双鎗の古兵

■リプレイ

●
「やれやれ、噂のサーカス団団長殿の部下ですか。サーカスとは、もっと人を明るい気持ちにさせるべきものなんですがねえ」
「けど、団長さん、いないのは、不幸中の、幸いなの、かな……」
　光の軌道を描いて泳ぐ怪魚達を仮面から覗く赤い瞳で遠望し、ルーカス・リーバー（道化・e00384）が大げさに肩を竦めると、ヘイゼル・ハイドランジア（ティアレタヒチ・e01401）が薄藤色のグラデーションの掛った髪を揺らし小首を傾げ、彼女のビハインドである『ステラクリア』が、彼女を守る様に怪魚達とを結ぶ線に割って入る。
「真夜中のショータイムとは惹かれるものがありますが、大切な方たちを巻き込むわけには参りませんし、早く終わらせましょう」
「団長と言う方の狙いが気になる所ではありますが、今は依頼に集中する事にしましょう」
　御伽・姫桜（悲哀の傷痕を抱え物語を紡ぐ姫・e02600）がぬぐるみの様なボクスドラゴンの『シオン』を箱から放ち、様々な花々が蔦の様に巻き付いた白いゲシュタルトグレイブを掲げると、リュティス・ベルセリウス（イベリス・e16077）も見えざる糸を手繰り出し、その肩からウイングキャットの『シーリー』が舞い上がる。
「かつては私達ヴァルキュリアを洗脳して操っていたエインヘリアルも、心を失くした状態で復活させられて手駒扱いですか……因果応報ですね」
　その怪魚達の中央に、双槍を手にしたエインヘリアルの姿を見つけ眼鏡を押し上げたフェリシア・フェルゼン（夢から醒めた落第女騎士・e24694）の瞳に、複雑な想いの色彩が混じり、それを振り払う様にゲシュタルトグレイブを一閃すると、彼女のボクスドラゴンも箱から身を乗り出し牙を剥く。
「槍使いとの戦いか。こっちもやっと実用に耐える槍が手に入ったから、普通に勝負したいとこってのが本音だが……」
　姫桜が掲げたものとフェリシアが一閃した槍を見て、己が手にした槍を顧みたラティクス・クレスト（槍牙・e02204）は、その槍の具合を確かめる様に石突でとんとんと地面を叩く。
「んー、ま、色々あると思うけど、今言える事は『真夜中のお仕事なんて将来の美貌の大敵』って事だよ。将来の美貌の為、頑張ろう」
　ジャスティン・ロー（水色水玉空模様・e23362）が気合いを入れて拳を突き上げ、
「あいつの攻撃、とーっても痛いみたいだけど、頑張って耐えて。絶対勝つから！　皆をしっかり守るんだよっ！」
　と腕に抱えていた、尻尾にリボンの付いた子犬の様なボクスドラゴンの『ピロー』を解き放った。
「さて、準備はいいか？　下らん新人勧誘もいい加減にして貰いお帰り頂こうか」
　リカルド・アーヴェント（彷徨いの機弾・e22893）がくるくると回したリボルバー銃のグリップを握り構えて歩き始めると、皆がそれに続く。
　長身のリカルドを先頭に近づくケルベロス達に、気付いた怪魚達の動きが慌ただしくなると、
「グ……ルァ……」
　エインヘリアルが小首を傾げて向き直り、ゆっくりと双鎗を構える。
「さて、せっかくサルベージされたところ大変申し訳ございませんが、お引き取りいただきましょうか」
　鋲のついた鉄球をジャグリングしながら近づいたルーカスが、言葉と共にその鉄球を投げ付けると、
「グガアァァァァァアアア！」
　咆えたエインヘリアルが、その巨体に似合わぬスピードで駆け出した。

●
　３体の怪魚が怨霊弾を放ち、その怨霊弾と共に駆けて来るエインヘリアルが、２本の槍を巧みに操り、迎え撃つケルベロス達に旋回する斬撃を叩き込む。
「ヴァルキュリアがエインヘリアルに支配された、積年の苦しみは！」
　その一撃に、怨霊弾もあいまった事で前衛陣が押し戻されたところへ、入れ代る形でフェリシア。
　反応したエインヘリアルが槍を交差させ受けようとするが、そのこめかみに鋲のつた鉄球がぶち当たり、気を削がれたエインヘリアルは、フェリシアの一撃を強かに食らう。
「おっと失礼、手が滑りました。やあ、私もまだまだ、鍛錬が足りてませんねえ」
　顔を向けたエインヘリアルに芝居掛った動作でおじぎをして謝罪するルーカス。押し戻された前衛陣に、ジャスティンとリュティスが回復を飛ばすのを傍目に、
「ギッ……」
　小馬鹿にされたのが分かったのか、ギリっと奥歯を噛んだエインヘリアルは、怒気も露わにルーカスに向かって吶喊する。……が、姫桜の散布した紙兵や５体のサーヴァント達がその吶喊を妨害する。
　前衛陣か被った怨霊弾の邪気を羽ばたきで祓ったシーリーが、殊更邪魔をする様にエインヘリアルの眼前を横切った為、一瞬つんのめった形になったエインヘリアルを、ステラクリアが見えざる力をもって縛ると、シオンやピローら３体のボクスドラゴンが一斉にブレスを浴びせ掛ける。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ！」
　そこに全身を光の粒子に変えたフェリシアが雄叫びと共に突っ込み、エインヘリアルの体を押し返す。
「ふむ。サーヴァント達が居なければ一気に詰められていたかもしれませんね。今後は注意しましょう」
　前衛陣の意識が後衛の守りより死神の早期掃討に向いていた事と、エインヘリアルの獣じみた速さもあり、サーヴァント達が居なければ危険な状態になったかもしれないと、ルーカスは心に留めつつ、あくまでもフェリシアを狙おうと煩わしそうにサーヴァント達を払うエインヘリアルへ、するすると近づいて死角から鎖猟の一撃を叩き込んだ。
「ヌ……グ……」
　その一撃にルーカスを睨むエインヘリアルに、フェリシアのボクスドラグンが箱ごと体当たりして気勢を削ぐ。

　スナイパーの２人とサーヴァント達が、エインヘリアルを引き付けている。
「死神供はこの戦法に対応できる様な頭は無い様だし、任せて大丈夫の様だな。では槍合わせする為にも、とっとと片付けるぞ」
　ラティクスは、フェリシアとルーカスによるエインヘリアルの誘引作戦が上手くいっている事に口角を上げ、アームドフォートの砲口を最初の攻撃でエラを凍らせ、今、姫桜に牙を剥いて吶喊しようとしている死神に向けると、轟音と共に斉射する。その砲弾にまぎれて迫る巨体。
「……間近で裁きの雷霆とやらを拝む覚悟は出来たか？」
　砲撃に怯んだ死神の眼前にリカルドの付き付けた銃口。それに気付いた死神が回避行動をとるよりも速く迸った閃光が、轟音と共に死神の大きな瞳を焼く。
「……む。倒せると思ったが……」
「おー！　凄い凄い！」
　リカルドの口調に若干の悔しさの混じる中、視界を奪われ身を焼かれ、狂った様に宙を泳ぎ無秩序に怨霊弾を飛ばす死神の様子に、ジャスティンが感嘆の声を上げる。
　リュティスが歌声で味方を癒すのを確認すると、そいつを中心に狙ってマルチプルミサイルを飛ばすが、他の死神には命中したものの、肝心の死神は無秩序すぎる動きが仇となり命中しない。
「むー……」
　虚しく虚空に目掛けて飛んでいくマルチプルミサイルに頬を膨らませるジャスティン。
　その視線の先で狂う死神が、エネルギー光弾に撃ち抜かれて地に落ちる。
「悪いな」
　見事に死神を撃ち落としたラティクスの言葉に、ジャスティンは頬を膨らませたまま唇を尖らせた。
「残り２体。右の方から片付けるぞ」
　リカルドはちらりとエインヘリアルを押さえる仲間達に視線を送った後、次の死神に目標を定め、あらぬ方向からの跳弾で攻め立てる。

　龍髭街の片隅の裏路地、境界線に位置するサルーンに集う３人は、連携の取れた動きで死神達を相手していた。
（「作戦は上手く回っている様です」）
　リュティスは、サーヴァント達に煩わしそうに槍を振るうエインヘリアルを見て、そんな事を考えながらシーリーを中心にしたサーヴァント達とラティクスら矢面に立つ仲間達の傷を歌声で癒し、その様子とステラクリアが的確にエインヘリアルに麻痺を刻むのを見て、満足そうに頷いたヘイゼルも、
「あなた達と、私の絆が、開花する。瞬間なれど、永久に、咲き誇れ。捧げるわ……私の、癒しの、全てを」
　リュティスの歌声に口から紡ぐ詩を乗せ、石英の華の種を飛ばして回復を後押しする。
「この真夜中のショータイム、私達で閉幕へ誘います」
　その体より大きな白いゲシュタルトグレイブの槍先を、迅雷の如く死神に突き入れた姫桜。その突きに体を削られながらも、姫桜に牙を突き立て喰らい付く死神。
　エインヘリアルを相手取っていたシオンが、顔をこちらに向け喰らい付く死神にブレスを浴びせると、リカルドとラティクスが左右から挟撃に掛る。それを察知し、上に向かって逃げる死神。
「姫桜、さん、回復、します」
　ヘイゼルが溜めた気力を姫桜に飛ばし、それを見たリュティスが、
「では私は……鮮血の花を咲かせて頂きましょう」
　メイド服の裾を翻し腕を振るうと、上に逃げようとした死神が、不可視の何かに裂かれ体液を滴らせて落下する。それを貫いたリュティクスの穂先。
「……焼くには大き過ぎるわね」
　目刺しの如く貫かれた死神を前に姫桜が軽口を叩くと、３度ほど身をよじって痙攣した死神が掻き消える。
「残すは、１体」
　ヘイゼルが目を向けると残す１体の死神が、ジャスティンの援護を受けたリカルドによって葬られ、その姿が掻き消したところであった。
　これで残るは双鎗のエインヘリアルただ一人。

●
「存分に苦しんでくださいね」
　３体のボクスドラゴンの間を貫く様に伸びたフェリシアのケイオスランサーが、エインヘリアルの腰の辺りを貫いた。
「ガ……グヌウ……」
　僅かに顔を顰めたエインヘリアルは、鎬を削るステラクリアに双鎗の穂先を突き入れ、フェリシア目掛けて駆け出す。……が、その動きを阻害する様にシーリーがリングを飛ばし、シオンとピローが同時にブレスを吐いた。
「少しは学習しては如何です？　それとも私達の術中に嵌った事を認めたくないだけですか？」
　口角を上げたルーカスが、鋲のついた鉄球を叩き付けてエインヘリアルを鼻で笑う。
　ギロリとルーカスを睨むエインヘリアルの前に、タイミング悪く、ブレスを吐こうとしたフェリシアのボクスドラゴン。
「ガアァァ！」
　正に八つ当たりと言った感じで連続突きを叩き込まれ、ボクスドラゴンがボロボロになって飛び退さった為、遮る者の居なくなったルーカスの元へ歯を見せて笑い一気に掛けるエインヘリアル。
「言ったでしょう？　学習しては如何です、と」
　迫って来るエインヘリアルを前に余裕の表情……最も顔は仮面で見えないのだが……を崩さないルーカス。その言葉を肯定する様に、横合いから飛んで来た火球をモロに受け、その身を炎に包まれるエインヘリアル。
「さぁ、もう、お帰りなさい。哀れな、勇者さん」
「その通りです。あなた様には何が見えるのでしょうか？」
　杖頭を向け、憐みを湛えたヘイゼルナッツに似た色の瞳を向けたヘイゼルの隣で、同意を示したリュティスが、ナイフの刀身に何かを写してエインヘリアルに見せる。それでも尚、全身を燃やしながらルーカス目掛けて駆けるエインヘリアル。
「いい判断だ。サシでやり合えなかった事が残念だ」
「だが、行かせんのだ」
　そのエインヘリアルの動きに感嘆の声を上げたラティクスが、右から一気に踏み込むと稲妻の如き突きを繰り出し、タイミングを合わせて左からリカルドが、模造術式・雷霆執行の高電圧の雷を叩き付ける。肉をえぐられ身を焦がされながらも一瞥すらせず突き進むエインヘリアル。
「ちょっと怒らせすぎましたか……」
　ルーカスの口元の笑みが消え、大きく後ろに跳ぶ。
「どうか護って、私の大切な仲間たちを……」
　そこへ紙兵を巻きながら宙を舞って割って入ったのは姫桜。更にサーヴァント達も続くが、
「グルゴアァァ！」
　エインヘリアルの言葉は意味を成してはいなかったが、その意味は全員が理解した。『邪魔をするな！』と……。そして繰り出された迅雷の如き双鎗が姫桜の身を穿つ。
「大丈夫っ、僕が癒すから！　ピロー、あいつを押さえて！」
　その姫桜の背後から、ジャスティンがウィッチオペレーションを施して支え、次々と踊り掛かるサーヴァント達……そして、
「あなたの居場所はヴァルハラではない、地獄……ヘルですから！」
　追い縋ったフェリシアがエインヘリアルの背中に向けて繰り出したゲシュタルトグレイブが、胸板を貫いてその穂先を覗かせる。
「ゴ……グ……ボウレ……」
　エインヘリアルの口から漏れる言葉は意味を成さず、直ぐに鮮血にとって替わると、ラティクスとリカルドに跳ね上げられた槍が、回転して離れた地面に突き立ったのを見届けたかの様に、己の血で濡らした地面に崩れ落ちたのだった。

「皆様お疲れ様でした」
　穂先の血を拭ったフェリシアが、皆を労うと、
「大丈夫、ですか？」
「無理し過ぎですよ姫桜様」
　ヘイゼルとリュティクスが心配そうに声を掛けるが、
「ふふ、大丈夫ですよ。これでショータイムは閉幕ですわね」
　姫桜は余裕のある口調でそう返して微笑む。
「……前も死神の依頼に行ったが、本当にやることが下らん連中だな。早いことこの悪趣味なサーカス団の頭を探し出せれば良いのだが……」
「まったく下らん連中だ。どうせ復活させるなら、ちゃんとサシで戦わせて欲しいぜ」
　頭を掻いたリカルドが顎に手を当てると、隣でうんうん頷いたラティクスは、少し違う観点で己の意見を述べる。
「作戦自体は上手くいきましたが、あれだけがむしゃらに来られると危なかったですね。次回は気を付けないと」
「はいはい、考えるのはあとあと、早く帰って寝るよ。夜更かしは将来の美貌の大敵だからねっ！」
　ルーカスが今回の戦いの考察を述べようとするが、寝る気などまったく無い様なテンションの高さのジャスティンに遮られ、微笑を浮かべて口を閉ざす。
　こうして皆は、ステラクリアの周りでじゃれ合うシオンとシーリーにちょっかいを出そうとするフェリシアのボクスドラゴンと、そこに加わりたそうにしながらも、くるくるとジャスティンに振り回されるピローの様子に笑いながら、戦場となった岐阜県各務原市を後にしたのだった。

作者：刑部	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年3月22日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 6／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 0
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。