
テーブルには色とりどりのふわふわとした甘いお菓子が並べられている。そう、マシュマロだ。テーブルを囲んでいた1人、ドン・ゼラチナスが少し大きめのマシュマロを手に取り、口の中に放り込んだ。
「この口に入れた途端に広がる風味、とろける食感、至高なり。ホワイトデーというものは味もさることながら、食し方さえ様々な可能性を秘めたマシュマロを配る素晴らしき日であったというに。近頃の若人はマシュマロを手に取る事すらせんとは嘆かわしや!」
そうだ! そうだ! という周りにいた者たち、信者は口々に不満の声をあげる。そのうちの1人がひときわ大きな声で叫びをあげた。
「ホワイトデー許すまじ!!」
小太りな容姿の男はみるみるうちに全身ビルシャナと化し、マシュマロをぐわっと掴んだと思ったら自分の口に大量に放り込みマシュマロを飲み込んだ。
「チョコやらクッキーなんていうクソみたいな食べ物に追いやられ、どこにいってもマシュマロが追いやられ、取り扱いさえないのに! ホワイトデーのせいでさらなる追い打ち! 絶対に、絶対にゆるさんぞぉおおおおお!!」
「はふー。マシュマロ入りのホットココアってほんとおいしいです!」
湯気の立つホットココアが入ったマグカップを手にしながら、にっこりと笑うのはヘリオライダーのねむだ。
「今回みんなに集まってもらったのはドン・ゼラチナスの信者さんがビルシャナになって悪い事をしようとしてるので、それを止めてもらいたいのです!」
ホワイトデーといえばマシュマロ、という時代があったのだが昨今のホワイトデー事情はチョコやクッキーといった菓子が主流。ゼラチン菓子以外は絶対に許さないというドン・ゼラチナスに感化された信者が、ホワイトデーはマシュマロ以外絶対に許さない明王となったのだ。
「まぁ、このビルシャナさんは元からマシュマロが超がつくほど好きな人だったみたい。それで、現在開催されている駅前広場のホワイトデー販促所に目星をつけて、ここを襲いにくるよ!」
どうやら販売しているものにゼラチンが使われているものが一つもない商品のラインナップとなっているそう。もちろんマシュマロもない。
「ビルシャナの攻撃は全部範囲の広いもので、プレッシャー、氷、トラウマといった効果があるものみたいです」
あまり一箇所に固まっていると危険な目にあう事は間違いなさそうだ。今回はこのビルシャナは単独行動をしており、配下などは一切いない状態だ。
「あと注意なんですけど、事前に一般の人を逃してしまうと敵が寄ってこなくなっちゃいます。なので、避難のタイミングは敵が現れてからです」
敵は1人。駅前という立地もあり避難誘導はさほど難しくないだろう。
「甘いものはおいしいし、幸せを運んでくれるよ! みんな、ビルシャナの撃破、よろしくです!」
参加者 | |
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![]() 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550) |
![]() ウル・ユーダリル(狩人・e06870) |
![]() エフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173) |
![]() スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975) |
![]() ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046) |
![]() 古牧・玉穂(残雪・e19990) |
![]() キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513) |
![]() 九頭龍・夜見(ハラキリハリケーン・e21191) |
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「いらっしゃいませー」
駅前広場で開催されているホワイトデー販促所。クッキーやチョコレートなどの商品が並び、若い人から年配の方まで多種多様の人々で賑わっていた。
日本ではバレンタインデーに女性が贈り、ホワイトデーは男性がお返しをするという認識が広まっているためか客層の多くは男性であったため、ごく自然に相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)は客の中に溶け込んでいる。
またスミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)は人気スイーツショップの制服姿と隣人力で接客スタッフに溶け込んでいた。
他のケルベロス達はすこし離れた場所から周りを警戒し、ビルシャナの出現を待つ。
「しかしホワイトデーかー! なに貰っても食べられるなら良いよね! ってあれ、オイラは返す側……?」
「……ジーグさんはお返しをする側かと」
エフイー・ジーグ(森羅万象身使いし機人・e08173)のセリフにクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)が切り返す。
「お返し、ですか。昔はホワイトデーといえばマシュマロだったそうです。ただ最近マシュマロを送るとあなたが嫌いという意味になるなんて話が流れたせいか、マシュマロを贈る習慣がなくなりつつあるようです。本来は違う意味だったそうですが」
しかし悪い意味で捉えられてしまうかもしれない商品を並べたりはしないだろうと、ヒマラヤン・サイアミーゼス(カオスウィザード・e16046)は思う。
そんなやり取りをしている間に、ホワイトデーはマシュマロ以外絶対に許さない明王となったビルシャナが販促所に近づいてきていた。
「そこの殿方、少し待つでござる!」
いち早く接近に気がついた九頭龍・夜見(ハラキリハリケーン・e21191)はビルシャナに近づき、声をかけた。
「なんだ君は。ボクは忙しいんだ、ようなら後にしてくれたまえ!」
人であった頃の体型が残った小太りなビルシャナは目的である販促所のほうを見ながら、煩わしそうに言い捨てるが、次の言葉で足を止めた。
「マシュマロの美味しい、おすすめの食べ方ってあるでござるか?」
純粋に個人的興味からの質問であったが、マシュマロを愛してやまないビルシャナにはうってつけの足止め方法であったようだ。
「ぉおおおお君はわかってるね! マシュマロはそのまんま食べたって断然美味しいんだけど他にホットドリンクに入れたりするのもお手軽だしマシュマロそのまんま焼いてもいいしトースターに乗せたりクラッカーで挟んだり逆にムースやババロアの冷たいお菓子にだってできるのさ!」
すさまじい勢いでマシュマロについて語り始めたビルシャナは説明に夢中になり、目的であった即売所では避難が進んでいることに気がつかずにいた。すべての一般人の避難が完了するまでさらに時間を稼ぐべく、ウル・ユーダリル(狩人・e06870)も用意していたマシュマロを手にビルシャナに声をかけた。
「やあ、君はマシュマロが本当に好きなんだねぇ。このマシュマロを食べながら一つ、君のマシュマロへの愛を語ってもらえないかね?」
うぉおおお、と声をあげながら差し出されたマシュマロを食べながらおすすめの食べ方に続き、マシュマロへの愛も語り始める。
「……焼きたてのマシュマロも、どうぞ」
ビルシャナの語りが終わりかけたところにすかさずキリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)がライターを使い。目の前でマシュマロを炙り、差し出す。
完全にケルベロス達のペースであった。そうこうしているうちに避難は完了し、武器を携えたスミコと、上着を脱いで半裸となった戦闘態勢の泰地が合流してきた。
「け、け、ケルベロス?!」
合流した2人を見て他の面々も武装を始める。
「ごきげんよう」
この現状に混乱をしているビルシャナに向かい、スカートの端をすこしつまみ上げ、上品に挨拶をするのは古牧・玉穂(残雪・e19990)だ。
「残念ですがマシュマロの出番はなかったようです」
すらりと手にした日本刀を抜刀し、言い放つ。人を傷つける凶行を許すわけにはいかないのだ。ケルベロス達はビルシャナに向かい、得物を構えた。
●
「くそぉお騙しやがって! どうせお前らもマシュマロよりもチョコとかクッキーなんだろぉお!?」
ビルシャナは煽てられていた事に怒り狂い、地団駄を踏みながら氷の輪を作り出し、ケルベロス達の前衛へと放つ。氷の輪は触れた箇所を切りつけ、そして凍らせる。
「……返して合わせて、力を増やして」
ビルシャナの攻撃を受けた前衛だったが、それを即座に回復するのはキリクライシャだ。月光に似た輝きをもつ光の珠を用い、回復と同時に精神集中を促し、狙いを定めやすくする。
「……リオン」
主に続き行動を開始したのはテレビウムのバーミリオンだ。手にしている包丁で敵を切りつけた。
その攻撃に続けと夜見はボクスドラゴンの村雨虎徹獅子王丸へと指示を飛ばす。
「往け、獅子王丸よ! 抜かるでないぞ!」
間髪入れずに繰り出されたブレスは見事ビルシャナへ直撃したが、まだまだケルベロスの攻撃は始まったばかりだ。猛攻が続く。
「おぬしの軽率な行動がマシュマロの評判を貶めている事はわかっておるのでござろうか。某、マシュマロ好きの1人として実に遺憾でござる!」
腕に装着した巨大な縛霊手で殴り、壁に叩きつける。もしビルシャナがマシュマロを強烈に贔屓しながら販促所や訪れていた人々に危害を加えていたらその後どうなる事か。暴力的に押し付けられた価値観、意見は反発を呼び、マシュマロが持ち上げられる事はないだろう。
「ゼラチンは正義! そしてゼラチンが入ったマシュマロだって正義だっ!」
目を血走らせ、くちばしと化した口を大きく開きビルシャナは吠える。ゼラチンは正義。つまり彼の中では他の菓子は悪だという認識になってしまっているのだろう。
「まったく、押し付けがひどいよね。ボクはスイーツはなんだって大好きだけどな」
スミコはグラビティエネルギーが刀身を覆う漆黒の魔槍を構えた。スミコは今回人気スイーツショップの制服を真似た戦闘服を着込んでおり、その見た目から繰り出される稲妻突きはインパクトがでかい。
ケルベロス達の攻撃はマシュマロのように甘くはない。1人対8人と3匹。実に有利に戦闘は進んでいく。
●
「解き放つぜ癒しのオーラ! はぁあああああっ!!」
筋骨隆々のボディでポージングをとるのは泰地だ。そのポーズと同時に彼の中から優しく暖かい光のオーラを解き放ち、味方を回復する。
今回の作戦は回復を重視した陣形で臨んでいるため、敵から受けたダメージは即座に回復。受けたバットステータスなども間髪入れずキュアされていた。しかし裏を返せば攻撃打が不足しているという事に他ならなかった。
数度の攻防を繰り返し、双方に披露がたまっている。敵が倒れるのが先か、味方の誰かが膝をつくのが先か。なりたての新米デウスエクスといえど、数で押し通すにはなかなか厳しいのが現実だった。
「ヴィーくん! いきますよ。コード・トーラス!」
ヒマラヤンは両手に纏ったオーラを具現化し、ビルシャナを殴りつけ、続きウイングキャットのヴィー・エフトが猫ひっかきを繰り出し連携する。
両方とも技が猫パンチのようで見た目は可愛らしいが、効果は抜群だ。
「ぐぬぅうううこんなところで倒れるわけにはいかない! マシュマロを売らない、贈らないような者達をこらしめるまではっ!」
ビルシャナはよろめきながらも尾を揺らし、先端についている鐘を盛大に鳴らし攻撃を仕掛けてきた。
「……リオンっ!」
「獅子王丸っ! っう……」
ビルシャナの攻撃は最初からずっと前衛へと集中していた。なぜなら最も数が多く、そして脆いと見抜いていたからだ。度重なるビルシャナの攻撃に耐えられなかった獅子王丸とバーミリオンは体を起こす事ができず、地面へとへたれこむ。しかしそれは夜見も例外ではない。回復されたとしてもダメージ蓄積量がすでに相当量となっているのだ。あと一撃でも受ければ立っていられなくなるだろう。
「そろそろ仕上げだ」
これ以上長引かせるわけにはいかない。素早く敵の死角へ回り込んだウルは手にした矢で急所を目掛け斬撃を繰り出す。
その反対側からエフイーがビルシャナの懐へと踏み込んだ。
「マシュマロじゃなくたって、食べられるものならなんでも嬉しいと思うけど、なっ!」
炎のようなエネルギーの奔流を拳にまとい、強烈なアッパーカットを繰り出す。死角から切りつけられ、その隙にアッパーカットを受けたビルシャナの体は完全に宙へ浮き、無防備な体勢となった。
「これでお終いにしましょう」
その最大の隙を逃す手はない。玉穂はニコリと微笑み、最大威力の攻撃を繰り出した。
「秘剣・霙切!」
凄まじい斬撃はビルシャナの体を切り裂き、消滅させた。
●
「うーん、頑張った後って甘いもの食べたくなるー。さっきからマシュマロマシュマローって……お腹減った」
燃費が悪いのか、何時も食べ物を食べているというエフイーは、戦闘が終わり空腹にうなだれる。
見かねたウルが戦闘前にビルシャナを引き付けるため持っていたマシュマロを彼に渡していた。
「……ゼラチンの信者、まだ他にも居そうよね」
キリクライシャは傷ついた仲間と戦闘により破壊された周囲の地面や建造物などにヒールをかけながら思案する。その横ではボディビルのごとくポーズを決めてヒールを施す泰地がいる。本人はいたって真面目にヒールをしている。
「ゼラチンとか関係なく、美味しければいいのです」
「ええ、お店の方などが戻られたら少し売り場を覗きましょうか」
女性陣の言葉に賛同が集まる。周囲の片付けを進めながら、戻ってきた店員のすすめなどを聞き、各々好みのお菓子を心ゆくまで物色するのだった。
作者:鬼騎 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年3月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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