星霊戦隊アルカンシェル……って、何?

作者:秋津透

 群馬県前橋市郊外の、深夜の公園。
「スタールージュ!」
「スターブルー!」
「スタージョーヌ!」
「スターローズ!」
「スターノワール!」
「我ら! 星霊戦隊アルカンシェル!」
 どこからどう見ても、特撮戦隊ものの主役チームとしか思えない、色とりどりの鎧に身をかためた五人の男女が、公園の真ん中で名乗りをあげる。しかし、彼らは正義の戦隊ではない。何よりも、その身長およそ三メートル。地球を侵略する恐るべき敵、デウスエクス・アスガルドことエインヘリアルの超戦士五人組なのだ。
「あったわ、オーズの種」
 スターローズと名乗ったピンクの鎧の女戦士が告げ、赤い鎧のスタールージュがうなずく。
「よし。グラビティ・チェイン注入開始。皆、グラビティを高めるんだ」
 そして、五人のエインヘリアルの鎧が燦然と輝き、黄色い鎧のスタージョーヌが持つバズーカのような武器へと光が注入される。
「ほな、いきまっせー……どっかーん!」
 バズーカが発射され、公園の中央に置かれていた噴水を一撃で粉砕する。すると、噴水の残骸を更に吹き飛ばすようにして、地面の中から無数の蔦が絡まったような姿の植物怪獣……全長約七メートルの巨大な攻性植物が勢いよく出現した。

「大変です! かすみがうら市から飛び散ったオーズの種が、群馬県の前橋市で発芽し、全長およそ七メートルの巨大な攻性植物となって暴れ出します! 急行して、すぐに撃破しないと、周囲の人たちが惨殺されてしまいます!」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、切迫した口調で告げる。
「攻性植物を発芽させたのは、五人組のエインヘリアルらしいですが、そいつらはもう、その場を立ち去っているようです。奴らは攻性植物から『オーズの種の部分』を奪い取っており、残された攻性植物は奪われた分のグラビティ・チェインを早急に回復しようと、周囲の住宅を襲い、人々を惨殺しようとするのです」
 まったく、どうせなら攻性植物を完全に始末してから去ってほしいものですが、何というか、無責任極まりない奴らです、と、腹立たしげに言いながら、康はプロジェクターに画像を出す。
「攻性植物が出現するのは、この公園です。深夜なので、周囲に人はいませんし、戦闘の気配に人が出てきても、近づくことはないでしょう。攻性植物は、いわば手負いの状態で、ひたすらグラビティ・チェインを求めて暴れ回りますが、あなた方が到着して戦闘になれば、逃走などはせず、その場で死ぬまで戦います。全長およそ七メートル、無数の蔦がからまったような外観で、攻撃力は図体に見合った高さがあると思われますが、何というか、エインヘリアルからダメージを受けている状態なので、体力は本来の状態よりも、かなり低いはずです。オーズの種を抜きとられているので、回復などもできないはずです……グラビティ・チェインを回復しない限りは」
 そう言って、康は一同を見回す。
「エインヘリアルがオーズの種を回収している理由はわかりません。どうせ、自分たちの戦力強化とかロクでもない理由でしょうが……まずは、巨大攻性植物を倒して住民を守らなくてはなりません。どうか、よろしくお願いします」


参加者
赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)
修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754)
リュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)
風魔・遊鬼(風鎖・e08021)
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)
ココロ・ファクトリー(恋するゼラチン状の立方体・e23724)
セデル・ヴァルフリート(秩序の守護者・e24407)

■リプレイ

●戦闘開始!
「エインヘリアルたちの動きは気になるけど、今は、目の前の敵に集中しよう。見ての通り、とんでもなく手強そうな相手だからね」
 街灯の朧げな光の中に蟠る巨大な影を見据え、スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)が、きっぱりとした口調で告げる。
「ボクがライティングボールを投げ入れたら戦闘開始だ。いくよ、みんな!」
 そう言って、スミコは新兵器ライティングボールを力いっぱい投げる。四個のボールが、戦場となる公園を明るく照らし、敵……体長およそ七メートルの巨大攻性植物の姿を明らかにする。
(「お、大きい……」)
 もちろん事前に資料は見ていたが、実際に巨大な攻性植物が光に照らされゆらりと動くのを目にして、修月・雫(秋空から落ちる蒼き涙・e01754)が声には出さずに唸る。
(「ここまで巨大だなんて……。確かに、暴れたら大きい被害が出そうです」)
 そして、ボールを投げたスミコが、そのまま真っ先に戦場へ突入する。
「いくよっ!」
 新装備のゲシュタルトグレイブ「デモニックグレイブ」を構えたスミコは、機械翼をいっぱいに広げ、バーニアで急加速し、攻性植物の頂部へ稲妻突きを放つ。雷電が走り、灼き飛ばされた蔓が弾け飛ぶ。
 スミコに続くのは、風魔・遊鬼(風鎖・e08021)。万一に備えて公園入口にキープアウトテープを張っていたが、攻撃開始にはきちんと間に合わせ、影のように密やかに敵の足元へ急迫、氷結の螺旋で脚部とおぼしきあたりを凍らせる。
 すると攻性植物は、攻撃してきたスミコ、遊鬼を含むケルベロスの前衛に向かって、槍のように鋭い蔓を凄まじい数と勢いで一斉に打ち込む。
「させるか!」
 リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)がセデル・ヴァルフリート(秩序の守護者・e24407)を、赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)のサーヴァント、ボクスドラゴンの『アリカ』が遊鬼を庇い、庇われた方はダメージなしで済んだが、庇った方は二回分のダメージを受ける。
「だ、大丈夫ですか!?」
 じ、自分もディフェンダーなのに庇われてしまった、と、少々狼狽気味にセデルがリューディガーに尋ねる。
 すると、銀狼の耳を持つウェアライダーの青年は、軽く苦笑してヴァルキュリアの少女へ応じる。
「何のこれしき、かすり傷……と意気がるには、さすがに重いな。回復をかける」
 そう言って、リューディガーは黄金の果実を投げ、自分を含む前衛に対し治癒とステータス異常耐性強化を行う。
 すると『アリカ』が、リューディガーに治癒と耐性強化をかける。
 そしてリュートニア・ファーレン(紅氷の一閃・e02550)が、後衛から必殺技『氷炎流星雨(アイスフレイムメテオール)』を仕掛ける。
「……目標補足。これより撃破」
 呟くと、リュートニアは魔力を籠めた弾丸を二丁のガトリングガンから連射。攻性植物へ容赦なく叩き込む。
 そしてメディックのいちごが、生を肯定する魔法歌をギターを奏でながら朗誦し、前衛に付いたステータス異常を解消する。
 続いてメディックのボクスドラゴン『クゥ』は、自分のマスターであるリュートニアへ耐性強化を行う。
(「回復は、ほぼ完全に行き渡ったようですね……」)
 状況を判断し、セデルは予定を変更して縛霊手から網状の霊力を撃ち出す。
「暴れる本能のみの存在、規律の下に断つ!」
 霊力で多数の蔓が断ち切られ、続いて彼女のサーヴァント、ビハインドの『イヤーサイレント』が心霊現象攻撃で、敵に金縛りをかける。
 続いて雫が、必殺技『創造・神鳴雲(クリエイト・サンダークラウド)』を繰り出す。
(「もっと時間があれば大きいのもできるけど、これでも充分……のはず!」)
 雫の術式に応じて敵の頭上に小規模な雷雲が生じ、そこから雷が落ちる。雷に直撃された攻性植物は全身を震わせ、無意味に激しく蔓を振り回す。
 と、ここまでは、極めてシリアスに戦闘が進んでいたのだが。
「ココロちゃんはお腹が空きました。今夜はおめーがサラダです!」
 獰猛な雄叫びとともに、ココロ・ファクトリー(恋するゼラチン状の立方体・e23724)が多数の妖精型インターフェイスを放ち、攻性植物に襲いかかる。
「おめーは大きくて栄養がありそうでごぜーます。爆乳美少女ココロちゃんの100cm計画にご協力しやがりくだせー!」
「た、食べるの? あれを?」
 いちごが唖然として呟き、他のメンバーも、完璧無言無表情の遊鬼とサーヴァントたちを除いて、全員が大なり小なり目を見張る。
 ココロ自身は、見たところゼラチン状立方体に閉じ込められたふっくら型の全裸美少女なのだが、実は、そのゼラチン立方体自体が彼女の本体であり、生命体としてはスライム的な存在なのである。
 しかも、もともとは工場型ダモクレスの核であった小さなゼラチナスキューブが、心を得てレプリカントとなり、急成長して自己を人間型に形成したという。
 そして、どうやって急成長したかといえば……それはもう、食べて食べて食べまくったからに決まっている。
「突撃ー! ごーごー! 悪い子はいねがー! 食べちゃうぞー!」
 大騒ぎしながら、ココロが生み出した妖精型インターフェイスの大群が、次から次へと巨大攻性植物に取りつく。見た目は繊細で可愛らしい小妖精だが、何しろ本質は攻撃用インターフェイス、怖れげもなく攻性植物の蔓に噛みつき、蹴り、千切り、狼藉の限りを尽くす。
 もちろん攻性植物も、一方的に喰われているわけもなく、蔓を振り回し、締めつけ、叩きつけ、妖精型インターフェイスを粉砕するが、何しろ数が多い。ぴーぴーと喚き叫び散らしながら、果敢に反撃していく。
「はなせー! ひどいことするきだなー! えろ同人みたいにー!」
(「あ、頭痛い……」)
 一瞬、額を抑えて唸ったスミコだが、すぐに気を取り直して叫ぶ。
「敵は消耗してる! 畳みかけるよ!」
 声かけと同時に、彼女は黄金の大斧「ルオンノタルSE」を振るって、攻性植物に猛然と打ち掛かった。

●急戦! 一気に押し切る!
(「……確かか? 本当に、今が攻め刻か?」)
 声には出さず、リューディガーが唸る。彼は歴戦の勇士ではあるが、ケルベロスになる前は優秀な警官で、警護や防御を主な職務にしていた。
 そのため現在でも、まず味方の防御を完璧に整え、それから損害を最小にして敵を討つという手堅い戦術を好むが、状況によっては、それが通らない場合もあることも、重々承知している。
(「もうしばらく防御を固めるつもりだったが、今が攻め刻なら……!」)
 状況を見極めようと、彼が目を凝らした時。
 いきなり四方八方から、攻性植物の蔓が唸りをあげて襲いかかってきた。
「ぬおっ!」
 躱せる数でもタイミングでもない、防御を固めて受けるしかないが、しかし受けきれるか、と、リューディガーが奥歯を噛みしめた刹那。
 ビハインドの『イヤーサイレント』が、するっと彼の前に飛び込み、すべての蔓をその身に受ける。
「お、おいっ!」
 相手が不壊の心霊的存在であることを一瞬忘れ、リューディガーが叫ぶ。見た目、高校生のような年頃の拘束服姿のビハインドは、口元に微かな笑みを浮かべたようにも思えたが、すぐにダメージが限界を越えて、その姿を消した。
(「庇いがなかったら……俺が潰れていたな」)
 眦を決し、リューディガーは攻性植物を睨み据え、必殺の攻撃技『Flamme des Fegefeuers(フランメデスフェーゲフォイアー)』を発動させる。
「全砲門、一斉掃射。目標を殲滅する!」
 気合とともに放たれた壮絶な全力攻撃を受け、攻性植物の胴中で大爆発が生じる。続いて『アリカ』がブレスを放ち、リュートニアは気咬弾を撃ち込む。
 いちごも、二本のギターを変形合体させて攻撃歌を熱唱。『クゥ』もブレスを放つ。
(「あなたが誰かは知りませんが、サーヴァントを消された仇は取ります。まあ、どうせすぐ復活して、私の横に立つんでしょうけど」)
 声には出さず呟きながら、セデルは自前の攻性植物を放つ。蔓と蔓が叩き合い、絡み合い、締め上げ合う。
 そして雫は禁縄禁縛呪を仕掛け、霊力で敵を掴み押さえる。そこへココロが、満を持して叫ぶ。
「プランB! 生んで増やして地に満ちるでごぜーます!」
「も、もっと増やすの?」
 いちごが驚いた声を出したが、ココロは全力で妖精型インターフェイスを増産し、まさに雲霞の如き大群を攻性植物へと突撃させる。
 これぞ彼女の必殺技『生産ライン緊急増築(ワンナイト・デスマーチ)』。大増産された妖精型インターフェイスは、イナゴの群れのように敵へと襲いかかり、貪欲に骨まで喰い尽すという恐ろしい技である。
「すっぞこらー! お尻触ったの誰ー? 押すな押すなー!」
 ぴーぴーきゃいきゃい騒ぎながら、妖精型インターフェイスの大集団が巨大攻性植物に取りつく。
「やー! 蔦一本に妖精さん一体では足りないのなら、二体三体と増やします。妖精さんゴー! 食い荒らすでごぜーます!」
「……壮絶、ですね」
 こういうのを数の暴力っていうのでしょうか、と、雫が呆れたとも感服したともつかない口調で唸る。
「もう一息、緩めず押すよ!」
 言い放ったスミコが稲妻突きを叩きつけると、攻性植物の巨体が、ばくっと前面で割れた。
 見ると、おそらくエインヘリアル五人組にオーズの種を抜き取られた傷なのだろう、巨体の内部には大きな中空があり、ケルベロスの攻撃が、外皮にあたる部分を完全に突き破ったのである。
「なんと! 上げ底でごぜーましたか! 喰いでがあると思ったのに、がっかりでごぜーます!」
 ココロが残念そうに叫んだが、次の瞬間、遊鬼が放った絶空斬が、攻性植物を完全に両断する。
 植物ならではのしぶとさで、まだ完全に死んだわけではなさそうだが、もはや組織だった反撃はできないだろう。
「どうする? 全員で攻撃を続けるか? それとも後は、彼女が食べるに任せるか?」
 攻性植物が蠢くばかりで攻撃してこないのを確かめた上で、リューディガーがスミコに尋ねる。スミコは、両断された巨体と、それに群がる妖精型インターフェイスの大群を暫し見やっていたが、軽くうなずいて応じる。
「ああ、既にこいつには、サンプルに値するものはない。エサにしてしまっていいと思う。むしろ、こいつが潜んでいた場所を調べたいな」
「わかった」
 見ると、既に遊鬼と雫が、噴水の跡らしい場所を調べ始めている。リューディガーは小さく苦笑して、そちらへ向かった。

 
 


 
 


作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。