轟雷一閃-サンダーボルト・フロム・ブルー

作者:鹿崎シーカー

 雷のような咆哮が、海原に響く。
 なめらかな白銀の体をところどころ焦げさせた竜は、赤い瞳に憎悪と怒りをたぎらせる。
 自分よりもはるかに小さな存在たちは、もういない。背中からぶすぶすと上がる黒煙が、竜のいらだちをつのらせる。
 その多くが破壊された発電機関。拳の跡が残った物や、浅く斬りつけられた物、穴があけられた物まで様々だが、全てがスス混じりの炎を吐いてしまっていた。
 戦艦竜は、残った機関を震わせる。宿主の怒りに応えたそれらは、壊れた分を補うために早く、強く動き出す。
 全ては、この怒りを静めるために。巨大な砲が、不気味な音を立てて動き始めた。


「さてみんな。ここまで、お疲れ様でしたっ!」
「いやいや、まだ終わっちゃいねーっすよ?」
 跳鹿・穫の労いに、リン・グレーム(銃鬼・e09131)は苦笑する。
 二度に渡って戦って来た戦艦竜、V・ガレオン。相模湾に居座る竜と、いよいよ決着をつける時が来た。
 背中に多数の発電機を持ち、雷のブレスや電気駆動での高速移動で脅威となってきたかの竜だが、その発電機も残すところあとわずか。本体の方もそれなりにダメージを受けている。
「ここで踏ん張ればきっと勝てるよ。あ、今までの情報は渡しておくから、後で確認しておいてね」
 さて、件の戦艦竜だが、前回の戦いにおいて電気系の攻撃を吸収する能力があることが明らかになった。また、発電機が少なくなるにつれ、それほど動き回らなくなっていったことと、ブレスの威力が弱まったらしいこともだ。……それでも、それなりの威力はあるようだが。
「たぶん、ブレスとかやるには相当の電気がいるんだろうねぇ。蓄電はできるみたいだけど、けちけちしてるところを見ると……電気こそが命綱って感じなのかな?」
 また、二度に渡る戦闘において、砲塔は一切使われていない。巨大なものが一門だけあるようだが……。
「なんにしても、これが最後になると思うよ。みんな、もうひと踏ん張りだから頑張って!」
「了解っす。借りはきっちり返させてもらうっすよ!」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)
メリチェル・エストレーヤ(黒き鳥籠より羽ばたく眠り姫・e02688)
ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)
ロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854)
秋津・千早(ダイブボマー・e05473)
リン・グレーム(銃鬼・e09131)
鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)

■リプレイ

●番犬、竜に牙をむく
 遠くまで広がる海があった。
 視界を一直線に横切る青い水平線に、晴れ渡った空。少し雲があるものの、少々早めの小春日和となっていた。潮風に吹かれながら、瞑想をしていた鳴門・潮流(渦潮忍者・e15900)は薄目を開く。
「白銀の竜、V・ガレオンですか……さて、最終戦になるといいのですが……」
「なんだかんだ言って、長い付き合いだからね。そろそろ終わりにしたいところだ」
 小さなつぶやきに答えたのは、同じく海を眺める秋津・千早(ダイブボマー・e05473)。そのそばでは、リーフ・グランバニア(サザンクロスドラグーン・e00610)が、ぶるぶると肩を震わせていた。
「リーフ様……いかがなさいました? 震えていらっしゃいますが……」
「ふふっ、ふふふふふ……」
 心配そうに見上げるメリチェル・エストレーヤ(黒き鳥籠より羽ばたく眠り姫・e02688)の耳に、リーフの笑い声が届いた。伏せた顔と長髪に隠れてわかりづらいが、その頬には、不敵な笑みが刻まれていた。
「いや、なに、武者震いだよ。二頭目の大詰め……そう思うと、胸が熱くなってな……!」
「そうでしたか。ぶしつけでしたね」
 すっと、メリチェルは優雅に頭を下げる。リーフは気にするなと手を挙げ、仲間たちの方を向いた。
「みんな、聞いてくれ。私の経験則で言わせてもらうが……この戦い、最後は気迫勝負だ。敵を見据えて、踏み込んだ方が勝つ。『自分の土俵に引きずり込んで食い散らかす』くらいのつもりで臨む先に、活路と勝機がある……!」
「ほう……実に興味深い話だ。できれば、ジドが来てからしてほしかったがな」
「確かに、ジドさん遅いっすね。何してんだろ」
 苦笑するロウガ・ジェラフィード(戦天使・e04854)の声に、鈍色の装甲をまとった竜人……もとい、最終決戦モードのリン・グレーム(銃鬼・e09131)は、無人になったクルーザーを見下ろした。
 今七人と二体、それに応援に来た四人は、それぞれ伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)とレクチェが展開したヒールドローンを足場にしていた。
 船を囮にし、後から奇襲する……この作戦を実行するにあたって、ジド・ケルン(レプリカントの鎧装騎兵・e03409)が船に細工をしにいったのだが、その彼が戻ってきていないのだ。
 さらに数分後、皆が不安になり始めたあたりで、操舵室の扉が開いた。
「……ジド、おそい」
「すまない。少し手間取ってしまってな」
 淡々とした勇名の抗議に、現れたジドが平謝りしながらドローンを展開。片足を乗せ、上昇してくる。ロウガは組んでいた腕を下ろし、仲間たちを見まわした。
「全員、そろったな? では、作戦の確認だ」
「船を囮にして左右に展開。時間差で奇襲。最後に、敵が疲弊したら、タイミングを合わせて胸を一斉攻撃。サーヴァント以外で、四人以上戦闘不能になったら撤退……と、こんな感じかな。みんな、大丈夫だよね?」
 全員がそれぞれうなずきを返す。力強い無言の返事を見て、ジドは手製のリモコンを取り出した。
「さて。それでは……開戦といこう」
 ボタンを押すと同時に、クルーザーがひとりでに動き始める。徐々に速度を上げていく船が向かうのは、海の向こうにある白銀。
 ドラゴンとの決戦の舞台は、静かに幕を開けた。

●竜の逆鱗
 竜は、怒っていた。
 たかがネズミ数匹による、二度の襲撃。それによって、力の源のほぼ全てを破壊され、本来存在しないはずの死のふちに立たされている。力自体は残っているが、生み出せないなら減る一方。これでは他のドラゴンたちとは戦えない。戦乱の世界で狩られ、物言わぬ宝玉と化すのは明らかだ。
 あの、小さな弱者共のせいで。憎悪と怒りが、陽炎のように竜を取り巻く。そして、殺気立った感覚が、ひとつの気配を水面を通じて察知した。
 確かな予感とともに、V・ガレオンは頭を上げる。ルビーのような赤い瞳に捉えたものは、水上を走るクルーザー。そして、羽虫のようにわらわらと集まる、あの憎き存在たち。
 ドルルルルン、と残る発電機関が脈動する。
 必ず、滅する。憤怒と衝動のままに、V・ガレオンは海を蹴った。

●雷竜、リミットブレイク
「……戦艦竜、か。見るのは初めてだが、噂に違わぬ威容だな」
 船頭をいとも容易く噛み砕いたV・ガレオンに狙いを定めるジド。前半分がなくなったクルーザーを避けるように編隊を組むドローンの上を、千早は全速力で走った。後方には、左右に広がる勇名のドローンとミニレクチェ、そして潮流の鎖から放たれる守護の光。
 発射される大量の小型ミサイルに混じって竜のあご下に潜り込んだ千早は、のど元に拳を突き刺した。
 グギィッ、と苦悶の声を上げ、V・ガレオンの頭が引っ込む。クルーザー着水のしぶきに混じって飛び出したリーフは、その額を巨大な斧でかち割った。
「まずは一撃! 天雷を喰らった気分はどうだ、雷竜!」
 叫ぶリーフのすぐ真上を、ディノニクスに乗ったリンが通り越す。鼓動する発電機に、異形の手の平を向けた。
「これまでの借り……ぜぇーんぶ、お返しするっすよ!」
 手の甲の宝石を輝かせ、翡翠色の光弾が直下の発電機を破壊する。爆炎の上がる竜の背中に、潮流とメリチェルが拳を固めて飛び込んだ。
「これが最後の戦いとなるように、全力で相手になりますわ」
「行きます……!」
 蝶のチャームをひるがえし、縛霊手が発電機を押しつぶす。潮流は虹色の花を巻きつけた腕を足場に急加速。螺旋を込めた手で機関に触わり、内部から破壊する。吹きだした重油が、蒸気とともに燃え散り火の粉として消えた。
 V・ガレオンは一声吠えると、その場で一気に方向転換。しなる白銀の尻尾をジャンプで回避した勇名は、尾を伝って背中へ走った。
「暴れるな。……大人しくしていろッ!」
 ちょうど後ろを取ったロウガが、翼を広げ、抜き打ちを放つ。飛ぶ斬撃は時止めの力をもって、発電機のひとつを凍らせる。絶対零度に包まれた機関に、勇名は降魔の拳を打ちこみ破壊した。
「なると。はつでんき、あと、ふたつ」
「ええ。このまま破壊を……っと!」
 唐突に、V・ガレオンが体を揺らす。尻尾と首を振るってヒールドローンをなぎ払い、頭を下げて急速潜航。危うく引きずり込まれかけた二人を、リンの巨腕が引き上げた。
「にげ、た……?」
「いいや、まだだ! 来るよ!」
 直後、海の中から、竜の頭が現れた。大口を開き、ジドとメリチェルをまとめて飲み込もうとする。左右に別れ、側面へと回る二人に、さらに爪が襲いかかった。
「なめるなッ!」
 ジドはアームドフォートを構え、竜の手を砲撃。爪から腕へ、腕から肩へ、背中に向けて主砲を掃射。砲弾の雨が降り注ぐその背に、リーフは斧の二刀流で斬りつける。
 着水とともに、動きだそうとするV・ガレオンの鼻面に、千早はピンと立てた指を刺した。
「煌めけ、覚悟を宿した略奪の光! 『ザ・ロバー』ぁぁぁ!」
「ぅおおおおおおおっ!」
 コートの裏から取り出した銃の引き金を引くロウガ。凍結光線は発電機を一機凍らせ、動きを止める。リーフは力任せに刃を押し込み、白い霜に覆われた機械をX字に割断した。
「これで、あとひとつ……ぐっ!」
 痛みに耐えかねた竜が絶叫する。頭を振って張りついた千早を振り落とし、再び口を開く。のどの奥から、金色の電光があふれ出した。
「皆さん気をつけて! ブレスが来ます!」
 警告を飛ばしながら、潮流は『御業』の腕を出現させる。半透明の腕が首を締めるよりも早く、竜の口から雷撃がほとばしった。
 わずか数秒のブレスは中空に浮くドローンを黒焦げにし、崩壊させる。余波は範囲外にいたメリチェルの足場さえも突き崩し、ばらばらと海に落とし始めた。
「ノイエッ!」
 メリチェルの声に応じて、ビハインドのノイエが彼女を横抱きに受け止めた。
 速度を上げて展開されるドローンを目指して上昇するノイエ。その背後から、竜の銀爪が迫った。
「く…………」
「メリチェルさんッ! 危ない!」
 ディノニクスのハンドルを回し、リンはメリチェルを突き飛ばす。ドローンが彼女をキャッチしたのを確認し、装甲を翡翠色に光らせる。すぐそこにある爪をにらみ、真正面から立ち向かう。
「牡牛を守護せし宝玉よ、邪を払いて我らに癒しをもたらせ! Изумруд Заслон……展開!」
 エメラルドの障壁が、竜の爪と激突した。バリアに広がる緑の波紋。体重を乗せた攻撃は、紙一重で防御されていた。
「よくもまぁ、何度もブッ飛ばしてくれたっすねぇ! 今回は……そう簡単にゃあ行かねーっすよ! 勇名さん、今っす!」
「うん……わかった。やる。大丈夫」
 ぼそぼそと返事をしながら、勇名が竜の背中に着地する。腰まである赤髪を炎のように揺らめかせ、素早く駆けあがる。残る一台に向けて、凍結光線を放射した。
 そして、かちこちと氷に覆われていく発電機関に、ジドのミサイルが降り注いで爆発。度重なる攻撃の果てに、最後の心臓は黒煙を吐いて爆発した。
 バリアに突き立てられていた爪が、力を失い落下する。戦艦竜の全身から徐々に殺意が失せていき、ゆっくりと沈み始める。
 暗い水底へ下っていく竜の背からリーフと勇名をすくい上げ、メリチェルはドローンに舞い戻った。
「……どうなりました?」
 答える声はない。海中に落ちていった竜の姿はいつの間にか見えなくなり、気配も感じない。ヒールドローンを海面近くまで下ろしてもらった潮流が、水にそっと手を差し込んだ。そこを中心に海が渦を巻き始め……。
「な……」
 光が消えた。小さな渦潮が闇の中へ飲まれていき、強烈な異臭に鼻が曲がりそうになる。直に感じる、先刻になくなった以上の、痛いほどの殺気。
「おい、潮流ッ!」
 血相を変え、ロウガが叫ぶ。海に消えたはずのV・ガレオンの大口は既に潮流を捕らえ、閉じようとしている。牙同士が噛み合う寸前に、誰かがその背を押し出した。
「ノ、ノイエ……っ!?」
 隠された顔に存在しない下半身。仲間の盾となれと命じられたノイエの姿は、閉じられた牙に隠され見えなくなった。
 突然の一幕に時が止まったように凍りつく一同。一番最初に動き出したのは、千早だった。
「みんな、動いて! 目の前にいちゃまずい!」
 我に返った仲間たちが、一斉に動き出す。散開し、回りこもうとするケルベロスに対し、V・ガレオンは頭を下げ、巨大な砲塔の照準を向けた。
 深淵にも似た穴の奥で、青白い光が生まれる。その矛先は、リーフに向けられていた。
 ギリ、と奥歯を噛みしめるリーフに、バリアを展開したリンが庇う。そして、エンジンを吹かせたディノニクスがリーフを主ごとはね飛ばした。
「ディノニクス!? 何を……ッ!」
 文句を言いかけた瞬間、蒼光が目の前を横切った。全ては一瞬。相棒はおろか、ドローンの一機すら、完全に消滅していた。
「ようやく本領発揮といったところか。それとも……向こうも必死なのか?」
「さいしゅー、けいたい? うん。ぼく、がんばる……」
 ぴょんぴょんと軽やかにドローンを伝いながら、勇名は竜に近づいていく。首を向け、ブレスの体勢に入るV・ガレオンの顔面に、ロウガは刀を天に向けて振り上げた。
「受けて見よ! 普き生命を護る剣! 此処に示すは調停の刃!」
 刀に宿った霊力が、翼を広げた不死鳥へと形を変える。五色の幻獣のオーラが周囲に集まり、不死鳥と融合して虹色に輝く。バチバチとほとばしる電光を放とうとするドラゴンの頭に、メリチェルは拳を振り下ろした。
 縛霊手に巻き付いた七色の花が霊力を得て動きだし、開いた口を縛って閉じる。速度の乗った鋭い一撃に昏倒し、口をふさがれた竜は確かに硬直した。
「あらあら、私に魅とれてしまいましたか? ご自慢のブレスが出てきませんわね」
 声にならない咆哮を上げ、V・ガレオンは主砲を滅茶苦茶に乱射する。幾条もの光線をかい潜り、胸元に迫るジドと千早を、焦げ付いた腕が打ち払う。
 弾かれた二人を、それぞれ雅とシヲンがヒールドローンを足場に受け止め、治療をほどこした。
「……助太刀に参った。誰も死なせはせんぞ」
「応急で悪いが治療しよう。ポラリス!」
 強引な緊急手術とオーラ、ボクスドラゴンの属性注入によって、回復させようとする二人に、暴れる竜の爪が襲い来る。潮流は、彼らの乗ったドローンの合間をぬってドラゴンの真下へと飛び込んでいく。彼の背を押す虹色の爆風は、暴れ竜の爪おも弾いて、加速させていく。
「なかなか苦労してるみたいですね。でも、あと少しですよ」
 ひらひらと手を振ってカロリナは攻撃を回避する。入れ替わりざま、アクロバティックな飛行で雷弾を避けるリーフと、狂ったように砲撃を繰り返すドラゴンの目が合った。
 『死なばもろとも』。竜の瞳にあったのは、命を賭して戦う決意。たとえ果てても差し違えんとする覚悟。風前の灯火が放つ、最後の輝き。
「なるほど……貴様もまた、死にもの狂いということか。だが!」
 空高くかかげた手に、聖なる槍が現れる。握りしめた宝具を竜に据え、宣言する。
「それはこちらも同じこと! 押し通らせてもらう!」
 V・ガレオンは赤い瞳をカッと見開き、まばゆい輝きを凝視する。砲撃を止めないまま、後ろ足のスクリューを稼働させる、その瞬間。
「では勇名様。準備はよろしいですか?」
「うん。……せぇーの」
 勇名の拳と、メリチェルの斬撃が後ろ足に直撃した。嫌な音を立て片足が折れ、もう片方は切り落とされる。機動力を失ったドラゴンは、口の拘束を引きちぎって悲鳴を上げる。
 痛みにのたうつ竜の、その真下。海が高速でうずまき、渦潮の塔となって竜の巨体を打ち上げた。
 巫術と螺旋忍術によってブーストされた自然の力は、銀の体を傷つけながら投げ飛ばす。中央で、潮流はあらんかぎりの力を絞る。
「うおおぉぉぉっ……自然の驚異をみせてやろう。渦潮の力を今、我が手に!」
 渦潮に囚われ、もがく戦艦竜。さらされた胸の球体に、千早は自らの血で作り上げた鉄の杭を向けた。
「行くよジド君っ!」
「承知した!」
 ジドはバスターライフルを二丁構え、魔術砲を放つ。巨大な杭は魔力の奔流を推進力に、V・ガレオンの胸へと突き進む。白銀の竜は、自由になった口を開き、雷撃を溜めた。これまでにないほど、強く、大きく稲妻が輝く。
「やらせねぇっすよぉ! 牡牛を守護せし宝玉よ、邪を払いて我らに癒しをもたらせ! Изумруд Заслон……展ッ開!」
「幸福の時間の始まりよ。決して終わることのない永遠のトキの、ね。……ねぇ、微笑って?」
 エメラルドの輝きを宿したリンの拳に、結晶状のバリアが開く。轟く雷鳴と激突した盾は、傷ついたそばから透き通った歌声に震え、勇名のドローンによって修復される。
 球体を貫こうと火花を散らす鉄の杭。その切っ先めがけて、ロウガは加速する。虹色の軌跡は嵐のように吹きすさび、斬り刻む。
 美しくも荒々しい連撃の果てに、球体にヒビが入った。
「雷竜! 今度は貴様が、天に裁かれる番だ!」
 虹の間を光の速度で駆けぬけたリーフが、ヒビに聖なるグランバニアの騎士槍を突きこんだ。
 そして、命を持った杭は竜の体を深く貫き、断罪の光とともに白銀の巨体を食らいつく。ブレス止まり、うろこの無数の亀裂から、陽光をかき消すほどに光が生まれる。
 聖なる十字の光を残し、竜は弾けるように消滅した。

●夕暮れの星
「無念の民よ! 邪竜の最期、南十字より照覧あれ!」
「なぁジド……ヤツは何をしているんだ」
「どうやら、勝どきを上げる……というやつらしい。要するに、勝利宣言だな」
 操舵室の上で槍をかかげるリーフを、いぶかしげに見つめるロウガに、ジドは片目を閉じたまま答えた。
 沈没した船をどうにかサルベージしてヒールし、どうにか帰路についた一同。いくつかの戦利品をドローンに乗せ、帰港を待つのみとなった現在。デッキの上では、三戦全てにたずさわったリンと千早が大の字に伸びていた。
「あぁー……終わった。終わったっすねぇ……」
「死ぬほど疲れたよ……お腹空いたなぁ……」
「うふふ、お疲れ様でした。勇名様も、ね」
 メリチェルが声をかけるが、反応はない。正座をした勇名の表情は平淡そのもので、何を考えているかわかりづらいが……まぶたが落ちかけているあたり、眠いのだろう。
 ファンタジックになった屋根に座ったリーフは、そんな仲間たちを見てけらけら笑う。
「お疲れ様。でもせっかく勝ったんだから、もうちょっと喜んだっていいじゃない? 後はファンタジックに帰るだけなんだしー」
「さすがに、勝どきを上げる元気は残ってませんよ、リーフさん。……ふぅ」
 水しぶきを浴びながら、ぐったりとする潮流。リンも目的の主砲を持ち帰れた喜びに浸る余裕はないようで、いつの間にか寝始めている。気が付けば、勇名も正座したまま寝入っていた。
 乗れないメンバーに溜め息をつき、リーフはごろんと寝転がる。そこで、何かに気づいて、空に伸ばした手を軽く握った。
「そっか、あなたも『星』になったんだ。……『竜座』とかち合わないようにね」
 優しい微笑みのその先に、気の早い一番星がまたたいていた。

作者:鹿崎シーカー 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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