眠れる街の眠れぬ仮面

作者:麻香水娜

 草木も眠る静けさに包まれた深夜のビル街。
 昼間は車通りも激しいが、今は信号機が定期的に点灯する色を変えるだけの静かな交差点。
「さあさあ、我ら『マサクゥルサーカス団』のオンステージだ!」
 交差点の中心で、蛾の羽を生やした男の声が静けさの中に響き渡った。
 すると、その声に応じて、体長2mくらいの浮遊する怪魚がゆらゆらと空を舞う。
「それでは君達、後は頼んだよ。君達が新入りを連れて来たら、パーティを始めよう!」
 パシンッと鞭を鳴らしたその男は何処かへ消えてしまった。
 残された怪魚達は、青白く発光して空中を泳ぎ、その軌跡が魔方陣のように浮かび上がる。
『ア、アァ……』
 その中心には、筋骨隆々として大柄な、日本刀を持った螺旋仮面の男が姿を現した。
 
「死神が動きを見せているようです」
 祠崎・蒼梧(シャドウエルフのヘリオライダー・en0061)が口を開く。
 この死神は第二次侵略期以前に死亡したデウスエクスをサルベージする作戦の指揮を執っているようだ。
「彼は配下である魚型の死神を放って変異強化とサルベージを行わせ、死んだデウスエクスを死神の勢力に取り込もうとしているようなのです」
 変異強化を同時に行うことで、理性の無い状態になったデウスエクスは、死神の操り人形のようになっている。
「戦力拡充も脅威ですが、いくらデウスエクスといえど、死して尚操り人形にされてしまうのは……」
 蒼梧は複雑な表情を浮かべた。
 一つ咳払いをして、説明を続ける。
「場所はビル街の交差点。深夜3時すぎなので、周囲に人は皆無です」
 避難誘導等は気にしなくても良いとの事。
「この螺旋忍軍は、螺旋忍者と同等のグラビティを使い、日本刀を装備しています」
 理性がなく、強化された2mはある大柄な体で動きは速く、重い攻撃を仕掛けてくるようだ。
「それと、この指揮官は何処かへ行ってしまいましたが、怪魚型の死神3体もその場にいます」
 怪魚型死神は、噛み付いてきたり、怨念をかき集めた黒い弾丸を放ってきたりする。
「死んだヤツを扱き使うなんて、死神ってのもえげつないコトするねぇ……」
 ファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)が眉間に皺を寄せた。
「えぇ……いくら敵とはいえ、死しても操られるなど……死神の戦力拡充を防ぎ、この螺旋忍軍にも安らかなる死を与えて下さい」


参加者
フィオレンツィア・エマーソン(ハウンドチェイサー・e01091)
エリオット・シャルトリュー(不退転のイカロス・e01740)
長篠・樹(紋章技工師・e01937)
ナギサト・スウォールド(老ドラゴニアンの抜刀士・e03263)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
ファニー・ジャックリング(のこり火・e14511)
愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)

■リプレイ

●乱戦
 街灯の明かりがぽつぽつと灯る深夜のビル街を疾走する集団がいた。
「まずは死神から片付けるわよ!」
 フィオレンツィア・エマーソン(ハウンドチェイサー・e01091)が走りながら武器を構えようとしたその刹那、
『ガァ!!』
 その巨体からは信じられない速度で、フィオレンツィアに螺旋忍軍の日本刀が緩やかな弧を描きながら迫る。
 ――ガキン!
「……っ!」
 足元から火花を散らして飛び出したエリオット・シャルトリュー(不退転のイカロス・e01740)が、剣で受け止めた。
『オォォォ!!』
 しかし、螺旋忍軍は雄叫びを上げながら、止められた日本刀を力任せに更に振り下ろす。
「!!」
 エリオットは、その重量を支えきれずに体勢を崩してしまい、右肩を深く斬りつけられながら尻餅をついてしまった。
「はぁっ!」
 エリオットの頭上を、稲妻を帯びた槍が超高速で突き進む。
『ガァッ!』
「今のうちに死神をお願いします!」
 螺旋忍軍の右肩に槍を突き立てながら、レフィス・トワイライト(敗者・e09257)が叫んだ。
「……変異強化ってどんだけだよ……」
 凄まじい勢いを見せた螺旋忍軍に驚きを漏らした峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)が、すぐに表情を引き締めて地面にケルベロスチェインを展開。描かれた魔法陣に、前衛の仲間達に守護がつく。同時に、エリオットの傷を癒し、衝撃に鈍らせていた手足の動きも正常に戻した。
「サンキュな!」
「ありがと!」
 エリオットが雅也に笑いかけると、フィオレンツィアがエリオットに礼を言いながら螺旋忍軍の横を全力で駆け抜ける。手にした槍に稲妻を纏わせ、そのまま左端にいた死神の急所に抉りこむように貫いた。
「うげ、生臭そうな魚ね……。臭いがついちゃったらアイドル活動に支障が出るからあんま近づかないでちょーだい!」
 フィオレンツィアと共に螺旋忍軍の横を走り抜けた愛沢・瑠璃(メロコア系地下アイドル・e19468)が顔をしかめながら、フィオレンツィアに貫かれた死神に、ルーンを発動させた光り輝く斧を思い切り振り下ろす。
『ギァ!!』
 瑠璃のルーンディバイトは、死神に当たった瞬間に強烈な光を放ち、死神を霧散させた。
「やった! プロデューサーさん!」
 会心の一撃を与えた瑠璃は小さくガッツポーズ。主人に名を呼ばれたサーヴァントのウィングキャットが瑠璃の足元から飛び出し、片方の死神に飛びついて思い切り引っ掻く。
「1匹でも多く早めに片付けないと……」
 小さく呟いた長篠・樹(紋章技工師・e01937)は、プロデューサーさんにダメージを負わされた死神に、光り輝く左手で敵を引き寄せた。そして、闇を纏った右手で殴りつけ、最後に蹴り飛ばす。
 自分の横を抜けて背後の死神達に向かわれた螺旋忍軍は、走り抜けた3人と1体のサーヴァントへと体を向けた。
「お前さんの相手はこっちじゃ」
 ナギサト・スウォールド(老ドラゴニアンの抜刀士・e03263)が、素早く回り込んで螺旋忍軍の前に翼を広げて立ちはだかる。
 流れるような動きで脇差を抜き、抜刀した勢いのままに、右肩にある傷口の僅か手前を斬りつけた。更に抜刀の勢いで生じた風が傷を広げる。
 ナギサトが動いたのとほぼ同時に、彼のサーヴァントであるボクスドラゴンのスーは、エリオットに駆け寄って属性インストールで傷を癒した。
 ダメージ負っている死神が、仕返しだといわんばかりに樹に噛み付こうと向かう。
『キシャー!!』
「やらせねぇよ」
 すかさずファニー・ジャックリング(のこり火・e14511)が、樹の前に飛び出して翼を広げた。
「すまない、助かっ……」
 ダメージに眉をしかめるファニーに、樹が感謝したその瞬間、
『ギギャア!!』
 無傷な死神が、周囲の怨念をかき集めた黒い弾丸を放ち、爆発させる。
 飛び散った黒い雫は、前衛の5人とボクスドラゴンを侵食した。
 ダメージに顔を歪める5人と1匹の周りに、ヘクセが紙兵を大量にばらまく。
 更に、フィオレンツィアに、ファラン・ルイ(ドラゴニアンの降魔拳士・en0152)から傷を冷やすような冷たいオーラが飛ばされ、傷を癒しながら侵食する毒を消し去った。

●死を利用する代償
(「やっぱ対象が多いから何人かサークリットチェインや紙兵の守護が付かなかった人がいるな……」)
 雅也が死神の攻撃を受けた仲間達を見ながら状況判断をする。
 分かっていた事だが、対象が多く、回復量も少なくなってしまった上に、守護で防御力を上げられた者と上げられなかった者が出ているのだ。
『ウォオオオ!!』
 そんな雅也に向けて、螺旋忍軍が雄叫びを上げながら、言うことを聞かない右肩を無理矢理動かし、氷結の螺旋を放つ。
「させぬ!」
 ナギサトが、雅也の前に立ちはだかり、顔の前で交差させた右腕を凍りつかせられた。しかも、死神の毒に更に体力を奪われたようで、眉間に皺が刻まれる。
「すまねぇナギサトさん! 今回復する!」
 雅也は、先ほどの紙兵散布で紙兵がついていないナギサトが不調を回復せられないと判断し、気力溜めで体力を回復させながら侵食する毒と左足を凍りつかせている氷を取り払った。
(「ちとやべぇな……」)
 エリオットが仲間達の状況を確認する。フィオレンツィアとナギサトは問題なくなった。自分と樹とファニーとスーの毒が残ったまま。
「逆風に屈しはしないぜ!」
 エリオットは、地獄の炎で出来た碧色の大鷹を呼び出した。その大鷹は、大きく羽ばたいて癒しの風を巻き起こし、前衛の仲間達の傷を癒すと共に、体を蝕む毒を消し去る。
「まだ動きますか……それなら……!」
 レフィスは古代語の詠唱を始め、魔法の光線を放った。
 螺旋忍軍はそれを回避しようとしたが、肩の痛みが反応を遅らせてしまい、放たれた魔法の光線を右脚に受けてしまう。
『グゥ……』
 石のように重くなった右脚を引きずりながら唸った。
「私の神速の拳、あなたに見えて?」
 完全にダメージを回復したフィオレンツィアが、目に止まらないジャブをダメージの深い死神に叩き込む。
『グギャッ』
 潰れた魚ような声を上げた死神は、パァっと霧散して消滅した。
「死人を生き返して使役するだなんてちょっとロックじゃないわね!」
 残る最後の死神に、瑠璃がフロストレーザーを放つ。その攻撃は確実に死神の真正面から撃ち込まれ、口を大きく開けたまま死神の顔を凍りつかせた。更にプロデューサーさんが、凍りついた牙目掛けてキャットリングを飛ばし砕く。
「これを唯のアームドフォートと思うな。来い――マギノスミスっ!」
 樹が魔術空間から約4m程の大型アームドフォートを呼び出し、瀕死の死神に向け、弾丸や魔術を放ちながら高速で突貫した。
『グギャァアア!!』
 断末魔の叫びを上げた死神は地に落ちて崩れ、吹き抜けた冷たい風に散っていく。
「死神は片付いたか……」
 仲間達が死神3体とも全てを撃破したのを確認したファニーは、すぐに螺旋忍軍に狙いを定め、目にも止まらぬ速さで銃を操って日本刀の先端部分を砕いた。
 銃口から煙を漂わせるファニーに、ファランの冷たいオーラが包む。
「……すまん」
 傷を冷やしながら癒されたファニーは、小さく感謝の言葉を口にすると、ファランが微笑んだ。

●哀れな仮面に安らぎを
『オオオオオオオオ!』
 螺旋忍軍は、重い足を引きずりながら、ナギサトに向かって日本刀を振り下ろそうと腕を高く掲げる。
『!?』
 しかし、右肩が言うコトを聞かずに、そのままの体勢で固まってしまった。
「メインディッシュはこれからね……死体は焼くに限るわ」
「ギャラリーいないし、カメラも回ってないけど、あたしは常にアイドルなのよ!」
 動きの止まった螺旋忍軍に、不敵な笑みを浮かべたフィオレンツィアがブレイズクラッシュで炎に包む。更に瑠璃がルーンディバイドを思い切り叩き込み、プロデューサーさんが飛びついて螺旋忍軍の仮面を引っ掻いた。
「Osia Sophit,Riris ele――」
 レフィスが静かに詠唱を始めると、その頭上に魔方陣が展開される。光の鎖が現れ、螺旋忍軍を拘束、眩い閃光を放って爆発した。
「あんたも、ゆっくり眠っていたかったろうになぁ」
「さ、もう一度眠りに付く時間だぜ!」
 エリオットが、一気に攻撃を受けた螺旋忍軍を哀れむように見つめると、すっと表情を引き締め、ブレイズクラッシュで再び炎に包む。その後ろから雅也が飛び掛るように絶空斬で傷口を広げた。
『ガッ、ガァアアアアア!!』
 螺旋忍軍の絶叫が夜の闇に響くと、どさりと倒れて動かなくなる。
 ――カラン。
 日本刀が螺旋忍軍の手から零れ落ち、アスファルトに転がる乾いた音が響いた――。

●残されたもの
「みんなお疲れさん! ファランもヘクセもサンキューな!」
 雅也が明るく声を上げる。メディックが自分1人では仲間達の回復が間に合わなかっただろうと、回復を専門にしてくれた2人に笑いかけた。
「さっきは回復ありがとね。冷たくてちょっと気持ちよかったわ」
 フィオレンツィアが、ファランに微笑みかけると、どういたしまして、とファランも微笑み返す。
「……何か残っていないだろうか……」
 樹が、壊れてしまったアスファルトをヒールで修復しながら、周辺を細かく探る。知人の宿敵が起こした事件であった為、手がかりを見つけたいようだ。
「ふぅ……」
 風下に移動し、仲間達に煙が行かないように少し離れて煙草を取り出したファニーが一服する。一息つくと、周辺のヒールにとりかかった。
「プロデューサーさん、あたし達もヒールよ!」
「スーも頼む」
 ヒールグラビティのない瑠璃とナギサトは、それぞれサーヴァントに頼み、サーヴァント達がヒールグラビティで周辺を修復する。
「……死神ってのはひでぇことしやがる……ん? それどうすんだ?」
 倒れた螺旋忍軍の周辺をヒールしていたエリオットが、日本刀を拾ったレフィスに問いかけた。
「後で何処かにこの忍者のお墓を作って、そこに刺しておこうと思いまして」
「……じゃ、俺も手伝うぜ。コイツも死んだ後に死神に利用されるなんて望んでなかったろうしな……」
 レフィスの言葉に、死神に対して何かを抱えているエリオットが申し出て、ボロボロになった螺旋忍軍の死体を担ぎ上げる。
 はい、とだけ短く答えたレフィスは、エリオットと並んで歩き出した――。

作者:麻香水娜 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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