暗躍する女郎蜘蛛と知性の低いローカスト

作者:缶屋


「ここ最近、グラビティ・チェインの回収が芳しくないようですね」
 女郎蜘蛛型のローカスト――『上臈の禍津姫』ネフィリアは、控える知性のないローカストに言うと、一体のローカストに手招きをする。
「あなたは、ケルベロスたちに邪魔される前に、上手くやってくれますか?」
 問われた、ローカストは頷いてみせる。
「それは良かったです。では、グラビティ・チェインの奪取を、そして人間を殺してきてくださいませ」
 ネフィリアの命令を受けた、ローカストはグラビティ・チェインの奪取に街へ消えるのだった。
 夜も深まり、会社帰り居酒屋で一杯やった男性が、陽気に鼻歌を歌いながら家路についていた。
 時間も時間であり、道を照らすのは街灯だけで、人通りもない。
「ん? 何だ?」
 ふと男性が街灯の方へ顔を向けると、人影を見つける。
「誰ですか? 何かあったんですか? ――ひぃ!」
 酒により心が大きくなった男性が、人影に近づく。と、一気に酔いがさめる。
 短い悲鳴を上げ、走り出す男性。
 しかし、ローカストは逃がさない。男性を捕まえ、ゆっくり、ゆっくりと、命令のままにグラビティ・チェインを吸収していくのだった。


「ネフィリアが、不穏な動きを見せているぜ」
 アイス・クーデタ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0135)は、怪訝な顔つきで、集まったケルベロスたちに告げる。
「どうやら、ネフィリアは知性の低いローカストを地球に送り込み、グラビティ・チェインを奪取する作戦の指揮をとっているようだぜ」
 知性のないローカストたちのグラビティ・チェインの回収率の悪さに、指揮官であるネフィリアが直々に表に出てきたのである。
 ただ、ローカストたちの目的は変わらず、人間を襲いグラビティ・チェインを奪取するというものだ。
「今回放たれたローカストは、知性が低い分、戦闘能力に優れた個体だぜ。戦うときは万全の態勢で挑むのがいいんじゃね」


「予知の詳細について説明を始めるぜ」
 そう言ったアイスは、一息置き説明を始める。
「まずは今回の敵についてだぜ」
 今回の敵となるのは知性の低いローカスト一体である。使用してくる攻撃は『ローカストファング』、『アルミニウムシックル』、『破壊音波』の三つ。知性が低い分、戦闘能力に秀でている。
「次に周辺の状況についての説明をするぜ」
 辺りに人影はなく、明かりは街灯のみとなるが戦闘に使用をきたすことはない。
「捕らわれている男性についてだが、すぐに死ぬことはないんじゃね」
 ローカストはグラビティ・チェインを奪取する際、ゆっくりと吸収する必要があるため、男性がすぐに死んでしまうということはない。
「だけど、放っておくと確実に死んでしまうぜ。だから、急いで男性を助けて欲しいぜ」


「これは黒幕直々の作戦だぜ。これを失敗に終わらせ、何をしたって無駄ってことを教えてやって欲しいぜ」


参加者
源・那岐(疾風の舞剣士・e01215)
パトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)
鷺宮・晃士(地球人の刀剣士・e01534)
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
メイセン・ホークフェザー(いかれるウィッチ・e21367)
アリス・クルス(なんちゃってサキュバス・e22380)

■リプレイ


 静まり返る町――まるで町全体が眠りについているかのように、物音一つない。
 そんな町を照らす街灯の下に異形の影が一つ――昆虫型のデウスエクス、ローカストだ。
 ローカストに気付かれないように、黒衣に身を包み潜伏する八人のケルベロスたち。
 ケルベロスたちは、各々の方法で足音を消し、闇に紛れている。ローカストは、ケルベロスたちが潜んでいることに気づいてはいない。
 それほどまでに、巧妙に潜伏しているのである。
 彼らはその時をずっと待っている、男性が通りかかる、その時を。
 そして、その時が訪れる。
 遠くから陽気な鼻歌が聞こえ始め、それはだんだんとケルベロスたちに、そしてローカストに近づいてくるのだ。
 先に動いたのは、ケルベロスたちだった。


 顔を赤らめた男性が道を歩いていると、不意に肩をポンポンと叩かれ後ろを振り返る。
「誰ですかぁ?」
 と、男性が振り返るとそこに立っていたのは、まるで女性と見間違いそうな容姿をしたパトリック・グッドフェロー(胡蝶の夢・e01239)。
「ここは危険だ。黙って、俺の言う事を聞くんだ」
 そう言い、パトリックは背負い紐を男性の体に巻き付け、ゆっくりと慎重に翼をはためかせる。
 なす術なくやられるままになっていた男性は、体が宙に浮いた瞬間、驚いたように声を上げる。
 今は、町全体が眠りについたような静けさに包まれている。それが仇となった。
 男性の声を聞いたローカストが、飛び立とうとする二人に迫る。だが、そう簡単にはいかない。
 パトリックとローカストの間に割って入る、クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)とサーヴァントのクエレ。
「自覚しろ、てめぇの価値を」
 撃ち出されたクラムの牙が、ローカストの右肩を捉える。流れ込むクラムの悪意、知性無く害意を撒く存在が、と吐き捨てるように言われたようにローカストは感じ、怒りを露にする。
 クラムに気を取られたローカストに、闇の中から古代語の詠唱と共に魔法光線が、放たれる。
 しかし、魔法光線は間一髪のところで躱される。
 ローカストが目を向けると、そこには、『惜しい』と言いたげなメイセン・ホークフェザー(いかれるウィッチ・e21367)の姿と、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべるサーヴァントのマルゾがいる。
 潜伏していたのは、メイセンだけではない。戦端が開かれたのだ、もう隠れている必要はない。
 まだ、パトリックを追いかけようとするローカストに、鷺宮・晃士(地球人の刀剣士・e01534)が肉薄する。
「こんな夜中にご苦労な事だが、やらせはしないぜ!」
 晃士は、足に流星の煌めきと重力を宿しローカストの腹に蹴りを放つ。
「戦闘力に秀でたローカストか……相手にとって不足なし! 一つ我が武を試させてもらおうか!」
 体をくの字に折るローカスト。そこに鋼・柳司(雷華戴天・e19340)がローカストの延髄目掛け、電光石火の蹴りを放つ。
 延髄を捉えたかと思われた柳司の蹴りだったが、寸前の所でローカストに防がれ、ローカストは蹴りを掴むと地面に柳司を叩きつけ、首元にアルミの牙を食い込ませる。
「皆、目を瞑るんだ。さぁ、いくよ!! 目が痛くなるのは我慢!!」
 源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)が眩い閃光を放つ。光を直接受けたローカストは瑠璃の方に顔を向け、血を滴らせながら突進してくる。
 瑠璃まであと一歩という所で、源・那岐(疾風の舞剣士・e01215)が割って入り、空の霊力を宿した霊刀『白百合』で、ローカストの傷を正確に斬り広げる。
 飛び退き、ケルベロスたちから間合いをあけるローカスト。
「回復しておくね~」
 その隙をつき首元を手で押させる柳司の許に、アリス・クルス(なんちゃってサキュバス・e22380)が駆け寄り、生命を賦活させる電気ショックで柳司の戦闘能力を向上させるとともに、首元の傷を癒す。
「ティターニアはここで皆の援護だ。頼んだぜ」
 と、サーヴァントのティターニアに言い、安全な場所へと向かうパトリック。
 ローカストは飛び去っていく、男性とパトリックの姿を目で追うと、すでに追いつけないことを悟り、眼の前のケルベロスたちに牙を剥くのだった。


 ローカストが柳司に迫る。ローカストの腕から鎌が展開され、柳司の胸を大きく斬り裂くと、ローカストの受けた傷が、みるみると治癒していく。
 すぐさま標的変え、晃士に鎌を向けるローカスト。
 ローカストの身に突如、凄まじい爆発が起こる。爆発を起こしたのは、極限まで精神を集中させた晃士。
 しかし、ローカストに怯む様子はない。
 だが、動きの止まったローカストは瑠璃、メイセンにとっていい的である。
 瑠璃の両手に構えたガトリングガンが、一斉に火を噴き弾丸の雨がローカストに降り注ぐ。巻き上がる砂埃と銃弾を呑み込むように、メイセンが掌から放ったドラゴンの幻影がローカストを焼き払う。
 二人の攻撃を受けても、ローカストは平然と立っていた。
 そこにクラムが操るケルベロスチェインが、ローカストの四肢に巻き付き、体を縛りあげ自由を奪う。
 しかし、ケルベロスチェインで動きを封じられたのもほんの一瞬。
「どんなに強い奴を送りつけてきたって、返り討ちにしてみせますとも」
 ケルベロスチェインを引き裂き、自由になるローカスト。その体に那岐の放った影の弾丸がローカストの体を浸食する。
「静かにして剛たる深奥の理を此処に。雷華戴天流、絶招が一つ……蒼龍雷掌!!」
 ローカストの懐に潜り込んだ柳司は、そっとローカストに触れるように掌底を放つ。ローカストが訝しみながらも、拳を振り上げ、柳司に振り下ろそうとした時、ローカストの体に強烈な衝撃が走る。
 あまりの衝撃に揺らぐローカスト。
 ローカストは徐に翅を広げ、翅をこすり合わせると超音波が発生し、ケルベロスたちはあまりの破壊力に耳を塞ぐ。
「ぼくの快楽エネルギーあ~げるっ」
 アリスは集めた快楽エネルギーを霧状に拡散させ、超音波に膝を着く仲間たちに散布する。アリスの霧に包まれた者は、頭がすっきりしゆっくりと立ち上がる。
 その姿に満足げな表情を浮かべるアリス。
 ローカストがアリスに迫る。
 アルミの牙を剥きだしにし、襲い掛かるローカスト。しかし、その牙はアリスには届かない。クラムがアリスを突き飛ばし、アルミの牙がクラムに襲い掛かるのだった。
 男性を背負い戦線を離脱していたパトリックは、安全な場所で男性を下ろし、すぐさま戦場へとひき帰していた。
 戦場の上空に辿りついた時、目に入ったのは、アリスを庇ったクラムに襲い掛かるローカストの姿。
 急降下するパトリックは斬霊刀を抜き放つ。
「抜けば玉散る氷の刃!!」
 冷気を帯びた刀身が、冬の嵐を巻き起こし、ローカストの体を凍り付かせるのだった。


 ケルベロスとローカストの戦いは、佳境を迎えようとしていた。
 ローカストに肉薄する那岐。鎌を繰り出すローカスト。那岐の『白百合』とローカストの鎌が数合斬り結び、間を開けると、そこにメイセンがブラックスライムを捕食形態に変形させ、ローカストを捕獲し、動きが止まった所で那岐が空の霊力を宿した刃で、ローカストを斬り裂く。
 炎を纏わせた苛烈な蹴りを放つパトリック。蹴りを受け止めたローカストはお返しとばかりに、鎌で斬りつける。
 アリスはパトリックの傷を縫合し、ショック打撃を与え、傷を癒す。
 次いでローカストが柳司に鎌を向ける。
 流れるように鎌の刃を受け流した柳司は、人差し指を突き出し、ローカストの気脈を断つ。
 指が引き抜かれ、動きの止まるローカスト。その小さな傷を晃士が空の霊力宿した斬霊刀で、正確に突き貫く。
 クラムは攻性植物を捕食形態に変形させ、ローカストの胴に喰らい付かせ、瑠璃が爆炎の魔力を込めた大量の弾丸で、ローカストの体を撃ち抜く。
 ケルベロスたちの囲いから抜けようと、突破を図るローカスト。しかし、アリスが放った妖精の加護を宿した矢が、ローカストを追尾し腿を貫き逃がしはしない。
 ローカストがケルベロスたちの方へ向き直り、翅を広げ超音波を放つ。
「Summons! Witch's cauldron! じっくりぐつぐつ煮込んだ特製の薬湯をご堪能あれ!」
 大釜を召喚したメイセンは、薬草をぐつぐつ煮込んだ特製薬湯を仲間たちにぶちまける。メイセンの薬湯を被ったケルベロスたちの傷がみるみる癒えていく。
「ここで……寝てろっ!」
 晃士がローカストに流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りを浴びせ、
「僕のやることはかわらないわけで」
 次いで、瑠璃が半透明の御業でローカストの体を鷲掴みにし、動きとめると、
「いざ、戦いの舞をご覧に入れましょう。……風よ、我と共に舞え!!」
 風を共とし、舞い踊る那岐。その踊りに魅了され、舞を見ていたローカストは、いつのまにか凍り付きその命の灯が消え去るのだった。


 ローカストを倒したケルベロスたちは、各々の時間を過ごしていた。
『どこか痛い所はないでしょうか?』
 と、書かれたホワイトボードを持ち、そう仲間たちに聞いて回るメイセン。彼女により仲間たちの傷が完全に癒される。
「今回は、ヘリオンライダーの予知があったから良かったが、中には予測が捕捉しきれなかった被害者もいるかもな」
 と、ローカストの死骸を見つめ心配そうに言うパトリック。
「肌の露出が多いと、虫は大敵なんだよね~。かといって着こむとファンの皆ががっかりするしね」
 冗談を言うアリス。抱っこされながら、それを聞いたサーヴァントのドラグソは、やれやれと言った感じである。
「とッとと片付けて……俺もたまには酒でも飲むか……ウザッてェ記憶なんざ……消えちまえばいいのによ……」
 昔の事を思い出し、胸糞悪そうに戦闘の片づけをするクラム。
「よし、今回も無事に終わったな。何度連中がやってきても、片っ端から阻止してやるぜ……!」
 拳を打ち鳴らし、次の戦いの意気込みを語る晃士。
「知性の無い部下を使うだけでいい思いをしようとは笑止千万だ。これで黒幕に思いしらせてやれただろうか?」
 そう問うのは柳司。ケルベロスたちの力を十分に知らしめることはできただろう。
 町の修復を終えたケルベロスたちは帰路につく。
「那岐姉さん、一緒に帰ろう。夜も遅いし、お風呂入ろうか?」
「瑠璃、お疲れ様。そうね、家に帰ってゆっくり休みましょう」
 二人はそう会話しながら手を繋ぎ、闇の中へと消えていくのだった。

作者:缶屋 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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