと力加減間違えたらごめんね――と楽しげにおっきな仔猫へと笑んだが、
「って、ボクだと命中率5割とか6割って! 強いね猫さん、セツ、任せた!!」
「うん、任された」
今必要なのは力加減無用の全力全開。彼の炎を噴き上げた蹴りをぱしーんと両のおててで白刃取りよろしく受けとめた仔猫めがけて、烏柄杓・緤(トロイメライ・e21562)は瞬時に急加速した重い高速の拳を放ち、茶トラの仔猫たんが『つよくなった』分を打ち砕く。
「ブレイク成功。そっちも頼んだよ、バレンタインにミケ」
「もちろん! タンキケッセンってヤツだ、気合いれていくぞう!!」
「……とってもふわふわカリーナ……けど、倒す」
制限時間は7分、ちらりと時計を見やったバレンタイン・バレット(けなげ・e00669)は即座にウサギ耳と腕を翻し、銃を構えて一掃射撃――と見えた瞬間、カフェの看板を蹴って一気に跳躍、
「ねこねこにゃー!!」
『みゃあんっ!?』
ごんっ! と仔猫(7m)の頭を銃身で殴りつけた。
転がり攻撃が届かない後衛のスナイパーが怒りで攻撃を引きつける作戦だ。だが列攻撃のエフェクト発動率の関係でバレンタインの初撃の怒りは不発、しかし、
――Va' all' inferno.
鮮やかな紅から眩い白、両足に光を纏って飛翔したミケ・ドール(黄金の薔薇と深灰魚・e00283)が蹴撃と怒りを確実に叩き込む。その途端、
『ふー!!』
可愛く怒ったにゃんこがこねこぱんち!
穢れを知らない感じのピンクの肉球で叩き落とすよう射出されたそれの威力は凄まじく、ミケが叩きつけられた瞬間雑居ビルに巨大な罅が奔り、少女を抉る爪の一閃がビルの外壁も盛大に崩した。だが、
「流石は巨大にゃんこ型ダモクレス……!」
降りそそぐ瓦礫を強く蹴りつけ、噴き上げた炎ごとトエルが仔猫へ蹴撃を放った隙に、
――いくら可愛くたって、目に見えるものに囚われない……!!
「……すごく、つよい。……けど、肉球、ふにふにだった」
「何だって! いや羨ましいとか思ってない、思ってないよ!」
強烈な直撃を喰らったミケが心眼覚醒、季由も即座に祝福と癒しを乗せた矢を射ち込み、
「ねこよりもウサギの方がかっこよいんだぞう! でもおれもにくきゅうは欲しいかも!」
対抗心を燃やしたバレンタインが崩れたビルから跳ねて再びごつん! 見切られてもなお命中率9割のスナイパーならではの一撃を決め、今度こそ怒りを刻み込む。しかしそれも、精鋭たる少年が得意技を使ったからの話。
「肉球見せたって無駄だからな! じゃなくて機動力は確り落とした方が良さそうだな!」
「肉球も素敵ね、じゃなくて、わかった。火力大きくても当たらなきゃ意味ないもんね」
肉球に揺れた心はぐっと押し隠し、中衛から跳躍したアルシェールが流星となって三重の星の重力で仔猫を大地へ縫いとめ、爆破スイッチでなく縛霊手を揮ったミアが一気に霊力の網を放射すれば、ころんと転がった仔猫が網の中でじたばたする。これならいけるかな、と緩く瞳を細め、ミャアも地獄の炎を噴き上げた鎖を叩き込んだ。
『にゃ~ん!』
「遊んであげるよ。存分にじゃれあおうか」
緤の黒髪から覗くは猫耳型の音響機構、網から転がり出た仔猫と目が合えばいかにも遊び盛りのそれに見えたから、流す魔曲は鍵盤の上で仔猫が遊ぶかのごとき円舞曲。星の囁きと真白な凍気を降らせ――さあ、全力で遊ぼうか。
●仔猫注意報
玩具いっぱい! とばかりに前衛陣の中に飛び込んできた仔猫のごろごろろーりんぐ!
街路樹を薙ぎ倒し自動車をも潰す危険な仔猫の遊びがケルベロス達へ襲いかかるが、
『んにゃ~ん』
なんだその『ミルクいっぱい飲んでおなかいっぱいにゃ~』とでも言いたげなぽんぽんのおなかは! グラビティ・チェインからっけつのくせに!!
「いちいち可愛くて困るな! じゃなくて、減衰してこの威力とはな……!」
だが誰も倒させはしない! と癒し手の矜持を乗せて季由が解き放ったヒールドローンが戦場を翔け、翼猫達の清らな羽ばたきが力を満たす。列ヒールの減衰は手数で補われたが、護りの加護が思うように行き渡らないのが難しいところ。
ふわふわラグドールのお姫様に主と揃いのとんびコートを翻す茶トラの翼猫、にゃあんと体当たりしてきた翼猫達に突き飛ばされる形で庇われ、無傷で左右へと跳んでいたミャアと緤は、
「準備はいーかい、セツ」
「勿論さ、ミャア」
片やビル屋上の柵にケルベロスチェインを絡め、片や倒壊した街路樹と瓦礫を足がかりに跳躍して二人同時に宙に舞い、春風を切って煌く双子の流星となって仔猫のおなかへ一気に落ちた。もふっとふかふか!
覆いかぶさるようミアに庇われたトエルも素早く身を起こし、
「すまない!」
「大丈夫だよ。でもさっき撮ったファンシーなのミアにも送ってもらえると嬉しいな」
「わかった、必ず!!」
緑柱石めいた瞳を笑ませた彼女が爆破スイッチを握り込んだ瞬間、華やかな爆風に送られ迷わず仔猫へと馳せる。風に踊る白き髪を少し切りとったなら、
――鍵はここに。時の円環を砕いて、厄災よ……集え。
茨が成す槍に時の円環ほどいた白銀の茨を絡ませ、絶大なる威力で厄災を撃ち込んだ。
『にゃあん!』
傷口からばちりと火花を奔らせながら跳ね起きた仔猫へ襲いかかるのはビハインドの念を込められた数多の瓦礫、良くやった執事、と声をかけて、アルシェールは巨大な仔猫を振り仰いだ。飛んでくる瓦礫をおててで弾こうとする姿は愛らしいが、
「7mってそれもう仔猫じゃないから! 鳴き声が頭上遠くから聞こえるじゃないか!!」
『みゃあん?』
足元から不意に聴こえる小さな声、視線を落とせばそこには上目遣いの仔猫が――みたいなのが仔猫の愛らしさではないのか!
「これじゃ上目遣いどころか、上から目線の仔猫たんじゃないか! いやそう言ってみるとそれはそれで需要ありそうな気もしてきたが!!」
「なにおう!? それじゃあおれは、上から目線のウサギになってやる!!」
渾身のツッコミと7mの仔猫という不条理への怒りを炸裂させ、アルシェールが運命をも狂わす凄まじい炎の一撃を叩き込めば、猫よりもウサギの方が格好良いという揺るがぬ信念を胸に瓦礫を駆けあがり、鳥より高く、風より軽く空に跳んだバレンタインが流星となっておっきな額を直撃。
その勢いでころんっと仔猫がひっくり返る様はやはり可愛かったが、
「……Non、飼えない……おっきすぎて、飼えないから!」
ひっくり返った拍子に歩行者信号をべきべきっとへし折った巨大仔猫をめがけ、己に言い聞かせるような声と馳せたミケが刃を一閃。空の霊力を込めた斬撃が怒りや炎を深めれば、
『みゃあんっ!』
跳ね起きると同時に雑居ビルへ飛び移った仔猫がこねこぱんち!
後衛を狙ったそれとすれ違うよう折れた信号を駆けあがり、跳躍でビルの森の頂に至った瞬間、緤が放つのはストラグルヴァイン。蔓草に締めあげられた茶トラの毛並みの奥で鋼の機構が派手に軋んで弾け飛ぶ音と手応えに確信を得れば、すかさず仲間へ呼びかけた。
「成程ね。皆、この子の弱点は破壊攻撃らしいよ」
「破壊……それなら!」
「了解、思う存分いかせてもらうよ」
用意しててよかったブレイズクラッシュ! 瓦礫が創りだした階段を跳び渡ったトエルが瞬時に燃え盛った地獄の炎の一撃を叩き込めば、大きく傾いだ仔猫へミャアも跳ぶ。
胸の裡でぱらぱら捲れるのは誰かの脚本、辿る演目。
――『さぁ、オレをはじめよう』。
灰の瞳に粗暴な光を宿した瞬間、ミャアは野蛮なまでに強大な破壊の力で敵をビルの森の谷間へと叩き落とした。
●毛糸注意報
崩壊するビル、小石みたいに転がる自動車、ドミノ倒しの街路樹達。
勢いをつけた仔猫が転がる様はまるで街のジオラマで戯れているかのようだけど、これが本物の市街で仔猫の目的が殺戮である以上、遊びでは済まされない。ごろごろろーりんぐを凌いだクラッシャー達の猛攻勢、もうもうと舞いあがった粉塵をカラフルに染め変えながら吹き飛ばすブレイブマイン、目まぐるしく姿を変えていく戦場を駆けて跳んで戦う仲間達に続き、確実に狙い定めたバレンタインのガトリングガンが爆ぜるような連射を浴びせれば、巨大な仔猫の胸元に大穴が開いた。
誇らしげに揺れた少年のウサギ耳、けれど時計に視線を奔らせた瞬間それがぴんと立つ。前線へヒールドローンを送り出し、正確な時刻を追った季由の顔にも緊迫の色がよぎる。
――3、2、1。
「5分たったぞう!」
「後2分だ、皆!!」
二人の声が響いた直後、おすわり体勢を取った仔猫がぷるぷると身を震わせ、
「これ多分、フルパワーだよね」
「うん、フルパワー来るよ!!」
渾身の力を凝らせる様を見て取ったミアが未知の技への興味に瞳を輝かせ、トエルが鋭く警戒の声を奔らせた――瞬間。
『みゃあああぁあん!!』
空へ向かって爆発的な魔力を放出した仔猫が、超特大の毛糸玉を召喚した。いっぱい。
雨霰と降り注いで跳ね回る色とりどりの毛糸玉! だが一つ一つが自動車サイズのそれは凄まじい力で市街を破壊し後衛陣に襲いかかった。けれど、空へと跳ねたのは学生帽に苺とその花のリング。
「ミコト……!!」
「リー、チェ……!!」
果敢に仲間の盾となり続けたウイングキャット達が力尽きて消える。同じく身を盾にしたミアも凌駕で意識を繋いでいる状態だ。しかし、攻撃重視の仔猫が全力を振り絞った攻撃をスナイパー達が怒りでクラッシャー達から逸らし、ディフェンダー陣がスナイパー達を護り抜いた意義は大きい。
「さあ、じゃれあいは終わり。総攻撃でいくよ」
「時間がない、回復は切り捨てで!」
「――わかった、俺も出るよ」
超特大のカラフルな毛糸玉が転がる中を緤が駆けトエルが跳び、高速の拳と流星の蹴撃を叩き込めば、季由も鋭く回転させた腕を武器に打って出た。戦線を支えることも重要だが、何より優先すべきは魔空回廊が開くよりも先に仔猫を撃破すること。
自分自身の力をも削るフルパワー攻撃を放った敵の姿はボロボロというよりも雨に濡れた仔猫状態で、
「あざとい! 何処まであざといんだキミは!!」
「くっ、コイツがウサギだったら、おれの手もにぶったかもしれないな……!」
猫好き魂を刺激されながらも、やればできると全力で己を鼓舞したアルシェールが渾身の一撃を放ち、何かを振り切る心地でバレンタインが爆炎の魔力弾を撃ち込んだなら、
『にゃあああんっ!』
振り絞るような声音とともに射出されたこねこぱんちが彼を瓦礫の中へ叩き込む。だけど残り時間は1分を切ったはず、さぁさ急げ急げとばかりに迷わずミャアは跳躍し、
「思いきり蹴倒すからね! セツ!!」
「いつでも合わせるよ、大丈夫」
演じるように人格を塗り替えた途端、荒ぶ暴風めいた力で巨大な仔猫を叩き伏せ、そこに間髪入れず緤が絡みつかせた攻性植物が強烈な締めあげで内部の機械構造を破壊していく。
けれど巨大ダモクレスの見た目はあくまで雨に濡れた仔猫たん!
『みゃああぁぁん……!』
――ああ、世界は残酷だ。こんなに可愛いにゃんこを屠らなきゃいけないなんて。
弱々しい声、すがるような瞳。それらが緤の心を疼かせミケの心を惑わせるけれど、
「そんな目で見ても私はごまかされない……ご、ごまかされないもん!!」
月の瞳をぎゅっと瞑ってふるふるとかぶりを振ったミケは、再び目蓋を開いた瞬間に地を蹴った。そう、あれは魔空回廊が開くまでの時間稼ぎに違いない! 多分!!
薔薇飾りが彩る少女の脚が鮮麗な紅から白に輝く光に包まれる。
輝きが融けるまで叩き込まれる蹴打の連撃は世界で唯ひとり彼女だけが揮える破壊の力、翳る月のごとく光が消え去るのと同時に、おっきな仔猫も力尽きて消え去った。
超特大の毛糸玉達も消え、辺りは春の穏やかさを取り戻す。
「だが、これが最後の仔猫とは思えない。僕らが仔猫を望む限り、第二第三の仔猫が現れるだろう……!」
金の髪をかきあげ、アルシェールがお約束の台詞を決めれば、
「にゃー!?」
がんばってなおすぞう、とバレンタインがヒールした信号にみょっと猫耳が生えた。
粉塵混じりながらも優しい春風が吹く中、幻想を孕んで少しずつ市街が蘇っていく。
瓦礫に座ってそれを眺めていたミャアの前に友の手が差し出された。
「何してるのさミャア、行くよ」
「ふっふ……ねこねこ」
ぽん、と手を乗せ立ち上がった彼の視線を追えば、復活した翼猫達がその主達の腕の中に飛び込んでいく光景が緤の瞳にも映る。皆を見回せば緩む眦。ほっと息をついたのと一緒に小さく零れたものはきっと、微笑みというものなのだろう。
――皆と戦えて、嬉しかったよ。
作者:藍鳶カナン |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年4月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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