道化になり果てた竜の牙

作者:なちゅい

●新たなる道化の誕生
 そこは、長崎県長崎市。
 深夜になって、人通りがほとんどなくなったアーケード。その中央までやってきたのは、蛾の羽を生やした死神『団長』だった。
「さあさあ、我ら『マサクゥルサーカス団』のオンステージだ!」
 彼はそう叫び、アーケードの中央で怪魚を放つ。その大きさは全長2mほど。まるで水中を泳ぐように宙を舞っている。その魚を見た『団長』は、その場から姿を消した。
 残された怪魚達は、体を青白く発光させて泳ぎ回る。その軌跡は魔法陣を描いていき、地面に浮かび上がった。
 陣の中央から呼び出され、ゆっくりと姿を現したのは、人型の骨の化け物。人の死骸にも思えるが、それは違う。ドラゴンの牙から生まれた竜牙兵と呼ばれるが、怪魚の力で召喚されたそれは、普通の竜牙兵とは違った。
「オオオオオオォォォ!!」
 所々に、髑髏のような見た目の模様が浮かぶ鎧。それを纏った竜牙兵は宙に向かって狂ったように吠え、手にしたゾディアックソードを高々と天に突き上げたのだった。
 
 ヘリポートにケルベロスがやってくると、ヘリオンのそばにちょこんと座ったリーゼリット・クローナ(シャドウエルフのヘリオライダー・en0039)が何かを食べていた。
「皆、こんにちは。ごめんね、ちょっとお腹が空いちゃって」
 カフェオレ片手にカステラを食べていた彼女は、ケルベロスが集まったことでカステラを食べる手を止め、説明を始める。
「蛾のような姿をした死神が、動きを見せているようなんだよ」
 『団長』という名のその死神は、第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスをサルベージする作戦の指揮を執っているようだ。
 配下である魚型の死神を放って変異強化とサルベージを行わせ、死んだデウスエクスを死神の勢力に取り込もうと、『団長』は目論んでいる。
「それを防ぐ為に、死神の出現ポイントに急いで向かって欲しいんだ」
 敵の戦力が増えるのを、ケルベロスとしては黙って見逃すことは出来ない。
 場所は、長崎県長崎市にあるアーケード街だ。
 そこに現れた3体の死神が交差点までやってきてから、自分達の戦力とすべく、竜牙兵を変異強化した状態で召喚するようだ。
「元は竜語魔法を操るドラゴンの部下だったはずだけれど、知性は完全に失われているようだね」
 大きく変形した鎧をまとい、死神の指示に従って狂ったように襲ってくる。
 その死神は敵を見定めると、噛みついてくる。厄介なことに、ディフェンダーとして位置取り、竜牙兵を守ろうとするようだ。
「残念ながら、『団長』はこの場にはもう現れないようだね。全力で死神と竜牙兵の討伐に当たってほしい」
 説明を終えたリーゼリット。カステラを食べ終え、カフェオレを飲み干してから、ケルベロスへと最後にこう呼びかける。
「死したデウスエクスを、手駒にさせるわけにはいかないよ」
 死神の策略を阻止しに行こうかと、リーゼリットはヘリオンに乗るようケルベロス達へと促すのである。


参加者
フィオレンツィア・グアレンテ(は薬中ではない・e00223)
ヒスイ・エレスチャル(空想のプリエール・e00604)
草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)
朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)
フェリス・ジルヴィルト(白雪子狐の道標・e02395)
シレン・ジルヴィルト(フェルモーント・e02408)
夜刀神・煌羅(龍拳の聖・e05280)
リュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)

■リプレイ

●深夜のアーケードで
 長崎県長崎市のアーケードまでやってきた、8人のケルベロス達。
 到着は深夜。辺りは真っ暗である。
「オイオイ……。今何時だと思ってんだよ、自称サーカス団」
 到着するなり悪態をつくのは、草火部・あぽろ(超太陽砲・e01028)だ。
「出てくるのはいいが、人間サマの事情も少しは考えろっての!」
「こんな夜まで闘いなんて、ケルベロスに休みはないのね……」
 むなしく深夜のアーケードに響くあぽろの声。フィオレンツィア・グアレンテ(は薬中ではない・e00223)も大仰に溜息をつく。
「だけどいいわよ。夜中の死闘なんてのも、一興ありそうだしね……!」
 そんなケルベロス達が戦う相手、それは……。
「マサクゥルサーカスねぇ……。マサクゥルって殺戮って意味だったか」
「そうなの、兄ィ?」
 シレン・ジルヴィルト(フェルモーント・e02408)の言葉に、よく分からないフェリス・ジルヴィルト(白雪子狐の道標・e02395)が疑問を投げかける。苗字が同じ2人は、兄妹の関係だ。フェリスは普段過剰な敬語を使う娘だが、兄には砕けた口調で語りかけている。
「変異強化を行って召喚を行うとは、団長様もいいご趣味をお持ちのようですね」
 ヒスイ・エレスチャル(空想のプリエール・e00604)はそんな本音を漏らす。
「マサクゥルサーカス団……。確実に一つずつ対応して行くしかありませんが、何か阻止する方法は無いのでしょうか?」
 やや自身なさげな様子の朝倉・ほのか(ホーリィグレイル・e01107)の言葉に、メイド服姿のリュティス・ベルセリウス(イベリス・e16077)が唸る。
「死神というのは面倒な相手ですね。現場で何か情報を得られると良いのですが……」
 カンテラを腰から下げているほのか。彼女も続く死神のサルベージが気になっている。噂では、名の知れたダモクレスも呼び覚まされたのだとか……。
「死んだデウスエクスを手駒に……ね。死神は相変わらず、感心できないことをしてくれるわね」
 フィオレンツィアはフンと鼻をならす。重ねるようにあぽろも鼻を鳴らしていた。
「死神共も色々と考えるじゃねぇか」
「いっちょ死神をぶん殴ってくるかの」
 夜刀神・煌羅(龍拳の聖・e05280)の言葉に同意したメンバー達は、アーケードの中へと進んでいくのだった。

●現れたサーカス団員達
 アーケード内を進んでいくケルベロス達だが、まずは事前準備をと動き出す。
 煌羅はデウスエクスの出現を見越して、役所や警察署に連絡する。深夜ということも在り、警察のみ連絡が付いた為、彼はそちらへと簡単に事情説明を行っていた。
 その間に、フィオレンツィア、あぽろは戦場となる周囲にキープアウトテープを張り、ヒスイは殺界を作り上げ、アーケード周辺への一般人の接近を防ぐ。
 ある程度準備を終えたメンバー達は、敵が現れるという交差点付近の物陰に隠れ、その出現を待つ。
 やがて、宙を浮き、現れる怪魚。そいつの描く軌跡は魔方陣を描いて。ケルベロス達が駆けつけようとも、そのサルベージは止まらず。その中央から人型の骨の化け物が現れた。
「蘇生ついでに強化ねぇ……」
 髑髏の様な鎧を纏った化け物……竜牙兵が大きな声で吼えた。それを見た、あぽろは呆れすら覚えてしまう。
「いろいろ変わっとるようじゃが、あやつが関わったやつではなさそうじゃの」
 煌羅は竜牙兵を見て、自身の宿敵を思い出す。ちなみに、この黒幕である団長の姿はすでにないようである。
「知性失ってるし、ロクな芸も出来なさそうだが、サーカスの団員ならせめて、芸の真似事くらいはして欲しいな」
 シレンはそれを、やや冷めた目で見つめる。ただ、暴れるだけのサーカスに客など集まるはずもないのだ。加えて、シレンの場合は元より死神嫌いということもあり、なおさら興が乗らない様子である。
「面白ぇ、砲撃何発で消し飛ぶか試してやるよ」
 逆に、強化されているからこそ、あぽろはテンションが上がっていた。
 竜牙兵は2本のゾディアックソードを抜き、荒ぶりながらケルベロスへと切りかかってくる。その姿に、知性など微塵も感じられない。
「知性を失って禍々しい姿で呼び戻されるなんて、憐れなものです。もう1度、安らかな眠りを」
 ヒスイは手にはめた縛霊手をギュッと握る。
「戦いを始めます」
 敵の様子に反して、ほのかはクールに開戦を告げる。
 殺界が働いていることを確認したリュティスも敵に対し、すらりとナイフを抜いて構えを取るのだった。

●死神を葬り去る為に
 2本の長剣を操る竜牙兵。煌く正座の輝きと共に、そいつは斬撃を繰り出してくる。
 それを受け止めたのは、煌羅だ。重い双撃に顔を顰めながらも、彼は自宗派の文句を唱え、地獄の炎を日本刀に乗せ、敵……怪魚へと振り下ろす。
 まずは、竜牙兵を守る怪魚型の死神を倒すのが先だ。
「鮮血の花を咲かせて頂きましょう」
 リュティスが取り出したのは、糸。もちろん、ただの糸ではなく、暗器として隠し持っている物だ。暗闇に紛れるその糸。しかも、それはリュティスの意思で変幻自在に操ることができる。さらに、糸には相手を痺れさせる効果もあり、それによって刻まれた怪魚の動きがぎこちなくなる。
「適材適所、攻めるが勝ちさ」
 火力を叩き込もうとあぽろも続くが、どうやらグラビティ活性に難があったらしい。やむを得ず今あるグラビティをと、魂を喰らう降魔の一撃を怪魚に叩き込む。
「死者の尊厳を穢す外道が」
 シレンも斬霊刀に雷の闘気を込め、神速の突きを繰り出す。さらに身体を痺れさせた敵に向け、フィオレンツィアが拳を振りかぶる。
「あなたに本気を出してあげるつもりもないわよ。これで軽く葬ってあげるわ」
 音速を超える拳で身体を穿たれた怪魚は、叫ぶ間もなく空中に霧散した。フィオレンツィアは当然とばかりに、次なる敵へと立ち向かう。
 フェリスは仲間の状況を確認しつつ、銃弾を放つ。メディックという立ち位置を利用し、敵の強化を撃ち砕く。
 ヒスイはアタッカーとなる仲間のサポートを立ち回る。どう動けば、戦局が有利に傾くか。選択したのは、敵の足止め。彼は縛霊手の掌から巨大光弾を飛ばす。それにより、前線にいる死神が全身に更なる痺れを走らせていた。
「一体ずつ、確実に倒しましょう」
 冷静に敵を見定めるほのか。
「ロックオン」
 彼女は前に立つ怪魚を狙い、ガドリングガン『屍山血河』の銃口を差し向ける。そうして、銃弾の嵐をそいつへと浴びせかけた。
「屍山血河の果ての勝利は、その多くを敵で贖われますように」
 そんなほのかの願いと共に。怪魚は灰燼と化し、消えてなくなったのだった。

●怪魚、そして竜牙兵の殲滅を
 アーケード外では、警察が駆けつけ、一般人の避難誘導を行っていた。
 その間も、アーケード内ではケルベロス達がデウスエクス相手に戦いを繰り広げる。
 敵の猛攻を受け止めるウイングキャット、シーリー。背中の羽を羽ばたかせ、邪気を払い、傷を癒す。
 そこで、仲間の影から怪魚目掛けて躍りこんでくるリュティス。彼女はナイフをジグザグに操り、怪魚の傷口を広げる。
 宙で苦しそうに悶えていたその死神はぼとりと地面に落ち、地面に溶けるように姿を消していった。
 残るは、竜牙兵1体。そいつは大きく吼えてから、本能的に竜語を操り、攻撃を仕掛けてくる。
「竜語魔法の使い手ね。どちらが上か見せてあげるわ!」
 フィオレンツィアは竜語を操り、掌にドラゴンの幻影を生み出す。
「こんなの覚えてるかしら? あなたには無理でしょうけど!」
 くすりと笑う彼女は、それを一気に解き放つ。その炎を浴び、竜牙兵の身体に炎が立ち上る。
 身を焼かれ、苦しむ竜牙兵だが、多少の痛みは意にも介せず、長剣に宿されたオーラを飛ばしてきた。
 ただ、ケルベロス達の布陣は鉄壁の盾。その上、フェリスが満月にも似たエネルギー光球を仲間に飛ばすことで、手厚く回復を行う。
 さらに、ヒスイも、地面にケルベロスチェインを展開して魔方陣を描き、味方の守護を図る。
 なぜなら、敵は両手に握るゾディアックソードに二つの星座の重力を同時に宿し、天地揺るがす超重力の十字斬りを叩き込んで来たからだ。
「来る……」
 その一撃、星天十字撃に警戒していたほのかが呟く。
 仲間を守ろうと前に出てきたのは、煌羅だ。
「ぬ……!」
 全身に刻まれた斬撃はグラビティの力も相まって、彼の身体に尋常ではない衝撃を与える。
 それでも、予め盾役として動いていたこと、そして、仲間達の援護もあって、倒れずには済んでいた。しかし、傷は深い。彼はすぐには回復がこないと踏み、全身を地獄の炎で包むことで戦闘能力を高めつつ、受けた傷も塞いでいたようだ。
 次なる強力な一撃が来る前に。ほのかは簒奪者の鎌『死神』に『虚』の力を纏わせる。
「貴方はまだ、本当の絶望を知らない」
 敵の正面から刃を振り下ろしたほのかは、竜牙兵の体力を奪いとる。
「私の遊び相手にもなれないあなたなんて、もう要らない。さようなら」
 敵に興味を失いかけていたフィアレンツィアは禁術書を広げ、矢のように魔弾を撃ち出す。殺し合いを楽しむ彼女にとって、ケルベロスを仕留められぬ存在など、邪魔者でしかないのだ。
 矢に貫かれた竜牙兵は、アーケードを揺るがすほどに吼える。
 そこに、あぽろが詰め寄り、狙いを定めた。右手に太陽エネルギーをチャージし、バチバチとエネルギーを満ち溢れさせる。
「超……!」
 夜闇の中、現れる太陽。それを、あぽろは至近距離から放つ!
「……太陽砲!!」
 轟音と共に、光の柱が立ち上る。それに包まれた竜牙兵がまたも咆哮した。
 光は徐々に収まって。だが、そこには、それに耐え切った竜牙兵が仁王立ちしていた。そいつは地面に守護星座を描き、自らの傷を癒そうとする。
「兄ィ」
「ああ、いくぞ、フェリ」
 敵が今だ健在と察したフェリス、シレンが同時に動く。
「「始めに朔月」」
「陽より遠く」
「闇は冥く」
 2人は代わる代わる言葉を紡ぐ。シレンの刀をフェリスが白月の力で作成、フェリスの手にする扇も、白月の力が宿っていた。
「「三日月は」」
「見るに儚し」
「冴えて鋭し」
 フェリスが扇を手に舞い、シレンは幽月の身体を手に舞う。
「「弓張月に」」
「想いは」「力は」
「「満ちる」」
 2人の詠唱は対となっていて。それが徐々に重なっていく。月の魔力がこの場へと満ちて。
「「来る望月、魔性の月。秘めた狂気を呼び覚ませ」」
 白月の魔力は、竜牙兵に満月の幻影を見せつけ、敵を幻惑し、狂乱させる。
 暴れ、狂う竜牙兵は、それに耐えられず。悶え苦しみ、全身を瓦解させ、土へと還っていった。
「敵とはいえ、斃れた後に命を弄ばれるのは不憫じゃの」
 煌羅はその残骸へと近寄り、合掌するのだった。

●長崎といえば
 無事にデウスエクスを倒したケルベロス達。やってきた警官隊に、デウスエクスの討伐を報告すると、彼らは現場検証などに当たり始めていた。
「あ、あの、大丈夫ですか…?」
 戦闘が終わり、多少おどおどした感じに戻ったほのかは、仲間達に被害状況を確認する。どうやら、大事に至ったメンバーはいないようだ。
 周囲にヒールを施し、修繕を行った後、何かの痕跡が残されているか確認してみたが、これといって目に付く物は発見できなかった。
 程なく、夜も明けるだろう。メンバー達は空腹を覚えてしまう。
「何か食べて帰りましょうか? まだ寒いですから、長崎ちゃんぽんは良いかもしれないです」
 ほのかの提案に、リュティスも皆と一緒にご飯を食べたいと希望を口にする。
「せっかくなので、皿うどんが食べたいですね。あのパリパリの麺が好きなのです」
 皿うどんはカリカリ中華麺に具材を乗せ、あんかけをかけた料理だ。細麺が広く知られるが、実はご当地では太麺もよく食べられている。
「トルコライスを頂いていくかの」
 煌羅も、その提案に乗っていた。彼はさらに、後で原爆の慰霊供養も考えているようだ。
「トルコライス……美味しいのかしら?」
 フィオレンツィアは耳なじみのない料理名に首を傾げる。
 ちなみに、トルコライスとは、ピラフとスパゲティとサラダが一皿に盛り付けられた長崎のご当地グルメである。
「イスラム教徒の多いトルコで豚肉は食わんので、親善料理でトンカツに難色を示されたことがあるらしいの」
 煌羅はそんな豆知識も披露してみせる。
「初めて耳にするものばかりです。色々と試してみたいですね」
 ヒスイはできるだけ、幅広く食していきたいと考えていた。

 その後、定食を振舞う店を見繕ったメンバー達は、開店を待って店へと入る。
「くぅーっ、よく働いたぜ。ちゃんぽんくらい軽くイケそうだ!」
 あぽろは大盛りちゃんぽんを頼み、それにがっついていた。
「いろいろあるね、兄ぃは何にする?」
 フェリスもたくさん動き、お腹が鳴いてしまっている。
「俺は皿うどんに……、食後にミルクセーキも頼もうかなぁ」
「違うの頼んで、シェアしよう! フェリはちゃんぽんっていうのとか、トルコライスっていうの気になるなぁ」
 シレンはフェリスと仲睦まじく、兄妹で分け合って食べあっていた。
 メンバー達は気になる料理、主にちゃんぽん、皿うどん、それにトルコライスを注文する。朝からちと重い感もあるが、依頼で疲れていたメンバー達はそれらをぺロリと平らげていく。
 異国文化が交じり合う長崎ならではの味をこれでもか堪能した、ケルベロス一行なのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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