皆殺しのサーカス『主なき龍の手先』

作者:白石小梅

●主なき道化師
 群馬県のある山深い場所。
「……ふむふむ。興業には向かない土地だが、来てよかった」
 ため息を漏らしてやって来るのは、背中に蛾の翅を生やした男。語り掛ける相手は、宙を漂う怪魚が三匹。
「諸君。サーカスにはピエロが必要だ。存在自体が見世物になる、派手なクラウニストがね!」
 意味を理解できているとは思えぬ怪魚たちを無視して、男は続ける。
「……彼なら申し分ない。口だけのビックリピエロ! 最高じゃないか! それでは、頼むよ君たち。マサクゥルサーカス団には、彼のような逸材が必要だ」

 男の影が消えた後。森深い地に怪魚が回る。その軌跡が、青く浮かびあがって、人影が現れる。
 血に汚れたローブの向こうには、目も鼻も唇もなく、巨大に裂けた口だけ。牙をむき出し、唾液を散らし、痩せ細った腕の先には鋭い爪。
 狒々のように前傾で歩き始め、その影は咆哮した。
 かつて偉大な龍に仕えた従者。
 そのなれの果てが、主なき道化となって帰還する……。
 
●皆殺しのサーカス
「噂の『マサクゥルサーカス団』が、また人員募集をしているようです。ご存知でしょうか? 蛾のような翅を持つ男性型の死神が『団長』と称する集団です」
  望月・小夜(サキュバスのヘリオライダー・en0133)が、居並んだケルベロスたちに言う。
「彼は第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスをサルベージする作戦の指揮官なのでしょう。怪魚型の死神を引き連れて、忙しく勧誘を繰り返しております」
 団長はすでに現場を離れているようだが、死神の戦力強化を見過ごすわけにはいかない。
「つまり、今回の任務は蘇らんとしているデウスエクスの撃破です」
 蘇るという敵は。その問いに、小夜は僅かな間を置いて。
「ドラグナーです」
 ケルベロスたちの顔が上がる。それは、この人数で勝てる相手だろうか。
「ご安心を。ドラグナーの最も恐るべき点は、主であるドラゴンの力を借りて竜化することです。が、相手は何十年も前に撃破された個体。主の生死は不明ですが、契約はとうに途切れ竜化する力はありません。死神による変異強化が施されているのに、生前より弱い……というのもおかしな話ですが」
 
 敵の戦力ですが、と、小夜は説明を続ける。
「このドラグナーを、仮に骨狒々と名付けましょう。骨狒々は名の通り、骨ばった体に狒々のような前傾姿勢の化け物になり果てており、知性はすでにありません。とは言え、強力な竜語魔法の名残を駆使して攻撃して来ます」
 怪魚型の死神は、噛み付いたり怨霊を具現化して放つ力で攻撃してくるというが、個体としての脅威度は高くはない。
「骨狒々は獣と化しながらも、狡猾さを失っておりません。皆さんから攻撃を受ければ、迷うことなく怪魚たちを盾にするでしょう。竜化しないとはいえ、ドラグナーは強力な魔術師型のデウスエクス。決して油断はしないでください」
 周辺の状況は、という問いが飛ぶ。
「群馬県の山間部です。昔、集落がありましたが、生前の骨狒々が襲撃した際に廃村となっています。道路はあるため電気は通じており、封鎖もしてあるため人払いなどは必要ありません。闘いに専念できるでしょう」
 
 説明を終えて、小夜がケルベロスらを見渡す。
「ご存知の通り、ドラゴンの勢力は強大です。変異強化されているのに以前より弱い、というのは不思議な話ですが……骨狒々との闘いでは、ドラゴン勢力の精鋭とどう闘えばよいのか、多くを学べるはずです。皆さんの武運を祈っております」
 それでは、出撃準備をよろしくお願い申し上げます。
 小夜はそう言って、頭を下げた。


参加者
マニフィカト・マクロー(ヒータヘーブ・e00820)
ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)
ナギサト・スウォールド(老ドラゴニアンの抜刀士・e03263)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
ヴァルスタート・オラクル(愛を求めるガンスリンガー・e08415)
黒木・市邨(蔓に歯俥・e13181)

■リプレイ

●廃村
 そこは、国道から外れた道路の奥にある、集落の形骸。ただ、街灯だけが寂しく点いている、今は打ち捨てられた場所。
 闇の向こうに佇むのは、廃墟の影。響くのは、姿を見せぬみみずくの鳴き声。草を揺らす、冬の名残りの冷えた風。
「最近死神の事件も増えてきてるのぉ。やれやれ、また厄介なことがおきそうじゃな」
 静寂を破るのは、ナギサト・スウォールド(老ドラゴニアンの抜刀士・e03263)の呟き。老剣士を先導するのは、ボクスドラゴンのスー。
「興行には向かない土地……というのは同意ですが、サーカスというのは観客を……まぁ、居ない相手に皮肉っても仕方ないですが」
 アレフガルド・アンダーソン(灰の鎖・e00228)が独りごちながら、振り返る。
「……ところで狒々というのはどういった生物でございますか?」
 答えるのは、マニフィカト・マクロー(ヒータヘーブ・e00820)。
「この国に伝わる、巨大な猿のような想像上の生物だよ。浮世絵で見たことがある」
 それを聞いて、エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)が頷きながら。
「冥府の扉を潜った存在にはぴったり、かな? でもチャラになったはずの因縁をもう一回、ってのはちょいと気に食わないなあ……ボク自身にそのテの因縁がないってのもあるかもしれないけど」
 エディス・ポランスキー(銀鎖・e19178)が、その敵に思いを馳せる。
(「死神の従属、か……竜のしもべであるうちに聞きたいことがあったけれど……今はその言葉も意味がないわね」)
 破れたトタンの向こう側から現れるのは、青く輝く目が六つ。口を尖らせた三匹の鮫。
「なるほど、本当に口だけなんやな。何十年も経って、仕えたくもない男に仕えるのは不本意やろうて」
 ガド・モデスティア(隻角の金牛・e01142)が、そっと金色の槍を取りだして。
 ゆらりと誘われるのは、血濡れのローブを羽織った異形の影。フードの中の顔には、裂けた口から覗く牙ががちがちと音を立てている。
「さて、いっちょやりますかー」
 ヴァルスタート・オラクル(愛を求めるガンスリンガー・e08415)が伸びをして身構える。
 敵もこちらに気付いたようで、怪魚たちが骨狒々の前方に散っていく。
 ケルベロスらの武器が、一つ一つ、構えの音を奏でていく。緊張の和音に合わせるのは、低く響く唸り声。
「さあ、覚悟は良いか。……俺は外さない、よ」
 黒木・市邨(蔓に歯俥・e13181)の伸ばした蔓が、鎌首をもたげる蛇のように、主なき従者を威圧する。
 山深き、滅びた地で。観客のいないサーカスが、幕を開ける。

●従者と従者
 その遠吠えが、闘いの始まりを告げる。
 骨狒々の周囲に浮かびあがるのは、五つほどの蒼い輝き。突如風を切って、エディスへと襲い掛かる。
 閃光を受け止めたのは、巨大な斧。その持ち手は、マニフィカト。隕石のような一撃が、群れを成して巨斧を後ろに押し下げていく。
「なるほど。まとめて追い撃たれれば、防御に特化していない限りとても防げない威力、か……これは私が引き受けよう」
 裂帛の吐息と共に突っ込んでいくマニフィカトの傍らには、銀髪の三つ編み。エリシエル。
「そう長くはないけど、一差し付き合ってもらおうか! そちらは頼むよ!」
 稲妻のごとき一閃を走らせ、跳躍する。
「ええ……さっさと倒すから倒れず待ってなさいよ」
 応えるのは、エディス。一斉に躍りかかる鮫たちの群れに飛び込み、気咬弾がその一匹を弾き飛ばす。回り込んだもう一匹が撃ち出した口吻を、受け止めたのはナギサトの鞘。
「では俺とスーは……鮫の抑えかの」
 翼を広げたナギサトの白刃が煌めいて。淡く浮かぶのは、夜桜の花吹雪。惑わしの幻影が、鮫どもを切り裂いて。
 骨狒々の抑えに、二人。残りは戦力を集中し、怪魚たちを殲滅する。それが作戦。
 先頭に出たガドが、改めてその槍を大きく振るって。
「敵は寂しい奴みたいやけど……それはそれ、これはこれやな。さあ! 盛り上げていこーかァ!」
 ガドの咆哮と共に巻き起こるのは、螺旋の力。嵐となって仲間たちの間を吹き抜け、前衛に破壊の加護を宿す。
「気合も入れてもらったところで、いっちょやりますかー。せーのっ!」
 始め、の合図よろしく、ヴァルスタートが放つのは、恋の魔弾。回転した魔弾が、鮫の一匹を撃ち抜くのと同時に、ケルベロスらは一斉に飛び込んでいく。

 死神の群れを殲滅せんと跳躍した六人と一匹に対し、骨狒々を抑える二人の仕事は、味方が戻るまで場を保つこと。
「竜語魔法には我々も勿論覚えがある。この戦いも、我々が新たな段階へ進むための礎とさせてもらおう」
 骨狒々が鮫たちと合流しようとするのを牽制し、マニフィカトの拳が獣化する。空中で弾かれた骨狒々の頭上には、すでに銀髪がはためいて。
「自力で劣るのは自明だからね。根性悪くいかせてもらおうか?」
 エリシエルのシャドウリッパーが、身を捻った骨狒々の傷を抉る。
 怨念の籠もった牙が剥き出され、歯が打ち鳴らされる。
「よし! ちょっと大人しくしててもらうよ!」
 続けて打ちかかるエリシエルに、骨狒々の咆哮があがる。地面に、禍々しい魔法陣が浮かびあがって。
「……!」
 彼女を、マニフィカトが突き飛ばす。魔法陣から跳ね上がった竜顔の呪詛が、彼の手に深々と喰らい付く。
 思わず振り返ったエリシエルを、手で制して。
「まだ大丈夫だ。何度も耐えられる威力ではないが、自己回復で時を稼ごう……奴は、我々を先に打ち破ることに決めたようだ。来るぞ」
 変化の力を失ったとは言え、それでも敵は竜の精鋭。ため息を漏らして、エリシエルが構え直す。
「戦争の必勝法。相手の十倍の数を用意しそれをしっかり思考通りに動かすこと、か。順当すぎて嫌んなるよ。こんなのを敵の戦力に加えるわけにはいかないね」
 骨狒々の周囲には、浮かびあがる青い光。
 稼げる時間は、どれほどか……。

●混戦
 鮫との闘いは、優勢に推移している。
 市邨の破鎧掌が、エディスを庇ったスーから、鮫を引き剥がした。続けてに反応した攻性植物の動きに任せ、市邨が腕を伸ばして。
「さあ、蔓。出番だよ、思う存分、喰らっておいで」
 飛び出した蔓が、鮫の体を締め上げる。蛸に襲い掛かられた時のように身悶えする鮫に、飛び込むのはエディス。
「アンタ達に時間をとられるわけにはいかないのよ! 第参術色限定解除。蒼に喰われろ……!」
 ペンダントから漏れ出すように伸びる蒼い光帯が、その刀を包み込む。重なり合った蒼の軌跡をたなびかせるのは、ガドの加護を帯びた渾身の一撃。
 馳せ合った、一瞬。鮫の体が血を噴き上げて、真っ二つに割れた体がかき消える。
 連携した二人の視線は、ヴァルスタートに向いて。援護の意を察して、彼は頷く。
(「さて……回復役、割と初めてなんだよね。まぁ……何でも出来るのね! あの人カッコいい! とか思われるために頑張りますかー」)
 紙兵散布を降り注がせて、前衛を回復するヴァルスタート。彼に煌めいた瞳を向けるのは、最もダメージを受けていた前衛の乙女。ぴょこぴょこと跳ねて『ありがとう』を表現するのは、愛らしいボクスドラゴン。
「はは! ありがたいな、スー! 俺が代わって礼を言おうぞ!」
 ナギサトが言いながら、その刀に指を掛けて。
「うーん……なんかちょっと、俺の求めていた絵面と違う気がするんだけど……ま、女の子を守るのは俺のポリシーだからねー。これもいいのかな」
 戸惑いながらも前線を保持するヴァルスタート。
 ガドが放った光輪が残った鮫たちの防御を破り、ナギサトの刀が閃けばその阻害は膨れ上がる。
「今や! 防御に穴やで!」
「すでに目標位置はロック済み。かしこまっておりますとも。反動制御完了、弾種識別、軌道補正、以下シーケンス省略……確実に参りましょう」
 アレフガルドの返答は、礼儀正しく明快に。その背後から現れるのは無数の小型ミサイル。白煙を引いて広がったミサイルは、真っすぐに一匹の鮫へ集中する。
「……!」
 爆音と共に、鮫の体が弾けて散る。
「ぃよし! 二匹目やね!」
「お二人に、魔術的防御を取り除いていただければこそ。さて、最後の一匹と参りますかな」
 鮫たちとの闘いは、ケルベロスに優位。だが。
「む……伏せよ!」
 横から割り込んだ火炎が、ナギサト主従、エディスらを一気に巻き込んで燃え盛る。
「これは骨狒々……! 二人は!」
 エディスの身はナギサトが庇ったものの、業火は一気にケルベロスらの隊列を乱して。
「二人では……これが限界、か」
 骨狒々の前に、辛うじて片膝をつくマニフィカト。戦闘不能ではないが、もはや骨狒々の行動を抑えるには、傷つきすぎている。
「げ。さすがに限界だね。急がないと……!」
「補助する、よ」
 市邨の放ったのは、黄金の果実。頷いたヴァルスタートが、脳髄の賦活をマニフィカトに飛ばして、火炎に切り裂かれた前衛を立て直す。
 だが攻撃の手が緩んだ一瞬。残りの鮫が骨狒々へと向かう。連携を狙う敵に、次の瞬間飛び出したのは、傷まみれの影。
「ゲヘナかタルタロスかニヴルヘイムか知らないけど、とっとと還って裁きを受けろ!」
 走る銀閃。エリシエル。飛び退いた骨狒々に引き寄せられていた鮫が、その斬線に踏み込み……首が、飛ぶ。
 エリシエルに、舌打ちが一つ。狙い通り、とまでは言えない結果に。マニフィカトの口の端に、笑みが一つ。満身創痍といえど、足止めの要を護り抜いたことに。
「待たせたわね! さぁ、此処できっちり終わらせてあげるわ!」
 エディスの剣が閃くと共に、全員が骨狒々を取り囲む。
 欠けは、ない。
 包囲は成ったのだ。

●決着
 骨狒々の咆哮が響き、魔法陣から呪詛が跳ね上がる。狙いは、動きを止めていた、マニフィカト。
「させぬよ……役目を果たした者を護るのは、俺の役目じゃろうて」
 飛び込んだナギサトが、それを引き受ける。鳴き声を上げてすり寄ったスーが、冴え冴えとした属性を注入する。
「しかし、この威力! 下手に長引けば不利になるぞ……!」
 その一撃の重さは、半端なデウスエクスのレベルではない。怪魚どもの渾身の噛み付きも、まるで及ばぬ威力。
「本当に強いんやな……! でも、生きてた時のがもっと強いんやろ?」
 飛び込むのは、ガド。
「そんならアンタで、色々勉強させてもらおうか!」
 閃くのは、金色の槍。血が飛び散り、膝をついた骨狒々に向けられるのは、二連の火線。
「アンデッドには火葬、というのがお決まりでございますが。反対にこちらはいかがですかな」
 アレフガルドのバスターライフルが、氷を弾く。骨狒々を貫いた傷口が、血を噴かずに凍り付いて。
「畳みかけますぞ……! 急がねばなりませぬ」
 殺到するケルベロスらを吹き払わんと、骨狒々が吐き出すのは、竜の業火。
「……まずい。まずいよー。全員は間に合わないねー……!」
 ヴァルスタートの脳髄の賦活は、ナギサトに飛ぶ。老竜人の主従が、傷ついたマニフィカトと攻撃の要であるエディスを庇うも、重なる炎に耐えきれず、スーの姿がかき消えて。
「これが最後の宴だ。道化らしく、精々愉しく踊ると良い」
 市邨の蔓が伸び上がり、骨狒々の体に喰らい付く。エリシエルとマニフィカトも、その猛攻に飛び込んで。
 なんとしても、ここで決めなければならない。
 ディフェンダーたちは全力で前線を支えてきたが、もはや限界。誰を庇う体力も、余裕も残っていない。もう一度、業火が前衛に降り注げば、薙ぎ払われるように布陣は崩れるだろう。
「ドラグナーとしてドラゴンに仕えるのがどんな気分か聞いてみたかったけど今はこの言葉もきこえないでしょうからね。恥辱を抱えて死になさい! 死神の隷属!」
 エディスの剣閃に、ナギサトの脇差が重なって。二重に打ち込まれるのは、絶空斬。
 再び、その血に塗れたフードの向こうに、竜の業火が収縮した、その時。
「……!」
 骨狒々の踵を、痺れを伴って叩き切ったのは、ガドの金槍。
 その膝が、痺れに落ちて。
 闘いの序盤から、今の今まで。仲間全員で積み重ね、その痺れを広げてきた結果が、遂に実を結ぶ。
「今や!」
 ガドの合図。骨狒々へと向かう、冷えた殺気。痺れを振り払い、骨狒々が向き直る。火炎と魔弾を閃かせて、殺気の主を射ぬかんと。
「俺は此方、だよ」
 そこにはなにも、いない。声が聞こえたのは、後ろ。
「さようなら、主なき道化。在るべき場所へ、お還り……」
 終わりを告げるのは、市邨の声。
 何が起きたのかもわからぬまま、訪れるのは一瞬の静寂。
 響いたのは、どつり、という鈍い音。
 落ちたのは、骨狒々の首。
 その後を追うように、血濡れの胴体が、ゆっくりと倒れて……消えた。

●帰還
 打ち捨てられた村は、夜の静寂を取り戻して。ほー、ほー、というみみずくの声も、戻ってきた。
「終わったねー……回復役は初めてだったけれど、役には立ったかな」
 ヴァルスタートがディフェンダーたちをヒールしている。
「お主がおらねば、前衛は切り崩されていたことだろうからの。助かった。スーも、喜んでおる」
 ナギサトが頭を撫でるのは、呼び戻されたスー。目をきらきらさせてありがとうを伝えるも、癒し手の口元にはどうにも困惑の笑みが浮かんで。
 一方、エディスは骨狒々の抑えに回った二人に、礼を言って。
「ありがとう。二人が抑えてくれなかったら、こうはいかなかった。乱戦になっていたら、被害は広がっていたわ」
 マニフィカトは、傷だらけの体を癒しながら。
「いやなに……竜語魔法を、少しばかり学ばせてもらっただけさ。知性が残っていれば、もう少しお手柔らかにご教授願いたかったがね」
 その皮肉に、エリシエルが微かに笑んで。
「彼か彼女か……奴に次の世ってのがあるなら、こちら側であることを願うよ」
 彼女の捧げた黙祷に続くのは、ガド。
「アンタもこの村も、用は済んだやろ? ゆっくり休むとええよ」
 骨狒々も死神たちも、死と同時に闇に融けるように消えた。朽ちた村も、やがては自然が覆い尽くしてその影もなくなるだろう。
 その死体が消えた辺りに、膝をついて様子を伺うのは、アレフガルド。
「回収対象は死亡し、部隊は全滅。任務失敗。私なら、それを観測する者を配置いたします。しかし、周囲を見て回っても、気配はなし……」
 『奴ら』は、何を考えているのか。言外の問いかけは、お疲れ様、と声を掛けてきた、市邨に向いたものだ。
「……『マサクゥルサーカス団』か。また、面倒臭そうなのが現れたみたい、だね。次は何が起こるやら」
 蛾の翅を閃かせたシルクハットの男が、この闇のどこかで笑っている。やがてまた、その姿を現すだろう。
 邪悪なその姿を胸の内に、ケルベロスらは顔をあげる。
 迎えに来たヘリオンの光が、闇を裂いて。死闘からの帰還の時を告げていた……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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