狂えし深紅

作者:志羽

●狂えし深紅
 深夜、人気はない。
 住宅街の一角を翼持つ女が歩む。その服装はシスターのようで、それが引き連れて歩むのは体長2メートルほどの怪魚だ。
 ゆるゆると長い身体をくねらせて泳ぐ怪魚はくるりと、『因縁を喰らうネクロム』の周囲で踊る。
「あら、ケルベロスと縁を結んだデウスエクスの匂いがするわ」
 ネクロムは周囲を見回し、方向はあちらだと怪魚達へと示した。
「折角だから、あなたたち、彼を回収してくださらない? 何だか素敵なことになりそうですもの」
 怪魚達はゆるゆると示された先へと泳いでゆく。ネクロムはその様にふふと柔らかな笑みを浮かべた。
「一体どんな、因縁をお持ちかしら」
 果てるときに一体何を思ったのかしら、それは恨みかしら、もっと別の深いものかしら――ネクロムは因縁、そして恨みに思いはせつつ、姿を消しゆく。
 そして、示された先へ向かった怪魚達はくるくると泳ぐ。描いた奇跡が魔法陣のように浮かび上がり、その場所からデウスエクスが引き上げられてゆく。
 紅の星霊甲冑は牡牛を模したもの――その纏い手の瞳には理性など何もなく立つではなく、四肢を地に着け唸り声を上げた。

●予知
 事件が起こるのはとある住宅街だと夜浪・イチ(サキュバスのヘリオライダー・en0047)は告げた。
 そこで女性型の死神の活動が確認された。その死神はアギト・ディアブロッサ(終極因子・e00269)の宿敵である、『因縁を喰らうネクロム』という個体らしい
「怪魚型死神に、『ケルベロスによって殺されたデウスエクスの残滓を集め、その残滓に死神の力を注いで変異強化した上でサルベージし、戦力として持ち帰る』って、命じてるのはネクロムで間違いないみたい」
 このネクロムのサルベージ作戦を防ぐために、その出現ポイントに向かってほしいとイチは続けた。
 そして、その場所は。
「多摩川、なのよね?」
 そう、と藤咲・うるる(まやかしジェーンドゥ・e00086)の言葉にイチは頷いた。
 多摩川防衛線――その時に下したアグリム軍団のひとりがサルベージされる。それはうるる達が戦った、牡牛を模した甲冑を纏うもの。
 うるるが懸念した通り、それが死の淵から引き揚げられるのだ。
 サルベージされた者が現れるのは深夜の住宅街の一角。周辺には避難勧告が出るので人払いなどの必要はなく、周囲を気にせず戦うことができる。
 現れるのはサルベージされたアグリム軍団の一人と、怪魚型死神が三体だ。
「サルベージされた者は知性はなく、話はできる状態じゃない。四肢を地につけ獣のような動きで向かってくるよ」
 怪魚型死神は噛み付くことで攻撃をしかけ、三体はサルベージした者を守るように泳いでいるという。 
「死した者を引き上げて、やることが良い事なはずない。このままにはしておけないから」
「そうね……」
 戦ったのは、私達。引き揚げられたのなら、再び終わりを。
 うるるは戦いにいきましょうと、強い意志を見せた。


参加者
藤咲・うるる(まやかしジェーンドゥ・e00086)
泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)
藤守・つかさ(闇視者・e00546)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)
ジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)
セラ・ギャラガー(ヴァルキュリアの刀剣士・e24529)
音之羽・聖(壊翼のカンタータ・e24569)

■リプレイ

●甦りし深紅
 深夜、町に住む人々は姿を消していた。からっぽの町には静けさしかない。それはこれから、この町で戦いが起こるからゆえの事。
 多摩川防衛線――その大きな戦いで倒したエインヘリアルが死神により死の淵から引き揚げられ、この世界に再び現れるからだ。
 その存在を許すことなどもちろん無く、今ケルベロス達はその現場へと向かっていた。
(「薄気味の悪いネクロフィリア共が……!」)
 心の中で月神・鎌夜(悦楽と享楽に殉ずる者・e11464)は思う。これから向かい合う相手、そして死神に抱いているのは激しい怒りと、嫌悪感。
 死神の暗躍――また新たな者の存在に泉賀・壬蔭(紅蓮の炎を纏いし者・e00386)は言葉零す。
「ネクロムとか言う奴に好き勝手されてたまるか……」
 壬蔭の想いに藤守・つかさ(闇視者・e00546)もまた近い想いを抱いていた。
(「死神の連中の行為は死者への……死への冒涜」)
 終わらない生命であるが故の傲慢さ――そう、つかさは思っていた。
 そしてそんなもの、許せるはずもないと。
 死者や死に瀕した魂を導くのはヴァルキュリアとしての定め。
 セラ・ギャラガー(ヴァルキュリアの刀剣士・e24529)にとって、それを曲げて戦力としてサルベージする死神は、ヴァルキュリアの敵だ。
(「奴らの目的を果たさせるわけにはいかない」)
 セラは紫色の瞳を眼鏡の下ですっと、細めた。
「死神のサルベージは前々から厄介だと思ってたけど」
 今度は、と源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)は紡ぐ。
 眠った命を無理やり起す死神の所業、それは瑠璃にとっては嫌悪を感じるものだった。それは瑠璃が、命を扱う職であるが故かもしれない。
(「洗脳されていたとはいえ、多数の犠牲者を出してしまった罪……少しでも償うために私は戦います!!!」)
 帽子をピンッ! と指ではじいてジェニファー・キッド(銃撃の聖乙女・e24304)は表情引き締めた。
「散々俺達を駒にしてきた奴らが、死んだ今じゃ、逆に四つん這いで死神の手駒」
 ほんと形無しだなと、しばしの沈黙をもってから音之羽・聖(壊翼のカンタータ・e24569)は紡ぐ。
「プライドも何ももう残っちゃいないだろうけど、さっさと楽にしてやるよ。今なら……」
 殺せるからと零すのは、ケルベロスとしてあるからだ。今なら、デウスエクスを殺せるのだから。
 気の毒ね、と藤咲・うるる(まやかしジェーンドゥ・e00086)は零しつつ、視線を周囲へと向ける。
 似たような街並みの景色、けれど見覚えのあるようなと思うのは、そこで戦った記憶があるからだ。
 そして再び――どの形は、歪ではあるのだが――出会った相手。
 錆び腐った縁に眠りを妨げられるなんて、と零れる。
「二度も戦うことになるとは思わなかったけど」
 それがせめての手向けってものよ――そう言葉続けてうるるはまっすぐ、視線向けた。
 アグリム軍団との戦い――戦って倒した相手のなれの果て、その姿を前に。
 牡牛を模した、深紅の鎧を纏う者へ。

●歪な刃
 青白い光を纏い、怪魚型の死神三体と、依然この場所で倒したアグリム軍団の、深紅の鎧纏う者と見える。
 お互いにその姿を見止めるのは同時だ。
 死神達は前にでて、引き揚げたエインヘリアル、深紅の鎧纏う者を守るように動いてきた。
 口を開き噛み付く――その攻撃を引き受けたのはうるるだ。
「攻撃は通さないわ、それが私の仕事だもの」
 噛みつかれた場所は痛くないといえば嘘になる。けれどこのくらいではうるるは揺るがない。
 怪魚達は誰か一人に集中するのではなく、狙いはばらばらに動いていた。
「目標はコイツらだな……」
 その死神達へと壬蔭は狙い定める。
 壬蔭の身体から現れるミサイルポッド。それより放たれるミサイルの雨が、死神達の上へと降り注いだ。
 攻撃を受け失う体力を、怪魚達は噛み付き、奪いとって糧とし癒す。けれどそれは、微々たるものだろう。その回復で受ける攻撃すべてのダメージを緩和できるわけはない。
 牙剥く怪魚、その一体へと向かいながら鎌夜は眉しかめる。
「死臭が酷くて鼻が曲がりそうだぜ……!」
 流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが炸裂する。その衝撃に、敵の動きが一瞬止まる。
 攻撃受けた怪魚へと、さらにケルベロス達からの攻撃は募る。
 それは一体ずつに向けての攻撃もあり、全部まとめて繰り出される攻撃もある。
「弾丸の雨を受けなさい!!」
 ジェニファーが上空から巫術で呼び寄せた自分の分身の式神――共にリボルバー銃構え放つのは弾丸。ガンスリンガーと巫術の合わせ技で繰り出されるそれは、ジェニファーだけの技だ。
 その弾丸の雨は確実に怪魚達を、そして深紅の鎧纏う者も貫いてゆく。
 だが相手は怪魚だけではない。
「我が手に来たれ、黒き雷光」
 その攻撃の隙間を縫うように走る黒い雷。黒衣の裾翻し、つかさが自身のグラビティを黒い雷に変え、武器を介して敵へと放ったのだ。
 狙うのは深紅の鎧纏う者。地の上を滑るように走った雷はその身を穿ち痺れを残してゆく。
「もう、わかんないか……」
 つかさは攻撃を喰らっても、何も感じて、考え思っていないような獣のような相手へと言葉零す。
(「あんたが倒れた戦いで、あんたはこいつを何度も喰らった。あの時と同じように、送ってやる……」)
 敵へと攻撃が重なる。その中で瑠璃は自分の為すべきことをしていた。
「なんとか元を断ちたいところだけど、まずは目の前の脅威を取り除かないとね。理性を亡くして猛獣と化した深紅の兵に終焉を」
 そのためにも、戦線維持に専念すべく瑠璃はケルベロスチェインを這わす。前列の仲間を守護する魔法陣が描かれ力となってゆく。
 怪魚の一体へ攻撃を集中しつつ、それぞれが初動で戦える状況を作るべく動いていた。
 攻撃に移る前に、聖はその心、その刃を一体化し霊的防護を断ち切る力を宿していた。
 これによって得るのは、敵の恩恵を打ち破る力だ。今まで静かだった聖のその表情に、徐々に戦闘狂である部分が見える、その始まり。
 怪魚の一体目は戦闘始まりすぐ、倒されその姿を消した。
 自身が今すべきことは、その動き止める事。
「背中を見せたらダメよ、お気を付けて?」
 うるるが喰らうことによってその身の内に蓄えてきた病魔。それを熱エネルギーに変換して、この場に解き放つ。それは燃え上がる炎となって、死神達を、そして深紅の鎧纏う者を大火の中に閉じ込めた。
 愛するなら堅実に、誠実に、外堀から埋めていくものよってママは言っていたわ――うるるはそう呟いて小さく笑み零す。
「ほら、これであなたも袋の鼠! ってね?」
 大火に抱かれ、身が焦がれる。その中を死神達は泳ぎ、なお向かってくる。
 ダメージが最も募っている死神へと向かい、セラは踏み込む。足を振り上げ、回し蹴りで一閃。怪魚の身体、その中心を貫くように蹴りが放たれた。
 深紅の鎧纏う者をうるる達が抑えている間に、怪魚の死神に攻撃が募る。
 幻惑をもたらす桜吹雪と共に死神達に向ける一刀を聖は向ける。
 仲間を庇うように動いた怪魚の死神は、その一撃をすべて受けて、果てた。戦えることは、自らの存在意義。戦えない自分ではない、という事が聖にとっては嬉しくてたまらないという感情を生む。
 回復手段が自身の攻撃で敵の者を吸収するしかなく、それでは攻撃重なればジリ貧だ。そして深紅の鎧纏う者は、理性失い戦うことにのみ意識傾け、怪魚達を回復する様子がなかった。
 逆に、こちらは一撃受ければ、特に深紅の鎧纏う者からの一撃を受けた者には瑠璃が気力を溜め、飛ばして癒す。その手が足りなければもちろん助けもあった。
 戦況を優位に進めることができたのは、もちろんケルベロス達の方だった。

●甦った者、ひとり
 最後に残っていた死神の一体も倒れる。
 その一撃を決めたジェニファーはすぐ倒した敵から残る者へと視線向ける。
 残るは深紅の鎧を纏う者のみ。その星辰宿る長剣から繰り出される重い一撃が鎌夜に深く入る。
 けれどすぐその傷回復する治癒が瑠璃より向けられた。
「良い子だ、役に立つじゃねぇか?」
 瑠璃からの回復を受け、鎌夜は笑って零す。そしてお返しだというようにその懐へと踏み込み距離詰める。
 先ほど受けた攻撃など、なんでもないものだったのだというように。
「もう一度死なせてやるよ。慈悲として受け取りなァ!」
 鎌夜の地獄化しているその腕に、巨大な月鎌が獄炎により形成される。その刃は敵の首元へと振り下ろす。
「死なねぇ奴なんざいねぇんだよ!」
 振り下ろした瞬間、鎌夜へと伝わる硬い鎧の感触、けれどその威力はしっかりと敵の身へと響いていた。
 鎌夜自身の得ている恩恵も加わり、それはこの戦いの最中で一番、深い痛手を与える攻撃だった。
 攻撃重ねられる中、深紅の鎧纏う者もただやられているだけではない。
 以前戦ったときに放ったのは、牡牛のオーラ。しかしこの戦いで放たれるのは、その時の輝きなど無い淀んだものだ。
 暴虐に荒くれるだけの牡牛を象ったオーラが襲いくる。しかしその一角を壬蔭が庇い受け、前列全員へと向けられたそれは通りきらない。
「アグリム軍団……同胞達を洗脳していた者達……もう貴方達の顔は見たくない!! 今度こそ最期にしてやります!!」
 ピンっと帽子を指ではじき、ジェニファーは二丁のリボルバー銃を構る。そして狙い定めて、弾丸放った。だが弾はまっすぐ敵に向かうではなく地面を、周囲の塀の上を跳ねまわり狙った場所を射抜いた。
 その間にセラはその背中の光翼暴走させていた。その身をもって、敵に向かうべく。
「出力50%UP、75%UP、100%UP、150%UP、200%UP……光となれ!」
 その言葉と共にセラは走り抜ける。全身を光の粒子に変えて、敵へと突撃した。
 その攻撃を敵はかわす事叶わない。正面からただ受けるのみ。
「理性が欠け獣のようだが……強いのか?」
 唸るような声を上げ、振り下ろされる長剣。その一撃を受け、懐に入り込んだ壬蔭は。
「この隙を逃すのは得策じゃないな……」
 一層深く、一歩踏み込んで。
「――vermiculus flamma」
 その腹に向かった拳は大気との摩擦により炎を纏う。炎を纏った拳は。相手の身体の中心へと叩き込まれる。
 敵が減り、今まで回復で手一杯だった瑠璃にも余裕が出来た。
「これが僕の全力だよ!! 喰らってみる?」
 太古の月の力を高度の精神集中で超凝縮し、光の玉とする。それは迷いなく、敵へとぶち当たった。
 ふは、と笑い零したのは聖。一太刀振るうたびに高揚した笑い声が漏れていた。
 そして、もうすぐこの目の前のデウスエクスを『殺せる』事を感じ、一層高揚するものがある。
「永遠に気付かなければ、夢は終わらないのに」
 きみにあって僕にないもの――思い焦がれる憧憬の旋律。聖の奏でる物悲しい歌声は、心無く戦いに傾倒したものにさえも響き、空虚に縛り付ける。
 攻撃へと動こうとしていた敵のその手は、それに移る事できず空を掻いてとどまった。
 今まで幾重にも、その身に様々な呪縛をかけている。それが今生きて、その動きは鈍い。
 かつて戦った時よりもその力は落とされているのだ。
 その様を緑の瞳に映し、うるるは戦いの終わりが近いことを感じ取り、その手にある爆破スイッチをぎゅっと握り締めた。
 一度戦った相手、そしてこれは二度目。死の底から引きあげられたものに再びの、終わりを。
「これで最後、くだらない因縁は断ち切らせてもらうわ!」
 そのスイッチを押した瞬間、敵の身の上で爆破が起こる。見えない爆弾が爆ぜ、その身体はぐらついた。
 けれど倒すに少し、足りなかった。
 だが戦っているのは、一人ではない。その攻撃に続いて動くものがいる。
「終わらせようじゃないか」
 そう言って、つかさは妖精の加護を宿した矢を番えた。
 狙うはただ、ひとつ。
「あんたも、矜持を持たずに獣のようになって使役されたくないだろう?」
 言葉と同時に矢が放たれる。敵を逃さぬその矢は、鎧の隙間を抜け甦った者を深く射抜いた。
 その一糸に今まで保たれていた糸が切られたように深紅の鎧纏う者は崩れ落ちた。

●深く沈む
 死神に引き上げられたアグリム軍団のひとりは、ふたたび死の淵に沈み消え果ててゆく。
 その様にふっと気が抜けたように、聖の表情は物静かなものとなる。
 今までの戦いが、まるで嘘のようにだ。
「おやすみなさい」
 もう二度と目覚めることはないわとうるるは果てる姿を見届ける。
「ネクロムめ……何度復活させても必ず防ぐからな」
 この事件の裏側にいる者。その者への憤りを感じつつ壬蔭は零す。
「理性、知性ごと回復する必要が無いって事か……」
 復活させたのは囮だったり壁なのかもしれない。その目論見が一体何なのか、思う事は色々とあった。
 やがて完全に、その姿が消える。
 ジェニファーは手にしていた二つの銃をくるくると回し遊ばせて、ホルダーへと締まった。もうそれを向ける相手がいないからだ。
 鎌夜もまた、姿消えるを見届けて煙草に火をつけると身を翻し一番最初に帰途についた。
 それに続いて、先に帰るわとセラも踵を返す。が、セラは何か手がかりがないかと周囲を捜索してから帰るつもりだった。
「お疲れさん……」
 その背を見送りながらつかさは皆へ声かける。
「怪我はない?」
 改めて、と瑠璃は皆に尋ねた。すると大丈夫だと声が返りほっとするものの胸中には様々な思いがある。
「眠った命を無理やり起してしまう死神。早くなんとかしたいよね」
 まだ敵の暗躍は始まったばかり。これは終わりではないのだから。

作者:志羽 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。