皆殺しのサーカス『誘われた戦乙女』

作者:白石小梅

●戦乙女の帰還
 神奈川県は相模原市。その西に広がる山間部に広がる、ある湖のほとり。
 宵闇に、その目を妖しく輝かせる、ラブカのような怪魚が三匹、浮かんでいる。
「ふむ……我々マサクゥルサーカス団も、常に精進し芸を磨くことを忘れてはならないね」
 怪魚たちは、シルクハットを目深に被った男の周囲を回る。男の背には、髑髏の模様と蛾の翼。
「わかるかな? 一流のパフォーマンスをするステージには、華を添える存在が必要なのだよ」
 さあ。と、男は湖畔に怪魚を促して。
「彼女であれば申し分ない! いい助手になってくれるだろう! では、スカウトは任せたよ……」

 男の姿が、宵闇に消えた後。三匹の怪魚は水辺を回り、青い文様を描いていく。
 やがて、湖面から浮き上がるのは、砕けた鎧と帷子、血錆びて折れた槍を両手に。伸びきった髪、痩せこけた頬、伸びた爪牙の戦乙女。
 誰もいない闇夜に、恨みがましい悲鳴がこだまする……。
 
●皆殺しのサーカス
「最近、噂になっている『マサクゥルサーカス団』という存在を聞いたことはありますか? 蛾のような翅を持つ男性型の死神が『団長』と称する集団です」
  望月・小夜(サキュバスのヘリオライダー・en0133)が言う。どうやら、その団長が動きを見せているらしい。
「彼は第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスをサルベージする作戦を指揮しているようです。怪魚型の死神を放って、配下を増やす……死神の常套手段ですね。尤も、彼は自らのサーカス団の団員を募集しているだけなのかもしれませんが」
 無論、そのような物騒な存在を野放しにするわけにはいかない。
「団長はすでに現場を離れているものと目されますが、団員募集は諦めてもらいましょう。今回の任務は、蘇らんとしているデウスエクスの撃破です」
 蘇るという敵は。その問いに、小夜は少しばかり眉を寄せる。
「ヴァルキュリアです。今となっては地球の同胞ですが……彼女は過去にデウスエクスとして死んだ個体です。今は知性も理性もなく、金切り声を上げながら人を屠るだけの怪物。仮に、鳴女と呼称しましょう」
 
「現場は神奈川県相模原市の山間部。ある湖畔になります。夏であればキャンプ客などもいたでしょうが、今はまだ完全に無人ですし、封鎖も行いましたので人払いの心配はありません」
 敵の戦力につきましては、と、小夜が続ける。
「怪魚たちは三匹。噛みついたり、怨霊を具現化して放つ技を用いますが、個体としては脅威度は低いでしょう。危険なのは蘇ったヴァルキュリア、鳴女です」
 血に錆び付き、折れたゲシュタルトグレイブを両手に持ち、狂乱したように飛び掛かって来るという。
「生前の姿からは想像できない、化物じみたトリッキーな動きで襲い掛かって来るでしょう。また、怪魚たちも、彼女を主戦力として援護するはず。くれぐれも気をつけてください」
 油断も容赦も禁物。安らかな死を与え直してあげることこそ、弔いだろうと言う。
 
「死神の戦力強化を放置は出来ません。いえ、むしろ……眠りを妨げられて再び地球を害する尖兵にされつつある同胞を、解放してあげてください、と、言うべきでしょうか」
 出撃準備を、よろしくお願いします。
 そう言って小夜は頭を下げた。


参加者
シェナ・ユークリッド(ダンボール箱の中・e01867)
武田・克己(雷凰・e02613)
リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)
ブロウ・バーン(壊々歯車・e17705)
ウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)
ディーネ・ヘルツォーク(蒼獅子・e24601)
シルヴィ・シャサー(護光戦姫・e25111)

■リプレイ

●夜の湖畔
 時は三月。春の日差しに、花々が可憐な衣を帯びて、祝うように風が舞い、暖かな日差しが大地を抱く季節。
 だが夜はまた、違った顔を見せる。
 そこは、相模原市のある湖畔。時は夜。街灯に影を伸ばすのは、八人のケルベロス。
「静かな夜の湖のほとりにお魚さんなんて風流ですけど、お魚はお魚でも悪い事する死神さんは三枚おろしです」
 シェナ・ユークリッド(ダンボール箱の中・e01867)の羽が、夜の春風に靡いている。
「三枚におろしたって、食えない魚だがな」
 武田・克己(雷凰・e02613)がそれに応える。
 今回の敵は死神。冥府の海を漂う魚と、それに導かれた怨霊だ。
「正に死者への冒涜よ……安らかに眠らせてあげたいわ」
 リリー・リーゼンフェルト(耀星爛舞・e11348)は髪を跳ね上げ、向こうの闇を見詰めている。
 湖より吹き込む風は、春の水気が混じって重い。
「ええ……同胞の眠りを妨げるなんて、私は絶対に許さないわ!」
 シルヴィ・シャサー(護光戦姫・e25111)の瞳に宿るのは、激しい怒り。
 シルヴィを始め、ヴァルキュリアたちは皆、蘇る敵に複雑な想いを抱いている。
「同族としては放っておけませんからねー……安らかに眠らせてあげるためにも、もう一度倒しましょう」
 間延びする声音で、そう言うのはウェンディ・ジェローム(輝盾の策者・e24549)。
「そうね。それが看取りの戦乙女の務めだろうから。今だから分かるわ。生命をこんな風に扱っちゃいけない」
 応えるディーネ・ヘルツォーク(蒼獅子・e24601)は、対照的に静かな憎悪に胸を焦がして、闇夜を睨み据える。
 ケルベロスとしてはこれが初陣である者もいるが、その士気は歴戦の番犬にも負けはしない。
 彼女たちは兵站と看取りを司った者。誇り高き戦乙女なのだ。
 そして、闇の向こうから青い光に導かれて、やって来る者もまた……。
「まるでホラーのような姿ですわね。素敵。死神の趣味だけは認めます」
 アルヘナ・ディグニティ(星翳・e20775)……ドワーフの老女が、姿とは裏腹の落ち着いた響きで、呟いた。
 衣擦れならぬ、錆びた鉄擦れの音を、かちゃり、かちゃりと響かせながら、水に濡れた怨霊がこちらを見る。
 いつの間にか皆から離れていた最後の一人が、そっと仲間に混じる。
「念のために見てきたが……周囲に一般人は皆無。心置きなく任務に専念できそうだ」
 ブロウ・バーン(壊々歯車・e17705)の言葉に、仲間たちが頷き返して。
 それぞれが、闇の中に武装を翻す。閃く銀閃、轟く駆動、上がる撃鉄……。
 サーヴァントたち……ミミックのアングリー、ボクスドラゴンのクリスチーナ、ウィングキャットの助手も、湖から立ち上る冷気に気圧されることなく身構える。彼らもまた、この夜に立ち向かう気構えだ。
 怨霊を取り囲むラブカたちが、招かれざる者たちに、しゅうっと牙を剥く。
 甲高い悲鳴が夜気を叩き、髪を振り乱した怨霊が跳躍した。

●怪魚の誘い
「戦闘モードに移行する……ク、キヒヒ、ハーッハッハァーッ! さあ、壊すか、壊されるか、二つに一つだァ!」
 ブロウが豹変したように己の士気を跳ね上げる。瞬間、鳴女と共にこちらに向かってくるラブカたちを、キャバリアランページで弾き飛ばして。
「……!」
 跳ねてそれを避けた鳴女に構わず、ケルベロスはまずラブカたちを取り囲んだ。
「相変わらず汚え篝火だ。更に不粋なおまけ付き……見てられねえぜ!」
 唾棄するように憎しみを吐き、ディーネが敵の群れの中に飛び込む。音叉状の二又槍が闇夜に閃き、ラブカたちが弾かれ、脛を裂かれた鳴女が、名前の通りの悲鳴を上げる。
 暗い眼窩が、ディーネを睨みつけるも、その時にはさっと後方へと身を翻して。
「はっ……! 二人とも、切り替えが激しいタイプだな! いいね、俺も似たようなもんだ! 全速でぶつけるぜ!」
 克己が踏み込み、雷刃突がラブカの腹を突き破る。
 闇夜をつんざく金切り声を上げながらも、さすがに死神。それだけで身をかき消すほどに柔ではない。ぎらりとラブカたちが睨み据えたのは、ディーネ。
(「なるほど。鳴女が手の回らぬ後列を攻撃したがった時は、代わりにラブカたちがそれを引き受けるということですのね」)
 アルヘナがウィングキャットの助手へと、頷いて。
「後列に呪いへの耐性を。今日も働きに期待していますわよ。……私は、こちらね」
 ラブカが次々に吐き散らすのは、怨霊弾。飛び散る黒い弾丸を、アルヘナの小柄な体が引き受ける。炸裂して後方へ飛び散った分は、助手の羽ばたきがそれを癒して。
(「助手さんの浄化能力はアタシの七割程度……それでも、浄化と耐性の双方を与えられるなら。簡単には押し負けない」)
 リリーの思案する目の前で、克己に飛び掛かった鳴女に、ウェンディが割って入る。
「良い子は寝る時間です。悪い魚の言うことを聞いちゃいけませんよー」
 けたたましく喚きながら振り回される槍の残骸。ウェンディも防ぐものの、がむしゃらに振り回されれば、その全てを押し留めるのは難しい。
「うっわ、凄い動き……流派もなにもあったもんじゃないわね。すぐに治すわ!」
 リリーがマインドシールドを飛ばして、ウェンディを援護する。魔術的な守護の力が、彼女の心身を包み込んでいく。
 前衛たちが鳴女の狂乱をどうにかいなしている隙に、腹を貫かれたラブカの一匹が、そっと身を引いた。混乱に乗じて、回復へと転ずる構えを見せたラブカの脇腹に、どつりと衝撃が走る。
 突き刺さったのは、時空凍結弾。
「こっそりやっても駄目ですよ、死神さん。あなたたちが泳がなくなれば、ここはきっと静かですてきな夜の湖畔ですから。ね?」
 シェナに問われて顔を出したのは、アングリーとクリスチーナ。凍り付くラブカがふらふらと地面に落ちたところに、二匹のサーヴァントが獲物とばかりに喰らい付く。
「……ご主人は鳴女さんのお相手で忙しいですものね。じゃあ、お任せしますよ」
 シェナはするりと闇に身を翻す。
 このラブカは二体に必死に抵抗してこの後もしばらくばたついていたようだが、もはや闘いのただ中に戻って来ることはなかった。数分の後、闘いに帰還したのは、アングリーとクリスチーナのみ。
 それが、小さな闘いの勝敗を物語っていた。

「天よ、輝け!」
 シルヴィが掲げた槍の穂先より迸った稲妻が、煌めく光の帯を呼び起こす。
「このオーロラが私達を勝利に導くのよ! 奮い立って!」
 前線に吹き荒れるのは、癒しと力。嵐のような加護が、前衛に力を漲らせる。
 同時に、克己を庇って腕を喰らいつかれていたアルヘナが、残り二体になったラブカを振り払った。淑女はしかし、助手が飛び寄ろうとするのを制して。
「助手、私の言いつけを破りますの? 大丈夫ですわ。これくらい。前衛の援護を優先なさい」
 助手は迷いを振り払って、前衛に浄化と耐性の翼を振る。
「いつの間にか一匹いませんがー……残った二匹はしぶといですねー」
 ウェンディがそう言うのも無理はない。ジャマーのドレインは通常の三倍の威力。泳ぎ回って回復も図るラブカたちは、確かになかなかしぶとい。
「でもこれで終わりですよー。克己さん、いきます」
 音速を超える拳が、ラブカの横顔を張り飛ばした。吹き飛んでいくラブカを待ち構えているのは、克己。
「おう! そんなに飛びたいなら、飛ばしてやろう! 破邪剣聖! 一天!」
 その踏み込みは、神速。流れるように振り下ろされた刃は、闇夜に落ちる流れ星の如く閃いて。二つに割れたラブカの体が、融けるように消滅していく。
「おっと……三枚おろしのつもりが、勢い余って開きにしちまったな。シルヴィの加護、効きすぎたかね」
 大地に落ちるころには、その姿は跡形もなく。
 その時、前衛に横から襲い掛かるのは、凍てついた金切り声。大地を迸った冷気が、その皮膚を刺すように襲い掛かる。
「ハハッ……化物同士! 削ぎ合い、ぶつかり合おうじゃないか!」
 ブロウが冷気を引き受けてその威力を散らす。針の風のように広がる冷気は、さすがに一人では受けきれないものの、攻撃の要を落とすわけにはいかない。
 四つん這いで跳ねまわる鳴女に、ブロウがフォートレスキャノンを放ち、アルヘナは螺旋掌で鳴女ともつれあう。
「やっぱり、侮れないのは鳴女ね! 前線の損耗率が高いわ! 怪魚型を急いで!」
 リリーがブロウに分身を重ね合わせながら、檄を飛ばす。それに応えるのは、二人のヴァルキュリア。
「了解! ディーネさん、合わせて行きます!」
 シルヴィが投げた槍が、分裂して降り注ぐ。それは鳴女を牽制しつつ、慌てて逃れようとする最後のラブカに直撃して。怪魚は動きを止められ、猫が威嚇するような声をあげる。
 その懐に飛び込むのは、ディーネ。
「……!」
 輝く液体がラブカを凍らせるように包み込み、その胴体に二又のランスが突き刺さる。
「これが私の祝福だぜ……たらふく喰らいな!」
 ディーネの雄叫びに合わせるようにグラビティ・チェインが爆発し、串刺しになっていたラブカが弾け飛ぶ。飛び散った血と臓物が、闇に呑まれるように消えていく。
「魚は捌いた! 陣形変更、鳥を囲う!」
「怪魚型殲滅確認! みんな、囲って殲滅よ!」
 リリーの指揮に合わせて、一人となった怨霊が、地獄の番犬とその従者たちに囲まれて。
 死闘は、佳境を迎えていく。

●番犬の誘い
 怨念の導き手を失った魂の泣き声が、闇夜に深く轟いて。
「キーキーうるせぇんだよ。ちっと静かにしやがれ……パーティはそろそろお開きだぜ!」
 突き出される槍を潜り抜け、克己の絶空斬がその脇腹を切り裂く。
 死神三魚との闘いの中でも、ブロウのキャバリアランページやディーネのグレイブテンペストが、ゆっくりと鳴女の足を鈍らせてきた。色白の素足に紅い筋がいくつも刻まれ、攻撃も当たり始めるようになっている。
 だが、その攻撃は、いささかも衰えることはない。
 振り返った鳴女が、両手を広げて飛び掛かる。克己の正面に飛び込むのは、クリスチーナ。小さな竜の体に、ざっくりと槍が突き刺さって。きゅうっという悲鳴と共に、その姿がかき消える。
「……!」
 息を呑むウェンディの戸惑いが収まるのを待たず、冷気が鳴女の周囲に集まっていく。
「連続ですよ、身構えてください」
 闇から警告を発するのは、シェナ。放たれた冷気が前衛を貫き、主人を庇ったアングリーが凍り付いて消滅する。
「チッ……! 前線のサーヴァントは全滅か!」
 舌打ちと共に、ブロウのチェーンソーがぶつかり合う。
 しかし、ディフェンダーらの活躍のおかげで、鳴女がの苛烈な集中攻撃の中においても、サーヴァントたちのみで前衛の犠牲を抑えているのは、上々。
 魚が放った身を蝕む呪いも、振り撒けたのは序盤だけ。その後は喰らいついての体力吸収や、身を回復しての引き延ばしに終始せざるを得なくなったために、リリーと助手の浄化能力が十分に対応しきった。
「それでも……やっぱり近接攻撃は威力が高いわ! 隙を作って!」
 前衛の立て直しを、一度助手に任せ、リリーが代々歌い継がれてきた耀星伝承・第二節【隠牙】を歌い上げる。その対象は、削られていく前衛……ではない。
「了解です……隙は、見逃しませんよ」
 闇夜の中を、綺羅星のようなプリズム光が一閃する。努めて目立たぬようにしてきた女の、脇からの一撃。それは、前衛ともみ合っていた鳴女を打ち据えて、痺れの火花を散らす。
 必中の加護を与えた相手に、シェナが目配せを交わして。
「さあ、行けますよ。皆さん、畳みかけてください」
「了解ですー。もう、逃がしませんからねー。行きます」
 ウェンディのヴァルキュリアブラストが鳴女の姿勢を崩し、ディーネの稲妻突きが、闇夜に翻る。
「綺麗ごとは言わねえ……もう休みな!」
 血が飛び散り、恨みがましい絶叫が迸る。そこにそっと声を掛けるのは、アルヘナ。
「レディが見苦しいままでは可哀想というもの……さあ、いらっしゃい。その誘惑、断ち切って差し上げましてよ」
 品の良い声音に救いを見たのだろうか。鳴女がアルヘナに向けて身を翻す。
 槍を突き刺そうと走り寄る怨霊。しかし膝に走った痺れが、その足を絡め取った。
「……!」
 ざくり。と突き刺さったのは、アルヘナのマインドソード。その一撃が、鳴女を押さえつける。
「今ですわ。とどめを……!」
 鳴女の顔が上がる。炎を足に絡ませて、シルヴィがその頭上へと直下する。
「二度と死神に利用などされない様に……あなたを倒す!」
 最後の金切り声は、声にならぬまま。鳴女の首が落ち、大地に広がった血飛沫が、洗われるように燃え上がる。
 残った体が、ゆっくりと後ろに倒れていき……。
「貴女の魂に安らぎがある事を……願うわ」
 その言葉が終わった時。
 鳴女の姿は夜に融けた。

●湖畔
 闘いは終わり、湖畔には静寂が戻る。微かに夜行性の鳥の声だけが響く、穏やかな夜が。
「やっぱり、静かで素敵なところでしたね……星空があんなに綺麗」
 ため息を落として、シェナは空を見上げている。あの戦乙女はあの空に帰れただろうか。
「風雅流、千年。神名、雷鳳。この名を継いだものに、敗北は許されてないんでな。魚どもは斬り捨てた。迷わず成仏しろよ」
 克己もまた、刀を拭きながらそっと弔いを投げかける。
 リリーは手を組んで、その生と、その最後に祈りを捧げる。
「せめてヒールで装備を直して、お墓を作って添えてあげたい……と、思ったんだけど。消えちゃったね」
「土は、土に。灰は、灰に。塵は、塵に。……死者は、死者に戻る、ということか。死神どもも闇に消えた」
 ブロウの言う通り。闘いが終わると、全ては幻であったように闇に融けてしまった。鳴女もラブカたちも、血の跡すら残っていない。
 ディーネがため息を落として、口調を戻す。
「せめて墓標くらい建ててあげたいけど。でも、よく考えたらここって夏場はキャンプの人が来るとか言ってたわよね?」
「お墓がどーん、とあったらー……さすがにドン引きですよねー」
 ウェンディがその光景を想像して、苦く笑う。
「はいはい、大丈夫。供養は気持ちですわよ。お祈りすれば、きっと、伝わりますわ」
 アルヘナに引率されるように、呼び戻されたサーヴァントたちが手を合わせ、それぞれの主人の元へと帰っていく。
 共に祈りを終えたシルヴィは、ふと何かの気配を感じて、暗闇を振り返った。
 何もいない。
 だが、見られている。そんな気がする。
「死を嘲笑う、冒涜的なサーカス……姿を見せない卑怯者め。いずれ、きっと……」
 同胞への悼みと、やがて姿を現すだろう憎むべき敵とを胸に抱き、ケルベロスらは夜空を見上げた。
 迎えに来たヘリオンの灯りが、生者の世界への帰還を告げていた……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。