アイはゼロの桁の分だけ

作者:小宮祭路


 都内某所のうす暗い部屋の中、一人の女性がクレジットの明細書を見て、そのゼロの桁の多さに目を見開いていた。
「結婚してくれるって、あの人は言ってるわ。だからこれくらいの出費、大したことない……。で、でもこの桁の数……イチ、ジュウ、ヒャク、セン、マン……あは、あはははは!」
 その背後に、音もなく人影が現れた。
「うふふ、あんたの愛に興味があるわ。でも汚れたあんたの愛に触るだなんてもっての他。どうせならその愛で本当に相手を貫いてしまいなさい!」
 女性は抵抗する暇もなく心臓を鍵でひと突きされ、地面に倒れ伏した。そして、倒れた女性の隣にゆっくりとひとつの影が生まれる。
 胸元がモザイクに覆われたぬいぐるみのお姫様のようなドリームイーターが口を開いた。
「ア、アアア……アイ、ガ、ガガガ、愛、ヲ、アゲルワ……」
 女性を突き刺したドリームイーター・陽影がソレを見て笑う。
「さあ、行きなさい。デキの悪い、歪な愛の塊よ!」


「都内で男性の結婚詐欺師にカモにされている無垢な女性がドリームイーターに愛を奪われてしまうらしいッス」
 黒瀬・ダンテが首を鳴らしながら話始める。
「敵の首魁はドリームイーターの『陽影』。詳しい正体は未だわかりません。どうやら無償の愛を使ってドリームイーターを量産してるっぽいんスよね」
 大きなパワーを生み出す無形の愛を的確に捉えられるドリームイーターだというのだから始末が悪い。
「これ以上心の力を奪われるワケにはいきません。陽影は自分の作ったドリームイーターだけをけしかけて姿を消す、というのも事件が大きくなっていくポイントッス」
 幸い、事件を起こすドリームイーターを倒せば、殺されるであろう結婚詐欺師は助かるらしい。
「そう。このドリームイーターの恐いところは似た人間を探して連続殺人をするところにあるんスよね。だから罪を重ねる前に倒します。すると女性の意識も戻る、こういう寸法ッス」
 ダンテは手元にあった資料をパン、と叩く。
「助ける対象ですが、結婚詐欺師とはいえ一般人ッス。事前に救うに限ります。場所は都内マンションの一室ッスね」
 マンションの中ということで戦闘範囲はかなり狭くなっている。また、周囲の人間は予め事前に避難させられているため、周囲に気遣う必要はない。
 詐欺師の男はそうと知らずに囮になるというわけだ。ちなみに彼も一緒に避難させてしまうと敵の出現箇所の特定が難しくなるため、そういったことは行われない。
「やっぱり『陽影』らしき影は確認できません。女性から生まれたドリームイーター一体を相手に戦うことになります」
 つまり、今回の作戦は結婚詐欺師のところにやってきたドリームイーターを待ち構えて迎え撃つ、というわけである。
「デウスエクスに対する人間の存在証明が、罪のあるなしで揺るがされてはいけないッス。詐欺師の罪は人間の法がどうにかしてくれるはずッス。問題は人間がデウスエクスに殺されちゃいけないってことなんス! みなさん、よろしくお願いしますよ」


参加者
七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)
エイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)
付喪神・愛畄(白を洗う熊・e00370)
八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)
アインヘリアル・レーヴェン(虚誕捏造マゾヒズム・e07951)
菅・五郎左衛門(オラトリオのウィッチドクター・e16749)
鋼・柳司(雷華戴天・e19340)
神居・雪(はぐれ狼・e22011)

■リプレイ


 都内某所、高級マンションのとある結婚詐欺師が住む部屋の前で、幾人かのケルベロスたちが集まっていた。
「じゃあ、いいか?」
 長身の鋼・柳司(雷華戴天・e19340)が低く通りのよい声で皆に確認をし、ドアベルを押す。七奈・七海(旅団管理猫にゃにゃみ・e00308)が、すかさずMP3プレーヤーの録音を始めた。
 しばらくすると落ち着きのある男の声がインターホンから帰って来る。
『はい、なんでしょうか』
「手短に失礼する。俺たちはケルベロスだ。もうじきここにデウスエクスが襲撃をかけてくる。ヤツらに対抗するためには俺たちの力が必要だ。護衛をさせてもらえないだろうか」
『は!? デウスエクス? ご冗談を』
 男は柔和に対応しているが、かなり警戒しているようだ。付喪神・愛畄(白を洗う熊・e00370)が柳司とアイコンタクトをして後を継ぐ。
「ええと、貴方の警戒はもっともです。ただ、私たちには時間がありませんし、貴方の時間もない」
 彼の誠実そうな声音が幾分住人の警戒を解いた。
『僕の……時間?』
 エイダ・トンプソン(夢見る胡蝶・e00330)がにこりと笑ってこう付け加えた。
「狙われているのは貴方ですの」
 華やかなエイダの声に男が一瞬唾を飲み込むような間ができる。
『いえ、いいですよ、後で逃げますから』
 アインヘリアル・レーヴェン(虚誕捏造マゾヒズム・e07951)は詐欺師の男とケルベロスの会話を聞いて一人でニヤリと笑った。目の下の色濃いクマが彼の存在を強調している。
「ふふふ……、嘘をついている人の声ですね……そこまで演技が楽しいんでしょうか……あはは、滑稽」
 そこまで黙っていた七海が武器に手をかける。詐欺師が監視カメラを置いていると考えての行動だ。
「ええと、逃げても意味はないですよ。デウスエクスは貴方を追ってきますので」
『お、脅しですか? 然るべきところに電話しますよ』
 相沢・創介(地球人のミュージックファイター・en0005)は事実を話す。
「貴方の命が狙われています。このままだと殺されてしまうんですよ」
『そんなこと言われても困るんですよ』
 詐欺師のハッキリとしない態度に、八蘇上・瀬理(家族の為に猛る虎・e00484)が痺れを切らした。
「あんたなぁ、はよ開けえや!」
 神居・雪(はぐれ狼・e22011)がニヤリと笑う。
「よく言ってくれた瀬理! ドアぶっ飛ばすぞ、おい詐欺師、近くにいたら避けろよ!?」
『ひ、ひいっ!? け、ケーサツ!』
 ドアをナイフでバツ印に斬り飛ばす。残骸が廊下に吹っ飛び、奥にはうずくまる男がいた。彼が詐欺師なのだろう。見れば震えている。
 アインヘリアルが再び暗い微笑みを浮かべた。
「ああ、そんなに震えて。だから素直に開ければいいのに……」
 ケルベロスたちはすぐに部屋の中に侵入した。内部はかなり広く、ベランダからは都内を見渡すことができる。数十人は人を入れられそうな、戦闘に耐えうる部屋が今回の主戦場だ。
 彼らがやってくると、窓の近くに一人の人影が見えた。菅・五郎左衛門(オラトリオのウィッチドクター・e16749)だ。詐欺師はドアを吹っ飛ばしたケルベロスたちではなく、五郎左衛門を見るなり奇声を上げた。
「うわあ! あ、あんたは何者だ! あんたがデウスエクスなのか?」
「あぁ? 見ての通りの医者だが何か?」
「い、医者が窓から現れるもんか!」
「それがなあ、ほらこの通り、俺には羽根があるからな」
「あ、アイツが……アイツがやってきたのかと思ったじゃないかあ!」
「アイツ?」
 瀬理が眉を上げる。彼女はさきほどから詐欺師の男に極寒を思わせる視線を叩き付けていた。
「来たよ!」
 創介が声を上げる。
 その瞬間、窓から出来の悪いお姫様のぬいぐるみのような姿をしたドリームイーターが現れた。胸にモザイクを持つドリームイーターは窓を盛大に破壊し、室内に侵入する。ケルベロスたちは即座に詐欺師を囲んで防御態勢を作り上げた。
「思ってたよりもデカいな。まずはライトニングウォールで様子を見るか」
 五郎左衛門がロッドを振り、紫電散る雷の壁を作り出す。
 ドリームイーターが部屋をぐるりと見回すと、詐欺師の男に気付いて叫び声を上げた。
「アアアアアア!! アイシテル、アイシテル、アイシテルウウウウ!!」
「うわあああ! 僕にはたくさん女がいるんだ。君が誰かなんて、わからないよ!」
 詐欺師は目を見開いて、傍にいた七海に抱きつこうとする。こんな時でも女にすがり付こうとする詐欺師の本性が透けて見えるようだ。
「ふふ……悪い人ですね」
 七海は上手く男をかわしながらも、ドリームイーターに見せつけるように、意味ありげな視線を男に送った。
 ドリームイーターに火を付けるのは、そんな行動で充分だった。

「アイシテル……!」
 ドリームイーターが見た目の鈍重さとはうって変わって素早い攻撃をしかけてくる。いつの間に出現させたのか、鍵状の武器を手にして詐欺師の男をピンポイントに狙っていた。愛畄のビハインドである、つくもが詐欺師をかばい、代わりに斬撃を受けて後ろに吹き飛ばされる。
 創介がすかさずブラッドスターでつくもを回復させるが、それでも傷が塞がりきらない。
「ほう……やるじゃないか!」
 柳司がエアシューズで空気を焼き、炎をまとう蹴りを放った。蹴りはドリームイーターに直撃するが、相手は身じろぎもしない。
「ちっ、ぬいぐるみなのは見た目だけじゃないな。大した手応えが感じられん」
「いえ、ダメージは通っているはずです」
 アインヘリアルはそう呟きながら、小柄な体でライトニングボルトを放った。雷撃を体に受けながら、ドリームイーターは身じろぎをする。
「さて、このスキに、行きましょう!」
「待ってたでぇ!」
 エイダがキープアウトテープを手に廊下に飛び出す。このマンションの部屋は奥の大部屋とリビングダイニングや風呂場で区切られており、キッチン側にはドアを通過しない限り通ることができない。そのため風呂場やトイレに男を隔離させればよほどのことがない限り安全となる。
 瀬理は詐欺師の男を簀巻きにして片手で持ち上げた。男を隔離したあと、詐欺師である証拠を隠滅させないためだ。男は瀬理の肩の上で戸惑った声を上げる。
「うわぁああ! なにをするんだ!」
「うるさいわぁ! 耳元で叫ばんといて!」
 二人はドアに滑り込むと、猛追するドリームイーターを阻むように、柳司と創介がドアの前に立ちふさがった。
 瀬理は廊下の途中にある風呂場に男を放り込み、エイダがテープでお願いだから出てくるなと願掛けのような封をしてドアへ駆け戻る。
「お待たせですっ!」
 こうして戦場と男を隔離することができた。
 部屋では全員がドリームイーターと睨み合っている。
『三千世界の鴉を殺し終わらない夜を始めよう――太陽は私だけで良い。 だから私を見て? あなたの許にすぐにゆきます』
 七海は残像も残さず姿を消した。大きな打撃音だけが部屋の中に響く。ドリームイーターは強力な打撃に大きく数歩、後じさった。
 闇夜に恋の一念で飛ぶ鳥のように、影すらも見えない七海の「闇夜乃恋烏」が決まった。
 続けて雪のライドキャリバー、イペタムが自らの車輪でドリームイーターの足を執拗に轢く。お姫様はきいい、とひと鳴きし、車輪の跡が残る自らの傷をモザイクで包み込んで瞬く間に回復させた。
 五郎左衛門がそれを見て息を一つ吐く。
「全く、長期戦にならねぇことを願うぜ」
『さぁ踊りましょう、蝶のように』
 エイダは華のような笑顔を浮かべ、魔力で生み出した無数の紅い蝶を差し向ける。ドリームイーターは避けようとするが、次第にエイダの蝶にまとわりつかれ、体力を奪われていった。
 愛畄が振りかぶってウイルスの入ったカプセルを投射する。
「回復されてしまうのであれば、こういう手もあるよね」
 被弾したドリームイーターは戸惑いの声を上げた。ウイルスが上手く作用したようだ。
 ミミックのツヴィンガーが具現化した武器でドリームイーターを貫く。
「アイイイ!」
 叫び声を上げながら、アインヘリアルに巨大な鍵で反撃した。ザクリと切り裂かれる鮮烈な音が辺りにこだまする。
「ぐっ!? ああああああ!!」
 強烈なトラウマのダメージが彼を苛む。小柄な体がところどころ砕けたフローリングの床でのたうち回る。
「おいおい、大丈夫か!?」
 五郎左衛門がウィッチオペレーションでアインヘリアルの傷を回復するが、まだそれだけでは足りない。敏感にそれを察知した雪が攻撃の手を緩め、背後にいる彼にこう発した。
『アタシの祈りが、誰かのためになるなら―――』
 神(カムイ)へと捧げた祈りが、清浄な風となって仲間を包む。雪の「病退ける祈り」が彼のトラウマのダメージを緩和するが、まだ立ち上がることができない。続けて愛畄が「傷邪抽出」を試みた。つくもがその間、愛畄を守る。
『傷は体、邪は心、合わせて九十九の神となり姿をなせ』
 傷や不利益を小さな精霊として抽出し、三人がかりで何とか傷を癒すことに成功した。愛畄は安堵の溜息をつく。
「ふぅ、よかったぁ……」
 柳司はその凄まじい様子を目に、重々しく呟き、力を溜め込み始める。
「一撃が重い……。それだけ心に貯め込んだ力が凄まじかったということか」
 創介が首肯する。
「それを引き出す陽影っていうヤツは、底が知れないね」
「違いない」
 柳司は手刀を放つ。
『雷華戴天流、絶招が一つ……紫電一閃!!』
 紫電一閃は手刀より放つ紫の雷刃を以て遠距離の敵手を斬断する。ドリームイーターはその攻撃を一身に受け、テーブルや豪華な調度品を壊しながら後方へと叩き付けられた。
 ふらつきながら素早い復帰をすると、創介にモザイクを飛ばす。ライトニングウォールがある程度の緩和をするが、それを貫いて直撃した。
「ぐっ……!? だけど、ダメージを隠せなくなってきたみたいだ」
 動きが鈍くなるのを感じながらも、手応えがハッキリと見えて来た。

 七海がゆっくりと振りかぶる。やればできるという思いが氷の一撃となり、ドリームイーターに突き刺さった。ぬいぐるみでできた不格好なお姫様が、ぐらつく。
「聞こえているでしょうか? いえ、聞こえていなくとも、呼びかけますよ。こんなことをしても自分を辛くするだけです。もう、やめましょう」
 雪がバレットストームを叩き込む。バタタタタ、とガトリングガンが火花を撒き散らし、薬莢が飛び散る。
「あんたの深い所はわかんねぇけど……心のどこかで利用されてるってことに気付いてたんじゃねぇのか?」
 ドリームイーターは何も返事をしないが、素早かったはずの動きが緩慢になっていく。
『疾走れ逃走れはしれ、この顎から!……あはっ、丸見えやわアンタ』
 瀬理が生粋の捕食者である虎の本能に従い、獲物の放つ存在そのものの力、重力をかぎ分け、ピンポイントに力を凝縮した武器を突き立てていく。
「確かに、うちら女やったら、詐欺師に流し目した七海にこそ、攻撃したくなるモンとちゃうかとは思うわ。まぁそれが、ドリームイーターなんやろうけどな」
「アイィ……」
 ドリームイーターが悲しげな鳴き声を上げる。泣いているのか、ただの鳴き声なのかは誰にもわからない。
「私は少し、騙される人の気持ちもわかります……なんて、貴女に失礼でしょうか?」
 エイダは優雅にドラゴンの幻影を放つ。炎に撒かれ、ドリームイーターは三度鳴いた。エイダはその悲痛な声に悲しげな顔を見せる。
「アイイイイ」
「俺は思うんだ。それでもあなたの愛はホンモノじゃないかって。相手が詐欺師であろうと、なんであろうと」 愛畄は獣撃拳でドリームイーターを殴りつける。既にドリームイーターはボロボロだった。外れそうなボタンの瞳に、モザイクの胸、綿の飛び出した継ぎ目、取れかかっているティアラ。それを見た五郎左衛門が頭を掻く。
「ま、俺にとってはどっちでもいいことだが……いい気はしねぇよな。相手はデウスエクス、ってわけだしよ」 柳司が重力を宿した流星の蹴りを見舞う。
「悪いな、俺はあまりああだこうだ言えないが、幸せになるには冷静さも必要だ……くそっ」
 最後に吐いた悪態は柳司自身に向けられたものだろうか。
「ふふふ、愛を騙る者こそ、断罪されるべきではありませんか? フフフ……失礼。貴女の境遇を悲しんでいるんですよ。ええ、素直にです」
 ゆらり、と復帰したアインヘリアルが深い深い笑みを浮かべて立っていた。ゆったりとした動作で一振りの短刀を模った漆黒の魔力弾を形成、撃ち出し、ドリームイーターに深々と突き刺さる。
『どうですか!? 気持ちいいですか!? 苦しいですか!? 痛いですか!? 辛いですか!? どうなんですかぁああぁあああぁあぁ!?』
 彼の苛烈な表情は、詐欺師にこそ向けられたのかもしれない。
 この一撃でドリームイーターは倒れた。モザイクに捕らわれるように、その姿が消えていく。

 創介が呟く。
「勝った……か。さて、僕はここに残ろう。既に証拠は……」
 七海が頷く。
「はい、ばっちり録音しました」
『うわあああ! 僕にはたくさん女がいるんだ。君が誰かなんて、わからないよ!』
 五郎左衛門が噴き出す。
「はっはは。これ以上ない証拠だな。確かに自白してやがった」
 柳司は少し気乗りしない表情で頬を掻いている。
「はぁ……、全然事情は違うが、どこか重ねてしまうものだ」
 自らの過去に触れるかのような柳司の発言に五郎左衛門が問う。
「どっちだ? 詐欺師か? 騙された女か?」
「いや、気分の話だ。どちらが、というわけじゃないさ」
 ふと雪がバラバラになったフローリングの床下に目をやると、全て別々の女性の写真が出て来た。全部詐欺師と映っている。
 雪がこれ以上ないほどの苦い顔でそれを見て、吐き捨てた。
「……うわ……マジで引くぜ。言い逃れ出来ない証拠の山だ」
 雪を除いた女性陣とアインヘリアルは同じ時期と思われる一部の写真と音声データを手に、騙された女性の家へと向かう。
 雪と残りの男性陣は風呂場で失神していた詐欺師を中心にぐるりと取り囲んでいた。
 愛畄が切り出す。
「というわけで、証拠的なものは出てしまったわけだけど、自首した方がいいんじゃないかな?」
 男はうなだれていた。
「き、記憶にないことを言われても困るんだ」
「いやぁ、浮気の面から突っ込んでいけば言い逃れのしようがないよ。それに……また、命を狙われるかもしれないし」
 言い訳だらけの詐欺師に対し、五郎左衛門が溜息をつく。
「お前、自首しちまえよ。そうでなければ警察に突き出すぞ」
 雪が呟く。
「アタシも自首を勧めるぜ。女として、許せねえ」
 男は溜息を吐いた。心を決めたのだろう。
 陽影がドリームイーターとして利用した女性の部屋では、目を覚ました女性が既に事の顛末をケルベロスたちから聞いていた。
「そう……でしたか」
 女性は健気にも、ケルベロスたちの説明をきちんと受け止めた。しかし、女性の目から涙が溢れてくる。
 瀬理はそれを何も言わずに抱き留めた。彼女は何かを言おうとしたが、言葉が出て来なかったのだ。
 女性が自らの心境を述懐するにあたっては、アインヘリアルが辛抱強く傍で頷き、聞き役に徹していた。
 エイダはその話の途中でこう言った。
「私もどこか共感してしまうのですが、あの……貴女が彼を愛した、その想いはほんものだったと……私は思います!」
 その真摯な言葉は、彼女の心を溶かし、七海が最後につけ加える。
「同じことを何度起こしても、私たちは貴女を助けます、けれど……ううん。戯れ言かもしれないけれど、きっといい人が見つかります。諦めちゃ、いけませんよ」
「私……頑張ります。向き合うのは、辛いけど」
 女性は目を閉じ、しばし彼女たちの優しさに身を任せるのだった。

作者:小宮祭路 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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