竜、祭の日に

■リプレイ

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　秋晴れの空の下、祭りで人々がごった返す神社に、突如、雷光が走った。
　大地を割ってドラゴンが復活する。
　細長い体型に、体表には鱗は認められず、ゴムに似た質感の分厚い表皮が、てらてらと滑るような鈍青の輝き。巨大な蒼いニホントカゲに翼と言った風情のドラゴンが顎を開けば、その中に雷球がバチバチと跳ねている。
　復活の雄たけびと共に雷のブレスを吐く。長い尾を振り回せば社は壊れ、屋台を吹き飛ばす。菓子やおもちゃが塵のように舞った。
　人々はパニックに陥り、我先にと逃げ出した。
　早速寝覚めの食事をと一歩進めたドラゴンが、逃げ遅れた小さな子を食らおうと体を伸ばした瞬間、爆ぜる。月神・鎌夜（悦楽と享楽に殉ずる者・e11464）の気咬弾が炸裂したのだ。
　レイブン・クロイツ（灰色の鴉・e03867）は逃げる人々を庇う位置に立ち、ドラゴンの進路を妨害する。その隙に、病葉・散葉（散り逝く花楓・e00757）が素早く子供を抱きかかえて、ドラゴンから引き離した。
「秋天に轟く悪竜よ。フランツ・サッハートルテが我流にて地獄へ案内させてもらう！」
　フランツ・サッハートルテ（シュピッツショコラーデ・e00975）の高らかなる宣戦布告は、ドラゴンの意識を参拝客から自分たちへと向けるための物でもあった。

　突然の雷鳴と地響きに、境内から雪崩れ、大勢が逃げてくる。階下にいて何が起きているのかわからずざわめく人々の頭上に、オラトリオの少女が飛んでくる。
「お祭りに来られている皆さん、神社にデウスエクスが発生しました。皆さんのことはこの場に私達ケルベロスが必ず守りますので、落ち着いて避難をしてください。」
　散葉はその儚げな容姿からは意外なほど、力強くよく通る声で人々に状況を告げて避難を促した。
　ピンポンパンポーン。スピーカーからチャイムが響く。
「ケルベロスのアーシェスちゃんじゃぞ！ドラゴンが現れたのじゃ！はよう逃げよ！」
　アーシェス・スプリングフィール（よんじゅうきゅうさいじの司祭・e00799）は放送設備を利用し、人々を励ましながら誘導した。ケルベロスの力とその信頼が、パニックになりかけた人々の気持ちを落ち着かせ、誘導をスムーズにした。

　逃げる『餌』を追おうと翼を広げたドラゴンは、眼前に銃弾を撃ち込まれて足を止める。それに被さるように、詠唱が朗と響く。
「『古の盟約とともに、轟け雷鳴よ。我が眼前に立ちはだかる愚者に裁きの鉄槌を！』」
　のじゃロリの双璧、有羽・むつは（ドラゴニート・e02116）の呼び声に応えた黒雲が現れ、雨のような雷が降り注ぐ。
「ふーっはっはっは！　妾、降臨なのじゃ！！」
　腕組み胸逸らしのドヤ顔で、むつは、大地に立つ。
「せっかく祀られている社で狼藉とは不届き千万！　そんな駄竜は妾が躾けてやるのじゃ！」
　びしりと挑発すれば、ぬっぺりと長い顔を此方へ向けたドラゴンの、開いた顎に雷気が凝縮しバリバリと爆ぜている。
　
「風情のわからぬ無粋者め！」
　ドラゴンの周囲に、破壊された屋台の残骸が散らばるのを見てフランツは憤る。これ以上好き勝手はさせぬと、指天殺を繰り出し、ドラゴンを牽制する。
「……おい、レナードは何処だ？」
　鎌夜はレナード・ストラトス（誇りを捨てたスナイパー・e00895）の姿を探していた。なにやらゴネつつ、ヘリオンを降りるまではいたはずだが、今は何処にも見当たらない。
「レナードのおっさんなら、なんでもＡＴＭに用事とか言っておったのじゃー！」
　アーシェスがマイクに向かって、キーンと耳に痛い音を響かせつつアナウンスするには『今日中に振りこまないといけないから、先戦っといてくれぃ』と言い残し、彼女とサーヴァントにチョコバーを渡して消えたとか。なんとか。
「こんな時ですのに……」
　散葉、困惑する。
「かっかっか！　おっさんなどおらずとも、何とでもなるじゃろう！　それより、参拝客の避難誘導が先なのじゃ」
「え、ええ、そうですね。行きましょう」
　引き続き他の仲間がドラゴンを引きつける間に、2人は地上と空から人々の誘導を続ける。
　甲斐あって、混乱はそれ以上大きくならず、人々は無事その場を離れた。大きな怪我人もおらず、まずは幸いだ。散葉は逃げ遅れていた子を連れて、少しよろけながらも階段を駆け下りる。
「もう大丈夫ですよ」
　母を求めて泣きじゃくる子の頭を撫でてあやし、擦りむいた膝に薬液を当てる。幸い、探し歩いていた母親と子はすぐに再会できた。手を繋いで避難する親子を見送って、散葉も戦線に戻った。

　生意気なドラゴニートに突進しようとするドラゴンだが、後足に何かが絡みつき、ガクンと引っ張られた。レイブン・クロイツ（灰色の鴉・e03867）の放った攻性植物が無数の蔓草となってその足に絡みつき、ぎちぎちと食い込み締め上げているのだ。
「ドラゴンには心許無いが、少しは役立ってみせろ」
　足掻き、爪で攻性植物を引きちぎったドラゴンの鼻先に、ちょこんと乗るダルメシアン柄のトカゲがブレスを吐く。白城・明日乃（鋼翼鋼鱗の砲兵・e08897）のボクスドラゴン『モノホッケ』だ。
　ドラゴンの鼻面で振り払われ、ぴょいと宙を舞った『モノホッケ』と入れ替わり、明日乃は竜の蒼鱗に肉薄した。
「敵さんデカいねェ、目ェつぶっても当てられるわな」
　演算するまでもない、構造的弱点＝デカイといったところだろうか？　その図体へ破鎧衝を叩き込む。しかし、滑らかな表皮は存外に固く、砕いて肉を貫くには至らなかった。
　
●
　たくさんあったはずの餌に逃げられ、残ったのは己が壊した社と屋台。それに敵。ちまちまとダメージを与えられるのはイラつくものだ。
　ドラゴンも、目前の邪魔者を排除することに決めたようだった。轟く咆哮とともに雷撃を放つ。境内を閃光が奔り、ケルベロスらをも捉えた。
　フランツはもう一度指天殺を試みる。穿つ指はドラゴンの体表を浅く傷つけたが、貫くには至らない。
（「想像以上に硬い……厄介だな」）
　一旦間合いを離したフランツの間隙から鎌夜はドラゴンへと近づく。デストロイブレードを放とうとするが、それより早く長い尾が蒼く弧を描き、庇うように前に出ていたレイブンのボクスドラゴンや、明日乃とまとめて薙ぎ払った。
「いってぇ……まァ、私ハクシロなんで」
　軽い調子で言う明日乃だが、口調と裏腹、体中を痺れが這って重い。
「ならばこれでどうじゃ！」
　むつはが何かのボタンを押した。すると、何故かドラゴンの身体の周囲で次々に爆発が起きた。むつはが放った見えない小型爆弾が炸裂しているのだ。しゅうしゅうと煙があがったがドラゴンにあまり傷はついていない。思いのほか効いてはいないようだ。
「む……生意気な駄竜め」
　レイブンはドリルで穴を穿とうとする。回転する刃を超硬化した爪で弾いたドラゴンは、逆にレイブンへと突き立てる。主の危機に、ボクスドラゴン『シロ』は属性を注ぎ込んで回復を試みた。
「『【The Moon】』！　なのじゃ！」
　アーシェスがタロットカードを掲げ、逆さのま月を召喚する。散葉は羽ばたき、癒しの風を起こした。
「犠牲者を出させはしません、決して……！　『苦しみを癒す甘き風……、届いてっ、メープルウインド！』 」
　2人の祈り。柔らかく照らす月の光と甘い風が触れるごと、傷が癒され、身を苛む痺れが消える。
「カイザー、頼むのじゃ」
　アーシェスのボクスドラゴンは、主の命に従い属性を注入し、抵抗力を高めていった。

「氷ならどうだ！？」
　レイブンは氷河期の精霊を召喚した。ドラゴンの周囲を氷が取り囲み、凍てつかせて、動きを封じていく。
　散葉はライトニングロッドを構え、杖より雷を迸らせた。ドラゴンは自らの雷でこれを受けようと顎を開く。しかし、散葉と同時にむつはが、宿した『御業』によって炎弾を撃っていた。雷と炎の合わせ技はドラゴンの雷を打ち破り、蒼い巨躯を焼き焦がす。
「『撃つまで撃たれ、撃った後は撃たれない！』 」
　明日乃の詠唱が始まった。翼を広げてドラゴンに迫り、全身に搭載した火砲・重砲を一斉掃射する。超近距離からの射撃を避ける手もなく、ドラゴンに弾丸の嵐が襲い掛かった。ダメ押しとばかり『モズホッケ』がボクスに入って突撃、顎を蹴り上げた。
「『ある朝、“地獄”は夢から覚めると、一対の巨大な竜翼に変わってしまっていることに気がついた』」
　言葉の紡ぐとおりにフランツの翼は禍々しい変化を遂げた。
「『Die Verwandlung!!』」
　禍き翼を広げて、フランツは敵へと突進した。地獄を植え付けられたそこは、既にあったものと同じ傷に変わる。即ち、たった今降り注ぎ無数に穿たれた傷と、同じものに。
　アーシェスは地面に展開したケルベロスチェーンで守護の魔方陣を完成させる。
「かっかっか、地に星を、天に月を、人に守護なのじゃ！」
　盾の守護がもたらされ、ドラゴンの爪や薙ぎ払いの衝撃を和らげる。

　最初こそドラゴンが、圧倒的な強さを見せつけた。しかし、積み重ねた攻撃は遅効性の毒のように徐々に響いていった。
　焼けこげた皮膚は脆くなり、そこへフランツの指天殺を撃ち込まれると、固まったように酷く重く感じられた。爪を振るうと、バランスが崩れて当たらない。動きも少しづつ鈍り、与えられる攻撃を躱しきれなくなってきたようだ。
　ならば雷を放とうと大きく顎を開く。凝縮し凝っって膨れ上がった雷気がいましもケルベロスらへと向けて放たれようとした、刹那。虚空から弾丸が飛来し、ドラゴンの片目を潰した。衝撃で電光は暴発し、逆にドラゴンへダメージを与える。完全に不意を突かれたドラゴンは、怒りと苦悶の咆哮を上げてのたうち回った。
（「魅せるじゃねえか！」）
　知らず、鎌夜は笑みをこぼした。
「ふぅーっはっはっはぁーー！」
　むつはがめっちゃでかい態度を取ると、何故かのたうつドラゴンの真下から溶岩が噴出した。さしものドラゴンをも怯ませるほどの、恐ろしい威力だ。彼女が本気を出した日には、きっとこのボルケーノはさらなる脅威となるだろう。そんな明日は来ないけど。
「とりあえず、殴らせろ。そして『砕け散れ！』」
　レイブンが召喚した巨大な機械の腕で殴りつける。その一撃は、ドラゴンの巨体をも吹っ飛ばした。半壊の社にぶつかり、見る影もないほどに崩壊させてしまう。
「これっレイブン！　飛ばす方向に気を付けるのじゃ！」
「うるせえ！　いちいち気にしてられるか！」
　全壊してしまった社を見てむつはが怒り、レイブンが言い返す。
　瓦礫をこぼしながら、よろよろと這い出す姿は、まるで物陰からはい出るトカゲそのもので、先ほどまでの威容を感じない。付与された炎は絶えず、その体を焦がしていた。
　それでも、究極の戦闘種族であるドラゴンに逃走はない。満身創痍の身を奮いたてて疾駆する。鎌夜に向けてその爪を振り上げた。
　それはむしろ、願ったり。
　竜の真向に身を晒す立つ鎌夜の左手から『地獄』が溢れだす。そしてそれは、莫大な質量の炎と化した。
「『灰すら残さねぇ』 ！　逝けやヴァルハラァ！！」
　狂喜の咆哮のごとき詠唱が、巨大な炎剣を創造した。業炎の刃を渾身の力で振り下ろし、猛攻するドラゴンへと叩きつけた。その威力は今のドラゴンに受け止めきれるものではない。たちまち業炎に包まれ燃え上がる。苦痛、怒り、辺り構わず電撃を迸らせる。
　だが追撃の手は緩めない。続けて、明日乃が突撃を敢行した。全身に搭載したあらゆる火砲重砲を一気に発射し嵐と浴びせる。焼かれ、穿たれた体表は赤く黒く染まって、もはや蒼色はどこにも、ない。
　仰向いて吐き出した雷はまるで線香花火のように弱弱しく宙に霧散していく。どうと横倒しに倒れて、長い尾を未練がましく振り続けた。
　止め、とフランツは闇纏う拳を叩き込んだ。重力の鎖がドラゴンの心臓を捕らえて穿つ。
　ドラゴンは、復活したその場でその命を終えたのだった。

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「綿あめ、りんご飴、かき氷。祭りの風情をわからぬとは、救いがたい者もいたものだ」
　ドラゴンに無残に壊された社や、屋台を悲しげに見るフランツ。とはいえ、参拝客に犠牲者を出すこともなく、戦場から離れた場所にあった屋台などは無事なものもある。結果は上々と言えるだろう。
　むつはたちは、ヒールをかけて社や屋台を治す。若干のファンタジー化も、いっそ祭りにはふさわしいかもしれない。
「妾も先祖代々の社で暮らす身じゃからの、朽ちてボロボロというのは見ていて心苦しいのじゃ」
　むつはは元に戻った境内を見て、腕を組み満足げにうなずいた。

「いやー戦闘終わっちまったかー残念だなー」
　何故か棒読みでそんなことを言いつつ、レナードがひょっこり顔を出す。アーシェスが駆け寄り、その周囲をピョンピョン跳ねる。
「おっさん、おそいのじゃ！　ＡＴＭに行ったのであろう？　遅れたお詫びに綿飴を馳走せよー」
「おっさんが奢ってほしいくらいだ！」
　……なんだこの会話？　聞いてる者たちにはさっぱりわからない。
「皆さん、そろそろ鎌倉へ向かいましょう」
　散葉が促したことで、この後に待ち受ける決戦の方へと皆の気持ちは向いた。そう、まだこの後に強大な敵が控えているのだ。
「うむ、これにて一件落着なのじゃ！　いざ参ろうか、鎌倉へ！　ふーっはっはっは！」
　むつはが尊大かつ高らかに宣言し、ケルベロスたちは急いでヘリオンに乗り込んだ。
　助けた人々の謝辞と声援を受けながらヘリオンは蒼天へと飛び立ち、決戦の地鎌倉へと向かうのであった。

作者：黄秦	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年9月20日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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