ガーネットの夢

作者:雨乃香

 部屋の中、女性は机の上に並べられたたくさんのアクセサリーを前に、上機嫌でそれらを眺めていた。
 カップにかけられたピアスや、アクリルケースに収められた指輪、フックにかけられたネックレス、どれも高いものでもなければブランドものでもない。明確な価値のある石を使われたものがあるわけでもなく、それでも彼女はそれらのアクセサリーを気に入って、とても大事にしていた。
 この春から大学に通うために地方から出てきた彼女は、道に迷っていたところをとある露天商の男性に助けられ、そのお礼にと一つ商品を買ったのが切っ掛けだった。
 手作りらしいその作品は他人からすれば子供用の玩具のアクセサリーと大差がない、価値のないようなものに見えたかもしれない、そもそも、彼女自身買ったとしてもそれらを身に着けることは稀で、ただただ眺めているだけの事が多かった。
 その造形を、デザインを美しいと思いアクセサリーを買ったのが始まりだったのか、それとももとより男性に恋心を抱いたのが先だったのか、彼女にはわからない。
 何度も通う内に互いに顔こそ覚えたものの名前すらも知らない者同士、それ以上の関係など望んではいなかった。ただ、密かにこうして美しいアクセサリーを買い、それが彼の為になるのならと、彼女はそう思っていた。
「あんたの愛って、気持ち悪くて壊したくなるわね」
 溜息と共に響いたその声に、女性が反応する暇もなく、その胸に突き立つ、巨大な鍵。
「でも、触るのも嫌だから、自分で壊してしまいなさい」
 鍵を手にしたその少女は女性の心臓から勢いよく鍵を引き抜いて、生まれ出でたばかりのそれに、そう声をかけた。
 机の上に突っ伏し、意識のない女性の隣、彼女の夢から新たに生まれたドリームイーターがそこにいた。
 胸元にモザイクを漂わせ、額には真紅の宝石、獣の様な耳と体毛を持つその怪人とでも呼ぶべきその姿。それは目の前のアクセサリーを乱暴に一掴みにすると、大きく裂けた口の中に放り込んで、部屋の窓を破り夜の街へと繰り出していく。その後姿を見送った少女もまたその場を後にし、部屋には机の上に突っ伏した女性だけが残されていた。

「何やら、またまたドリームイーターが暴れているようですね?」
 ニア・シャッテン(サキュバスのヘリオライダー・en0089)はフフっと笑いながら踵を返し、ケルベロス達の方へと体を向ける。
「数か月前から確認されている、『陽影』というドリームイーターが愛を奪い、それを元にドリームイーターを作りだして、また事件を起こそうとしているようです。愛を奪われる被害者をこれ以上増やさないためにも、この作り出されたドリームイーターを撃破し、被害者となった女性も救ってあげてください」
 ニアはそういいながら頭を下げ、再び姿勢を正すと、目標となるドリームイーターについての詳しい説明を始める。
「ドリームイーターは狐ともリスともつかないようなデフォルメされた獣人の見た目をしており、額についた真紅の宝石と胸元のモザイクが特徴的な個体です。被害者宅の付近の市街地を徘徊しており、歩行者天国となっている通りで被害者女性と交流のあった露天商の男性を狙って行動しているようです。お店の場所、時間帯に関してはこちらでわかっているので待ち伏せすることは容易と思われます」
 こちらがその場所と時間になります、と言いながらニアはケルベロス達に詳しい地図情報を送り、ドリームイーターについての話へと戻る。
「昼間の市街地ということで、避難誘導の必要があります、加えて、敵が優先的に狙ってくると思われる男性の護衛も必要となるため、忙しい戦いになることが予想されます。戦闘が終わるまでこの男性を守りきるか、あるいは避難させるか、この判断は皆さんにお任せします。なんとか守ってあげてください。
 敵は見た目とは裏腹にモザイクによる遠距離攻撃を主体として立ち回ってくるようです、見た目に惑わされないよう気を付けてください」
 一通りの説明を終えたニアは笑みを浮かべ、唇に指を当て、ケルベロス達の顔を覗き込む。
「せっかくの出会いの季節に人の恋やら愛を邪魔するドリームイーターは無粋というものです。皆さんのご活躍期待していますよ? フフっ」


参加者
八剱・爽(ヱレクトロニカオルゴォル・e01165)
ガルソ・リーィング(若き古城の領主・e03135)
柊・桐華(だるだるキャット・e03229)
レティシア・シェムナイル(百花繚乱・e07779)
アインヘリアル・レーヴェン(虚誕捏造マゾヒズム・e07951)
ディオニクス・ウィガルフ(ダモクレスの黒剣・e17530)
常磐・まどか(天狐舞・e24486)
出田・ウチュージン(ばるきりわ・e24872)

■リプレイ


 平日の昼間、人の往来の激しいその場所に、それは現れた。
 狐ともリスともつかない半端な長さの耳、獣らしい肉付きの足と、濃い黄金色の体毛、胸元にはモザイクを抱え、額には真紅の宝石が光る人型の異形。
 胸元のモザイクがなければドリームイーターと判別することも困難なそれは、ビルの屋上から音もなく歩行者天国の中央へと降り立つと目的の場所へと向けて歩き出す。
 その異形の怪人に周囲の人々は驚き、ざわめくが逃げるというところまではまだ頭が回らないらしい。
 そんな周囲の様子を気にも留めず、異形はただ一人の人間を探し視線を彷徨わせ、目的の人物を見つけ出すと、モザイクを周囲に漂わせ、それを瞬く間に宝石に変えて見せた。周囲の人々はそれて見て感嘆の声を上げる。それが、触れるだけで自分たちの命を奪う凶器だとも知らず。
 異形はゆっくり腕をあげ一人の露天商の男を指さす。
 浮き上がった無数の宝石達は、その指さす方向へと向かい、高速で撃ちだされた。
 周囲の人々すらをも巻き込む範囲で撃ちだされた宝石は、たくさんの人々の命を奪うはずだった。
 しかし宝石の弾丸は、突如として横合いからんできた鳥籠のような生物がその殆どを一身に受け、露天商の男を狙った宝石は、アインヘリアル・レーヴェン(虚誕捏造マゾヒズム・e07951)が代わりにその身で受け止めていた。
「ふふ……いいですねぇこの痛み……僕なんかが、誰かの役に立てているという証……」
 恍惚とした表情を浮かべるアインヘリアルの元に、先程飛んで行った鳥籠のような生物、ミミックのツヴィンガーが攻撃を受け止めたことを褒めてほしそうにすり寄って帰ってくるが、彼はそれを気にした様子もなく、ただ敵の出方を伺っている。
 異形のドリームイーターは突如現れた少年の姿を黙してただ眺めている。
 周囲の人々も、ようやくただ事ではないと理解しはじめたのか、ざわめきは悲鳴へと成り代わり、パニックを引き起こす寸前にまで膨れ上がる。
「俺達はケルベロス、現在デウスエクスが現れ交戦中だ。焦らず、ゆっくりと避難してくれ。被害は極力ださねぇようにする」
 突如街中のスピーカーから流れ出したのは、ディオニクス・ウィガルフ(ダモクレスの黒剣・e17530)が事前に手配しておいた避難勧告を促す放送。口元のインカムを右手で寄せつつ、混乱を避けるように人々を遠ざける指示を出しながら、ディオニクスは異形の姿をしっかりと視界に収めている。
「私タチが守るから焦らず、逃げテー欲しいネ」
 レティシア・シェムナイル(百花繚乱・e07779)も避難を誘導しつつ、殺界を形成し、間違えて人々が紛れ込むをの防ぎながら一般人の護衛について、敵を牽制している。
 それと同時、出田・ウチュージン(ばるきりわ・e24872)は露天商の男に自身が狙われていることだけを掻い摘んで説明し、その小さな体で男を抱え上げると、体よりも大きな翼を羽ばたかせ、空へと浮き上がる。
 その行動を見た瞬間、静観し状況を伺っていたドリームイーターが動きを見せる。
 男を逃がすまいと再びモザイクを展開し、攻撃の態勢に入ろうとする。
「さっさと吹っ飛べー……」
 気だるげな声と共に、突如、ドリームイーターの足元から溶岩が吹き上った。
 モザイクは霧散し、攻撃を受けた異形は距離を取り攻撃の出所を探そうと視線を動かす、だが、それを逃がすまいと、八剱・爽(ヱレクトロニカオルゴォル・e01165)がその身に迫っている。
 至近距離からの踏み込みから繰り出される、重力を宿したその蹴りの威力は凄まじく、異形は勢いよく地面を転がり、飛ばされていく。
「余所見すんな。俺、放置プレイ好きじゃないんだよ」
 その言葉を敵が理解したのかそうでないのか、ゆっくりと身を起こしたドリームイーターは遠く離れていく露天商の背中を少しだけ見送ったと、ケルベロス達の方に目を向けた。
「人の恋路を邪魔する奴はケルベロスに蹴られてなんとやらって事で……」
 爽と同時に攻撃を仕掛けていた柊・桐華(だるだるキャット・e03229)は姿を現すなり、ドリームイーターの惨状を見たままに呟きながら、牽制するように銃を構えピタリと狙いをつける。
「さて、こっからは俺らも相手してもらうぜ? 価値のない意思よ」
 ケルベロスと異形の緊張した睨みあいの中、インカムを外したディオニクスは両の拳を打ち鳴らし、その腕に漆黒の炎を灯す。火勢が衰えるつれそれは硬質な爪を形作り、炎と同じ色を持つ武器と化す。
「僭越ながら……お手伝いさせていただきます……」
 言葉と共に、青い雷が敵の体を撃つ。
 ディオニクス同様戦列に加わっていたアインヘリアルの放ったそれは。威力こそ控えめではあったが、敵を怯ませるのには十分であった。
「――さァ、狩りの始まりだ」
 ディオニクスの突き出した掌から真っ直ぐに突き進む巨大な光弾が、ドリームイーターをめがけて迫り、その体を飲み込む。手応えはあった、が、ドリームイーターは光に紛れ包囲を抜け出そうと画策し、光弾を突き抜け露天商の消えていった方向へと駆け出している。
「此処より先は人の領域である、止まれ!!」
 凛とした声と共に、音が走った。
 長く細いその音を耳にしたドリームイーターは突如としてふらつき、顔から道路へと倒れ込む。その体をガルソ・リーィング(若き古城の領主・e03135)容赦なく蹴り飛ばし、包囲の内側へと戻す。
 その様子に、常磐・まどか(天狐舞・e24486)は驚きながらも、先程言葉を発したときとは随分と印象の違う柔らかい口調で、仲間達に声をかける。
「こちら、避難誘導と周辺の封鎖終わりました、引き付け感謝です」
「敵の抑え込みご苦労さんだ」
 まどかに続いて、ガルソも横暴な態度でそう仲間達を労いつつ、戦列へと加わる。
「こっちも終わったヨ。幸い怪我人はいないネ」
「私も露天商さん、ずぅっと遠くに避難させましたよ」
 レティシアとウチュージンの二人も自らの任を終え、再び敵を倒すためにこの場所へと戻り、各々が獲物を構え、敵を包囲する。敵の容貌も相まってその様子はまるで狩りのように見える。
「だから後は、ドリームイーターさんをやっつけるだけ、ですね?」
 首を傾げ、その体に似合わない長大なライフルを構え、ウチュージンが呟き、その引き金を引いた。


 避けることもかなわず、ドリームイーターに直撃した光線が熱を奪い、その体毛を凍結させる。だがドリームイーターも一方的になぶられるだけではない、ケルベロス達の動き、癖、それらを見据え、反撃の機会を淡々と伺っている。
「こないならこっちからいくぜ」
 宣言しつつ爽は再び距離を取ろうとするドリームイーターに肉薄し、ブラックスライムをけしかけるが、ドリームイーターは身を低く屈め初撃をかわした後、四肢で地を蹴り大きく跳躍し、間合いの外へと逃げる。
 続けざまに放たれた桐華の弾丸をも、ドリームイーターは軽々と回避してみせる。その反応速度には目を見張るものがあったが、攻撃を感知できなければそれを生かすことはできない。
 桐花の撃ちだした無数の弾丸はそれらはそれぞれ別々の弾道を描き、周囲の建物の傾斜やちょっとしたでっぱり、へこみを跳ね、経由し、それぞれ全く違う角度からドリームイーターの体を貫く。
 追撃にアインヘリアルの放った黒色の球体もまともにくらい、ドリームイーターは破れかぶれといった具合に再びモザイクを展開、無数の煌びやかな宝石を作りだし、鋭く尖るその切っ先を揃え、美麗な刃の雨を放つ。
 狙われた後衛のケルベロス達を守るため、ディオニクスが視線を送り、瞬時にウチュージンと桐華の二人は首を振り、回復を担当する他の二人を守るようにと意思を示す。
 自らのサーヴァントであるミツダタに守られているレティシアもまた首を横に振り、ディオニクスはまどかの前に立ってその宝石の雨を代わりに受け止める。
 宝石の雨にうたれつつも、ケルベロス達は反撃の糸口を見つけようと、しっかりと敵の動きを見据え、チャンスを待つ。
 だが、ドリームイーターの方も欲を見せはしない、堅実に攻撃と距離を取ることを重視し、全員を視界に収める位置取りを行いしっかりと立ち回り始めている。
 このままでは埒が明かない、そう判断を下したディオニクスは宝石の雨をまともに受けるのも構わず、ドリームイーターへと向けて踏み出す。すぐさまレティシアがそれを援護するためにヒールを飛ばし、傷を癒し、ディオニクスははドリームイーターの元へと踏み込み爪撃を見舞う。
 しかし敵ははその行動を読んでいた。
 突如胸元のモザイクが大きく膨れ上がったと思うと、巨大な咢を形成し、ディオニクスの腕をその大きな口をもって一飲みにした。
「カーバンクルって妖精が異世界に居たなァ? たしか、額の宝石砕けば良いンだったか」
 至近距離からまるで敵に語りかけるかのように口にしたディオニクスは、ドリームイーターの額に飲み込まれているのとは逆の掌を押し付け、至近距離から漆黒の炎弾を打ち込んだ。


 モザイクの咢を維持できなくなったドリームイーターは額を抑えながら、地面を転がる。
 腕を解放されたディオニクスに対しては、すぐさままどかが駆け寄り、自らのオーラを分け与え、傷の治療にかかる。
「しぶとい奴だな……しかし、見ていれば同じような攻撃ばかり、それ以外にやることねぇのか、かわいそうなヤツだな」
 体毛を汚し、地に転がるドリームイーターに対し、ガルソは笑みを浮かべながら冷ややかな言葉を投げかける。その瞳に目を合わせたドリームイーターは、恐れるように体を縮こまらせたあと、ゆっくりと四肢で立ち上がり、音を伴わない咆哮をあげた。
 周囲を漂っていたモザイクが無数の鎖を形作り、それぞれが生き物のように身をくねらせ、ドリームイーターの周りでなびく。
「なんだか、やーな感じがします」
 ふわふわと頼りなく漂っているように見えるそれらに、感じ入ることがあったのか、ウチュージンは先手必勝とばかりに、光弾を撃ちだし鎖の破壊を狙う。しかし、宙を漂うそれらは自在に動き回り、光弾が掠められたのはわずか数本。
 攻撃を避けた数本の鎖は攻撃を仕掛けてきたウチュージンに対し、四方から襲い掛かる。
 ウチュージンが咄嗟に防御の為に構えた武器を意思を持つかのように避けた鎖は勢いのままに、ウチュージンの体を貫く。痛みに顔を顰める暇もない。無数のそれらが別々の角度より、その小さな体をめがけて飛来する。
 腕を脚を貫かれ、たまらずウチュージンは膝をつく。
 それでも尚、動き回ろうとする鎖を牽制するようにガルソが間に入ると、赤く濡れたそれらはするするとドリームイーターの元へと戻っていく。
 そうして接近を拒むように漂い続ける鎖を睨みつけ、爽は歯噛みする。
「道は……僕が開きます……」
 敵に悟られないよう、微かな声でアインヘリアルは爽に語りかけた。初撃で傷を負ったその体に無茶をさせていいものか、爽の顔に浮かぶ迷いを断ち切るように、アインヘリアルは笑みを形作る。
「その気持ちだけで恐悦至極……この身の心配などいりません……」
 二人の視線が重なり、どちらともなくそれを外すと、爽は小さく頷きを返した。
 僅かに早くアインヘリアルが飛び出し、ほぼ同時に爽も踏み出す。
 その行動に鎖は一時、迷うような素振りをみせたあと、僅かに先を進むアインヘリアルをめがけて、真っ直ぐにその身を伸ばす。
 鎖の猛攻をアインヘリアルは受け流し、振り払い、何とか持ち応えて見せるが、それもそう長くは持たない。次第に捌ききれない攻撃がコートの端々に血を滲ませ、白い肌を露わにしながら、彼は痛みに苦悶ではなく、恍惚の表情を浮かべ、舌なめずりをしながら、ただその時を待つ。
 アインヘリアルが猛攻を凌ぐ間、爽は一気に敵との間合いを詰める。当然、敵もそれには気付いているが、他に鎖を仕向けている以上、迎撃の手はない、そのまま距離を取ろうと後ろへと下がろうとする。しかし、下がろうとしたドリームイーターの動きが、何かに引っかかるように止まった。
 ドリームイーターが後ろへと飛んだまさにその瞬間、攻撃を凌いでいたアインヘリアルが反撃に転じた。
 迫る鎖を巻き取るように杖を振るい、無理やりにその体を引き寄せる。
 異形は咄嗟に鎖を切り離し離脱をはかろうとするが、二人の動きを把握し、理解していた桐華がそうはさせまいと、既に溶岩流により退路を断っている。
 ドリームイーターは数本の残した鎖で迎撃を試みようとするが、その鎖は地に落ちたまま動かない。
 それは、先程の攻撃でウチュージンが放った光弾によりグラビティの力を中和され、力を失っていた。
 もはやドリームイーターに逃げ場はない。
「あー、だるい……大人しく蹴られてやられちゃいなよ……」
 桐華の言葉と同時に、ドリームイーターの体を衝撃が襲う。
 空に弧を描き、振り下ろされる刃のように真っ直ぐな軌道を描き、爽の踵がドリームイーターの頭へと突き立つ。重力により何倍にも威力を強化されたその蹴りは、ドリームイーターの額の宝石を、一撃の元に粉砕した。


 戦闘が終わると、すぐさまウチュージンとアインヘリアルの二人に、まどかとレティシアが駆け寄り手ひどい傷を受けている二人を治療しはじめる。
「あんまり無茶しすぎるのよくないネ」
「うっかりしたら重症になってたかもしれないんですよ?」
「お手数おかけします……」
「まーでも勝ててよかったですよ。これでお二人の恋も実るといいーですけど」
 ウチュージンの言葉に、周囲のヒールに回っていた爽は興味を示したように話へと割いってくる。
「二人とも無事に終わったみたいだしこんど宝石とか見せてもらいにきてみるかな、事件に関わった俺がいたら吊り橋効果とかもあるかもしれないし」
 冗談めかしていう、爽に対し、桐華は肩を竦める。
「人の恋路に首を突っ込むとどうなるか、自分でさっき見ただろうに……まあ、二人とも上手くいくといいんじゃない?」
 作業の片手間に花を咲かせる一団とは別に、ガルソもまた周辺の被害を修復しつつ、一人悪態を吐いている。
「まったく、骨のない奴だった……ん?」
 敵の不甲斐なさにそう漏らす彼の視界に入ったのはモザイクが転じて発生した宝石の弾丸。
「これだけ消えずに残るとは……しぶとさだけは一人前か?」
 言葉と共に彼はその宝石を踏み砕く。それは砂のように崩れ去ると、風に乗りどこかへと消えていく。
「次はもっとましなやつに会えるといいんだが」
 言葉は春の暖かい風にのり消えていく。
 彼らの想いがかなうのかどうか、それは定かではないが。
 春は出会いの季節、敵か味方か、いずれにせよ、彼らがケルベロスである以上出会いの場、というものに困ることは恐らくないだろう。

作者:雨乃香 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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