
巨大迷路というアトラクションがある。
その名の通り、入り組んだ通路や階段を通ってチェックポイントやゴールを目指すアトラクション。
一昔前には全国的なブームとなり、全国各地に様々な迷路が作られて親子連れなどでにぎわい……。
そして、ブームの終焉と共に多くの施設は閉鎖され、忘れられていった。
だが――、
「さあさあ、我ら『マサクゥルサーカス団』のオンステージの開幕だ!」
廃墟となった迷路に声が響き渡る。
その口上を上げるのは、迷路の入り口に立つ人影――蛾の羽を生やした死神『団長』。
芝居がかった動作で『団長』が両手を広げると、それに応えるようにして3体の怪魚が現れる。
「それでは君達、後は頼んだよ」
迷路の入り口へと泳いてゆく魚たちに背を向けて、『団長』はゆっくりと楽しげに歩き出す。
マサクゥルサーカス団の舞台は始まったばかり。
新入団員も絶賛募集中。
「君達が新入りを連れて来たら、パーティを始めよう!」
遠ざかってゆく『団長』の声を聴きながら、怪魚たちは迷路の中を泳ぐ。
角を曲がり、行き止まりで引き返し、迷路の中をさまよい泳ぐ3つの影の魚たち。
尾を振るたびに魚からこぼれ落ちる青の光は、道しるべの様に迷路の中に漂い残り……。
ついには出口までたどり着いた魚たちが、尾を一振りして入り口に残っていた青の光に新たな光をつなげれば、
――コウッ――。
光の帯は一際強く輝いて弾け、迷路の中をまぶしいほどの光で満たす。
そして、一瞬の光が収まったとき、迷路の中央には新たな影が現れていた。
「――グ、ガ、ガァ――」
ゆうに三メートルを超えるだろう巨体を持ち、鍛え抜かれた身体に纏うのは星霊甲冑。
鎧はひび割れ、首から上は牛の異形の姿となりながらも、その眼は雷光のごとく強く輝いている。
知る者が見れば、それは死神に変異強化されて呼び出されたエインヘリアルだとわかるかもしれない。
だがそれ以上に、その姿は一つの名を思い起こさせるだろう。
屈強な身体に牛の頭部、斧を携えたその姿。
――神話の魔物、ミノタウロス、と。
●
「これまで起こっていた死神によるサルベージ作戦。その指揮をとっていると思われる、蛾の羽をもつ死神の動きが予知されました」
集まったケルベロスたちに一礼して、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は資料を机の上に広げる。
各地で死神が行ってきている、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスをサルベージするという作戦。
「これまでの作戦は知性の無い死神によって行われていましたが、今回は知性のある死神が直接指揮を執ることで、作戦の効率の悪さを改善しようとしているようです」
これまでも、今回も、死神の狙いは死亡したデウスエクスをサルベージし、変異強化によって従えることで自身の戦力を増強することにある。
その作戦の効率が高まってしまえば、死神の勢力は飛躍的に強化されていくことになるだろう。
今から現場に向かっても、蛾の羽をもつ死神はサルベージが始まった時点で立ち去っているために捕捉することはできず、サルベージも阻止することはできない。
「ですが、眠りから呼び起こされたデウスエクスと、サルベージを行った死神が立ち去る前に到着することはできます」
根本的な解決には至らずとも、それによって起きる悲劇を未然に防ぐことはできる。
だから、
「これから現地に急行します。眠りから覚まされた死者に……再度の眠りを与えてください」
お願いします、とセリカは告げる。
向かうのは富山県。
その山中にある、廃墟となった巨大迷路で死神がサルベージを行うという。
呼び起こされるのは、第二次侵略期以前に地球で戦い命を落としたデウスエクス、エインヘリアル。
「エインヘリアルが呼び出されるのは迷路の中ですが……復活直後に壊されてしまいますので、迷路に入る必要はありません」
神代の建築家の手によるものでもない、雨風にさらされて朽ちた迷路ではデウスエクスの足を阻むことなどできるはずもない。
迷路の出口近くがイベントなどで使われていた広場になっているので、迷路を壊して出てきたエインヘリアルが死神と合流したところで戦闘を仕掛けるのがいいだろう。
「死神の戦力は、怪魚型の死神が三体と、サルベージされたエインヘリアルが一人。特にエインヘリアルは高い戦闘力をもっています」
変異強化によって知性を奪われながらも、手にした巨斧は生前と同じかそれ以上の精度と力をもって振るわれるだろう。
一方で、エインヘリアルには劣るといっても三体の死神も無視できるほど弱いわけでもない。
「周辺には住人もいませんので、皆さんは相手を倒すことに全力を注いでください」
そう言って説明を終えると、セリカは目を閉じて小さく息をつく。
神話に語られる牛頭人身の魔物ミノタウロスは、父親が神の怒りに触れた結果生まれたという。
そして、今回サルベージされたエインヘリアルは、死の神を名乗るデウスエクスによって同様の姿に変じることとなった。
どちらも『神』によって生命を歪められた存在。
「……『神』に弄ばれた魂に、どうか安らかな眠りを与えてください」
参加者 | |
---|---|
![]() 叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722) |
![]() 立茂・樒(瑠璃の竜胆・e02269) |
![]() 桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883) |
![]() サイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394) |
![]() レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650) |
![]() エイト・エンデ(驪鱗の杪・e10075) |
![]() エルム・ユークリッド(夜に融ける炎・e14095) |
![]() スマラグダ・ランヴォイア(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e24334) |
●
夜風が叢雲・宗嗣(夢謳う比翼・e01722)の髪を揺らして通り抜ける。
「――」
冷たさの中に少しの暖かみを宿した風を感じつつも宗嗣の視線は鋭く細められ、左手は右腕を強く掴んでいる。
視線の先にあるのは廃墟となった巨大迷路。
誰も訪れないはずの迷路の中で、ゆらりと蠢く影がある。
デウスエクス『死神』。
蛾の羽根を持つ『団長』の指揮の下、死したデウスエクスを配下とするべく暗躍する存在。
だが、『団長』の姿は周囲には見つけられない。
(「『団長』とやら、多くサルベージを試みているようだな。せわしないものだ」)
次の場所へと向かっただろう『団長』に、レッドレーク・レッドレッド(赤熊手・e04650)は胸中で呆れたように呟く。
息を殺す立茂・樒(瑠璃の竜胆・e02269)の視線の先で、死神が出口から現れ――そして、獣の咆吼が響き渡る。
「現れたな」
その声にサイガ・クロガネ(唯我裁断・e04394)は口の端を上げて笑みを浮かべて……。
直後、廃墟を紙屑の如く吹き飛ばして巨大な影が迷宮より飛び出してくる。
それは、変異強化によって牛面人身の異形の姿となったエインヘリアル。
「迷路にミノタウロス……随分と面白い冗談よね」
事前に聞いていたとはいえ、伝承と符合する情景にスマラグダ・ランヴォイア(ヴァルキュリアのブレイズキャリバー・e24334)は小さく息をつき、
「朽ちた迷路なんて少し探検したくなるけれど、本物の怪物が潜んでいるとなると遊びではなくなってしまうな」
残骸に一瞬名残惜しそうな視線を送って、エルム・ユークリッド(夜に融ける炎・e14095)は抱えたウイングキャットのロウジーを地面に放る。
迷路や廃墟の探検は、安全の中で非日常を味わうからこそ楽しいもの。
怪物がさまよう迷宮など、楽しみからは真逆の存在だろう。
それは死神の率いるサーカス団もまた然り。
「『団長』も多忙なようだが、スカウトするなら連れ帰るまで責任を持つべきだっただろうな!」
何処かへと歩きだそうとする死神の前に、全身に地獄の炎を纏わせたレッドレークが回り込む。
このサーカス団が繰り広げる演目は、本来のサーカスとはかけ離れたものだろう。
だからこそ、合流させるわけにはいかない。
「何か、神話だとミノタウロスは紐を使って倒したんだっけ?」
「いや、確か紐は迷宮を抜けるためじゃなかったか?」
縛れそうなものはないかと軽く周囲を見回す桐屋・綾鷹(蕩我蓮空・e02883)に、エイト・エンデ(驪鱗の杪・e10075)が首を傾げて応えて、
「あ、そうだっけ。なら――」
その言葉に綾鷹は、にっと笑って刀を構える。
迷宮を抜けるための紐ならば、外に出てきた相手には必要ない。
ならば、
「――ぶった斬ればいいわけだ!」
「ああ、ヘッドハンティングと行こうか!」
滑るように走り出す綾鷹にレッドレークが続き、
「守るんだ……皆の夢を、俺が」
血の色をした炎の異形のオニヤンマ『ほのか』を呼び出した宗嗣が得物を構える。
黒い角、翼、尾。――普段は収納しているドラゴニアンとしての特徴を開放して、エイトは死神たちを見据える。
生死を弄ぶ死神には、その報いを。
埒外の力を以って暴れる歪められた蘇生者には、せめて苦しみのない安らかな眠りを。
「エインヘリアルも死神も、早々に眠らせるとしよう」
●
「そんじゃ、いくぜ!」
幻影の桜吹雪を舞い散らし、綾鷹が振るう刀が一体の死神を薙ぎ払う。
その刃には深手を負わせるほどの鋭さはない。
だが――花弁に視界を狂わされた死神が放つ怨霊弾は、目の前のエルムから大きく外れてエインヘリアルへと撃ち込まれる。
「お疲れさま、だ」
困惑したようなエインヘリアルの声を背に、エルムは手にした剣を死神が正気に戻るより早く正面から叩き付ける。
「はっ!」
「オ、ォアーー!」
相手の意識に乱れが生まれた機を逃さずスマラグダは両手の剣に重力を宿して切りかかり、その剣をエインヘリアルは手にした斧で受け止める。
元の膂力はエインヘリアルが上であっても、体勢はスマラグダに分がある状態。
その均衡は、
「ガアッ!」
「――くっ」
力任せに振りぬいた斧がスマラグダを押し返し、続く横薙ぎが彼女の体を吹き飛ばす。
だが、振るわれた斧をくぐり抜けた樒が入れ替わるように肉薄する。
「抜けば珠散る破魔の氷刃――」
青い軌跡を描いて振るわれる刃は、斧を振り抜いて無防備となったエインヘリアルの胴体へと吸い込まれ――直前で割り込んできた死神に受け止められる。
しかし、それもまた想定内。
「――死の神とて斬り祓うのみ」
瞬時に狙いを切り替えて、樒が振り抜いた刃は死神の鱗を切り裂き。
斬撃に体勢を崩した死神に、続く宗嗣の炎を宿した一撃が直撃する。
続けざまの二連撃。だが、死神を倒すにはまだ至らない。
衝撃に身をくねらせながらも飛びかかってくる死神の牙を、レッドレークは赤熊手で受け止めて、
「やらせねえよ」
動きが止まったレッドレークに放たれる怨念の塊を、サイガの振るう白光の剣が切り払う。
「――」
怨霊弾を放った死神を、サイガは鋭い視線で一瞥する。
二体の死神とエインヘリアルは、それぞれケルベロスが動きを抑えている。
だが……最後の一体、スナイパーの死神だけは自由となってしまっている。
危険かもしれないが、手を裂くだけの余裕も今はない。
「まだまだ、これからだ」
「ああ、守りは任せな」
エイトの生み出すヒールドローンで守りを高め、サイガは再度光の剣を作り出してエインヘリアルに斬りかかる。
戦いはまだ始まったばかり。
その天秤がどちらに傾くかは、まだわからない。
●
「燃えな!」
綾鷹が呼び出した御業が放つ熾炎に焼かれながらも、死神は宗嗣へと躍りかかり、
「――にゃあ」
不意に、猫の鳴き声が響き渡る。
それは、仲間の傷を癒しているロウジーの声であり、
「僕じゃない」
鳴き声に注意を向けた死神を、一瞬で肉薄したエルムが切り上げる。
首筋を深々と切り裂かれ、死神は大きく身を揺らがせ……その死神を、血の色に似た炎が照らす。
それは『ほのか』を宿した宗嗣の得物が放つ光。
異形の蜻蛉の口腔と化した得物から放たれる地獄の業火が、死神を焼き払う。
「よし!」
守り手が倒れて相手に生じた乱れ。
その隙をついて、レッドレークはエインヘリアルの脇を抜けて背後にいる死神へと接近する。
「グ――!?」
そうはさせじ、とレッドレークの背に斧が振り下ろされ――割って入った樒の刀に受け止められる。
その間に駆け抜けたレッドレークに死神が躍りかかるが、
「おっと、大人しくしな」
「すぐに終わらせてやるぞ!」
突き出されたサイガの縛霊手に受け止められ、レッドレークの炎を纏った熊手が焼き尽くす。
これで二体。
その一方――
「――っ、凄絶な斧撃。流石はヴァルキュリアに選ばれし英霊」
エインヘリアルの斧を受け止めて、樒は大きく息をつく。
その一撃はディフェンダーの立ち位置でも受けきることは出来ず、斧は刀に勢いを削がれながらも樒の肩に深く食い込んでいる。
しかし、
「誠に英霊足りえさせた戦への信念失えば、その斧刃も木偶だ。芯なき刃で、私は断てん」
「断たせはしないさ。俺がいる限りな」
苦痛を気迫で抑え込み、失われた血をエイトの緊急手術で取り戻し。
「あなたの遊び相手は私たちだよ」
スマラグダと樒はエインヘリアルをまっすぐに見据える。
「仇為す者に天なる裁きの一撃を齎せ――肆之祕劍ハスデヤ!」
踏み込みと共にスマラグダは両手の剣を全力で振るう。
大地ごと相手を断ち割らんとする斬撃は、斧で受け止められながらも背後の地面に十字を刻み、周囲に粉塵と瓦礫を巻き上げて。
舞い踊る粉塵の中を、雷速の速さで綾鷹が駆け抜ける。
「牛の頭たぁ良い趣味してんじゃねぇの。その被りもんごと、ぶった斬ってやんよ」
大地を蹴り、宙に浮いた瓦礫を蹴り、幾つもの分身を生み出しながら肉薄し、
「轟け、赤き雷の刃ってな」
振るう刃は赤い稲妻を纏い、分身と共にエインヘリアルの両腕を同時に貫く。
だが、
「オォアア――!」
「ぐっ!」
体に電撃を残しながらも咆哮と共に振るわれる斧を受け、サイガは大きく跳ね飛ばされ、
「サイガ!」
「……ハ、死んで腕でも鈍ったか?」
受け止めたエイトから送り込まれるオーラに、口の端に滲んだ血もそのままに不敵に笑うとサイガは身を沈めて駆け出す。
その後に続けて樒は踏み込み――
「ふっ!」
身を翻すと、サイガの背に撃ち込まれる怨霊弾を切り払う。
その脇を駆け抜けて、レッドレークと宗嗣が地獄の炎を宿した得物をエインヘリアルに叩き付ける。
「受けるがいいぞ!」
「いけ!」
左右から挟み込むように振るわれるブレイズクラッシュ。
そのコンビネーションを、エインヘリアルは斧と砕けかけた鎧で受け止めて――
「僕もいるぞ」
足元から切り上げるエルムのブレイズクラッシュを避けることができず、胴を切り裂かれて体をのけぞらせる。
だが、その目の光はまだ陰りを見せず、振るわれる斧も暴威を保っている。
歪められた命を開放するには、まだ早い。
そして――
「……ちっ」
幾度目かになる怨霊弾を受け止めて、腕に残る痺れにサイガは小さく舌打ちをする。
死神による攻撃はエインヘリアルに比べて軽いものの、積み重なれば軽視もできない。
サイガと樒、二人のディフェンダーが交互に全体のフォローを行っているおかげで、死神の攻撃はある程度防ぐことができているものの……。
……スナイパー故の高い精度は、急所に当たる可能性も高いと言うことでもある。
どこかで運が狂えば、戦線に影響が出る可能性もあった。
それでも、
「この程度で倒れると、思ってんじゃねえぞ!」
刹那、サイガの足元から燃え広がる熱無き炎が彼と仲間たちを包み込み、傷と呪詛を焼き払う。
ダメージは蓄積されているけれど、倒れるのはまだ先のこと。
(「それより先に相手を倒せば、俺たちの勝ちだ」)
「オォオーー!」
「……」
(「斧使いのエインヘリアルか……」)
暴風の如くに振るわれる斧を捌き、返しの赤熊手を撃ち込むレッドレークの脳裏によぎるのは、先日の多摩川防衛戦で戦った深紅の姿。
目の前で同じ得物を操る相手は、あの時の相手にも劣らない強敵であるけれど……、
「……比べてしまうと物悲しいばかりだ」
心を縛られた姿には、敵意よりも高揚よりも、悲しみが浮かんでくる。
だが、言葉も通じぬ化生となってしまった相手にできることは、ただ一つ。
「その魂、『神の手』より救いたいと刃に響かせるのみ!」
綾鷹の放つ雷速の刃と樒の放つ神速の剣舞がエインヘリアルに打ち込まれ、続くエルムの蹴撃が握った斧を大きく外にはじき出す。
そして、その機を逃さずにスマラグダはエインヘリアルの懐へと走り込む。
あがる咆吼に、スマラグダの胸に痛みが走る。
思えば、このエインヘリアルも、自分やその同胞が導いた魂なのやも知れない。
(「ならば、せめてこの手で――というのは傲慢な願望?」)
胸中で呟く問いに答えが返されることはないけれど、
「せめて――」
「――苦しむことのないように」
引き戻された斧に吹き飛ばされながらもエイトからの癒しを受けて立ちあがり、全身を光の粒子に変えて真正面からエインヘリアルを鎧ごと打ち貫く。
鎧を砕かれ、血潮の混じった咆哮をあげるエインヘリアルに、レッドレークは悲しみの混じった視線を送る。
「今度こそ迷わぬよう、同胞の元へ送ってやるぞ!」
片膝立ちになったレッドレークが手に宿した攻性植物を地面に打ち付ければ、罅割れを描くようにして走る赤の蔦がエインヘリアルの足元へと殺到する。
その蔦が描き出すのは、赤で描かれた魔法陣。
赤の魔法陣から生み出される蔦草が、死神の作った青の魔法陣より呼び出された存在を包み込み、
「眠るがいいぞ」
歪められた命を、再びあるべき場所へと送り返した。
そして、残るは一体の死神のみ。
最後に残った死神を見据えて、樒は静かに歩み寄る。
胸に宿るのは、魂を弄ぶ死神への怒り。
(「死した魂を蘇らせ、姿さえ変異させて人形と操るサーカス? ――笑わせるなよ、恥を知れ」)
思いに応えるように、青い刀身は瑠璃色の炎を宿して燃え盛り、
「死を司る神だというのならば、斬神の祈刃と何れ私が成る」
祈りを刃に写して、舞うかのような動きで繰り出される神速の斬撃は、死神の霊体をも切り裂いて周囲に燐光を舞い散らせ、
「もうこれ以上……皆のユメは奪わせない……っ!」
舞い踊る瑠璃色の燐光の中、宗嗣が撃ち出す血の色をした地獄の業火が死神を焼き尽くして――最後の死の神に終わりを与えた。
●
腕に止まった『ほのか』が揺らめいて消えて行き、静けさの戻った廃墟を見上げて宗嗣はふっと息を吐く。
(「闘いの運命を捻じ曲げられ迷宮に鎖された御霊よ、今度こそ天へ還れ」)
かつてはエインヘリアルを生み出していた身が、エインヘリアルを倒すことに不思議な感覚を覚えながら、スマラグダは名も知らぬ魂に祈りを送る。
「この星の生物は『土に還る』と聞くが、神々が浄化される事はない、という事なのだろうか……」
「神だなんて居やしねえって、よく分かるよ」
レッドレークの言葉に呟くサイガの腕にはエインヘリアルの残した傷が刻まれている。
「神など所詮、信仰の象徴。名でしかない以上、僭称するは王、帝位と同じく力あれば容易かろう」
頷く樒の肩にもまた同じ傷。
それは、誰にも奪えぬ、何もより尊き想いと魂を、歪められた命があった証。
「故、私は死神という存在を認めたくはないのだ」
「つくづく死神とは趣味が合いそうにないな」
険しい表情で空を見上げていたエイトは、一度息をつくと翼や角を収納して振り返る。
そこにあるのは、壊された廃墟の残骸。
今更、誰かが訪れるわけでもないけれど、
「せっかくだし、修復して帰らね?」
「そうだな」
御業を呼び出す綾鷹に、軽く笑ってエイトもヒールドローンを呼び出す。
元の……廃墟の姿に戻ってゆく迷路を、綾鷹は少し寂しげに見つめる。
「何でも治せるっつっても限度はあるんだな……」
かつては多くの人が楽しんでいたであろう巨大迷路。
「こんな巨大な迷路を作ってしまうとは、この星の者が娯楽に掛ける情熱は凄まじいな!」
忘れられ、朽ちてゆくだけの場所ではあるけれど……作られたとき、こめられただろう人々の情熱に思いをはせてレッドレークは笑みを浮かべる。
「せっかくだ、最適解に挑戦してみるか!」
「そうだな。行こう、ロウジー」
入り口へ歩き出すレッドレークに、ロウジーを小脇に抱えたエルムも続き。
他の仲間たちも笑いながら歩き出す。
朽ちた迷宮に呼び出された魂に、今度こそ安らかな眠りが与えられることを祈りながら。
作者:椎名遥 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
![]() 公開:2016年3月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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