薄紅の華は咲く

作者:のずみりん

 茨城県、牛久沼。
 かすみがうら市南西にある沼沿いの公園に深夜、五人の影があった。
『星霊戦隊! アルカンシェル!!』
 五人……五色のエインヘリアルがいた。
「……地味な任務よねぇ。私は、もっと殺しまくってグラビティ・チェインを集める方が好みなんだけど」
「お前のいう事ももっともだ、スターローズ。だが、敵がこなければ戦えまい。ケルベロスと戦うのは、奴らが俺達の存在に気づき攻撃してきた時でも遅くは無いだろう」
「ノワールの言う通り、今回の任務は戦闘では無く、オーズの種の回収だからね。襲撃が無い限りはケルベロスと戦う必要は無いよ」
「わかってるわよ、ブルー」
 黒、青に促され、桃が返事。慣れた様子のやりとりから、ほどなくして発見の報告。
「はい、見つけたわよ……あら、これ大丈夫? ルージュ」
「手ひどくやられたようだな……だが任務に問題はない。グラビティ・チェイン注入開始」
 ルージュと呼ばれた赤い戦士の合図に残り四人も追従、鎧が次々と輝きだす。
「皆、グラビティを高めるんだ! ジョーヌ!」
 輝きは黄色が構えたバズーカに集中。そして。
「ほな、いきまっせー……どっかーん!」
 桃の示した一点に放たれる強大な力。光が大地に吸い込まれると、禍々しい巨人のような攻性植物が公園に伸びあがり、花開く。
 その丈、7メートル。薄紅色をした攻性植物の幹には、歪んだ顔にも見える痣があった。
 
「かすみがうら市から飛び散ったオーズの種を、エインヘリアル部隊が回収し始めたらしい」
 茨城県の地図を広げ、リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)はケルベロスたちに言った。
 かすみがうら事変で不良を取り込んだ攻性植物と戦った花守・すみれ(菫舞・e15052)の予感は的中した。
 彼女が切りつけたオーズの種は破壊できなかったものの、少なくないダメージを与えていたようだ。
「場所は市から20キロほど下った沼沿いの公園。星霊戦隊アルカンシェルとかいうエインヘリアルたちは、何らかの方法で種の場所を特定し、大量のグラビティ・チェインを与えて強制的に発芽させようとしている」
 彼らは発芽直後『オーズの種の部分』を奪って撤収していくが、後には攻性植物が残される。この攻性植物は奪われたオーズの種のぶんのグラビティ・チェインを早急に回復しようとしており、放置すれば周辺市街の住民が虐殺されてしまうだろう。
「幸いというか……星霊戦隊アルカンシェルは攻性植物には関知しないようだ。ここは攻性植物だけでも倒し、事件を防いでほしい」
 攻性植物の戦闘力はかなり高いが中枢のオーズの種はない。発芽直後に戦えば撃破は十分可能なはずだ。
 出現する攻性植物は7メートルほどの巨大な植物だ。配下は持たないが、その侵食力は強大で、また分厚い葉を巨大な剣のように振るって周囲を薙ぎ払ってくる。
「種がないせいか耐久力はそれほどでもないようだが、一撃喰らえば此方も危険だ……やるかやられるか、短期決戦になるだろうな」
 それと、攻略の起点になるかはわからないが……とリリエは前置きして、自分の脇腹を指す。
「ちょうどこの辺に、痣だか痕だかになっている部分。守りが多少薄いようだ」
 ただし敵も防御を固めてくるかもしれない。狙うかどうかの判断は任せると彼女は話を締めくくった。
 
「星霊戦隊アルカンシェルが種を回収している理由はわからない……五人ものエインヘリアルと今、無策でぶつかるのも危険すぎる。今回はまず攻性植物による被害を食い止めてほしい。我々も調査は続けていく」
 歯がゆいが、少しずつ近づいていくしかない。そう言ったリリエの眉間にはしわが一筋。
「頼む、ケルベロス」


参加者
青泉・冬也(人付き合い初心者・e00902)
愛柳・ミライ(宇宙救済系・e02784)
羽丘・結衣菜(マジシャンエルフ・e04954)
イロハ・シャルフシュッツェ(銀燭の射手・e11591)
相摸・一(刺突・e14086)
花守・すみれ(菫舞・e15052)
ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)

■リプレイ

●その花は誰がために咲いたのか
 牛久という沼の地名は『牛を食う沼』に由来しているという。綺麗に整備された公園から見ても、暗く静かな深夜に沼を覗けば。なるほど。
『星霊戦隊! アルカンシェル!!』
 ……そんな情緒全てをぶち壊して登場する五人組に、青泉・冬也(人付き合い初心者・e00902)は何ともいえない表情で身を潜めた。
「……本当、見た目は戦隊物だな」
「誰の意図で動いているのやら。顔が見てみたいものだ」
 少し離れて隠れる刀傷の走る相摸・一(刺突・e14086)の表情もまた、飽きれ半分……残りは警戒半分。この距離ならば隠密気流のぶんを差し引いても大丈夫なはずだが、万が一はある。
 見た目はともかく、彼らは一騎当千のエインヘリアルなのだ。今ここで戦いになることだけは避けなければならない。
 やがてジョーヌがバズーカを放ち、薄紅の攻性植物が地面を割って飛び出してくる。それに動き出す暇も与えず、目にもとまらぬ速度でブルーが中心にあるオーズの種を奪い取った。
「グッジョブ! ミッション完了だ、帰還するぞ」
『ラジャー!』
 ルージュの締めで深夜の戦隊ショーは終了した。残されたのはオーズの種を奪われた攻性植物と、ケルベロスたち。
「方角は北西か」
「北西は……橋がありますね。渡った先は県道46号線に接続。つくば、かすみがうら、流山、どの方向にも抜けられます」
 星霊戦隊アルカンシェルの消えた方角を確認した一に、イロハ・シャルフシュッツェ(銀燭の射手・e11591)はアイズフォンから呼び出した地図を淡々と答える。
「……つまりはどうとでも逃げられるというわけだね」
「北回りだから常磐線……ってことはないよね。やることは的確だし隙はないし……厄介だわ、本当」
 手がかりを残すような慢心があればと様子をうかがっていた羽丘・結衣菜(マジシャンエルフ・e04954)だが、そう甘い相手ではないようだ。
 逆に言えば戦えば火傷では済まない事も間違いなく、さっさと消えてくれたのはありがたいかもしれない。咆哮し動き出す攻性植物にケルベロスたちはそれぞれの武装を構えた。
「……あるべきものを奪われた怒りなのか。それとも……心にぽっかり穴が空いたのを、埋めようとしているのか」
 愛柳・ミライ(宇宙救済系・e02784)は種のあった、抉られた後に思う。だが感傷はここまでだ。暴れ出す攻性植物をしっかと見据え、サーヴァント『ポンちゃん』の属性をインストールし、彼女は癒し手として戦場に立つ。
「フライアの夫たるオーズの名を冠せし攻性植物ですか。であらば、オーズの種子は差し詰めフノスとゲルセミとなりましょうか? 忌々しくもアスガルドの神々に連なる名……フノスを奪われしオーズには新たに子をもうける事無く散ってもらいましょう」
 地面を割って押し寄せる葬送形態めがけ、ツェツィーリア・リングヴィ(アイスメイデン・e23770)はブレードライフルを放つ。
 迫る草の波に氷結の螺旋が道を穿ち、それを貫くようにシュリア・ハルツェンブッシュ(灰と骨・e01293)のバスターライフルの火線が疾走した。
「お前が普通に咲いていたら、どんな色の花だったんだろうな……ま、どうでもいい事か。さぁ、骨の髄まで楽しもうぜ?」
 なんであの種が紅色の華をつけたのか。妖精弓を引き絞りながら、花守・すみれ(菫舞・e15052)はオーズの種を手にした少女の色を思い出す。
 攻性植物の脇腹、浮かぶ痣は泣いてるように見えた。

●種、災厄を芽吹くとき
「備えあれば憂い無しってね。余波で壊れる可能性は高いけど、必要でしょ?」
「ありがとうございます。置き照明はあって困りません」
 ランタンを地におろし、結衣菜は言い残して守りの位置に前進する。それぞれに持ち寄った手持ちの照明もあり、攻性植物はサーチライトに照らされるオブジェのようだ。
 目に相当する機関こそないが、眩しさは感じるのか。灯りを切り裂くように分厚い葉のブレードが斜め軌道で横凪に振るわれる。
「かすみがうらの時よりパワーが上がっている……!」
「この調子だと、あんまり保たないよ! 先に言っておくけど!」
 愛用のスプリングギターをかき鳴らしながら、ミライは冬也に叫ぶ。彼女もまたこれを生み出したオーズの種と因縁を持つ一人。
 すみれと共に種へと一撃を与えた彼女だったが、胸中は複雑だった。
『あの時、私がもっと頑張ってたら……今日、こんな事件は起きなかったのか、な』
 どうしても考えてしまう。今の攻性植物を見るに、行動は無駄ではなかったはず。でも、だが、もしかして。
「……生きるって、なんだ! 罪って、なんだ! そんなのわからない、けど!」
 振り切るように『ライフリンクスター☆』をミライは歌う。
 ブラッドスターが生きる罪を肯定する歌ならば、きっとこの歌は生きることを諦めるのを肯定する歌。みんながつながっている限り、それでもきっと大丈夫だと。
「サンキュー、これでまだまだ遊べそうだ、ぜっ!」
 歌声にみなぎる活力でシュリアは肉薄する。癒しきれてはないが殴り合うには十分、宙を跳んだ彼女はゲシュタルトグレイブを勢いのままに突き立てる。
「はぎとって、やるぜ!」
 深々と刺さる手応えを感じ、柄を踏みつけて切り裂き抜く。
 血とも樹液ともつかない液体を噴出させて幹が枝葉ごと抉られる。名状しがたい、獣か何かのような声を攻性植物は叫んだ。
「射線確保。撃てます」
「……今!」
 巨体が身をひねった瞬間、二人の狙撃手が矢を放った。蜘蛛脚にも似たアームドフォート『CPC-X015』からの一斉砲撃と、それを追いかける妖精の矢。夜の闇に瞬間、美しいレーザーアートのような軌跡が浮かんだ。
 無数の始点から全てのラインが辿り着く先は一点、攻性植物に浮かんだ痣のみ。閃光が消え去った後には爆発、絶叫。
「効果判定……目標、未だ健在」
 淡々と分析するイロハだが、その胸中には友人の言葉があった。彼女自身は初対面の相手だが、かすみがうらで交戦した友人の為にも、取り逃すことは絶対できない。
「なら、もう一度!」
「そう容易くはさせてくれないようです……!」
 ツェツィーリアが警告。ブレードライフルにナイフを構えるのと、地面が爆発するのはほぼ同時。
「氷の華咲きて葉は落ち、枯れ果てるは相思華が如く……いっそ楽園樹ではなく天蓋花を名乗られては如何?」
 再びの葬送形態。皮肉交じりに侵食者を狩るツェツィーリアだが、数があまりに多過ぎる。
「ツェツィーリアさん!」
 結衣菜の放った守護の御業がかろうじて彼女に装甲を施す。だが、これもいつまでもつか?

●それを狩るのは何か
 歌が途切れた。
「ごめん! 回復追いつかない……!」
「ミライさん! 無茶だよ! 一緒に帰るんでしょ!?」
 友の声にもとまらず、押し寄せる葬送形態の圧力をかき分け、ミライは血塗れた手でギターを弾く。
 被害は甚大、全てを癒す力はもうない。だから彼女は残る力……自分の気力とサーヴァントの属性を二人の護り手に託した。
「私は大丈夫……何があっても、君だけは守るの!」
「ロックだねぇ……キライじゃねぇぜ、そういうの!」
 ツェツィーリアとの同士討ちを危うく裂けたシュリアは、自身を目覚まさせるように咆哮した。血と樹液でまだらに染まった灰色の髪を振るい、バスターライフルを乱れ撃つ。
「まだ足りねぇってなら力技だ! もっとキツイのはねーのか!?」
「あります。精密射撃モードを準備。出力は低下していますが、精密性に特化しています……!?」
 説明と準備ををまたず、地面がめくりあがる。もう一撃を喰らうつもりはないとばかり、緑の津波が手足を浸食。
 レプリカントの意志を催眠し、開かれた咆哮がケルベロスたちを向いた。
「く……間に合え!」
 冬也が走る。駆ける。最後は飛び込み、『可変式攻防光盾』をはめた腕を力の限りに伸ばす。
「冬也さん!?」
 光が激突する瞬間、すみれはサキュバスミストを放った。
 倒れ込む冬也。
 催眠を振り払ったイロハが、精密射撃モードのコアブラスターを痣めがけて偏向させる。
 弱点への三撃目に貫かれながら、攻性植物の葉刃が振るわれる
「フィナーレ、よろしく……!」
 鉄塊に匹敵する一撃をグレイブと剣の変則二刀で庇い受けた結衣菜のバトンタッチに、一は既に動いていた。
「柄ではないがな……仕留める」
 掌底のように強く突き出した縛霊手からの網が攻性植物の太い幹を締め上げ、バキバキとへし折っていく。最後の抵抗を試みる攻性植物の懐へ、緑の津波を突破したツェツィーリアがライフルを突き立てる。
「これより招くは黄昏の訪れるを告げる大いなる冬。実りなき花は徒花となりて枯れ果てるが定め。さぁ、来たれ来たれ、冬来たれ。ステップ刻みて冬来る。我が舞踏は汝が鼓動――」
 ライフルと分離したナイフを左右に構え、唄うような詠唱と共に怒涛の銃撃、斬撃の乱舞。打ち砕かれた大波のごとく、巨木の色が舞い手の周囲に雨と降った。
「これで手も足も出なくなったろ……最初からありゃしねぇか……」
 地に倒れたシュリアは頭上を駆けた一筋の光に笑う。その輝き、すみれの放った電光の如き矢は今度こそ痣を貫いた。

●まず、ひとまずの終焉を
 終われば、満身創痍であった。
「最後はちょいとあっけなかったけどな……パンチは効いてたぜ、オーズさんよ……ッ」
 血を吐くシュリアを助け起こしながら、イロハは攻性植物だった残骸を見てかすかに安堵する。
「目標の完全破壊を確認……良い報告を持ち帰れそうです」
「あぁ。だがまだ、終わりではなさそうだよ」
 ほっとした空気。だが、一は自らを戒めるように言う。今回の敵もオーズから切り離された一部にすぎず、種本体は例の星霊戦隊なる連中の手中に消えてしまった。
 彼が遠く眺めたのは湖越しの更に先、かすみがうら市の方角。
「長い因縁のようですね」
「最初は不良の小競り合いだったのがね……ま、事態がどう転ぼうと、とことん付き合うよ」
 イロハに頷き、一は淡々と言って見せる。拠り所たる主人と日々を守るためならば、と。

「手がかりになりそうなのは……ないかな」
 輝きの消えたランタンを取ろうとした腕がきしむ。ダメで元々ではあったが、結衣菜は戦いの痛みにため息をついた。
 この様子ではオーズの騒動はまだまだ続くだろう。
「確実なのは星霊戦隊アルカンシェル……エインヘリアルの手元にオーズの種が渡ったこと。エインヘリアルが種の使い方を知っているであろうこと、ですか。被害は防げましたが、騒動はまだまだ続きそうですね……」
 冬也が地面から拾い上げたのは攻性植物の欠片。表皮と思われる薄紅の樹皮には、半分に割れた痣があった。
「あのときは助けてあげられなくてごめんね。どうか眠って」
 祈るように目を閉じるすみれ、彼女に支えられて横たわるミライの心も重い。因縁の事もあるし、うまくできない自分が辛い。
 癒し手という戦い方を選びながら、皆を助けるために癒しを施しながら、有限の力に取捨選択を迫られる。もっと力があれば。もっと頑張れたら。もっと、もっと……
「無茶は、ダメだよ……ミライさん」
 灯りが遮られる感覚にミライが見上げると、すみれが彼女を覗き込んでいた。
「私たちも同じになっちゃうよ……」
 すみれは思う。オーズの種は人の攻撃性、欲望に宿るのではないかと。限りなく求める事は、かの敵へと近づくだけなのではないかと。
 言葉では言い切れず、少女は友をそっと抱きしめた。

作者:のずみりん 重傷:青泉・冬也(地球人の鎧装騎兵・e00902) 愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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