楽園樹の芽吹き、果樹『椿桃』

作者:白石小梅

●発芽と収穫
 時は深夜。神奈川県小田原市、ある植物公園。
 蠢くのは、五人の人影。ただ、その影は三メートルほど。ひどく大柄だ。
「星霊戦隊アルカンシェル! ただいま、参上! ……って、言いたい。闘いたい……」
 と、桃色の鎧を着こんだ女がぶつぶつ言う。応えるのは、黒鎧の男。
「俺だって、本当は闘いたい。が、任務とあれば仕方ない。ケルベロスどもが邪魔しに来てくれれば、堂々と闘えるのだがな」
 青い鎧が苦笑しながら二人を宥めて。
「まあまあ。オーズの種回収任務だって、僕らが適任だから任されてるんだよ。五人いれば、発芽、回収、撤退と、スムーズに行くんだから」
 うんざりしたように桃鎧が大地を指す。ここだとばかりに。
 紅い鎧が仲間を取りまとめる。
「よし、グラビティ・チェインを注入するぞ。位置についてくれ」
 居並んだ五人の鎧から立ち上る、五色の光。それは、黄色の鎧の男が掲げるロケットランチャーへと吸い込まれて。
「さあ! 準備してや! いくで!」
 深夜の公園に爆音が響く。
 現れるのは、花と果実を狂い咲かせた桃の樹木。
 大地を引き裂く轟きと共に、その根が歩み始める。
 この世に楽園をもたらさんがために。
 
●楽園の芽吹き
「かすみがうら市から飛び散ったオーズの種の行方が判明いたしました。朗報とは言い難い状況です」
 望月・小夜(サキュバスのヘリオライダー・en0133)が、眉の間に皺を寄せる。
「五人組のエインヘリアル部隊が、何らかの手段によって種の位置を特定。回収に現れるのを予知いたしました。彼らは種に大量のグラビティ・チェインを与え、強制的に発芽させる模様です」
 結果としてオーズの種は、全長七メートルに達する巨大攻性植物と化すという。
「この個体を『椿桃』と呼称します。ネクタリンこと椿桃によく似た形状をしており、尾の代わりに枝葉を掲げたサソリやナナフシのような姿勢で移動します」
 出現場所は、神奈川県小田原市にある公園だという。
「椿桃を発芽させた後、エインヘリアル部隊は椿桃に付随しているオーズの種の部分を回収し、撤退します。残された椿桃は、奪われた種子分のグラビティ・チェインを早急に補填しようと、市街地へ向かって動き出してしまうのです」
 つまり、今回の任務は、この攻性植物の撃破となる。
 
●桃の楽園樹
 敵の戦力は。その質問に、小夜が答える。
「椿桃は万全であれば非常に強力ですが、中枢である種を奪われてダメージを負っています。今ならば、勝機はあります」
 敵は一体。配下や援軍はなく、公園も深夜のために無人。しかし。
「桃の果実は、多彩な薬効のグラビティとして発露しているようです。緊急時には栄養を溜めた果実を還元し、自己回復、薬効強化、状態浄化……また、その能力を反転してのグラビティ中和や、こちらの耐性解除など、多岐にわたるようです」
 ダメージを負っているからこそ、勝ちの目がある闘いだ。長期戦に引きずり込まれてしまったら、勝ち目は薄い。
「可能な限り、短期決戦を心掛けてください。その戦闘力は、かすみがうらに出現した個体も凌駕する、強大なものです。決して油断はしないでください」
 特殊能力こそ癒しに向かっているが、単純なパワーだけで容易にこちらを戦闘不能にし得る相手ということだ。
 
 ふと、一言。エインヘリアルたちは、と、質問が飛ぶ。
「皆さんが一致で望むならば、回収の邪魔立ても間に合うように飛ばしますが……敵はエインヘリアルの精鋭五体。無策で挑むのは自殺行為です。それは忘れないでください」
 それでは出撃準備を、お願いいたします。
 小夜はそう言って頭を下げた。


参加者
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
白波瀬・雅(サンセットガール・e02440)
九頭・竜一(雲待ち・e03704)
日之出・光輝(絶望的なゲーマー・e06561)
アリス・リデル(見習い救助者・e09007)
紅・マオー(コンビニ拳士・e12309)
七代・千明(怨色ディスペクトル・e12903)
彩条・露(失楽園の残骸・e24911)

■リプレイ

●星霊戦隊
 神奈川県小田原市の植物公園。開けた芝生のエリアに五つの巨大な影が蠢いている。
 遥か離れた藪に潜み、それを伺うのは八人のケルベロス。
 九頭・竜一(雲待ち・e03704)が、目を凝らして五人の動きを注視している。眼力を用いて実力差を測りたいところだが、今の彼には命中率は見えない。
(「ちょっと無理か……戦闘する、って距離じゃねーし。俺のグラビティ、今回、全部射程短いしな……チアキチの方はどーよ?」)
 その視線が、七代・千明(怨色ディスペクトル・e12903)に向くも、彼もまたそっと首を振る。
(「駄目だ……奇襲の位置取りが出来ているわけではないからな。参考に出来る数値は出そうにない、か」)
 届く、と、当たる、はまた別もの。当てられない状況から強引に攻撃した場合の命中率では、資料にするのは難しそうだ。
(「といって、近づこうにも……例え隠密能力があったとしても、楽に近づける相手じゃなさそうだねー……」)
 彩条・露(失楽園の残骸・e24911)も状況を分析する。
 敵は一体となって敵地で潜入工作中のチーム。互いの死角を補い合い、近づく隙はまるでない。悟られずに接近するのは、至難の業だ。
 紅・マオー(コンビニ拳士・e12309)がそっと仲間たちに合流し、接触テレパスを行う。
『周囲に人影はない。戦闘に支障はなさそうだ』
 そう伝えつつ、星霊戦隊が力を注ぎこもうとしている様子を睨んで。
(「オーズの種は、媒体が無くともグラビティ・チェインで発芽するんだな。これはとても厄介だが……しかし、この方法では発芽を行わせているアルカンシェル達も、いずれ疲弊していくのではないのか?」)
 爆音と共に、大地を打ち破って椿桃が姿を現す。尾を振り上げた蠍のようなその巨体。尾の針に当たる部分に、ひと際大きなオーズの種。
 狙う敵の出現に、全員の間に緊張が走る。だが、飛び込むにはまだ早い。
 薄暗い中では五人の動きは、それぞれの色の閃光にしか見えない。それぞれが目まぐるしく動いて椿桃を翻弄し、瞬く間にオーズの種を切り落とす。
 その最中にも周囲を警戒する者があり、 近づく隙はない。
 注視するギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)の視界に、虹色の空間が口を開ける。
(「魔空回廊……! 成程、ゲートに帰還し、力を補給して再出撃……ですか。ここであれに飛び込むのは、さすがに自殺行為ですね……」)
 オーズの種を獲得したかと思いきや、怒り狂う椿桃を尻目に、星霊戦隊はほとんど同時に魔空回廊に飛び込んで消える。
 日之出・光輝(絶望的なゲーマー・e06561)が、ため息を落として。
(「見事な連携ですねー……いやあ、ゲームでモンスター狩るときの参考になりそう」)
 己の核を奪われて、椿桃が咆哮する。蠍で言えば、顔に当たる部分。根で出来た口を開いて。
「Ugh……トクサツとか好きなほーだケド、なんかリアルでみっとチョービミョーっつーかなんつーか……。ま、気を取り直して。ハデに暴れるぜ!」
 アリス・リデル(見習い救助者・e09007)が、立ち上がる。
 彼女のミミック、ミミ君はもとより、ライドキャリバーの暁号とオルトロスのわんこさんが、ようやく出番だとばかりにそれに続いて。
「よし、行こう! 椿桃が回復する前に一気に仕留める!」
 動きだした椿桃。
 白波瀬・雅(サンセットガール・e02440)が先頭を切って跳躍する。
 ここからは、ケルベロスの時間だ。

●激闘、開幕
「桃ねー。春だねー……なんて悠長なこと言ってる場合じゃないか。ケルベロスとしての初仕事、気合入れて行こっか!」
 後衛から、寂寞の調べを歌い上げるのは、露。その加護は、突っ込んでいく前衛に降り注いで。
 突如現れた新たな敵に、椿桃が向き直って咆哮する。
「街に被害は出させない! 絶対に止めてみせる!」
 雅の跳躍はそのまま飛び蹴りとなって、向かってきた椿桃の枝をへし折って散らす。
「へっ、うまそーな桃じゃん! 美味しく戴いてやっから覚悟するっしょ! 飛び込みな、マオマオ!」
 アリスの稲妻突きがその枝葉を突き破る。阿吽の呼吸で、その道筋を潜り抜け、懐に飛び込むのはマオー。
 マオーの一撃が、枝葉の奥に揺れる果実を叩き割った。酸味の混じった、甘い香りが飛散して。
「ふふ、大したご馳走だな」
 拳足を通して伝わった味に、マオーの口元がにやりと笑む。
 だが、椿桃とて、押し寄せる波に押されてばかりではない。その甘い香りの散るに任せ、低い雄叫びと共に花を散らす。
「催眠……! くっ!」
 さっと息を止めた雅が身構える。唸るように前衛を切り裂く花吹雪。ミミ君と暁号を率いてそこに飛び込むのは、ギルボーク。二体と一人で、クラッシャーたちを、身を挺して庇い抜く。
「幸か不幸かこの体、なかなかに頑丈でしてね。どれほど強大なデウスエクスであろうと、そう易々と僕の護りを抜けるとは思わないでくださいね!」
 何より引き受けなければならないのは、催眠効果だ。今回、サーヴァントを含めれば、前衛が六人に後衛五人。ほとんどが攻撃と命中精度に力を組み上げた、攻撃的布陣を展開する。クラッシャーが幻惑されれば、それはそのまま布陣の崩壊を意味する。
 予防するのがギルボークらならば、癒すのは千明。
(「前衛があの人数ならば、範囲攻撃は散りやすくなる……だが、侮れない威力。催眠効果は、絶対に行き渡らせるわけにはいかない」)
 千明の守護星座が大地に輝き、前衛を癒しに走る。呪いに対する耐性と、癒し手の浄化力が合わされば、催眠効果に打ち負けることはない。
「竜一、何してる。攻め手を譲ってやったんだ。庇われてないで、しっかり働け」
 千明に急かされて、暁号の後ろにいた竜一が、声を張り上げる。
「わかってるよ! 化け物ほっぽってトンズラする戦隊に、地球のヒーロー・ケルベロスが手本を見せてやるぜ!」
 見られてはいけなかったから、隠れていたのではなかったっけ。という無粋な疑問はかなぐり捨てて、竜一が跳躍する。その手に煌めくのは、雨夜の星と名付けられた刃。
「任されたからには結果出さねーとな……後でボロックソ言われるし」
 舞うように閃いたナイフが、枝葉を斬り払い、花を散らしていく。
「花が舞う……綺麗ですけど、花粉症の僕にはちょっと辛い……」
 とまで言ったところで、光輝はくしゃみを一つ。鼻を撫でた後、言葉の締めに、ですねぇ、と一言付け加えつつ。
「しかし、長引かせるわけにはいきません。最初から、出し惜しみはなしで行きましょうか!」
 二台のスマホの上を光輝の指が這えば、電子の直線は開いた枝葉を突き抜けて、椿桃の幹をなんやかんやで燃え盛らせて。それに合わせた一閃。わんこさんの霊剣が、その炎を貫いて、幹を穿つ。
 炎、痺れ、足止め……様々な呪詛がその巨体に絡みついて、侵食を広げつつある。序盤は、ケルベロスの圧倒。それでも。
「……!」
 輝きを放ちながら、いくつかの果実が萎びて落ちる。その栄養は樹木全体に還元され、穿った傷が塞がると共に、呪いがほどけていく。たちこめる桃の香りは、一層強くなって。
「成程……かつて桃は長寿の薬だ、などと言われていたこともあるそうですね。それに違わぬ生命力と言うべきでしょうか。皆さんが存分に力を振るう為にもその攻撃、受け止めさせてもらいましょう」
 そう語るギルボークの手より閃くのは、七天抜刀術の一の太刀。桃の花びらに対抗する、血染めの桜吹雪。
 その挑発に、巨樹の怪物が咆哮する……。

●激闘、終幕
 闘いが始まって、まだ少しばかり。間に回復を挟む椿桃はさすがの生命力だが、八人に三体を加えた数を前にして、回復が追いつくはずはない。催眠は千明が抑え込み、露の加護がそれぞれの技と合わさり、敵の妨害能力の上昇は防いでいる。
 それでも抑えきれないのは、単純な攻撃力。そして……。
「まだだ……ボクはヒメちゃんを守る為に倒れるわけにはいかない」
 折れかけた膝を奮い立たせるのは、ギルボーク。貫かれた傷口からは血が滴り、雫となって足元に落ちていく。
「くっ……ヒールがまるで追いつかない。耐性も同時に剥がされる……アンチヒールが、これほどとは……」
 舌打ちするのは、千明。
 そう、抑えきれないのは、回復作用を打ち消す能力。敵の最大攻撃である枝葉の刺突に伴い、状態異常への耐性も同時に解除される。回復力は半減し、浄化と回復に二手を要する。メディックが一人では、手が足りない。
「駄目だよ、無理しちゃ! それ以上引きつけちゃいけない……!」
 露が回復に回ろうとするのを制し、ギルボークは再び一の太刀を翻して。わかっているのだ。自分を癒すために、攻め手の勢いを止めるわけにはいかないと。
「ボクの役割は、攻撃のための時間と隙を稼ぐこと……! ヒメちゃんの為に更にかっこいい所を見せて更に更に……!」
 桜吹雪の太刀筋に、怒り狂った巨樹。針のように伸びた刺突が、血飛沫を散らして。
 ギルボークの体が宙を舞った。
 隙が、出来る。
「ボーくん! ……やりやがったな、野郎! ハデな夢、見せてやんぜ! Hey! Sweet dreams Baby!」
「合わせるよ、アリスちゃん。この機会、見逃しちゃ失礼だよね……!」
 アリスが歌い紡ぐは、不思議な国の子守唄。露のヴァルキュリアブラストが、音の軌跡に重なって。当たりは、最高だ。
 幹を揺らした衝撃。椿桃が吼えて、果実が輝き、萎びて落ちる。
「ガンガン攻めるぜ! あと一歩だ! これ以上はやらせねえ!」
 赤い髪の後ろに、ぎらついた目。大器は晩成。秘められた力を氷に変えて、竜一がその根を打ち据える。
「次が来れば、前衛は崩壊しかねません……叩き込みますよ……!」
 光輝のハウリングフィストが、その能力上昇を解除する。
 続く攻撃に、巨樹の足が傾いて。巨樹が揺らいで、花が散る。
 果実は落ち、花も葉も、まばらになりつつも。響く咆哮。紅白の花吹雪が、桃の香りとともに前線へ降り注いで。
「しぶとい……! まだ来るぞ。構えろ」
 マオーが身構える。庇うために前に出た暁号とミミ君が、花吹雪に呑まれるように消える。
 前衛は、今や五人。最大威力の花吹雪が、前衛を薙ぎ払った。
 そこに迸った火炎は、わんこさんのパイロキネシス。舞い散る花びらを焼き払い、その火線に飛び込むのは、その主人。
「この力……そのまま返すぞ!」
 緑の闘気を身に纏い、マオーの一撃が遂にその根をへし折って。絶叫を迸らせながら、巨樹の怪物が横に倒れる。果実は全て落ちて、花はすでに散り果てた。巨樹は、枯れつつある。
 それでもなお、椿桃はグラビティ・チェインにしがみついて。
「仲間が傷つくのも、死人が出るのも、もう沢山だ……とどめだ、白波瀬!」
 手を握り締めた千明の呼び掛けに、応えるのは小柄な影。椿桃の頭上に跳ぶのは、雅。
 怒り狂った巨樹が、最後に足掻く。交錯するのは、雅の影と枝葉の刺突。
 その胸元を貫いたと見えた刺突は、光の盾に当たって逸れる。マインドシールド。それは、千明の加護。
「さあ、勝負よ! 力を貸して……仲間を、人々を守るために!」
 光り輝いた雅の体が、戦乙女の鎧を纏う。愛槍、ブリュンヒルデを翻し、解き放った蹴りは稲妻の如くに大地を穿つ。
 椿桃の根の体を、一直線に貫いて。
 大地を包む土煙。その中に、桃の枯れ木が頽れて……。
 風が煙をさらったとき、根の大半を引き千切られた椿桃の残骸の中、雅がため息を落として片膝をついた。
 激闘は、終わったのだ。

●嵐、過ぎて
 度重なった爆音。現場を封鎖するパトカー。街はその喧騒に目を覚まし、家々には不安を示す明かりが灯る。封鎖の現場を、遠巻きに見に来る人々もちらほらと。
 注目の的となった公園の中、ケルベロスらは椿桃の現れた穴を囲んでいる。すでに千明と露がヒールを施し、ギルボークもサーヴァントらも復帰済みだ。
 穴の中にしゃがみこんでいた千明が立ち上がる。尤も、穴は彼の背丈よりもよほど深い。
「一般人ならそれなりの装備や人数が必要な深さだ。僕らなら、グラビティで十分掘れるだろう。尤も、それで発芽しては元も子もないが」
「そしたら回収もヘッタクレもねーな……そもそも、場所がわからねーし。ところで、桃、良い匂いだったな。帰りなんか呑んでかね?」
 竜一の誘いに、ぽんと肩に手を置くのは、マオー。
「帰る前にコンビニでジュース買うなら、付き合うぞ。桃シロップの美味いのを買って、みんなで分けるとしよう。ほとんど未成年だから、アルコール抜きでな」
 年齢確認をお願いします、というレジの声の代わりに、わんこさんが一声吼えた。
 うなだれる竜一に対し、くすくすと悪戯娘染みた笑い声を響かせるのは、アリス。
「でも確かに桃の果実……美味そーだったよな。綺麗なのが残ってたら一口ちょーせんしてみてーケド……ほとんど潰れたか萎れちまったなぁ」
 ミミ君も、大きな口をあんぐり開けて、ちょっともったいなさそうに周囲を見回している。
「マオーさんが味わっていたように見えましたけど。あの香りは、どこか……酔っ払いそうでしたね」
 暁号に寄りかかってゲームをしながら、光輝が言う。戦隊が椿桃に飛び掛かっていったのに影響を受けてか、どこぞの巨大モンスターをハントするソフト、に、見える。
「あの催眠効果を考えると、すでに内部発酵しててお酒になっててもおかしくないかも。果実酒にお勧めな果実って聞いたし、食べるのはお勧めしないなあ」
 露が笑ってそう言えば、アリスはむすっと顔を膨れて果実を見渡すのを諦める。
 そこから数歩離れたところ。魔空回廊の現れた辺りには、二人の影。
「オーズ、実にしぶとい……それ故にエインヘリアルも狙っているのでしょうか。攻勢植物は彼らの味方というわけではないようでしたが、5人と戦うというのは無謀ですね……」
 穴と回廊があった場所を見比べて、ギルボークがため息を落とす。
「……もし万全の攻性植物と闘いになっても負けないから、あの五人なんだよ。でも、どこかで先手を打たないと被害はまだまだ増えそうだね」
 そう応えるのは、雅。
 わかっている。
 今回わかったことは、当然、他の現場でも判明するだろう。それ以上の情報を望むならば、危険を冒す必要がある。
 だが突発的な予知に、集められる手勢は十人もない。あの五体と闘いになれば、敗北は必至。重武装の騎馬隊に、歩兵だけで挑むようなものだ。
 万全を期して防ぐか。
 奇策を弄して挑むか。
 それとも……。
 やがて、その問いにも答えの出る時が来る。
 帰還のヘリオンを迎えながら、ケルベロスらは予感めいたものを感じていた。その時は、決して遠い未来ではないだろう、と。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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