渦巻く陰謀

■リプレイ

●今は、まだ……
　ケルベロス達のほんの数百メートル前で、エインヘリアルの部隊『アルカンシェル』は、彼らの言う所の任務を行っていた。
「ひのふの……ふむ、ちと分が悪いか」
　色取り取りの戦士達の数を数えては、星喰・九尾（星海の放浪者・e00158）が呟く。
　アルカンシェルは5人、此処に集ったケルベロス達は８人だが、デウスエクスとの勝負は数では無い。
　内包するグラビティが戦闘力と直結する。
『アルカンシェル』が精鋭である以上、数の有利など無いに等しい。
「しかし……アルカンシェル、悔しいな」
　ベルンハルト・オクト（鋼の金獅子・e00806）が、その幼い容貌に似合わず、大人の表情でアルカンシェルを睨む。
「奴らの会話から何か分かればと思ったが、これ以上距離を詰められないしな」
　ケルベロス達は、アルカンシェル撤退後、作戦に移ることにしていた。
　いくら、アルカンシェルが油断しているとは言え、これ以上近づけば気付かれてしまうだろう。
「仕方ありません。敵の思うまま、と言うのは癪ですが、現状……勝利は難しい以上、それ以上の被害を出さぬように動くしかありません。余分な被害を出さない為に、精いっぱい努めましょう」
　アンダーリムの眼鏡の奥の瞳を細め、林崎・利勝（紺灰の斑・e03256）が言う。
「それにしても、彼らの目的がいまいち分からないな」
　女性らしさをそぎ落としたような服装の、リコリス・バラン（流浪の剣士・e13074）が疑問を口にする。
　彼らのやることは単純だ。
　オーズの種を抱えた攻性植物にグラビティ・チェインを注ぎ活性化させ成長を助長する。
　そして、成長した攻性植物から『オーズの種』を奪い去る。
　良からぬことを企んでいることは、間違いないが、それがどう言う結果をもたらすのかが分からない。
（「アルカンシェルとも戦ってみたかったが、自分一人の我が儘で皆を危険に晒すわけにもいかないからな」）
　強者との戦いを喜びと感じる、リコリスにとっては、アルカンシェルとの戦いの機会を逃すと言うのは残念でもあったが、そこに危険がある以上自分の我も通せない。
　だが同じ考えを持っている者は、他にもいた。
　桃色の髪の愛らしい少女、籠夢・契（ちぎりどっとこむ・e22910）だ。
「うー、敵がいるってわかってるのに出ていっちゃいけないのねっ！　我慢我慢っ！　忍耐が大事よっ、ちぎりっ！　ファイトっ！」
　契は、先程から必死で自分に言い聞かせるように『我慢』を口にしている。
「口惜しいが今回は見逃すしかないのぅ」
　オルファリア・ゲシュペンスト（ウェアライダーの巫術士・e23492）も同じ思いを抱えていた。
　災厄を振りまくであろう、デウスエクスがすぐ側に見えていながら、戦いを挑むことが出来ないのだから。
「色モノ戦隊がグラビティ・チェイン放ったぜ。奴らが行ったら、攻性植物を仕留めに行くぜ」
　竜派ドラゴニアンの辰・麟太郎（剣花角・e02039）が低い声で言う。
　すると、目の前で起こる地鳴り。
　そして、大地を割って空へ伸びゆく攻性植物。
　次の瞬間桃色の戦士が踊る様に、攻性植物に蹴りを入れれば、オーズの種が露出し、それを青の戦士が瞬く間に攻性植物と切り離す。
　オーズの種が切り離され、凶暴性が増した攻性植物を尻目に、アルカンシェル達は、もう用は無いとばかりに、夜闇に消えて行く。
「よし、行くぞ！」
　アルカンシェルが消えた途端、声を上げ飛び出したのは、三國・沙摩柯（風龍・e04293）だ。
　沙摩柯は、駆けながら、ドラゴニアンの翼、角、尻尾を表に出していく。
　空を勢いよく滑空しながら、沙摩柯が叫ぶ。
「待ちわびたぞ！　この時を！　喰らえ……」
　だが、勢いよくグラビティを放とうとした、沙摩柯は次の瞬間、攻性植物の緑色の長大な体での薙ぎ払いで地に落とされていた。

●攻めて攻めて攻めて
「もう、敵として認識してくれたみたいじゃのう。すまにゅがここから先に行かせりゅわけにはいかにゅのじゃ」
　オルファリアが、月の力を借りたヒールグラビティを沙摩柯に駆けながら、攻性植物『ゼンマイ』に言う。
「植物なら炎でよく燃えるかのぅ？」
　花魁下駄ながらも、揺らぐこと無く優雅に、竜の幻影を放つ九尾。
　もの言わず、静かに……だが、ゼンマイの命を刈り取る様に大鎌を投げつける利勝。
「根を崩せば、動きが鈍くならないかな……」
　呟きながら気を高め放つ、ベルンハルト。
　ケルベロスの攻撃にさらされながら、その頭頂に刺を生やし突撃してくるゼンマイ。
　だが、それをリコリスと相棒のウイングキャット、ミモザが体を張って受け止める。
「……行かせはしない。……そして私が盾となる！」
　言ってリコリスは、ゼンマイに炎の一撃を喰らわせる。
「あなたのお花は、咲いちゃダメたから、ちぎりが枯らせてあげるね？」
　契は語りかけるように優しく言うと、魔導書の禁断のページを開き、自らのグラビティを活性化させる。
「本気の潰し合いだ。かかってきやがれっ！！」
　麟太郎は、ゲシュタルトグレイブを水平に構えると、一気に駆け、稲妻を思わせる勢いで、ゼンマイを刺し貫く。
「私の力を恐れて一番最初に攻撃したか。そのまま恐れて死ねー！　剣竜！　倍ィィ、功夫ぅぅぅッ！」
　轟く程に叫ぶと、沙摩柯は、手足、尻尾、翼、角、己のありとあらゆる部位を使い、怒涛の連続攻撃をゼンマイに仕掛ける。
「沙摩柯に続くのじゃ。奴に反撃の隙を与えじゅ、速攻でかたぢゅけるのじゃ！」
　御業を炎に変え、放ちながら、オルファリアが叫ぶ。
　それを合図に、九尾の緑の捕獲者がゼンマイを襲い、沙摩柯の空をも断つ斬撃が薙ぎ、ベルンハルトの居合の一撃が奔り、麟太郎の音速を超える拳がゼンマイを穿つ。
　ケルベロス達は、この戦いに挑むにあたって、攻撃力特化の速攻チームで臨んでいた。
　その為、彼らの放つグラビティは、一撃一撃が重く、確実にゼンマイにダメージを与えていた。
　ケルベロス達の苛烈な攻撃が飛び交う中、契の声が辺りに響く。
「今宵この時気分は上々！」
　その契の声に応える様に、契の持つ魔導書から声が聞こえてくる。
『傅き召しませ機嫌は重畳っ！』
「私も」
『貴方も』
　契が楽しそうに踊りながら魔導書と掛け合いをすれば、グラビティから生成された巨大な功性植物が現れる。
「影も」
『暗闇も』
『『鏡合わせの向こう側っ！』』
　契と魔導書の声が合わされば、グラビティで生み出された功性植物は、ゼンマイに襲いかかり驚異的なダメージを与えると、霞の様に消えて行く。
「ミモザ、援護を頼む」
　リコリスは、相棒に一つ声をかけると、自らの掌を剣で裂き、剣に己の『毒』を宿した血液を纏わせる。
「密やかな蜜を、貴殿に」
　リコリスの剣は、ゼンマイに的確なダメージを与えられる部位を正確に串刺しにする。
　剣が生えた先は、リコリスの血が広がり紅の花が咲いた様だ。
「行けるぞ！　一気に叩き潰せ！」
　麟太郎が仲間達に言えば、ケルベロス８人のグラビティが集中砲火の様にゼンマイを襲う。
　速攻をやり遂げると誓ったケルベロス達は、勝利が近いと確信していた。
　その時だった。
　気付いたのは、遠距離攻撃に徹していた、利勝だった。
　戦闘中は開かない口を思わず開く。
「霧だ！」
　攻性植物に接敵していた者達の周りに霧が充満していた。
　利勝の言葉でその事に気付いた仲間達は、離脱しようとしたが、次の瞬間には、ゼンマイが発生させた霧は、グラビティと混じり合い、白く弾け、契、沙摩柯、九尾、ベルンハルト、リコリス、麟太郎、そしてミモザと契のビハインドまでをも包み込んだ。
　辺りが、静寂に包まれた。

●消え去るモノ
　白い霧が晴れ、オルファリアの視界にゼンマイが映った時、辛うじてリコリスが膝を付いているだけで、他の者達は皆、地に伏していた。
「オルファリア！　私はいい！　みんなの回復を！」
　リコリスが自分の回復を行いながら叫ぶが、追撃とばかりにゼンマイが薙ぎ払えば、リコリスは吹き飛ばされる。
「私が」
　オルファリアに一言だけ残すと、利勝が音速を超えゼンマイに接敵すると、炸裂音と共にゼンマイに一太刀を浴びせる。
「沙摩柯以外は、ヒールを持っておったはずじゃ。とりあーじと言うやつじゃ、すまんのぅ」
　オルファリアが苦い顔で、沙摩柯にヒールを飛ばす。
　今回のメンバーは火力を重視した。その代償とでも言えばいいだろうか、複数人を一度に回復出来るグラビティを用意して来た者がいなかったのだ……いや、一人だけいた。
「……此花捧げ奉る」
　麟太郎が力を振り絞り、刀の鞘を振り春風を起こす。
　すると、仲間達のグラビティが僅かばかり回復する。
「……やられているだけだと思うなよ。剣竜！　ばぁぁぁぁぁいィかんふぅーーーーーぅッ！」
　防戦一方になっている、利勝とリコリスを救援するかのように、沙摩柯が勢い任せに攻撃するが、ダメージが残っているのか生彩に欠ける。
　地に伏していたケルベロス達も、麟太郎のヒールの甲斐があり、それぞれのヒールグラビティとオルファリアのヒールで立ち上がる。
　だが全快には、ほど遠い。
「こんなの何発も喰らってられないよっ！」
　星の軌跡を描く蹴りを放ちながら、契が言う。
「奴も、瀕死の筈じゃ。一気に決めるのじゃ」
　九尾の言葉に、麟太郎が大鎌に『虚』を纏わせ、それをゼンマイに突き刺す。
「わしのとっておきじゃ。……血の盟約に従い、我が声に応えよ」
　九尾が絵巻物を生き物の様に広げれば、九尾の望む地獄が現れる。
「百鬼夜行絵巻物……八大地獄が一、焦熱地獄。地獄の炎で焼かれるがよい」
　絵巻物から現れた、尽きることのない地獄の炎は、ゼンマイを燃え上がらせる。
「何もかも消し飛ばす」
　迎撃機構のマイクロプラズマ砲を結束させると照準を定める、ベルンハルト。
　その言葉に、ケルベロス達が一斉にゼンマイから離れる。
「星屑へ還れ」
　放たれた砲撃は幾千もの粒子が凝縮され、光の帯は、ゼンマイを飲み込むと、音も無くゼンマイの存在そのものを消し去った。
「……やったな」
　そう言うベルンハルトは、砲撃の反動で転がり、近くの針葉樹の根元でへたり込んでいた。

●勝利の先
「ちぎり達の勝ちねっ！　ビクトリーっ！」
　攻性植物『ゼンマイ』が吹き飛んだ個所を覗き込んで、契がガッツポーズを決める。
「ここまで跡形もないと可哀想な気もしますね」
（「それにしても、デウスエクスのグラビティを得る為の手段も随分多様化してますね。感心する部分もあるんですが」）
　そんなことを考えて、利勝は一つため息をつく。
「この夜闇じゃ、アルカンシェルの痕跡を探すのは難しいな」
「そうだな。少しでも見つけたかった所だが」
　周囲にヒールをかけながら『アルカンシェル』の痕跡を探していた、麟太郎とリコリスだったが、夜と言うこともあり現状痕跡は見つからなかった。
「そろそろ、戻るとしようかのぅ」
「妾達は、着物故、少し肌寒いのじゃ」
　九尾の言葉にオルファリアが続ける。
「では、帰ろう！　次なる敵が私達を待っているからな！」
　沙摩柯が戦闘に立ってその場を去ろうとすると他の者達も続く。
　そんな時、ベルンハルトは一人立ち止まる。
「オーズの種……アルカンシェル……何事もなければいいが。……そうも言っていられないのだろうな」
　ベルンハルトが、一連の出来事の関連性に不安を感じる。
「奴らはアレを使い、何を企んでいるのだろうか……」
　その問いに答えられる者はおらず、言葉は夜の闇に溶けて行った。

作者：陸野蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年4月4日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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