桜が咲く山で

作者:沙羅衝

「Oh! Beautiful! スゴイデスネー」
「皆さんそうおっしゃいますよ! どうぞ、ここの桜を堪能してくださいね!」
 ここは奈良県南部にある山だ。ここは世界的にも有名な桜の山と知られている。ちょうど山のふもとの方で桜の開花が見られ始めたところだ。
 ここの山はこれから約3週間かけてふもと、中層、山頂へと桜が咲き誇っていくという絶景が見ることができる。
 外国人の観光客も多く、中には数週間の宿を取り、この期間を満喫する客の姿もちらほら見かけられた。
 しかし、その中層にあるバスの停留所の観光客を、妖しい眼光で見つめる一つの影があった。
「ふふふ……。こんな所がありますのね。なかなか成果はあがらないようですが、人間も多いことですし……。ここでならあなたは上手にやってくださいますね?」
 その影の口元が優しくほころぶ。しかし、その眼光はよりいっそうの妖しさを放っていた。
「それでは……朗報をお待ちしておりますわ」
 その影、『上臈の禍津姫』ネフィリアはそう言って、暗闇に姿を消していく。

 数刻の後、花見客が続々と現れる中、先程のバス停から近くにある、壊れ、使われなくなった見晴茶屋で、金髪の外国人の若い女性が一体の大きな蜘蛛の姿をしたローカストに抱えられている姿があった。
 女性は意識を失っており、ローカストが自ら作り出した糸で、縛り上げられていった。

「みんな、桜や。開花や。お花見やで! でも、そこにまた女郎蜘蛛型のローカスト、ネフィリアが現れたそうやねん」
 宮元・絹(レプリカントのヘリオライダー・en0084)は、集まったケルベロス達に依頼の説明を開始していた。
「ネフィリアの事は、知っている人も居ると思うねんけど、知性の低いローカストを地球に送り込んで、グラビティ・チェインの収奪を行う作戦の指揮を執っているローカストらしいっちゅう事が分かってる。この送り込まれたローカストは、知性が低くてしゃべられへんぶん、戦闘能力が高いっていう話もきてるわ」
 ネフィリアの情報を持つケルベロスが頷き返し、依頼の詳細を絹に促す。
「今回は、奈良県南部のめっちゃ有名な所で、この時期は山全体が桜に覆われる所や。そこの山にある、壊れかけで使われなくなった小屋や。そこで一人の女性がさらわれてしもてる。ローカストを倒して、出来ればこの女性も助けて欲しいっちゅうのが今回の依頼や。
 でも、問題は一般人やな。警察の手も借りることが出来るけど、いかんせん人が多すぎるわ。あんまり派手にやると、パニックになる可能性もある。一般の人をどうするかとか、作戦は任せるけど、しっかりお願いな」
 まずはこのローカストを倒すことだが、周りには一般人が多く、デウスエクスが現れたとなると、確かに会場の混乱は明らかだろう。その辺りの作戦も必要そうであった。
「幸いやけど、ローカストはグラビティ・チェインを奪うのに時間がかかる。時間はまだ何とかあるねん。そやな、少なく見積もっても期限は24時間以上はある。その辺り、冷静に判断して作戦立ててみてな」
 絹はそう言って、今回のローカストの特徴を話す。
「このローカストはでっかい蜘蛛をそのまま人型にしたような姿をしとる。牙の攻撃とキック、あとヒールの能力があるみたいやな」
 絹はそう言い、ええかな、とケルベロスを確認した。
「あ、そうそう、今回はこの子も行くことになったからよろしくな」
 絹はそう言い、絹の後ろで控えていた、一人の銀髪のヴァルキュリアに挨拶を促す。
「リコス・レマルゴスだ。ケルベロスとして初めての依頼になる。ご指導の程を」
 リコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)はケルベロスに、礼儀正しく頭を下げた。
「ローカストを倒したら、少しお花見でもしてきてリフレッシュしいな! 頼んだで!」


参加者
サンドロ・ユルトラ(サリディ・e00794)
槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)
黒谷・理(万象流転・e03175)
牡丹屋・潤(カシミール・e04743)
勢門・彩子(悪鬼の血脈・e13084)
碧川・あいね(路地裏のヌシ・e16819)
セラ・ギャラガー(ヴァルキュリアの刀剣士・e24529)

■リプレイ

●スズメバチ捕獲作戦
「ええー! スズメバチの巣やって!?」
 少し日が翳りだした頃、駐車場の周りでは人員の誘導が行われていた。
「はい、ですからこれから我々が駆除を行いますので、離れていてください」
 槙野・清登(惰眠ライダー・e03074)は警備員の格好をしながら、数人の観光客に説明を行う。
「こちらが、この周辺の地図になります。駆除は夜になりますので、暫くの間、こちらには近づかないでください」
 サンドロ・ユルトラ(サリディ・e00794)も、清登と共に説明を行い、用意したビラを配る。
「まあ、しゃあないなあ。せっかくのお花見や。兄ちゃんしっかり頼むで!」
 ビラを受け取りながらも納得し、山を登っていく観光客。
「……サンドロさん」
 その観光客とを見届けながら、清登がぼそりと呟く。
「ん? どうした?」
 怪訝に思いながら問いかけるサンドロ。
「いや……働いたら負けかなと。ふと……」
 自らのワークジャケットと警備棒を見ている彼を見て、サンドロは思わず噴き出した。
「はっはっは。似合ってるぜ」
 サンドロはそう言いながら、清登の背中をバンとたたいた。

「慌てず足元に気をつけて進んで下さいっ!」
 現場には、同じように複数人の警官が木下・昇と共に誘導を行っていた。これはケルベロスの要請によるものだ。その警官もあまり騒ぎを大きくすることなく、確実に動いていた。そういった細かい事も、ケルベロス達の指示であった。
「あの茶屋の辺りに大きな蜂の巣ができて危ないです、夜に業者の方が駆除作業をします、夜桜観賞はあちらでお願いします」
 牡丹屋・潤(カシミール・e04743)も、私服姿の警官に混ざって、ビラを配る。
「夜間に蜂の巣駆除を行いますので、万一を考えあちらの方へ移動をお願いします。あちらも夜桜が綺麗ですよ」
 オルトリンデ・アーヴェント(魔歌・e22637)は、普段のメイド服ではなく、作業着に着替えて、潤と共にビラを配っていた。
 そこへ、碧川・あいね(路地裏のヌシ・e16819)がふと通りかかる。
(「駆除言うても、ローカストの、やけどな……おっと、あっちの一団全然やん。しゃーないなあ」)
 あいねは、仲間の姿を見ながら、あまり話が行き届いていないようであった一団の傍に近づいていく。
「なんや、夕方からスズメバチの巣の駆除があるらしいで? っと、人違いやったわ。ごめんなー」
 と、さりげなくその一団に情報を伝える。
「え? 知らんかったわ。おじょうちゃん、ありがとう……って、あれ? あの子何処行った?」
 そう答えた年配の女性が辺りを見回した時には、既にあいねの姿は無かった。

「さて、あの小屋か」
「ああ、確かに何者かの気配がするが……、今の所大丈夫のようだな」
 セラ・ギャラガー(ヴァルキュリアの刀剣士・e24529)とリコス・レマルゴス(ヴァルキュリアの降魔拳士・en0175)は、絹の情報から、先に現場となっている見晴茶屋の傍まで来ていた。少しだけ露出させた光の翼からは、まだ瀕死という情報は入ってこない。
「よし、この辺に人は居なくなったかな」
 二人のヴァルキュリアを見ながら、勢門・彩子(悪鬼の血脈・e13084)はその現場を大きく取り囲むように、キープアウトテープを木から木へと張り巡らせ始めた。
「被害は最小限に食い止めてえな。こっちも守るものがあるわけだし」
 黒谷・理(万象流転・e03175)は他に何か問題があるか確認しながら、その現場の周りの様子を調べるが、その小屋以外には特に何も問題が無いようであった。
 ケルベロス達は、その小屋への突入を夜に行うと決めた。被害者の女性には少し気の毒ではあるが、事を急き、被害が大きくなってしまっても問題だ。警察への指示も、騒ぎが起こらないようにと徹底したものであった。そのおかげで夜の帳が下りる頃には、大きな問題もなく、無事周囲一帯から一般人の姿を無くすことが出来た。
 小屋の前の街灯の下に集まったケルベロス達の耳には、遠くの方から楽しそうな人の声が山に響いて聞こえてきていた。
「さて、本格的な害虫の駆除をはじめるとしようか」
 彩子が小屋の前に集まったケルベロス達を確認し、全員がうなずき返す。
 すると、清登がバイオガスを放ち、セラとリコスは光の翼を広げていった。

●篭城
「いくぜ!」
 バン!
 理が勢い良く扉を開け放ち、彩子とサンドロが突入する。すると、小屋の奥で一つの影が動き、複数の光る目が二人をぎらりと睨み付ける。
「チッ! 暗いな。良く見えねえ」
 サンドロが舌打ちしながら、その影と対峙する。
「サンドロさん! これを!」
 扉の後ろから潤が一つの物体を投げ入れる。
「おっと。……助かるぜ潤」
 潤が投げ入れたものは、一つのランプであった。サンドロはそのランプのスイッチを入れ、小屋の中を照らした。すると、大型の蜘蛛の姿をしたローカストと、その奥で倒れている金髪の女性の姿が浮かび上がった。
「ギギギギギ……」
 ローカストはその光が直接目に入らないように、ゆっくりと動き始めた。しかし、女性の傍からは離れようとしない。
 サンドロがローカストの動きに合わせて、構える。
 ギシ……ギシ……。
 壊れかけた小屋は、サンドロの動きに合わせて鈍い音を出した。
「さあ、来いよ」
「キシャアア!」
 サンドロがライトをその場に投げ込むと、ローカストが大きな声を上げながら、サンドロに蹴りを放った。サンドロはバトルオーラを纏いながら、その蹴りを受け止める。
「さあ、覚悟を決めろ!」
 彩子が倒れた女性とローカストの間に入るように回り込み、そのままローカストの足元に向かって蹴りを放つ。
「シャアアアア!」
 彩子の攻撃をそのまま複数の足でいなすローカスト。そのまま再び女性の前に降り立つ。
「人質がいたんじゃ、なかなかうまく立ち回れないな」
 理がそう言いながら、縛霊手から紙兵を撒き、自らとサンドロ、彩子に纏わせる。
「鞘でも、使い方次第では武器になるんです」
 オルトリンデが、菖蒲色に塗られた鞘を突き出すが、その攻撃もローカストには当たらない。
「蜂の巣にしたるで! って、蜂ちゃうかったなあ!」
 あいねが狙い済ませたガトリングガンを連射し、ローカストの腕を弾き飛ばす。
「ギギギギ……」
 あいねのほうを向くローカストだが、その前に、サンドロが立ちふさがる。
「まずは、その足を止めないとね」
 ジリジリと下がるローカストに対し、清登がケルベロスチェインを伸ばし、ローカストの足を締め上げていく。
 バキバキバキ!
 突如、ローカストの後方のにある大きな木製の扉が打ち破られた。打ち破られた向こう側から、光が見える。ヴァルキュリア二人の翼であった。
 セラとリコスがそのままローカストに突撃していくと、ローカストが反対の壁に激突した。
「よし、リコス。救出だ」
「分かった」
 リコスにそう指示をしたセラは、ゲシュタルトグレイブを構え、ローカストに向き合う。
 あいねのテレビウム『カントク』が、いつの間にかその女性の傍で、ローカストの糸を断ち切っていく。
 その糸が全て切られたのを確認したリコスは、女性を肩に担ぎあげ、外に飛び立とうとする。それを見たローカストは逃がすまいと一気に身体を起こす。
 ドゥン!
 その時、ローカストの身体から爆発が起こった。潤が爆破スイッチを押したのだ。ローカストは再び吹き飛び、床に転がっていく。
「シャアアアア!」
 誘拐した女性が手元から離れていく様を確認し、ローカストの目の色は、赤く染まっていった。

●ローカストの覚悟
「キッシャアアア!」
 叫び声を上げながら、攻撃を繰り出すローカスト。
「ぐあ……」
 サンドロが再度攻撃を受け、その蹴りに吹き飛ばされてしまう。
「いけるか?」
 理が呼びかけると。大丈夫だと言いながら、起き上がるサンドロ。それを見た理は、頷きながら再び攻撃を加えようとするローカストに構えを取る。
『亢竜悔いあり、後先考えな。』
 理がローカストに向かってハイキックを放つ。だが、その蹴りは空を切る。
 続いて彩子が左手のマインドリングから光の剣を具現化させ、切り付ける。しかし、その攻撃もローカストには当たらない。
「あまり好きな技ではないですが……贅沢を言う余裕は無いので……」
 オルトリンデがトラウマボールを投げつけ、あいねがバスターライフルを構える。
『南無八幡大菩薩、その他諸々の神さん、願わくはあの敵のどてっぱらに風穴を開けさせ給え…ってな!!』
 あいねのライフルから放たれた一撃が、ローカストに大きな傷を与える。そして、ローカストの目がいきなり青く光り、また赤くなっていく。その様子は、何かにおびえているかのようであった。
「なんや? 何かの夢でも見とるんか!?」
「キ、キシャアア!」
 ローカストは堰を切ったかの様に、外に向かって動こうとする。
「おっと、そちらには行かせんぞ」
 セラがそう言い、電光石火の蹴りをローカストに叩き込んだ。
「ギギ……ギギギ!」
 しかし、ローカストは、そのダメージにかまわず、直ぐに起き上がる。
「何かに、怯えているような気がします。とても、怖い存在を思い出しているのでは、無いでしょうか……」
 潤は結晶化させた生命エネルギーを前衛の4人の周辺に漂わせた。
「ネフィリア……」
 オルトリンデはその姿を見て、絹の話にあったローカストの名を思い出す。
「彼も、必死なのかもしれませんね」
 そう言いながら、斬霊刀の砕波を抜き放つ。
「でもまあ、だからと言って、はいそーですか、っていう訳にもいかないんだな」
「そうなんだよね」
 彩子の言葉に同意した清登が、改造スマートフォンを取り出す。
『最近のスマホの薄さを舐めるなよ…!』
 清登は一気にローカストに詰め寄り、頭の部分を切り裂いた。すると、ローカストの目の色が凄まじい速さで赤と青に入れ替わっていった。
 そしてローカストは、そのまま清登を睨み付け、いきなり噛み付いた。

●夜桜の裏側で
「っく!」
 清登の肩口から鮮血が噴出す。
「清登さん!」
 潤がすかさずライトニングロッドから電気ショックを飛ばし、その傷を塞いでいく。
「もうそろそろ、寝んねしてな!」
 サンドロが呪力を纏わせたルーンアックスを振り下ろすと、ローカストの腕が二本切り落とされた。
「そういや、グラビティが欲しいんだったな」
 彩子はそう言うと、右手に構えた鉄塊剣にグラビティを込める。
「ほらグラビティだ。遠慮はするなよくれてやるよ」
 彩子の鉄塊剣が、ローカストの足を叩き切る。そしてよろめいたローカストの背後に回りこんだ理が、バトルガントレットを叩き込む。セラもその攻撃にあわせ、二本構えた槍を無数に突き出し、ローカストの身体に傷をつけていく。
「ギギ……キシャア!」
 しかし、ローカストはそれでも、戦意を失わない。
「何を怖がっとるんやろうなあ。でも、さっきの女の人も、さぞかし怖かったと思うで」
 あいねが再びガトリングガンを打ち込むと、ローカストの足が、完全に止まる。
「さあ、静かに眠りましょう……覚める事の無い、混濁の水底で」
 オルトリンデはそう言うと、砕波を正眼に構える
『神怪き魔力に魂も迷う―波間に沈むる、人も神も』
 振り下ろされた刀が、そのままローカストを頭から腹の部分を一気に切り裂くと、ローカストは声も上げず、消えていった。
 
「これが……花見。か」
「そのようだ。ほら、いろいろ買ってきたぞ。名物の草餅、桜餅にアユの塩焼き、こんにゃくのみそ田楽、柿の葉寿司……」
 人の多さと桜の木の多さに、驚いているリコスに、自分が買ってきた物の説明をするセラ。どうやら、事前に調べていたようで、しっかりとレジャーシートを持参していた。
「おおーい。こっちや、お二人さん!」
 その二人に場所取りをしていたあいねが声をかける。その場所は、山全体が見渡せ、且つライトアップもされた、かなりの高ポイントだった。
「ホントウに、キレイですネー」
 救出された女性も、ケルベロス達に誘われ、花見を楽しんでいた。そこへ、サンドロが声をかける。
「ふふ。お嬢さん。あなたも負けず、綺麗ですよ。あ、ひざ掛けをどうぞ」
「まあ、お優しいンデスネー」
 そう言い、女性はひざ掛けを受けとる。その声に、きりりとした表情を作るサンドロ。だが気を抜くと直ぐに鼻の下が伸び切ってしまう為、台無しだ。
「良かったです。本当に……」
「どうしたんだ? しんみりして」
 少しうつむき加減の潤に理が声をかける。
「ちょっと前、悲しい事件がありましたので……」
「そうか。でも、俺達はこうやって桜を楽しむことができた。それが、あいつら、デウスエクスとの違いだろうな。俺たちまでそうはなりたくねえもんだな」
「そう……ですね。元気出して、楽しみましょう」
 理の言葉に、少し救われたような表情をした潤は、あいねの買ってきた草餅を食べ、おいしい、と笑顔になる。
 そこへ、頭をかきながら困った表情をした彩子が現れた。
「いやー。もしかしたら、キャンセルあるかなーって思ったんだけど……甘かった」
 彼女は、一晩の宿を借りようとしたのだが、どうやら全て満室であったようだ。
「この時期にここで宿なんかとれへんって。宿によったら一年以上前から予約いるねんで」
「うげ……」
 あいねに説明され、げんなりとした表情の彩子。
「まぁ座りぃな。よおさん買うてきたから」
「俺も一緒していいですか?」
 そこへ、昇がおずおずと声をかけてきた。
「ああ、誘導手伝ってくれたんだよね。もちろんだよ」
 昇はケルベロスが戦っていた間、一般人の誘導に全力を尽くしてくれていたのだ。警備の傍らその姿を見ていた清登が、その労をねぎらった。
 そして、彼らはその景色を見ながら、笑い声を響かせていく。
 オルトリンデは一本の古い桜の木にもたれかけながら、楽しそうに騒いでいる仲間達の姿を見て、ほっと一息をついていた。手には暖かいお茶が入ったペットボトルが握られている。そして、彼女は今回の事件の事を思った。
「ネフィリアの配下……。倒しても倒しても出てきますね」
 被害者を出さなかった事が救いだが、ネフィリアを倒さないと、再び同じように一般人が狙われてしまう。
(「なんとか出来ないものでしょうか……」)
 彼女はそう思いながら、そのままお茶を口に含む。
 肌寒い風が戦いの汗を使い、容易く体温を奪っていっていた為、咽を通る温度が心地よかった。
「何!?」
 その時、彼女の背後から凄まじい殺気が放たれた様な気がして、後ろを振り返る。
「気のせい……、でした……か」
 オルトリンデは暫くの間、その辺りをじっと凝視する。だが、再びその気配を感じることは無かった。
「なあ、つっ立っとらんで、こっち来ぃや。桜めっちゃ綺麗やし、このおでんもめっちゃ美味しいで!」
 あいねの声に、我に返るオルトリンデ。
「……ええ。ご馳走になります」
 疲れているのかな、と思いながら、その気配を気にかけつつ、彼女は笑みを浮かべ仲間の輪に加わっていった。
 そのひと時の美しさは、己の身と同じであろうか。
 月の光に照らされた桜の花を眺めながら、ケルベロス達は辺り一面に咲き誇る絶景に酔いしれた。
 ふと、桜の花びらが一枚、清登の杯に落ちた。
 彼は、暫くそれを眺め、酒と共に揺らす。
「綺麗だね」
 そう言いながら、清登はその花びらと共に、酒を咽に流し込んだ。

作者:沙羅衝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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