強盗を働く月華衆の少女

■リプレイ

●月華衆の能力とその目的
　広島県までやってきた８人のケルベロス達。
　時間は深夜。暗がりの中、一行は目立たぬように歩みを進める。
「やれやれ、随分と嫌らしい手を使って攻めてくるね」
「なんというか、やってる事が普通の強盗ですねぇ」
　これだから、忍者ってやつは。シェイ・ルゥ（虚空を彷徨う拳・e01447）は笑みを浮かべながらも悪態づく。佐藤・みのり（仕事疲れ・e00471）も、やや気だるげに本音を漏らした。
　盗みを働くデウスエクスですかと、弥生・春花（手裏剣大好き・e23829）も長考してから言葉を出す。
「人が殺されてしまうよりはましですが、人々に害をなしていることにかわりはありませんので、倒させてもらいましょう」
「そうですね、被害にあった店主さんが可哀想なので、きっちりと対処しましょうか」
　春花の考えに、みのりも同意していた。
「あんまり有益な情報は集められたくないけど……。戦わないわけにもいかないね」
「そうか？　技を真似るという螺旋忍者。その力はどれ程か、興味あるがな」
　ヴィットリオ・ファルコニエーリ（残り火の戦場進行・e02033）は倒すべき敵がいるからといった理由でこの依頼に参加しているが。ミーシャ・スクェーニ（藍槍騎士・e24383）などは今回現れる螺旋忍者の能力に、腕を鳴らしている。
「厄介な能力を持った敵のようですが、能力を先に知っていれば対策出来るはずです」
　撫子桜・千夜姫（双刃一体・e12219）はだからこそ、対策を練っていきましょうと仲間に促す。ただ、彼女もまた、敵の行為には呆れていた。お金が欲しいなら、ちゃんと仕事に就いて働きなさいと。
　そんな千夜姫はどこかの忍者戦隊をリスペクトし、移動販売のクレープ屋の店長をしている。できるなら、可愛らしい衣装を着て、普通の女の子のように恋愛してみたいと憧れる、ちょっと哀しい２３歳である。
「しかし……、手に入れた軍資金をいったい何に使うつもりだ？」
「活動資金目的です？　それにしても、やる事がセコい気がしますが……」
　ミーシャもみのりも、敵の目的を考える。予知では、活動資金の調達とケルベロスの戦闘能力の分析だという。
「月華衆……。ケルベロスの情報を集めて何を企んでるんだろう」
　それに、月華衆に指示を出すスーツの女性は何者なのか。
　考えていても仕方はない。メンバー達は目の前の事件をまずは解決しようと、目的の金券ショップの前へとやってきたのだった。

●こそ泥に奇襲を！
　さて、ケルベロス達は金券ショップの周りで待ち伏せを行う。
　深夜で人気はないが、念の為、カロリナ・スター（喫煙所の守護天使・e16815）が周囲を見回して、一般人がいないか確認する。
（「甲ノ脱出経路ニテ警戒待機……」）
　その上で、九六九六・七七式（フレンドリーレプリカント・e05886）を始めとして、敵が店の窓を割って出てきたタイミングで取り押さえる作戦だ。
　みのりもややだるそうにしながらも、敵の出現を待つ。
　程無くして、メンバー達は店に立ち入る黒い影を目にする。ただ、ここで捕らえるわけにはいかない。今はじっと待ち、敵自らが警備を呼ぶまでは……。
　けたたましく鳴り響く警報。敵が警備の網にかかったのだろう。すぐに、店の窓を突き破って風呂敷を背負った少女が飛び出してきた。
「御用だ御用だ！」
　叫びかけるヴィットリオ。これが日本の習わしと思っている彼の知識はちと古いと言わざるを得ない。
　その間にも、カロリナ・スター（喫煙所の守護天使・e16815）と春花が奇襲をかける。
「キミにボクのグラビティがコピーすることが出来ますか」
　カロリナが真っ先にマインドリングから光の弓と矢を具現化し、矢を番える。
「天に滅せよ！！」
　撃ち放つ矢は魔弾となって少女を襲い、追跡した上で彼女を貫いた。
「少し止まってもらおうか」
　手裏剣を激しく擦って電気を発生させ、春花はそれをグラビティ・チェインの力で増幅させて投擲する。刃を受けた敵は体に痺れを覚えていたようだ。
「どうも、春花です」
　そうして奇襲を行った春花は、敵に向けてぺこりと頭を下げて挨拶した。
　だが、敵に休まる暇はない。シェイとミーシャもまた襲い掛かっていたからだ。
　シェイは鋼鉄と化した爪で少女を薙ぎ払い、ミーシャは上空から光の翼を暴走させ、全身を光の粒子へと変えて特攻する。
　連撃を浴び、少女は体勢を崩しかけたが、すぐに構えを取り、螺旋の仮面の奥からじっとケルベロス達を見つめていた。
「最近は、デウスエクスも不景気なのかな？　世知辛い世の中だねぇ」
「同じ螺旋の力を扱うものとして、この蛮行見逃すわけにはいかんな」
　奇襲をした２人は改めて敵を見据えて、牽制する。
「風呂敷を背負った泥棒さん。基本に忠実で感心ですが、泥棒は犯罪なので成敗です」
「戦闘ヲ開始スル……」
　カロリナは改めて構えを取る。七七式もすでに戦闘モードに入り、まるで機械のような無機質な声をあげ、魔法の詠唱を始めた。
「…………」
　攻撃を受けても、ケルベロスが如何なる呼びかけをしても、月華衆の少女は反応しない。
　しかしながら、その目は注意深く、ケルベロス達の動きを注視していたのだった。

●猿真似する螺旋の少女。
　本格的な戦闘が始まることを察し、ミーシャは周囲にバイオガスを散布する。螺旋忍者はケルベロスの情報収集もしているという。それを防ぐことができればいいのだが……。
　そのガスの中、月華衆の少女が持つ手裏剣が変形する。大きく形を変え、弓矢の形状へと変化した。これも、月華衆のグラビティがなせる業か。
　敵の持つ手裏剣を、春花はまじまじと観察する。こちらのグラビティの再現をいかにしてあの手裏剣で行うのか、非常に興味深げな素振りを見せる。よほど手裏剣が好きなのだろう。
「す、すごいです！」
　鼻息荒く見つめる春花は、やや興奮気味になっていた。
　一方、月華衆の少女が放つ矢は、まるで魔弾のようにケルベロス目掛けて飛んでくる。
「ば、馬鹿な、ボクのシューティングスターを完全にコピーするなんてッ！」
　驚き、唖然とするカロリナの前で、矢を受け止めたのは、千夜姫だ。仲間を庇う為にと立ち回る彼女は反撃と動くが。使用予定のグラビティの活性がないことに気づく。彼女は仕方なくルーンアックスに空の霊力を纏わせ、少女へと切りかかっていく。
　さて、ケルベロス達は敵の情報を事前に聞き、対策を練ってきていた。
　シェイが提案していたのは、月華衆の少女がこちらの使用したグラビティをコピーする性質を逆手に取る戦法。敵の攻撃属性と、こちらの防具属性を合わせて被害を軽減しつつ、回復グラビティを減らして敵が回復しにくくするというものだ。
　とはいえ、それをケルベロス全員で示し合わせるのはかなり難しい。よほど綿密な打ち合わせがあってこそ、実行できる作戦と言える。
　それもあり、各自戦いやすい戦法を取っていたのが実状だ。
　戦闘を行いつつも、不審な影や視線がないかをチェックする七七式。もちろん、攻撃も積極的に行い、竜の幻影を掌から放ち、敵を焼き払う。
　ヴィットリオはライドキャリバー、ディートと共に前へ出る。炎を纏って少女に突撃するディートを踏み台にして、ヴィットリオもまた炎を纏い、拳を真下に突きつけて月華衆の少女を殴りつけ、その身体を燃やす。
　相手は少女だが、螺旋忍者に属するデウスエクスだ。それを倒すべく、シェイもまた竜の幻影を飛ばすが、それを少女はひらりと躱して見せる。
「召喚術ですが、これも真似できるんでしょうか？」
　みのりが宣言どおり、その場に雷気を纏う雷獣のエネルギー体を呼び出す。その雷獣は一声大きく吼えると、敵に向かって疾走して体当たりをかました。
　そこで、春華が敵の傷口を抉るように手裏剣を振るう。続いてミーシャは接敵し、パイルバンカーを勢いよく突き出した。
「さぁ、技を真似るという貴様の力、見せてもらおうか！」
　ミーシャが敵に呼びかけると、少女はその身のオーラを使い、何かを創り出す。それは、雷気を纏う雷獣……みのりが召喚したものとほぼそっくりなエネルギー体だった。
　その特攻を受け止めるヴィットリオ。カロリナが光の盾を展開することで、彼を防護していた。
　少女はただ、こちらをじっと見つめる。それがまた、ケルベロスを見通すような不気味さすら感じさせるのだった。

●真似は所詮、真似でしかなく
　月華衆の少女は、その後もケルベロス達が繰り出す技を真似て攻撃してくる。
　その多くは手裏剣を変形させて行う。あるときは手裏剣の刃を全て手前に倒し砲身に変えてから砲弾を撃ち放ち、あるときは、手裏剣の一端を長い刃となし、逆側を柄にしてから切りかかってくる。
「すごい、すごいです！」
　その度に、春花はきらきらと目を輝かせ、歓喜の声を上げる。
　だが、喜んでばかりもいられない。立ち回りがうまくいかない千夜姫が敵から集中攻撃を受けていたのだ。カロリナが精神の盾を張って守ろうとするが、敵は手裏剣をエアシューズのように変形させてから足に装着し、炎を纏わせてから千夜姫を蹴りつけた。
　燃え上がりながら卒倒する彼女は、ぐったりと倒れて動かなくなってしまう。
　少女は強い。こちらが行使するグラビティを的確にコピーし、操ってくる。
　敵に攻撃が見切られぬようにと立ち回るヴィットリオは、またもディートを足場にと飛び上がる……つもりが。足場となってくれたのは、七七式だった。
「問題アリマセン。遠慮ナク使ッテクダサイ」
「悪いね」
　どうやら、七七式は自ら足場となるべく、ヴィットリオの真下へやってきたようだ。
　ヴィットリオは燃えるエアシューズを少女に叩きつけて着地するが。ディートが少しだけ寂しそうな態度をしているのに気づいて。
「……次はまた頼むよ」
　彼はしばし、ディートに弁解することになる。その脇で、七七式もまた、ドリルのように回転させた腕で少女の服を破っていた。
　続く応酬。だが、徐々に少女が疲弊していくのが分かる。
　敵が珍しく手にする手裏剣をそのまま投げつけてくる。これは、春華のグラビティを真似したものだろう。
　春花はまたそれに見とれていたのだが、それはさておき。壁となるヴィットリオがその一撃を悠然と受け止めていた。
　ケルベロス達の作戦も全てが無駄だったわけではない。機能すべきところはきちんと機能している。
「貴方自身の技で対応しないと、対策しちゃってますよ」
　みのりはやや緩い口調で呼びかけ、ルーンを発動させ光り輝く呪力と共に敵へと切りかかる。さらに服を破られながらも、少女はじっとそれを見つめている。それをまた使う気なのか、あるいは……。
　敵に斬撃は比較的通っている印象がある。春花は手裏剣に空の霊力を纏わせ、なおも仲間が与えた傷口を広げていく。
「鍛練を積み重ねた技、見よう見まねのそれに敗れるわけがあるまいよ！」
　ミーシャが叫びかけると、少女はこの場の離脱をと高く飛び上がる。
　しかしながら、ミーシャもみすみすそれを見逃しはしない。
「森羅万象を穿て我雷の神槍、ブリューナクッ！！」
　ミーシャはマインドリングから、エネルギー武器を創り出す。彼の意に応じて現れたのは、鋭い切っ先の槍だ。光り輝く槍は空を翔け、敵の体を貫いた。
　それを受けて落下する少女。シェイがその真下から迫る。
「北海の玄武よ、大地の猛威と共に敵を喰らえ」
　シェイは大地に自らの気を通していく。少女が地面に落下するのと同時に、彼の放った気が無数の蛇のようになって少女を喰らっていく。
「コピーじゃオリジナルには勝てないって、相場が決まっているのさ」
　ただ、シェイの言葉を聞くことなく、月華衆の少女は消えてなくなってしまったのだった。

●暁の一時
　ミーシャが撒いたバイオガスが晴れていく。しかしながら、その効果はここでは確認できようはずもない。なにせ、情報を集める少女の上司がこの場にいないのだから。その効力があることを、多少なりとも期待したいミーシャである。
　ケルベロスは１人、重傷を負ってしまったが、月華衆の少女を倒すことができた。
　深手の千夜姫をマインドリングの力で癒したカロリナは、この場から消えた少女の為にと祈りを捧げる。
「主よ、どうかこの者の魂をお導き下さい」
　その間、七七式は周辺の警備に当たっていると、ようやく警備会社の人達が駆けつける。すでに泥棒は確保し、盗まれた金品を取り返したとみのりは説明する。
「こういう事が起こるなら、色々な所に防犯の徹底を呼びかけたほうがいいかもね」
　ヴィットリオはそんな提案を警備会社の人はもちろん、ケルベロスの活動として組み入れてもいいかなと意見していた。
　気づけば、周囲が明るくなってきている。東の空に光が射しているのが見えた。
「おつかれさまです」
　口を押さえてあくびをしたみのりは、大きく背伸びをする。
　ケルベロスの活躍もあり、何事もないいつもの一日が始まろうとしていた。

作者：なちゅい	重傷：撫子桜・千夜姫（双刃一体・e12219）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年3月28日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。