星霊戦隊アルカンシェル「菫」

作者:成瀬

「ちょっと地味過ぎじゃない? もっと派手に殺して殺しまくって、グラビティ・チェインを集めたいのに。私はそっちの方が好きよ」
「確かにそれも悪くはない。だが戦いには敵が必要だ。ケルベロスと戦うのは今ではない。奴らが俺達の存在に気付き、攻撃を仕掛けてからでも遅くはない」
 チームの紅一点のスターローズをスターノワールが宥める。
「そうそう。今回の任務を忘れちゃいけない。優先すべきはオーズの種の回収さ。ケルベロスと戦う必要なんてないよ。……襲撃がない限りはね」
 チームの参謀を担うスターブルーが頷く。
「はいはい、わかってるわよ。あれね。もう見つけたわ」
 スターローズがオーズの種を発見したと仲間に報告すると、スタールージュが指令を出した。
「グラビティ・チェインを注入するぞ。皆、グラビティを高めてくれ」
 スタールージュがそう言うと、他のエインヘリアル達の鎧も輝きを帯びる。その光は集められ、黄色の鎧をまとうスタージョーヌのバズーカへ吸い込まれていく。
「おっけー。いい感じ。ほな、いきまっせー!」
 バズーカ発射。
 静かな夜の公園に轟音が響き渡り、地面から巨大な攻性植物がするすると現れた。 

「お疲れ様。さっそくだけど、オーズの種関連の依頼よ」
 チョコレート菓子を一つ食べ終えて、ミケ・レイフィールド(サキュバスのヘリオライダー・en0165)は話し始める。
「かすみがうら市から飛び散ったオーズの種回収。これを五人組のエインヘリアルが始めてるらしいの。方法は不明だけど地下に眠るオーズの種の居場所を特定し、大量のグラビティ・チェインを与えて強制的に発芽させてるわ」
 発芽したオーズの種は全長七メートル程の攻性植物となるが、発芽直後に『オーズの種の部分』をエインヘリアルによって奪われてしまう。
「種を回収したエインヘリアルは撤退するけど、攻性植物は残ってしまう。奪われた種の分のグラビティ・チェインを急速に回復しようと、一般人を虐殺して回るでしょうね」
 攻性植物の戦闘力はかなり高いが、中枢のオーズの種を奪われているので耐久力は高くない。グラビティ・チェインを新たに補給する前に戦えれば、勝てるチャンスは十分にある。
「現場は夜の公園で、倒してもらうのはスミレの攻性植物よ。花は淡い紫色していて綺麗だけど……今回のは馬鹿でかいし強いわ。油断は禁物よ」
 攻性植物は一体のみで配下はいない。全長は七メートルほどで戦闘力は高いが、ダメージを受けた状態から接触して戦いが始まるので耐久力は低くなる。
「夜も遅い時間だし、人払いは要らないわ。障害になりそうな物も特にないわね。外灯もちゃんとあるから心配しないで」
 スミレの攻性植物は赤い光で惑わせて来たり、青みを帯びた触手を絡みつけて攻撃してくる。紫色の光で自らを包み込み、回復と異常状態に対する耐性をつけることも頻度は低いがある。
 唇に指で触れ、ミケは心配そうな表情を浮かべる。
「現時点で策も無くこの五体のチームに突っ込んでいくのは危険よ。現場に到着するのは、エインヘリアル達が撤退した後にした方がいいわ」
 どうか気をつけて、とミケはケルベロスたちに告げ頭を下げた。


参加者
目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)
リヴカー・ハザック(幸いなれ愛の鼓動・e01211)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
リリーナ・モーガン(グリッター家令嬢お世話役・e08841)
ツヅラ・ロクドー(お狐さま・e13713)
エルナ・マイゼンブーグ(宵闇の華・e16209)
ヴィオレッタ・スノーベル(不眠症の冬菫・e24276)
アレキサンダー・フォークロア(暴走系戦娘・e24561)

■リプレイ

●夜の公園にて
 陽は昇り、過ぎては沈んでゆく。
 同じ世界。けれど万物を照らす大きな光が無いというだけで、世界はがらりとその表情を変える。本来ならば、静寂と眠り、そして闇の時間帯。光に引き寄せられるように、外灯には羽虫が集まっている。
 話し合いの結果、ケルベロスたちは星霊戦隊アルカンシェルが立ち去った後、例の公園へ足を踏み入れることにした。目的は分からないが鬱陶しい連中だと目面・真(たてよみマジメちゃん・e01011)が闇の向こうを鋭く見つめながら言うと、ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)もこくりと頷く。
「見逃すのは癪だが、仕方があるまい」
「そうだね。作戦無しで正面から遣り合っても、勝てる可能性は低い。けど、……倒すべき敵がいるのに黙っていることしか出来ないなんて」
「僕も今のままじゃ駄目だって思ってるよ。あの五人を放っておいたら、たくさんの人が傷付いて、笑顔をなくす人が増えると思うんだ」
 ケルベロスだけでなく、ごく普通に暮らす戦いとは縁遠い人々の笑顔もエルナ・マイゼンブーグ(宵闇の華・e16209)にとっては大切なものだ。皆の笑顔を守りたい。その想いを胸に秘めてぐっと手を握る。
「五人組のエインヘリアル……デウスエクス一体でも強敵なのに。うかつに手を出せないです。要注意なのです」
 今回相手にするのは例の五人組ではなく攻性植物一体。それでも危険は伴うが、大成功で終えて『ママ』に褒めてもらうのだと、アレキサンダー・フォークロア(暴走系戦娘・e24561)は此処にいない存在を思い出す。
「正しいことをするのにも、力が必要なんだね」
 真はルージュに視線を合わせ、ほんの数秒だけ唇を閉じる。正義、と心に浮かんだ二文字と、今現実にあるルージュの金の瞳。
「……なに、今だけさ。このツケは後で10倍返しにしてやる」
 ひらりと片手を上げて、先立った真が不敵な笑みを口元に浮かべた。
 いつもならもう寝支度を始めてもおかしくない時間ゆえか、ヴィオレッタ・スノーベル(不眠症の冬菫・e24276)は眠そうに目元を幼い指で擦る。
「抹茶は眠気覚ましの薬じゃよ?」
「ありがとうございます、ツヅラさん。いただきます」
 持参していた抹茶をツヅラ・ロクドー(お狐さま・e13713)はヴィオレッタに振る舞う。
「ちょうど人気のない時間帯だったのは、さいわいです。菫さんとたたかうのに、集中できそうですね」
 エインヘリアル五人が立ち去ってから公園にやってきたリヴカー・ハザック(幸いなれ愛の鼓動・e01211)たちは夜ということもあり、どの方向へ五人が去って行ったのか、バズーカをどう扱っていたのかは知ることはできなかった。
(「さても今回は見事に女性ばかり。姫君たちに恥ずかしくない姿を見せねば」)
「……様。ハザック様」
 術士としての視点からリリーナ・モーガン(グリッター家令嬢お世話役・e08841)が敵の動向を探るも現段階では有力な手がかりは見付けられない。二度ほどリヴカーの名前を呼び、現実世界へ意識へ引き戻そうとする。
「聞けば例の五人組はなかなかの強敵。実際刃を交えるとしたらそれ相応の覚悟が必要になりそうですけれど。もしその時間を邪魔したのなら、申し訳ありませんわ。……一体何をお考えでしたの。」
「いや。美しい姫君たちを前にして、少しばかり緊張していただけだ」
「……姫君?」
「もちろん。君もその内の一人だ、リリーナ」
「ありがとうございます。ですが私、既に心に決めた方がおりますの」
 さ、参りましょう。とにこやかな笑みを浮かべリリーナが攻性植物に向かうと、小さく笑って肩を竦めたリヴカーも後に続いた。

●菫
 虫の音も静かな公園に生まれたのは菫の攻性植物である。紫色の花を含め全長は七メートル程もあり大小たくさんの触手がそれぞれ生き物のように蠢いてグラビティ・チェインを求めている。中枢であるオーズの種を奪われている為耐久力はそうないが、強敵であるのは間違いない。
「レキ行きま~す!!」
 戦いの始まりを予感したアレキサンダーが声をあげる。
 長く太い触手がぐにゃりとそのかたちを変え、地面を舐めるように先端を引きずり前衛の仲間を飲み込んだ。ぱっくりとケルベロス数人を飲み込み身体を締め上げるが、単なるダメージだけでなくリヴカーとアレキサンダーへ催眠の効果を与える。
「生まれ落ちて早々に謂れもなく叩かれるのは不本意であろう。せめて楽に葬ってやろう。覚悟せよ!」
 不可視の楔を得物に纏わせた真が後衛へ鉄套(アイロニー・コート)を使い、ブレイクの力をも授ける。
「諸君。黒鉄を纏いて、いざ往かん!」
 余裕のある軽い口調ではリヴカーだ。
「折角咲いた花を散らさねばならんとはな……」
 だがその一撃は決して軽くない。込められた螺旋の力は掌に渦となり、攻性植物となった菫の触手に少し触れるだけでその一本が弾け飛び、地面に当たってびくびくとのたうち回る。
「言葉があるのなら聞いてみたい。……君の正義って、何だい」
 螺旋掌の一撃によって生まれた隙をルージュは見逃さず連携へ繋げ、ハウリングフィストを繰り出す。問いかけてはみるも、無論植物から応えはない。それでもルージュに落胆の色はなかった。追い続けていればいつか得られると思っているがゆえ。他人の正義ではなく、己の正義を。
「さて皆様、業腹ではありますが後始末と参りましょうか」
 リリーナの連れたオルトロスもディフェンダーとして戦いに参加している。
「いくわよ、アーサー。この炎……植物なら良く燃えそうね」
 ドラゴンの幻影が放たれ触手を焼き焦がす。
「ははっ、それは面白い。このまま真っ白な灰にしてやろうぞ」
 間を置かずに宙に爆発が起き、ツヅラの起こした爆風がアレキサンダーたちの髪を乱暴に撫で士気を高める。かけられていたアレキサンダーの睡眠が解かれる。
 紫色をした菫の花が揺れる。
 ただ自然と違うのは、夜風に優しく揺れるのではなく、意思をもって不気味に動いているということ。
「くっ、……!」
「真、大丈夫?…って、うわ……ぅ、……」
 真の胴に絡みついた蔓が巻きつき、腕や首にも伸びて自由を奪う。もう一本、忍び寄った蔦がエルナを襲い豊かな胸元にも食い込んできゅっと締め付ける。外そうともがいても蜘蛛の巣にかかった蝶々のよう。もがけばもがく程、肌に赤い痕が付くばかり。
 エインヘリアルによってオーズの種を奪われ耐久力が下がったとはいえ、たくさんの触手から繰り出される攻撃はどれもダメージが大きい。
「長引かせるとまずいな……、私は私の出来ることをするとしよう」
 破壊に徹していたリヴカーは必要だと判断しシャウトを使う。揺らいでいた意識をはっきりとさせ、負った傷を癒す。
 後ろに陣取ったケルベロスたちを容赦なく飲み込んだ菫は、勢い良くその身体を吐き出し地面に転がす。
「……あ」
 リリーナの持つ騎士のぬいぐるみも土埃に汚れるが、それを見た瞬間すっと空気が変わった。表情が消え失せ、重苦しく、研ぎ澄まされた殺意が菫へ放たれる。地面についた膝を立てて立ち上がるも傷の痛みに呻く声は無い。敵は目の前だ。することは簡単。始末する。それだけだ。
「さあさあ、どんどん行くよ!」
 場の暗くなりかけた空気を明るく吹き飛ばすようエルナが威勢の良い声を出す。ドラゴニックミラージュを放ち、触手の数本を炎が抉り焼き捨てた。辺りに白い煙が生まれ、さあっと地面から夜風が流していく。
 クラッシャーへの催眠対策に気を配っていたツヅラだが、自分の回復はやや遅れたようだ。気がつけば意識に霞がかったような感じがして、ブレイブマインを構成植物にかけていた。
 ヴィオレッタの手には魔道書、もう片方の手には鎌が。
「同じ『菫』として、菫さんに虐殺なんて断じてさせないのです」
 人の身と花、器は違えど持つ名は同じ。花の紫色をじっと見、ヴィオレッタは慈愛と決意の込められた声を紡ぐ。此処でケルベロスが敗北してしまえば、街に移動した攻性植物は人を虐殺してまわりグラビティ・チェインを集めるだろう。それは何としても、阻止しなければ。手にした鎌を後ろへ引いて勢いをつけ、回転させながら攻性植物へ投げつける。鋭い鎌の刃で触手の先端がずたずたに切り裂かれ、それを見届けて鎌は主であるヴィオレッタの手元に正しく戻って来る。
「この仕事が終わったら、たくさん褒めてもらうの。……ママ。レキは頑張って、壊して倒して綺麗に片付けて帰るのです」
 触手の何本かが炎に包まれているのを見遣り、アレキサンダーは攻撃をヴァルキュリアブラストへ切り替える。両肩を抱くように背を丸め、光の翼を自らの意思で暴走させ頭から爪先まで、全身をきらきらした光の粒子へ変え姿勢を低くして突撃をかける。闇夜に、光が舞う。

●炎
「煎兵衛、仕事の時間だ!」
 ナノナノの名を呼び、ちらと後ろを振り返った。
「傷ついた諸君になのなのバリアを使うだけの簡単なお仕事だ。しっかりやれよ」
 主の声を受けて煎兵衛はヴィオレッタの前に淡い光で防御壁を形成し、敵からの攻撃に備えダメージを回復させる。
「……苦しいか?」
 ぽつり、と。唐突に零れた一つの問い。
「お前に心があるかは私の与り知るところではないが、せめて手早く終わらせてやろう」
  雷の霊力がリヴカーに集まり繰り出された突きが大きく深く、攻性植物の太い触手に潜り込む。大きな手応えを感じた。
「――この虚しい宴を!」
 手に力を込めて触手から武器を抜き取り、細かい植物の破片をリヴカーは振り払った。頬についた緑色をした汁を指の腹で拭う。
「さあ……いっておいで、わたしのかわいいひつじさんたち!」
 普段は少し眠そうかもしれないが、今夜の冬菫は大真面目。開かれた魔道書から出て来るのは、ふわふわもこもこ真っ白な羊たち。手触りも良さそうだがただ可愛いだけではない。次々と攻性植物に跳びかかりまとわりつき、動きを妨害する。邪魔そうに触手が動いて白い羊たちを払おうとするが、とても全ては払えそうにない。攻撃の手が伸びるも、羊たちが邪魔するせいでヴィオレッタには届かない。動く度に、炎が大きくなって触手自身を焼いた。
「レキの翼が言っている。お前はもう……助からないと……」
 深き冥府より呼び出された冷え冷えとした気がアレキサンダーの手を包み込み、それ自体を一つの武器と化す。自分より遥かに巨大な攻性植物を前にしても恐怖の色はアレキサンダーには無い。地を蹴って走り距離を詰め、胴体へ手刀を叩き込む。
「スミレの花は美しいものですが……成程【デカけりゃいいってもんじゃない】とは真理ですわね。威圧感を放つ花など燃やし尽くしてくれましょう」
 ブレイズキャリバーの魂を元に構築されたリリーナ独自の魔術。
「名も知らぬ地獄を纏う者……今こそ、その魂を燃やしなさい」
 発動と共に地獄で構成された鉄塊剣が飛んでいくも、触手は動きを読み刃を避ける。理の力を攻撃に使い続けたせいか集中が途切れてしまったのかもしれない。
「こういう派手な術は苦手なんじゃが……!」
 闇夜に炸裂するのは色の爆弾。爆風がエルナの背後を飾り、力を与える。
「煙幕はおまけじゃが、反撃の狼煙ってやつじゃ! ここでけりをつけてやろうぞ!」
「ナイスだよツヅラ! それじゃあ僕もどんどん燃やすよー♪」
 炎を回復しきれていない攻性植物へエルナのドラゴニックミラージュが炎を重ね燃え上がらせる。赤い、赤い炎が広がっていく。
「―――届かせてみせる、皆の正義のその刃を」
 炎が生み出した死角から素早くルージュが飛び出し、朽紅の抗戦(クラッシュ・オブ・リベリオン)で敵にトドメの一撃をさす。正義に焦がれた身が最後に向かうのは破滅か、或いは――。蒼き正義は炎となって、狂い咲いた菫を散らす。炎に蕩けて落ちた花弁が灰となり、やがて攻性植物は最初から存在していなかったかのように、その姿を消した。

●眠り
「やったね! 僕らの勝利だよ!」
 ケルベロスたちの負った傷は深いが、立ち上がれぬ程深い傷を負った者はどうやらいないようだ。エルナが勝利を喜び、自分も傷を負いながらも仲間たちに笑顔を向ける。
(「まだ、きっと。始まったばかりなんだ。僕の道は。……道にもなっていない大地だけど、構わない。僕が歩けば、それが未来に繋がる。そう、信じたいんだ」)
 僅かに燃え残った菫の花をルージュは拾い上げるが、儚く崩れ灰となり、指の間から落ちてしまった。自分が抱き追い求めている正義のかたち。はっきりとカタチをもたないそれは、もしかしたらこんな風に脆く崩れやすいものなのかもしれないと、そうルージュは思う。肯定か否定か。答えはいつでも、その手の内にある。
「さてと。少し壊れたところもあるようじゃの。皆が探索しやすいよう、わしはヒールにまわるとするか」
「あの、ツヅラさん。私も。ヒールをお手伝いさせてください」
「うむ。じゃが無理をするでないぞ」
「二人ともオツカレサマ。オレもやるぜ」
 ぱんっと手を軽く叩いて土埃を落とし、肩を軽く揉み解し真が手伝いを申し出る。
(「悪く思うな。オマエの犠牲は決してムダにはしない」)
 撃破した菫はもう元には戻らない。オーズの種さえ植え付けられなければ、今頃は綺麗な花を咲かせ公園にやって来る人々の目を楽しませていたかもしれない。
「そういや連中は種を持ち去ったんだったな。何か手掛かりになるものがあればイイんだが」
 公園の柵や外灯、地面にヒールをかけて出来るだけ元の正体に戻してしまうと、アレキサンダーやルージュ、エルナも一緒に周囲の探索を始める。
「何かあるかなー♪」
「こっちも探してみるのです。これもケルベロスの大事なお仕事なのだ」
「……残念だけど、見たところ特に変わったところはないようだね」
 手分けして公園内や攻性植物のあったところを調査してみたが、戦いで少し地面が侵食された程度、それもツヅラと真が綺麗に修復済みだ。
「焼却完了、皆様お疲れ様でした」
 敬愛する主たる『小さな騎士』に任務完了を胸中にて告げ、リリーナは仲間を労う。小さな騎士を傷つけられそうになった時の純粋な敵愾心と殺意も今は胸の奥、表情も凛々しく纏う空気も戦いが始まる前に戻っている。
「……ほっとしたら、眠くなってきました……」
「もう寝る時間だよ。一緒に帰ろっか。今夜はぐっすり眠れそうだよね」
「菫さんは……せめてゆっくり眠って欲しいのです。もう、大丈夫だから」
 小さく欠伸をしてヴィオレッタは願いを込めて一度だけ振り返り、エルナや他の皆と帰路につく。
 仲間が去った公園で一人、リヴカーは菫のあった場所に立つ。
「幸いなれ菫の花。今は眠れ。――願わくは次の春、また逢おう」
 安らかな眠りを。そう願い去るリヴカーの背に、春の柔らかで優しい夜風が吹き抜けて行った。

作者:成瀬 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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