残酷の殺人昆虫

作者:塩田多弾砲

「全く、嘆かわしい事ですわね」
 穏やかな口調で、彼女はそう告げた。
「最近は、皆様熱心に仕事をしているようではありますが……仕事というものは、『結果』が伴わねば無駄であり、評価に値せぬもの……。貴方も、そうは思いませんこと?」
 彼女の隣りに、忠犬のように付き従うその生き物は……その言葉に反応を示さなかった。
「どなたも『結果』を残す前に、邪魔されて殺されて終わり……。まったく、なんと愚かな事でしょう」
 彼女はそれでも、言葉を続ける。
「どなたもグラビティ・チェインを集める前に、あの煩わしくも薄汚いケルベロスどもに殺されて、『結果』を出さずに無駄に終わり。無能な者は、物事における己の分というものをわきまえるという事ができないため、このような馬鹿げた事になるのが理解できないんでしょうね」
 そう言って、彼女は愛し気に……傍らの生き物を撫でた。
「けれども、私は違います。もちろん、貴方も……。そうでしょう? 私の言う通り、上手にやって下さいますね?」
 撫でられた生き物は、ようやく反応し……その首を持ち上げた。
「さあ、私の愛しい子。私の言う通り……殺してきてくださいませ」
 品のある口調でそう告げると、彼女……ネフィリアはその場から去り、姿を消した。
 愛しい子と呼ばれた生き物……トゲだらけの手足を持つ、醜い姿の巨大な昆虫人間……ローカストは、不愉快にキリキリと鳴くと……同じく、姿を消した。
 そして、数刻後。
「た……助けて……」
 廃墟に集められたのは、性別、年齢など、共通点のない人々。十数人いる彼らは、一人を除き死体になっていた。
 そしてローカストは、一人のうら若き女性をその手に捕えていた。
「おねがい……助けて……」
 懇願する犠牲者の言葉を、ローカストは無視した。そもそもが獲物が何を言おうが、それを理解できるだけの知性など無い。あるのは機械と同じ、主人の命令を聞く『本能』だけ。
 その本能に従い……牙だらけの大あごを広げたローカストは、獲物の首筋に牙を沈めた。
「いやあああっ!」
 苦痛に叫ぶ犠牲者。彼女は緩慢な苦痛を長時間感じた末に、残酷にして悲惨な死を迎える事だろう。

「……つーか、これを見た時。マジムカついて、吐き気を覚えたッス」
 黒瀬・ダンテが、君たちへとそう訴えかける。彼が言うには、女郎蜘蛛型ローカストが動きを見せているらしい。
「こいつはどうやら、知能が無いタイプのローカスト野郎を送り込んで、そいつを使って殺しまくり、グラビティ・チェインを収穫する作戦指揮を執ってるみたいッスね」
 放たれているのは、知性が低いタイプのローカスト。それを用いて一般市民を襲い、グラビティ・チェインを集めようとしている、との事だ。
 更に質の悪い事に、そのローカストは知性が低い分、戦闘能力に優れており……なおかつ、『犠牲者を生かしたままで、ゆっくりと(グラビティ・チェインを)吸収する』事しかできない、という。
 つまり、虜にされた犠牲者たちは、生きたまま長時間の苦痛を受け、そして死ぬという……悲惨にして残酷な運命が待ち受けているわけだ。
「で、このローカスト……黒くてデカいスズメバチみてーなヤツなんで『クロスズメ』って仮に呼んでるッスが、噛みつきとキックの他に、背中の羽根をすり合わせて破壊音波を用いて攻撃するッスね。体格もデカく、かなり強い個体みたいで要注意ッス」
 そしてこいつは、郊外の廃工場へと既に犠牲者を集め……十数人をその中に詰め込んでいると。
「被害者の皆さんは、この工場ん中に運ばれてるッス。ここは扉も窓も外から鎖を掛けられて立ち入り禁止になってるッスが、天井に一か所だけ穴が開いてて、ローカストはそっから出入りしてるッス」
 ローカスト『クロスズメ』は、獲物を発見するとまずはジャンプして接近し、殴りつけて昏倒させる。そして気絶した犠牲者を抱えて、廃工場に運び込む。
 出入りするのは天井の穴からで、ローカストはその跳躍力で難なく行き来する事は出来るが、捕らわれた人々は常人であり、脱出は不可能。
 この、虜とされた人々の救出も考えなくてはならない。
「だから、誰かがローカストをおびき出し、その間に工場の壁や扉を破るなりして脱出させるようにしなくちゃならないッスね、とにかく……」
 と、ダンテが口を開く。
「人々をなぶり殺してグラビティ・チェインを集めようとする、このくそふざけた奴を放っては置けないッス。この黒幕がドヤ顔で立てた作戦をぶっ潰して、てめーでやってるくそ作戦は無駄だって事を、思い知らせてやって欲しいッス」
 どうかみなさん、おねがいしますッス。そう言って彼は君たちに懇願した。


参加者
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
クリス・クレール(盾・e01180)
武田・由美(空牙・e02934)
斎藤・斎(修羅・e04127)
深山・遼(結び目・e05007)
安住・芳弘(気まぐれ安住・e07795)
空木・樒(病葉落とし・e19729)
アトリ・セトリ(エバーグリーン・e21602)

■リプレイ

●OPERATION COMMENCEMENT!(作戦開始)
 その建物は、風雨の前に傷み、交換されるべき外壁や屋根も修理でごまかされていたが、それでいてまだ取り壊すには至らぬ頑丈さを有していた。
 そんな工場の前に、少年が一人……佇むようにして立っていた。彼は突き刺すような視線を向けている。
 工場の窓という窓は、全て塞がれていた。全ての窓には例外なく鉄板が張られ、溶接されているか、鎖でがんじがらめにされている。扉も同様。これでは出入りはまず無理だろう。
 少年が更に、工場へ接近したその時。
『そいつ』が、工場の天井から現れていた。
 黒光りした甲殻に身を包み、背中には翼。顔も昆虫めいていたが、どことなくスズメバチにも、バッタにも似ている。
 そいつは空高く跳躍して、工場の入り口付近に着地し、周囲を見回した。
「……『殺気』に命じる」
 少年はそれに対して、呪文を唱えるかのように……つぶやいた。
「目標、『クロスズメ』……『欺け』」
 途端に、少年の周辺の『気配』が濃くなる。
「出てこい! 得物はここだ! ここにいるぞ!」
 それを更に増さんと、少年は叫び……。
 駆け出した。
「こちらクリス・クレール(盾・e01180)! やつが出たぞ!」
 少年……に見えたドワーフの男、そしてケルベロスの戦士である彼。その耳に付けたインカムからは『了解』の返答が。すぐ近くで、救出班の二人も見ているはずだ。
 そして、気配で感じていた。
『やつ』が追跡してくるのを。

●ACCORDING TO PLAN!(予定通り)
「……確かにハチっぽいけど……地蜂どころか、スズメバチにも似てないわねー」
 クリスを追うローカスト『クロスズメ』を見つつ、武田・由美(空牙・e02934)は、隠れていた場所から姿を現し、工場へと向かった。
「どうやら、奴は大分離れたようだ。ここまでは作戦通り、だな」
 深山・遼(結び目・e05007)。やや色黒な肌と黒髪とを持つ、眼光鋭い美女が、双眼鏡で離れつつあるローカストの背中を見て確認する。彼女の周囲に、蝶の姿のファミリアロッドが舞っていた。
 先刻も双眼鏡で、この廃工場とその周辺とを視認していたが、今回も大いに役立った。
 後は携帯電話で、攻撃開始のタイミングを仲間たちから受けなければ。
「由美、どう?」
 周囲を油断なく見張り、遼は問いかけた。彼女の傍らには、ライドキャリバー『夜影』が控えている。
「……んー、参ったわね。こりゃ」
 その口調から、遼は知った。
 出入口は……『無い』という事を。

 逃げ道は『無い』。
 この場所は、工場からそれなりに離れた場所に位置する空き地。周囲は資材や塀や金網に囲まれ、逃げ場はない。。
 だが、追い詰められた……というのに、『クロスズメ』の目に映るクリスは、落ち着き払っている。
「……やっちまえ!」
 クリスのその言葉に、『クロスズメ』は感づいた。
「!?」
 ローカストの周囲の地面から、多数の『骨になった腕』がいきなり生え……足を掴み押さえつけた事に。
 炎で構成された『骨になった腕』は、まるで地獄から抜け出た亡者たちが、自分たちの苦しみを他者に押し付け、少しでも安寧を得ようとしているかのよう。
 逃れようと体をよじる『クロスズメ』だったが。
「……貴方も、仇と一緒、なのでしょう? だったら……」
『逃げるなんて許さない』
 眼鏡の奥に金色の両目を輝かせ、長い黒髪を持つ、丁寧な物腰の少女が……。
 姿を現しつつ、そうつぶやいた。
 少女……斎藤・斎(修羅・e04127)は、携帯電話を取り出し、仲間たちへと連絡を入れる。
 その連絡を受け、
「んっ? なんだよ、ようやく出番か。ったく、連絡遅いっての」
 太った少年……安住・芳弘(気まぐれ安住・e07795)が、工場敷地内の外壁から姿を現す。
「出番ね!? 悲劇を起こさないためにも……食い止めるわ。行きましょう、キヌサヤ」
 同じ場所で待機していたアトリ・セトリ(エバーグリーン・e21602)もまた、伝えられた場所へと向かった。ウイングキャットのキヌサヤも、浮遊しつつアトリの後に付いていく。
「了解、今向かいます」
 二人に続き、ドラゴニアンの女性……クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)も駆けだした。
 そして、
 「……始まりました、ね」
 息を潜めていた空木・樒(病葉落とし・e19729)も、その姿を現した。

●COMMENCEMENT OF BATTLE!(戦闘開始)
 駆けつけたケルベロス達は、ローカストを目前に対峙した。既に『クロスズメ』は、斎の放った腕を振り払い、戦闘準備を整えていた。
 ローカストのその醜い外観に、キヌサヤは威嚇の唸り声をあげる。
「こちら攻撃班です。『獲物』が掛かりました、行動を開始してください」
 由美と遼へと、クロハは通信機器で一報を入れる。
「おっ、こいつ雌かぁ」
 そして芳弘は、『クロスズメ』の肢体をねめつけて言った。
「いい胸してるじゃん。けど……顔がダメだねぇ」
 言うが早いが、突撃。
 太ったその体に似合わず、まるで巨大な砲弾のように突進すると……バトルガントレットを装着した両腕から、矢継ぎ早にパンチの連打を放った。
『クロスズメ』は防御しつつ、そのパンチを次々に捌く。
「!?」
 さすがにパンチの何発かは当たるが、それらは浅く、それほどダメージになっているようには見えない。加え……何やら『不穏な空気』を漂わせていた。
 こうなれば、惨殺ナイフで『グラビティブレイク』を……!
 そう考えた芳弘だが、『クロスズメ』は何者かの攻撃をうけ、その場から吹き飛ばされた。
「はーっ!」
 クロハの『旋刃脚』が決まったのだ。
「……もらったっ!」
 すかさず、アトリのゲシュタルトグレイブが、休ませる暇もなく『クロスズメ』を襲う。
 稲妻をまといし超高速の連続突き、アトリの『稲妻突き』がローカストの甲殻の数か所を突き破り、汚らしい体液を流させた。
「いけるぞ! 続けて……」
 クロハの言葉を、芳弘が遮る。
「とどめは俺にまかせろ!」
 俺が楽しんでいるんだから、邪魔しないでくれっての。心の中でそうつぶやきつつ、彼は敵に突進した。
「待て! そいつ……」
 クリスが止めるが、そんな戯言を聞くつもりはない。
「喰らいな!」
 その体型に違わぬ重い拳の連打が『クロスズメ』に放たれる。己の拳がローカストにめり込むのを見ると、芳弘の気分は更に高揚した。
「何されてるかわからないかい? ひたすら殴ってるのさ! 君がくたばるまでなぁ!」
 これぞ、『オーバー・ドライブ』。必殺のラッシュパンチの奔流が、一方的に『クロスズメ』へと突き刺さり続け……芳弘に勝利の確信を抱かせた。
 それとともに、『不穏な空気』はますます濃くなっている。
 とどめ! 最後の一発とばかりに、芳弘が放つは……強烈な右ストレート。
『クロスズメ』は、その一発を……軽々と弾いた。

●RED ALERT!(警告)
「!?」
 ローカストは、思ったよりダメージを受けている様子ではなかった。
 離れようとしたが、体力に限界が訪れた。それを待っていたかのように『クロスズメ』は芳弘の腕を払い懐に飛び込むと……その肩口に牙を沈めた。
「ぐあああああっ!」
 悲鳴と共に激痛が、彼の太った身体に走る。離れようとするも、『オーバー・ドライブ』を放った後では力が入らない。
「彼から離れろ!」
 彼を助けんと、クリスがローカストの背中から、ゲシュタルトグレイブの刺突と斬撃を放った。『百裂槍地獄』を背中に受け、『クロスズメ』は傷みに悶絶する。
 芳弘から離れると、『クロスズメ』はそのまま後方へと跳んで下がった。彼の身体を、クリスは苦労しつつ全身で受け止める。
 斎とともに樒もかけつけ、『ウィッチオペレーション』を彼にかけた。その様子を横目で見つつ、クロハは身構え、アトリも油断なく敵へ視線をやる。
 クロハに見つめられ、『クロスズメ』が翅を震わせ始めるのが見えた。
「破壊音波?」
 まずい、だが……『まずくない』。
「……そこっ!」
『クロスズメ』の後方へと回っていたアトリが、リボルバーでその翼を撃ち抜いたのだ。
 静かな怒り、理不尽なる仕打ちを許せぬ正義感から来る怒りが、アトリの身体を動かしていた。更に攻撃を畳みかけ、前後両方から攻撃を……!
 が、その目論見を見抜いたかのように、『クロスズメ』がアトリに背を向け、踵を返しかけた。
「逃がさない……!」
 アトリは携えたリボルバー銃を構えると、その引き金を引く。
 弾丸の雨は『クロスズメ』の周辺に打ち込まれ、煙幕を巻き起こし……ローカストを包み込んだ。この敵を逃すつもりはない。
 煙幕に包まれた『クロスズメ』は、躊躇するかのように周囲を見回す。
『行先は……そっちかな?』
 煙幕の切れ目から、アトリが姿を現し、消えた。
『それとも、こっち?』
 別の場所から、顔を出し、またまた消える。
 混乱しているかのように、あるいは煙幕を払おうとするかのように……『クロスズメ』は両腕をめちゃくちゃに降り始めた。
 敵が『煙中潜伏(ハイドアウト)』の術中に完全にかかったのを見て、アトリは薄く笑みを浮かべた。
「いいぞ、このまま奴を逃がすことなく、囲んでいってとどめをさせば……」
 戦列に復帰したクリスが、ゲシュタルトグレイブを手に迫ろうとした、その時。
「待て! 奴が……逃げた!」
 クロハの言葉を、アトリは信じられなかった。この煙幕の中、どうやって逃げたというのか?
「上です。あいつ、高くジャンプして逃げていきました!」
「わたくしも見ました。空中に逃れると、そのまま工場の方に向かいましたわ!」
 斎と樒の言葉に、不覚を取ってしまった事をアトリは悟った。
 
●SITUATION EXTREME!(緊急事態)
「さあ、早く逃げて!」
 疲れ切った虜の人々を、由美は出口へと抱えて運んでいた。遼もまた、工場という巨大な檻から、子供や老人、老婆の手を引き、外へと開放していた。
 結局、出入口は見つからなかった。
 なので由美は、手ごろな壁に拳を叩き付けてぶち破り、出入口を作ってしまった。
 内部には、多くの人間が囚われていた。ほとんどが、気力も体力も奪われ、衰弱した状態だったが、
「じっとして……」
 遼の『気力溜め』や『サークリットチェイン』が、虜にされた人々の体力を回復していく。やがて、ほぼ全ての人間が、奪われた体力を取り戻した。あとは奪われた自由を取り戻すのみ。
 今のところ順調に作戦は進んでいる。天井の大穴は、遼がヒールで塞いた。このままうまくいけば……。
『こちらクロハ! 「クロスズメ」がそちらに向かっています!』
 その時、攻撃班からの連絡が。
 だが、由美の視界に……『クロスズメ』は既に入っていた。おそらく相手の視界にも、自分と遼の事は入っているだろう。
 まるでバッタのように跳躍し続けると、黒いローカストは由美と遼の目前に降り立った。人質たちは恐怖に悲鳴を上げている。
「くっ、こっちに来るとは……」
 身構える遼へ、由美は鋭く言い放った。
「遼さんは、皆さんを安全な場所に逃がして! こいつは、私が」
 議論の暇はない。由美の叫びに従い、人質とともに遼は駆け出した。
『クロスズメ』は、由美の目前に対峙している。人質は遼に促され、全員ローカストが来たのと反対方向に逃げていく。が……逃げ切れるだろうか。
『クロスズメ』が鳴き、遼と人質たちの方へと向かおうとする。
 が、由美がそれを遮らんと、その前に進み出て……。
「来なさいよ。その硬そうな外骨格、砕いてあげるわ!」
 身構えた。
『クロスズメ』が地面を蹴ると同時に、由美の目前まで接近していた。そのまま殴りつけ、蹴りを放つ。
 由美はそれらを、防御の型で捌き、かわしつつ……その攻撃の『予測』を試みていた。
『集中』し、『洞察』し、『予測』する。どんなに強い敵でも、体勢を崩せる一瞬がある。
 それを読み取り、崩してやれば。勝機は必ずある。
 そして……その『勝機』が、訪れた。

●A REVERSAL OF THE SITUATION!(形勢逆転)

 空とは? 因果を読み、受け入れ、飲み込み、一撃を放つ。それだけのこと
 簡単ゆえに、難しい。しかし……難しくとも、実行に不可能ではない。
 ローカストは宙へと浮かぶと……体をひねりつつ強烈な回転キックを放った。それは非常に力強く、重たい一撃。しかし……その軌跡を読みとると、由美はそれを受け止めるように受け流した。
 受け流す事で……『クロスズメ』の身体のバランスが崩れ、由美が求める『勝機』が見出された。
「……体勢が崩れたら……」
 由美の一撃。それは、『クロスズメ』の脇腹へとめり込み……硬い甲殻を砕き貫いた。
「……どんな攻撃も、避けようがないよね?」
 それに返答するかのように、ローカストから苦痛めいた声が放たれた。回転しつつ、『クロスズメ』は地面へと叩き付けられるように落ち、不様に転がった。ひどくやられたそいつの身体から、体液が流れ出て地面を汚す。
 これぞ、『空の一撃(クウノイチゲキ)」。
 しかし、手酷い一撃を喰らっても、しかしそれでも『クロスズメ』は立ち上がった。
「やれやれ、さすがに一撃必殺は、虫が良すぎるか」
 相手が虫なだけにね。そう続けようとした時。
「どうぞ。一曲お相手を」
『クロスズメ』に、高速の連続蹴りが襲い掛かった。
 既に至近距離まで接近していたクロハは、続けざまに足を蹴り上げ、ローカストに逃げる隙を与えない。地獄化した両足による、陽炎のように揺らぐ連続キックは、『クロスズメ』に防御させる事を許さず、まるで炎と踊っているかのよう。
『炎舞(エンブ)』の最後の一撃が、ローカストを蹴り上げた。
 放物線を描き、地面に叩き付けられる『クロスズメ』。
「よう、こんちわー。俺の事覚えてるー?」
 そこに待ち構えていた芳弘のパンチが、ローカストの頭部をぶち抜き、
『クロスズメ』の命をも貫いた。

●MISSION COMPLETE!(作戦完了)
「終わった終わった。じゃ、あとよろしくー。バイバーイ」
 そい言いながらさっさと帰宅した芳弘以外、事後活動をして……。
「……お疲れ様でした。どうやら、無事に済んだようです」
 クロハの言葉に、皆から安堵の声がもれた。
「人質は、全員無事に警察に保護された。後はそちらで色々とやってくれるだろう。死者も、負傷者も居なくてよかった」
 戻って来た遼の言葉に、由美も胸をなでおろす。
「それでは、帰還しましょう。早く帰って煙草が吸いたいです」
 クロハの言葉に、反対するケルベロスはいない。罪無き者を助け出せた……その喜びと高揚感に満足する贅沢をかみしめつつ、彼女たちは……更なる戦いに、思いを馳せていた。
 そして、人がいなくなった工場に、空虚な風が吹きすさんでいた。

作者:塩田多弾砲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年3月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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