ダンデライオン――歯牙持つモノ

■リプレイ

●虹の部隊
「なんなんだ、あいつら……。エインヘリアルがオーズの種を回収して、どうする気なんだ？」
　天谷・砂太郎（ツッコミの亜神の加護持ち・e00661）がヘリオン降下口から、５人のエインヘリアルを見ながら呟く。
（「数的にはこっちの方が上だから、やってやれない事もないかもしれんけど……」）
　砂太郎は、心の中でそんなことを思うが、今回の目的はこの後に起こることの対処である。
　エインヘリアルを相手にするという選択肢もあったかもしれない。
　だが、それは相当なリスクを伴うことに間違いなく、自分一人の想いで実行出来ることではない。
「攻性植物にグラビティ・チェインを注ぐみたいだぜ」
　同じく降下準備をしていた、尾割・弌（戦場の白鴉・e07856）が眼下で始まったグラビティ・チェインの増幅を見ながら言う。
　弌にも、眼前で敵を見逃すことへの苛立ちがある。苛烈な怒りと言い替えてもいいだろう。
　思わず、悔しさのあまり歯を噛みしめてしまう。
「今あの5人組に喧嘩売れないのは、ちょっと歯痒い、な」
　同じ思いを抱いているのが分かったのか、眠そうな目に真摯な炎を宿しながら、夜殻・睡（低血圧系刀剣士・e14891）が呟く。
「どうやら攻性植物が現れたみたいですよ」
　黒宮・透（狂火・e09004）が、大地を割って現れたタンポポの攻性植物、討伐対象『ダンデライオン』を指差し、物憂げに呟く。
　何故か、今回の透は愁いに帯びていた。
　彼女は、清楚な外見とは裏腹に、戦闘を喜びと感じる性質だ。
　なのに、戦闘前にも関わらず、彼女の口からはため息が漏れている。
「あれがオーズの……成程、ああも育つものなのか。面倒な……」
　攻性植物を見降ろし、神藤・聖一（白貌・e10619）が目を細め口にすると鼻をふんと鳴らす。
「Question……エインヘリアル達って攻性植物をどう思っているのでしょうか？」
　シエナ・ジャルディニエ（攻性植物を愛する人形娘・e00858）が、仲間達にふと、疑問を投げかける。
　その問いに応えられる者はいない。
　シエナは、エインヘリアル勢力がオーズの種を使う作戦が複数あることに疑問を持っていたのだ。
　５人の戦士達は、グラビティ・チェインを活性化させることで無理やり攻性植物を発芽させ、オーズの種だけを回収しているが、シエナの耳に入っているだけでも、オーズの種が関連する事件は少なくない。だからこそ、疑問が沸くのだ。
　もう一つ理由を上げるなら、シエナは攻性植物と共生することで生きていると言ってもいい。攻性植物に愛すら感じている。
　だからこそ、自分達の目的の為に攻性植物を利用する、エインヘリアルに怒りを禁じえない。
「オーズの種を攻性植物から切り離したみたいだよ。折角出て来た、イロモノなエインヘリアルと戦えないのは残念だけど。ま、今回は攻性植物で我慢しないと。……楽しみだなぁ♪」
　凪沢・悠李（想いと共に消えた泡沫の夢・e01425）が、赤い瞳に興味、好奇心、喜び、快楽のへの飢え、様々な心情を湛え、呟く。
　眼下のエインヘリアル達は、オーズの種を回収すると、もう用は無いと言った様子で、ケルベロス達に気付く様子も無く、暗闇に姿を消す。
　それとは対照的に、命を持った攻性植物『ダンデライオン』は、オーズの種が奪い去られた為、飢えに苦しむ獣の様に身体を上下している。
「よし、降下しよう。此処で止めよう。必ず！」
　 言うと、葛城・時人（青闇光想・e04959）が真っ先にヘリオンから飛び降りる。
　空を舞いながら、時人は、５人のエインヘリアルの部隊について思いを巡らす。
（「……アルカンシェル。虹って意味だったかな？　グラビティ・チェインを無理やり注いだり、奪ったり。……何を考えてるかなんて判らないけど、一つだけ言える。どんな思惑であれ、その通りにさせてやることなんてない」）
　彼らが解き放ったダンデライオンだけは、自分達が倒す。
　その思いを胸に、地面に脚を付けると、時人は二本の大鎌を構えた。

●獣となったタンポポ
「さて……それじゃあ始めよっかぁ……♪」
　攻性植物『ダンデライオン』を前に、降下を終え、揃ったケルベロス達。
　悠李は、口元に喜びの笑みを浮かべると先手必勝と言うより、遊びを待ちきれない子供の様に、ダンデライオンへと駆け寄った。
「アハハハッ！　 切り裂き魔のお通りだよッ♪」
　狂気に満ちた笑顔を覗かせ、害異と殺意を乗せた刃でダンデライオンを切りつける。その無邪気なまでの攻撃は『もっと、もっと楽しもうよ♪』とせがむ子供の様だ。
「ツバキ、やれ」
　相棒のビハインドに簡潔に攻撃を支持すると、聖一自らは、爆破スイッチを押すと、仲間達にグラビティの加護を与える爆発を起こす。
「ライオンの牙……なんてカッコいいもんじゃないなコレ」
　達人の如き一撃を放ちながら、睡が呟く。
　確かに黄色い花弁はライオンの鬣の様に見えなくもないが、生えている牙は不揃いで、相手を貪る為だけに生えているように見えた。
「S'arreter！　ここから先に行っちゃ駄目ですの！」
　シエナがダンデライオンに語りかける様に言うが、ダンデライオンが聞く筈もない。
「分かっていたことですの……。ヴィオロンテ！　激励お願いしますの！」
　シエナは、自らの攻性植物ヴィオロンテに声をかける。すると、ヴィオロンテは、それに応える様に、大顎を形成し獣の様な咆哮をあげる。
　その咆哮は、仲間達にヴィオロンテのグラビティ・チェインを分けて行く。
　ヴィオロンテの咆哮が終わった次の瞬間、辺りに銃声が木霊する。
　ダンデライオンと距離を取る位置で、砂太郎が銃弾を放ったのだ。
「しかし７m級ともなると、どんな相手でもデカク見えるもんだなぁ」
　砂太郎の言う通り、元々はタンポポとは言え、家屋を超える大きさまで育った攻性植物だ。見上げなければその姿を全て視界に捉えることも出来ない。
　そんなことを考えていると、ダンデライオンの巨大な根が、しなる鞭のように横に薙ぎ払われる。
　狙われたのは、前で攻撃を仕掛けていた、悠李と睡だ。
　だが、その攻撃は二人のディフェンダー、時人と弌ががっちりと防いだ……かの様に見えたが、時人と弌は二人揃って吹き飛ばされる。
　弌は、地面に背を付けながらも、黒鎖にグラビティを込めて行く。
「黒鎖よ！　俺達を守る盾になれ―！」
　黒鎖から放たれる、グラビティは僅かだが、弌と時人の痛みも癒す。
　後ろを見れば、誠一が自らのグラビティを右手に圧縮しているのが見える。
「削られたグラビティは、お前自身に返してもらうよ」
　言って、時人は大鎌をダンデライオンに突き刺すとグラビティを喰らう。
　そこへ、ファミリアが弾丸となってダンデライオンに襲いかかる。
「……はあ、やっぱり前線での戦いの方が楽しそうですわね。斬って斬られて斬り裂いて、そう言うのが私好みですもの」
　そうなのである。
　今回、透のテンションが非常に低い理由はこの配置にあった。
　透は、和装の令嬢と言う外見に反して、戦闘を楽しむ戦闘狂タイプである。
　仲間との相談の上で納得したとはいえ、こんな巨大な敵を前に、後ろからの攻撃と言うのは、非常につまらないのだ。
「仕方ないですから、普段の私がやられて嫌なことをしてあげましょう」
　そう言って、透はグラビティの集中を始める。
「攻撃力が高いと言うのは本当みたいだな。……こういう術式は不得手なのだがな」
　圧縮した眩く煌めく白いオーラの弾丸を、前で戦う仲間達に撃ち込む、聖一。
　その白い弾丸は、着弾と同時に、癒しの粒子を広げて行く。
「私の回復で、追いついてくれればいいんだがな……」
　呟く聖一の前で、ダンデライオンの牙がギラリと光った。

●ライオンと呼ばれた花
「アハッ……この緊張感、ゾクゾクして堪んないよ……ッ！」
　月の光を反射させながら、魔天狼－マテンロウ－を軽やかに振り下ろす悠李の瞳は、喜びに満ちていたが、既に彼の身体は傷だらけになっていた。
　ダンデライオンとの戦闘も数分を過ぎ、ケルベロス達も十分にダメージを与えていたが、何よりもダンデライオンが与えてくるダメージが大きいのだ。
「花弁にグラビティが集中している！　光線が来るぞ！」
　グラビティの一撃を決めながら、時人が叫ぶと同時に、ダンデライオンの花弁から時人の頭上を越え光線が放たれれば、後衛に位置する仲間達を光線が襲う。
　すぐに聖一が、ヒールグラビティを発動させるが、全員のダメージをカバーするのは、かなりきつい。
「Remarquer！　いい子だから大人しくして！」
　シエナが叫びながら、ダンデライオンにヴィオロンテで攻撃する。
「もっと、動きを制限しないと、一人ずつ落とされるな」
　砂太郎が少しでもダンデライオンの動きを止めようと、弾丸をばら撒く様に銃を撃ち続ける。
「弌さん、大丈夫ですか？」
　ディフェンダーである為、被弾率の高い弌に声をかけると、透は気の力を高め、弌に向かって飛ばす。
「大丈夫だ。まだ冷静でいられてるしな。盾の役割しっかりやってるぜ。……また失うのは御免だからな。誰かが傷つくってんなら鷺を鴉にしてでも戦ってやらあ！」
　弌が叫ぶと、鴉の大翼を思わせる巨大なオーラが現れ、その大翼から放たれた数多の羽がダンデライオンを強襲した。
「あまり、長引かせてもジリ貧か……」
　言うと、睡は、青白い刃を持つ斬霊刀《雨燕》に冷気を纏わせていく。
「喰い千切れ、八つ頭の蛇」
　鋭い冷気を纏った刀は神話で語られる八つ頭の大蛇を思わせる軌跡を描くと、ダンデライオンを刺し貫く。
　だが、その攻撃でもダンデライオンの動きは止まらず、ダンデライオンの三つの歯牙が睡を噛みちぎる。
　飛び散る血と溢れ出るグラビティ・チェイン。
「ツバキ、いけ」
　ビハインドの金縛りが発動したのを確認すると聖一は、ありったけのヒールグラビティを、睡に飛ばす。
「私はまだまだ傷が浅いですからね。遊んで下さいな」
　そう言うと透は、左目にかかる髪を払いのけ、その燃える地獄の左目の炎を生き物のように揺らめかせる。
「……燃えなさい」
　透の左目から放たれた炎は、渦を巻きながらダンデライオンを狙って、取り込むかのように燃え上がる。
「ヘンペル、まだみんなを庇えるな。根性見せろよ」
　弌は、相棒のミミックにそう告げると、ダンデライオンに一気に接敵すると、試作スライム『ねばねば君１号』を捕食モードにする。
「喰らいやがれ！」
「せめて眠らせてあげますの」
　弌のスライムが食い破った部位に、シエナがダイレクトにナイフを斬りつける。
「古傷は抉る為にある。ってな？」
　砂太郎の竜牙炎熱刀が、深く刺されば、ダンデライオンの動きが更に鈍くなる。
「あはっ、これで終わりだね……なかなか楽しめたよ♪」
　悠李が楽しげに、居合の一撃をダンデライオンに決めるが、ダンデライオンは最後の力を振り絞るかのように、その頭を動かし、悠李に喰らいつこうとする。
　だがそこへすかさず、時人が割って入る。
「お前に勝機はない！　さあ、急いで冥界へ逝け！！」
　時人の拳に輝ける光がグラビティとなって集まって行く。
「聖なる光よ！　敵を貫き二度と戻れぬ幽世へ送れ！」
　放たれた光は、一条の矢となりダンデライオンを貫くと夜空へと吸い込まれていった。
　その数秒後、ダンデライオンはこと切れたかのように、ゆっくりとその長大な身体を横に倒した。
　……命を失ったダンデライオンの黄色い花弁が、夜風に吹かれさやさやと音をたててなびいた。

●植物としての終わり
「被害は、此処一帯だけだね。軽くヒールするだけで大丈夫かな？」
　戦闘が終わり一つ深呼吸をした悠李は、人が変わった様に穏やかに現状確認をしていた。
「植物にも意思はある。だが種のせいでこんな姿になった挙句に理不尽に倒される……やりきれないもんだな、どうにも」
　砂太郎が、ダンデライオンのオーズの種が埋まっていた部分を調べながら呟く。
「オーズの種と結合していた部分は、ごっそり持っていかれてるみたいだぜ。エインヘリアルの痕跡はどうだろう？」
　弌が、ダンデライオンを調べながら、エインヘリアルの戦士達が消えた方を調べていた、睡に聞く。
　弌としては、ダンデライオンの調理も考えていたのだが、オーズの種が及ぼした影響を考えると、オーズの種が無くなったとはいえ、止めておいた方が無難だろうと言うことになった。
「奴らの痕跡を今探すのは、難しそうだ。改めて探した方がいいかもな……。そして俺は……眠い」
　睡があくびを隠さずに言う。
「Promesse……仇はとりますの」
　シエナがダンデライオンの躯を見降ろし呟く。
　ダンデライオンの躯はそう時間がかからず、朽ちて地に帰るだろう。
「高い火力で面白い敵でしたね。今度お相手する時には、全力で戦いましょうね」
　透が優しく、ダンデライオンに語りかける。
　だが、その本音はダンデライオンと言う強敵と、もっと戦闘と言う遊びに興じたいと言うことに他ならなかったりする。
　やはり、透に安全圏での戦闘は物足りないらしい。
「今度は正しくたんぽぽになって、綿毛を飛ばして…？」
　タンポポは黄色い花弁を落とした後、白い綿毛を飛ばし広がって行く花だ。
　ダンデライオンが次もタンポポの形で生まれるのなら、そう言う普通のタンポポになって欲しいと時人は願う。
「……エインヘリアル共もいずれ始末せねばな」
　静かに言う聖一の言葉にケルベロス達は頷く。
　一つの危機は去ったが、『オーズの種』、エインヘリアルの部隊『アルカンシェル』……決着を付けない限り、悲劇は続くのだから。
　いずれと言う……その時は、近いのか、遠いのか、まだ誰にも分からなかった。

作者：陸野蛍	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年3月31日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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